審査員物語56 ヒアリング

15.11.12

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三木は審査後のアンケートに、賛否はともかくいろいろ書いてくれた会社にインタビューしてみようと考えた。アンケートに何も書いていない会社は、アンケートなどどうでもいいと考えているわけで、それはとりもともさず審査を重要視していないということだろう。他方、文字数をたくさん書いたということは審査に思い入れがあるのか、認証機関に言いたいことがあるのだろうと思う。いずれにしてもコメントがあるなら、その会社の意見を聞くのはそれなりに価値があるだろうと思う。
とはいえ遠隔地までは行けないので、都内かせいぜい電車1時間圏内から10社程度選んだ。今日はその第一日目で会社から片道30分程度の会社三社を訪問するアポイントを取っていた。


ここは大田区の工場地帯の中にある従業員が数百人の中堅規模の製造業である。工場に入ると切削油のこげた臭いがする。三木にとってそれは決して不快な臭いではない。三木は守衛に教えてもらい環境部門の現場事務所を訪ねた。たどり着いたところは、戦前からあるような木造平屋のボロ屋だった。建てつけの悪い木製の引き戸を開けると、作業服を着て机の上にヘルメットを置いて図面を見ている大学か高専を出たばかりのような若者が一人、30前の女性が受話器を首で押さえて話しながら伝票をめくっている。入口にあるテーブルには色の違う作業服を着てベルトに工具をたくさんぶら下げた人がお茶を飲んでいる。どこの現場事務所もこんな感じだと三木は思う。
女性が受話器を置いて立ち上がり三木に声をかけた。

女性事務員
「ハイ、いらっしゃいませ」
三木
「ナガスネ環境認証機構の三木と申します。山野辺課長にお会いするお約束をしております」
女性事務員
「あっ、三木部長さんですね、承っております。山野辺は只今現場に出ておりますのですぐに呼び戻します。お待ちください」

女性が構内用のPHSで話が済んだのをみて、三木は来る途中の店で買った菓子を女性に差し出す
女性事務員
「まー、ありがとうございます。いまどきは訪問の際にお土産をお持ちの方なんていらっしゃいませんよー」
三木
「いえいえ、こちらからお願いしてお会いしていただくのですから」
女性事務員
「まあどうぞお座りください。」

女性はお茶を飲んでいた男性の隣の椅子を引いた。
それと同時にお茶を飲んでいた工具をぶら下げた男が立ち上がった。
男
「そいじゃ俺は仕事に行くとしよう。ごちそう様、ミヨちゃん」
女性事務員
「西田さんどうもすみませんでした、またお願いしますね」

ほどなく三木と同じくらいの年配の人が現れた。
三木は立ち上がった。
課長らしき人はヘルメットを脱ぎそれを壁の釘にかけた。
山野辺環境課長
「三木さんですか、いつもお世話になっております」
三木
「いえいえ、お世話になっておりますのは私どもの方です。いつも弊社をご利用いただきましてありがとうございます」

名刺交換をして傷だらけでくたびれた机に向かい合って腰を下ろした。
山野辺環境課長
「本日は審査後のアンケートについてお聞きしたいとのことでしたが」
三木
「はい、ざっくばらんな話、審査でいろいろと問題があると聞いております。私どもでは審査の改善をしようとアンケートをしていただいた会社様にその状況などをお聞かせいただきたいと訪問させていただいております。
おっと、いうまでもありませんがこの訪問と審査とは全く無関係で、本日お聞かせいただいたことは弊社の改善のために使わせていただくということです」

事務の女性がお茶とお菓子を持ってきた。
お茶
女性事務員
「課長、お客様からお菓子をいただきました」
山野辺がお礼を言う。

三木
「実を言いまして、審査後のアンケートにはかなりいろいろと問題が書かれていましたが・・・」
山野辺環境課長
「アハハハ、ちょっと正直に書きすぎましたかね。今年の審査ではいささか社内的に問題になりましてね。とはいえ書いたところでどうせ特段反応もないと思っておりました。まさか部長さんが直々にお見えになるとは思ってもおりませんで」
三木
「いろいろとあったとおっしゃいますと?」
山野辺環境課長
「お見えになられた審査員の方、ええとなんて言ったかなミヨちゃん」
女性事務員
「小浜さんだと思います」
三木
「小浜・・・ですか?」
山野辺環境課長
「そうそう、小浜審査員さんだったね」
三木
「小浜が何を・・・」
山野辺環境課長
「横田、そこに座っている若いやつですが、そいつが主に審査の対応をしたんですがね、小浜審査員さんが横田を何て呼んだかわかりますか?」

三木は山野辺の口調からただ事ではないなとは思ったが、想像つかなかったので首を振った。
山野辺環境課長
「坊やって呼んでたんですよ」
三木
「坊や・・・ですか」
山野辺環境課長
「いやしくもよそ様の会社を訪ねてそこの担当者を呼ぶとき、いくら若いからといって『坊や』と呼ぶ人がいますかね。それも客ならともかく客はこちらです」

これは私自身の経験である。某社の認証指導をしていて審査の際に立ち会った。やって来た審査員は60を過ぎた方で事務局の若者の名前を憶えなかったのか覚えようとしなかったのか、それとも名前を呼びたくなかったのか、「坊や」と呼んでいた。
初めは呼ばれた方も私も「ボウヤ」という音が何を意味するのか訳が分からなかった。しばらくして「坊や」という呼びかけであったことに気が付いた。
翌日本社に帰った私はその認証機関に電話して取締役に出てもらい、その話をした。その取締役は「いけませんねえ〜」と言ったが特段なにをしたとかいう報告もなかったしその後その会社に謝罪とかもなかった。あれから5年位になるが私はその審査員と取締役のご芳名を忘れない。
女性事務員
「すみません、失礼とは思いますが私も発言してよろしいですか?」
山野辺環境課長
「ミヨちゃんも言いたいことがあるんだろう、言いなよ」
三木
「伺います」
女性事務員
「工場長のインタビューの時、私がお茶をお持ちしたのですが、あの方、あっ小浜さんは工場長を同僚か同期のような感じの口をきくんですよね。工場長のほうがはるかに年上でしかも工場長ですよ。偉いとか敬えという意味ではないですが、ビジネスとしての礼儀はあるでしょう。尊敬語どころか丁寧語も使いませんでしたわ。もちろんお二人が以前から知り合いだったとかはありません」
山野辺環境課長
「うーん、あのとき俺はもう一人の審査員の方が公害の届けがどうとかで席を外していたんだが、あとで工場長からちょっと言われたよ。ああ、うちの工場長は細かいことを気にしない人なんだがね、あのときはちょっとカチンと来たんだろうなあ」
三木
「さようですか、それはアンケートには書いてありませんでしたね」
山野辺環境課長
「アハハハハ、そこまで書いたら小浜さんも困るかと思ってね」
三木
「それはお心遣いありがとうございます」
女性事務員
「さっきまでここに座っていた方いたでしょう。構内外注で細かい仕事をしてもらっているのですけど、私たちはそういった人たちにだって失礼な言葉使いしないように気を使っています。彼らは差別されたりしても口にはしませんがものすごく気にしますからね。おっと私もパートなんですが、課長も横田さんも丁寧語を使ってくれますよ」
山野辺環境課長
「まあ社会常識ってやつでしょう。昔ながらに名前を呼び捨てとか貴様なんて言ったら非難ごうごうですよ、今の時代」

1時間ほど山野辺課長とミヨちゃんから過去の審査員(s)のご乱行を聞かされた。
三木は聞かせていただいたことについては必ずや改善を図ると答えてその工場を後にした。


二つ目の訪問先は川崎にある。川崎と言ってもひとつめの訪問先から京急で二つ三つ先の駅のそばにある。やはり従業員数百人の工場である。
受付で来訪を注げるとすぐに環境担当者が現れた。その担当者の顔をみて三木は何年か前に審査で伺ったことを思い出した。そしてそのときも規格解釈でもめたことも頭に浮かんだ。
来客と打ち合わせるための3畳ほどの小さな応接室に案内された。
担当者は武内設備課長と名乗った。三木は名前を忘れていた。
武内設備課長
「三木さんとは何年か前にお会いしたことがあると思います」
三木
「武内さんのお顔を拝見して私も今思い出しました」
武内設備課長
「あのとき三木さんは審査員をされていましたが、今は営業部なのですか?」
三木
「まあ小さな会社ですから一人二役三役です。営業と言いましても販売というかお客様を獲得するのではなく、顧客満足向上といいますかそんなことを担当しております」
武内設備課長
「そう願いたいですね。三木さんがいらっしゃった時のこと覚えていらっしゃいますか?」
三木
「はい、覚えております」
武内設備課長
「審査で不適合だ、不適合でないと議論になりましたね。あのとき主任審査員という方が私が絶対だとおっしゃってましたが、翌週に異議申し立てをすると一瞬にして私どもの言い分が通ってしまいましたね。あれはどうなんでしょうねえ〜」
三木
「誠に申し訳ありません。あのときは私も参加しておりましてご迷惑おかけしました」
武内設備課長
「まあ誰にでも間違いはあるでしょうけど、なんかもう・・・
あれから7年になりますか、昔、貧乏人の子供でも3年経てば3つになると言ったもんですが・・」
三木
「誠に申し訳ありません。今回も御社から頂いた審査後のアンケートにいろいろとコメントがありまして詳細を伺いたいとお邪魔したわけですが・・・」
武内設備課長
「今の審査でも規格解釈でいろいろと議論があります。以前は審査員は絶対だということのほかに、我々よりも詳しいという思い込みがありましたが、あのときのやり取りの結果、我々の考えだって間違ってないじゃないかという思いが強くなりましてね、今は審査員と知識も権利も対等と考えて議論しています」
三木
「おっしゃる通りでよろしいかと思います」
武内設備課長
「今年もいろいろありましてね」

武内は楽しそうに話し出した。だんだんと三木は以前武内と会った時の様子を思い出してきた。あのときは不適合がふたつあった。環境目的と環境目標のそれぞれの環境実施計画がないというものがひとつ、それからあとひとつはなんだったろう?
10年ひと昔というけれど、担当者も課長になるだけの時間が過ぎたのだ。あのときの武内氏は小心というか緊張していたが、今回はくつろいで自由に考え自由に語っているように見える。
武内は審査員と見解が異なった事例をこれでもかこれでもかと提示した。三木はメモをしながらいやはや問題は多いなと思う。
武内設備課長
「規格解釈でお互いの見解が異なることはもう問題ではありません。審査側も無理を通そうということも少なくなりましたし、俺が言うのが正しいなんて思わなくなったようです。
でもね、最近はまた別の問題が多くてですね、難題は尽きません。たとえばアドバイスというのか改善の機会というのか、そういうことで困ることが多いですね」
三木
「と言いますと」
武内設備課長
「三木さんも以前は企業で働いていたと思います。どんな企業でも問題はあると思います。問題って、例えば物が売れないとか旧型品の在庫が片付かない。製造だってライン不良がおさまらない、機械の故障が散発する、あるいは補修部品が入らない。会社ではそんなのが日常ですよね。そこに外部の人が来て一目見ただけで解決できるなんて言ったら、はっきり言って詐欺師か天才ですよ。天才はめったにいないから天才なのであって、普通そんなことを語ったら詐欺師かうそつきに間違いないです。ISO審査員はどっちなんですかね?
あっ、ウチに審査にお見えるなる審査員の方は常にそういうことを言いますからね」

三木は体を固くして武内の語るのを聞いていた。
武内設備課長
「それと誰が見ても改善しなくちゃならないこともありますし、改善できることもあります。でも改善しないと決めたものもあるわけです」
三木
「改善しないと決めたとは?」
武内設備課長
「Aの改善をすれば50万の効果があり、Bの改善をすれば30万の効果があるとします。今年はAの対策をするがBはしないという会社方針もあるわけです。なにせなにをするにもお金がかかるわけで、資金が無制限にあるわけではありませんから、投資すると決定したことがあるということは、投資すべきでないと決定したこともあるわけです。
外部の人が来てそういう事情を知らずに、なぜBを対策しないのかと怒鳴ってもしょうがありません」
三木
「怒鳴るのですか・・・」
武内設備課長
「今年来た審査員はまさに鬼の首を取ったように怒鳴っていましたね」
三木
「なるほど、審査員に余計なことを言わないように徹底しましょう」
武内設備課長
「先ほど言いましたようにここ2・3年は規格解釈でもめることは少なくなりました。もめてもゴリ押ししないようになりました。それは、まあ改善ですかね。
でもね、役に立たないアドバイスも止めてほしいですね」
三木
「つかぬことをお聞きしますが・・・・御社がISO認証を継続しているのは何のためですか?」
武内設備課長
「アハハハハ、そうですね、認証返上というのがあるべき姿かもしれません。でも付き合い、横並びというのがあるじゃないですか。義理ですよ義理」



本日三つ目の訪問先は日本橋にある薬品販売会社の本社である。貸しビルの3フロアだけの規模であるが支店と営業所があり、全体では拠点数30数か所、総人員1000人以上になる。
総務課長が三木の相手をしてくれた。
三木
「審査後のアンケートを拝見しまして、お話を伺いたいとお邪魔いたしました」
菅原総務課長
「御社も大変ですね」
三木
「大変といいますと?」
菅原総務課長
「いやさ、ウチも新人は宇宙人よ、常識が通用しません。いやいや、常識とは共有されている価値観でしょうから今は常識が変わってきたというべきなのでしょうか」
三木
「はあ、しかし御社の新人は大学とか高校を出てきた若者でしょうけど、弊社の新人は一般企業で20年とか30年仕事をしてきた者ですから、そこんところは・・・」
菅原総務課長
「ハハハハ、じゃあなおさら御社は大変なわけですね」
三木
「だからこそ今ここにいるわけです」
菅原総務課長
「三木部長も大変ですね」
三木
「御社のアンケートには審査でのトラブルがいくつか書かれていましたが、ちょっと審査の問題というのとは違いましたね」
菅原総務課長
「審査の問題と違うというか、書いたことが審査の問題なんだが」
三木
「いえ、ふつう審査の問題と言えばISO規格の解釈とか要求事項を満たしているかいないかという議論なのですが」
菅原総務課長
「なるほど、ウチにとっては書いたことが審査での問題ですね」

三木はコピーしてきた資料の一枚を菅原課長に渡した。
三木
「ええと審査員が認証したい企業のあっせんを依頼と・・・」
菅原総務課長
「まあ審査員も営業をするというのはわかりますが、ちょっとくどいですよね。それとここだけの話ってやつですが、御社の審査に来ているはずですが他の認証機関の紹介をするからコンサルをしてもいいんだとか訳の分からない話でした」

三木は頭をめぐらした。ウチの契約審査員がほかの認証機関を紹介し、自分がその会社のコンサルをするということのようだ。賢いというかずるいというかと思って、スマートとは賢いという意味とずるいという意味があるのを思い出した。

スマートというと日本ではスタイルが良いというか細いという意味で使われているが、本来は賢いとか器用とか抜け目のないという意味である。「スマートな人ね」と言われてうれしがってはいけない。

三木
「なるほど、審査員の倫理規定すれすれですね。それとは別に当社との契約では不誠実として処罰対象になるかもしれません」
菅原総務課長
「倫理規定とか御社の就業規則などは知りませんが、我々としては嫌な思いもしましたしなによりも無駄なことに時間をつぶしてほしくありません。我々は審査員に1秒当たり5円払っているのです。ウチの社員の平均賃金は1秒当たり1円にもなりませんよ」
三木
「おっしゃる通りです。
それからどのような問題がありましたか?」
菅原総務課長
「審査が終わってから駅まで送ってくれとか言われましたね。確かにここはJR駅までは歩いて数分ですが地下鉄までは10分くらいかかりますか。まあ普通の感覚なら十分に近いでしょうけど」
三木
「地下鉄駅まで社有車で送られたということですか」
菅原総務課長
「いえいえ、そんなことするわけありません。お断りしましたが。
それとこんなこと言っていいのかどうか・・・ウチを審査した記念にとお土産を乞われました」
三木
「それは重大問題ですね。高価なものですか?」
菅原総務課長
「値段というよりか希少価値といいますか、ウチはこのとおり本来は薬品販売ですが、実際には防虫剤とか防臭剤とかその周辺の品物もいろいろあります。まあこういった商品の特徴としまして季節で大きく変わりますし、その都度キャンペーンをするわけです。商品に添付する景品から、店頭展示するときの小物類、ポスターなどありまして、その審査員は店頭展示用の小物、小物といってもまあ結構大きな動物の人形なんですが、それをご所望されましてね」
三木
「それを・・・・で、いかがされたのでしょうか?」
菅原総務課長
「気分よくお帰りいただこうと営業に倉庫から持ってきてもらいました。倉庫っていっても浦安ですよ。倉庫に連絡して浦安駅まで持ってきてもらい、若いものに浦安駅まで行って来てもらいました。まあ我々も急ぎの時はよくやる手で慣れていますが。
販促品といっても出せるものと出せないものがありましてね、世間で売買されるようなことがあると問題なのですよ。人気のあるものはプレミアムがついてマニアから苦情が来たりしまして、社内的にも厳しく管理しているのです」
三木
「誠に申し訳ありませんでした。次回ははっきりとお断りいただき即弊社に連絡いただけないでしょうか」
菅原総務課長
「そういたしたいですね」
三木
「その雰囲気では何か支障がありそうですが」
菅原総務課長
「過去より審査のたびにそういうことがあって、審査員が替わっても毎回要求されていましてね、急に断るのもしにくいというか」

三木は苦虫をかみつぶした。

菅原は表まで三木を送ってくれた。歩道が広く、石で造られたスツールのようなものが点在している。菅原はその一つに座って三木に声をかけた。
菅原総務課長
「三木さんちょっと座りませんか」

三木の営業時代、打ち合わせの後にコーヒーを飲んだり玄関まで送ってくれたときに重要な情報をいただいたことが多々あった。そんなことを思い出しながら菅原の隣に座った。
菅原総務課長
「私のところは医薬品といっても重病患者とか抗がん剤なんてものは扱っていません。そういうのはグループの別会社が担当しています。我々は虫刺され、蚊取りマット、トイレの芳香剤、まあ深刻なものはなく、効き目よりコマーシャルで勝負って感じですかね。でもね、我々の扱っている商品は世の中に必要とされている、なければ困るものだという自負はありますね」

三木は黙って聞いていた。
菅原総務課長
「しかし認証というビジネスは世の中に必要とされているのでしょうか。ISO認証はすごいぞと語るのは認証サイドだけです。世の中、消費者とか認証を受ける側が認証はすごいと語ったところはありません。
いや似たようなものは世の中にたくさんあります。映画の評論家だって同じようなものかもしれません。映画というエンタティメントの情報を一般人が見ることができる前に世の中に発信してその時間差でお金をいただいている、考えてみればこずるい商売ですよ。我々が他社と似たようなものをいろいろと理屈をつけて差別化して売ってはいますが、その商品は効用があるわけです。他社品が出たら価値がなくなるわけじゃありません。まあ映画評論をどうこういうわけではありませんがね
しかしISO認証ってどういうものなんでしょう?
私どもの会社に来て規格というもの、それがありがたいものなのか意味のないものなのかも誰も判断できないものと比較して、あっているとかあっていないとご宣託をするだけです。うーん、認証の価値とはなんだろうと思いませんか?
私は映画の評論ほどの価値はないだろうと思います。ましてや我々の売っている家庭の常備薬ほどの価値はないでしょう。
たとえを変えましょう。今あげた家庭の常備薬、映画評論、ISO認証が明日の朝みんななくなったとしたら世の中どうなりますかね?」

三木は黙っていた。
菅原総務課長
「子供が風邪気味のとき風邪薬がなければ母親は困るでしょうね。週末に彼女と映画を見に行こうとしている男の子は、映画館にかかっている新着がどんな物語なのか情報がないと困るでしょう。朝起きたらISO認証がなくなっていたら、どうでしょう。消費者もマスコミも気が付きもしないでしょう。企業の担当者は赤飯を炊くかもしれません」

三木は黙っていた。


翌日、三木はインタビューのメモからワープロ起こししながら考える。
なぜ審査員は社会常識というか当たり前のビジネス作法をとれないのか、規格解釈では問題になるようなことを語るのか、問題が起きても、問題が起きたらなぜ反省しないのかなぜ改めないのか。
問題を起こすような人は審査員になる前はどんな仕事をしていたのだろう?
審査員になって先輩や審査先の対応をみて、審査員は全能者だと勘違いしてしまったのだろうか?
アンケートに苦情を書かれたのは一部の者だと思いたいが、三木の脳裏にはそういった傾向のありそうな人が何人も思い浮かぶのだった。


うそ800 本日の蛇足
この物語には多くの登場人物がいますが、問題を起こしてもそのままで二度と登場しない人も数多くいます。変と思われるかもしれませんが、現実を見るとそれが普通のようです。私が審査でトラぶったことは数多くありましたが、その後その審査員と会うことはなく、数年して審査の合間にお聞きすると「ああ、○○さんですか、もう退職しましたよ」なんて反ってくることが多かったですね。認証機関も審査員が多いから問題を起こしたところには派遣しないでしょうし、問題を起こしたことに反省したのかしないのか、そのまんま退職していくように思いました。
サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ〜
いやサラリーマンに審査員が入るとは言いませんが・・・
ところで本日の登場人物は50年前、私が入社したときの同期の連中の苗字を借用しました。名前を借りた中には、通勤途上心臓発作で亡くなった者、仕事でノイローゼになり病院に入ったきりの者、50過ぎても毒男だった者、警官に転職した者、引退した今もISOを揶揄している者(私です)など、人生いろいろ(小泉元首相談)
もっとも私がその会社を去ったのは15年も前のこと、今はどうなんでしょう(棒)



外資社員様からお便りを頂きました(2015.11.12)
おばQさま いつも参考になる読み物を有難うございます。
拝読して思うのは、このように社内に「オカシイ」と思う人がいるのは立派な事だと思います。
そして、少なくとも、その指摘を上が取り上げているようです。
この事例では、少なくとも問題を集める事を上が許可して、それを議論する事は出来ているようです。
こういう状況ならば、きっと改善できるのだと安心して読んでいられます。

企業を運営する面で一番怖いのは、むしろ社員がオカシイと思わない事が問題の原因である場合です。
私の古巣の某社も、最近 新聞で問題になりましたが、利益の部門間での付け替えや、売り上げの期内に押し込むなどは、会社全体で見れば売り上げは変わらない、長期で見れば売り上げは変わらないから問題ないと思われていたと思います。
つまり社内ではオカシイと思わない、思っても昔からの慣習だと取り上げられなかったのだと思います。

それ以上に問題なのは、会社全体の利益よりも、自部門の利益を優先する人がいる場合です。
お話の事例では、クレームのあった審査員は、自身の自己満足の為や利益の為に行動し、問題を起こしました。
これは、明白な問題だと、当人以外のだれでも同意してくれますので、周囲が正すことができます。
厄介なのは、会社の利益より自部門の利益を優先し、それが個人の利益が目的でない場合です。
個人の利益が優先ならば否定できますが、部門の利益が目的の場合には対応が難しいのです。
このような場合には、その部門内で問題を指摘すれば、排除されます。
会社に訴えても、建前上は通報プロセスがあっても、自部門の不正を追及する人として白い眼で見られるでしょう。

これは今に始まった事でなく、戦争中も、負け戦のさなかに、陸軍と海軍は相手を敵視し予算や人材を取り合い協力できませんでした。
無謀な作戦に対して、抗命・拒否し、問題があるならば軍法会議で争うといった部隊長や師団長は、錯乱扱いで予備役編入、問題は軍法会議で明らかにできませんでした。 これこそは、マネジメントの問題なのだと思います。

ISO認証に話を戻しますと、認証では明白に判る問題:(例として書類の不備や不統一、運用上の問題)を指摘すれば足りるのだと思います。
それ以上の判断の微妙な問題は、会社の中で判断するべきなのは、お書きの通りなのだと思います。
その線引きをしっかりとできるかが、審査機関で定めるべきであり、審査員に対しても指導するべきと思います。
マナーの問題や、尊大な人は、さすがに最近は見ないので、この点は改善したのか...?
これらの問題行動は認証機関に限らず、品質や購買部門の、相手がお客扱いするのが当たり前の環境の人に、時々みられるように思います。
となると、認証件数が減って、審査員がお客様を意識せざるを得なくなれば、変わるのでしょうね。

ところで、物語には出てきませんが、ISO審査の場で、内部告発があったら、どのように扱うかは非常に興味を持ちました。
当然ながら、直接の審査の対象とはなりませんが、このような場合こそ審査員の力量が問われるのかもしれません。
審査とは無関係だと門前払いしても間違いではありませんし、顧客である会社の利益にどのように結びつけるかの観点で判断しても良いでしょう。
いずれにせよ、通報の内容を鵜呑みにして、いきなり問題にする事だけは駄目だと思います。

お話を読んでいて、そんな状況だったら、三木氏はどうふるまうのか興味をもってしまいました。
蛇足で済みません。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
一つお断りしておきますが、私は認証機関というところで働いたことはありません。ですから今回のお芝居は外部から見て内部の動き、判断ということがどのようなものであったのかという想像で描いています。たとえて言えば入出力からブラックボックスの内部プロセスを推定したようなものです。
ただ働いている人たちを見れば一般企業と全く別の論理構造で動いているとは思えません。企業社会の論理、社内力学という日本の固有構造は変わらないと想像しました。

外資社員様の問題提起に個々に見解を申し上げることは大変なのでかいつまんでコメントを申し上げます。
  • まず接待とかお土産については、2002年頃に審査員を過剰に接待することが読売新聞などで報じられて以降、少しは是正というか襟を正すようになりました。その後も類似行為はゼロではありませんがかなり良くなったと思います。
    しかし純粋なお土産でなけばOKなのだという解釈もあったようで、審査が終わってから土産物屋に連れて行ってほしいとか、審査先の製品の景品や販促品が欲しいという要求というかお願いはその後も見聞きしております。ここにあげたのは私自身が経験したもので2010年とか2011年の頃のことです。2012年には私は引退しましたので最近3年間は存じ上げません。
  • 礼儀作法についても時代が下るにつれて怒鳴るとか命令すると言ったことは減少してきました。とはいえ坊やとか小僧と呼んだなんてのは2010年頃でもありました。きっとその審査員は水戸黄門のような高齢だったのでしょう。
  • 2000年以前は自分がコンサルした会社を自分が審査するなんて異常がまかり通っていました。それはどう考えてもおかしいですよね。その後それはおかしいとコンサルした会社は審査できなくなり、2003年か2004年頃からはコンサルした人が所属している認証機関は審査できなくなりました。(年代は正確じゃないかもしれません)
    しかし考える人はいるもので、他の認証機関の審査員と交換殺人ならぬ交換コンサルを考えた方がいます。お互いにコンサルできて認証機関は相方のところを紹介し、審査では不適合はないと、審査員・認証機関・審査を受ける会社の三方良し、よく考えるとグルになっているというか談合のようです。
  • 規格解釈に関しては、今はもう企業側が予防措置をとっているから問題が起きていないように思います。もちろんあきらめも予防処置のひとつでしょう。あの認証機関はこういう考えに凝り固まっているからしょうがないという考えのISO担当者は多いです。本音ですが私は審査員に規格解釈のテストをしたいなと思います。100点満点で90点取れる人は非常に少なく平均70点程度ではないかと思います。たった5,243字(ISO14001:2004)の文章をよく理解していないというのは驚くべきことです。ちなみにこのページの文章は9600字あります。
おかしなことをなくすには規制だけでなく、高い倫理観、それを保つための賃金も含めたシステムというのが必要だろうと思います。可能かどうかわかりませんが。
内部告発という問題提起ですが、内部告発は世間に対してインパクトが大きくなければ意味がありません。不祥事の多くは内部告発から問題化しているようですが、自動車の安全とか食の安全でなければマスコミも消費者も注目しないでしょう。ISO審査なんて正直誰も気にしていないでしょうから、暴露しても「それなに?」でおしまいではないでしょうか。数年前の不祥事を起こした企業はISO審査で嘘をついて審査を受けていたなんて「大ウソ」をついていた人々がいましたが、それさえも「誰も気にしなかった」という事実があります。世の中ではISO認証なんてベルマークとかTポイントほどにも気にされていないようです。
正直言いまして私がISO認証の現実がおかしいぞと叫んでも誰も気にしないようです。まあ乗りかかった船、この審査員物語だけをまとめて、ISO9001とISO14001の対訳本が2016年2月に出たらまた考えようと思います。

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