審査員物語47 身の振り方

15.09.22

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三木はISO認証機関に出向してからも査定とか自己申告などのために、定期的に顔を出していた。しかしその後、転籍して、更に60になったときにその子会社に転籍している。だから以前勤めていた会社とはもう縁はない。しかしときどき元の会社の人事から、これから認証機関に出向する人とか出向を希望している人と懇談してくれと声がかかる。そんなわけで年に二三度は元の勤め先に顔を出している。それも三木がそういう立場のときに先輩の世話になったことの御恩送りだろう。
今日もたまたま元の会社に顔を出し、用が済んでからナガスネによってから帰ろうか、まっすぐ自宅に帰ろうかとロビーで考えていると、名前を呼ばれた。
振り返ると古い知り合いの島田が、それなりに歳をとった姿で立っている。

三木
「おお、島田さんじゃないですか。ご無沙汰です」
島田
「元気そうじゃないか。いくつになる・・・・と聞くまでもなく入社した時から同じ年だよな」
三木
「私は用が済んでこれから帰るところですが、島田さんは?」
島田
「おれも仕事はオワリだ。少し付き合わないか?」
三木
「喜んで」


二人はビルの地下の飲食店街に行き、手近な居酒屋に入る。
ビールで乾杯した後に話しだす。
ビール
三木
「私はとうに退職しているので会社とは無関係だけど、島田さんはまだいろいろと関係があるの?」
島田
「まだ子会社で働いているからしょっちゅう来るよ。親会社・子会社といってもその関係はいろいろだけど、ウチの場合はおんぶにだっこなもんでさ、独り立ちしていないわけ。なにをするにも親会社の決裁を受けなくては動けない」
三木
「利益をバンバン出せば親会社だって口を出せないよ」
島田
「テレビドラマのようなことがあるわけがない。ちょっとした設備投資するにも親会社の援助がないとできないし、新しい技術が必要になれば人を出してもらわなくてはならないし、ここに来るときは御白洲に引き出された犯罪者の気分だよ。
当たり前だけど交渉相手は俺よりも10歳も下でさ、昔俺の部下だった奴から、企業努力が足りないとか叱責されているよ」
三木
「そりゃ親会社としても利益供与になるようなことはできないでしょ?」
島田
「そこまでいかない資金援助とか技術支援とかはあるわけよ」
三木
「なるほど、だけど島田さんが会社役員というのは間違いない事実だ。役員報酬は高いだろうし交際費も使えるだろう。なによりも大きな仕事をしているという自負もあるでしょう。それに比べて私は平社員で、していることは経営ではなく単なる作業者というのは事実だからね」
島田
「役員報酬なんて言うのもおこがましいよ。報酬は三木さんと変わらないよ。それに経営者とか作業者なんて区別する意味もない。自分の仕事にやりがいが持てるかどうかじゃないか」
三木
「やりがいかあ〜、もう引退の時期が目前になっているから今更という感じだよね」
島田
「お前は俺と同じだから61だろう。まだ3年くらいあるよな」
三木
「子会社の役員になると64までいられるのかい」
島田
「子会社と言えど別会社だし役員だからはっきりとした定年というのはないけど、一応は64くらいで勇退する。本体にいて上り詰めて執行役になったとして普通は64くらいまでだろう、本体の出世頭よりも子会社に行って長く仕事をしているのはバランスを欠くということなんだろうな、まあ、そういうことになっている。
もっとも子会社の中には余人をもって代えがたいなんて言われて70を超えて社長をしている人もいるね。オーナー社長でなく、親会社から出向してきた身分でそうなるのは大したもんだと思う。確かにそういう人を見ると社外に人脈を持っているしカリスマ性もある。とはいえ見方によれば後継者を育てていない無能な経営者とも言えるがね」
三木
「私のところは定年が63となっているからあいまいなことはない」
島田
「ほう、じゃああと2年、正確に言えば1年少々で引退か、いやそれはめでたい」
三木
「もちろん63で完全に仕事を辞める人もいるけど、それからも仕事を続ける人もいる」
島田
「定年になってからも仕事を続けるの?」
三木
「ちょっと審査員って仕事は独自性があって、仕事があればいつまでも続けられる。もちろん立場というか身分というか社員でなく臨時というかアルバイトのようなものになり契約審査員と呼ばれている。使う側から見れば社員よりも安く使える。人件主費ばかりでなく人件副費がほとんどかからないからね」
島田
「ほう? 契約審査員とは契約社員なのか、それとも忙しいときだけ来てくれっていう契約か?」
三木
「ああ、後者の方だな。雇用関係はなく、忙しかったら声をかけますよという契約というか約束だ。当たり前だが仕事がなければ依頼は来ない。だから年に10日とか20日程度しか仕事がない人も実際にいる。そうなると職業というよりも趣味のレベルだな」
島田
「なるほど、で三木は63以降も働き続けるつもりか?」
三木
「今の日本の年金制度では、我々の年代では引退して即年金生活というわけにはいかないよ。年金が出るまでは働くつもりだ」
島田
「そうだよなあ〜、10歳も上の人たちは良かったねえ、あの頃は定年になったときに失業保険さえもらえたんだぜ、定年退職者が失業保険だよ。それも当時は10か月くらいもらえたはずだ。俺も10年早く生まれたかったぞ」
三木
「まあまあ、10歳上となれば終戦直前生まれ、終戦直後の食べるものもない時代に子供時代を過ごしたんだから、そう幸せとも言えないよ。まあなにごともトータルすると同じだよ」
島田
「だけどさ、仕事をとっても先輩たちは高度成長期に乗って、イケイケドンドンの時代だったし、うらやましいよ」
三木
「みんな同じだって、我々が就職する10年前高度成長に入る前の1960年代前半は不況だった。俺たちもオイルショックとかニクソンショックなんてのもあったけど、まあどの時代に生まれても良いこともあるし悪いこともありみな平等だと俺は考えている」

島田は空になったジョッキを見て

島田
「焼酎のボトルを入れていいか?」
三木
「おれはもう当分ここには来ないよ。島田さんがよく来るなら入れたら」
島田が怪しいイントネーションの中国人のウエーターに焼酎のボトルとお湯割り、水割りのセットを頼んだ。
焼酎が来るとお湯割りを二つ作りながら島田がまた話を始めた。
島田
「三木の仕事は永遠に続くのか?」
三木
「というと?」
島田
「ISO認証なんてのが始まったのは1994年頃だろう。今2010年だから16年、どんな製品だって15年経てば代替わりというかライフサイクルが一巡するんじゃないかって思うからさ」
三木
「実は日本のISO認証件数は昨年か一昨年をピークにもう減少傾向になっている。とはいえ大きく変わるにはまだ10年くらい続くんじゃないかな」
島田
「俺なんか出向してから生産している製品がまったく変わったよ。ウチの製品だけじゃない、例えば掃除機だってサイクロンなんてのが主流になったし、ロボット掃除機が現れたり、どんどんと進化していく。そう思うと16年も変わらずに同じ製品、いやサービスを売っているというのが信じられないよ」
三木
「そう言われるとその通りだけど・・・そんなこと言ったら床屋とかパーマ屋は半世紀も変わっていないよ」
島田
床屋 「いやいや、大きく変わっているよ。髪型も変わるしパーマの方法も薬品も変わっている。それは洗濯機がゴムローラーで脱水していたのと全自動に変わったくらいの変化だぜ。
それに床屋といっても低価格とか駅で電車を待つ間にしあげるお店も見かけるようになったし、最近はネイルもするところもあるそうだ」
三木
「なるほど、そういう見方をすると我々は規格改定があっても人間が文書と帳票と現場を見て規格適合を確認するのは10年一日というか全く変わっていないねえ〜。いっときは電子データを遠隔地でチェックするというのが流行るかと思ったけど、全然だ」
島田
「三木がうらやましいよ。俺たちのように日々業界動向とか他社製品を調査したり、それに対応していくという努力をしなくても済むんだからな」

三木は島田もひどいことを言うもんだと思いつつ、考えてみるとそれが真実のように思える。少なくても三木は他の認証機関がどのような審査をしているかとか、他社が考えている新企画を調べようなんてことをしたことはない。営業時代そのような努力を怠ればあっという間に営業マンの成績は落ちていったものだ。ISO審査員が他社の品質状況、自社他社のクレーム状況といったものを把握しようとしていないのは怠慢なのだろうか。いや審査員は一般メーカーで言えば製造ラインの作業者で営業マンではないから知る必要はないのだろうか?
いやあ、製造ラインの作業者はそれこそ自分のところのライン不良、市場クレームとその対策を理解してその対策を考えなければならない。三木は自社の審査に社会がどのような評価をしているのか、他社との比較、顧客や一般社会から要求といったものをまったく知らない。知っているのは自分と身近な人が受けた苦情や異議申し立てだけだ。それは非常にまれなことだ。件数が少ないことが問題がないことなのか、お客様が黙っているためなのかもわからない。

島田は三木が黙ってしまったことで話しかけてきた。

島田
「おいおい、三木よ、大丈夫か。脳梗塞にでもなったか?」
三木
「いや考え事をしていた。確かに島田君のいうように我々はあまり勉強していないことは間違いない。仕事そのものについて考えることはあっても、他社との比較までは勉強していないな」
島田
「まさか、どんな仕事でも事業でも事業拡大いや現状維持するにも、新しいこととか改善を考えなくてはならない。そのためには競合関係にある他社を知り自分を知らなければならない。
それにさコンペティターとは同業他社だけではない。一般商店の敵はスーパーマーケットではなく、流通業者とインターネットだったということもある」
三木
「そうなんだろうけど・・・我々にとって新しいこととか改善とは何だろう。コンペティターとは誰なんだろう」
島田
「三木はボケたんじゃないのか。10年前を思い出せ。営業で新しいことも改善も考えないなんてひとときでもあったのか」

三木もそう思う。島田がまだ日々計画必達、問題対策、改善、それも財務、人事、製造、開発など多方面について考え判断しているのを思うと、審査員をしている自分はなんと気楽なものかと思う。仮に自分が島田の立場なら、早期引退はおめでたいというか喜ばしいことに違いない。最初あの言葉を聞いたときはイラッとしたが、あれは正直な島田の気持ちだったのだろう。
そしてと思う、確かに三木は今まで須々木取締役、柴田取締役、朱鷺先輩などと大論戦をしてきたが、それは企業の運命を左右するような話ではなく、どーでもよいことだったのだ。ナガスネが完璧に間違えていたとしても、認証を受けている企業は他に鞍替えすることもなかった。別にQCDが良いからナガスネを選んでくれたのではなく、義理と人情で仕事を頂いていたのだ。見方によれば悲しいことだ。
要するに三木たちのしていることは社会良い影響も悪い影響も与えない、どーでもいいことなのだ。どーでもいいというのは、あってもなくてもどーでもいいことなのだろう。つまり三木が今まで思いめぐらしていたことなど、世の中から見れば針の上に何人の天使が立てるかという中世の神学上の無意味な議論のようなものだったのだ。
三木は一挙に酔いが醒めた。つまりおれはただお情けで食べているのか? 社会に貢献はしていないのか? これじゃ生きがいはないなあと思う。


明日から二日間、三木は東海地方の製造業の審査だ。今回は同期で審査員になった木村と一緒というか、木村がリーダーなのだ。木村は古風なナガスネ流の考えでいまだに審査をしている。明日からの審査は正直言ってどうなることかと危惧している。「プログラムは目的目標がふたつ要ります」なんて書いた所見報告書に自分の名前が載ることは願い下げだ。
一旦ホテルに入って荷物を置いて外で夕食を取った後、木村の部屋で打ち合わせをする。マニュアルや事前提出資料はお互いに一通り見てきたが、二人で議論するのは今晩だけだ。
三木は木村にプログラムがふたつ必要とか有益な側面が必要なんてことは言うのはともかく、書面に書くようなことはしないでくれと要請した。心中は分らないが木村は三木に同意した。三木は明日と明後日、審査員同士でトラブルが起きないことを願った。
一応話がついた後に雑談に移った。

木村
「三木さんは定年になったらどうするおつもりですか?」
三木
「定年ならとうに過ぎたよ」
木村
「ああ、今の会社の定年、63になったらですよ」
三木
「それはまだはっきりとは決めてないけど、やはり契約審査員をしようかと思っている。年金がもらえるまで無収入というのはつらいし、かといって歳も歳だし特段特技もないので再就職も大変だ。木村さんはどう考えているの?」
木村
「私は出向したのは三木さんと同じですけど年齢がひとつ下ですから、三木さんの状況を拝見して考えようと思っています」
三木
「木村さんはコンサルもしているんでしょう。そちらはどうなんですか? 契約審査員になると年間収入は不安定だし、今より半減どころか4分の1かもしれない。職業と考えるとコンサルしなければならないでしょう。もちろん社員から契約審査員になればコンサルに割ける時間が増えるでしょうし」
木村
「今は数年前と様変わりしています。5年前ならコンサルというとA社の資料をB社に渡し、B社の資料をC社に回しているだけでお足を頂けましたが、今はもうダメです」
D
法規制一覧表
矢印 A社
A社
矢印
■社
環境側面評価表
矢印 矢印お金 矢印
D社
D社
矢印
お金
コンサルタント








矢印
お金
B社 B社
矢印 矢印お金 矢印
●●社
環境マニュアル
矢印 C社C社 矢印
B
内部監査規定
一式

三木
「ダメとは?」
木村
「一般的な情報、つまり環境マニュアルの例とか環境側面を決める具体的な手法なんてのはインターネットで検索するだけでいくつも見つかります。そしてもし疑問や悩みがあれば「知恵袋」「教えて!goo」「EICネット」などのQ&Aサイトを使えば無名の大勢の人からアドバイスがもらえます」
三木
「確かに、でもそうすると今のコンサルは何を求められているのだろう?」
木村
「正しく言えば、何を求められているかというよりも、何をしなければお金にならないかということですね。それはズバリ問題なく認証することです」
三木
「えっ、じゃ何も変わりがないじゃないか」
木村
「いえいえ違いますよ。以前は問題なく認証するための方法を求められていましたが、今は方法じゃなくて結果を求められているということです」
三木
「ああ、なるほど、そりゃ依頼する立場で考えれば当たり前だな。なにせお金を払うのだから。とはいえ、そのためにはコンサルは何をしなければならないのだろう?」
木村
「目的を達成するにはいろいろな方法というかアプローチがあります。自分がコンサルした会社を審査をするってのは古典的な方法ですね。残念ながらそんなことはとうに禁止されましたけど」
三木
「木村さんにとって残念かもしれないけど世の中にとっては良かったんじゃないのか」
木村
「そりゃ手厳しいご意見で。それとニュアンスは違いますが最近まで認証機関はコンサルを囲い込んでいましたね」
三木
「ああ、引退した山内取締役のアイデアだったと聞く。コンサルと契約して問題なく認証できるよう指導して、コンサルからはウチで審査を受けるように誘導してもらうというあれだな」
木村
「実際はそう簡単ではなくうまく運営していくにはそれなりのノウハウが必要なようです。実は最近はその方法もまずいとなってウチは止めてしまいました」
三木
「ほう、それは知らなかった。やはり認証機関とコンサルの癒着とみなされるということか。しかし木村さんは情報網を持っているね」
木村
「ともかく今のコンサルは三重苦です。まず認証したいという企業そのものが減っている、次に認証に関する情報が容易に手に入るようになってよほど価値ある情報でなければ金にならない、更に認証機関とタイアップした活動ができなくなった。まさにコンサル冬の時代ですよ。悲劇、悲劇」

三木にはそんなものが悲劇とは思えない。今までエデンの園にいて苦しみを知らなかったということじゃないかと皮肉に思う。少なくても三木が営業時代はなにもしなくても客が寄ってくるようなことはなかった。

三木
「といっても契約審査員だけでは仕事が確保できないだろうからコンサルもしなければならないのでしょうね」
木村
「契約審査員だけでは職業とは言えませんからね。とはいえコンサルがただでできるわけではありません。まず交通費、いまどきお車代を出す会社はありません。来てくれと言われれば自前で行くしかありません。東京23区ならともかく1泊で行く遠隔地もありますし・・・まあそういうときはホテル代くらいはもらいますがね。あまり注文を付けると断られちゃいます」
三木
「なるほど近場だけではないんだ。すると仕事はどんどん減っているということですか」
木村
「従来からのコンサルは冬の時代ですが、実は最近伸びている仕事もあるのです」
三木
「ほう、ぜひ聞きたいな」
木村
「認証維持ですよ」
三木
「認証維持?」
木村
「そのとおり。いや業務そのものは明確です。ISO認証をしたものの、それを維持していくのが困難で、とはいえ返上すると入札とか評判もあるのでできないという会社もたくさんあるのです。それでコンサルに認証を維持することを依頼するのです。具体的には環境側面や法規制の一覧表をメンテしたり、内部監査を行ったり、あるいは実際は監査しないで記録だけ作ったり、経営者に代わってマネジメントレビューの記録を作ったり」
三木
「そういえばそんな広告を見たな。いや広告じゃなくて新聞記事を見た記憶がある。たしか環境新聞だったかな、2006年頃じゃなかったですかね」
木村
「そうそう、新聞記事では文書のメンテとか法規制の調査と更新など差し障りのないことが書いてありましたけど、実際にはそんなきれいごとだけじゃお金になりません。いや初めはそうだったかもしれませんが、現実は社員がすべきことをまるまるするようになり、やがては作文するようになりと・・・」
三木
「そんな仕事はいくらくらいになるのですか?」
木村
「まあ規模にもよりますし、もちろん規模の大きなところは怪しげなことをしません。私の頂いている仕事は20人から50人規模のところがいくつかですね」
三木
「アブナイ仕事ではないのかね?」
木村
「刑法上の私文書偽造にはあたりません。それに私自身がその会社の作業服を着て審査で対応することもありません。最悪としても審査で文書の矛盾が指摘される程度でしょう。
アハハハハ、いまどき認証機関が仕事を減らしたくありませんから、よっぽどおかしな文書でなければ審査で問題にすることはありませんよ。勧進帳ですよ勧進帳。いや勧進帳ならわざわざ文書を作るまでもなく白紙でもOKにしてほしいところですが」
三木
「オイオイ、勧進帳じゃお金にならないじゃないか。
で契約料としてはいかほどになるのですか?」
木村
「企業秘密と言いたいですが、まあ三木さんのことですから私の仕事はとらないでしょう。20万とか30万というところです。月じゃありません年ですよ」
三木
「20万とすると40時間位で処理しなければペイしないですね。そんな時間でできるのでしょうか?」
木村
「例えば法規制を考えたとき、その業種その会社の環境側面対応で細かく見るとしたら、つまり施行令、省規則、条例などまでチェックすればそれだけで100時間くらいかかりますよ。ですから表面上の大きな法規制とか施行令だけですね。それくらいでしたら他の会社の法規制一覧表をチョチョット転記すれば済みますね。もっとも他社の文書のコピーを渡せば済むわけじゃなくて、自分がパソコンを叩いてエクセルを直して、印刷したとききれいになるように書式を整えてとなると、それだけで1日はつぶれます。おっしゃるように1社当たり40時間ではできないでしょうね。とはいえそういう会社をみっつよっつもっていると助かりますよ。経済的に」
三木
「ISO認証そのものがコモディティ化しているわけだから低価格化、標準化するのは当然で、そうなればそのパーツというかユニットというべきか、文書や記録が互換性を持ち安価で取引されることになるのか。
いや、待てよ、そしたら標準化した法規制一覧表をひとつの製品として売買したらいいような気もするが」
木村
「そこがさじ加減というか個別化というか、オーダーメイドまでいかずともカスタム化が必要なんです。すべての法規制が網羅され、最新状態にあったとしても、それはその会社の環境法規制リストじゃありません。すべてが大事とはすべてが大事ではないといわれるように、すべての法規制があっては、それは・・・組織に適用可能な法規制が特定されていないということになり不適合ですよね」
三木
「いや、その通りだ。つまりさじ加減というのは共通なものでありながら、いかにその会社固有なものに見せるということかな」
木村
「そうです、そうです。真面目に仕事をしたら大変ですから、そう見えるように少しの加除修正でごまかすというか、まさにさじ加減ですよ。
おっと大事なことはそれをすることじゃなくて、短時間でそれを処理することです。法規制一覧表だけでなく全部一式を」
三木
「なるほど、単に審査で適合になればいいというものではないな、審査員やコンサルをする力量とは別の力量が要るね」
木村
「まさしく。内部監査記録だって『不適合ありませんでした』だけでは現実感がないですから、多少の不適合を作り、その是正記録を作り、更に文書改定などをする、そんなことを全部やって20万というのはちょっと安くありませんか」
金勘定
三木は見当もつかない。20万というお金は三木や木村にとっては月収の4割かもしれないが、新卒にとってはひと月分の収入だし、世の中ではそれで一家暮らしている人も珍しくない。パソコンを数日叩いてそれだけの実入りがあるなら悪くはないように思う。

三木
「なるほどなあ〜、私はもうそこまでやるファイトがありません。木村さん頑張ってください。
ところで話は戻りますが、木村さんは63で定年になった後は、契約審査員とそういったISO周辺のお仕事をしていくおつもりですか?」
木村
「そう考えています。実を言ってISOは好きですし、うだつの上がらなかった私がISO担当になってからの会社人生は順調です。私の場合は年金までというのではなく、健康であるなら70過ぎても働きたいと思っています」
三木
「いやいや、歳をとっても元気に働き社会に貢献するのはすばらしいことです。私はそこまでファイトがないというか、自分の好きなことをしたいなと思っています」
木村
「自分の好きなこととおっしゃると、なにか計画をお持ちですか?」
三木
「実はなにもありません。営業時代からずっと休みもなく働いてきましたし、今の仕事に就いてからも土日二日連休を取ったことはめったにないので、できるなら1年くらいボケッとしていたいですね」
木村
「1年もしたらぼけますよ、アハハハハ」

うそ800 本日の振り返り
私は63まで働いた。あのとき嘱託を続けるという決定をしたとしても既に引退していただろう。66になっても通勤電車で朝夕揺られるとか、出張が年に100日もあったのでは疲れてしまうだろうと思う。とはいえISO審査員はそういう日常を過ごしているのだから、大変だろうと推察する。
まあ、私の場合余人をもって代えがたいなんて言われたことはなく、交換可能な歯車でしかなかった。そういう人生でも楽しかったと申しておきましょう。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2015.09.22)
日本国内の製造業は、とにかく中国などの安いモノづくりと戦うために日々現場での改善や効率向上、または賃金の抑制に苦心しています。
なので言っては何ですが、こーゆー「ある意味不毛な」経費が使われることを是認したいという気にはなれないですね。気持的に。
そんなムダ金があれば、もっと現場で働いている人達に還元してあげて欲しいものです。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
ムダ金かどうかってのはまた難しい問題でして、カミさんがいうんですよ、私の稼ぎが少なくて苦しいって(鶏さんの真似)
これは日本だけのことじゃなくて1990年頃欧州でISO9001の普及はホワイトカラーの失業対策だって言われました。
儲かっているところの利益を失業者に分け与えるというのは社会的には重要な意味があります(真面目風)。あなた、シリアなどの難民が欧州に流れてきている、それを受け入れて養うというのは人間社会として当然の行為であります(棒)。
本当かなあ〜?
難民たちは明日死ぬ心配のない安全な暮らしをしたいと思っているでしょうけど、更にはより豊かな国に住みたい、イタリアとかスペインは嫌だよ、ドイツだねえ、ドイツ以外は嫌だよとのたまわる人が多いそうです。そうなりますと人道上と言う問題だけでなく、営利というか、狡さも見え隠れ、いやミエミエでんがな
おっと、ISOについては企業で不要な人材を受け入れるために業界団体が認証機関を作ったわけですから、そりゃその人たちを食わせる仕事を出していただかないと、あなた、困りますよ。
ですから!現場で働いている人達に還元してあげて欲しいなんて言ってはいけません。あなたたちの尊い犠牲、いやわずかな負担をしていただくだけで企業で不要になった管理職たちに生きがいと賃金を与えることができるのですから。
まあ窓際にいてよけいな茶々を入れると鶏さんも日常困るでしょう。その代わりと言っちゃなんですが、年に1日や2日年寄りの愚痴を聞いてあげてください。ボランティアですよ、ボランティア。ガマンガマン


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2015.09.23)
コメント追加です。
「無駄金」というのは、ISOそのものについてではなく、コンサルが「ISO対応」したものを認証機関がチェックするという八百長システムのことです。
現場でチマチマと1円2円の削減をしている身としては複雑な心境ですね。

名古屋鶏さん 毎度ありがとうございます。
それは10年も前に禁止されたはずなのですが・・・まだありますかね?
私の知る限りは認証機関も守っているはずです。JABに関してはですが。ノンジャブはわかりません。

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