*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。
審査員物語とは
「ご指示いただいてふた月になります。今まで調べたことを報告させていただきます。正直言って対策案というところまではまだたどり着いていません。 とにかく審査においていろいろな問題が多数あるということがわかりました。しかし企業側は気を使ってか、かなりのことまで当社に苦情を言ってこないのです。当社に審査後のアンケートなり個々のメールなりで苦情を言ってきている企業は非常にまれなケースであるということです。それだけ問題が根深いと言えるでしょう」 | |
「問題だ、問題だというけれどいったい何が問題なんだ?」
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「お待ちください。これからご説明します。 問題というか企業側が審査員に対して不満とか反感を持った内容は多種多様です。しかしカテゴリーとしては大きく三つにまとめられました。どれが一番問題かといわれると、すべてが問題でしょう。 まずひとつは審査側まあ審査員のことですが、礼儀というかマナーというかビジネスの常識を身に着けていないということです」 | |
「以前も三木さんがそれを言っているのを聞いた。実際はどんなことなんですか。些細なことを問題にしているような気がするんだが」
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「私自身も審査の場で正しい尊敬語を使っていないことは自覚しています。ここでも上司である肥田取締役に対しては『おっしゃる』とか『お見えになる』と尊敬語を使うべきでしょう。しかしながら今話しているように尊敬語ではなく常態というか普段の言い方が多いですね。世の中というか一般的なビジネスにおいてはそれでも問題は起きないだろうと思います。むしろ過去の営業の経験からは、あまり尊敬語とか謙譲語を使うのは相手をおちょくっているような気分にさせてしまうこともあります。ですから常態といいますか『です』『ます』を使っていて問題となることはないでしょうし、せいぜいが丁寧語というところでしょう。 しかし実際の審査において審査員はため口といいますか、ぞんざいな言葉使いが多々見かけられます」 | |
「ため口って具体的にはどんな?」
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「まあありふれた言い回しでは『だよね』とか『じゃないか』とかでしょうし、単語であれば『やばい』なんてのはまだビジネスの場で使う言葉としては認知されてないでしょう。 それとため口とも言えませんが、審査員が企業の若者を『小僧』とか『坊や』と呼んでいた事例もあります」 | |
「おいおいいくらなんでも『小僧』とか『坊や』とは・・・どんな神経しているんだ。江戸時代の丁稚小僧じゃないだろうに」
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「年配の審査員が企業の若手を呼んでいたことがありました。企業側としては苦情を言うべきか言うべきでないか悩むところでしょうね。 それと態度があります」 |
「態度と言いますと」
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「管理責任者とか認証組織の経営者となれば小企業といえどそれなりの人ですし、いや大企業とは違ってかえって企業の経営の中枢にいるわけです。そういった人に上から目線で話をしたり態度に出たりですね」
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「具体的には?」
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「例えば経営者インタビューで腕組みしたり足を組んだりして反感をかっています。また立って説明するときに、片手をポケットに入れているとか、相手の真正面を向いていないというのもボディランゲージとしてはいけないでしょう」
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「片手をポケットに入れているのは、本気を出していないぞというメッセージだと聞いたことがある」
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「三木さん、一つに拘っても時間が食う。次の問題について説明してくれませんか」
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「ふたつめは規格の理解です」
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「規格の理解というと、企業側がISO規格を理解していないので話が合わないとかということかな?」
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「いや正反対でして、審査員がISO規格を理解していないことに起因する問題が多いということです」
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「おいおい、うちの審査員にそんな人はいないだろう。契約審査員のことかい?」
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「当社の審査員の多く、社員であろうと契約審査員であろうと、ISO規格をよく理解していないということが問題だということです。 以前も話題になりましたが目的目標それぞれに環境実施計画が必要なのか否か、環境目的は3年間のスパンが必要なのか否か、管理責任者は経営者が兼務できるのか否か、経営者を内部監査する必要があるのか否かなどなど まあ、ばかばかしいというか、それくらい理解していなくちゃ審査員を辞めろと言いたいですが」 | |
「以前もいろいろと問題があったが、そういうことは社内的に考え方をきちんと決めてそれを徹底することが必要だな」
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「そうですね。いやもちろん過去の取締役たちはそういうことについてはきちんと決めて審査員に徹底していたようです」
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「ほう?」
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「ところが残念なことに、初代の取締役たちが考えた考えの多くは間違っていて、それが今に至っても残っているというのが問題といえるでしょう」
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「ああ、以前も三木さんにそのことは聞いたね。 肥田さん、審査部として規格解釈について統一見解を定めてそれを審査員に徹底してください」 | |
「うーん、三木さん以前もその話があったが、それは非常に難しいという結論だったよね」
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「学問的にむずかしいということじゃなくて、政治的に難しいというか・・・過去から当社が企業に説明したり審査での判断基準にしていたことであり、それを大きく変えることは社内外に大きな影響を与えますね。ともかく過ちて改めざるといわれていますし・・」
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「わかった、わかった・・・とはいえ・・・」
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「肥田さん、ともかくそれは肥田さんのマターですね。まさか何もせずに後任者に引き継ぐというわけにはいかんでしょう」
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「三木さん、それについては問題ということは十二分に分かっている。別途委員会か何かを作って検討することにしようや」
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「具体的には委員会などという方法になると思いますが、取締役の総意として統一見解を見直すこと、いつまでにするのかというようなことを決めてほしいですね。問題は認識したが対策はせずに終わるようでも私もやりがいがないし、なによりも当社の将来がかかっているわけですから」
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「三木さんのおっしゃる通りだ。肥田さん、三木さんの報告を一通り聞いたのちにそれについてこの場で検討しましょう」
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肥田は黙っていたが面白くないような顔である。 | |
「話を戻しますと規格を理解していないというよりも旧来の規格解釈が今も残っていて、他の認証機関の規格解釈と異なっていること、それが問題のように思います」
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「わきから口を挟んで恐縮ですが、営業でも『ナガスネ流』とか『ナガスネ方式』なんていう言い方をよく聞きます。多くの場合、ほめ言葉ではなく馬鹿にした言い方でしょうね」
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「住吉さん、そんなときはどう返しているの?」
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「まあ・・・今はそんなことを言いませんよとか、そんな風に答えております」
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「それによってお客さんが取れないということもあるのですか?」
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「あるでしょうね。もちろん表だってウチの考えが合わないからよそにしたと言われたことはありませんが、 あのう、こんな事例がありました。もう2年か3年前でしょうか、某社がISO認証したいので見積もりをお願いしたいということがありました。 訪問しましたら見積もりとか審査日程の打ち合わせだけでなく、ウチの規格解釈についての口頭試問というかいくつか設問を出されて回答を求められたことがありました」 |
「興味がありますね。どんな質問でしたか?」
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「もう忘れてしまいましたね。そんなに設問は多くありませんでした。5問か6問くらいだったでしょうか」
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「その結果、仕事は取れたのですか?」
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「いや、それきりでした。1年くらいたって思い出して調べてみましたら『左右QA』という認証機関に登録されていました」
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「ということは左右さんに行ったということか」
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「もちろんそのことだけで注文が取れなかったということでもあるまい」
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「審査料金が違うとか・・・」
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「いやあ・・・ウチも安くはありませんが、当時ウチは1日14万、左右さんは18万でしたから、その会社は1000人近くいましたから・・・ええと5人日か6人日の審査工数はあったでしょうね。認証機関によって審査工数が違っても半日程度でしょう。するとウチのほうが24万も安いはずなんですが」
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「規格解釈がまっとうでないと2割以上審査料金が違っても取られてしまうということか」
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「潮田取締役、規格解釈がまっとうでないとお金とは関係ないということかもしれませんよ」
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「そうかもしれないな。 肥田さん、ウチの審査員に規格の理解のテストをする必要があるんじゃないですか」 | |
「それは・・・ちょっと違うと思いますよ。元々は取締役たちが当社の考えを決めてそれで審査をしろと言ったわけです。ですから今その考えで審査をしている人々が、当社の見解を正しいと考えているかどうかは別問題です」
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「なるほど・・・まず会社としての考えをはっきりさせる必要があるということだな」
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肥田取締役は潮田取締役と三木のやり取りを面白くない顔をして聞いていた。 | |
「それから改善の機会についてですが、あれにはかなり反感を持たれています。要するに役に立たないことを言うなということなんです」
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「だがISO規格とか環境経営あるいは品質経営に関しては、審査員は企業経営者よりも知識や経験があるだろう」
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「そんなことないでしょう。日々他社との競争、社内の多種多様な難題と取り組んでいる経営者や管理者あるいは担当者より、審査員が知識や経験が豊富だなんて考えるのは僭越というものでしょう」
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「そんなことないだろう。多くの審査で改善の機会というのを提示しているが、それらは企業から貴重なアドバイスだと受け取られていると私は認識しているが」
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「うーん、その辺は議論の余地があるでしょうね。 おっと、婉曲話法はいけません。本意はそうではないという意味です。訪問した企業の多くから改善の機会とか観察について語るのを止めてほしいという意見をいただきました」 | |
「止めてほしいとは?」
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「ばかばかしいことを語ってほしくないということです」
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「ばかばかしいとはそれこそばかばかしい! 世間知らずの発言じゃなのか」
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「企業側がどう考えようと、審査員は良かれと思うことはコメントする権利はあるよね」
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「コメントはしてもよいでしょうけど、次回審査で前回のコメントをどのように咀嚼して対応したのかというのをフォローするのが通例です。企業側からすればばかばかしいアドバイスなら検討さえしたくないというのが本音です。 あのう・・・審査員によっては今回は観察にしておくが来年までに対応しておかなければ不適合にすると語っている人さえいます」 | |
「それは・・・まずいな」
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「JABにでも駆け込まれたら困りますね」
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「審査員のアドバイスに価値がないということか」
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「だってさ、審査員は数多くの企業をみているから、その会社に改善になることを多々木がつくだろうしそれを口にすることが迷惑になるとは思えないが」
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「どうでしょうね、いやこの言い方もあいまいで良くありません。審査員が語るようなことはその会社では既に検討して不採用になっているものがほとんどです。 あのですね、考えてみてください。いかに才能があり知識が豊富な人であっても、初めて訪問した会社を数時間見ただけで改善案が湧き出てくると思いますか? 私が当社の問題とは何かを探るだけでもふた月もかかったわけです。改善策などまだ見えてません。ああ、もちろん私が審査員の平均以下であるという可能性もありますが ともかく素晴らしいサジェスチョンでなければ、いっそのこと改善の機会など上げないというのではいかがでしょうか」 | |
「しかしさあ、審査員が改善の機会を提示しなかったら経営に寄与する審査なんて言えなくなるなあ」
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「今提示されている改善の機会が経営に寄与してるとは思えません。 あのですよ、内容次第なんです。面白いものがたくさんありますよ。こんなのがありましたよ、内部監査員は外部講習を受けなくても良いことになっているが外部講習を受けた方がよいなんてどうなんですかね? それからマネジメントレビューの記録をISO規格の項目に合わせた方がよい・・・これはそうしないとわからないほど審査員が無能だということなんでしょうか? ええと、環境実施計画の項目によって報告期間が異なっている。開発などは適宜報告であるが、省エネは月単位、外部のNPOと連携した活動については四半期ごととなっている。合わせるべきではないか・・・もう会社勤めしたとは思えません」 | |
「三木さんは辛口だよ」
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「当社の将来を、いや当社が今度も事業を継続できるようになりたいと考えるなら、虚心坦懐に現状を認識し反省しなければなりません」
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「三木さん、三つ目の問題に進んでください」
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「三つ目になりますが、それは倫理とかルール遵守ということです。ルールと言ってもいろいろありますが、ここでは審査のルールとか当社のルールと考えてください」
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「審査のルールとは?」
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「ISO17021、ああ国内ではJABMS200とかに展開されているものです」
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「みなさんはISO何番とかJABなんとかというと話が通じるようだけど、私は分かりません。どういうものですか?」
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「ISO17021というのはISOMS規格つまりISO9001とかISO14001に基づいて、我々認証機関が審査するときの方法とか基準を定めた審査のルールです。実際にはさらに詳細に展開されていますが」
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「三木さんは、ウチがそのルールに違反しているというのだね」
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「当社が違反しているとは言っていません。微妙なところがあるということです」
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「同じことのようだが」
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「まあまあ、三木さん、具体的にはどういうことですかね」
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「審査のときに接待を受けたりお土産をもらってはいけないことになっています」
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「当たり前だ」
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「形ある宴席とか土産物ならまずいでしょうけど、土産物屋まで連れて行ってほしいというのはどうなりますかね」
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「許せる範囲かね?」
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「そういった事例でお客様から苦情をいただいたことが何度もあります」
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「許されないレベルということか」
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「似たようなもので審査員の電車の切符の予約変更やホテル手配などもありますね」
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「今は予約も変更もネットがメインになったし、携帯とかスマホでも切符の変更ができるからそもそもそういうことを依頼するのは少なくなったのではないかね」
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「確かにそういう傾向にはあります。しかし年配者の中には審査報告書作成さえパソコンでなく手書きという方がいますので・・」
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「確かにな・・・住吉さん、そういうことの苦情はあるのかい」
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「ホテル手配については会社によっていろいろですね。自分たちが手配した方が紹介するより手間がかからないとか送り迎えが楽だとかいうところもありますし・・」
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「おいおい、ホテルの送り迎えとか今でもさせているの?」
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「いえ、それも会社によって異なるのです。どのホテルがいいですかとか、ホテルからどう行ったらいいのですかなんて何度も問い合わせを受けると面倒でたまらないようですし」
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「なるほど、簡単ではないのだな」
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「ちょっと待てよ、そもそも自分がアクセスとか考えられないのは問題じゃないのか。まして送り迎えとなるとちょっとまずいんじゃないか。タクシー代はどうなるの?」
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「タクシーを使わないわけですからタクシー代は出張旅費請求に入りません」
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「会社がタクシー券を出しても運転手から領収書をもらっていく審査員がいるという話も聞いています。もちろんみんながみんなじゃないでしょうけど」
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「それっていいんじゃないの。会社だって損してないだろう」
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「審査員はタクシー代を払っていませんから、タクシー代を請求するのは理屈に合いません」
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「もしそんなことをしていたら厳密に言えば横領じゃないですかね」
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「どうしてだめなの?」
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「うーん、法律的にどうなのかわかりませんが、常識でだめでしょう。カードの悪用と同じですよ」
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「カードの悪用ってどういうこと?」
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「実は私の経験談ですが、先日定年を過ぎた同期の仲間と飲んだ時のこと、支払いのとき割り勘にしようとなって我々はお金を出したのですが、関連会社の役員になっている奴が皆の金を集めて自分が持っているコーポレートカードで支払いました。一人当たり5000円程度でしたがありゃ犯罪でしょう」
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「ええと、どういうこと」
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「役員だから交際費が認められているなら飲み食いした代金を会社に請求するのはどうこうありませんが、ほかの人が出したお金を懐に入れたのはおかしいでしょう。払うなら自分の分だけをカードで払うべきでしょう。あるいは全員分をコーポレートカードで払うならそれもありかもしれません。いや、私がただで飲みたかったわけではありませんよ」
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「ああ、そういうことか。私もコーポレートカードを預かっているが、我々はそんなことしてないよね、肥田さん」
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三木はそれ以上言わなかった。実は今の話は三木の体験談ではなく、数日前三木が会社近くの居酒屋で飲んでいたとき、肥田がそうしたのを遠くから見ていたのだ。肥田は顔色を変えずに潮田の言葉を聞き流した。 | |
「話を変えます。ある会社をコンサルした審査員はその会社を審査はできません」
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「当たり前だな」
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「ある会社をコンサルした審査員が所属している認証機関は、その会社を審査できません」
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「そうなんだよね、それは最近厳しくなってきた」
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「こんな例がありました。審査のときにウチの審査員が認証を受ける会社を紹介してもらう。そして自分がコンサルする。そしてほかの認証機関を紹介してそこから紹介手数料をもらう」
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「ええっ、それはちょっと」
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「うーん、頭がいいと言えば頭がいいな。ルール違反ではないよね」
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「明文上はともかく問題じゃないですかね。審査の場で認証を希望している企業を紹介してほしいというのは営業活動としておかしくないでしょう。でも紹介を受けた会社をほかの認証機関に紹介するというのはおかしいです。客の信頼に応えていません。極端に言えば内部と外部の信頼を裏切っています。背任までいかずとも当社の倫理規定から言ってまずいでしょう」
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「それが逆なら問題ないわけか。つまりウチの営業に取り次ぎ、コンサルについては知り合いのコンサルなり審査員を紹介すればいい」
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「厳密に言えば業務上知りえた情報で小遣い稼ぎをしているわけで不正と言えるでしょう。 ともかく潮田取締役がおっしゃった方法ではその審査員の取り分が減りますね。コンサルしたなら実入りは何十万でしょうけど、コンサルを紹介したお礼は微々たるものでしょう。大がかりなシンジケートがあるなら別でしょうけど」 | |
「なるほど」
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「私が知らなかった問題がいろいろとあるのですねえ〜」
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「以上かいつまんでというところですが、問題は礼儀作法、規格解釈、ルール遵守というものに集約されますね」
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「礼儀作法対策が一番簡単なようだね」
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「いえ潮田部長、それが一番かどうかはともかくそれもとんでもなく難題ですよ。 しかしなんですなあ〜、みなさん出身母体では長年会社員をしてきたわけでしょう。それも結構偉くなっていたわけです。それなら言葉使い、出張旅費の扱い、いやホテルの予約、切符の手配くらいはできたでしょうに・・」 |
「とにかく当社としての方向付けというか見解をはっきりさせないといかんなあ〜」
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「あのうこれから私は報告書をとりまとめますが、その対策をどうするのかについては別途検討していただいて強力に推進してほしいと思います」
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「そこんところも三木さん頼むよ」
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「肥田さん、そりゃないよ。それこそ経営者の責任でしょう」
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潮田の言葉を聞いて三木はホッとした。 |
住吉さんが語る「皆さんもとの会社では社会人として〜」のくだりですが、これは一般的な話なのだと日々感じます。 出向者と関わりがあるわけではありませんが、上に行けば行くほど、何を勘違いしているのか、尊大な唯一無二の存在であるかのように振る舞う方々は社内にバッコしています。信じられないぐらいのゲスな方もいます。本人が何も感じてないのか?不思議でなりません。 実るほど頭をたれる、なんてのは稀有であるがゆえに語られるのではないかと思います。 勿論、会社生活だけが人の全てを現すわけではないのでしょうけど。 反面教師として心掛けるしかないかと思いつつ。 |
まきぞう様 毎度ありがとうございます。 出世する人にもいろいろ種類がありますが、苦労して実績を出して人の上に立つという後ろ指指されない理想形もありますが・・ 入社した時から将来は部長か取締役かって人もいますよね。そういう人が順調に出世しないでわき道にそれたのが審査員になるのかもしれません(たぶん) 普通仕事していても、業者とか下請けにはとんでもない態度とか袖の下を要求したりする人もいますからねえ〜 この世には反面教師があふれていてコマッチャウワ |