審査員物語54 お客様の声

15.10.29

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

審査員物語が始まってちょうど1年になる。1年で54話とは少しペースが遅い。マネジメントシステム物語では1年で83話まで書いていた。以前に比べて足取りが遅いのは私が年を取ったせいだろうか? それとも物語を書くのに飽きてきたからだろうか? ともかく気を取り直して本日も駄文を書く。

今日は午後から都内で審査である。早お昼を食べてから地下鉄に乗れば十分だろうと見積もっている。会社の規則では審査が近場で半日のときは、半日は出社することになっているが、ほとんどの審査員は直行直帰で、会社に来ないのが普通だ。三木は性格というか習慣というか常に会社に来る。営業時代も直行直帰なんてことはせず、遅くなっても会社に戻り机上整理、業務報告をしてから帰宅していた。真面目というよりも携帯もインターネットもない時代の人間だからかもしれない。
ともかく今は机に座り、今日・明日の審査の資料を再確認していた。早お昼を食べるにしてもまだ時間は十分にある。
突然、肩を叩かれた。三木は驚いて顔を上げた。
潮田取締役が立っている。

潮田取締役
「三木さん、先日はお世話になりました。お礼を言おうと思っていたのですが、なかなか三木さんが捕まりませんでして」

先日の件とは島田さんの間違えた判定の後始末に行ったことだろう。
三木
「いえ、仕事ですから」
潮田取締役
「ちょっと話できますか」
三木
「どうぞ、どうぞ。ここでもなんですからコーヒーでも飲みながら」

二人は立ち上がり給茶機でコーヒーを注いでから、それを持って窓のそばの打ち合わせ場に座る。
潮田取締役
「まずは先日の対応ありがとうございました。改めてお礼申し上げます」
三木
「いえ、仕事ですから。それに大した手間もかかりませんでしたし・・・ただ潮田取締役、以前からお話はしていたつもりですが当社では規格解釈とか礼儀作法、礼儀作法といっても頭の下げ方とか敬語の使い方ではなく、もっとベーシックなことですが、そういったことの教育が足りませんね。社会常識的なことをしっかりしない。
今回の問題も判定のトラブルの前に高圧的な態度とかコミュニケーションがとれず心証が良くなかったとうかがいました。真の原因はそこじゃないかと思います。おっと、そんなことは報告しましたね。ともかく放っておくと似たようなトラブルはまた起きますよ」
潮田取締役
「おっしゃるとおりですね。それと三木さんに言われましたね、新規顧客獲得には既存顧客維持よりも5倍のコストがかかるとか、とにかく今の客を大事にしなければならないと思います」
三木
「まあ、私はまもなく引退ですから、この問題は潮田取締役がイニシャチィブをとって改善を図ってほしいと願っております」
潮田取締役
「うん、審査後のアンケートもきれいごとばかりじゃなくて辛口の意見もあるんだ。そういったことに対する今後の方向つけとか三木さんと話し合いたいと思っているんですよ」
三木
「お客様からのフィードバック情報を有効に活用することは大事ですね」
潮田取締役
「三木さん、そう他人事みたいなこと言わないで下さいよ」
三木
「他人事ですよ。あと半年で引退ですからね」
潮田取締役
「えっ、半年ですか? まだ一年あると思っていたのですが」
三木
「冗談はよしてください。もう私の頭は引退後のことでいっぱいです」
潮田取締役
「とはいえ三木さん、完全に引退するのではなく契約審査員とかされるのでしょう」
三木
「確かに現在の年金制度では65歳まで預金を食いつぶしての生活では心細いですし、生きがいなんてことも考えると契約審査員にしていただこうかなと思っております。とはいえフルタイムじゃなくなり審査の時だけとなりますから、会社にはほとんど来なくなるでしょう。潮田取締役とお話しする機会はなくなります」
潮田取締役
「それは残念だなあ」
三木
「話を戻すと、余計なことですがウチは営業が弱いですね」
潮田取締役
「弱いといいますと?」
三木
「営業というのはどんな業種でも同じで単純だと思われているでしょ。つまり新しい顧客を開拓する、現在の顧客をしっかり確保する、売掛金を回収ってことですかね。
でもそれだけではありません。会社とお客様との接点ですから、お客様の要望、苦情、ご意見といったものを積極的に収集し社内に伝える、また当社が持っているお客様に役に立つ情報を積極的に提供してお客様に貢献するということがあると思います。そういったことをきめ細かくしていかないと客を囲い込めません」
潮田取締役
「それはそうなんだろうけど・・・一般的な製品やサービスの提供ではなくウチは審査を提供している。だから営業部よりも審査部、営業担当者よりも審査員がお客様に近いということになり、当然そういった一般には営業が行うべき仕事は審査部や審査員が担っていると思うけどね」
三木
「営業活動は営業部がしなければならないということもありません。ただそういう機能がなければならないということです」
潮田取締役
「そうなんだろうけど・・・実際は審査員からはそういった情報のフィードバックはほとんどない。また我々が情報発信しようとしても審査員から伝達するというのも実際問題として難しい。結局、年に数回開催している顧客を招いた講演会程度になってしまうね」
三木
「客からの苦情や提案はどうなんですか?」
潮田取締役
「そういう情報が来ないんだよね」
三木
「審査後のアンケートがありましたよね。どんなことが書いてあるのでしょう?」
潮田取締役
「先日も言ったと思うけど、通り一辺というか当たり障りのないことだけだよ」
三木
「話は変わりますが、審査前に審査員を提案した時に、審査員を変えてくれという要望はどれくらいありますか?」
潮田取締役
「うーん、それは営業部はタッチしていないのでよく知らないな。取締役会で雑談で出たことがあるが、あの時の話では100回に2・3件くらいらしい」
三木
「そいじゃ、ハインリッヒの法則からは、ほとんどの会社で不満があるということですかね? つまりアンケートに書かれた2・3件の問題の29倍の書き込まれなかった不満があり、300倍の小さな不満がある。すると1社当たり3件の不満があることになります」

ハインリッヒの法則のイメージ図

重大災害 1件
軽微な災害
29件
災害に至らない事象
300件

潮田取締役
「まさか・・・いや、しかし、先日の島田さんのようなトラブルが1で、書き込んだものが29にあたるとすると、不満全体は20か30になるのだろうか?」
三木
「お客様のウチに対するイメージを知りたいですね。なにごともデータがなければ対応が難しいでしょう」
ドーナツ
潮田は頭の後ろで手を組み合わせて考えているようだった。
三木は腕時計を見る。もうそろそろ昼ご飯を食べに行かなくてはならない。審査なら何千歩も歩くが今日はオフィスでパソコンを叩いていただけだ。昼は軽めのものにしよう。そばでも重そうだ。コーヒーとドーナツくらいでちょうどかなと思う。道路の向かいにあるスタバでスコーンを食べようか。


1週間後、三木が自分の来月の審査予定を見ると以前より大幅に減っている。まさか認証企業が減ったわけでもないだろうに、どうしたのだろうか?
会社にいても特段仕事がない。めったに会わない人と雑談していると潮田取締役から会議室に呼ばれた。
行くと潮田取締役のほかに伊田取締役と営業の住吉課長の三人がいた。
三木
「これはみなさんおそろいで、今日はどんな難題ですか?」
潮田取締役
「三木さんに審査員とは違う仕事をしていただきたいと思いましてね、今日はそのお願いというわけです」
肥田取締役
「いや、違う仕事をしていただくのではなく、違う仕事もしていただくということですよ」
三木
「違う仕事といいますと?」
潮田取締役
「先日、三木さんから指摘されたウチは営業機能が弱いということですが、なんとかそれを強化しなければならないと感じました」
三木
「営業の強化?」
潮田取締役
「三木さんと話す前はとにかくお客をとるにはどうしようかという発想でした。しかし三木さんから新規顧客よりも既存のお客様を維持することが大事ということを伺いました。そして既存のお客様がウチをあまり評価していないということも。新しい客を取ろうとして足元の既存の客に逃げられては元も子もありません」
肥田取締役
「そんなわけで三木さんに顧客とのコミュニケーション強化をお願いしたいのだ」
三木
「はあ?」
潮田取締役
「それででしてね、三木さんには審査員もしていただくのは変わりありませんが、事務方に来月から審査の仕事を今までの三分の一くらいにしてもらいました。
まずお願いしたいのは現状のお客様のご意見、苦情というものを分析していただいてひと月くらいで報告をまとめてもらいたいのです。
次のステップは当社の評価を上げるためのアクションプランを考えてほしいのです。もちろん三木さんに丸投げというわけではなく、この4人で適時打ち合わせ方向を決めていくつもりです。
いかがでしょうか」
肥田取締役
「三木さん、とりあえず無役でも動きにくいだろうから営業部副部長になっていただくことにした」

住吉が素早く名刺の箱を取り出して潮田の前に置く。
潮田がそれをとって三木の前に置く。
潮田取締役
「辞令というのはないのですが、これからは社内外で副部長を名乗ってください。」
三木
「いや、全く予想もしていないことで驚きました。私はあと半年で引退するのですよ。そのような今後の方向に関わる仕事は責任重大で、間もなくここを去るものとしては請け負えません」
肥田取締役
「いやいや、三木さん、社長とも話したんだが三木さんには退職せず現職を継続してもらおうということになったのですよ。63歳を超えても子会社の社員の身分のままでお仕事を続けていただきたい」

三木は斜め上方を見上げてそろばんをはじいた。確かに会社のイメージというかそういう調査分析をするのは面白そうだ。出歩く仕事が減れば肉体的にも楽になるだろう。それにこれからの健康保険や年金までのことを考えると契約審査員として働くよりも分はよさそうだ。
しかしルーチン業務の審査と違い自らが企画して成果を出さなければならず、中途半端に責任だけ押し付けられると貧乏くじを引く恐れもある。うーん、どうしたものか
潮田取締役
「まあ、先のことはともかくとして、当面の課題をお願いしますよ。三木さんの見識で素晴らしい報告書がまとまることを期待します」
肥田取締役
「三木さん期待しているから」

ということで三木は押し切られたのである。


先日、新しい仕事を依頼されてから三木の審査は月に7日程度となり、それも日帰りか移動が楽なところに限定された。その辺は結構気を使っているのだろうと三木も思う。
まず三木が始めたことは、過去数年間の審査後のアンケートを見ることだった。ISO審査が始まってから20世紀末までは審査員は神、絶対者であり、企業側が苦情を申し立てるような雰囲気ではなかった。審査あるいは審査後に認証機関に苦情を入れても、「おまえは何を語っているんだ」といわれるのが常であった。
注:
「おまえは何を語っているんだ」とはネットの世界では空気が読めず見当違いのことをいう人を黙らせるときにいう決まり文句。プーチンの写真がバックにあることが多い 
しかし21世紀になると、どの認証機関も審査後にアンケートをするのが当たり前になった。少しは顧客満足を考慮するようになったのだろう。
注:
考えてみると、ガイド62やガイド66の時代は顧客満足という観点での認証機関への要求はなかった。のちにISO17021になってはっきりとと組織が顧客であるとなり、顧客満足を図ることが要求事項となった。まあ、元々は購入者あるいは世の中に対する品質保証というのが発祥だったから当然なのだろう。
とはいえ、異議を認めないなんて態度はいずれにしてもおかしいのはおかしいし、公平性に欠ける。なによりも組織側より審査側のレベルが低いことが多々あり、客観的に見れば笑いものだ 

もっともアンケート結果を公開しているところはすべて素晴らしい評価を得ていますというところばかりである。アンケート結果が素晴らしくないところは公開していないのか、あるいはアンケートはフィードバックのためでなく宣伝用なのか?
アンケートの方法も内容も種々雑多である。審査員がアンケート用紙と封筒を置いて後で郵送してくださいというところもあるし、ウェブサイトから入力するところもある。そしてその設問も各社各様である。
私は数社しか知らないのでネットでググってみた。5段階で該当するところに✔印をつける方式もある。文章でコメントを記載する方式もある。設問そのものがなく白紙に自由記述のところもある。

質問の切り口としては
  • 認証機関全般について
  • 審査全般について
  • 窓口の対応
  • 審査員の対応・コミュニケーション状況
  • 審査員の力量
  • 満足度について
というものが多い。

述べたようにアンケート結果をウェブにアップしている認証機関も多々あるが、それが真実なのかアンケート結果のすべてなのかわからない。
 ワカラン
ワカラン
だいぶ前に審査所見報告書の記述の一部のみをウェブにアップしていた企業か自治体があって、そこを認証していた認証機関が掲載を止めさせたことがある。所見報告書の一部利用はルール(JAB基準他)に反しているが、アンケート結果が正しいのか企業のコメントすべてなのかはわからないし、都合の良いところだけをつまみ食いしてもルール違反ではないだろう。カフェテリア認証ならぬカフェテリア広報とでもいうのだろうか。
三木は他社の広報をみてそんな皮肉が頭に浮かぶ。

ナガスネ環境認証機構の場合は、5段階評価で一番最後に自由記載欄がある。実際には回答の9割以上はコメント欄が空欄である。
5段階評価のほうを見ると、ほとんどが上から2番目つまり4点である。1割程度が満点(5点)と中間(3点)で、たまに2点があるが、1点はない。
これを審査が高く評価されているとみるよりも、可もなく不可もないとみるのが正しいのだろうなあと三木は思う。1点上方にずれているのは企業が認証機関に気を使ったことによるバイアスだろう。

No. 質問 1 2 3 4 5 コメント
1 審査前の連絡などは良好でしたか?
2 審査員の提案・選定は良好でしたか?
3 審査スケジュールについて御社のご意向は反映されましたか?
4 ・・・・・・・・・・・・・・
5 ・・・・・・・・・・・


数少ない自由記載欄の記載を読むと、お褒めの言葉が過半を占める。
  • 審査日程及び審査部門の選定の相談にのっていただきありがとうございました
  • 審査でのコメントが問題を的確に捉えていると思いました
  • 審査員が穏やかな物腰で挨拶もはっきりして礼儀正しい
  • 業界の流れを把握しており、当社が困っている点や改善していることを充分に理解していただきました
見方によれば、誉めるところがないのになんとか誉めようとしているようにも見える。
だがよく見るとオヤッというのもある。
  • 他の認証機関を知らないので質問の回答に困ります
  • 審査料金が高いのか安いのか分からない。
  • 審査員の質問が理解できないことが多々ある。
  • 審査員の態度やスキルの水準がわからない。
  • もう少し会社規模に合った柔軟さが欲しかった
  • 指摘ばかりでなく良いところも評価していただき良かった

次のようなものは過去の審査員はダメだったということだろう。
  • 最近は審査員も丁寧な言葉使いをするようになった
    過去の審査員は乱暴な言葉使いだったのか!
  • 今回の審査員は業界のことをよく勉強されており、質疑が円滑に進んだ
    今までの審査員はその業界特有のことを知らなかったようだ
  • 今回の審査員は排水処理装置の内容をご存じだったので説明しやすかった
    排水処理装置があるのに勉強もせずに審査に行ったのか!
  • 審査リーダーは穏やかな方で冗談もおりまぜて始終和やかに進み良かったです
    今までの審査員はストリクトな性格というか口調だったのか!
  • 礼儀正しい、誠実さを感じた
    オイオイ、礼儀知らずで不誠実な審査員を派遣していたのか?
  • 質問のされ方が分かりやすく理解しやすいものでした
    質問するとき相手の反応をみて話をしていないのか?

次のようなものになると審査員がルール違反と思われる。もちろん企業が真実を書いたとしてだが
  • パワーポイントで見せていただいた他社の取り組み事例が大変参考になった
    他社の事例を説明することは情報漏えいであり、かつ審査で指導が禁止されていることに反するのではないか
  • 現在のライン不良について対策を教えていただいた。
    上記に同じ
  • 文書の作成方法について分かりやすく教えてもらった
    上記に同じ
  • 他社の目的目標の事例を教えていただき参考になりました
    前出
  • 他社の改善例を伺うことが出来て参考になった

そして中にはこれは即対応しなければならないなというものもある。
  • 審査終了後、審査員から有名菓子店まで送迎を頼まれ、迷惑した
  • 不適合を出されたが当社は不適合ではないと同意しなかったが、最終的に審査員が決定するといわれやむなく飲んだ
  • 判定委員会に必要といわれて数十ページの社外秘の資料を提出させられた。
  • 判定委員会のためといわれて活動状況を説明するためのパワーポイントやグラフの作成を要求された。
    いけません 審査が終わるまでに間に合わなかったので、後日電子メールにて送信した。作成に15時間を要した。企業に負担をかけないでほしい。
  • 記録様式について前回審査で修正を求められ対応したが、今年の審査で前のほうが良かったから戻せと言われ対応した。なお、今年の審査員は昨年の方とは異なった。
    こういったものには今まで営業はどんな対応をしていたのだろうかと三木は怒りを感じた。
  • 審査員によって規格解釈が異なるように思える。統一してほしい。
  • 審査員の独りよがりの自慢話が多すぎる。
  • 改善の機会というものが改善や課題解決に繋がる内容ではない。次回までにぜひ実行してほしいと言われたが、企業側は拒否できないのか。

アンケートの回答を総合すれば、ナガスネの審査は素晴らしいと思われるレベルではないようだ。それどころか顧客満足という観点では問題であるレベルだろう。それにまた過去から現在までのナガスネの審査しか受けていない企業が9割以上であり、他社との比較という観点がない。だからその評価点は単なる感覚でしかない。絶対値でもなく相対値でもないのだ。そして誉められたにしても批判されたにしても、礼儀や態度の問題、規格解釈の問題、審査以外に「余計なことをしている/させている」ということがうかがえるのであった。
シニカルに言えばナガスネの審査は顧客企業に迷惑をかけまくっているように思える。ナガスネ環境認証機構を他社に推薦してもらえるかという設問があり、そこでは勧めるというのが過半を占めているが、実際はどうだろう。
本音は No という回答が過半を占めるのではないだろうか?


気分転換も兼ねて三木は住吉課長と話をする。
職階が権限とリンクしていない会社だから課長とか副部長といっても単なる呼称に過ぎない。実質的に決裁権限を持つのは部長職にいる取締役だけで、課長、副部長などは単なる名誉か対外向けの呼称に過ぎない。当然賃金とも上下関係とも無縁である。
三木
「住吉課長さん、お借りした審査後のアンケートを読んでみたところですが、けっこう苦情がありますね。ああいったものに対してどのような対応をしているのでしょうか?」
住吉
「まあ数の中ですからねえ〜、最近のことと言えば・・・・そうそう審査の後、有名なみやげもの屋に連れて行けと言われたというのがありましたね」
三木
「ああ、ありましたね」
住吉
「これは審査の間違いとかではありませんから変に話が広まったりするとことだなと思いまして、私が菓子折りを持ってその会社に伺いました」
三木
「ほう、それはご苦労なことで」
住吉
「お話を伺うと、審査が終わった後に土産に菓子を買って帰りたい、ついてはその店まで案内してくれとを言われたそうです。ところがそのとき既に5時過ぎ、審査員は6時過ぎの電車に乗るということで、とても時間的に無理だから後日そのお菓子を審査員宅に送るからとまっすぐお帰りくださいと言ったそうです」
三木
「それも問題ですな」
住吉
「審査員側にとっては倫理上問題ですな。会社側としては精一杯の対応でしょうね。ところがその審査員は今日持って帰らなければだめだと言い張るばかり。仕方がないので社有車でその土産屋に連れて行ったそうです。ところがたまたまそのお店がお休みで、急いで引き返してなんとか間に合ったという顛末でした」
三木
「その会社に対してはどんなことをしたわけですか?」
住吉
「ですから私が菓子折りを持ってお詫びをしたということですが」
三木
「会社として謝罪と今後の対策などを伝えておかないといけないんじゃないですか」
住吉
「そう言われるとそうかもしれませんね。まあ、先方としては私に対してもう結構ですとおっしゃったので良いかなと思いましたが」

三木は住吉課長も少しおかしいというか常識がないだろうと心中思う。
三木
「その審査員に対して社内的な処分というのはあったのですか?」
住吉
「処分? そんなことできませんよ。その審査員は契約審査員でしたので変なことをしたら即やめたでしょう。しかも一人ではなく取り巻き数人と一緒にほかの認証機関に鞍替えしたと思います」
三木
「えっ、お咎めなしですか?」
住吉
「本人には手の打ちようがありません。社内に対しては本来ならば『接待を受けないだけでなく、お土産やとか観光地に案内など依頼しないように』という通知するところでしょうけど、角が立つと思いまして、いえ私の一存ではなく潮田取締役と相談した結果ですが」
三木
「なるほど、営業課長もクレーム対応でご苦労されているのですね」
住吉
「そうなんですよ。その他にもありますよ。ええと、これは半年くらい前でしたが、幹事審査員が審査資料を審査を受ける会社に送ったのですが、それがその会社のものではなく別の会社の資料を誤って送ってしまったのです。
別の会社の資料を受け取った会社では、自分の会社の資料がほかの会社に送られたのではないか、そうでなくても情報管理はどうなっているのだとお怒りでした。資料といっても時間割を書いた審査スケジュールだけでなく、過去の不適合の処置とか社内の環境側面と言えば設備や使用電力量や配置図、組織図など社外に出すべきではないものがたくさんありましたからね」

三木は以前自分も同じことで社外からの苦情電話を取ったことを思い出した。あれはもう2・3年前になる。今でも同じことが起きているのかとある意味感動した。
三木
「私もそういう苦情を受けたことがありました。おっと、私のチョンボではなく、他の方がミスしたのですが苦情の電話を取ったのがたまたま私でした」
電話
住吉
「おお、今私が申し上げたのもアンケート結果ではなく、その問題が起きた時電話で苦情が入ったのですよ」
三木
「私が電話を受けた時はひたすら謝って電話を切り、そのあとの処理は営業に依頼しました。住吉課長さんがここに出向される前のことでしたね。
住吉課長さんはその問題をどのように処理されたのでしょうか?」
住吉
「すぐに間違いをした審査員はわかりましたので調べたところ、その会社の資料はほかに送付していないことがはっきりしました。それでその旨その会社にご報告して一件落着した次第です」

三木はそんなことで一件落着したんじゃ時代劇ならお白洲の場面になる前に終わってしまうぞと心の中で思う。
三木
「なるほど、大変ですね。今のお話では半年に一件くらい問題が起きているわけですか?」
住吉
「いやいやとんでもありません。これは問題だと思うようなものは月に1件はありますよ」
三木
「それじゃ住吉課長さんも大変ですね」
住吉
「そうなんですよ。実を言いまして営業部というのは部長を除いて5名おりますが、このような苦情処理で二人分くらいはかかっているのです。新顧客開拓の活動どころではありません」
三木
「こんなことを言っては失礼ですが、過去の問題やアンケートに書かれたようなことに対して再発防止処置をしっかりとれば問題が起きなくなるような気がしますが」
住吉
「私は出身会社では営業といっても事務をしていましたし、他の者もものを売るのは専門家ですが、そのようなことにはまったくの素人でして。不良対策の専門家でもいればよろしいのですが、」
三木
「ウチにはISO9001の審査員なんて掃いて捨てるほどいるでしょう。つまり品質管理とか品質保証の専門家なんだから、そういう人を集めて対策しろと言えばおしまいじゃないですか」
住吉
「三木さん、ここには講釈を語る人はたくさんいますが、手足を動かす人はまずいませんし、実際に仕事ができる人は皆無ですよ」

うそ800 本日のノンフィクションとフィクション
ものを書くとき想像だけでは書けません。発生した事象にはすべて元ネタがあります。ただ企業の立場の私とチャンチャンバラバラする前に、認証機関内部でいかなる議論があったのかはわかりませんのでそこは私の想像というか思いつきで書いてます。しかし私が引退する2012年まで顧客満足についてはほとんど改善が見られなかったは事実でございます。



ブログでの名古屋鶏様との掛け合いを転載しました(2015.10.30)
どんな業種でも問題があればひとつひとつ原因を追究し再発防止をしっかりすれば
まったくもってその通りですね。そう言えば、ウチに来ているISOの審査員も常々そう申しておりましたっけ。

名古屋鶏さん
話すことの半分もできたら素晴らしい人だという話を聞いたことがあります。読める漢字の半分書けたらすごいのとおなじでしょうか?

お客様の声
「建前上、仕方なくやってるけどサッサと返上したい」

名古屋鶏さん
まじめな話、お客様の声をまじめに書いている会社ってどのくらいありますけね?
私が以前勤めていた会社では、部長が審査員の気を悪くしてはいけないと一語一字チェックしていましたね。なんせ私を信用していませんでしたから。ですから毎回美辞麗句のオンパレード、あんなのをお客様の真意だとでも思っていたのでしょうか?
会社を変わって、言いたいことをかけと言われたのが新鮮でした。

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