ケーススタディ 管理責任者 09.12.26
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数日前の昼休み、管理責任者について話がはずんだというか議論が白熱して興味深い時間を持つことができた。もちろん結論がでたわけではないが、山田は管理責任者についていろいろと考えることができた。しかしその後もISOの本や雑誌の記事などを読むといったい管理責任者とはなんなのか?ますますわけがわからなくなってくる。
いったい本来の管理責任者とはどうあるべきなのだろうか?

昼休み、いつものように廣井と中野がコーヒーを飲んで雑談しているところに山田は割り込んでいった。
「廣井さん、中野さん、先日の続きなんですが、管理責任者について教えてくれませんか?」
「なんだ、まだそんなこと考えているのか?」
実用主義の廣井はあまり規格論争を好のまない。法律を読んで問題がないか問題があるか、処罰を受けるか受けないかという、タイトロープウオーカーのような真剣勝負の議論をしている人にとって、ISO規格の談義はつまらないというかまじめになれないのである。廣井はふだんからISO規格は銭にならないと言っている。それは考える価値がないという廣井流の表現なのだろう。
日経エコロジーの2009年12月号に斎藤喜孝さんというコンサルなのか審査員なのかなあ〜?まあそういった人が『管理責任者の役割を見直す』というテーマで2ページほど書いていますが、お読みになりました?」
「ああ、俺は読んだよ」
中野が応えた。
「読むには読んだが、どうもずれているんじゃないかなあという感じだね。斎藤という人の文章を読むとISO規格以前に会社のお仕事というものを理解していないんじゃないかと思うんだよね。」
「中野君、なんだい、その斎藤さんというコンサルの意見はどんなの?」
廣井も乗ってきた。
「簡単に言いますと、斎藤説というのは一般の企業では環境に関する仕事のほとんどを管理責任者がしているのが多い。そうではなく現場が主体の環境活動であるべきだということでしょうかねえ〜」
「なんだか中野君もあまり斎藤説に好意的ではないようだね?」
「うーん、そうですねえ、この斎藤さんに限らず、ISOに関わっている人って、コンサルでも審査員でも、みなエキセントリックなんですよ。」
「なんだ、そのエキセントリックって?」
「普通に会社で働いているなら思いもつかないような発想といえばよく聞こえますが  ちょっとというか大いにトッピで風変わりなんですよ」
「中野さんの考えてらっしゃることと違うかもしれませんが、私も当たり前の会社員なら考えないような発想というか価値観に思えるのです。」
山田が口をはさんだ。
「会社のお仕事って、全員参加とか、ボトムアップとか、そんなものじゃないんですよ。まず会社とか企業には、確固たる目的があるわけです。というか目的があって企業が設立されたわけです。早い話、会社とは利益を出して、事業を通じて社会に貢献し、その結果存続していくことができるということなんです。利益を出さない企業は犯罪であるという言い方さえあります。
ところがISOを語る人はこの斎藤さんもそうなのですが、そういった追い詰められた限界の発想がありません。現場を主役にするとか、現場に花を持たせるという言い方をしてますよね、これって言い方を変えると、彼らの考えているISOは会社の経営の骨じゃないってことですよ。軍隊と同じと言うと悪く受け取られるかもしれませんが、企業においては命令しそれに従って動くという仕組みであるということを認識しなければ経営の議論になりません。それをサークル活動とか趣味の集まりというニュアンスで語る斎藤さんにはついていけないという思いですね。」
「まさしくその通りなんだ、昔ゲマインシャフトとかゲゼルシャフトって習ったよな。おれも、そういうコンサルたちがISOとは経営そのものだと語るわりに、経営というものを理解しているようには思えないんです。彼らの思想には、会社の存続がかかっているのだという骨太なところがないんですよね。みんなが仲良くする手段だとか、職場を活性化する手法だなんてISOをとらえているなら、経営そのものとか、会社の仕組みそのものなんて言ってほしくないですね。」
中野が意外に強烈なことを言う。
「おいおい、中野君、なんかだいぶ強烈な意見だね、なにか感じるところがあったのかい?」
廣井がちょっとおどけて言う。
「廣井さん、実はね、私はこの斎藤さんだと思うのですが、半年くらい前にやはり管理責任者についての対談を読んだことがあるんです。あれはアイソス誌だったかなあ〜、」
中野はロッカーをあさった。
「あった、あった、アイソス誌2009年3月号だ・・やはり斎藤という人だ。同じ人ですね。斎藤さんともうひとり黒澤さんという大学教授かな、この二人の対談記事ですね。」
「中野さん、それ僕も覚えてますよ。」
山田が声を出した。
「黒澤教授が『管理責任者と別に経営者のブレインを置くべきだ』と語っている記事でしょう。」
「そうだあんなオハナシはまったくおかしいとしか言いようがないよ。ええとここに書いてある・・経営者の代理を務める管理責任者が経営者の代理を務めることができないとき・・とだらだら語っている。しかしまじめに考えて代理者が経営者の意向を受けて行動しないなら、その代理者は代理者の役目を果たせないのだから、その組織は4.4.1を満たしていないというだけです。もう語っている人が現実を知らないだけでなくISO規格も経営も理解していないことが明白です。」
「もっともそれは黒澤教授の発言でしたね。」
山田が口をはさむ。
「確かにそれは黒澤教授の発言だが、斎藤氏も黒澤教授にあいづちを打つだけで、いさめようとも反論もしていない。そのようなお話を読んでいると、そう言った人の話を信じることはできないね。彼らは企業で仕事をしたことがないに違いない。彼らにとっての管理責任者とはいったいなんなんだろうねえ〜、経営者にも御すことのできない反対勢力なんだろうか? 管理責任者の原語はmanagement representative 経営層の代理者だよね。経営者のいうことを聞かないrepresentativeなら解任すればいいじゃないか? どうも斎藤さんも黒澤さんも企業の現実を知らず妄想を語っているとしか思えないね。」
「中野さん、私が感じたこともまったくそのとおりです。彼らはISO規格のmanagement representative がいかなるものかを理解していないのではないでしょうか? もっともぼくも理解しているとは言い難いのですが・・」
山田も言いたいことを言えたという安堵が見えた。よほどこういった人たちの管理責任者についての論にうっぷんがあったのだろう。
廣井がまあまあといった風情で口を開いた。
「中野君、山田君、ぼくたちはISO規格を読んで、それぞれの項番で何をしなければならないかという発想ではなく、この項番でいっていることには今まで会社がしていたどんな仕事とか記録が該当するのだろうというスタンスできたじゃないか。そうだよね?」
中野はうんうんとうなづいた。
「じゃあ、管理責任者であろうと、management representative であろうと、そういった職務を作るのではなく、今までにしていたことを考えればいいじゃないか。
おれも今気が付いたんだけどさ、management representativeの後ろに複数形の(s)があったよね。あれは単に一人でなく複数の人を任じてもいいという意味じゃなくて、規格で書いているmanagement representative の役割全部を一人の人しているのではなく、複数の人が分担している場合のことを考えて複数形にしたのかもしれないってね、」
「うわあ!そうなんだ?」
山田が声を上げた。
「いやいや、それは俺の勝手な想像だよ。」
あわてて廣井は否定した。しかし山田は廣井の今の言葉で吹っ切れたように言いだした。
「そうか、ISO14001の4.4.1では
『組織のトップマネジメントは、特定の管理責任者(複数も可)を任命すること。その管理責任者は、次の事項に関する定められた役割、責任及び権限を、他の責任にかかわりなくもつこと。
a) この規格の要求事項に従って、環境マネジメントシステムが確立され、実施され、維持されることを確実にする。
b) 改善のための提案を含め、レビューのために、トップマネジメントに対し環境マネジメントシステムのパフォーマンスを報告する。』

ここに記載されている職務を一人が全部しなくても良いということですね。確かに考えてみると、システムを確立する人と、実施する人と、維持する人が同じであるとも思えませんよね。それにパフォーマンスを報告するなんて一言で言っても、実際にはさまざまなカテゴリーのパフォーマンスがあるのだから、一人がまとめて報告するなんてそもそもおかしいですよ。」
「もっとも斎藤さんは日経エコロジーでは『パフォーマンスはいろいろあり、それぞれの人が報告すべし』と書いている。この辺になると我々の理解に近いのかね?
しかしともかくそう考えてくると、ますますISO14001の規格で語っていることは、普通の企業の当たり前の姿じゃないか? それにいったいどんな意味があるのだろうか?」
中野が不満そうに言う。
「だって、当たり前の会社が環境という観点で見た時、遵法に努めよう、事故を予防する体制を作ろう、広報やリスクコミュニケーションをしっかりしよう、と当たり前のことを考えて当たり前のことをするだけじゃないか。管理責任者とかmanagement representative というから何か特別なものと考えてしまうけど、元々環境担当役員というのはどの会社でも定めているはずだ。専任でなくても環境を取りまとめる役員クラスの人をアサインしていることは間違いない。管理責任者とかmanagement representative なんて新しいことでもなんでもなく、単に会社で環境管理を担当する人を決めるだけじゃないか。」
山田が口をはさんだ。
「しかし、そうするとさらなる疑問がでてきます。ISO14001とはなんなのでしょう? 当たり前のことを語っているだけということなのでしょうか?」
廣井が口を出す。
「結局ISO規格なんて最低限のことを決めているだけだということなんだろう。だけど最低限のこともしていない会社も多いわけだから、そういうところは規格を参考に会社の仕組みを見直すということは有意義なんだろうね。」
「だから元から最低限のことをしていた会社は、新たになにもせずに過去からしていたことを当てはめて、management representative とは環境担当役員のこと、環境目的・目標と環境実施計画は会社の事業計画、文書管理とは会社の規則管理やイントラネット管理規則であり、順守評価は内部統制のことであり、内部監査とは監査部が行う業務監査の一部分を言っているにすぎないと考えればいいんじゃないか。」
「そうすると今まで多くのISOの識者やコンサルやその他大勢が語っていたことは、壮大な無駄足と言うことだったのでしょうか?」
山田は不満そうに言った。
「各組織の活動がオママゴトで、目標が紙ごみ電気ならばそうなんだろうね。」
と中野が言う。
「うーん、環境意識を高めたというとまた大げさか 企業の人たちに環境を気付かせたという意味くらいはあるんだろう。」
と廣井はまとめた。



本日の課題
課題はありません。挑戦者が多数現れそうな予感が・・ 
ところでだいぶ前に事務局のお仕事を考えてみたことがある。
結果として・・何もなかった



management representativeについての見解を追加しました(09.12.31)
私が考える管理責任者像

management representative とは環境担当役員と同じではない。
通常環境担当役員は chief environmenntal officer あるいはenvironmenntal officer と称される。この場合、単に環境担当というだけでなく会社経営の責任を持つ役員を意味する。
他方 environmenntal representative であれば“環境担当代理人”でその会社の環境に関することを(経営層を)代理して業務を行なう者で、平の社員や従業員のこともある。
つまり chief environmenntal officer と management representative は同じではなく、それぞれの役割の一部が重なるのではないかと考えています。
いずれにしても、課長レベルを management representative にアサインした場合、規格にある 環境マネジメントシステムが確立され、実施され、維持される ことを、その職権で行うことは実質的に困難あるいは不可能であろうと考えます。
規格で求めるイメージは環境担当役員でなくても、組織内部に対しそうとうの職権を行使できることが必要でしょう。
つまりmanagement representative とは環境担当役員と同じではないが、management representative は少なくとも会社の規則の決裁や組織全体の業務執行について意見できる立場というか権限が与えられていなければ務まらないと考えます。

environmenntal representative のあるべき姿について、ご意見を期待します。


Yosh師匠からお便りを頂きました(10.01.02)
私たちは日本語のJISQ14001規格やJISQ9001を読んだだけではわからないので、英語のISO14001やISO9001を読みます。ISO規格では定義されていない言葉は通常使われる意味であるとされています。でも英語の言葉のニュアンスが分からないので、英英辞典を引きます。それでもわかりません。
私の師匠であるアメリカ人のYoshさんから以下のメールをいただきましたので掲載します。
普通のアメリカ人が考えている representative ってこんな意味だということです。これをもとに規格を考えるべきと思います。
とうた様、
management representative は少なくとも会社の規則の決裁や組織全体の業務執行について意見できる立場というか権限が与えられていなければ務まらないと考えます。

representativeならば対外的には所属会社で与へられた、其れも全権代理人か限定された権限の代理人かでとか社内で決められた規定での業務執行の範囲が決まるでせうから其の与へられた権限の範囲内で決裁を含む業務執行をせねばならんのが普通でせう。
ただ”会社の規則の決裁や組織全体の業務執行について意見できる立場”は会社でどの位置でも社員ならば誰にでもあるでせう。
例へばもし其の会社の規則が法に満たぬか違法であることを知つた時点で其れに纏わる問題点を報告することのやうな、でも決裁は其の権限を持つ人に仰ぐだけになるのではないでせうか。
もしISOで決められてて其れを遵守せなければならんやうになつてるかを私は知らんのですが。
決裁の権限と言ふてもOfficerと雖も役職により限りがあるのが普通の会社(会社の所有者と経営者が同じでない、所謂雇はれCEOをはじめとするOfficerの)ですから、会社の規則を株主総会に諮らずに変えることが出来る権限を持つOffcer(会社の所有者と経営者が同じの立場)でなければISOの其の業務執行が出来ないのならばどうするのでありませう。
ISOは会社組織や各Offcerの職責まで全てISOでの規格があり其れと同じにせねば認証を受け取れぬのであるのでせうか?

寄り道:
余程大きな企業でなければ弁護士を自社で常時お抱へでしてるのは余りないのではないでせうか、顧問とか、何かが起きた時の専属として契約して其の会社のrepresentativeをするのはあるでせうから。
其れでISOに対処出来る専門の所謂”社外のrepresentative”の發想は多分この手からではないでせうか。

逸らします:
どこぞの首相が秘書(representative)がしたことだからで違法行為の責任を逃げてるやうですが。 代理人を雇ふて業務執行させてて雇主が代理人の業務執行中で違法なことをしてるのを知らぬとか、”彼がしたことです”では済まぬはずなのではないでせうか。
CEOがCFOの違法行為を知らぬではCEOが勤まりません、其れを知らんかつたとか見逃してたら株主総会で責任追及されて、場合によりては解職ですね。
ただこのCEOは株主だから自己責任を問はぬのでせう。
でも其のやうな会社は普通社会から除け者にされるのですけどね。

Yosh



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