審査員物語 番外編22 認証活動(その5)

16.07.18

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

審査もあとひと月と迫った。今日は関係者での準備状況の確認など最終打ち合わせである。メンバーは今猿、増田、井沢、宇佐美、永井、陽子その他数人いた。
既に進捗の確認、事前点検の実施その他予定していた事項についての話は済んだ。今はコーヒーを飲みながらの、疑問点や悩み事などの自由討議というか心配事相談に移っていた。
永井
「準備は完了したつもりですが、何を聞かれるのかということになると見当つきませんし心配です」
宇佐美
「既に審査で聞かれることと回答例をリストして配布していますが」
永井
「ああ、拝見しました。あれを見ると質問もわかりやすく答えやすいものばかりでしたが・・・でもあんなふうにシャンシャンと進むのでしょうか?」
井沢
「どこでも環境方針を知っていますかというのが定番と聞きましたけど」
永井
「それに対しては配布された環境方針カードを見せると書いてありました。それでよろしいですね」
井沢
「それでよいと思います。あれ!今猿さん、笑ってますね」
今猿コンサル
今猿さん
「笑ってませんよ。よく皆さんに笑っているといわれますがこれが地顔です。
今の話ですが、環境方針の要求事項は方針カードを持ってることではありません。周知することです」
永井
「周知するというのは掲示したり配ったりすることでしょう」
今猿さん
「日本語で周知とは知らしめることです。知らしめるとはカードを携帯するとか壁に貼ることとは違うでしょう。
ところが本当はまた違うのです。規格に書かれているのは英語ではコミュニケイトという言葉でして、その意味は『周知』ではなく『to make someone understand an emotion or idea』つまり『考えや思いを理解させること』なんです。ですからカードを持っているのは日本語でも周知を証明しませんし、暗唱できたら日本語でいう周知されていることを証明するかもしれませんが、元々の意味の理解させたことにもなりません。
実を言って私はコミュニケイトとは理解させることではなく、その方針を受けて行動させることじゃないかって気がしますね」
井沢
「ええ、じゃあ、どういうことをすれば方針が周知されていることになるの?」
今猿さん
「理屈から言えば立証することは困難というか不可能ではないかと思います」
宇佐美
「今猿さんのおっしゃることのわけがわかりません」
今猿さん
「結局、悪魔の証明みたいというかその一変形なんですよ。悪魔の証明とは存在しないことを証明することです。ものごとが存在することを証明することは可能ですが、存在しないことを証明することは論理的に不可能なのです」
井沢
「悪魔の証明はわかります。でも方針が周知されたことは存在の証明でしょう。それは可能ですよね」
今猿さん
「方針と言ってもその内容は多々ありますし、周知された結果のリアクションも多様でしょう。周知されるべき範囲は無限ではないでしょうけど漠然としたものであり、その範囲が満たされていることを示すことは悪魔の証明でしょうね」
三木の家内です
「なるほど、わかりました。いや、わかった気がします」
今猿さん
「おお、それでは三木さんのお考えをお聞きしたいですね」
三木の家内です
「環境方針を周知しましたかという質問はあり得ないということです」
井沢
「えっ」
三木の家内です
「そもそも審査員は要求事項が満たされているかを確認するのであり、要求事項が満たされているか質問するのではありません。ですから環境方針を知っていますかという質問はあり得ないでしょう。それで済むなら審査員のお仕事って子供にもできます。
審査員は環境方針が周知されてるかをいろいろな切り口で質問し、周知されたという心証を得なければならないということです」
今猿さん
「まさしくその通りと思います」
井沢
「はあ? どういうことでしょうか?」
三木の家内です
「私の考えですが、例えば審査員は『あなたのお仕事は何ですか?、そのお仕事で重要なことは何でしょうか?、それについてあなたが不具合が起きないように日々努めていることとか改善を進めていることは何でしょうか?』というような質問をして、環境方針とその人の行動がマッチしているかを確認することだろうと思います」
今猿さん
「御名算」
宇佐美
「ちょっと、ちょっと、それって環境方針ってたくさんの項目がありますよね。全部の項目について確認するとなると一体どうするのですか?」
今猿さん
「でも宇佐美さんは環境方針のすべてに関わっているのでしょうか?
その人に考えさせ行動させるのはその人が関わることだけでしょう。関わらないことまで周知することもないでしょう」
宇佐美
「それじゃ方針に書かれていても、関わらないことは周知されなくてもよいのですか?」

今猿はファイルをとりだし環境方針を開いた。

○○大学 環境方針

○○大学は、「大学の社会的責任」のひとつとして環境意識の高い人材を育成することと考える。そして在学生、職員及び卒業生が環境負荷の低減に努め、持続可能性社会の実現に努めることを最終目標位置づけている。そのために、以下の活動を積極的に推進する。

大学の在学生、卒業生及び職員に対して環境教育を行い環境知識、意識の向上を図る。
広く環境保護に関わる研究を行い、地域社会を含めて教育、啓蒙活動を推進し、また地域社会、行政の環境施策に参画し、社会の環境保護及び環境教育に積極的に貢献する。

大学の施設及び研究、教育における環境負荷を認識し、汚染防止とその負荷低減を図る。そのために大学の環境マネジメントシステムの継続的改善を進める。

この環境方針を実現するために環境目的・環境目標を定め、省資源・省エネルギー、廃棄物削減などに積極的に取り組む。
大学のすべての活動において、環境に関する法規及びその他の要求事項を順守する。
この環境方針は○○大学のすべての学生、職員及び大学構内で働くすべての人々に周知するとともに、広く一般に公開する。

200X年○月○日 ○○大学
理事長 ○山○男

今猿さん
「ええっと、『大学の在学生、卒業生及び職員に対して環境教育を行い環境知識、意識の向上を図る』とありますが、それについて宇佐美さんはなにをするのでしょうか?
あるいは『広く環境保護に関わる研究を行い、地域社会を含めて教育、啓蒙活動を推進し、また地域社会、行政の環境施策に参画し、社会の環境保護及び環境教育に積極的に貢献する』なんて、大学生の立場としては主体的にはできないと思います」
宇佐美
「それを言われたらそうですが・・・・すると僕は何をしたらいいんでしょう?」
今猿さん
「宇佐美さんが今環境方針に書かれたことを実行していないなら、それこそ環境方針が周知されていないということではないですか?」
宇佐美 「ええ
今猿さん
「冗談ですよ。宇佐美さんは今大学のISO認証のために頑張っているわけです。つまり環境方針の中の『大学の環境マネジメントシステムの継続的改善を進める』を実践しているわけですよね。その他に『環境目的・環境目標を定め、省資源・省エネルギー、廃棄物削減などに積極的に取り組む』ということもしているわけですよ」
宇佐美
「省資源とか省エネ活動もしている記憶がありません」
井沢
「私もよく理解していないようですわ。省エネとか省資源と言われても、自分が何をしているのかと思うと、何もしていないような気がします」
増田准教授
「ちょっと発言いいかな?」
今猿さん
「なにをおっしゃる、増田先生がここの責任者です」
増田准教授
「私も特段、省資源とか省エネということをしているつもりはない。だけど各部屋に表示されている室温を守るとかゴミの分別廃棄は守っている。そういうことは環境方針を実践しているといっていいんじゃないかな?」
今猿さん
「おっしゃる通りです。その他、今日たまたま学内の掲示板を見て感心しましたが、大学で出る廃棄物のリサイクルの提案募集とかしていましたね。そういったことに提案することも環境方針実現のためのものでしょう」
宇佐美
「ああそうか、そうすると自分の担当はなにか、自分がしなければならないことを理解して実行すればよいということですね」
今猿さん
「そのとおり、宇佐美さんが担当でないことをやろうとしてもしょうがありません。司司つかさつかさと言いますが、ここにいる人たち全員で環境方針を満たせばいいんです。誰も担当していないテーマがあっちゃいけないですよ」
永井
「ええっと、そうするとさっき三木さんがおっしゃったように、環境方針を知ってますかという質問はないということでしょうか?」
今猿さん
「アハハハハ、そうなのですがそこが面白いところで、そうとも言えません。なにしろISO審査員というのも玉石混交ですから、石ころのドシロート審査員なら環境方針を知っていますかとくるのはおおありですね」
井沢
「ちょっと、ちょっと、そしたらどうしたらいいのでしょう?」
今猿さん
「審査でどんな質問が来るのかはわかりません。ですからドシロートが環境方針を知っていますかときたら、素早く環境方針カードを取り出すというのが正解でしょう。
そしてまっとうに審査しようという審査員があなたのお仕事はなんでしょうかときたならば、それには素直に対応すべきだろうと思います」
増田准教授
「イヤハヤ、簡単にはいきませんね」
今猿さん
「簡単にいくようにするのが増田先生のお仕事です」
増田准教授
「えっ、私の仕事!?」
今猿さん
「そうです。まず審査前に認証機関を訪問してこの大学ではどのような考えで認証準備をしてきたのかというスタンスを説明し納得してもらうことが必要です」
増田准教授
「それは・・・難しそうだな・・・」
今猿さん
「正直申しまして現実の審査員は玉石混交で、ISO審査では勘違いもあるし愚問もあります。審査員がISO規格を知らないことによるイチャモンがつくのも毎度のこと。こちらがどのような考えで準備していても必ずやケチをつけてきます。まあ、それが現実です。
ですからなるべく問題が起きないようにしなければなりません」
増田准教授
「問題が起きないようにできるならしたいですよ。どうすればいいんですか?」
今猿さん
「この大学ではISO規格をこのように理解している。それはうちの三葉みつは教授の指導によるもので、それに基づいてシステムが作られている。ですからその考えに基づいて審査してくださいということをはっきりと説明することです」
増田准教授
「ええ!いや、正直言ってですよ、初めは三葉先生のお考えで認証を進めてきたけれど、それではいろいろと不都合があって今猿さんの指導を受けて方向を切り替えて今の姿があるわけですよ」
今猿さん
「三葉先生はこの業界では有名人です。ISO審査員と言っても環境の専門家とか環境の権威ってわけじゃありません。三葉先生はこの世界では権威なんです。三葉先生がこう語ったといえば審査員の9割は同意するでしょう。ですから今までしてきたことはすべて三葉先生のご指導のもと、三葉先生のお考えを実現してきたということにするのです」
増田准教授
「ええ?」
今猿さん
「そう思い込みなさい。そりゃ、増田先生の考えで今の仕組みを作ったのだというのもありかもしれません。でも申し訳ありませんが増田先生は三葉先生ほど有名ではありません。
ですから三葉先生のお考えで活動してきたと断言するのです」
増田准教授
「わかりました。それは三葉先生にもお話しておかなければなりませんね?」
今猿さん
「いえいえ、そのようなことをすることもありません。三葉先生がそんなこまかいことを気にされるとは思いません。三葉先生がおっしゃった基本的な考え方を展開すればこうなるのだということです。そもそも三葉先生は漠然としか語ってませんから矛盾はありませんよ」
増田准教授
「ほんとうですか?」
今猿さん
「大丈夫です」
増田准教授
「ええっと、私は今猿さんのお話に納得しましたが、審査員は納得するものでしょうか?」
今猿さん
「それを増田さんが納得させるんじゃないですか」
増田准教授
「えええ」
今猿さん
「ただ、そうですね。審査まであとひと月ですか・・・大学のISOの考え方をA4二三ページにまとめて審査員に事前に説明しておく必要があるでしょう。それがイチャモンを防ぐ予防処置です」
三木の家内です
「確かに今までほかの方に聞いたISO審査の状況から考えるともめるというか、議論になりそうですね。そいじゃ審査の前に増田先生が審査員とお会いしてここの考え方を説明して、問題が起きないようにしたほうが良いでしょう」
増田准教授
「そのとき、つまり認証機関には今猿さん、ご同行していただけますか?」
今猿さん
「審査員はコンサルとは会いませんよ。おっと審査のときも私は出席できないんです。コンサルは存在してはいけないものなのです。ですからビデオとか録音して後で私に聞かせてください。おっと、ビデオも録音も禁止ですから見つからないようにね」

増田は恨めしそうに今猿を見た。

三木の家内です
「大丈夫ですよ。認証機関には私も同行してよろしいのでしょう?」
今猿さん
「それは増田先生が決めることですね。認証機関はいやとはいいません」
増田准教授
「それじゃぜひ三木さんご一緒願いたいですね
どのようなことをまとめていかなくちゃならないのでしょうか?」
今猿さん
「考え方全般ですが、ここでは計算で著しい環境側面を決めるなんておかしなことをしていませんから、そういったことについて我々はこうしている、それは三葉先生の指導もあるし、規格からも間違いではないというように簡単にまとめたらよろしいでしょう」
増田准教授
「我々の考えを説明するのはいいのですが、相手がそれを納得するものでしょうか?」
今猿さん
「先ほども言いましたが三葉先生のご指導なるぞ、控えおれということでしょうね。もちろん私たちがしていることが間違いとは考えていません。まっとうだと確信しています」
控えおろう
三木の家内です
「増田先生、とりあえず一日二日で今猿さんのおっしゃったことを私がまとめましょう。それを今猿さんを含めて討論して理論武装しましょう。
認証機関訪問については増田先生からアポイントをとっていただけないでしょうか?」
今猿さん
「いやあ、血沸き肉躍るという感じでしょうかね
これは楽しみだ」
今猿さんはうれしそうだったが、増田准教授の顔色はそれほど良くはなかった。


中村審査員高久審査員
中村審査員高久審査員

1週間後、増田と陽子が認証機関に事前説明に行った。相対するのはリーダーの中村氏と高久主任審査員である。
名刺交換を終えてさっそく本題に入る。陽子もISO事務局に来てからは印刷屋とか看板屋などと付き合いができて名刺ソフトで自分用の名刺を作っていた。

中村審査員
「もうわざわざ認証機関にお見えになられる時代じゃありません。失礼ですがおたくさんはもう大学としては50番目か60番目になるのでは?」
増田准教授
「そうですねえ、もう早いとは言えませんね。とはいいましてもうちはあれでしょう、ご存知と思いますが三葉直々に指揮を執って進めておりまして他の大学とは少しというかかなり趣が異なっておりまして・・」
高久審査員
「三葉・・・あ、○○新聞で環境がご専門だった三葉さんが大学教授になられたと聞きましたが、あの・・」
増田准教授
「そうです。三葉は今までのISOが形骸化しているといたくお怒りでして、真のISO認証をわが校で実現すると決意しまして・・・ISO規格の神髄を実現すべく、実を言いまして我々も厳しい薫陶というか特訓を受けております」
中村審査員
「ほう、真のISOとは」

中村はいささか侮ったような口ぶりである。

増田准教授
「三葉も環境なかでも持続可能性あるいは廃棄物の専門でありますが、ISOとくに認証の実務についてはあまり経験がありません。それで彼の知己、ISO委員の神田先生とか吉畑先生などにご相談されまして、今までのありふれたISO認証のための仕組みではなく、ISO規格の意図を実現しようとさまざまな施策を我々に下命されまして」

中村は神田と吉畑という名前を聞いて姿勢を正した。ふたりとも日本のISO14001の重鎮だ。この二人が言ったことを否定したのでは審査員生命はおしまいだろう。

中村審査員
「ほう、神田先生と吉畑先生ですか。さすが三葉先生のすることはすごいですね。そのへんのコンサルなど相手にしないというわけですか」
増田准教授
「私はISO規格を英語で読んでこういった意図かと考えた程度ですが・・・ああ、ご存知と思いますがISO規格とは英語版のことで日本語訳はJIS規格でまったくの別物ですからね。ISO規格では1行がJISでは2行になっていたり、誤訳が散見されまして、日本語版だけを読んでいては審査もシステム構築もできないのはご存知の通りです」

増田の一方的な言い分に、中村と高久は変な顔をしながらも必死にうなずいた。

増田准教授
「ところが英語版を読んでもやはりその真意と言いますか悟りの境地まではいけないわけですよ。三葉は神田先生や吉畑先生とお親しいようで何度も打合せを持ちまして我々の疑問点の解消や我々の解釈に問題がないかなどクリアにしてきました。」
中村審査員
「ほう、それは・・・・たいしたもんだ、いやご立派な進め方ですね」
高久審査員
「それじゃ、お宅はISO審査を受けて認証するまでもないじゃありませんか?」
増田准教授
「いえいえ、だからこそISO認証してこれが本当のISOだというのを世に示したいのですよ」

高久と中村は顔を見合わせた。神田、吉畑両氏がOKしているなら、審査に行っても不適合などを出せないじゃないか。審査どころか勉強に来いということか。
増田はふたりの気持ちを知ってか知らずか陽気に話をつづけた。

増田准教授
「ということで審査で今までの企業や大学と違うところが多々あると思います。そんなところで無駄な時間を費やすのもあれですから、本日は我々のというか神田先生たちからご教示いただいたことをどのように実現したかということの説明をさせていただきたいと思いまして」
中村審査員
「なるほど」
増田准教授
「まず環境方針ですが・・」


1時間ほど後に増田と陽子が去ってからも、中村と高久は会議室に座ったままだった。

中村審査員
「高久さん、あの話をどう思いますか?」
高久審査員
「いやはや、過去のISO審査なら不適合がザクザクですね。環境側面は過去から管理していたものプラス新規導入や法改正時に見直すとか、それも点数じゃなくて法律や事故のリスク面などを検討するなんて」
中村審査員
「とはいえそれが神田先生や吉畑先生に確認しているとなると・・・不適合にはできないね」
高久審査員
「そうそう環境側面に有益も有害もないですって!? うちでは有益な環境側面がなければ観察にして翌年までに是正していなければ軽微な不適合にすることになっていましたよね」
中村審査員
「いや最近のことだが、神田先生が講演会で環境側面に有益も有害もないと言っていたというのを聞いた。この前審査部長がうちの公式見解を見直さなくちゃならないとか言っていたね」

寺田さんのご発言について: 寺田さんが名古屋の講演会で「有益な環境側面はない」と語ったのは2008年のはずだ(この物語は今2009年である)。だが私はそれよりはるか以前2005年に、寺田さんご本人から直接そう聞いている。そのとき、寺田さんのお言葉に力づけられた思いをしたことを忘れない。

高久審査員
「えっ、そうなんですか。有益な側面がなくてはだめだと力説していたのに、一体どうしたのでしょうか?
ともかくそれじゃここに限らず今後の審査では有益な環境側面を持ち出さないほうが良いですね」
中村審査員
「点数も止めよう。今まで点数じゃなければダメとは言わなかったが、点数でない場合は決定方法が客観的でないという理由で実際問題不適合にしていたが、今回はそこを指摘するのはやめよう」
高久審査員
「あの増田と言った准教授、環境方針も規格の文言がすべて入っていなければならないなんておかしいですよねなんて笑ってましたが・・」
中村審査員
「確かに、今までは枠組みとかコミットメントとか、一般の人が入手できるなんて規格通りの言葉が入っていないと不適合だとしていたのに。うちの考えもしっかりしてくれないと困るよ」
高久審査員
「そいじゃ今回はどうしましょう?」
中村審査員
「我々も虚心坦懐に規格を、それも英語で読んで適合しているかいないかを判定するしかないじゃないか。
あのさ、ISO規格だけでいこう。うちの統一見解とか内部方針は今回はナシだ」


増田准教授と陽子は東海道線の帰りの電車に乗っていた。

三木の家内です
「増田先生、ご説明はばっちりでしたね」
増田准教授
「いやあ、三木さん、緊張しましたよ。でも三葉先生、神田先生、吉畑先生の名前を出したら先方の姿勢が変わりましたね。中村審査員は椅子に座りなおしましたよ。あれを見て心の中で笑ってしまいました」
三木の家内です
「彼らも権威に弱いんでしょうね」
増田准教授
「というよりも自分がしっかり規格を理解していないから、そういった名のある人の意見に従ってしまうのではないでしょうか」
三木の家内です
「規格を理解していないですって?」
増田准教授
「だって方針や環境側面のことを説明したとき、彼らの反応をみれば一目瞭然ですよ。慌ててというか驚いたというのか、規格票をめくったりしてましたね。
ただ、だからこそ一旦議論になると水掛け論に陥って、収拾つかなくなりそうですね」

陽子は自分の夫は規格の理解は大丈夫かなと、いささか心配するのであった。


うそ800 本日の思い出
現役時代、私は知り合いや関連会社からヘルプや相談を受けた。審査で不適合があり、それが理不尽なものであれば私が同行して認証機関を訪ねた。しかしまともに対応してもらったことは数えるほどだ。こちらを超初心者かせいぜい半可通とみて、あるいは不適合の取り消しお願いに来たと思われて、短時間で追い返されたことも少なくない。
で、考えた。要するに彼ら(認証機関や審査員)は自分で考えているわけじゃない。権威者が語ることをありがたがっているだけだ。されば対策はそこにあるじゃないか。
それで法律については都庁○課に、環境省○課に、経産省○課に問い合わせました。ISO規格に関しては寺■先生に、UKASに確認しました、これがそのメールです。そういうアプローチですとほとんど即オッケーになりました。彼らは権威に弱い。
おっと御社の○○取締役にはいつもご指導いただいていますというフレーズも多用しましたね。長年私のような商売をしていると各認証機関に知り合いのえらいさん一人くらいいるものです。もちろん審査の判定に影響力はないかもしれませんが、○○取締役はこの要求事項の解釈をこう語っていましたよというとまず反論はありませんでした。ご本人を呼ばれてもこちらは困りませんし
私は正攻法も使いますが、ネゴ、コネ、ハッタリなんでも使って目的を達する人間です。おっと恐喝なんてはしませんよ、そりゃ犯罪です。私を悪い奴なんて言わないこと、審査員にはもっと悪い人がウジャウジャいますんで。だって、不適合でないものを不適合にするって犯罪でしょう。
本当に寺■さんやUKASに問い合わせたのかって? それはもちろんです。

うそ800 本日確認したこと
今まで三木が審査員として環境方針の項番についてどのような審査をしたのかということを過去に書いたものを全部(!)読んでチェックした。そしてこの時点では三木はまだ方針の周知という意味を理解していなかったことを確認した。もし三木が方針を周知するということを理解していたならば物語に矛盾が出る。時系列的に今猿は既に山田に教えられている。
こんな物語を書くにも結構気を使っているのだ。


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