川端2回目の相談

13.01.20
ISOケーススタディシリーズとは

山田が出社してメールボックスをみると、川端から訪問したいというメールが入っていた。
またかという気もしたが、藤本の事業が独り立ちできるようにするのも山田の仕事であることだから仕方がないと思い直し、午後ならいいと返事をした。



午後、例によって藤本と川端がやってきた。山田は内山に一緒に出ろと言って4人は打ち合わせ場に集まった。
山田
「どうですか、長野鷽会社の方は順調に行っていますか?」
川端五郎
「いや笑われるかもしれませんが、私も成長しているということを自分でも実感しています」
藤本
「ほう! 川端君、それは初耳だね」
川端五郎
「人は成長するためには学ぶことは大事ですが、学ぶだけでは成長しません」
内山
前回は成長するためには学ぶことが重要とか話し合いましたが」
川端五郎
「学んだことを自分のものにするためには、教えることが必要です」
藤本
「なるほど、教えることか」
川端五郎
「私は今まで山田さんや五反田さんにいろいろと教えてもらいました。例えばISOの考え方とか、それをいかに会社に生かしていくかということです。
しかしまだ頭で理解しただけで自分の物になっていなかったということを実感しました。今、長野鷽で久山さんや中井さんを指導しているのですが、そのとき五反田さんや山田さんが私に説明してくれたことの意味を理解できたと気付くことが多々あります」
山田
「川端さん、おっしゃる意味はよく分ります。私も人に指導して気が付いたこと、指導することによって学んだことは多いです。それは自分が実行することとはまた違う意味合いがありますね」
川端五郎
「ということで私は今成長していると思うのですが、まだまだ未熟で今日も教えを乞いに上がった次第です」
山田
「どんなことでしょうか?」
川端五郎
「今まで数回長野にお邪魔して、ISOの規格の中身について多少議論はありましたが、久山さんも納得してくれました。
例えば、環境側面の把握とか決定というのは、単なる手法にすぎません。だから点数でない方法もあるということは簡単に理解したのですよ。
しかし規格に対応する会社の仕事とは何かと考えることとか、規格を実際の仕事に展開するというか、規格を会社に合わせて解釈するというか読みかえるというか、そういう発想がなかなかできないのです。
例えば環境目的とは事業そのものだという発想が浮かんでこないのです。どうしてもISOのための目的をこしらえて、それを達成しようという発想が消えません。
今日は山田さんにどのように理解させたらいいのかとお聞きしたいと思いまして・・」
山田
「それはISO規格の理解というよりも、会社の仕組みを知っているか、実務を知っているかということに帰結するように思います。会社の仕組みや動き、メカニズムというのでしょうか、そういうことを理解していなければどうにもならないのではないのかなあ?」

横山がお盆にコーヒーを人数分載せて現れた。
横山
「藤本さん、川端さん、お久しぶりです。ビジネスの方はどうですか?
山田さんて冷たいんですよ。私も仲間に入れてくれればいいのに」
山田
「いやいや、そんなことはないですよ。前回お二人がお見えになったとき内山さんも参加したので今回も入ってもらったけど、横山さんは出張も多く忙しいと思って気を使ったのよ」
横山はそのままみんなの中に座ってしまった。
藤本川端五郎
横山160×130 160×130 160×130山田
160×130160×130

川端五郎
「会社の仕組みって一言でいうとなんでしょうかねえ?」
横山
「簡単です。それは会社規則です」
川端と内山は期せずして同時にえっという。
横山
「会社って人事や経理、それからもちろん物を買い、それを加工して売るまでいろいろな仕事がありますが、まともな会社ならその手順や基準を会社規則に決めています。会社規則イコール会社の仕組みです。
だから会社で仕事をするには会社規則を一通り読んで頭に入れておくことが必要です」
川端五郎
「うーん、そういうことになるのか、私も元いた会社の会社規則などあまり読んだことはなかったなあ」
横山
「もし会社規則を理解していないなら、失礼ですが、それでは目をつぶって歩いているようなものですよ。なによりも会社のルールを知らないと、日常の仕事をどう処理するべきか悩むことはないのでしょうか?
金額決裁者
〜10万円横山
〜100万円山田
100万円〜廣井
いや今のは言い方が悪いですね。会社のルールを知らなければ、日常業務をできるはずがありません。
私の仕事を考えてみましょう。いろいろな物を購入したり社外に委託したりしますよね。ノートなど文房具程度の金額のものは、納品書と請求書を出してもらって処理します。つまり実質的に購入する裁量は私にあります。社内広報などの印刷物などで50万程度でしたら、購入する前に課長つまり山田さんの決裁が必要です。環境保護部のウェブサイト作成維持などを社外に委託しているのですが、これは百万以上になりますので廣井部長決裁です。そんなことを知らないと仕事ができません」
内山
「そういうのは規則に決めてあるのですか?」
横山
「もちろんですよ。工場だって業者の選定は金額や重要性によって課長とか部長って決まっています。契約書は原則事業所長ですが、内容次第で部長に委任することが可能です」
内山
「うえー、ボクはそういうことを知りませんでした。前任者がしていたのを真似して廃棄物業者の契約は工場長、細かい工事の契約は部長に決裁してもらっていたのですが・・」
川端五郎
「いや、私もそういう決まりがあるとは知りませんでした。もちろん金額や重要性によって決裁や契約者が違うだろうとは想像していましたが・・」
横山
「物を買うとか契約だけではありません。人事異動でも教育訓練でも基本的なことはすべて会社規則にあります。例えば現場作業者が何をもとに仕事をするのかということもありますよね。
そういったことを知らないとISO規格要求と会社のルールの関連付けが難しいのではないでしょうか?
ISO規格に文書類とか文書管理という項目がありますが、私は初めてISO規格を読んだとき、これはどの会社規則が該当するのかということがピンときました」
川端五郎
「いやお恥ずかしいです。私の場合は、ISO規格対応の文書を作って認証していましたから、それ以前のレベルでした」
内山
「なるほど、ISO規格を読んでどの会社規則が該当するのかとか、どのように社内展開するのかと考えるようではまだまだ会社員として一人前ではないということですね、
川端五郎
「横山さんのようにISO規格を読んだだけで、それに関係する会社規則が思い浮かばないとならないというわけだ」
山田
「まあ、横山さんは別格ですよ。歩く会社規則集のような人ですからね。
私は会社規則をそらんじてはいませんでしたが、会社が長いのでどのような仕組みになっているかは理解していました。だからISO規格を読んでどうしようかと悩むことはなかったですね。どの会社規則にあるかはわかりませんでしたが、ISO規格に対応することとしてどんなことをしているかはすぐに思い浮かびましたから」
川端五郎
「わかりました、わかりました。
会社のシステムを知る簡単な方法は会社規則を読むこと。いずれにしても会社の仕組みを知らなければISOとのつながりは理解できないということですね。
すると目の前の問題として、久山さんにはどのような指導をすべきでしょうか?」
藤本
「それは川端君が考えることなんだろうけど、そう悠長なことも言っていられない。
久山さんに会社規則集を読めというべきなんだろうか?」
山田
「急に会社規則を読めといっても、どうでしょうかねえ〜
久山さんがどのような経歴をお持ちなのかわかりませんが、彼の業務経験で関わった会社規則とISO規格の関連を説明することから始めたらどうでしょうか。
彼が理解できる会社の仕事とISO規格の関連性を説明して理解してもらう。そしたら彼が他の仕事との関わりを自分で考えるかあるいは同僚に聞くなどして広げて行ってもらうしかないでしょう。
まさか川端さんが長野鷽の会社規則を読んで、ISO規格と会社規則の対照表を作るのもおかしな話ですよね」
川端五郎
「なるほど、久山さんがどんなお仕事をしてきたのかお聞きして、それとISO規格の関係を説明して理解してもらい、展開してもらうということですね。
藤本事業部長のおっしゃるとおり一から十まで山田さんにおんぶに抱っこでは笑われますね」
山田
「認証のためのISOならバーチャルでもなんでもありでしょうけど、会社の実態を見せようとすれば、会社の仕組みを知らなければどうにもなりませんからね。
しかし久山さんもいい年のようだけど、自分が勤めている会社のルールを知らないのだろうか」
川端五郎
「私の場合もそうかもしれませんが、会社の仕組みを知らず、仕事のエキスパートでない人がISO担当に任命されるように思いますよ」
山田
「会社の実務を知らないとバーチャルISOになりやすいでしょうね〜」
スナック菓子
横山は一旦席を外すとすぐにまた表れた。そしてテーブルの上にスナックをどさっと置いた。
藤本
「なんだこりゃ」
横山
「口がさびしいでしょう。ポテトチップとか柿ピーとかいろいろありますよ」
山田
「オイオイ、飲み会とかピクニックじゃないんだから」
と言いながら山田はポッキーをつまんだ。
藤本はコーヒーカップを持って給茶機にコーヒーを注ぎに行く。
川端五郎
「もうひとつの問題ですが、EMSといってもシステムだけでは意味がありません。そのシステムが動いて、環境管理というのか法律を守り費用を安くしなければ存在価値がありません。となると管理技術だけではなく固有技術というと大げさかもしれませんが、とにかく何事かを行うための知識とかノウハウとか技能が必要になります。
前置きが長くなりましたが、長野鷽の会社でも省エネを目標に掲げていて前年度比3%減とあるのですが、その実施計画の施策といえば不要なところの消灯徹底とか、空調温度の厳守なんてのばかりなんです。
どういうことをすればどれだけ下がるというか、論理性がないのです。だって消灯ルールの厳守では一定を維持するだけで改善ができるはずがありません。
いろいろと話し合ったのですが、目標達成の手段と規格にあるのは理解しても、どのようにすればよいのかという技術的というほどでもないのですが、省エネのノウハウも知識も何もないというのが問題です」
藤本
「うーん、そりゃ確かに問題だわな」
川端五郎
「指導の進め方ですが、どうしたものでしょうかねえ?」
山田
「省エネを推進するというなら、藤本さんのところでそういうコンサルをするというのもありでしょうね。
ただ川端さんの質問がそこまでの意味ではなく、久山さんに考えさせるとか、やる気を持たせるにはどうするかということなのか。
その程度であるなら、簡単なアイデア集のパンフレットのようなものを作って、例えばオフィス省エネとかオフィス廃棄物削減のような、そういう情報提供をしてそこから先は先方に考えてもらうというのもありでしょうね。
どちらにしても従業員100人程度のオフィスの省エネとか廃棄物でしたら、投資までして改善を進める意味はないでしょう」
藤本
「確かに改善を精神論だけで進めているところは多いね。節約の心で毎年紙や電気が減るなら世話はない。精神論ではすぐに限界が来るし、無理に進めればどこかにひずみが起きてしまう。そうじゃなくて方法を変えるとか設備を替えるなどして、因果のはっきりした改善をしないといけないね。
五反田の経験や私がここにいたときの指導したものなどを集約してオフィスの環境活動テーマをまとめて情報提供することをしよう」
川端五郎
「とりあえずの長野鷽の会社に対してはどのように指導したものでしょうね?」
藤本
「川端君、それについては我々で考えようじゃないか。そこまで山田さんにおんぶに抱っこではまずいだろう」
川端五郎
「わかりました。
実は、悩みごとというか相談事はまだあるのです」
藤本
「おいおい、そんなに心配事があるのか」
川端五郎
「心配事というよりも困りごとでしょうか。先方の小林専務が何を望んでいるのかということです」
山田
「彼はISOのための無駄排除ということが望みだったのでしょう?」
川端五郎
「そうなんですが・・・
入札のために認証が必要だ、そのためのコストを安く抑えるということだけが目的なのでしょうか。それならあまり久山さんたちに負担をかけずにバーチャル一直線でいくのが正しい選択のようにも思えます。
あるいは小林専務はISOを使って会社の改革まではともかく、透明性とか士気向上なんて考えているのだろうかと」
藤本
「うーん、小林さんが何を考えているかは小林さんでないとわからないが・・・」
川端五郎
「どうも今までの打ち合わせてきた状況から推察すると、小林専務もISO審査の時は関心があるけどそうでないときは全く無関心らしいのです」
山田
「ISO認証は外に対して会社の仕組みが一定レベルにあると認めてもらうことにすぎません。また環境目的とか継続的改善といってもISOのためとか義務でするわけでもないでしょう。日々仕事をする中でそういうことをしているのが当たり前の企業ですし・・
ISO認証に対する小林さんの考えは小林さんでないとわかりませんが、想定されるものはみっつあるでしょうね。
ひとつは入札のための看板だけ必要で、維持のための負担を最小限にするという考え、
ひとつは元々会社がそのレベルにあるのだから、審査での説明を適切にすれば会社は何もしなくても良いという考え
もうひとつは、ISOそのものにそんな能力はないと思いますが、ISOというキャッチフレーズを使って会社の改革などを推進しようとしているかでしょうね。
まあそれは小林さんにお聞きするしかないでしょう」
川端五郎
「わかりました。次回、機会を作って小林専務に真意を伺いましょう。
ところで私がコンサルだとしたら、どういう考えがよろしいのでしょうか?」
藤本
「オイオイ、私がコンサルだとしたらなんて他人事のようなことを言わんでくれよ、君はれっきとしたコンサルなんだからね。
私たちは山田さんの立場ではない。山田さんは鷽グループの環境管理の司令塔としてどうあるべきかというウィルをもって指導にあたるのは当然だ。
しかし我々はコンサルビジネスをしている。だからこういう指導があるべきだというのではなく、依頼者が望むことを実現することが仕事だよ」
川端五郎
「するとバーチャルな本来業務と乖離したEMSで認証したいという企業があればそれを実現するのですか?」
藤本
「もちろんそれを目指すのが正しいとは思わない。しかし依頼者が望むならそれを実現すべきだろうね。
間違えては困るが、手間ひまや費用を考慮して、最善のアプローチを提案することが請負者の義務だ。そしてそう考えれば、バーチャルなものが最善というケースはないのではないかと思うが」
山田
「私は遵法と汚染の予防に有効なEMSであることを望みます。しかしISO認証と遵法と汚染の予防は一対一の関係ではないようです。ですから依頼者がISO認証を目的だというなら、その目的を達成する費用ミニマムの方法を提案するのがコンサルの誠意だと思います」
藤本
「もちろん遵法と汚染の予防を実現するISO認証を実現することが理想だが」
横山
「でも変ですねえ〜
ISO認証と遵法と汚染の予防は一対一の関係ではないというのは」
山田
「確かにISOの目的から考えるとそれはおかしいというか矛盾だ。しかし過去何万件という事例がそれを実証しているように思いますね」
藤本
「我々のビジネスとしてはISO認証よりも、遵法と汚染の予防を優先する提案をすべきだろうね。それもおかしな話だが」
山田
「ところで川端さん、将棋でも囲碁でも同時に二人を相手にすれば一人には必ず勝てるというのをご存じですか?」
川端五郎
「一休さんのとんち問答のようですね。
ええっと、私がAさんとBさんの二人と将棋をさしたとして、Aさんの手をBさんにBさんの手をAさんにさせば、Aさんに私が負ければBさんには私が勝つことになりますよね。Aさんに私が勝てばBさんが私に勝つはずです」
山田
「その通り。で、次回から私と川端さん、川端さんと久山さんの将棋ではなく、川端さんが自分で考えて久山さんと将棋をささなければなりませんよ」
川端五郎
「わかりました。お手数をかけないようにがんばります」

うそ800 本日の蛇足
囲碁でも将棋でも強い人になると二面打ちといって二人を同時に相手したり、更には三面打ち四面打ちなんてする人もいる。プロは100人くらい相手にすることもある。私は相手が級位者でもそのようなことはできない。勝ち負けではなく相手に100%力を注がなければ失礼だと思う。




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