ケーススタディ 病院に行く その2

13.06.27
ISOケーススタディシリーズとは

前回のあらすじ
鷽八百機械工業の太田という課長が、地方都市の病院の事務長に出向した。その病院はISO14001を認証していて、太田はEMSの管理責任者に任ぜられた。太田は今までISOに関わったことがなく、勉強しているものの、いや勉強すればするほどその病院のEMSがISO規格と乖離していること、そして無駄なことばかりしているように思える。それで今後どうしたものかと悩むばかりだった。太田が悩んでいることを知った人事部は、環境保護部の山田に太田の支援を依頼した。

6月のある午後、山田は再び太田の勤める病院を訪れた。梅雨の合間の素晴らしく晴れた日であった。
太田が出迎え、小さな会議室というか質素な応接室というべきか、そんな部屋に案内した。
太田
「山田さん、お世話になります。ここのコンサルをしている黒部さんが、あと30分位でお見えになります。それまで今日のお話の方向を打ち合わせておきたいと思います」
山田
「黒部さんには私のことをどう説明しているのでしょうか?」
太田
「私の派遣元の会社のISO担当が、病院のISOを知りたいと言ってきた。私は専門家ではないので、黒部先生にお話をお願いしたいと言っております。そのまんまでしょう」
湯川は太田がノイローゼになると心配していたが、けっこう度胸が据わっておりそんなことはなさそうだ。 湯川が山田を引きずり込むために大げさに言ったのか?
山田
「そうですね、じゃあ話の進め方としては、黒部さんに今までのいきさつと、これからどうしていくつもりなのかを説明してもらうということでいきましょう。今日は一回目ですから、あまり具体的な問題とか改善の話まではいかないほうが良いでしょうねえ。
ところでですが、仮に黒部先生を放り出して太田さんがISO対応をするというのは、病院関係者はどう思いますかね? それと太田さん個人としてはどうでしょうか?」
太田
「病院関係者といってもほとんどの医師、看護師はISOに無関心ですから関係ありませんね。問題はコンサルを依頼した企業長だけですが、企業長がどういう考えなのか私はわかりません。
私個人としては今よりも負荷が増えても構いません。どっちみち今しているのは記録をねつ造しているだけですから。ただ今のように無意味な仕事ではファイトがわきませんね」
山田
「わかりました。まあ、黒部さんのお考えをそれとなく聞いてから、今後の方向を考えましょう。それと黒部さんのキャラクターもありますしね」
そう山田が言うと、太田は笑った。
太田
「黒部さんのキャラクターですか・・・、面白い方ですよ。子供が大きくなったというか、天真爛漫というか、表裏のない方です。山田さんもきっと好きになりますよ」
太田のPHSが鳴った。太田が短い話をしてすぐに切った。
太田
「黒部先生がお見えになったそうです。今こちらに向かっているそうです。じゃあ、そういうことで、
それから5時過ぎから、三人でちょっと懇親会をしたいと思います。今後、いろいろとあると思いますし」
黒部山田は帰宅が真夜中になるのかと若干いやな気分ではあったが、にっこり承知したと応えた。
数分もしないうちにノックの音がしてドアが開いた。
中肉中是で体も顔も丸いという感じの男が立っていた。
太田が出迎えた。山田は自席で立ち上がった。
太田
「おお、黒部先生、お待ちしておりました。どうぞ中へ
こちらが私の元の勤め先のISO担当の山田部長です。山田さん、こちらが病院のISOコンサルタントの黒部先生です」
黒部と山田は名刺交換したのち座った。
黒部
「山田部長さんはISO担当とおっしゃると、どんなことをされているのでしょうか?」
山田
「ISO担当と言いましても、部下の女性がすべて仕切っていますので、はっきり言って私は何もしていません」
黒部
「ほう、ISO事務局は女性の方ですか、1名専属ですか?」
山田
「いやいや、とんでもない・・・」
山田は左右に手を振った。
黒部
「とんでもないとおっしゃると、数名いらっしゃるのでしょうか?」
山田
「そうじゃなくて逆です。私の認証している規模は・・・3,000人くらいいますが、専任者なんていません。部下の女性も本業は別にありますし、ISO関係の仕事と言えば、審査の日程を決めること、会議室を予約すること、社長と環境担当役員のスケジュールの確保、その他、昼飯の手配と審査費用の支払いくらいですかね。とても一人専任するほどの仕事はありません」
黒部
「はあ!!、ISOのお仕事ってありますでしょう。例えば文書を作成したり、その発行や管理をしたり・・」
山田
「文書ですか? 私の勤め先にはISOのために作成した文書はありません。以前からある会社規則だけです。会社規則は、元々総務部が管理していますから我々とは関係ありません」
黒部
「そうなんですか? でも文書を作るお仕事があるでしょう。まず環境側面評価とかしますよね?」
山田
「環境側面評価ですか? してませんねえ〜、私どもは以前から管理していたものを環境側面と呼ぶということにしています」
黒部
「ええ! そんなことでは審査で不適合になるでしょう」
山田
「いや不適合にはなっていません。その他のお仕事としては何があるのでしょうか?」
黒部は環境側面評価が気になっているようだが、山田の問いに応えた。
黒部
「例えば環境目的目標の推進がありますよね、」
山田
「改善活動なら、そのテーマごとに担当部署があるでしょう。ビル省エネでしたら総務部ですし、化学物質管理システムの開発運営なら情報システム部ですし・・」
黒部
「でもその進捗フォローがあるじゃないですか? それにその進捗をとりまとめ報告することもありますよね?」
山田
「会社の仕事はそれぞれの担当職制の責任です。先ほどの省エネでしたら改善をするのも是正をするのも報告するのも担当している総務部です。私どもが脇から口出しすることはありません。それに進捗や成果はそれぞれの職制から社長に報告しますから、我々がとりまとめることもありません」
黒部
「はあ〜、そうなんですか・・・でも、内部監査がありますよね」
山田
「内部監査は確かにしています。とはいえISO認証する前から内部監査をしていたわけで、ISOのためというわけではありません」
黒部
「そのほかに環境教育がありますよね。そのテキストを作ったり、実際に教育したり、記録を作ったりする仕事があると思います。特に審査の前には社長さんはじめ関係者への教育が不可欠と思いますが・・」
山田
「うーん、環境教育というのはしていないのです。もちろん環境に限らず法律の教育とか安全衛生の教育はしていますが。それはISOとは関係ないことですし・・・審査前にもなにもしないのですよ」
黒部
「いやはや、山田部長さんのお話をお聞きすると、何もしないでISO審査に合格するように思えますが・・・でも現実には環境影響評価表とか目的目標をとりまとめるとかしないと、審査で不適合をザクザク出されます。私はコンサルを承ったところでは絶対に不適合を出されないようにしようとしています」
山田
「そのお気持ちはわかります。私の場合はコンサルじゃなくて、自分の勤めている会社ですから、不適合が出されれば反論できます。しかしコンサルさんの場合は、審査に同席するのも難しいですし、口をはさむことは普通できないでしょうからね」
黒部
「そうです、そうです。そしてコンサルの場合は、不適合を出されると仕事を失ってしまうことになりがちですし・・」
山田は黒部の気持ちもよく分った。
山田
「黒部先生、それはよくわかります。黒部先生が私の話をお聞きになられて、黒部先生が今まで関わってきたEMSと違うことに驚いたかもしれません。私もこの病院のEMSがどういう仕組みになっているのかよく分らないので、その辺をお話しいただけますか。非常に勉強になると思いますので」
黒部
「先生なんて言わないでくださいよ。実を言いまして、私は定年まで川崎にある重工業の品質管理部門で働いていました。2年前になりますか、定年を機会に故郷のこの町に引っ越してきたのです。戻ってきて小中学校一緒だった連中にあいさつ回りしていたら、その一人がこの病院の企業長というんですか、トップになっていたのです。そいつが病院もISO14001を認証するのが多いので、ここでも認証したいというのです。私が現職の時、ISO9001なんてのに関わっていましたので、それじゃコンサルをしようかということになりました」
山田
「ほう、そんなお話が向こうから来るなんて運が良いですね」
黒部
高橋
高橋審査員
「ハハハハ、私はISO14001なんて知りませんので、元の職場にいた男で、早期退職してISO認証機関に転職して審査員をしている高橋って男に声をかけたんですよ。そしたら、そいつは喜んでやってきましてね、認証までの指導をするから絶対にそいつが勤めている認証機関にしろというのです。申しましたように、私もISO14001については右も左もわからないありさまで、渡りに船とお願いした次第です。するとそいつは環境方針から、環境側面評価の算式、表の様式、内部監査のチェックリストまでもってきましてね、もちろん電子データです。それの固有名詞を一括変換すればいいというのですわ。
私も言われた通りにしましてね、審査を受けてパスしたというわけです」
太田
「そんなことなら高橋さんが直接コンサルをすればよかったのにと思いますが」
黒部
「審査員がコンサルした企業を、その認証機関が審査してはいけないとかいう規則があるそうなんですよ。それで間接的にコンサルしたというわけでしょう。高橋としては受注1件としてバックマージンを取ったと思いますよ」
太田
「ほう・・・・そういう世界なのですか」
山田
「ともかくその結果、問題なく素早く認証できて、企業長も黒部先生もその審査員・・高橋さんでしたっけ・・・も三方一両損じゃなくて三方良しでハッピーだったと・・」

CSとかサスティナビリティを習うと、必ず「三方よし」の話が出てくる。正直なことを言ってそんなの関係ないと思うのは私だけだろうか?
黒部
「そう言われると、まあ・・・そんなところですかね。しかし問題がありましてね・・」
山田
「問題とおっしゃいますと?」
黒部
「まず文書記録が多すぎます。毎年、新年度には環境側面調査をしなければなりませんし、その評価を見直しします。もっとも結果が変わるわけはありません。だって規模が大きくなるわけもなく、空調や廃棄物が大幅に変わることもないのですから。でも毎年それをしないと不適合になってしまうのです。その仕事量は、ハンパじゃありません。ものすごいんですよ。
具体的に言えば、電力や廃棄物の量はもちろんですが、使用している紙おむつ、毎年購入する食器類、食材、大根の本数まで把握しなければなりません。その他、注射針、駐車場の除草剤、懐中電灯の乾電池、PHSの電池、ナースの履物、お掃除道具、一体いくつあるのかと数えたことがありますが、2,000品目以上ありました。
太田事務長さんの前任者は年配の方でパソコンが不得手でして、そのような多くの文書記録を作成することはできませんとおっしゃいまして、認証してから2年間、私が全部作成や改定をしてきました」
太田
「私が着任してからは黒部先生の指導で文書記録は私が作成していますが、はっきりいって大変な仕事量ですね。ワープロするだけならともかく、コピーして配布する際にも受領書をもらったり、古いものがまぎれたりしないように回収するのですが、そりゃ大量にあるのですから漏れたり紛失したりしたものがありまして、その処理も紛失届とか是正処理とか波及的にとんでもない仕事量、記録の作成になっていくのです。そして文書や記録の置き場所も大変です。事務局だけでなく、各診療科や守衛所、用務員室など、それぞれにパイプファイルをロッカーの半分くらい配置しているのです。
黒部先生、あれはなんとかなりませんかね?」
黒部
「太田事務長さん、おっしゃることはよく分ります。現状では高橋のいうとおりしておりまして、審査では問題がないわけですが、それをどこまで省略して問題がないのか私も正直なところ分らないのですわ」
山田
「この病院がISO14001を認証することは必要なのでしょうか?」
太田
「さあ、私も分りませんねえ〜、黒部先生はそのあたりをご存じでしょうか?」
黒部
「私もわかりません。私には認証することというところかは始まっていますから。但し、市議会の決議まではいらないですが、この病院のISO認証は市議会に報告している事項ですから、企業長の一存で認証を止めることはできませんね」
山田
「わかりました。すると認証することは必要条件というわけですね」
黒部
「あのう・・・・山田部長さんの話しぶりからすると、この病院のEMSの見直しを考えてらっしゃるように思えますが?」
山田
「いえいえ、太田事務長さんがISOの業務が煩雑で非常に難しいとおっしゃってますので、少しでも改善できないかと思っただけですよ」
黒部
「先ほども申しましたが、私も現状は高橋に言われるままに行ったもので、この病院にあっていないのではないかという気がします。ただ私はコンサルを請け負っている会社だけでなく、この近辺の認証企業に遊びに行くことが多いのですが、どこも文書記録ではヒーヒー言ってますね。それがあるべき姿とはとても思えません」
山田は黒部という男はいい人のようだと感じた。もう少し話をして説得すれば改善活動を請け負ってくれるだろうと思う。
山田
「ISO認証取得によって従来の仕事がたいへんになるということは、認証取得のために文書・記録を新たに作るからです。でもそれが必要とか実務の役に立ってはいないはずです。本当に必要ならISO認証する前からあったはずですから。ISOのために作った文書や記録を、必要か否かを吟味して、不要であれば廃止したらどうでしょう」
黒部
「山田部長さん、あなたはずいぶんISOにお詳しいようですねえ〜、ぜひともこの病院の文書記録の見直しについて教えていただけないですか。正直言いまして私はこの病院のEMSについて責任を感じておりまして、何とかしようと思ってはいるのですが、素人の悲しさ、アイデアがありません」
山田
「黒部先生、あなたこそコンサルを生業なりわいにしているのですから、そんな弱気じゃいけませんよ。袖触れ合うも多生の縁といいますから、できることは協力しましょう」
太田
「おお、ちょうど5時ですね。黒部先生、山田部長、ちょっと私の方で一席用意しておりますので、一杯やりながらその辺についてざっくばらんに話をしませんか」
黒部
「それはありがとうございます。山田部長さん、ぜひともお話をお聞かせ願いたいですね」


病院から歩いて数分のところにある居酒屋である。
車社会を反映して、居酒屋の建物の後ろには広い駐車場がある。帰るときは運転代行になる。
山田は帰るときに備えて、お店の人にバス停と最終バスの時間を調べてもらった。最寄駅まで行く最終バスは21時半発、それにつながるJRを調べると千葉駅着は零時40分過ぎになる。
いや、それは最悪だからせめてその1時間前には出ようと心の中で思う。


黒部 生ビール サラダ 生ビール 山田


刺身 生ビール 太田

太田
「今日はお二人のお話を伺いまして大変勉強になりました。皆さんのレベルには到達できないでしょうけど、なんとかISO規格の意図を理解したいと思います」
黒部
「いえいえ、山田部長さんのお話をお聞きしますと、さすが専門家と感じ入りました。山田さんは審査員の資格をお持ちですか?」
コンサルや企業担当者には、ISO審査員の資格を持っているのかと聞く人は非常に多い。正確には審査員の資格というよりも、審査員登録しているかということである。
だが実際は審査員登録していようといまいと、審査の力量とは関係ないように思う。
それどころか審査員研修機関で講師をしている人の力量があるのかどうかも怪しいものだ。
外資系認証機関は、JAB認定であってもJRCAやCEARに審査員登録などしていないところもあるし、登録していても主任とか審査員でなく、審査員補の人を、その認証機関では主任審査員としているところもある。もちろんその力量は認証機関が保証することになる。
私は過去20年の経験から、審査員登録機関に登録していることと、その人の力量はまったく関係ないと断言する。
黒部
「山田さん、ぜひとも教えてほしいことがあります。
私も審査員研修を受けたのですがね、講義の中で、有益な側面を漏らさないようにというのですよ。そのときは右も左も分らなかったので、そういうものだと丸暗記しましたが、ISO規格には書いてありません。あれはどこに決まっているのでしょうか?」
山田
「ISO規格にはありませんし、そういうものを決めたものはないと思います」
黒部
「ないことを教えているということは、その研修機関の講師が間違えているということですか?」
山田
「間違えているというよりも、そもそもISO規格を理解していないのでしょうねえ」
太田
「山田さん、露骨な質問ですが山田さんは有益な側面がないとおっしゃいますが、その根拠はなんでしょうか? それは間違いないのですか?」
山田
「おっしゃるとおり、それは正当な質問です。とはいえ、ないことを証明することはできません。悪魔の証明ですからね
ただ審査はISO14001、ISO17021、IAF基準、JAB基準、認証機関が追加した基準というふうに積み重なったものが要求事項となり行われます。今申し上げた中には『有益な側面』というものはありません。
ちなみに『有益な側面』を英語で何というかご存じでしょうか?」
黒部
「うーん、ユースフルとかプロフィタブルアスペクトとかいうのでしょうか?」
太田
「同じか違うかわかりませんが、プラスの側面という言葉を聞いたことがあります。それから推察するとプラスアスペクトとかポジティブアスペクトというのですかね?」
山田
「残念でした。そんな英語はないというのが答です」
黒部
太田 「英語がないとは?」
山田
「日本特有の概念だからでしょうねえ、ISO規格を正しく理解すると、そのようなものを考えることがあり得ないからだと思います」
黒部は黙ってしまった。しばしの間、三人はそれぞれ酒を飲み、食べた。
黒部
「山田さんのお話をお聞きするほどに、ものすごい方だと分ります。ぜひとも教えてほしいことがたくさんあります。
前から気になっているのですが、経営に寄与する審査とはなんですか?」
山田
「経営に寄与する審査も流行語でしたね。そもそも経営ってなんでしょうか?」
太田
「会社の方向を決めたり、それを実施させることでしょうか」
山田
「もちろん、そういう意味もあるでしょう。しかし通常、経営と言ったとき、そういった経営陣が担っていることを意味することもありますし、社員の活動全体を意味することもあります。」

経営って何だ?
経営とは

山田
「経営というのはいろいろな意味がありますが、一つは経営層って言われるように事業の方向を決めて命令するという機能でしょう。ここでそれを@とします。社長とか役員は間違いなくここに含まれまる。
もうひとつ経営とは事業を営むことそのものを意味することもあり、そうすると企業活動全部を意味します。ここではAとしておきましょう。
経営に寄与するという意味が、経営層が決定したことを実行させるときのツールと考えるとBとかCということもあります。あるいはもっとほかにも考えられるかもしれません。
さて経営に寄与するというなら、ISO審査が今述べたどの意味の経営に、どのように貢献するのかを明確にしてもらわないとなりません」
黒部
「なるほどなあ〜、ISO審査員が語る経営に寄与するとはどれを意味するのでしょうか?」
山田
「正直言って、高いレベルのことではないようです。雑誌などに書いてあるのをみると、、ロス(不良、機会損失、棚卸ロスなど)及び経費の削減、経営サイクルのスピードアップ及び工程短縮と効率アップなどが例示してあるのがほとんどです」
黒部
「そうしますと経営に寄与するとは、@の経営層の経営ではなく、B管理レベルあるいはC担当レベルの活動という意味なのですか?」
山田
「いやいや、私はわかりません。ただ経営に寄与すると語っている人が例に挙げているのは、そんなものばかりということです。
決して損益を良くするとか、企業価値を高めるとか、株の時価総額をどうこうとか、企業風土を刷新するなんてのはありませんね。
アハハハ、そしてそんなことはISO規格とは無縁でしょう」
黒部
「話しは変わります。教えてほしいことがたくさんあるのです。
文書記録ってどこまで必要なのでしょうか?」
山田
「規格に書いてあるものというのがISOでは正解なのでしょうけど、実務からいえば仕事で必要なものということでしょうね。
不要な文書記録を作ることは背任でしょう」
太田も黒部も、背任と聞いてびっくりした。
太田
「山田さん、背任とはおおげさじゃないですか?」
山田
「そんなことありませんよ。従業員は就業時間内は、会社規則と上長命令に従い、全身全霊を担当職務に捧げることが求められています。国家公務員法、地方公務員法も同じです。
もし仮に上長命令が法規制、会社の定款、社内規則に反する場合は、それを拒否しコンプライアンス担当役員に報告する義務があります。人事屋の太田さんがその点に関して妥協してはいけませんよ。
それこそ会社に貢献しないISOであるならば、それを拒否しなければ就業規則違反であると私は思います」
しばしの間、黒田、太田は黙ってしまった。 やがて・・・
黒部
「山田部長さん、非常に勉強になるお言葉ありがとうございます。この病院のEMSを作ったのは私ですから、私はこの病院のEMSを見直し改善したいと思います。それには太田事務局長さんのご同意が必要ですが、その前に山田部長さんに真のISOを教えていただきたいと思います。今後定期的にご訪問いただきご教示いただけないでしょうか?」
太田
「山田さん、私からもぜひともお願いします」
山田
「それこそおおげさじゃないですか。いいですとも。来週以降、10日に一度くらいお邪魔するということでいかがでしょうか」

次回に続く

うそ800 本日の人名について
高橋というのは、2年ほど前、私が認証をお手伝いした会社にきた審査員の名前を借りた。
審査の前に面接のような感じで会社に来てもらった。そのとき有益な側面が必要とか、目的は3年後の目標だと言う。私だってけんかが好きなわけじゃない、はじめは下手したてに出て規格を説明しようとしたが、非常に生意気な野郎で、私のことを素人とみて話を聞こうとしない。私もそのときそうとう頭に来て、不適合にするにはしっかり根拠を書いてもらおうと言ったことを覚えている。
私は審査に行かなかったが、会社の人の話では、審査では有益な側面が必要とは語らなかったとのこと。認証機関に戻って私の名前を聞いて考えを変えたのか、それとも奴が規格解釈をISO-TC委員など専門家に問い合わせたのか、どうだったのだろうか?
それとも認証機関の上司が、審査でゴチャゴチャいうと客が逃げるから余計なことを言うなと指導したのかもしれない。
いずれにしても、私の名誉は守られた。
とはいえ、その会社からのお礼は・・・何もなかったなあ。
いや本来なら、その認証機関と高橋審査員からお礼が来ても良いのだが?
黒部ですか・・・一度訪問した会社の環境担当者のお名前を拝借しました。こちらは特段思い出はありません。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2013/6/26)
審査員もピンキリのようで、製品品質のバラツキがどうたらと宣う一方で自分たちの力量はどうなのかと。規格票を広げて「4.x.xにはホニャララと書いてありますが、これに相当する手順は何?」って、そんなアホなことを口にするなら、組織側で審査員を選別するしかないじゃありませんか。

ちなみに今日まで定期審査でしたが、ウチに来た審査員たちは、審査中一度たりとも規格票を広げませんでした。(忘れてきただけかも?)

ばらつき・・・・
ISO審査ほど標準化されていないということは、最強(最凶)の冗談のようですね、
いや我々にとっては冗談ではなく、悪夢以外の何物でもありません
金かえせー


N様からお便りを頂きました(2013.06.27)
ばらつき・・・・
ISO審査ほど標準化されていないということは、最強(最凶)の冗談のようですね、
いや我々にとっては冗談ではなく、悪夢以外の何物でもありません
金かえせー


悪夢でしょうね。
むだなISO活動を抹殺するような、NPOみたいなモノ作れないかなぁ。
ISOのフレーム自体は良いものだと思っているのですが・・・

N様 まいどありがとうございます。
ISOのフレーム自体は良いものだと思っているのですが・・・
N様がおっしゃる「ISOのフレーム」とは厳密に定義するとどうなりましょうか?
1987年の外部品質保証規格という意味なら、意味はあると思います。もっとも現状のISO9001規格はどうにもならないように劣化しているので使えるかどうかは疑問です。
企業の体質強化、経営強化のためとするなら、規格適合・不適合を判断するだけの現行システムではなく、改善の指導提案を行わなければ意味がないように思います。
とはいえ、経営品質賞のように、良い会社だと認定するだけであれば、日本経済、いやそんな大げさに言わずともその会社に与える効果は期待できないのではないでしょうか?

つまるところ、商取引の際の裏書なのか、指導なのか、プライズなのかという立ち位置をはっきりしなければ効果も意味を考えること自体無意味なような気がします。
そして偉大なるE塚教授によると、現在のISO認証は、商取引の際の参考情報であり、企業を良くするものらしいのですが、そんなものが存在しうるのかは不明です。


リス様からお便りを頂きました(2013/6/27)
同じ審査機関でも、審査員の言うことに統一性がなく、去年の審査員に指摘されたから、それに合わせて変更したのに、今年の審査員から、逆のことを言われるなんてことがざらにありました。
「よその審査する前に、自分の会社の審査をして、標準化してほしいとよく思いました。」

リス様 おっしゃることに同意
審査員に言われて文書改定していたら元に戻ったというお話はよく聞きます。実を言って私も経験者です。その認証機関の幹部に文句を言ったら、笑ってごまかしました。決して是正するとは言いませんでしたね。だから標準化できないというか、そんな力はないのでしょう。


O様からお便りを頂きました(2013.06.28)
2015年ISO規格改正について
何時も楽しく拝見しております。
山田課長の話が大変面白く拝見しており、小生日頃のISO事務局の運営に参考にさせて頂いております。
先生や先生にお便りを出されている方々から比べたら、小生などはISOごっこにも成らないくらいの活動しか出来ておりませんので、恥ずかしいくらいです、こんな小生も過去、内部監査や審査員の対応を3年間くらいして参っておりますが、未だに規格書を全部読んだ記憶がありませんし、尚のこと規格書を言語なんかでは全く見たことがないものです。
本分に成りますが、2015年9月に改訂されるで有ろうISO規格の件で質問させて頂きたいことが以下の様にあります。
こんな素人以下の小生ですが、お答えを頂ければ幸いです。
(1)次回改訂では、マニュアルの必要が無いとも聞きますが?
(2)管理責任者の設定も要求事項に無いと聞きますが?

上記2点について先生のご意見がお伺いできれば感謝です。

O様 お便りありがとうございます。
お褒めいただきましたこと素直に受け取らせていただきます。
それから私は先生ではありません。単なる市井のISO好きにすぎません。もっとも既に60代半ばですから、現役のO様からみれば年寄りで先きに生まれた先生かもしれません。

ご質問の件
実を言いまして、私は規格改定状況などあまり関心がありませんで今まで考えたこともありませんでした。調べますと 6月10日にドラフトが発行されていたそうです。6/28時点正式な日本語訳はなく、それどころか英語ドラフトも有料だそうです。とはいえご質問された以上は頑張らねばと調べますと、コメントをつけるためならドラフトを無料で眺められるとありましたので、早速ウェブでチェックしました。
英語力ゼロのおばQでして、かつ斜め読みですので確信はありませんが、マニュアル(manual)という語も、管理責任者(management representative)という語も見当たりませんでした。
とは言え、ISO9001でマニュアルが明文化されたのは1994年版でしたが、それ以前からも作成というか提出が求められていました。
管理責任者とは日本語訳がまずいのですが、原文では品質に関する経営の代表者を決めておけということです。今回のドラフトの「5.3 Organizational roles, responsibilities and authorities」に、関連する責任、権限を割り当てろと書いてあります。ですから要求内容としては現行と変わらないかと思います。日本語訳になるときは意訳的というか、JIS化する人たちが考えるように訳されると思いますので、管理責任者という語がなくなるかどうかは私はわかりません。
ここで言えるのは、現行ドラフト段階の英文にはそのものの言葉はないけれど、訳そうとすればマニュアルという言葉を盛り込むことも、管理責任者と言う日本語を盛り込むことも可能だと思います。

ということでお役にたてずすみませんでした。おかげで私もドラフトを眺める機会が持てました。
ただ、御社もO様も今から規格改定を調べたり対応を考えることはないように思います。当社の仕組みは世界最高だ。規格が改定になっても、当社の現状をピックアップしてそれを満足していることを説明できると考えてドッカと構えていたらどうでしょうか。

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