ケーススタディ 審査見学 09.11.29

meeting.gif 本日は格調高く行きます。
なんで格調高いか?と言えばですね
 原作:うそ800に頂いたお便り
 脚本:おばQ
 監修:名古屋鶏

という原作を基にした豪華スタッフ・キャストによる大河作品だからです 



山田と社会人大学院生の藤田の二人は、地下鉄で20分ほどのところにある会社を訪問するところだ。その会社では平目と一緒にISO審査員研修を受けた方がISO事務局をしている。今日はその会社のISOの維持審査で、平目が頼んで山田と藤田が見学させてもらうことになったのだ。

地下鉄の駅で出口を探しているうちに二人ははぐれてしまった。まあ藤田も会社名も知っていることだしと山田は心配せずに平目から教えてもらった会社に向かった。
山田が受付で訪問した旨を告げると、第5会議室に行ってほしいとのことである。

第5会議室に入ると、オープニング後の休憩が終わり、再び審査が始まるところだった。
平目から紹介してもらった方に挨拶しようとしたが、それとおぼしき方はチョウ忙しそうで、山田は黙って会議室の末席に腰をおろした。
山田は藤田がまだ来ないことに気がついていささか心配になった。
地下鉄の駅で出口を探しているうちに二人ははぐれてしまった。まあ山田も会社名も知っていることだしと藤田は心配せずに平目から教えてもらった会社に向かった。
藤田が受付で訪問した旨を告げると、第5会議室に行ってほしいとのことである。

第5会議室に入ると、オープニング後の休憩が終わり、再び審査が始まるところだった。
平目から紹介してもらった方に挨拶しようとしたが、それとおぼしき方はチョウ忙しそうで、藤田は黙って会議室の末席に腰をおろした。
藤田は山田が来ないことに気がついていささか心配になった。

「では前回の是正処置のフォローを行いたいと思います。」
「では前回の是正処置のフォローを行いたいと思います。」
「昨年、有益な側面を特定する手順がないという不適合がありまして、既に是正処置を出していますが有益な側面を抽出し、その中から著しいものを決定する手順を新たに作成しています。
有益な側面は環境への影響を数値化するのが難しいので、改善効果を数値化して、数値の大きなものを有益な側面とするようにしています。」
「昨年、有益な側面を特定する手順がないという不適合がありました。既に報告しておりますが、当社で検討した結果、ISO規格では有益な側面の要求はなく、ゆえに不適合ではないと結論して対応しないことにしました。」
「ハイハイ、いやいいですね。それではこれでどのような有益な側面が決定されたのでしょうか?」
「ほう、規格の読みが足りませんね。ISO規格では『有害か有益かを問わず』とあるように、有益な側面も取り上げないとならないことになっているのですよ。」
「現在当社はエアコンのインバータ化を数年かけて実施しようとしているところで、それを取り上げました。
それから屋上緑化も進めております。また省エネ製品の拡販をしています。」
「私の持っている規格にはそのような文言が見当たりません。」
「いや、実にすばらしい。きっと御社の環境活動に役立つと思いますよ。」
「ここです。対訳本の113ページです。」
「審査員の先生にお褒めいただきありがとうございます。苦労した甲斐がありました。」
「ああ、アネックスですか?貴社ではアネックスも要求事項ですか?しかも『有害か有益かを問わず』がかかっている言葉は環境影響であって環境側面ではありません。」
「環境側面と理解するのが常識です。当認証機関ではそう考えています。」
「ISO-TC委員の寺田さんは環境側面には有害も有益もないと講演で語っていましたが」
「では、この件は別途考えましょう。」

「では環境側面の見直しをしているかを確認します。」
「では環境側面の見直しをしているかを確認します。」
「事業や工場に大きな変化はなく、見直しはしましたが変わりはありません。」
「事業や工場に大きな変化はなく、見直しはしましたが変わりはありません。」
「間接の側面はどうでしょうか?御社の協力工場に内在している間接側面が見逃されているようですね。協力工場の側面をどのように評価していますか?」
「間接の側面はどうでしょうか?御社の協力工場に内在している間接側面が見逃されているようですね。協力工場の側面をどのように評価していますか?」
「当社には協力工場はなく、あるのは購買先だけです。」
「当社には協力工場はなく、あるのは購買先だけです。」
「そういう場合でも現在は影響を及ぼせる範囲として委託先の環境側面も把握しなければならないのですよ。」
「そういう場合でも現在は影響を及ぼせる範囲として委託先の環境側面も把握しなければならないのですよ。」
「しかし、我々は先方の工場に立ち入ることもできません。ましてや先方の機械や工程を変えることができるわけがありません。」
「しかし、我々は先方の工場に立ち入ることもできません。ましてや先方の機械や工程を変えることができるわけがありません。」
「それは御社が考えることです。環境側面をできるだけ広くとらえてその環境影響を低減することが重要です。これは指摘事項になりますね。」
「それは御社が考えることです。環境側面をできるだけ広くとらえてその環境影響を低減することが重要です。これは指摘事項になりますね。
「そうなんですか?困ったなあ、どういう手が打てるか検討してみます。」
「ではその不適合の根拠を教えてください。」
「環境側面は広く考えると、会社にとって役に立つのです。」
「4.3.1影響を及ぼす範囲を狭くとらえていることになります。」
・・しばし中断・・
「その会社に相談したところ、そんなことを言うなら以降注文は受けないそうです。」
「・・・・」

「コンプレッサードレインの油水分離機が著しい側面になっていますが、目的に取り上げていませんね。」
「コンプレッサードレインの油水分離機が著しい側面になっていますが、目的に取り上げていませんね。」
「現時点ノルヘキは規制値以下ですし、わざわざ改善を図るまでもないと思っています。」
「目的目標と言うのは、環境方針を実現するためのものです。油水分離の改善を環境方針で取り上げていません。」
「目的目標は著しい側面から選ぶことは知っているでしょう。選ばなかったという理由を知りたいです。」
「目的目標は著しい側面から選ぶことは知っているでしょう。選ばなかったという理由を知りたいです。」
「ですからもう改善の余地がないと考えています。」
「私どもでは目的目標を著しい側面から選ぶとは考えていませんでした。」
「では余地がないという検討記録はありますか?」
「では目的目標を選定する方法が不適切ということです。」
「その記録はありません。」
「不適合の根拠はなんでしょうか?」
「ではいけませんね〜」
「御社では根拠がなくては不適合にならないとお考えですか?」
「不適合というのは要求事項を満たしていないことで、該当の要求事項を根拠といいます。」

「フロンの回収破壊業者の許可証を入手する仕組みがありません。誤って無許可業者に委託する可能性があります。」
「フロンの回収破壊業者の許可証を入手する仕組みがありません。誤って無許可業者に委託する可能性があります。」
「フロン回収破壊法ではそのような要求はないと思います。行程管理票には登録番号を記載しなければなりません。それでは不足ですか?」
「フロン回収破壊法ではそのような要求はないと思います。行程管理票には登録番号を記載しなければなりません。それでは不足ですか?」
「法違反を起こさないためにはしっかりと管理する必要があります。これは不適合ですね。」
「法違反を起こさないためにはしっかりと管理する必要があります。これは不適合ですね。」
「ひぇー、また不適合ですか。」
「うーん、根拠不十分でかなり強弁ですね。」
「では『4.4.6逸脱するかもしれない状況を管理する手順』がないという不適合にしておきます。」

「御社のためを思って指摘しているのです。」
「余計な仕事が増えるだけのように思えますがね。
弊社のためを思った審査ではなく、規格に沿った審査をお願いします。とりあえずこの件は却下します。」

「家電リサイクル法の品目に液晶テレビ、プラズマテレビ、衣類乾燥機が追加になりましたが、御社の環境法規制登録表に衣類乾燥機がありません。これは不適合です。」
「家電リサイクル法の品目に液晶テレビ、プラズマテレビ、衣類乾燥機が追加になりましたが、御社の環境法規制登録表に衣類乾燥機がありません。これは不適合です。」
「ウチは工場で、家庭ではありません。そのような家電品を買う予定がありません。」
「ウチは工場で、家庭ではありません。そのような家電品を買う予定がありません。」
「いつか買うかもしれません。リストしていないと、漏れる恐れがあります。」
「いつか買うかもしれません。リストしていないと、漏れる恐れがあります。」
「分かりました、追加します。ヤレヤレ、大変なことになったなあ〜」
「それじゃあ、いつか当社でも原子力発電所を構内に設置することがあるかもしれないので、原発立地推進法とか原子炉等規制法なども追加しておきましょう。」
「では次行きましょう。」
「分かりました。追加しなくても結構です。
では次行きましょう。」

「『届出一覧表』を見せてください。」
「『届出一覧表』を見せてください。」
「当社では作っていません。」
「当社では作っていません。」
「ないのですか?作成の必要性について検討して下さい。」
「ないのですか?作成の必要性について検討して下さい。」
「認証受けてからもう何年も経ちますが、今まで指摘されたことがありませんが・」
「認証受けてからもう何年も経ちますが、今まで指摘されたことがありませんが・」
「ISO規格では継続的改善と言っています。いつまでも同じではなく、システムを継続的に改善していかなくてはなりません。」
「ISO規格では継続的改善と言っています。いつまでも同じではなく、システムを継続的に改善していかなくてはなりません。」
「分かりました、作成します。いやあ、もうトンデモナイことになったぞ。」
「作成しても社内では使い道がありませんが・・」
「いや作れば役に立ちます。審査のとき便利でしょう。」
「・・・・?」

「緊急時としている油もれ時に使用する土のうが側溝と少し離れています。再検討する余地があります。」
「緊急時としている油もれ時に使用する土のうが側溝と少し離れています。再検討する余地があります。」
「現場でお話しされたので巻き尺で測ったら2mしか離れてません。どのくらいだったらいいのでしょうか?」
「現場でお話しされたので巻き尺で測ったら2mしか離れてません。どのくらいだったらいいのでしょうか?」
「とにかく近い方が良いです。」
「とにかく近い方が良いです。」
「考えてみます。」
「消防署に聞いてみましょう。オイ、田代 電話してみろ」
「では観察にしておきましょう。」
「あ、それなら現状でいいです。」

「今年に新規に取引を始めた4社に対して、環境方針が配布されていません。」
「今年に新規に取引を始めた4社に対して、環境方針が配布されていません。」
「他社にまで配布する要求はないようですが・・」
「ご存じと思いますが、他社にまで配布する要求はありません。」
「規格にあるでしょう『組織のために働くすべての人に周知する』と
ではここで休憩しましょう。」
「そうでしたね。ちょっと聞いてみただけです。
ではここで休憩しましょう。」
「分かりました、配布することにします。
疲れたなあ〜」

「お疲れになったでしょう。」
休憩になったので山田は帰ることにした。
皆忙しそうにしているので、事務局とおぼしき方に、名刺を渡して平目から紹介された方にお伝えしてほしいと断って会社を辞去した。
休憩になったので藤田は帰ることにした。
皆忙しそうにしているので、事務局とおぼしき方に、名刺を渡して平目から紹介された方にお伝えしてほしいと断って会社を辞去した。

地下鉄の駅の入り口で二人はばったりと会った。
「藤田さん、どこに行ってらっしゃたのですか? 姿が見えず心配しましたよ。」
「山田さん、それはこっちのセリフだよ。ぼくこそ心配したよ。」
「平目さんの紹介された会社に行ったんじゃないか。藤田さんはどこに消えてたのですか?」
「ええ!ぼくも平目さんに紹介された会社に行ってたよ。お互いに気が付かずに同じ会議室にいたってわけか?」
あれだけ騒然としている審査会場だから10mも離れて座っていればお互いに気がつかないこともあるだろう。藤田も山田も納得した。
「なかなか、骨のある事務局だったね?」と藤田が言う。
「はあ?そうなんですか、ぼくはへなちょこで審査員に言われるままという感じでしたけど・・」
「??」
二人は鷽八百社に戻る電車の中で話したものの、お互いの話はかみ合わなかった。



今回は、ちょっとSFチックでまとめてみました。
このケーススタディは冒頭に述べたようにご意見欄にメールでいただいた「審査速記録」を元にしております。提供者から固有名詞を出さないこと、そのままではなく脚色してほしいとのことでしたので、それをネタに書こうとした時ちょっと細工をした方が面白いかと思ったのです。
実を言いまして、速記録を全部アップしたわけではありません。ドロドロした、いやオドロオドロした応酬がありましたが、それを載せると完全にどの認証機関かバレバレになってしまうので残念ながら割愛しました。
昔、シミュレーションブックなんてのがありました。あちこちに分岐点があって、読むとき、読む人によってストーリーが異なるのですよ。まあ、その真似ですわ 
さあ、あなたの対応は山田の訪問した会社でしょうか? 藤田の訪問した会社でしょうか?


さっそくぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.11.29)
こんばんは、たいがぁです。
うーむ、かんべむさし氏の書いた「決戦・日本シリーズ」というSF小説を思い出しました。名古屋鶏氏ならご存知かもしれません。

たいがぁ様 決選日本シリーズというのをはじめて知りました
では決選ISOというのを次回考えましょう
ひとつはISO認証がドンドン興隆を極め、もうひとつはあっけなく消え去るというのはいかが


高橋様からお便りを頂きました(10.03.23)
おばQ 様
ご無沙汰しております。
会社で朝一番、よほどの事がない限り「うそ800」を開くのが日課となっております。
以前も申し上げたかもしれませんが、「うそ800」の内容については99%賛意を示したいと思っております(1%は見逃しもあるかもしれませんので)。
昨年からのケーススタディシリーズは、充実したすばらしい内容で、本にすればベストセラー間違いないのでは、と思うくらいです。
「審査見学」などは、時々読み返しては笑っており、おばQ様には作家の才能があるのではないかと思います(ご自身ではすでに思っていらっしゃるかもしれませんが)。最後の方に「もっとドロドロした云々」とありましたが、ぜひとも続編、続々編をお願いしたいと思っております。
今後も楽しみにしております。

高橋様 毎度ありがとうございます。
お間違えないように・・と言うまでもなくお間違えないと思いますが、私はISO規格は素晴らしいものだと考えております。そして第三者認証制度も悪くないと思っています。
ただ、ISO規格を理解しない審査員や、私利私欲に走る審査員、礼儀作法を知らない審査員、そしてそういう低レベルの審査員を教育訓練できない認証機関、そして取り締まることのできない認定機関に困り果てているだけです。
私自身、会社の中でISOのおかげで15年の長きにわたり仕事にありついてきましたので、ISOには恩義を感じているのです。だからこそもっとしっかりさせたいと・・
今ひとたび、皆が力あわせてISO第三者認証制度を甦らそうとしたいというのが私の願いです。
とはいえ、過去20年近く改善ができなかったのなら、そもそもが無理なのかもしれません。
おっとドロドロの話ですが、なかなか暇がなく今しばらくお待ちください。
ネタの在庫は豊富なのです。
    

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