ISOコンサルの方法 09.05.10

自分から好んだわけではないが、今年2009年は10社ほどのISO14001認証のお手伝いをすることになった。ISOコンサルを商売にしている人なら、よだれが出ることだろう。しかしボランティアコンサルの私は義理と人情の結果であり、収入になるわけでもなく、あまりうれしくはない。もちろん悲しいわけでもない。そんなこと粛々とやるだけである。

さて相手というかお手伝いする会社は、是が非でも認証したいとか、期限までにしなければ売上減少になるというような状況ではない。これまた義理と人情とお付き合いでISOするしかないなあ〜という経過で、必勝の鉢巻きをしているような状況ではなくのどかな雰囲気である。ということで事務局担当者も、1を聞いて10を知るという意欲も積極性もない。
支援する法としては、オイオイ、話が違うよ、困っちゃうよと言いたいところである。
じゃあ、お手伝いするのを止めたらと言われそうだが、頼まれた以上やり遂げないと私の評価が下がるし、なによりも私自身の自尊心が傷つく 

ISO認証支援を頼まれたものの、ご本人があまりやる気がない場合、コンサルを商売にしている人はどんなことを考え、どのように対処するのだろう?
金のためだからしかたがないと思う人もいるだろう。むしろ、ご本人がしたくないなら、その分文書などを作る仕事が増えて金額も増してハッピーという人もいるかもしれない。あるいは、そんなのに関わっているよりほかの会社を手伝ったほうがいいから、契約解除だという人もいるだろう。
とりあえず断ることができないという条件で相手が積極的でない場合には、普通のコンサルなら認証まで持っていくために、どんなアプローチをするのだろうか?
マニュアルから下位文書までの電子データが一式入ったひな形CD-ROMを持参して、相手先の会社名称や職制名称の一括返還でいっちょうあがりなんてするのだろうか?
登録証を入手するのが目的ならばそれは有効であるだけでなく、一番効率的であるように思える。しかし、認証後の維持も含めたライフサイクル観点から見れば、効率的どころか、有効ではないようだ。
認証しました、でも維持審査以降のお守りが大変なので認証をやめますなんてことになったらつまらないではないですか。実際にはそういう会社はあるし、二三年前だが、そうなってから私に泣きついてきたところもある。そんなコンサルはISOコンサルからISO詐欺師と改名してほしい。
もっとも世の中には認証した以降、ISOを維持するための事務局代行とか審査対応業務を請け負う会社もあるそうだ。
はっきり言って、私はそんなものの価値を認めない。それは社会に対する悪であって排除すべきものだと思う。私の考えは、まず会社の遵法・リスク管理の向上があり、それがしっかりできたかの確認のためにISO審査を受けるとことと認識している。
環境パフォーマンスを向上させるのは、遵法が確実になってから考えても遅くはない。
世の中の人は、省エネを進めているが法違反を起こす会社より、省エネは遅々としているが法違反も事故も起こさない会社を評価するのは当たり前だ。

さて本題のアプローチ法であるが、どういった方法がいいのだろうか?
まず私のケースでの認証支援方法を考えると、次のようなものが想定される。

  1. ひな形を提供し、相手の会社に合わせてそれを一括返還する
    多くのコンサルのアプローチはこの方法である。コンサルでなくて、そういう文書や記録一式が入ったDVDなどを売っている会社はたくさんある。もちろん会社によって製品も違えば組織も違う。だから固有名詞を変えるだけでなく、あちこちのフローとかプロセスの書きなおしは生じる。そんな方法が良い方法であるはずがない。
    この方法は、構築は効率的、できたものはどうしようもなく、定着するはずがないという、悪いISOを体現したものとなる。
    09年4月、エコアクション21でコンサルがシステム構築を支援したとき、文書から記録まで一式を渡してそれで審査を受けたという問題が公表された。何十という会社の文書から記録まで全く同じという。記録まで同じといっても会社名だけは変えていたのだろうけど・・
    エコアクション21では制度的にコンサルと審査員は同じカテゴリーである。ただ同じ人が会社のコンサルと審査ができないことになっている。
    お断りしておくが、私はマニュアルとか下位文書あるいは様式のひな形など持っていない。作ったこともない。常にオーダーメイドのQMS、EMSしか構築してこなかったのでそのような標準化をしていないのだ。コンサルとしては効率が悪いことは認める。しかし完成したシステムの有効性が高いことは自慢できる。

  2. ISO認証とか規格を説明して、相手の主体性に任せる
    コンサルのかなりの割合はこの方法だろう。規格の意図を説明し、一般方向を示した企業に主体的に活動してもらい、企業担当者がわからないことは質問を受けて答える。
    これがまっとうな方法だろう。
    構築時の効率は非常に低くが、できたもの有効性は高く、定着しやすい。ライフサイクルを含めて考えれば効率は相当良くなるだろうし、会社を良くするという効果は大きいだろう。

  3. 具体的に仕事を指示してそれを作成させる
    はっきりいって私も素人ではない。どこの会社に行っても、数日かけて文書と現場をひととおり見れば何をしなければならないかは分かる。そしたら実施事項を縦にリストアップして、日程を横に書き、有無を言わさずに作業を指示するのは仕事が早い。
    この場合の問題は、実質的には相手の会社に適していて有効であっても、理解していないわけだから自分のものにならず、定着しにくい。
    作業は効率的で内容は有効なのだが、運用としては有効でないことが多い。
    正直言って私はこの方法をとったことはない。しかし下記5番目の方法をとっていて、相手の理解が遅いとこの手を使いたいという誘惑に駆られる。

  4. 自らが中核として、相手の会社のEMSの実態を調査し、その会社の文化を考慮して不足分を補強する
    もうこれは過去17年間に何度も行った方法だ。その会社に行って長ければ1年、短くて半年くらい事務局の中心として指揮をとってプロジェクトを推進する。3番目と何が違うかといえば、他のメンバーとコミュニケーションが図られるので、当方の意図が伝わり、理解していただける。だからこの方法で行うと定着しやすい。
    つまり構築作業は効率的、できたシステムも有効で、定着しやすいということになる。
    しかし私は体が一つしかないので、同時並行は不可能だし、ボランティアコンサルではこんなことをしていてはオマンマの食い上げになる。

  5. 特段コンサル行為を行わない。相手に一から規格を理解させ、相手に現状のEMSのどこを改善するかを考えさせ実行させる。わからないことだけ質問に答えるて、必要な場合は指導する。
    ここで問題だが、そのへんのISO審査機関や研修機関が開催するISO講習会を受講させたりすると、変な考え、より正しく言えば間違った規格解釈などが刷り込まれるおそれがある。いまどき環境側面は点数でなければならないと教えている講習会はないだろうが、有益な側面を見つけましょうなんてバカを語っているところは多々ある。そうなった場合、あとでその誤解というか洗脳をとく苦労を考えると、講習会などに行かずに私の話だけ聞いていればよいと言いたい。そうなると上記2と同じになる。しかし私も手が回りかねるのでそうもいかない。
    しかし、世の中の間違った解釈をなくすためにISO-TC委員や規格解釈委員会はなにをしているのだろう? そんな下々には関わらないと雲の上の仙人なのだろうか? ISOが衰退しているのはそういうアホがいるためと御認識いただいて、アホ退治をしなければあなた方の存在意義も失われてしまいますよ!
この他にも指導方法はあるだろう。しかし相手にやる気がないときは、選択肢が狭まる。
毎日、悶々としている。

本日の結論
とりあえず今日は酒を飲んで寝てしまおう。明日は明日の風が吹く 



外資社員様からお便りを頂きました(09.05.11)
ISOコンサルの方法によせて
いつも有難うございます。
コンサルタントのアプローチ方法についての疑問ですが
もしかすると、空気のように自明のことなので、書かなかったのだと思いますが、コンサルや指導において上位に位置すべきCSRや会社方針、TOPの取組からのアプローチは、されないのでしょうか?
なぜ、こんな疑問を持つかと言えば、先日 とある会社の社長が、「ISO認証をするので、当社でも慌ててCSRを作りました」と言われたのです。 私の認識ですと、会社の方針なりが存在するから、それを実現するためにISOの導入をするのだと思っていたのですが、逆のアプローチをする人もいるのだと思いました。
佐為さまの、元の話でも「断ることができないが、相手が積極的でない場合」との条件があるので、そういう会社なら会社の方針、CSRも無くて、認証の取得やロゴの掲示が目的なのかもしれません。
とは言え、疑問なのは、担当者が積極的でないにせよ、社長なり、言いだした人(真の責任者)がいるはずですよね。
そうした責任者が不明確だとすれば、それが一番の問題なのかもしれません。
社長が言いだしたにせよ、担当者は仕事として実現する義務があると思います。 そうした時に「御社では社長の意思が下に伝わっておりません。 社長:ご自身が、それに気づいていないのが一番の問題ですよ」などと言ってみたい誘惑に駆られませんか?(笑)

外資社員様 毎度ありがとうございます。
おっしゃる通り!
でもね、世の中にはISOは経営の仕組みだと言いながら、本来の経営とは結び付けて考えようとする審査人は少ないようです。
一般的にどの会社でも「社是」とか「社訓」というものが額に入っているはずです。そういうものを環境方針とか品質方針だと言えばいいのですが、アホな審査員はその中にISO規格で語っている汚染の予防とか品質目標とかを読み取ることができないのです。それでほとんどの会社では猫を追うより皿を引け、アホを指導するよりアホのレベルに合わせてわざわざ環境方針とか品質方針を作っているのです。
ですからご質問には「いやあ、あなたのレベルに合わせたつもりですが、まだ理解できませんでしたか」というのが適切な回答でしょう。

ymasashi様からお便りを頂きました(09.05.12)
ISOコンサルの方法 09.05.10 について
いつも楽しく拝見しております。小生、某中小企業の事務局で品質・環境・Pマークの三件を受け持っております(もう倒れそう…)。

本文の1.項で
1.ひな形を提供し、相手の会社に合わせてそれを一括返還する
「一括返還」とありますが単純に「一括変換」の誤変換なのでしょうか。
それとも、「返還」本来の意味(「北方領土返還」など)でお使いになっていらっしゃるのでしょうか(だとしたらとても深い意味がそこには…?)。
よろしくお願いします。

ymasashi様!
えーお許しください、お代官様、私の指が悪いのです。私の指は怠け者でいうことを聞かず、私の思い通りのキーを打ってくれないのですよ。家にはジジイとカカアと生まれたばかりの赤ん坊がいますんで、なにとぞ今回の不始末をお許しください。
というわけでなーんも深い意味はありません。
しかしこんな辺鄙なホームページであるにもかかわらず、ymasashi様のような愛読者がいらっしゃったとは! ありがたいことです。
止めようか、止めようかと思いつつ、もう7年も駄文を書いております。
いつも楽しく拝見 なんて言われるとうれしくなっちゃうじゃありませんか。
また書く元気が出てきました 


外資社員様からお便りを頂きました(09.05.13)
ISOと日本国憲法
実は、私の大好きな「会社」のISO活動のことがあるので、連投ご容赦を。

一般的にどの会社でも「社是」とか「社訓」というものが額に入っているはずです。そういうものを環境方針とか品質方針だと言えばいいのですが、アホな審査員はその中にISO規格で語っている汚染の予防とか品質目標とかを読み取ることができないのです。

実は、その「会社」にも似たようなものを感じております。
千年以上続く老舗が、140年前に近代的な株式会社に生まれ変り「5条の社是」を作りました。50年ほど前に経営危機に陥り、外資の指導で再生したのですが、その時に米国流の経営概念を取り入れました。
その米国流コンサルと、対応した事務局は、新しいCSRとそれに基づく諸規則を作りそれが会社の憲法だと思われていますが、実際には社是は否定もされず存在しています。

本来 やるべきは、株式会社設立時(近代化の時)の社是を元に、言葉を現代風に改め、修正するべき点は直して、それをCSRにして諸規則の時代に合わせて修正すれば良いと思っています。その会社は、ほどなくして外資の傘下から独立したのですが、なぜか米国風のCSRを大事にする人々がいて「一字なりとも変えないことが正しい」と思っている人もいます。とりあえず、会社はそれなりに回っているので、社員も根本的な所に手をつけずに、今まで来ております。
私は、5条の社是に精神に戻り、それをCSRに置き換えるなり、時代にあった諸規則を定めなおすべきと思うのですが、なかなか進まないのが歯がゆいのです。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
もう、何か非常に意味深長でございますね。
変えるべきところは変える、変えてはいけないところは決して変えない・・まあ、その真理は分かりますが、現実にはなかなか判断がつかないところでしょう。
野球にしても戦争にしても、采配、作戦がよかったか、まずかったか、などというのは後知恵ですから、会社の理念も変えるべきか、変えざるべきか・・カエサルもハムレットも悩みますね


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