内部監査の基本、再び

2013.08.018
この文は先日私のブログに書いたものに、加除修正したものです。まあフルモデルチェンジに近いですから二番煎じなんておっしゃらず、ぜひお読みください。

「内部監査検定」終了というか業務を止めたと書いた。そういう事態に至った直接の原因は受験者の減少や損益の悪化などだろうが、真の原因はそれが実際の内部監査に役立つものではなかったからではないだろうか。
何事についての講習会であろうと、通信教育であろうと、書籍であろうと、そこで教えること、提示する思想がまっとうであり、具体的でありその通り行えば必ずうまくいくというものならば、必ずや世に認められて、存続するだろうと思う。残念ながら志半ばにして挫折したということは、そうではなかったということだ。

じゃあ内部監査についての、その他のビジネスはどうであろうか?
日科技連で「マネジメントシステム監査員検定」というのを行っている。私はもちろんそれを受験したことはないが、みるかぎり「内部監査員検定」の二番煎じのようだ。ではその首尾はどうかとみると、受験者と合格者の過去の実績データの詳細は公表していない。受験者にとってそれは重要な情報であり、それを非公開ということが許されるのかどうかわからないが、ウェブを見る限りない。ウェブには直近のデータだけを示している。ちなみに2013年8月3日に行われた「第6回マネジメントシステム監査員検定」の実績は、資格の種類がいくつかあるが受験者総数は590名、合格者総数は357名であった。過去の実績はまったくわからないが仮に第6回と同じとすると、受験者累計は3,500人くらいか。
「内部監査員検定」では受験者累計6,000人で飽和したようだから、こちらはまだ少し猶予があるのかもしれない。いや、既に需要の過半を「内部監査員検定」で食いつぶしてしまったとすれば、もう残りつまり残存顧客はあまりいないのかもしれない。あるいはその内容が優れていれば永遠に継続できるかもしれないが、先行きがどうなるのか私には見当もつかない。

実は、親しくはないが名前だけ知っている人がこの検定1級に合格した。その人の監査能力がどうかといえば・・私の目指す内部監査はできないようだ。
つまりいわゆる内部監査はできても、遵法とリスク予防のためには効果がないというのだろうか・・

それ以外はどうだろうか?
ISOの内部監査についての本はあまり最近出版されていないが、それでも丸善や八重洲など大きな本屋に行くと、たくさん見つかる。そして内部監査の時はこんなことをしろとか、こんな風に質問するのだとか、怪しげな、いや私から言わせると嘘八百が書いてある。
だって、どう考えても「スーパーISO」とか「宇宙エネルギー」なんて語っている本は信用できません。
おお、「うそ800」を書いている私に「嘘八百」と言われて怒った著者の方々、ご異議あれば討論しましょう、お誘いを楽しみにしております。

本の後とか章末に、内部監査のチェックリストなるものがついているのが多い。中にはほとんど全部がチェクリストという本もある。
、あなた、そんな本を買ってきて内部監査をしているのですか?
「それはすばらしい」なんて私が言うはずがありません。いけませんねえ〜、そんなことでは10年やってもろくな内部監査ができませんよ。
ああ、ISO審査前に内部監査をしたという記録を作っておくためのものですか、それならしょうがありませんね・・・なんて私がいうはずがない!
そのためなら、そんな無駄なことをするのではなく、うそ、いや想像力で内部監査をしたことにして記録を作りなさいよ。
自慢ではないが、私は二三日後にお客様が品質監査(二者監査)に来ると言われたので、残業で設計とか製造とか品質管理とか営業など関係部門の課長に集まってもらい、一晩で全部門の内部監査の記録を作ったことがあります。形式はどうあれ、したことは内部監査と同じですし、その中身だって実質がありねつ造じゃありません。もっともこれができるようになるには、やはり力量がなければ・・・
私は内部監査の力をつけるには、ISOのための内部監査の本ではなく、業務監査の本を読むべきだと思う。関心のある方は過去に書いた「監査に役立つ本」をお読みください。

さて、内部監査とは監査員が聞き取りをして、なんらかの監査基準に現実が適合しているか、否かの証拠を集め、それを依頼者に報告することです。といっちゃ簡単ですが、そういう基本をご理解されていない人が多いようです。
監査基準てなんですか?
多くの人は内部監査とは、ISO9001とかISO14001とか認証を受けているISO規格要求事項に適合しているか否かを見るためのものと思っているようです。そういうものは超初歩の段階でしょうし、はっきりいって初めて行う内部監査はともかく二回目以降はそれじゃいけません。
監査基準はISO規格ばかりじゃありません。遵法監査もあるし、会社のルールが監査基準というのがより一般的でしょう。

じゃあ、監査基準が決まれば、それをひとつずつ質問していけばよいのか? となりますと、それもそうじゃありません。
まず監査とは監査員が何をするかを決めるわけじゃないのです。
え、監査責任者が決めるのですって!
困るなあ、そんな世迷いごとを語っているようでは・・・
監査で何を聞取りするのかを決めるのは依頼者でしょう。依頼者って、普通は経営者ですよね。
経営者が自分の会社はどんな状況なのか、どんな問題があるのか、これからこういった方向に進めていくに当たって大丈夫なのか、を知りたくて行うのが内部監査でしょう?
決して、ISO審査の前に記録作りをするためではなく、仕事で使えない奴がいるから内部監査でもさせようかとか、ISO事務局が暇だから内部監査をさせるとか、そんなことのためにするのじゃありません。トップ経営者が、自社の強い点、弱い点、問題点を知るために命じるのが内部監査なのです。
正確に言えば、会計の内部監査とかは法的規制を受けるところもありますけど

ですから内部監査で何を調べるのかを決めるのは、監査を依頼する経営者です。だって依頼する人が何を調べるのかを決めなかったら、他人に依頼するはずがありませんよね?
内部監査責任者は、経営者の監査実施命令を受けて内部監査員に号令をかけるのです。
規格では内部監査責任者なんて存在はありませんが
もちろん内部監査員がまっとうな力量を持っている場合ですがね。残念ながら内部監査員がまっとうな力量を持っていないことは、多くの企業において普遍的なことだと思う。
おおっと、「当社の内部監査員はCEAR登録の主任審査員とか審査員もいるぞお〜」と言われても、私は前言をひるがえさない。私はいろいろ付き合いがあってそういう内部監査員がいる大企業のことも知っているが、そういうお方の力量は私から見ると100点満点で60点合格として、50点あるかないかというところだろう。
おっと、心配めされるな、ISO審査員として活躍(?)されている審査員のほとんどは、私から見て落第だ。私が20年間に会った審査員で、これはすごいと思った方は4名しかいない。そのうち一人は某外資系認証機関のトップ、ひとりは別の外資系認証機関の取締役だった。残りの2名の方もそれなりの方だった。
要するに優れた審査員も監査員も稀有な存在なのである。たかがCEAR登録の主任審査員程度では私の見る合格ラインにも届かない。
私はどうなのかと問われると、合格レベルかどうかは自分では言えないが、そのへんにいる主任審査員よりは上だろうと思う。少なくてもバカの一つ覚えのような監査はしないし、間違えた規格解釈をしているつもりはない。規格でわからないことがあればほっとかないでISO-TC委員に問い合わせるし、法規制で分らないことがあれば行政に問い合わせて明らかにしておく。IAF基準、JAB基準類は常に読んでいる。

とりあえず次に進む。
具体例で考えてみましょう。
基板実装をしている工場のISO9001審査に行くとすると、あなたは現場で何を見るのだろうか?
作業環境、インフラストラクチャー、教育訓練、識別、トレーサビリティなど現場に関わることは無数にある。
そういったことを考えて、何を調査するか決まったら、調査項目を羅列して順々に質問すればよいのか?
ちょっと、ちょっと、あなた小学生じゃないのでしょう。
といっても分らないだろうから具体例をあげる。

昔々、今から20年以上も前のことである。ISO9001の審査でエゲレス人がやってきた。彼は現場に行くと、四つん這いになって機械や作業台のアース線を地面にささっているアース棒につながっているところまでたどっていく。次に接地抵抗をどう図っているのかとか、作業者の靴とかリストストラップの状態などを詳しく見る。そしてその要領書、点検記録、教育記録などをたどっていく。もちろん日本語は読めないから何が書いてあるのかと聞く。そして静電気対策以外の他のことには目もくれずに現場審査を終わってしまった。
たぶんその審査員はその職場が基板実装を行っているから、基板実装に関するいくつかの重要管理項目を想定し、今回の審査ではその管理項目のひとつである静電気対策をとりあげて、4.9行程管理、4.5文書、4.16記録、4.10検査、4.8識別、4.13不適合品、4.15取扱い、4.18教育訓練といった項番を審査しているのだろうと推察した。
(項目と項番は1987年版による)

そのとき私はISO審査というものを初めて受けたので、そういう方法がセオリーなのかと思った。
最近はセオリーなんて言葉はあまり使わないようだ。セオリーとは理屈とか理論という意味で、私が中学のとき体育の先生が、コツとか要領ではなく、理屈はこうだという意味で良く使っていた。
イギリス人が審査に来たのは初めの二三度だけで、その後はその認証機関と提携している日本人が審査に来るようになった。面白いことに日本人の審査員の場合は、自分が決めた何かを切り口に現場や書類をみるという方法はあまりというか、見たことがない。
多くの場合、こちらが提示したQC工程図を見たり「お宅の重要管理項目はなんですか?」と質問して、企業側が管理している項目をみて、その中から調査項目を選んで「じゃあこれについてどのように管理しているか見せてください」となるのが普通だった。
そして現場でこまかい状況確認や作業者に質問する人はまずいなかった。審査員が服やズボンが汚れるのを気にせずにラインの下にもぐったり、作業者に細かいことを質問したりするのを見たことがない。
多くの審査員は作業者とかオフィスの人に、方針を知っているかという質問しかしないようだ。
上品なのか、遠慮深いのか、私には判断つきかねるが、真剣に仕事をしているようには見えなかったし、そのような監査では自信を持って報告できないのではないかと心配する。
これは皮肉だよ。

ISO14001になると、状況はマスマス悪化した。敵は著しい環境側面を決める方法については何時間もしつっこく質問するが、決定された項目についてその妥当性について疑義を呈されたことも議論したこともない。方法が正しければ結果が正しいとは限らないと思うが、審査員はそう考えないらしい。
誤解なきよう。著しい環境側面を決める方法がスコアリング法が正しい手法ということではない。あんなものはくだらないの一言である。
そうではなく、まっとうな考えで著しい環境側面を決めたとしても、結果が正しいかはまた別である。
おっと、敵は著しい環境側面を決める方法の専門家であって、著しい環境側面を理解していないのだなんてホントのことを言ってはいけない。

そして、「では決定された著しい環境側面をどう管理していますか?」と言って組織側が提示した著しい環境側面からスタートして関連する書類を見ていくのが常だった。
それは絶対におかしいと私は思った。
なぜなら審査とは審査基準を満たしているか否かをチェックすることであるが、審査では全部を見るわけにはいかないから抜取で行われ、何を見るかを決めるのは審査員の判断になる。(ISO17021にそう決めてある)
そのとき何を抜き取って調べるかは、審査員が現場を見て、審査員の経験と知識によって、切り口を決定すべきであって、企業側が提示する「当社の管理項目はこれです」とか「著しい環境側面はこれです」というものから始まることは絶対にないように思う。
監査では、その会社の管理項目が適正なのか? 著しい管理項目は適正なのか? という検証もしなければならないのだから、会社が決めたことが正しいかを確認しなければならないことはいうまでもない。組織が重要だと決めたものが適正であるとしてしまっては審査ではないだろう。

そんなことをずっと思ってきた。
その後、10年ほどして私が仕事として日常的に遵法監査をするようになったとき、自分がしたい方法でやろうと思った。だって監査に行って「お宅の工場ではどんな法規制が関わりますか?」と聞いてその法律についてしっかり管理しているか、遵法は大丈夫かを調べることは遵法監査にはならない。遵法監査とは監査員(私)が工場をみて該当するだろうと推定した法規制を、工場が認識して遵守しているかを確認しなければ意味がない。
私はその会社をみて著しい環境側面であろうと見当をつけたものについて、どのような管理をしているかを調査する。それからさかのぼって、それが著しい環境側面になっているかを確認し、更にさかのぼって著しい環境側面をどのようにして決めているかをヒアリングする。
あがってナンボというけれど、遵法と汚染の予防を目的とする監査(審査)であれば必然的にそうなるだろうと思う。

「工場が把握している法律は守っていました」なんて報告は意味がないのだ。法律だけではない、その工場が実施することを決めた教育をしていることを確認してもしょうがない。その工場で力量が不足していることを把握して、それに対して教育をしているか否かが問題なのである。正確に言えば、教育しているかではなく、力量を付ける施策を行っているかである。

うそ800 本日のまとめ
「内部監査も奥が深いですね」なんて言われると困る。
本日書いたのは内部監査の初歩の初歩なのだ。こういったことを理解して100点満点60点合格でやっと50点になるかならないかである。
え、そんなこといったらISOの審査員の全部が50点以下ですって?
まあ、そうかもしれないな 笑

うそ800 本日の提案
内部監査員の検定や教育ではなく、内部監査システムの教育や指導を行うべきではないだろうか?
だって、ISO審査員は言ってますよ。「大事なのは担当が代わっても質を維持するシステムだ」って


うそ800の目次にもどる

Finale Pink Nipple Cream