ケーススタディ 力量9 審査立会

12.06.20
この駄文に、嫌悪を感じる方は多いだろう。反論したい方は多いだろう。
 私を批判しようと憎もうと、それは勝手
 私は自分が見聞した事実と、自分が信じることしか書かない
 ご批判は望むところ、堂々と議論しよう

藤本部長は、今まで一度もISO審査を受けたことも見学したこともない。それで山田は藤本に工場のISO審査に陪席してもらおうと、社内の工場の審査日程をあたった。
九州工場工場長
九州工場長
辻井課長
辻井課長
九州工場の審査が直近で、環境管理課の辻井課長 に問い合わせると、どうぞと言ってくれた。
山田は外部の者が参加してトラブルにならないようにと、辻井課長から認証機関に本社の環境保護部の者が陪席するのでよろしくと断りを入れておいてもらった。

ところで九州工場の審査が近づくと、関連会社の監査がいくつも入り、山田はもちろん森本も同行できそうにないことが分かった。山田は藤本を一人で行かせるのは心配だったが、やむを得ない。子供ではないだろうと藤本に期待するしかなかった。
藤本はそんな山田の心配をよそに、九州工場長 も知り合いだからと、気負いも躊躇もなく一人で出かけた。



当日朝、オープニングの前に藤本は辻井課長と共に、審査員3名に会って名刺交換した。
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藤本部長
審査員は3名で、リーダーは須賀氏、メンバーは堀川氏と鈴木氏である。
藤本は今までさまざまな経験をしてきているので、こういうことは慣れたものである。
挨拶も「審査員に出向する予定なので勉強のために見学させてもらいます」なんて言うわけがなく、「現在鷽八百社ではISO審査の効果がないのではないかということが取りざたされており、このたびは本社の代表として審査の実態を確認に来た」とタカピーである。
須賀審査員は藤本の話を聞いて苦い顔で、「審査は工場との契約で行うものであり、本社の人と言えど余計な口出しはしないでほしい」と釘をさした。
藤本はそれには「それは十分存じている、当社の期待に応えるような審査をしてくれ」と応えるありさまである。
審査員お三方のお名前はある理由で付けた。ある理由とはある理由である。

オープニングである。
須賀審査員がオープニングの説明をする。内容は型通りでどうということもないが、藤本にとっては初めてのことだ。


須賀審査員
須賀はオープニングの説明の最後に
「なにかご質問はありますか?」と言った。
藤本
「部外者で恐縮ですが、異議申し立てについてのご説明がなかったように思います」
藤本は無邪気にそう大声を出した。
九州工場長は藤本を見て面白そうな顔をした。
須賀審査員
「藤本部長様は組織の方ではございませんので、発言しないでください。他にご質問ありませんか」
工場長
「私は組織の経営者として質問しますが、異議申し立ての説明をしなければならないことになっているのですか?」
須賀審査員
「あのうですね、確かに審査に不満がある場合は、組織つまりみなさんは認証機関に異議申し立てをすることができることになっています」
工場長
「藤本部長のご質問は、その旨をオープニングで説明しなければならないのではないかという質問ですが?」
須賀審査員
「私どもはそういう必要はないと考えております」

工場長
工場長は首を曲げて藤本に聞く。
「藤本さん、それで良いのですか?」
藤本
「ISO17021:2011では初回会議で説明する義務は記載されていないようです。しかし9.1.9.8.2では最終会議において説明しなければならないと規定してありますね。先ほど須賀審査員がご説明されたパワーポイントの中に異議申し立てという小さな文字が見えましたので、あのパワーポイントを見せたことで説明したことにして、最終会議では説明しないのかどうかを確認したかったのですが、そこのところはどうなのでしょうか?」
須賀氏は鈴木氏を見て小声でそういう規定があるのかと聞いた。鈴木氏は今ISO17021を持っていないという。
須賀審査員
「パワーポイントを読むときに見落としてしまったようです。組織はこの審査の判定結果及び審査の状況について異議あるいは苦情がありましたら弊社の窓口にそれを申し入れすることができ、弊社はそれについて期限を決めて回答することになります。
藤本さん、これでよろしいでしょうか?」
工場長
「質問者は私だがね。要するにじゃ、クロージングで改めてちゃんと異議申し立てについて説明してくれるわけだね。それならよろしい。
じゃ、辻井課長、工場概要の説明をせいや」

審査側から見ると前途が思いやられ、組織側から見るとわくわくするような始まりとなった。



書面審査である。
須賀審査員
「では、書面審議の最初は環境側面です。環境側面評価の方法は見直しましたか?」
辻井課長
「はい、前回の審査のあとに環境側面の特定方法を見直しまして、環境側面評価を止めました」
辻井課長は森本と横山の発表を聞いてから、九州工場の環境側面の規定をだいぶ見直していた。そして規格にない言葉と行為を排除してしまったのだ。
須賀審査員
「はあ? 環境側面評価を止めたのですか?」
辻井課長
「以前の方法を再確認しましたところ、ISO規格の趣旨とは異なっていることがわかりましたので、点数を付けて側面評価するのを止めたのです」
須賀審査員
「ほう、点数をつけずに著しい環境側面の決定をするのですか?」
辻井課長
「面倒なことをするのは無駄ですので、法規制に該当するものと過去に事故事例があったものを著しい側面とすることにしました」
須賀審査員
「そのような方法では適切ではありませんね」
辻井課長
「適切という意味が分かりません。審査では適合と不適合を判定するのかと思います。
またISO14001には方法が規定されていませんし、ISO17021では環境側面の特定方法や著しい側面の決定方法は組織が決めることになっています」
鈴木審査員
「あるべき評価方法として、点数で大小を評価することが好ましいですね」
須賀審査員
「点数方法を止めたということは退化ですよ」
辻井課長
「好ましいとか、退化という意味がわかりません。当工場ではこれが良いと考えました」
須賀審査員
「いや、いけません。環境側面評価方法が確立されていないという重大な不適合になります」
辻井課長
「規格のどの要求事項に不適合なのでしょうか?」
須賀審査員
「4.3.1では環境側面評価の手順を確立することとあります」
辻井課長
「4.3.1には『点数による環境側面評価方法を確立すること』と書いてありません」
須賀審査員
「ISO規格はそういう細かいことは書いてないのです。私が言うのですから間違いありません」
辻井課長
「すみませんが、不適合とするためには、ISO17021では『不適合の所見は、審査基準の特定の要求事項に対し記録し、不適合の明確な記述を含め、不適合の根拠となった客観的証拠を詳細に明示しなければならない(ISO17021:2011 9.1.9.6.3)』とあります。著しい環境側面を点数で決めないことが不適合になるのはどこに該当するのでしょう?」
須賀審査員
「では、この事実を不適合であるということに同意できないのですか?」
辻井課長
「同意するもしないも、不適合であることのご説明を伺っていませんが」
須賀審査員
「ISO17021はよくお読みになっていると思いますが、双方の意見が一致しない場合は審査リーダーが決定して良いとあることをご存じでしょう?」

辻井課長
辻井課長は首をまわして藤本に声をかけた。
「藤本部長、そういう決まりなんですか?」
藤本
「確かISO17021では『意見の相違があればそれを記録して認証機関に報告する(9.1.9.8.3)』とありましたね。これはつまり審査リーダーが決定するのではなく、預かり、ペンディングということでしょう。
須賀さん、本社としましてもこの件についての認証機関での最終判断にあたっては協力いたしましょう」
須賀は藤本の言葉を聞いて顔を真っ赤にした。いったいこの連中は審査員に対する尊敬の念がまるでない。手玉に取ろうとしているようだ!
辻井課長
「では著しい環境側面の決定についてはペンディングとしまして、どうぞ、次に進みましょう」

須賀審査員
須賀はまだ先は長いと思い直して、気を静めた。
「おたくで決定した著しい環境側面はどれでしょうか?」
辻井課長
「既に送っている資料と変わっていません。これが一覧表です」
鈴木審査員
「著しい環境側面としたものを、有害とか有益と識別していませんね。この中でどれが有益な側面なのですか?」
辻井課長
「ISO規格には有益と有害に識別せよとはありません」
鈴木審査員
「現在は有益な側面を把握していないと不適合なのですよ」
辻井課長
「ご存じのように昨年までは審査員の方のご指導に従って、有益な側面と有害な側面に分けていました。
人感センサーだよ
須賀審査員も来ているので覚えていらっしゃると思いますが、昨年の審査で私どもが工場の通路や倉庫の照明に人感センサーを付けたことを有益な側面としていたのを、須賀審査員は『省エネ活動そのものは有益な側面として扱い、省エネのために使う人感センサーは資源を使うので有害な側面と区分すると良い』ということを観察にしていかれました。
ところがその前の年の審査では、私どもが計画的に行っているインバーターエアコンへの切り替え作業を取り上げて、切り替え作業ではなくインバーターモーターそのものを有益な側面であると言われました。
ここで私たちは考えが分からなくなってしまったのですよ。通常のモーターが有害な側面で、インバーターモーターが有益な側面という理屈が正しいとしましょう。それから類推すれば、倉庫の照明のトグルスイッチが有害な側面で人感センサーが有益な側面になりますよね。それにご異存ありませんね。しかし須賀審査員さんの一昨年と去年の話はあきらかに矛盾しています。
もうひとつの疑問は、一昨年はインバーターエアコンへの更新活動ではなくインバーターモーターを有益な側面であると須賀さんはおっしゃったことです。一昨年は活動が有益な側面で、昨年は物が有益な側面とおっしゃった。これも矛盾です。
これらを考えるとこれはもう、有害な側面とか有益な側面という発想そのものが、間違いというか破綻しているとしか思えません」
これらの事例は、すべて現実の審査で出された指摘や観察を基にしております。書かれた審査員ご本人はもちろん、その認証機関でもトレースできるはずです。

須賀審査員
非常に困ったような顔をして
「確かに人感センサーを有害と申し上げたのは不適切だったかもしれませんなあ〜。人感センサーに切り替えたこと全体を有益な側面と考えるべきだったかもしれません」
辻井課長
「不思議なことはもっとあります。今は省エネ要求がどんどんきびしくなってきました。いや要求というより一定電力をオーバーすると罰則を受けるご時世です。
そのため現場の休憩所などでは、昨年はエアコン運転を止めて扇風機に切り替えて省エネを図りました。すると外気利用と扇風機が有益な側面となり、インバーターエアコンは有害な側面になってしまいました。それっておかしいですよね。
今、須賀審査員さんは『人感センサーに切り替えたこと全体を有益な側面と考えるべきかもしれない』とおっしゃいましたが、いまやLED照明も普及してきましたし、やがては有機EL照明になるかもしれません。そのときそれ以前は有益な側面とされていたものが技術革新によって有害な側面になるのですか? そりゃいい加減な論理としか言えませんね
そういったことがあり、我々は環境側面には有益も有害もないという結論に至りました」
鈴木審査員
「まあ、近視眼的にはそのように思うこともあるかもしれませんが、環境管理において有益と有害を区別することは重要なことです」
辻井課長
「近視眼というのがどういう意味なのかわかりませんが・・・
昨年まで有益、有害に分けていたのを、今年やめても当社の環境管理は何も変わっていないのです。分けることが重要だという意味がわかりません。著しい環境側面なら管理しなければならないのであって、更に有益、有害など分ける意義がありません。お宅の認証機関は、環境側面に有益と有害があるというお考えなのですか?」
鈴木審査員
「それは私どもだけではなく、どの認証機関も同じだと思いますよ」
かなり自信たっぷりである。
辻井課長
「正直言いまして私どもも有益な側面がないという考えには自信がありませんでしたが、寺田さんの講演で有益な側面はないと語るのを聞きまして確信を持ちました」
鈴木審査員
「寺田さんがそう言ったって本当ですか? 須賀さん、お聞きしたことありますか?」
須賀審査員
「いや、私も知らないが・・」
藤本
「須賀さん、私は寺田さんという方を存じ上げないが、寺田さんが何を語ろうと、気にしなくてよろしいのではないですか。みなさんはこの工場が、ISO14001を満たしているかをISO17021に基づいて審査すればよいのです」

須賀審査員
須賀は藤本からそう声をかけられて、ハットした。
「おお、そうですね。ええと、ISO14001には有益という文言はないのですが、当社の統一見解では有益な側面を把握することが必要とされておりまして、それを怠っている場合は不適合となります」
辻井課長
「はあ? 寺田さんのような権威者がないと言っていても、有益な側面がなければ不適合となるとは不思議ですね? じゃあ、これも意見の不一致ということで次に進みましょう」
参列者がドット笑った。有益な側面だって
藤本
「部外者ですみませんが、須賀審査員がおっしゃった統一見解とはなんでしょうか?」
須賀審査員
「当認証機関の判定のルールとお考えいただいて結構です」
藤本
「その統一見解は公開されているのでしょうか? 少なくても審査を受ける組織には事前に配布しているのでしょうか?」
須賀審査員
「内部資料です。内部資料」
藤本
「罪刑法定主義という言葉をご存知かと思いますが、それと同じく、審査を行うときに、審査基準を公明正大にしなければなりません。それはISO17021にも明示してあります。
しかしながら先ほどのオープニングで須賀審査員は、この審査はISO14001:2004年版に基づいて行うと説明しました。お宅の統一見解も含むとはおっしゃっていません。これは審査が不適当かと思います。私は当事者ではないので異議申し立てをするつもりはありません。しかしながら審査においてはISO14001とISO17021に基づいて行うべきですね」
須賀審査員
「すみませんが藤本部長さん、今後ご発言は控えてください。
工場長
「すまんが、組織の経営者としての発言ですが、その統一見解というものを、こちらに文書でご提出願いたい。明示していない基準で不適合なんて言われるようでは枕を高くして眠れんからな。
今お持ちでないなら、明日の朝でもよろしい。お互いに同じ基準で審査をする、審査を受けるということでなければいかんからな。
おい、辻井、審査契約書には統一見解という審査基準も加えて行うという文言はあるのか?」
辻井課長
「ありません」
工場長
「そうか、じゃこの審査が済んだら、認証機関あてに抗議文を書け。ドラフトができたらわしのところに持って来い。わしの名前で出すわ」
三人の審査員は顔を見合わせて凍りついた。



須賀審査員
「著しい環境側面で昨年から変わったものはありませんか?」
辻井課長
「ありません」
鈴木審査員
「お、PCBのトランスを9個JESCOに処理委託したのですか?」
辻井課長
PCB 「JESCOの北九州事業所もやっと順調に動き出しました。当社のトランスはだいぶ前に登録していたのですが、ようやく順番が回って来ました。
あと1個は形式が違うということでまだ待たされています。
もっとも蛍光灯安定器についてはいつどうするのかさえ見通しがありませんが」
鈴木審査員
「PCBトランスは御社には10個あったのを9個も処理したのですから、PCBは著しい環境側面からはずすべきではないのですか?
なぜPCBトランスを著しい環境側面のままにしているのですか?」
須賀審査員
「こういう場合、点数で評価していれば著しい状況ではなくなります。環境側面を点数で評価することの意義をお分かりでしょう。話が戻りますが、やはり環境側面の評価方法を以前に戻した方がよろしいですね。ご了解いただけますね」
辻井課長
「いや、その考えはおかしいですよ。いやおかしいというより、明らかな間違いです。実際に環境管理をしている人には通用しない考えです」
須賀審査員
なんと!間違いとは失礼な
これはPCBトランスが9割も減ったのにも関わらず、著しい環境側面を見直していないという不適合になります」
辻井課長
「あのねえ〜、須賀審査員さん、そんな理屈が世の中に通用するとお考えですか? 行政に言ったら笑われますよ。
そもそも著しい環境側面て、なんですか?」
須賀審査員
「あなたそんなことも知らないでISOやっているのですか?」
辻井課長
「ISOをするという意味がわかりませんが、環境管理は真面目にしているつもりです。須賀審査員は著しい環境側面とは何だとお考えですか?」
須賀審査員
「そりゃ、事業活動において組織が環境に多大な影響を及ぼしていると判断した側面ですよ」
辻井課長
「ISO的じゃありませんね、
環境側面とは何かと理解するには、ISO規格の4.3.1だけを読んでもダメです。以降の条項では著しい環境側面を『側面に関わる法規制をしっかり調べること』『力量を持った人を充てること』『内部外部コミュニケーションの手順を定めること』『管理手順を定めること』『必要な場合下請などにも周知すること』『なにごとかあれば経営者にも報告すること』を定めています。
言い換えると、著しい環境側面とは、関係する法規制を把握する必要があり、力量を持つ人でないと扱えない、コミュニケーションが必要で、運用手順を定め、関係者に知らしめ、異常があったら経営者に報告しなければならないものですよね?」
須賀審査員
「そういうことになるのかな?」
辻井課長
「今現在、PCB油が入ったトランスがまだ1台あるわけです。その数値の計算方法で行きますと、そのトランスは著しい環境側面ではなくなるわけですね? 須賀さん」
須賀審査員
「そう言いました」
だいぶ声が小さくなっている。
辻井課長
「そうしますと、あれですね、今現在保有しているPCBトランスは、法規制を考えることもなく、取り扱う人は力量は不要で、コミュニケーション、つまり届出などでしょうかねそんなものは関係ない、関係者に危ないよと教えなくても良いということになりますか?」
須賀審査員
「いや・・・」
辻井課長
「ISOの著しい環境側面というものと、実際の環境管理でしっかりしなければならないものとは違うのでしょうか?」
須賀審査員
「そういうことはないと思うが・・・」
辻井課長
「ということはISO14001の著しい環境側面にはどんな意味があるのでしょうかねえ、
計算した結果、現有のPCBトランスが著しい環境側面からはずれたとして、現実にはやはり従来通りの管理が必要であるわけですから、著しい環境側面というものは何の意味もないバーチャルなものなんでしょうか?
そして実際の環境管理は別の基準で行うべきだということになるのでしょうか?」
須賀審査員
「・・・・」声がなく時間だけが過ぎていく。
藤本
「須賀審査員さん、私に発言権がないのは承知しておりますが、当社としては認証機関に高い費用、一人一日当たり13万円もお支払しておるわけでして、ISO審査がこのような規格の議論に終始しているのは時間すなわちお金の浪費と感じております」

須賀審査員
須賀は助かったという風情で
「とりあえず、著しい環境側面には変化がなかったということですね、わかりました」
辻井課長
「しかし不思議に思うのですが・・・」
須賀審査員
「ハイ、なんでしょうか?」
辻井課長
「昨年まで一生懸命に数量を把握して、数値計算して一定点以上になったものを著しい環境側面にしておりましたが、今年は法規制を受けるか、過去に事故などが報道されたかという二点だけチェックして、ひとつでも該当するものを著しい環境側面としたのですが、その結果、従来とまったく同じ結果になったということは、このたび見直した著しい環境側面の決定方法が優れているということになりますか」
須賀以下、全審査員は沈黙である。
工場長
「辻井、おまえ、何を語っているんだ。今までお前が重要だと思っているものを上位にするように点数を適当に調整していただけじゃないのか。要するに昨年までの点数方式がインチキで、今年は真面目にしたってことだろう」
参加者点数で側面を決めるだってがドット笑ったが、3名の審査員だけは笑わなかった。



やっと、初日の午前の部が終わった。審査を行っている部屋はエアコンが利いていたが、須賀、堀川、鈴木の三審査員は炎天下10キロも歩いたように汗だくになり疲れ切っていた。これほど審査が組織側に翻弄され順調に進まないのは三人共審査員になって以来はじめてのことだった。須賀は、これから午後ずっと、そして明日は朝から夕方まで審査があると思うとうんざりした。

辻井課長
「みなさん、本日の午前の部は終了です。午後は昼礼や職場の指示などがありますので、13時15分から開始とします」
工場長
「わしは今までに7・8回ISO審査というのを受けたけど、今日ほどまっとうで実のある審査は初めてやで。
辻井、お前は今まで審査員が語ることを全部ありがたく聞いとっただろう。今日はしっかり応対していたが、これからはちゃんと考えて受けることは受ける、拒否することは拒否せんとあかんぞ」
辻井課長
「かしこまりました」
工場長
「藤本さん、本社の立場でみて、本日の審査はいかがでしたか?」
藤本
「活発に意見交換があるのはいいんですが、空理空論と現場の認識のすれ違いという気もしましたね」
工場長
「うーん、そう言われるとその通りだが、それに関しちゃ我々の問題ではないな」
工場長と藤井部長がそんな話を大声でしている脇を、審査員3名は退席していった。



九州工場の審査は翌日の夕方に「不適合、観察共になし」で終了した。
山田 翌々日、辻井課長からのメールと藤本部長の話を聞いて、山田は笑いが止まらなかった。
山田
「藤本さん、正直言いまして、お一人で行ってもらうときは心配でたまりませんでしたよ。しかし藤本さんは先天的に審査員の才能が備わっているようです」
藤本
「いやさ、山田さん、私は何も知らないから無邪気に質問しただけです。辻井課長も先日の横山さんと森本君の発表を聞いて発奮したようです。
私は初めてISO審査というものに立ち会ったんだけどさ、審査の場で行われる質疑応答は、常識で考えたらおかしいことばかりだね。先日森本君が行った監査とは大違いだ。とても森本君のレベルには及ばない。
以前、山田さんがISO審査は遵法とリスク管理に有効でないと言ったが、それどころか企業に多大な悪影響を及ぼしているとしか言いようがない。」
山田
「改善の必要がありますね。改善の宝庫と言うべきかもしれません」
藤本
「あんなおかしなことをしていてお金がもらえるとは、普通のビジネスをしている者には信じられんことだ。工場長に聞いたら、今回の審査費用が80万円で旅費宿泊は別途という。ハンパじゃない金額だ。さて、どうしたものか・・」
山田
「とりあえず、この三人の審査員は当社グループでは永久追放は決定ですね」

本日のお断り
私が認証機関や審査員に敵意があると思われた方へ
敵意とは心のありようです。しかし根拠のない不適合や要求が存在したことは事実で、多くの認証機関の所見報告書にはそのような証拠書類がたくさんあると思います。
不適合の証拠根拠を記載していない審査報告書が、審査が不適合であることを立証する証拠となるとは面白い現象です。まさか今更修正しようとしても、非常におびただしい数の報告書が日本全国津々浦々に溢れているのですからそれは不可能でしょう。
今でもこんなことを語っている認証機関や審査員がいるのかと思われた方へ
2012年3月までは生存していたことは確認済です。2012年4月以降、私は審査に立ち会っていませんので、その後死に絶えたかどうかは不明です。個人的には絶滅危惧種として保護する気はさらさらありません。天然痘のように撲滅したいと念じております。
審査で、工場長と課長の二人だけで対応するはずがないと思われた方へ
何人も出場させたら書く方も読む方も混乱するだけですので、そのへんはお芝居、オシバイ
堀川審査員には一言も発言させていないのも、その理由です。

本日の想像
今日の駄文を読んで、苦虫をかみつぶした人よりも、快哉を叫んだ人の方が多いだろう。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/6/21)
審査側から見ると前途が思いやられ、組織側から見るとわくわくするような始まりとなった。

爆笑です。以下も同じ。
いやーー、腹の皮がよじ切れるかと思いました。
ここでリクエストがあります。次の藤本部長の体験ネタは、J▲Bの審査立ち会いに遭遇したというシチュエーションでお願いします。

たいがぁ様 まいどありがとうございます
正直言いまして■A■の審査立会いという僥倖にはまだ出会っておりませぬ
想像だけでは・・・


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