*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。また引用文献はすべて実在のものです。
審査員物語とは
「大学の仕事を止めてからは何をしてるんだい?」
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「働く前は卓球とかバレーボールをしていると暇がないって感じでしたけど、今は家事をして卓球やバレーに行っても時間が余ってる感じですね。やはり朝から夕方まで拘束されているのに比べると、毎日2・3時間スポーツをしても自由時間があります」
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「そいじゃまた何かをするのかい。ご近所さんとおしゃべりだけでも退屈だろう」
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「それでね、バレーの仲間が参加している介護のNPOの手伝いでもしようかと思っているの」
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「なんか大変そうだな」
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「そんな大げさなことじゃなくて、ある程度元気なお年寄りを介護タクシーで市内や近隣の公園に連れていくとか、寝たきりではないけど出歩けない人の安否の確認やお手伝いに定期的に訪問するとか、そういったことをしているそうよ」
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「お年寄りなんて言葉を聞くとざわざわするよ、俺たちも十分年寄りだよ」
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「まあ、体が動くうちは何かできることをしなくちゃって思うの」
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「なるほど、おれも定年後どうするか考え中だから参考になる話があったら教えてほしい」
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「そういえば大学の増田先生から電話があって、私に大学院に入る気があるなら口をきいてやるっていうの。今、増田先生はISO14001にとどまらず、エネルギーとか食品安全とかTSなどの認証制度の意義とか信頼性について研究しているんですって。それで私も一緒に研究しないかって。 ところで彼のボスだった三葉先生は来年契約が終わるので大学から去るそう。三葉先生は特任教授だから直接教授の椅子が空くわけじゃないけど、来年は増田准教授も教授様になるらしい」 | |
「大学院に入るってことかい。今さら修士とか博士になるのもどうなんだろう。15歳若ければ学位を取って、どこかの大学の講師とかそれこそNPOを立ち上げてってこともあるだろうけど。修士になるにも2年、博士となると10年後か?」
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「私も学食に行って分かったけど、最近は定年退職後とか子育てを終えた主婦が大学院に入るってのが多いのよ。学位をとることが目的じゃなくて、誰だって勉強したいって欲求があるのよね。 でもまあそうよねえ〜、話半分どころか冗談と思って聞いてたけど・・・ ただ時々先生が声をかけたとき手伝いとかに来てほしいって。資料収集やまとめは院生以上だって褒められたの。私はオーケーよって答えたけど。無償でも面白そうじゃない」 | |
「陽子の好きにすればいいさ。ただあまり手広くやって自分が追いつめられるようになるならないように」
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「分かってるわ。 そいでね、研究じゃないけど、最近いろいろと考えているの、ISO14001っていったいなんだろうかって」 | |
「そりゃまあ、その会社の環境管理の仕組みをしっかりするってことだろう」
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「ISO規格と認証は違いますでしょう。ISO14001規格の意図は遵法と汚染の予防でも、意図が規格に反映されているのかとか・・・考えるといろいろつじつまが合わないような気がしますね」
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「そいじゃ、それを究明するために大学院で研究するか?」
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「すぐにはそこにはつながらないわ。 それでね、おとうさん、時間がたっぷりあるから基本的なことからいきたいけど」 | |
「基本的なことって?」
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「そもそも会社に限らず組織はその事業活動から環境影響を及ぼすから、環境管理をするのは当たり前ですよね」
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「まあ、それも時代的変遷があるな。昔々、産業革命以前、企業は環境影響なんてものに責任を負わなかった。汚れた水を流そうと、煙を出そうとやりたい放題だったわけだ。もちろん環境影響そのものも小さかっただろうけど」
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「なるほど」
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「しかし人間の活動が大きくなって、ばい煙や排水で組織外の人が迷惑を受けるようになると、やがて組織はそれが起こした環境影響について責任を負うのは当然となった。もちろんそう思われただけではなく、そういう法律ができた」
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「足尾銅山とかイタイイタイ病ね」
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「それらは明治とか大正時代だけど、イギリスでは日本より早く18世紀からばい煙問題、排水問題が起きていた。公害ではないけれどイギリスでは産業革命のために森林が伐採され尽して環境破壊が起きているね」
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「産業革命のために森林伐採? 工場建設のためですか?」
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「アハハハハ、そうじゃない。燃料だよ。コークスを使うようになる前は、製鉄に石炭を使うことができず、
木材を使うしかなかったんだ。 そういや、事実かどうかはわからないけどイギリスでゴルフが盛んになったのは1850年頃、森林が伐採された跡地の草原でゴルフをする人が増えたからという話を聞いたことがある。日本ではわざわざ森林を切り開いてゴルフ場を作るけど、イギリスでは草地ではゴルフしかできなかったってわけかな?」 | |
「ちょっと真面目な話をしてくださいよ」
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「俺はいつもまじめだよ。ええっとなんだっけ、そうだ企業が外部に悪影響を出さないことが義務とみなされるようになった。そして時代が下ると義務の範囲はだんだんと大きくなった。新しい問題も起きたし、今までわからなかった因果関係が判明したこともあるからね」
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「それが環境マネジメントシステムになるのですか?」
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「話せば長いことながら」
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「どうぞどうぞ、時間は十分ありますし、雨も降りそうありませんし。口が寂しかったらあそこのコンビニからビールとつまみを買ってきますよ」
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「いかなる組織も、もちろんオーシャンズのような悪の組織は別としてさ、一般論として組織の目的は事業そのものじゃなくて永続することだと言われている」
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「へえ? だって会社の目的はお金を儲けることでしょうし、その手段は定款に定めた事業を行うことでしょう」
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「もう60年も前にドラッカーという人が企業の目的は永続することだと言っている。事業を続けることじゃないんだなあ。どの会社もリストラ、単なる人減らしじゃなくて本当の意味のリストラつまり事業を見直ししている、生き残るために。 例えば自動車会社は車を売ることではなく、車のリースとかローンとかがメインとなった会社もあるし、自動車から離れて住宅に進出したり飛行機に進出したところもある。それに今の自動車会社だって元々は、織機会社、飛行機メーカー、造船、オートバイいろいろな事業から拡大とか転身してきたわけだ」 | |
「なるほど」
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「えっと、本題は何だっけかな? そうそう、組織の目的は永続することだ。だからお金儲けはその手段であり、それもいっときではなく永続してお金儲けをしていくには世の中と折り合いをつけていかなくてはならない。 ということで環境影響を外部の人たちが納得してもらえる程度に抑えなければならないというわけだ」 | |
「そういうものを管理することが会社というか組織は要求されたわけですね」
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「そうだ。組織活動は、個人の能力とか以心伝心では大きくなることはできないし時間的経過に対応できない。それで環境に関わる仕事を決めた手順・基準で行う仕組みが必要となるのは必然だ」
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「それが環境マネジメントシステムとなるわけですね」
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「それはまあ言葉の定義次第だけどね。マネジメントシステムなんて言葉を英英辞典を引くと、ISO関係しか出てこない。以前からあった熟語ではないようだ。ともかく組織は環境影響を発生させるものを管理しなければならないわけだ。 では環境マネジメントシステムが環境影響を管理する仕組みかと言えば、それはおかしい。おかしいことは二点ある」 | |
「はあ〜、二点?」
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「ひとつは環境管理という言い方だが、環境を管理するのではなく環境影響を発生するものを管理するということだ。日本語も英語も環境マネジメントシステムとかいうと、『環境を管理する』と思ってしまう。正しくは『環境影響を発生するものを管理する』ということだ。これを誤解している人が多い」
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「なるほど、環境管理というのは環境を管理するのではなく、環境を悪くしないように管理することですね。知っているつもりですが、つい環境を管理することと思ってしまいますね」
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「品質管理というと言葉のまんま品質を管理することと理解しておかしくない。しかし環境を管理するってことは無理なんじゃないか。だってISO規格で環境とは我々を取り巻くものすべてだから、その一部である我々が全体を管理するなんて不遜そのものだ」
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「そういえば環境側面だって同じでしょう。環境の側面ではなく、組織が環境と関わる要素なんですから」
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「もうひとつは単なる言葉ではなく大事なことだが、環境影響を発生するものを管理する仕組みが必要かと言われると、そうではない」
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「ええっと、ちょっと待ってください。 環境を管理する仕組みではないのはわかりましたけど、環境影響を発生するものを管理する仕組みが必要ではないとは・・・ お父さんは環境影響を発生するものを管理しなければならないって言いましたよね。それもいっときではなく継続して管理していくためには仕組みが必要だと。でしたらその二つのセンテンスを合わせれば環境影響を発生させるものを管理する仕組みが必要ということになるでしょう」 | |
「会社の仕組みってのはいくつもあると思うかい? 大学の運営にいくつも仕組みがあるなら、職員も学生も戸惑ってしまうよ」 | |
「ええと、ちょっと待って、仕組みって何かしら?」
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「仕組みっていうと漠然としているけど、手順つまり物事を誰が決めるとか誰が担当とかどのように執り行うか、そして基準とはつまり決定するときの判断基準とか優先順位など、そういったものをルールにしたものっていう考えてくれればいい。 例を挙げると会社でも大学でも新しく取引業者を決めるとき、どのような調査をしてどのようなことを評価するか、誰がどのような基準で決定するか、そういった仕組みがいくつもあったら仕事が進むはずがない。指揮命令系統や手順や基準は一つしか存在できない」 | |
「なるほど、となると・・・・」
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「俺の言いたいことは、会社や大学という組織を運営する仕組みは必要であり、それは一つしか存在できないものだということだ」
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「確かに、そう言われるとそうね」
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「だから環境影響を発生させるものを管理する仕組みを作るのではなく、そういった手順や基準をその組織の唯一無二の仕組みに織り込まなければならないということだ」
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「ああ、お父さんの言わんとしていることが分かりました。でもそうすると環境マネジメントシステムってなんでしょうかね。環境を管理するマネジメントシステムが存在するってことでしょう」
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「そこも多くの人が誤解していることだが、環境マネジメントシステムとは『組織のマネジメントシステムの一部で、環境方針を策定し、実施し、環境側面を管理するために用いられるもの(ISO14001:2004)』と定義されている。独立したシステムではないんだ」 この物語は今2009年なので三木は2004年版の文章を引用した。 | |
「独立したシステムではないというと?」
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「ISO14001に文書管理とか力量あるいは内部監査なんてのがあるが、それと同じくISO9001にも文書管理とか力量とか内部監査がある。じゃあ会社には環境マネジメントシステム用の文書管理があり、ISO9001用の文書管理があるかと考えればわかるだろう」
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「その会社の仕組みには文書管理は一つしかないということね」
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「そういうことだ。一人前にその構成する要素を持ち合わせていないISO14001やISO9001がマネジメントシステムを名乗るのはおかしいだろう」 | |
「でも上位のシステムではないかもしれないけどサブシステムとは言えるわね」
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「サブシステムでもない。自動車が一つのシステムであり、エンジンやトランスミッションがサブシステムであることは間違いない。しかし自動車部品の中からガラス部品だけ集めてもシステムじゃない。環境に関わるものをかき集めてもシステムにはならないんだ」
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「なるほど、そうすると正しく言えば『組織のマネジメントシステムの一部で、環境方針を策定し、実施し、環境側面を管理するために用いられるもの』あれ、これって定義そのものでしょう。じゃあ定義は間違えていなくて名づけが不適当だったってこと?」
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「名は体を表さずってことだね。だからISO規格の定義はおかしくない。要するに一人前のシステムではないがマネジメントシステムと名前を付けたってわけだ。 でもさ同じようなものはたくさんある。さっき陽子が言った環境側面も環境の側面じゃない、あれは組織が環境と関わる要素であり正確に言えば組織の側面だよ」 | |
「なるほど、あるいはマネジメントシステムの環境の部分という意味なのかもしれませんね」
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「さてISO14001が作られたいきさつはいろいろあるけれど、リオ会議で持続可能性を実現するために企業がなすべきことを決めようとしたのが始まりらしい。当時の私は営業一筋だったから経過はわからない。本で読んだだけだ」
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「それが国際標準となったわけだけど、持続可能性を実現するものだったの?」
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「そんなことありえないだろう。ブルントラントの委員会報告では持続可能性とは『将来世代のニーズを満たす可能性を損なうことなく、現在の世代のニーズを満足させるような開発』だという。そもそもこの言葉の意味も国際社会の妥協の産物だ。将来を損なわず現在のニーズを満足させる開発がありえるのか、誰も証明していない。数学なら問題が解けなくても回答があるのか否かを極めることは重大だが、環境問題については解があるかどうかを問うことなく、設問を解くために右往左往している。おかしなことだ。 更に仮に持続可能性が存在するとして、それを実現するためにISO規格が有効かどうか、言い換えるとISO規格要求を満たせば、持続可能性が実現されるかどうかも、誰も証明していない」 | |
「あなたかなり熱くなってるわよ」
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「まあまあ、これはいつも疑問に思っていることなんだよ。 それでさ、さらなる問題がある」 | |
「また問題があるのですか?」
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「問題というか疑問だらけだ。 ISO14001を満たしても持続可能性の実現は闇の中である。じゃあ組織がISO14001を満たしているかどうかはいかなる意味があるのだろう」 | |
「それはすなわちISO14001認証の価値ということですね」
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「正確に言えばちょっと違う。自己宣言や二者間の監査という方法もあるからね。とはいえ現実を見れば同じことか」
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「ともかくISO認証すればなんらかの価値がなければなりません」
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「別に価値がなくてもばちは当たらないけど、認証を売り込むには困るな」
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「認証を受けるか受けないかはともかくISO14001を満たしたとして、その組織はISO14001を満たしていない組織に対して何が優位になるのでしょう?」
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「分からんね。そもそもISO14001の序文で遵法と汚染の予防を継続的に維持するには仕組みが必要であると言っている。それが事実なら、仕組みがない組織は遵法と汚染の予防を継続的に維持できないことになる。まあそれは事実らしく思える。しかしさっきもでたけどISO14001規格が遵法と汚染の予防に完璧とまではいわずとも有効であると言えるかとなると、大いに疑問符が付く。いや欧州にはEMASという規格や制度があり、日本だっていろいろな環境マネジメントシステムが存在する」
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「ああ、エコアクション21とかエコステージなどね」
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「オイオイ冗談を言うなよ。 日本でもっとも有効に機能している環境マネジメントシステムは公害防止組織だ。公害防止組織は法規制であり、組織体制、運用手順と基準、関係者の力量、その他を詳細に定めた環境マネジメントシステム要求であり、俺の知る限りその有効性は40年間に渡って実証されている」 | |
「なるほど、但し工場限定ね」
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「確かに、ただ日本の環境管理に関する法規制は公害防止組織だけでなく、消防法、省エネ法、安全衛生などいろいろな切り口で定められている。だからオフィスとかデパートとか、工場以外の業種や形態であっても必要と思われることは法で要求されている」
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「おっしゃることはわかります。ただ日本の法規制は省庁の守備範囲に変に細分化されているようにも思えますね」
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「確かにその弊害はあるね。ISO14001のように更地に家を建てたのではなく、ゴミが問題になれば廃棄物処理法、エネルギー危機になると省エネ法、公害が問題になるとというふうに後追いで作られるのが法律だからね。それはしょうがない面もある」
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「遵法と汚染の予防を目的とするISO14001だけど、期待には応えなかったということ?」
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「そもそも認証とはある企業の環境マネジメントシステムがISO規格を満たしていることを第三者認証機関が確認したということだ。それが意味を持つかどうかということが次の課題だな」
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「結局それは最終的に、その認証を参考にするかしないかということですね?」
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「そうだ。取引するときにISO14001認証しているなら環境事故が起きないだろうから安心して取引できるとみなされることが認証の価値になるだろう。 だけど実際はそんなふうには信用されていない」 | |
「それがまさしく増田先生が調べようとしたことだわ」
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「ISO認証を参考に買い物する消費者なんて見たことがない。陽子だってそうだろう。どうしたら陽子が買い物するときにISO認証しているかどうか気にするようになるのかね?」
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「私は審査員の妻でしたけどISOがどんなものなのか全然知りませんでした。何とか理解したのは、大学にパートに行ってからですよ。一般の主婦いや消費者がISO認証なんて気にしないですね。気にするようになったらおかしいと違いますか」
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「おかしいというと?」
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「基本的に消費者は店頭に並んでいるもの、いや市場で売られているものは安全で不良がないと考えているわけです。もちろん性能が良い悪いというのはありますよ、例えば車の燃費がなんとかモードで25キロとか20キロとかいろいろありますけど、20キロとあれば20キロは走るだろうと思います。それが嘘だったら怒りますよ。国産ウナギが中国産だったら金返せですよね。 要するに商品というものは、ISO認証があってもなくてもまっとうなものじゃなくてはだめなんです。でもそれじゃISO認証なんていらないじゃないですか」 | |
「オイオイ、熱くならないで。 結局ISO14001認証というのはあまり意味がないんだよね」 | |
「意味がないというのは?」
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「ISO9001の亡霊というか・・」
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「亡霊? なにそれ、面白そうね」
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「いやお化けがでるわけじゃない。単なる比喩だよ。ISO9001が現れたとき、それは二者間の取引に使われるはずだった」
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「ええっとだいぶ前にイギリスの爆弾とかの話の続きね?」
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「そうそう、基本的にISO認証というか品質保証という考えは、BtoBに使われる考え方だ。BtoCの一般消費者のように売り手買い手が特段品質について契約するわけでなく、かつ1回こっきりの取引では品質保証という発想は不向きだ。 さてISO14001認証はなにを保証するのかとなると一般消費者に対しては何を保証するのだろう? ISO14001の利害関係者は消費者というよりも近隣住民の方が密接で深刻な関わりがあるが、近隣住民に対しても安心感を提供しているとは思えない」 | |
「それは規格要求がミスマッチなのではないのかしら。PDCAだとか改善だとかよりも、コミュニケーションとか緊急事態対応をもっと情報公開するとか、近隣住民を巻き込んだ仕組みにするとかしないと信用されません」
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「まったくだ。そういう観点でISO9001からの仕組みというか考え方は、環境に関するISO14001には不向きなんじゃないかな」
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「以前おとうさんはISO14001も品質保証の仕組みと言いましたね。品質保証の仕組みでは、取引企業はともかく近隣住民は納得しないのですよ」
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「じゃあどうすればいいのだろう」
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「仕組みを保証するのではなく、結果を保証することしかありません」
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「そりゃ無理だよ。お釈迦様が明日も会いましょうと言われたときにっこり笑ったという。なぜかっていうと明日しれぬ人の身、イエスと答えて明日来れなかったら嘘をついたことになる。とすると肯定も否定もできないよ」
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「考えてみると、一般消費者にとってISO14001認証なんていらないんじゃないかしら。法律を守れというのは日本国民、いや日本に住む自然人・法人の義務でしょう。だったらわざわざ遵法に努めますなんて言うのはバカじゃない! 汚染の予防に努めるなら法で定める設備、方法、資格者をおくのが最低でしょう。そしてそれ以上のことを要求するのはどうなのかとなる。もし法の規制基準で問題が起きれば法規制を変えるのがスジ」 | |
「だってさ、ISO規格は法規制から自主規制への規制緩和って意味もあったのだし、それに日本は法規制が整備されているけれど環境規制が整備されていない国も多いんだ」
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「私が言いたいのは利害関係者を安心させるにはISO14001は不十分だということよ。それは要求事項を加除したところであまり変わらないと思う。ISO規格の要求事項の加除どころか、規格の構成を変えてもだめなんじゃないかなあ〜」
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「どうしたら消費者がISO14001認証を参考にするようになると思う?」
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「認証機関の裏書が頼りになることしかないわ」
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「認証機関の裏書が頼りになるとは」
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「簡単よ、企業の環境マネジメントシステムがISO規格通りであることを保証するのではなく、事故や違反が起きたらその会社を認証した認証機関が補償することね」
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「それは・・・・無理だろうなあ」
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「そうでもないと思うのよ。未来のを保証するのではなく過去のパフォーマンスを保証することは理屈から言ってできます。公害関連の体制、資格者、パフォーマンスつまり測定値、そういったものの過去の実績を確認し数値はともかく嘘偽りがないことを裏書きすることは不可能じゃありません」
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「そりゃまさにEMASだね」
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「要求事項の良し悪しがわからない、規格適合なら何が期待できるのかさえ定かでないISO14001規格に合ってますなんて言われても、そんなことに何の価値もありません。 それよりも法規制に対してどれが適正でした、ここはだめでした、そういうふうに判定して公開してもらった方が近隣住民としてはそこに安心して住めるか、引っ越すかの判断に役立つでしょう」 | |
「イヤハヤ、会計監査のようだ」
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「環境債務が財務諸表に載るご時世ですから、公認会計士による会計監査で環境パフォーマンスもチェックすれば八方丸く収まりそうね。 そのときは既に掲載されている過去からの環境債務だけでなく、過去1年間の環境だけでなく社内犯罪の懲役とか罰金はもちろん、監督官庁からの通知とか是正指示なども情報公開してほしいですね。そしてそれは当然有価証券報告書に掲載して株主や一般市民に公開すべきです。 日本では報道された事故とか違反は会社報告書とか環境報告書に載せていますけど、事故とか罰金などまでは載せていません。IBMでは使い込みから罰金からゼーンブ公開しています。でもそれで評価は下がっていません。透明で素晴らしいと言われています」 | |
「大きな流れからすればそれが妥当というか落としどころかもしれないね。基準はあいまいで責任を負わない第三者認証などよりも、責任を負う会計士が確認して報告書を公開するのが組織にとっても、他の利害関係者にとっても最善かもしれない。 とはいえ今の認定機関や認証機関には荷が重い。法律で制度を定めて公認環境会計士のような資格を設けてやらないと請け負う度胸はないだろう。まっEMASはそうなんだろうけど」 | |
三木は昨夜から剃っていない顎の無精ひげをなでながら空の雲を見上げた。 |