超入門 マネジメントシステムの話 11.01.22

だいぶ以前に「ISOマネジメントシステムのうそ」なんて駄文を書いた。
今回も同じことを語るのだが、私自身が少し進化したのと、チョー入門だからチョーやさしく書いてみようと思う。
人にわかるように話すためには、自分が理解していなければならない。難しい話をする人はどの世界にもいるが、その人はたぶん語っていることを理解していないに違いない。私は難しい言葉で話す人には、数式と英語を使わずに説明してみろと突っ込むのが口癖である。

多くのというと語弊があるかもしれない。少なくともISO関係の雑誌とか、ウェブサイトでは品質マネジメントシステム(QMS)とか、環境マネジメントシステム(EMS)というものが独立して存在していて、それを統合しようとか、一体として運用しようとか語っている人たちがいる。彼らの持っているマネジメントシステムのイメージとは下図のようなものなのだろうか?
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図1

私はそういう発想が一体全体わからない?
だって、そんな会社があったら、まともに機能しないことは論じるまでもない。

それほどアホでない人たちは、企業あるいは組織には唯一のマネジメントシステムが存在して、その中に品質マネジメントシステムとか、環境マネジメントシステムとか、その他いろいろな機能別システムが存在していると考えている。イメージとしては下図のようなものだろうか?
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図2

まあ、その考えはそれほど間違っているとはいわないが、やはり間違いだと私は思う。
では本日の講義のはじまりはじまりである。

企業に限らず、いかなる組織も目的があって設立される。当然、その目的を達成するために組織のシステムは作られる。そのシステムは定款とか会社規則とか職務分掌という形で示されることもあるし、不文律とか、いつのまにとか、なんとなくという場合もある。
ともかく組織は生き物にたとえられるように、構成する器官や細胞は連携して組織の生命の維持を図ってその存在目的達成のために活動する。このとき人体ならば手足も頭も心臓もその他の器官は協力し合って生命を維持し、子孫を残すために活動することになる。
人に限らず生物が生まれる目的は、食べるためでもなく、芸術を楽しむためでもなく、働くためでもなく、単純に自分と同じ個体を再生産するためである。

人間が生命を維持するためには五臓六腑が連携して活動しなければならないが、同時にそれぞれの器官はひとつのサブシステムである。
同じように、企業が事業を行い、利益を出し、株主に配当するには、製造業なら原材料を買い、加工や組み立てをして、販売するためのサブシステムが必要になる。たとえば、資材を購入するシステム、人材を集め教育するシステム、加工するシステム、注文をとるシステム、顧客に供給するシステムといったものになるだろう。
製造業でなくても同じことが言える。商社であろうと、サービスを提供する企業であっても、その事業を行なうためには、いろいろなサブシステムで構成される。
しかしそういう目的達成のためのサブシステムという考えでなく、特定の事項について全体のシステムの中から必要な要素を抜き出してインベントリを作ることも考えられる。たとえば要求される製品品質を作り上げる機能、従業員を教育し管理し査定する機能、環境に関して法を守り事故を予防する活動を抜き出したものも考えられるだろう。
もしその企業から製品を買う企業や人が、その企業に対してよい製品を作る仕組みを作ってほしいと思ったとき、前述した資材システムとかロジスティクスの仕組みを要求するのではなく、品質を作るために関係する「要素」あるいは「事項」をしっかりしてほしいと要求するだろう。つまり実際にひとつのシステム、あるいはサブシステムを確固たるものにしてほしいというのではなく、インベントリにリストアップされた事項をしっかりしてほしいということになるのではないだろうか?
お分かりだろうか?
品質システムというものは、実は独立して機能するシステムではなく、単に組織全体の包括的なシステムの中から、品質を作りこむための要素を抜き出したものに過ぎないのである。
システムじゃないのかといえば、システムといっても間違いではないでしょうけど。

暴論だっておっしゃいますか?
変だなあ?
我が愛しきISO9001:1987では「品質システム」を「品質管理(quality management)を実施するための組織の構造、責任、手順、行程及び経営資源」と定義していた。まさしく品質管理に関する要素を抜き出したものではないですか。
図示すると、下図のようなものと言えますでしょうか?
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図3

私の暴論(?)が、大間違いか、間違いでないか考えてみましょう。
環境マネジメントシステムとはISO14001の定義では「組織のマネジメントシステムの一部で、環境方針を策定し、実施し、環境側面(3.6)を管理するために用いられるもの」とある。
ISO14001の環境マネジメントシステムの定義からは会社の経営システムの中で環境に関わる部分をいうのだな、と図2というより図3のように理解できるのではないか。
自分で会社の品質保証や環境管理を説明しようとして、会社の文書や記録を調べ上げた人はどれくらいいるだろうか?
私はそんなことを90年頃からいろいろとしてきた。
なにしろ顧客はたくさんいた。薬事法では保健所、大手メーカーの受入部門、アメリカに輸出しようとするとUL、イギリスに輸出しようとするとB▲■Tとか、
それぞれが言いたい放題の品質保証要求事項を持ち出してくるのだから、ハイハイときいていたらなんともならない。
だから自分の会社の規則と記録を徹底的に調べ上げて、その中から要求に合致するものを抽出して書き上げたのが顧客対応の品質マニュアルである。私の勤めていた会社にはマネジメントシステムはひとつしかなく、文書体系も記録体系もひとつしかない。しかしお客様がほしがるものはいろいろなので、その中からカフェテリアのように取捨選別してお待ちどうさまと料理を出したわけだ。
私は会社の文書と記録すべてを頭に入れていたので、歩く会社規則集と呼ばれた。
20年も前の話である。

では品質マネジメントシステムとは「組織のマネジメントシステムの一部で、品質方針を策定し、実施し、品質を管理するために用いられるもの」であろうか?
残念ながら、ぜんぜん違う。
ISO9001の定義では「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」である。英語原文も同義である。
この文章からは、一番初めにあげた図1を思い浮かべるのもやむをえない。
どうもISO9001の定義では、品質マネジメントシステムという「もの」が存在しているようだ。つまりISO9001規格を作った人たちは、会社経営を知らなかったのだろうか?

いえいえ、お待ちなせえ
実はISO9001:2008にも序文はある。そこでは
「組織がこの規格の要求事項に適合した品質マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムをこの規格に適合させることも可能である(ISO9001:2008 0.4第2節)」
原文は下記
It is possible for an organization to adapt its exiting management system(s) in order to establish a quality management system.
これはISO14001:2004の序文
It is possible for an organization to adapt its exiting management system(s) in order to establish an environmental management system.
とまったく同一である。

つまり規格制定者は「QMSとかEMSというものはバーチャルである。それはリアルのシステムに含まれている品質や環境に関わる部分を集めたものに過ぎない」ということを十分に理解していたのではないだろうか。
バーチャルといっても、実態と異なるものという意味ではない。集めたパーツだけではシステムを構成しないという意味だ。
例えて言えば、自動車を考えた時、エンジン系統、ブレーキ系統、ミッション関係というシステムを考えることはできるだろう。しかし、それらで使われているeリングだけとか、スイッチだけとか集めてもシステムではないというようなものだ。
そんなことを思うと、マネジメントシステムの統合なんてのはアホの寝言に過ぎない。
そしてISOマネジメントシステム規格の最大で致命的な欠点は、大局的統合的な見地から制定したのではなく、ボトムアップ的にしっかりした考えなしに築きあげたことではなかろうか?
つまり、マネジメントシステム規格を作るには、標準化とか品質保証の専門家ではなく、ドラッカーを必要としたのだ。
私はドラッカーではなく、ルイスAアレンと言いたいのだが、いまどき彼を知っている人はいないだろう。
そして、それができなかったなら、マネジメントシステム規格などと大言壮語をせずに、じっくりと品質保証とか環境保証に努めるべきであったのだ。

最近私はISO9001の1987年版とか1994年版を読んでいる。読むたびに新しい発見がある。そして感じるのはISO9001は1987年版が最高であって、それ以降の3回の改正のたびに劣化していることだ。もし、もう一度規格制定のときの初心に戻ることができれば、品質保証は実現できるのではないだろうか?
 品質マネジメントシステムではないのかという声が聞こえたような気がしたが、
あなた、そのようなものがありえるとでも・・・



名古屋鶏様からお便りを頂きました(11.01.23)
システムの統合、と言えば。
以前のQMSの審査で「工程から出る排水を処理する薬品を購入している業者を評価していないのは、9001の購買先評価に対する不適合である」と責められた記憶があります。
会社の仕事のあらゆる部分に品質が関わるのは確かですが、「全ての仕事が品質であるぞよ」という考え方がいまだに跋扈しているってのが・・・

名古屋鶏様 まいどありがとうございます。
おっしゃるとおり・・と言いたいのですが、そりゃあ名古屋鶏さんが間違っています。
ぜーったいに、名古屋鶏さんが悪いです。
そもそも出入りしている審査員を評価していなかったでしょう?
それが間違いの元です。
だから名古屋鶏さんが間違いだと言うのです。
../space.gifわかりましたか?


名古屋鶏様からお便りを頂きました(11.01.23)
適用除外
ISO50001では、エネルギー調達先の評価を要求しているとか。
しかしながらエネルギー供給は通常、こちらから選択権がない場合が一般的なので、そういう場合は適用除外を申請できるとアイソス2月号に書いてあった気がします。
ウチでは審査機関も「選択権」がないもんですから、ここはひとつ適用除外ってぇことでご勘弁を・・・・(T T)

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます
真面目モードです
選択できない場合は、それを従容として受け入れるしかありません。
まあ、奴隷の平和ってのもあるそうですから、第二階級を楽しむ道もあるかもしれません。

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(11.01.24)
そんなことを思うと、マネジメントシステムの統合なんてのはアホの寝言に過ぎない。

つい先日、某大手認証機関の本部の方とお会いする機会がありました。
もともと単一であるはずのマネジメントシステムを統合するなんてできないし、それを「統合マネジメントシステム」と称するのはオカシイのではないかと、同じ疑問をぶつけてみました。すると、答えは次のように至極もっともなものでした。
当たり前というか、自然な考えを持っている認証機関も少しはあるようです。

組織には単一のマネジメントシステムしかないのはその通りであり、QMSやらEMSやらバラバラに分かれているはずもない。
一方、ISO規格は9001や14001に分かれていて、現在のところそれらを統合したオフィシャルな規格はない。そこで、いわゆる統合審査にあたっては、(組織にすればマネジメントシステムは単一であっても)審査する側は9001や14001など該当する規格を個別に見なければならない。つまり、審査側からすれば複数の規格が混在するマネジメントシステム、(規格が)統合されたマネジメントシステムとして見ることになる。
よって、「統合マネジメントシステム」というのは審査側から見た便宜的な呼び方であって、組織側が使う言葉としては妥当ではないだろう。
これは、審査側がそうした言葉を使うので組織側も自然にそう呼ぶようになったのではないだろうか。

ぶらっくたいがぁ様 まいどありがとうございます。
なるほど、認証機関からの観点であれば納得でございます。
うーん、でもそれが一般企業でも使われるようになったのではやはり支離滅裂・・
話はパッと変わって、最近会ったコンサル(猿並み?)がISO9001とISO14001のシステム構築をするには、ISO9001のほうが細かく規定しているので、ISO9001をベースに会社の仕組みを作りましょうと語っていました。
私は猿並なのでそのコンサルの語っていることがゼーンゼーンわかりませんでした。


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