マネジメントシステム物語77 有効性

14.09.08
マネジメントシステム物語とは

この物語は前回の「76話 措置命令」の続きです。前回の物語を知らないと、ストーリーもテーマもご理解いただけないと思います。ぜひ前の物語からお読みください。

天叢雲あめのむらくも電子の一件で罰金が科されたという話を聞いて二週間ほど経った。竹山が佐田に話しかけてきた。
ところで天叢雲あめのむらくもとは、素戔嗚尊すさのおのみこと がヤマタノオロチを退治したとき、その尻尾から出てきた剣です。素戔嗚尊がこれはすばらしい宝だと思って姉の天照大神あまてらすおおみかみに差し上げた。十数代後にヤマトタケルが草原で敵に火を点けられたとき、持っていたその剣で周囲の草を切り払い難を逃れたことから草薙くさなぎの剣と呼ばれることもある。なお草薙の地は、名古屋と静岡が本家争いをしていて、どちらなのかわからないらしい。神代から伝わる天叢雲は今は名古屋の熱田神宮にあり、三種の神器のひとつである。三種の神器の他の二つは鏡と勾玉である。
竹山
「佐田さん、お話してもよろしいですか?」
佐田
「なんだい、深刻なのは嫌だな。コーヒーでも飲みながら聞こうか」
そう言いながら佐田は立ち上がり給茶機に向かう。竹山も後を追い、一緒にコーヒーを注いで打ち合わせ場に座る。

佐田はコーヒーを一口飲むと
コーヒーを飲む
佐田
「さて、竹山さんのお話はなんだろう」
竹山
「佐田さん、先日、天叢雲あめのむらくも電子で廃棄物のトラブルがありましたね。あの原因はなんだったのか、どうすれば良かったのか、ISOとは役に立っているのか、などなど考えるとどうも答が分らないんです」
佐田
「うーん、確かにあれは問題だった。しかし罰金100万とは驚いたな。無許可業者と契約して100万かあ〜、だいぶ相場が上がったなあ。それと報道されてしまった以上、来年の環境報告書にはチラッとでも載せなきゃいかんかな。なにしろ当社の環境報告書ではなく、当社グループの環境報告書だからな」
竹山
「でも郡司さんも首にもならずよかったですね」
佐田
「あの社長、けっこう大物なのかもしらんね」
竹山
「まあ、今どき使える人材は手放したくないでしょうし、これからのことを考えると元は取れると考えたんでしょう。郡司さんも恩があれば辞めにくいでしょうし。それどころか罰金は社長に借りて払ったような気がしますよ。そうなら借金を返すまで辞めるにやめられないでしょうし」
佐田
「まあ、ありがちだ」
竹山
「話を戻しますが、あの会社はISO14001認証をしていたけど、あの問題についてはまったく効果がなかったようですね。それと・・・言いにくいですが、佐田さんはいつもどの会社にも固有のEMSがあるっておっしゃいますよね。その固有のEMSだって機能していなかったということでしょう。というか、あのような中小企業に固有のEMSがあったのでしょうか?」
佐田
「それは非常に大事なことだ。まず因果関係を考えてみよう。因果関係といってもISOと事故とではなく、あの不具合がどうして発生したかだが・・・
まず初めに廃棄物を減らそうというウィルがあった。それは元々あの会社にとって廃棄物が大きな問題だったからではなく、ISOの環境目的に廃棄物削減を掲げていたからだ。計画を立てたのも郡司、実行するのも郡司、フォローするのも郡司、だけど結果は社長に報告しなくちゃならない。郡司にとっては廃棄物を減らすということが目的化したんだな」
竹山
「廃棄物を減らすのは元々目的でしょう」
佐田
「そうだろうか? 確かに環境目的ではあるけれど、日本語の意味の目的じゃない。廃棄物を減らすのは手段だろう。真の目的は費用削減とかじゃないか」
竹山
「ああ、なるほど。でも郡司さんにとって真の目的は費用削減ではなくISO認証維持だったのでしょうね。あの会社にとって一番の課題は廃棄物削減じゃなくて品質とか納期だと思いますよ。あのあと名古屋工場に行ったとき天叢雲あめのむらくもについていろいろと聞いてきました。名古屋工場の連中の話では、天叢雲あめのむらくものISO活動が遊びとかISOごっこになっていたようなことを語っていましたね」
佐田
「なるほど認証維持が真の目的か。ありがちだな。ISO認証していくためには、とにかく環境目的目標が必要で、郡司にすれば他の人に迷惑をかけないような、自分ひとりでクローズするものが良かったのだろう。となると廃棄物を選んだのはなるほどと思えるね。
ともかく廃棄物を減らすことが下位の目的だったとしよう。しかしそのときまた過誤というか勘違いがあったのだろう。つまり廃棄物を減らすということは、本当はいらないものを減らすことだと思う」
竹山
「それは当たり前じゃないですか」
佐田
「そうとばかりは言えない。日本の多くの会社で廃棄物を減らすとは、法律上の廃棄物を減らすとか、自分たちが勝手に定義してその定義に当てはまるものを減らす活動しているじゃないか」
竹山
「ああ、そうですね。廃棄物削減の手始めは、買い取ってくれるところを探すことで、お金を払って引き渡していたものをほんの微々たる金額でもあるいはゼロ円にでもなれば、廃棄物じゃないという言い方をしますからね。その次は処理費用が少しでも安いところを探すことでしょうか。
でも自分たちが定義するとは?」
佐田
「オイオイ、しっかりしてくれよ。日本でゼロエミッションを達成した企業はゴマンとあるが、そのほとんどは『直接埋立ゼロ』とか、『廃棄物処理の負荷がリサイクルの負荷を下回ったらゼロエミッションとみなす』なんてものじゃないか」
竹山
「ああ・・・・そういうことか」
佐田
「郡司はそれほど手のこんだことを考えていなかったけど、彼もお金を払うことよりも売れるようにすることに目が行ってしまったのだろう」
竹山
「でも、それは良いことですよね」
佐田
「悪いことじゃない。でもそういう考えだから目の前に餌が出されたから良く考えずに食いついてしまったのではないかな。本来であれば廃棄物を減らすためには、なぜ廃棄物が発生するのか、それが出ないようにできないのか、減らせないのかと考えるべきだ。そうすれば良かったのだが・・・そこんところは反省しなくちゃいけない」
竹山
「実際問題として廃棄物を出さないとか減らすということは、環境管理部門にはできません。それができるのは廃棄物を発生させる部門です。製造工程を変える、不良率を下げる、そういうことをしなくちゃなりません。確かに多くの会社で売却とか低いレベルのリサイクルに留まっているのは、環境管理部門だけが活動しているからですね」
佐田
「ともかく買いますよと現れた相手が、廃棄物処理業の許可を持っていないということを初期段階で知っていたわけだ。
その時点でちょっと待てよと考えないといけないな。売れる場合でも売値が安いときは万が一売れないことになっても問題が起きないように、予め廃棄物処理委託契約を締結しておくのはこの仕事の鉄則だ。廃油など有価物であっても値段がゼロ円スレスレのものは、市況が変動すると『今月はお金をもらいます』と言われることがある。そういうことを考えておくのは廃棄物担当者の常識だ」
竹山
「つまり郡司は浅はかだったと・・・」
佐田
「ひらたく言えばそうだ。この問題がなぜ起きたかと言えば、廃棄物削減が目的となっていたこと、郡司が安全サイドに対応しなかったこと、そして課長が良く管理監督していなかったことだろう」
竹山
「確かに・・・・となるとISO14001との関わりですが・・」
佐田
「ISO14001は仕組みだよね。だからその仕組みで動く人がどうあるべきとか、どう判断すべきというのは規定していないだろう」
竹山
「いや、そういうことは教育訓練にあると思いますが」
佐田
「従業員がどうあるべきかを決めているのは、規格では環境方針しかないと思う。つまり法を守りなさい、会社のルールを守りなさいと示すのは方針にしかないだろう。自覚でも教育訓練でも遵法精神を身につけることではないと思うね。
そもそもISOはマネジメントシステム、仕組みなんだから遵法精神がない社員がいてもISOの責任じゃないように思う」
竹山
「うーん、ちょっと考えさせてください。
そうしますと佐田さんはこの問題はISO規格に不適合にならないとお考えですか?」
佐田
「不適合にするには特定のshallに反していると証拠と根拠で立証しなければならない。竹山さんはどのshallを満たしていないと思う?」
竹山
「ISO規格で法の遵守に関してはいろいろありますね。(ここでは2004年版を基にしている)
4.2環境方針で法的要求事項の遵守をコミットしています。
4.3.2では法的要求事項を特定し、それらをどのように運用するかを決定しなければならない。
4.4.6法規制を逸脱しないように手順を定め、その手順に基づき運用する。
4.5.1運用が手順から逸脱しないように監視する。
4.5.2法的要求事項の遵守を定期的に評価する。
4.5.5とは言えませんね。そうではないとアネックスに書いてありますから・・・
4.6法的要求事項の遵守状況を報告する。
つまりこのどれかに違反していることを説明できればよいのですね」
佐田
「そういうことだ。今回は現実に違反が起きてしまったから、その事実をもって仕組みが不十分であったというのは簡単だ。でもそれは後知恵というか卑怯に思えるね
まず4.2遵法を明記した方針が徹底していなかったというのもありだろう。だけどこれは使えないな」
竹山
「なぜですか? それは事実だし反論できそうありません。つまり『4.2のc項では法的要求事項を順守するコミットメントをかかげ、f項ではそれを周知することを要求している。しかし廃棄物処理法に反して無許可業者に委託していたので4.2に反している』とすれば証拠と根拠はバッチリでしょう」
佐田
「おいおい、そんな形式論で来るなら私は返り討ちにしちゃうよ。まずそんな論理なら日本中、いや世界中の認証組織は4.2に不適合になってしまう。ええと使い込みや事故違反を正直に環境報告書に書いている会社としてIBMが有名だ。そしてIBMは社会から高く評価されている。環境先進企業であるIBMでさえ犯罪があるということは遵法が徹底されていない。しかしそういう事実を公表していることが高く評価されているということは、世の中の一般企業は推して知るべしということだ。規格で経営者が遵法をコミットしろ、周知しろと書いたところで、全社員の遵法が担保されるわけがない。
というか4.2で不適合なんて出せるのか? 4.2は早い話が一般論であって要求事項と言えるのかどうかあやしいもんだ。
いや、現実には数多くの4.2の不適合を見ているけど、そのほとんどは審査員の言いがかりだったよな」
竹山
「うーん、確かに4.2で出されている不適合はバカバカシイものばかりですね。認証機関だって審査員に認証機関の品質方針を徹底させることになっているけど(ISO17021:2011)、それが実現されているなら審査について異議申し立てとか苦情はありえないでしょうね。現実には認証機関の質のランキングさえあるというのに」
佐田
「私もそう思うよ、返す刀というやつかな」
竹山
「4.3.2で法的要求事項を特定する仕組みが弱いというのはどうですか? 弱いというのはまずいなら、法的要求事項を見逃していると言えば逃げようはないでしょう」
佐田
「でもさ、郡司は廃棄物処理には許可が必要で、売り込みに来た業者が県の許可を持っていないことを知っていた。しかし郡司は廃棄物として処理委託するつもりはなく、売却するつもりだったのだから規格要求を逸脱していない。
私は廃棄物処理を頼もうとしたのではなく、有価物買取に来た業者に頼んだのですといえばおしまいだよ」
竹山
「そうか・・・でも後段のそれをどのように運用するかを決めて、4.4.6では運用ルールを決めろとありますよ」
佐田
「運用ルールはあった。ただイレギュラーな状況について十分でなかったということだろう。しかしどの会社だって、イレギュラーな事態すべてについてその対応手順を決めているはずはない。だからこそイレギュラーというわけだ。
無罪を勝ち取るには無罪であることを立証する必要はなく、検察の主張を退ければいいから簡単だ」
竹山
「なるほど、形式上は問題ない。要するに非定常な状況が発生したとき、十分に検討しないで安易に判断したということですか」
佐田
「確かに今回の例では、郡司は万一に備えて廃棄物契約をしていなかった、いや契約できない無許可業者であったことに留意しなかったという問題がある。しかし致命的なのは『有価物でなく廃棄物になります』と言われたときの判断と行動だろう。
それはISO規格上どうなるだろう?」
竹山
「私なら・・・・私ならなんていうと私だったらミスしなかったように聞こえますね、それはともかく、私なら有価物でないと言われたとき、すごろくじゃないですけど4.3.2に戻ってというか4.4.6でもいいのですが、そういうケースについて定めていたかどうかということになります」
佐田
「さっきも言ったけど、現実にはそんな細かいことまで決めている会社はあまりないだろうし、担当者がそれくらいの応用動作ができなくては困るだろうね。
そうなったとき、渡した廃棄物を返してくれと言えるかどうかということになるだろう。検討する時間もないだろうし、お金の処理もすぐに処理しなくてはならないし、業者が既に処分してしまったと言うかもしれない。現実問題としては混乱してもおかしくない。
ともかく4.3.2あるいは4.4.6にそういう決まりがないことを不適合とするなら、過去のISO審査で不足していることを見つける必要があるだろう。だって規格要求を満たしていない根拠としてそれをとりあげるなら、過去の審査でそれを満たしているかを確認しなければならない。あの会社はたぶん認証してから5年は経っているから審査抜取ですから審査で漏れたなんては言えない」
竹山
「するとこの問題が発生したのは認証機関が悪いということですか?」
佐田
「そうじゃないよ。4.3.2あるいは4.4.6を根拠に、そういう手順がないことを不適合にできないだろうということだ」
竹山
「となると4.5.1の監視が不完全であったということになりますか」
佐田
「監視が不完全として不適合を出すなら、これまた世の中のISO認証組織には、いかなる違反もなく、認証機関にも不具合がないことになる。
それに形の上では帳票などを見る限り契約しないで廃棄物を委託していたとは分らない。つまり性善説的な監視では見つからなかっただろう。ISO規格の監視測定とは、疑って監視せよという意味ではないと思うね」
竹山
「うーん、4.6運用管理の『確実に運用が行われること』を満たしていないというのはどうですか?」
佐田
温度計 「規格では『確実に運用が行われる』ために手順を定めることとある。でも『手順はありました。しかし人間のすることですから確率的に漏れはあります』といえないか?
これは法に関わるから大問題と考えているかもしれないが、例えばだ・・・工場にたくさんある温度計を記録する仕事があったとしよう。いまどきそんな仕事はないと言っちゃいけない。仮定の話だ。もし何百もある温度計のうち数個の記録を忘れたらどういう不適合になるのかというのと類似だと思う。
となると、また監視測定に戻ってしまうようだ」
竹山
「となると『4.5.1運用のカギとなる特性の監視において漏れがある』ということになりますか?」
佐田
「それじゃさっきに戻ったよ」
竹山
「そんなあ〜、佐田さんは被告になったら強いですね。検事になっても強いのでしょうか?
でも最後の砦っていっちゃなんですが、法的要求事項の遵守を定期的に評価するというのは逃れられませんよ」
佐田
「それだって同じだよ、まず規格から考えれば、法に関わる全項目をしろと書いてはいないし、そもそも評価する仕組みを作りそれに基づいて評価するわけだ。そして現実から考えれば世の中で違反を起こしている企業はたくさんあるが、そのすべてがこの項目を満たしていなかったということはないだろう。
序文にも書いてあるけど、この規格を満たしても異なる環境パフォーマンスを示すこともあるわけだ。ここでパフォーマンスとは運用そのものだからね」
竹山
「そうすると佐田さんは天叢雲あめのむらくもがISO規格を満たしていたということ、そしてISO規格適合は効果がないというのですか?」
佐田
「うーん、ちょっと違うと思う。私は規格を満たせば完璧だなんて思っていないし、いや正直言えば規格を満たしていなくても良いと思っていますけどね
この問題は当然対策しなければなりませんが、そのときの対策はISO規格の守備範囲の外かもしれないし、あるいはISO規格以上にしなければならないということかもしれない」
竹山
「うーん、佐田さんはこの問題とISOの仕組みは無関係だというのですか?」
佐田
「無関係というのではなく、なんというのかなあ〜、私はISO規格というものはそれなりに価値はあると思う。しかしそれを満たせば良いとか満たさなければならないというふうには考えていない。かっこよく言えば必要条件でもないし十分条件でもないと思う。ある意味ガイドラインとか指針と思えば良いのじゃないかな」
竹山
「でも現実にはISO14001は認証規格であり、そこにはshallで要求事項が書いてあります。だから要求事項を満たさなければならないし、満たせばある程度のものが保証されなければなりません」
佐田
「でもさ、今我々は思考実験をしているわけだけど、この違反を規格のどの要求事項に不適合にしようかとすると、明白にこれだ! これを直せば良くなるというものはなかったよね。こじつけとか関連性が弱いshallを見つけて、それに対する不適合と言ったところであまり意味はなさそうだ。
前に言ったように、真の是正はISO14001規格の埒外にあるのかもしれないし、会社のリソースの問題かもしれないな」
竹山
「リソースですか? それならISO規格の範疇じゃないですか」
佐田
「リソースを確保するってことはISO規格の要求事項じゃないと思う。4.4.1に『経営者はリソースを確実に利用できるように』とあるけど、そんなことができるなら人生悩みはないよね。竹山さんだって日々の仕事を振り返ってごらんよ。リソースが不十分だから残業もするし、出張のときは綱渡りのような乗り継ぎをしているじゃないか。出張旅費だって潤沢じゃない。
それに私が経営者なら、リソースが十分ならより目標を高くするよ。それは経営者として当然だ」
竹山
「確かにそうですね。あの会社で環境管理にもう一人投入するなんて費用構造から考えてありえないですよね」
佐田
「もちろんこの問題が再発しては困るし、確実な再発防止策をとらなければならない。竹山さんならどうする?」
竹山は急に振られて驚いた。実際考えても見なかった。
竹山
「そうですね〜、ひとつはお金の支払いのチェックをもっときめ細かく行うべきでしょう。郡司さんが言ってましたけど、彼はある程度裁量を許されていたとのこと、だから業者に払ったお金が物品を買ったのか廃棄物処理費用として払ったのか、その詳細まで課長は見てなかったと思います」
佐田
「お金はISO14001の範囲外のような気がする。それに課長が見るといっても帳票までだろう。郡司と一緒に業者に会ったり、お金の勘定までするわけではない。郡司が頼めば業者はいくらでも適当な納品書を書いてくれるよ。帳票をチェックする程度では抑止にならないだろう」
竹山
「だめですか」
佐田
「遵法を確実にするなら別人が担当者と同様に詳細を検証する仕組みが必要だろうけど、その前になによりもまず担当者がルールを守るということが必要だろう。郡司だって個人の懐に金を入れるとかいう欲得じゃなくて、いきがかりでなってしまったわけだ。あのときこれはまずい、絶対にしてはならないという決断ができなくちゃだめだ」
竹山
「そのためにはどうすればいいのですか?」
佐田
「意識づけとか仕事に誇りを持たせるとか言い方はいろいろだろうけど、それは4.2でいう遵法の周知よりももっと上位、つまり倫理観とかになるんじゃないかな。
つまり企業で働く意味は何か、企業理念とはなにか、自分の日常の業務と企業倫理のつながりを、肌身で認識していなければならないということだろう」
竹山
「なんか難しそうですね」
佐田
「難しいと言えば難しいかもしれないけど、当たり前と言えば当たり前だろう。廃棄物を減らすということはなんのためなのかと考えたとき、ISOの環境目的を実現するためだと思えば、どんな方法で廃棄物を減らしても良いし、見た目だけ減れば目的を果たす。
しかし企業の費用削減なら、廃棄物処理費用でなく別名目で支払っても意味がないと判断するだろう。
廃棄物を減らすのは環境への負荷を減らすためだと認識していたならば、費用を減らすことでは意味がない。今まで以上に廃棄物処理費用を支払っても、無害化を進めることができるならそれを選択するかもしれない」
竹山
「以前、佐田さんに『真実の瞬間』のお話を聞いた覚えがあります。なんかあのお話のようですね。そうすると単なる遵法意識だけではなく、企業理念とか価値観というものがからんできますね」
佐田
「当然だよ。ISO規格では経営者の責任として方針を示しそれを周知しろとある。しかしそんなことが簡単にできるわけがなく、そこに書いてあるから実現していなければ不適合なんていえるものじゃないと思う」
竹山
「もしあそこが認証を返上しなかったら、是正処置としてどんなことをしていたでしょうか?」
佐田
「一番簡単なのは形だけの是正処置だろう。さっきも言ったような、真の問題ではなく表面上のことを問題と設定して、その再発防止を描けばおしまいだ。例えば『監視測定項目に処理委託している廃棄物業者の許可証を確認する』とでも追記すればよいのかもしれない。それは認証維持のためなら効率的だろうけど、会社の存続というかコンプライアンスを考えると効率的どころか有効でもないだろうねえ〜」
竹山
「とするとどうすればいいのですか?」
佐田
「形だけとか形式でなくて、真の再発防止をしようとするとそれは難しい。社長と社員が本音を話せるような雰囲気を作るとか、問題があったら社長も課長もみんなが協力して対応するという風土がないとならない。ええっとなんていったかなあ〜、あの課長・・」
竹山
「村越課長ですか?」
佐田
「そうそう、彼も社長の手前もあったのだろうけど、ああいったときクビだなんていっちゃいけないよ。本音はともかく社長に対しては郡司を守ってやらないと・・・」
竹山
「この騒ぎで村越課長が男を下げましたね」
佐田
「そういうことだね・・・ともかく本当の是正処置は明文にできるような簡単なことではない。私の結論としては企業文化を向上させることとでも言おうか。それは方針を示し周知するということよりも、奥深い気がする」
竹山
「なるほど、」
佐田
「あのさ、ISO規格の範疇であっても、是正処置が簡単だということはないよ。普通の是正処置はみんなで脚本を書いて読んでいるだけのような気がする。どんな問題でも、こういう対策をしましたから再発しませんなんて簡単なものではないよ」
竹山
「是正処置が簡単じゃないってことはわかりました。じゃああの天叢雲あめのむらくものEMSは適合だったのでしょうか?」
佐田
「規格適合だったのか、不適合があったのかわからない。でもあの程度なら本来のEMSは機能していたと考えても良いだろうね。違法があったのは事実だけど、みんなが集まって対応したのだし、社長もちゃんと責任を取ったのだから環境管理の仕組みは機能していると言ってよいだろう」
竹山
「そんなものですか? なんかなし崩しに処理しているだけのように思いますけど
それが佐田さんがいつもおっしゃっている組織本来のEMSですか?
だとしたらISOに基づくEMSは役に立たなかったのでしょうか?」
佐田
「まず本来のEMSとかISOに基づくEMSがあるわけはないよ。組織が存在すればそれに付随してEMSが存在するだろう。物体には必ず影ができるように、切り離せないものなんだ。審査を受けるとは、その自然発生のEMSがISO規格を満たしていることを説明するだけしかありえないように思う。わざわざISO対応のEMSを作り上げるなんてね・・・」
竹山
「うーん、いまいちわかりません。自然発生的EMSは、今回違反が発生したことに対して自然発生的に対応を検討し対処したということですか?
その自然発生的EMSはルール違反をなくすことはできないのでしょうか?」
佐田
「私は組織においてルール違反が生じるのは必然だと思う。自然発生的EMSであろうと、人工的なEMSであろうと、完璧な予防なんてできるわけがない」
竹山
「ええ!違反や違法は発生するのが自然だということですか?」
佐田
「どうだろう? ルール違反、例えは社会のルール違反である犯罪がまったくないということは、ある意味不自然で恐ろしいことじゃないか。
万引きは犯罪という以前に悪だ。だけどそれをゼロにすることが良いかと言えばどうだろうねえ〜
万引きがどれくらいあるかっていう統計は知らないけど、ドラッグストアが最も多く被害額は売上の1%を超えるらしい。だけど万引きをなくそうと徹底的に対策すると来客も売上も減るという。ある程度賑わって雑然としていないとお客にとって居心地が悪いのかもしれない。パチンコ屋でもプロを追い出すと一般客も減ってしまうというしね、」
佐田コーヒー竹山
竹山
「それは社会において犯罪があっても良いということでしょうか?」
佐田
「そうではないよ、そうではないけどさ。シンガポールでは道路に唾を吐いたりガムを捨てたりすると罰金だそうだけど、それじゃ息苦しくなってしまうんじゃないかな。人は白河の清きに住みかねるんだろうねえ」
竹山
「だけどそれって社内犯罪やミスがあっても良いということでしょう」
佐田
「良いというわけでもないけど、あって当然ということかな。人間社会には犯罪はなくならない。しかし強制的なことをせずに、教育したり問題が起きたときに矯正することで許容できる範囲におさめることができるなら、そういう状態の方が人々は緊張と安心がバランスしているのかもしれない。ともかく完璧な是正処置も予防処置もないと思うし、完璧である必要もないと私は思う。
会社の手順書というかルールというか、そういうものでありとあらゆるものをイレギュラーなことまで定めたとすると、そのルールの維持だけでその組織は多大なエネルギーを要し、まともには動かないだろう」
竹山
「うーん、そんなものですかね」
佐田
「実はこれISO規格に書いてあるんだよ。4.5.3に『とられた処置は、問題の大きさ、及び生じた環境影響に見合ったものであること』ってね」
竹山
「それって、問題が小さいなら再発防止をしなくても良いということですか」
佐田
「そう思う。もっともそう考えている審査員は少ないようだ。なんでもかんでも再発防止という人が多いね。人間社会はそんなに簡単に割り切れるものじゃないように思うよ。
ちょっと違うかもしれないけど、法規制と犯罪の関係というのは最善という状態があるのではなく、その社会によって期待する状況が異なるのではないだろうか。 ピストル アメリカで銃を使った犯罪が多いから禁止しようという声がでるけど、毎度、憲法で保証する自衛する権利を侵すなという声が多く規制はされない。それを野蛮だとか危険だとか言っても価値観というか文化が違うんだよ。銃を持つ権利を認めた方が社会の安定がはかれると考える人が多ければ、銃を持った方が社会の幸せの総和は大きくなるだろう。
一切の犯罪が起きないように規制を細かく厳しくした方が良いと考えるか、法規制とマナーの乖離はあって当然、そこは教育やしつけでみんなが暮らしやすい社会にするのだという社会的共通認識があるということじゃないかな。
法規制やルールを強化して、企業や社会がイエスマンだけになったら、それはそれで恐ろしいことだと思うよ。それに異端がなければ革新はなく、革新のない会社には明日はない」
竹山
「佐田さん、自然発生のEMSについてはお話を伺いましたけど、ISOに基づくEMSの有効性はどうなんですか?」
佐田
「ISOに基づくEMSという表現は個人的に間違いのように思う。ISO審査のときに見せているEMSじゃないかな」
竹山
「なるほど、じゃ天叢雲あめのむらくもがISO審査の時に見せていたEMSは今回の問題について有効ではなかったのでしょうか?」
佐田
「この場合のEMSとは非常に具体的だ。文書化されたEMSを構成する文書や記録に関して、郡司がとった行動が反していたものがあったのかということになる」
竹山
「ルールにおいてイレギュラーなものを定めていなかったとしたら『ない』ということになりますね。とするとISO規格にあって文書化されたEMSにないなら、不適合になりますし、ISO規格の要求事項にイレギュラーなケースがないなら・・・」
佐田
「認証機関側の見解からすれば、『イレギュラーなケースについても定めてないから不適合』となるのは当然だ。だけどEMSというものは独立したものではない。規格にもあるように、会社の包括的マネジメントシステムの中で環境に関するものをEMSと呼ぶのだから。
だからすべての仕事、環境に関わる仕事であっても、EMSという範疇のルールだけで動いているわけではない。例えばISO規格にお金の取り扱い、知的財産権については書いてない。だけどお金や特許に関わらずに環境管理業務ができるはずがない。ということで、郡司は廃棄物の処理費用を迫られたとき契約についての考え、支払いについてのルール、明文化されていなくても、そういったことを考え合わせれば自分がすべきことが分かったと思う」
竹山
「ええっと、佐田さんの話は回りくどいので・・・」
佐田
「ごめんよ、まわりくどいのは考えながら話しているからだろう。まあ、結論は、ISO審査のときに見せているEMSであっても、ISO規格対応としては満足していたんじゃないかな。だからこそ認証していたわけで・・・審査員だって節穴ってわけじゃなかったんだろうし」
竹山
「もし企業が虚偽の説明をしていたなんて言うならですか アハハハハ」
佐田
「オイオイ、竹山さん、君の立場で、いや我々の立場でどうするか考えるのを忘れているんじゃないかい」
竹山
「はあ、なんでしょうか?」
佐田
「今回の一件は天叢雲あめのむらくもだけの問題じゃない。我々は当社の環境管理だけではなく当社グループの環境管理を担っているんだよ」
竹山
「ああ、おっしゃることが分りました。私も今回の問題を防ぐために私たちがどうするべきだったかいろいろ考えていました」
佐田
「おお!ぜひ聞きたいね」
竹山
「まず関連会社に対して環境監査を2年のインターバルで行っています。私が天叢雲に監査に行ったのは2年半前でした。実は今年も監査を行っています。今年は新潟工場の人に依頼しています。彼の報告では問題がありませんでした。改めて報告書を見ましたが廃棄物については通り一遍で、まして2年前のものまではチェックしていなかったようです」
佐田
「なるほど、それで・・・・」
竹山
「派遣する監査員の能力、意識、チェック項目の見直しをしようと思います。その他、過去からしていることですが、今年度の状況を反映して次年度の計画を立てるとき監査項目の見直しをするつもりです。今年今からという考えもあるかも知れませんが、既に関連会社に問題の周知と自主点検をするように公文を出していますので、来年にその自主点検の確認という流れで良いかと思います。あまり時定数の小さなことをするのは本社としてまずいでしょう」
佐田
「けっこう、よろしく頼む。もう私が細かいことを言うことはなさそうだ。
ところで話は戻るけどEMSといっても一つしかないというわけじゃない。グループ企業において個々の事業所や関連会社にEMSというものは実在する。しかし我々のような本社機能を含めたEMSというものもある。多層構造というか、フラクタルみたいなもんだ。あるいはEMSが重なっているのではなく、我々のEMSは指導・監督までなのかもしれず、それぞれのEMSが相互作用をしていると言うべきかもしれない。
あのさ、ISO14001のアネックスでは96年版のときから上位組織との関連について記述しているんだが、それを審査の時にみている審査員に会ったことがないね。みんな組織単独で存在しているような理解なんだ。そこんところが問題なんじゃないのかな」
竹山
「同感です。もっともそれを感じるのは、目的目標の設定に限らず、いや環境に限らず事業は上位組織や顧客からの指示や要請を受けて行っているということを理解しない審査員が多いですね。
現実をみれば、工場や関連会社の中でクローズするEMSというものは考えられないでしょう。上位組織と下位組織の関係を理解していないとISO審査はできませんよ」
佐田
「さっきの話に戻るけどさ、関連会社のEMSというのはその会社のレベルによって決まってしまう。ISO認証しても実力がなければ改善するはずがない。だからこそ我々がグループの遵法やパフォーマンス向上の責任がある。常日頃、環境監査をしていて潜在している問題を、発見し対策し顕在化させないようにしなければならない。ということはとりもなおさず今回の問題は我々の責任だ」
竹山
「おっしゃること、よく分ります。ただそのためには環境監査で悪いところを見つけるだけでなく、レベルアップのための担当者教育とか、各種テキストの作成配布などしなければなりませんね。もちろん今までもしていたわけですが、そういうことに一層重みを置くようにすべきでしょう」
佐田
「その通りだね。是正処置よりも監視が重要だし、それよりも運用が大事で、もっと大事なのは教育や計画だろう。なるだけ前工程に力を置くようにしないとね」
竹山
「つまりそういうことが今回の問題の真の是正処置ですか」
佐田
「うーん、私は当社のような企業グループ複数には複数のEMSがあり、一つの問題にはそれら複数のEMSが関わっていて、問題解決やレベル向上していくにはそれぞれのEMSにおいて是正処置が必要だと考えているんだ。
だから最初の竹山さんの質問であった、天叢雲のトラブルの原因と対策はなにかといえば、今話したようなことだろうと思う。そしてISOが役に立っているのかという質問に対しては、ISO規格の範囲は環境管理の一部分にすぎないのだから、組織のマネジメントシステムのみならず、あらゆる面での改善をしていかなければならないということだろう」

うそ800 本日のまとめ
今回の文中、佐田に言わせている言葉は私が考えていることそのままです。
まず世の中に完璧はないと思います。そしてルールをいくら定めようと徹底することはかなわないでしょう。また不適合が起きても、その是正処置はISO規格の範疇でないということも多いと思います。
ということはISO規格で会社を良くするといえるのは、限定された範囲であるということです。いや、そういう言い方ではなく、会社を良くするには、あらゆる分野でいろいろな方法で行わなくてはならないということでしょう。
私の考えに反対の方は多いと思います。ご反論を期待します。

うそ800 本日のお詫び
長すぎてごめんなさい。数えたら14,000字ありました。これじゃ7話で文庫本1冊ですわ・・・


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