ケーススタディ 力量3

12.06.03
うそ800のケーススタディシリーズをお読みになられている皆様、ありがとうございます。作者のおばQです(って断らなくてもここに書いているのだから当たり前か)。
タイトルはケーススタディでございますが、全然ケーススタディじゃございません。単に架空の企業の環境部門における日常を書いているだけでございます。もっとも背景と内容はフィクションですが、書かれていることは現時点の法令やISO規格などに完璧に適合させているつもりでおります。
アクセスされている読者の方は、そこに何かを見いだされているのでしょうか。作者としましてはありがたい限りですが、どうしてこんなにアクセスがあるのか訳が分かりません。

本日の話を始める前に、改めて登場人物をご紹介いたします。
山田課長
山田太郎
46歳、入社後ずっと営業部門でしたが、3年ちょっと前に環境保護部に異動してきました。当初はISO規格も環境法規制もなーんも知らない状態でしたが、一生懸命勉強して、今では自他ともに環境監査のプロと認めるようになりました。半年前課長になりました。
温厚で頑張り屋、作者とは正反対の性格です。
森本
森本裕太
32歳、入社後、工場の環境管理課で働いておりましたが、ISO至上主義(天動説ともいう)という病魔に冒されて、このままではいけないと上長の井上課長が本社の環境保護部に治療してほしい、いや鍛えて直してほしいと預けたという、いわくつきの男。
ISO病だけでなく、弱気、逃げ腰、怠け病に冒され、良いところがありません。
横山
横山怜奈
29歳、埼玉支社の総務に勤務しておりましたが、とある事情により環境保護部に異動してきました。今までは環境とは無縁のお仕事でしたが、回転の速い頭脳でなんでも吸収して、今では環境に関して森本氏をしのぐ勢い。
また不倫や使い込みを見つける能力に優れており、周りにいる者は注意しなければならない人物です。

先日、山田が二人の教育のために課題として示したものは次のようなものであった。

山田が二人に課題を示してから数日がたった。横山が山田に課題達成の計画について相談したいと言ってきた。それで山田は森本にも声をかけて、二人の考えを聞くことにした。


山田
「どうですか、課題達成の方法を考えてみましたか?」
横山
「ハイ、考えました。どの課題も難しいでしょうけど、私は十分達成できると思います」
森本森本は横山の言葉を聞いて、ギョットというかオェッという顔をした。実は横山が音を上げると読んでいたのだが・・
山田
「なるほど、横山さんはもう枠組みができたようなので、まず横山さんから説明してもらおうか。まず1番目の課題は特に議論することはないよね」
横山
「はい、私は環境保護部を希望してきたわけですし、こちらに来てから環境保護部の皆さんの様子を見ていて、自分がどうあるべきか、いやどうあってほしいと期待されていることを理解したつもりです。それで課題の1番は、今まで考えてきたことを一気呵成に書けば終わりです。
それ以外の課題は順々に進めていくのではなく、受験日とか納期などの関係があり併行して進めなくてはなりません。また、環境報告書に関する検討は私の業務そのものですから元々しなければならないことです。よってまずすぐに公害防止管理者の勉強を始め、それ以外のテーマについては納期から必要日数を逆算して進めていく必要があります。これがその計画表です。取り掛かったところは太線にしています」

横山はスケジュールを書いた紙を、山田と森本に配った。
横山の計画表

山田
山田は期限とそれに至る時間的な計画をザットながめた。
「なるほど・・・よく考えましたね。実施事項がカスケードになっていて、重大なイベントが重ならないように考えているのが良いですね」
横山
「課題2の環境報告書については、中野課長と打ち合わせをしたのですが、包括的なリサーチを一人でできるはずがないので、中野さんがしていないことを私が担当することにしました。中野さんは他社の環境報告書の状況については、そういうことを調査している会社にお金を払ってデータを買うそうです。私は鷽八百グループの内部の環境報告書についての意見調査を指示されました。具体的にはアンケート調査をするか、社員に直接聞き取りをしようと考えています」
山田
「わかりました。結果として環境保護部の次年度の計画に参考になるような成果を出していただければ結構です」
横山
「課題3の公害防止管理者ですが、インターネットで一晩調べました。その結果、本屋でテキストと過去問を買ってきてやっても一発合格は難しいということがわかりました。インターネットで勧められていたのは通信教育です。公害防止管理者の通信教育をしているのはいくつもありますが、試験をしている産業環境管理協会のものが一番良いとのことでした。それで既にそれを申し込みました。ただ産業環境管理協会の案内を見ると履修期間は半年程度必要となっています。ですから今年受験するにはそうとう頑張らなければなりません。私は大宮からなので通勤時間を活用しようと思います。テキストをメモリーオーディオに録音して聞こうと思います」
山田
「法律や設備などは聞き流すだけでも試験対策として十分かもしれないが、計算は机に向かってしなければならないね。それと合格を目指すためには問題集を最初に見た方が効率的だ。本当の力が付くかどうかは別だけど」
横山
「過去問を見たところ数値計算はほんのいくつかのパターンしかありません。活性汚泥というのですか、その返送率とかペーハーなどに限定されています。だからそういったことを集中的にすれば良いかと思いました」
山田
「なるほど、課題4は?」
横山
「工場からの定期環境報告は、今ある情報をどう使うかということじゃなく、どのような情報が求められているか、その情報が定期環境報告から抽出できるかという観点からアプローチしたいと思います。だって無用な情報は集めること自体無駄ですから。
今年、環境報告書を編集していて思ったのですが、情報はたくさんあるのですが、その情報が求められているものなのかと考えると、不要と言っては言い過ぎかもしれませんが、本当に必要な情報ではないようなものが多いのです。そして求められている情報にぴったりマッチしたものがなくて困りました」
山田
「なるほど、おっしゃることはよくわかります。
本題とは関係ないことですが、通常『情報』とは『意味のあるデータ』、『データ』とは『事実を数値や文字などで表したもの』という意味で使われています。だから横山さんがいう必要・不要を含めた情報は普通データと言い、横山さんが必要な情報といったものを情報と呼びます」
横山
「ああ、そうなんですか。その定義を伺いますとなるほどと思います。でもそうすると『定期環境情報報告』とは『定期環境データ報告』のようですね」
山田
「なるほど、そう言われると定期環境情報とは名前負けですね。横山さんの成果を期待しますよ。
次の課題はISO審査員補の登録でしたね」
横山
「ISO審査員の制度を調べました。インターネット検索で、山田さんと森本さんが審査員補に登録されているのを知りました。審査員補になるには、まずは審査員研修機関というところで5日間講習を受けなくてはならないのですね。最終日に試験があってそれに合格すれば、産業環境管理協会の審査員登録センターというところに申請するようです。確認しておきたいのですが、研修費用は会社で持ってくれることと、研修の5日間は出張扱いしてくれるのでしょうか?」
山田
「もちろんです。不合格になっても金返せとは言いません」
横山
アハハハ、ネットで調べると受講者の9割以上というか、ほとんど合格しているようですから、その心配はいらないです。
登録に当たって特に資格はいらないようですが、業務経験として大卒は4年以上で、しかも環境業務経験が2年以上となっています。私の場合の問題は、環境についての仕事の経験がありません。環境保護部に来てまだ3カ月です。研修を受けても2年間登録できないということになるのでしょうか」
山田
「心配はいりません。求められているのは環境部門の経験ではなく、環境に関わる経験です。横山さんが今まで総務でビル管理、つまり省エネや廃棄物管理などをしていたり、オフィス町内会に参加していたり、あるいは行政や教育機関などに環境広報などをしていれば、それを具体的に記述すれば大丈夫です。私も営業にいましたが、お客様への環境配慮提案やグリーン調達への対応を書きました」
横山
「なるほど、そうなのですか。安心しました。
課題7の環境保護部の問題点と改善提案ですが、これは異動したばかりなので今はわかりません。言い換えればこれから日常仕事をしていけば、問題点や改善がいくつも気が付くと思います。それを10ページ書けばよいのですから楽勝です」
山田
「総務の人は、文章を書くということが苦手ではない人が多いですね。わかりました。
では最後の8番目はどうしますか?」
横山
「これも現時点では見当もつきません。ただいくつか案を考えました。まずその頃にはISOの審査員補になっているはずですから、ISO規格や審査というものについて今より詳しくなっていると思います。そういう前提で考えると、
ひとつは、山田さんが行っている社内の環境監査で問題があった工場に伺って、その問題をなぜISOのシステムで見つけなかったのかを追求する帰納的な方法があります。
あるいは現在のシステムを調べて規格適合なのか、会社の規則に適合なのか、有効なのかを演繹的に調べるという方法もあります。
それとは別にISO審査の所見報告書というのですか、それを全工場、過去何年かを集めて、その内容を分析するという方法もあるでしょう。私は自信過剰かもしれませんが、ひと月あればできると思います」
山田
「すばらしい。内容が素晴らしいというよりも、考え方を固定しないで、継続的に自分自身の力量も知識も向上していくだろうという前提で考えているところが気に入りました。横山さんはそれで進めてください。
では、森本さんの計画を聞かせてもらおうか」
森本
「まず僕は真剣に考えていなかったことを白状します。一番目の課題からして、実はそれは将来についてではなく、いかに現状を真剣に考えているかということだと横山さんの話を聞いて気が付きました。反省するばかりです。他の項目も同じです。
ただ公害防止管理者については工場の公害防止管理者に聞きました。その方はもう10年くらい前に受験しているので、現在の試験方法とは違うのですが、いろいろとアドバイスしてくれました。山田さんは3月3時間とおっしゃいましたが、確かに3か月あればなんとかなるだろうと言ってました。僕は稲毛からなので片道40分くらいかかります。出勤時間は早いのでそんなに混みませんので、この通勤時間に本を読むことができると思います。今はスマホでゲームしているだけですから。
とりあえず教本「新・公害防止の技術と法規」と問題集「公害防止管理者等国家試験 正解とヒント」を買いました。しかし合わせて1,2000円という金額には驚きました。
まだななめ読みですが、聞いたこともない固有名詞とか数値がたくさんあり、これはまじめに勉強する必要がありそうです」
山田
「森本君の計画は来週聞かせてもらおう。楽しみにしているよ」

本日の思い出
私が田舎から東京に出てきたのは今からちょうど10年前でした。出勤初日、千葉方向に帰る同僚といっしょに総武快速に乗ると、彼はバッグからA4サイズで厚さが数センチもあるような大柄な本を取り出し混雑する社内で読みはじめた。もちろん立ったままで。それはなにかと聞くとエネルギー管理士のテキストだという。私は彼のファイトにたまげた。初めて都会の通勤電車に乗った私は、あまりの混雑で息も絶え絶えだったが、彼はその中で勉強しているのだ。これは頑張らねばと思った。
総武線総武線総武線総武線
私はそのとき公害防止管理者の水質1種と大気1種持っていたが、その後通勤時間を利用して残り全部をとった。それが終わると次は大学の通信教育を通勤電車の中で勉強して卒業した。通勤時間が長いのも捨てたもんじゃない。
ちなみにその同僚はもちろんエネルギー管理士試験に合格したが、エネルギー管理士の資格なんて省エネを進めるためには全然役に立たないという。そりゃ、そうだろう 


早速 名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012.06.03)
横山さんみたいな部下がいたら上司は楽ですよね〜。キッカケさえ与えれば勝手に動いていくのですから。
実際には(ry

追伸
エネ管の話が出ておりましたので、折角ですから「現役エネ管」としてFCにネタを上げておきます。

おお!鶏様 毎度ありがとうございます
鶏様をリンクしておきます


外資社員様からお便りを頂きました(2012.06.04)
力量3によせて
新人二人の成長の過程を楽しみに読んでおります。

横山さんは、総務出身らしく、用意周到ですね。
森本さん、いよいよ危うしと思ったら、素晴らしい発言が出ました。
彼の成長は、これからだと期待しております。

彼のように、自分が出来ていない事を正直にいう事は難しいですね。
特に自身の評価がかかるような場や、上司や同僚がいる前では尚更です。
名古屋鶏さまのブログの最後にあった「『負け』を自分の中で認め続ける」のも同じですね。

それにしても、「不倫や使い込みを見つける能力に優れており」というのは凄い能力ですね。その方向を、予算や労働の無駄に向ければ、凄いですね。
結局、それは活かせるかは、上司や会社役員の「負け」を認められるかになる訳で...

外資社員様 毎度ありがとうございます。
言い訳に終始しますが、私は鷽八百社や山田の職場の様子とか、横山、森本のキャラクターなどを決めてから書いているわけではありません。本当にいい加減な作者ですので、出たとこ勝負、成り行き次第、試行錯誤で書いております。物語の中に現れた法律やISO規格の解釈以外はもうデタラメです・・すみません
そんなわけで文中、森本さんを成長させようとか、横山さんを魅力的に書こうなんて考えておりませんし、そんな能がありません。すみません
外資社員様、名古屋鶏さんをはじめ、みなさんのご意見(茶々ともいう)によって、右往左往、いやストーリーが決まっていくといういい加減な話で・・すみません
みなさんのご意見(命令とか指図ともいう)が森本、横山を育ててくれれば立派な会社員になるでしょうし、みなさんの冗談が過ぎれば二人はダメ社員、いや犯罪を犯して・・となりそうな予感がします。
お二人を、いや私をお導きください、アーメン


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