ケーススタディ 子会社の監査

12.03.24
鷽八百社は大会社である。直接の子会社だけでも100社以上ある。そして子会社が出資している孫会社になると、その数倍はあるだろう。現在は環境に限らず子会社、孫会社まで遵法を徹底しなければならない。子会社がわずかなお金を惜しんで、怪しげな廃棄物業者に頼んだりしてポカをすると、親会社の名前が報道されるし、場合によっては親会社の役員クラスが謝罪会見するということになりかねない。そして社会的信用を失い、仕事に支障が出たり、悪くなると官公庁の指名停止になったりする。最悪は倒産だ。
というわけで、当然ながら親会社は子会社、孫会社の遵法を点検する権利も義務もある。そして鷽八百社では、子会社の環境監査も環境保護部の担当となっている。
とはいえ、わずか3名しかいない環境保護部で100社以上ある子会社の監査などムリだ。そこで、4つの工場に割り当てて、更に3年おきに子会社の監査をさせている。環境保護部は工場からの監査報告書をみて良し悪しを判断しているといえば、怠け者のように思えるかもしれないが、現実にはそれが精一杯である。
実を言って、私も某大手企業の環境部門で働いております。子会社が100社もあるような東証一部のコーポーレートの環境部門であれば、3名や4名で仕事を回せるはずがありません。業務内容だって、ここに書いた広報、監査、ISOだけでなく、化学物質、法規制も国内と海外、省エネ、廃棄物、環境負債、公害防止関係など、最低でもプロフェッショナルが20名はいないと動かないでしょう。
まあ、ここではあまりたくさん人が出てくると収拾がつかなくなってしまうので、当面3名でいきましょう。そこはお芝居とご了承ください。
廣井は今までの山田の働き振りをみていて、平目の後任としてISO14001のおもりだけではもったいないというか、山田も役不足で面白くないだろうと感じていた。それで今まで廣井が担当していた子会社の監査を任せることにした。ISOの方は手抜きしても問題ないだろうし、鷽八百社はISO審査では業務をあるがままそのままに見せているだけだから、もう事務局なるものはいらないだろうとも考えている。それと廣井はもうひとりスタッフを増やそうと考えていた。現在は総合職の派遣というのもあるそうだから、探してみようと思っている。

山田が新たに与えられた仕事は、子会社の監査統括というのだろうか、企画、計画、進捗管理、監査結果評価、是正指導まで幅広い。さらには子会社を監査する工場の監査員の指導もしなければならない。そういうことを考えると、山田は自分にできるのだろうかと考えてしまう。とはいえ、廣井がしていたのなら、山田にもできるだろうという変な自信もあった。営業というラインから、環境というスタッフ部門にきて、山田もだんだんと要領を覚えてきたところだ。
そして今までの2年の経験から、あまり張り切ってもしょうがないし、考え過ぎても仕方がないということを学んだ。流されるまま、流れるままではなく、流れに沿ってがんばるのが一番である。 ということで、まずは子会社の監査というものを、自分の目で見ることにした。山田は工場の監査にはもう4回参加したが、まだ子会社の監査というものに立ち会ったことがない。とはいえ年間30社以上あるわけで、平均すれば毎週くらいある。山田は計画表をみて、自分が参加できそうなものを見つけて、その担当の工場に電話した。
まずは近くの千葉工場の井上課長からだ。
「本社環境保護部の山田ですが、井上課長いらっしゃいますか?」
「おお!山田さん、お元気ですか?」
「井上さん、今度、子会社の監査担当になりましたのでよろしくお願いします。」
「ほう、というと廣井さんもいよいよ部長ですか、それで山田さんが廣井さんの仕事を受け継ぐってわけですか?」
山田も廣井が部長になるのではないかという気がしていた。なにせ今の部長は役員で担当している部門は環境ばかりではない。専任の部長がいなくては決裁も滞りがちだ。
「下馬評はやめときましょう。ともかく井上さん、私は子会社の監査というのをみたことがないのでお宅が実施するとき見学させてほしいのです」
「いいですとも、もっとも子会社の方で本社の人が陪席するなんていうと、大事になるかもしれません。ちょっとそのへんは調整させてください。ところで、直近というと・・ええと1週間後に佐倉の部品製造会社と、その次の週には熊谷の代理店の監査がありますが、どちらが良いでしょうか?」
山田もそれは調べていた。両方行くつもりだった。
「それはちょうど良かった。どちらにも参加させてください」
「了解しました。先方と調整しますよ。それから監査には私は行かず、ウチの若い者が行きますので、指導をよろしくお願いします」
「井上さん、それはきつい冗談ですよ」
そういって山田は電話を切ったが、それは冗談ではなかったのだ。
いまどき電話で連絡するのか?という疑問があるかもしれない。確かに電話は相手がいないとつながらないし、相手の時間をもらうことになる。しかし私は実際の仕事でも、単なる問い合わせなどであればメールで済ますが、お願い事などはすべて電話している。

某日の昼過ぎ、山田は佐倉駅前の広場で、千葉工場の森本を待っていた。山田はここに来たのははじめてだ。営業にいたときに一度、妻と娘とグアムに旅行したことがあるが、そのとき電車で通過したくらいである。言っては悪いが田舎とまではいかずとも都会ではない。
待つこと10分、それらしいワゴン車が現れた。
「鷽八百の山田さんですか?」
山田より10歳くらい若いと思われる男性が、車の窓を開けて山田に声をかけた。
「そうです、森本さんですか?」
「そうです、どうぞ乗ってください」
ワゴンは山田を乗せて駅からどんどん走り、家並みが切れてもまだ走った。
「大分遠いのですか?」
「来たことがないところは遠く感じるだけですよ。実際は駅から3キロも離れていません」
そんなものかなと山田は上を飛ぶジェット機を見て思った。成田空港が近いので非常に低空を飛んでいる。
工場が立ち並んでいる中に『鷽機工』と看板が出ている、こぎれいな工場に着いた。山田が事前に調べたことによると、部品の板金加工が主で、めっきはない。塗装鋼鈑のプレスや切削加工を主としている。従業員が40人くらい。まあ小企業の部類だ。もっとも今は自動機が当たり前だから、建物からは実際に働いている人数より大きな会社に見える。
車から降りて辺りを見回すと、工場内外を、きれいにしているということがよく分かる。植栽もそうだし、建物もペンキがきれいに塗ってある。
ふと見ると、となりの工場が動いていないようだ。そしてその更にとなりの工場は建屋を解体中である。
「山田さん、あれはね、リーマンショックで廃業したのですよ。そのあとはマンションになるそうです。ここは工業団地ではないので、そのへんはね・・」
森本がウインクして言った。
なるほど、工場をきれいにしているのは、周りからの目も意識しなければならないんだと気が付いた。
二人は駐車場から建物の中に入った。

いまどきはどの会社でも受付に誰もいない。鍵のかかったドアの前に、受話器があるだけだ。森本は受付の電話を取った。
「鷽八百千葉工場の森本です。総務課長の宮城さんいらっしゃいますか? そうです、今日は環境監査でおじゃましました」
数分するとドアが開き、白髪頭が現れた。
「やあ、森本さん、お久しぶりです」
「宮城さん、今日はよろしくお願いします。こちらは本社の山田さんです」
../2009/table.gif 宮城は二人を殺風景な会議室に案内した。宮城は一旦姿を消して、ほどなくお盆にお茶の入った紙コップを持って現れた。
「前回、森本さんがいらしたのは3年前でしたね。どうも森本さんの質問はむずかしくて私どもは理解できないことが多いです。分かりやすい質問をお願いします」
「そうかなあ、環境監査では普通のことと思いますが」
二人の話を聞いて、山田は鷽機工の環境管理レベルが低いのだろうかと懸念した。
宮城は総務課長で対外的な窓口であるが、環境管理を担当しているのは、施設課という部門で、担当の岩手課長が現れた。
森本が仕切った。
「でははじめます。本日はご対応ありがとうございます。3年に一度の環境監査を行います。私は監査責任者を勤めさせていただきます森本です。こちらは本社の山田さんで、最近監査担当になられたので本日は見学です。でははじめの1時間半程度は書面の確認をさせていただきます。それから1時間程度、現場の巡回を行いまして、それから私の方のまとめをした後、双方で結果の協議をしておしまいとなります。終了予定は16時を予定しています。よろしいでしょうか?」
鷽機工側から何も意見がなかったので、森本は次に移った。
「では、はじめさせていただきます。御社では環境方針を策定していますか?」
「森本さん、前回もお話しましたが、当社では会社方針しかありません。そして前回も環境方針を作れといわれましたが、その必要性を感じません。どうも森本さんの意図がわからないのですが」岩手課長がヤレヤレという顔をしていう。
「本来ならば環境方針を作らないとならないのです。今まで以上に管理レベルを上げようとは思いませんか?」
「森本さん、環境方針があれば管理レベルが向上するのですか? どうもそうは思えませんがね。そんなことよりマンションができるので防音対策の見直しとトラックのルートを見直さなくてはならないと考えているのです」
宮城が脇から口を挟んだ。
「ともかく、環境方針について検討してください。では環境側面ですが、どのように把握していますか?」
山田は、森本は正気かと森本の顔を見つめた。森本は真剣のようだ。
「環境側面の求め方ということを前回森本さんに教えられてやってみたのですが、使用量と重大性に配点して計算する意味がないと思いました。いくら計算しても、従来から私たちが管理していたものを後追いで著しい環境側面というのですか、そういうものにするだけの意味しかなさそうです」岩手課長があきれたという顔でいう。
「岩手さん、環境管理はレベルがあります。今のレベルで満足するのではなく、一層高い管理を目指すならISO14001を満たした管理をしなければなりません」
森本は心底そう思っているようだ。
山田は、これは面白い出し物だと腹の中で思ったが、黙って成り行きを見ていることにした。
「ともかく、著しい環境側面の出す方法はどのようなものですか?」
「先ほど言いましたが、前回ご指導を受けたように量と重大性をかけて点数の多いものの上位10まで著しいものとしました」
「おお、計算式はいいですね。それで著しいとなったものを管理するようにしたのですか?」
森本は岩手課長の出した資料をながめて満足そうにうなづいた。
「いや、けっこうですね。では環境法規制をどのように調べているのでしょうか?」
「前回も申しましたが、当社は小企業ですから、鷽八百の本社からの法改正情報案内と商工会議所からの定期通知を見ています。そして行政からの法改正説明会の案内には必ず出ています」岩手課長が応える。
「前回、私は官報を取った方がよいと申し上げたでしょう。それはお考えにならなかったのでしょうか?」
「森本さん、どうも森本さんはここを大企業と同じことをすべきだとお考えのようですが、私どもは小企業ですし、そもそも法規制に関わることもほとんどない。騒音の特定施設があるだけだし、化学物質といっても切削油と脱脂洗浄剤程度ですよ、どうもあなたがおっしゃるのは現実離れしているとしか思えない」宮城がまた脇から口を挟んだ。
「私は監査に来ているのです。議論に来ているのではありません」
山田はヤレヤレ、これが子会社に対する監査なら、監査を受ける側はそうとうな反発があるだろうなあと心の中で思った。
監査というべきか、ISO規格の講釈というべきか、そんなことを1時間半ほどした後に、4人は現場に出た。
「産業廃棄物の看板は60センチありますか?」
森本がそう言って寸法を巻尺で計るのをみて、山田は冗談なのだろうかと思ったが、森本は冗談でもなさそうだった。
「58センチしかありません。これは廃棄物処理法違反です」
「ああ、そうですか」
岩手はあさっての方を見ながらそう応えた。

工場から戻ると、まとめと称して、森本は宮城と岩手を部屋から追い出した。
そしてホワイトボードに箇条書きでいろいろと書き始めた。山田は黙って、それを見ていた。
『環境方針がなく、基本的なことが漏れている』
『環境側面の把握は仕組みが作られて改善が図られている』
『法規制把握は不十分であり、よりきめ細かく法律の制定改正をウオッチする仕組みとすることが必要である』
『コンプレッサーの日常点検表が作業者とリーダーだけなので、岩本課長の検認をすることが必要である』
『産業廃棄物保管場所の看板が58センチと法で定める60センチを満たしていない』
その他もろもろ・・
山田は、いったい今まで誰が森本を指導してきたのか、そして森本の監査報告書を受け取っていた廣井もどうかしていると疑問だらけだ。
クロージングミーティングでは森本が一方的に不適合を宣告し、是正をしてほしいと言って終わった。
宮城も岩手も何も言わずに玄関前で、二人を見送った。

森本は千葉まで山田に乗っていけという。山田はそうすることにした。楽をしたいだけでなく、ちょっと森本と話をしたかった。それで、途中、山田はデニーズの看板を見かけると、「ちょっと入ろう」と森本に声をかけた。森本は喜んで車を停めた。
山田はドリンクとケーキ頼んで森本に話しかけた。
「森本さんは子会社の監査はどれくらいしているのですか? もう何十回もされているのでしょうか?」
「そうですね、もう3年くらいしてまして、毎年10回以上は監査をしているので30回以上にはなりますね。実は私はISO14001の審査員補なんですよ。千葉工場では審査員補の資格をもっているのは私一人なので、井上課長も一目置いているんです」
森本は自慢げに言う。
「そうですか、それはすごいですね。今までどなたかに環境監査を習ったということがありますか?」
「ISO審査員の研修に行きました。もっともその前にも、外部の3日間内部監査員研修コースにも参加しています。しかし、一番勉強になるのは毎年のISO審査ですね。私も審査員のようにISO規格を理解して、鋭い質問でシステムの良否を判断できるようになれたらと思います」
「森本さんは鷽機工で『環境側面をどのように把握しているか?』と質問しましたが、鷽機工はISO認証していなかったと思います。そういう会社でもISO規格の用語で質問するものなのですか?」
「私は子会社の監査というものはISO審査と同じものと思います。環境監査の最終形というものは、やはりISO審査と思うので、それに倣って行うべきでしょう」
「うーん、なんと言ったらよいのでしょうか。当社の子会社に対して行う監査は、会社規則で遵法を第一に見ると決めています。ISO審査のようなシステム監査ではないのですが」
「遵法を見るなんてそんな即物的なことではだめです。私たちはより高いレベルの監査をしなければなりません。それに不具合の是正はつまるところシステムの見直しになるはずです」
山田はコーヒーフロートをすすりながら、森本の頭の中身に詰まっているのが、脳みそなのか、ゴミくずなのか、カチ割ってみたいと思った。
「正直言いますが、私は今日の監査をみていて、依頼者の目的に対応していないと考えています。まず、子会社の遵法状況を把握するためのものにはなっていないと感じました。森本さんがどのような監査報告書を書くのか興味があります」
山田がそういうと森本はあきらかに心証を害したようだ。
「山田さん、失礼ですが私は山田さんの経歴を調べました。今まで営業一筋にきたそうですね。私は大学で環境関係の学部を卒業して、入社以来ISO14001を担当してきました。今年31歳になります。私より監査とか環境管理にご経験があるとは思いません。本社にいるから工場より立場が上というわけではないでしょう」
山田はヤレヤレとため息をついた。
「経験とか学問ではないのですよ。すべての仕事の目的は明白です。私たちは命令された目的を達成する義務があります。それを実施責任といいます。たいていの場合、責任権限なんてつないでいいますが、それは明白に異なる概念です。権限がなくても私たちは責任があるのです。あなたは監査を命じられた。そしてその依頼者の依頼に応じて監査を行い、依頼者を満足させる報告をしなければならないのです。お間違いはないと思いますが、満足させるとは『問題ありません』という回答をすることじゃありません。法の遵守を見て来いといわれたなら『遵法は大丈夫です』とか『法違反がありました』という回答をするということです。ちなみにISO審査はマネジメントシステムの監査ですから、『規格適合であった』か、あるいは『規格不適合である』という報告になるのは必然です」
森本は即座に反論した。
「それはおかしいですね、過去私が受講した内部監査員研修でも、審査員の研修でも、ISO規格に基づいて適合不適合を判定するのが監査であると教えています。まさか山田さん、あなたがそういう研修会の講師よりも権威があるとお思いですか?」
森本の表情からは、山田をまったく無知な人だとみなしているのがミエミエだ。
山田はけだるそうにゆっくりとした口調で、
「森本さん、一歩といわず、100歩くらい離れて考えてみてください。あなたが命じられた監査の成果として期待されているのは何でしょうか?」
「マネジメントシステムが適正であるかを確認することでしょう」
森本は断言した。
「そうでしょうか? そもそも、千葉工場に対しては、本社の環境保護部から子会社の監査を指示しているわけです。環境保護部が、監査員であるあたなの依頼者です。その指示書にはなんと書いてありますか?」
「はあ? そのような指示書を見たことがありません」
「そうですか、正確にいえば毎年、監査をしろという通知を出しているわけではありません。基本的に毎年行うように指示しており、それは会社規則に明記されています。子会社に対する環境監査規則を読んだことがありますか?」
「いや、ないですね」
「そうですか、それを読まなくては子会社の監査をすべきではありませんね。そこにはこの監査はマネジメントシステム監査ではない。遵法と事故発生予防のためのリスク管理を目的とすると記述されています。だから監査員は、システムを監査するのではなく、遵法がしっかりしているか、事故が起きないかを即物的にチェックして、遵法がどうであったか、事故は起きないのかを報告書に書くことになります」
「じゃ、ISO14001の監査とは異なるというのですか?」
「ISO19011はお読みになりましたか?」
森本は首を横に振った。
「ISO19011は監査の基本です。しっかり読んで暗記するくらいになってください。そこでは監査というものは多様なものであって、監査基準としてもさまざまなものがあり、環境に関する一例としてISO14001の監査(審査)があるということが分かるでしょう。あなたは環境監査を依頼されたのですが、ISO14001の監査を依頼されたのではありません」

19011.jpg

「するとISO規格は無用だというのですか?」
「無用というのではありません。今日行った監査の監査基準はISO規格ではなかったということです」
「すると環境方針がないということは不適合でもなんでもないということなのですか?」
「そのとおりです。あなたがすべきことは鷽機工が関わる法規制すべてについて書面と現物を調べて、法規制を守っているかいないかをみることなのです」
森本は黙ってしまった。価値観が覆ってしまったのだろう。
山田は森本の気持ちも分からぬではなかったが、いったいこの人は仕事というものを分かっているのかと疑問に思った。

森本に千葉駅で降ろしてもらって、山田が大手町の本社に戻ったのは7時ちょっと前であった。パソコンを立ち上げると井上課長からメールが入っていた。
『森本が帰社したときは、かなり激高してましたよ。山田さんとなにかあったのでしょうか? 次回の熊谷の代理店の監査では、ぜひとも山田さんのご指導を受けたいと、私に怒鳴ってきました。
正直言いましていきさつが分かりませんので、来週は山田さんが監査員を勤めていただけないですか。私も興味があるので森本ともども同行させていただきます』
山田はそれを読んで苦笑いをした。そして井上課長も困ってしまったのだろうと推察した。仕掛りを一切持たない主義の山田は即返信メールを書いた。
『井上課長殿 山田です。本日は大変良い経験をいたしました。来週はぜひとも私に監査員を担当させてください。私も良い監査をする自信はありませんが、良い監査をしようとがんばります』
返信を送るとき、CCに廣井を追加した。向こうからの文言も残っているので廣井もなにかあったのだろうと分かるだろう。
それから山田は熊谷の代理店の過去の監査の資料を探した。今晩は少し状況を把握しておこう。

本日の思いで話
私が内部監査とか二者監査を指導するようになって、10年になる。その当時から、ISO審査に感染した人は多かった。私が遵法を見る監査をしてほしいと要請(命令)しても、いやマネジメントシステム監査をすべきだと応える人が少なくなかった。私はISO審査を真似た内部監査とか二者監査であるべきだとする人たちの考えが分からなかった。私がそう思うのは、私がISO14001が発祥する前、いや、ISO9001が出現する前から監査を行い、監査をされてきたという経験があったからかもしれない。
私にとっては、監査とは己の意思で行うものではないと認識するのは、当たり前というか、当然のことだった。いかなる監査も、依頼があって行う。その依頼の中で、なにを見るのか、対象範囲、監査基準などが明確にされているはずだ。それを決めるのは監査員ではない。監査員は、いかなる監査基準でも、依頼でも、対応できることが身上である。それが力量である。依頼者の依頼に完璧に応えることができなければ職を失うという認識(恐れ)は、私の骨身に染みている。
だからISO規格が現れたとき、監査基準にISO規格を使うのだな思っただけであって、そのために新しい手法を学ぶという発想はまったくなかった。ISO19011ができる前から、私は自分の経験からISO19011と同等な考えをはぐくんできたのだ。

本日のお話には続きがあります・・・

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012.03.25)
おばQ様
あのー、もちろん「次回の熊谷の代理店の監査」という続編を期待していいんですよね?

たいがぁ様
とっくにアップしましたよ
仕事が速いのは私のとりえです


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