審査員物語65 菅野に会う

16.02.01

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三木の退職日まであとふた月、三木は会社に来たが今日はすることがない。まずはコーヒーを飲んでなにをして暇をつぶそうかと考えていると潮田取締役がやってきた。ヒマではあるが面倒な仕事を言われると困るなと内心思う。

潮田取締役
「いやあ三木さんがいて良かった。頼みがあるのですが」
三木
「なんでしょうか?」
潮田取締役
「今日、業界団体の会合があるのですよ。私が委員になっているのですが代わりに出てくれませんか。いや、黙って座っていればいい。配布された資料を受け取ってきてくれればいいのです」
三木
「それだけってことはないのでしょう。社を代表して発言することがあるのでは責任を負えません」
潮田取締役
「大丈夫、大丈夫、これが開催案内です。報告は配布資料にコメントを書き込んで渡してくれればよろしいですから」

それだけ言うと潮田は行ってしまった。そんな調子でいいのだろうか?
ともかく三木は受け取った資料を見る。まず日時は本日午後1時、場所はここから歩いて10分ほどのところにあるISO認証事業もしている某財団法人である。
まあ、いいかと三木は開き直り配布資料をめくる。
参加メンバーを見ると認証機関の名前が10くらい並んでいる。大手だけでもないし業界団体系だけでもなくジャブ認定だけでもなく、どういう基準なのか? 会合の名称は「○○に関する意見交換会(第○回)」とある。研究会とか委員会とかでなく意見交換会ではあまりアウトプットも要求されず、重要性もないのかもしれない。前回の議事録が添付されているので斜め読みする。参加メンバーが討論している様子ではなく、何人か報告しているだけで質問もなかったようだ。まあなんとかなるだろう。へたをうっても潮田取締役が恥をかくだけだと三木は腹をくくった。

ラーメン 歩いていく時間を見越して早めに会社を出て昼飯を食う。昼前なのでガラガラだ。そんなわけで予想よりも早く昼食も終えて、外堀通りを新橋駅に向かって歩く。
途中、これでは相当早くついてしまうと思い道沿いのコーヒーショップに入って窓際のスツールに座って外堀通りを眺める。
隣に50代半ばの女性がいてノートパソコンを使っている。見るともなく見ると英文をバタバタと書いている。英語もタイプも苦手な三木はすごい人もいるものだと感心する。どこにでもいそうな主婦にしか見えないが中身はバリキャリなのかもしれない。1杯のコーヒーを時間をかけて飲んで立ち上がると同時に隣の女性もパソコンをバッグにしまい立ち上がった。
そして三木が店を出ると彼女も前を同じ方向に歩いていく。ただ三木よりも相当早足だ。あっというまに姿は見えなくなった。仕事ができる人は早く歩くのだろう。

開催案内に書いてある財団法人の受付で用向きを伝えると小さな会議室に案内された。先ほどの女性が一人座っていてまたパソコンを叩いている。
三木がいくつか離れた席に座ると彼女が声をかけてきた。

菅野
「先ほどコーヒーショップでご一緒でしたね」
三木
「あっご挨拶遅れましてすみません。ナガスネの三木と申します。本日は取締役の代理で参りました」

三木は立ち上がり名刺を出した。名刺を使うのも今日が最後だろう。
女性も立ち上がり名刺を渡してきた。見ると外資系認証機関の取締役とある。いくら小さな認証機関でも取締役か、すごいもんだと顔をあげてながめた。同時に女性も顔をあげて三木をじっと見ている。
三木
「はあ? 私の顔になにかついていますか?」
菅野
「アハハハハ、そうじゃありません。先日お名前を耳にした方にお目にかかれたので驚いたのです」
三木
「私の名前を? はて私は有名人じゃありませんが」
菅野
「佐田さんという方をご存知でしょう。素戔嗚すさのお電子工業の」
三木
「佐田さん、ああ2・3週間前でしょうか、お会いしました。実を言いまして私のISOの先生の一人なのです。佐田さんと菅野さんはどういう関係なのでしょうか?」
菅野
「佐田さんは私のお師匠さんですわ。もう20年も前でしょうか、田舎の工場でISO9000を認証しようとしたときの担当者が佐田さんで私がその助手でした」
三木
「それじゃ菅野さんは私の姉弟子ということになりますね」
菅野
「アハハハハ、年下の姉弟子ですか。つい最近佐田さんにお会いしたとき、三木さんという方が訪ねてきたということをおっしゃいましたので」
三木
「実は私はまもなく定年退職しますので、今までにお世話になった方々に挨拶回りしているのです」
菅野
「佐田さんのお話では三木さんは認証制度の問題を研究されているとか」
三木
「研究ですって? ご冗談を、興味があっていろいろと聞きまっているというだけですよ」
菅野
「そいじゃ今日のお話に関心を持たれてやって来たわけですね」
三木
「実は私のところの取締役から代わりに出て来いと言われただけなのです。これはいったいどんなというか何が目的の集まりなのでしょう?」
菅野
「アハハハハ、三木さんもその取締役も面白い方ですね。もう以心伝心、阿吽の呼吸でお仕事をされているのでしょう。
『マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン』というのをご存知ですか?」
三木
「ええっと、名前は聞いてますよ・・・もう4年くらいになりますか(この物語は現時点2013年である)当時ISO認証企業が不祥事を起こしたので、なんとかせいと経済産業省が出した通知みたいなものですね」
菅野
「そう、それに対応して認証制度側がガイドラインに対するアクションプランというのを作りました」
三木
「それも聞いたことがあります。パート1パート2があったような・・」
菅野
「三木さんのような中枢の方がこういったものを聞いたことがあるとおっしゃるようでは、御社ではあまり真剣に受け取られていないのですね」
三木
「うーん、そう言われるとちょっとあれですが。そもそもそれらは一認証機関がどうこうするものとも思えませんね。いやできるものでもありません。
そして中身もアクションプランという名乗るほど具体的な計画ではありませんし、パート2に至ってはなんのことか、何を言っているのか理解に苦しみます」
菅野
「確かに・・・まあともかく認証機関側も何とか対応しようとしているという姿勢をとっているということです。つまりこういった委員会とかを設けて具体的実施事項を検討したりしているわけです」
三木
「姿勢を取っている? ああ、なるほど、行動してはいないということですか。今もって意見交換会では進捗が予想できます」
菅野
「おっとここにいるときは口を閉じていた方が良いですわよ」
三木
「承知しました」
菅野
「この会合はアクションプランの進捗と上位組織の意向などを話し合う委員会の下の意見交換会なのです」
三木
「それは面白そうですね」
菅野
「そうでもありません。みなさん杓子定規の上っ面の事しか話しませんから、具体的成果なんて」

やがて7・8人のメンバーがそろって話が始まった。全員が報告するのではなく交代で代表する部門の進捗、問題点、今後についてを報告し、他のメンバーはそれを聞き、資料をもらってお開きという、まあどこにでもありそうな集まる意味のない会合であった。今回はナガスネは報告担当ではなかった。こんな会合なら潮田が出たくないのもわかる。
三木は渡された資料をカバンに入れて立ち上がった。部屋を出ようとすると菅野が声をかけてきた。
菅野
「三木さん、ちょっとお話しするお時間ありませんか?」
三木
「いやあヒマでヒマでしょうがありません」
菅野
「アハハハハ、三木さんは面白いお方ですね」

菅野はこのあたりに詳しいようで隣のビルの中の静かな喫茶店に入る。ケーキとコーヒーを頼む。コーヒーは紙コップではなく磁器だった。それだけでワンランクうまそうに思える。
 
菅野
「実は佐田さんのお話を聞いて三木さんに興味をもちましてね、ぜひともお話をしたいと思ったのです」
三木
「興味を持たれた? はて、なんでしょう」
菅野
「まずなぜ認証制度の意義とか価値とかを考えるようになったのでしょう?」
三木
「ああ、そういうことですか。話せば長くなりますが審査員になってからずっと納得できないことがありました。それはナガスネ方式と呼ばれているものへの疑問でした。ナガスネ方式は評判悪いですが、間違いも多々ありましてね・・・例えばティピカルな側面を点数で決めるというのは納得できなかった」
菅野
「ウチでは点数でなくても全然問題にしませんけど」
三木
「確かに点数でなければならないなんて規格に書いてありません。ですから私も初めは点数方式ではなくても良いと思いました。しかしいつしか環境側面を決めるには点数方式かどうかはどうでもよくて、真の問題はこまかな方法論がどうこうではなく基本的な考え方が間違っているのだと気付きました。例えばそのひとつとして環境側面を決めるというのはおかしいと考えるようになりました」
菅野
「環境側面を決めるのがおかしいとおっしゃいますと」
三木
「簡単なことですよ。規格では環境側面を特定しろ、著しい環境側面を決定しろとあります。それは間違いだと思うのです。ナガスネ方式が間違いなのはもちろんですが、ISO規格も間違いなのです」
菅野
「三木さんのおっしゃりたいことは?」
三木
「文字通りのことですよ。環境側面なんてものは考えるまでもなくどこの会社だって把握しているはずです。ただ審査をパスするためにわざわざ調べて評価して元から認識していたものが著しい環境側面になるようにしているだけです。つまりISO認証とは企業に無駄なことをさせているだけではないかという結論に至ったわけです」
菅野
「それは法規制その他についても同じですね。つまり規格に書いてある順序とか内容が実務にあっていないということに理解してよろしいですか?」
三木
「そのとおり。環境実施計画も内部監査も組織も、全部が全部嘘っぱちだと思います。嘘っぱちというと変に聞こえるなら、そんなことは元々していたことであり、ISO規格がわざわざそんなことを言う必要はない、ということはISO規格が存在する必要もないし、演繹すれば認証の効果はないというのが今の私の考えです」
菅野
「なるほど、そんなことから認証の存在意義を考えるようになったということですか?」
三木
「そうです。しかし私も自分の考えが正しいのか間違いなのかわかりません。それで佐田さんほか多くの方のお考えもうかがいました。鷽八百機械工業の山田さんという方をご存知でしょうか?」
菅野
「存じ上げませんが」
三木
「そうですか。その方は認証をお金とか債権の格付けなどに例えてました」
菅野
「お金はわかりませんが、認証を格付けになぞらえる方は多いですね」
三木
「そうなんですか? ともかく山田説は認証とはバーチャルなものであるというご意見でした」
菅野
「バーチャルとはどういう意味でしょうか?」
三木
「結局、裏書きつまり保証するかしないかというところがリアルかバーチャルかの違いと理解してください。我々がしている認証はいかなることも保証していません。裏書きしていないのです」
菅野
「保証とは?」
三木
「この場合アシュランスではありません、補償compensationの意味、損害や費用を支払うことです」
菅野
「格付会社も何ら責任を負いませんよ」
三木
「そうです。しかし格付会社はその成績によって選別され淘汰されます。過去にはアメリカや欧州には債権、株式の格付をする会社は多数ありました。しかし1929年の大恐慌時に格付評価を間違えていた会社は相手にされなくなり淘汰されてしまいました。
ISO認証も認証結果によって認証機関が選別され淘汰されるなら信頼性が高まるでしょう。ということは補償しなくても認証制度の信頼性を担保することは可能であると言えますね。
実を言いまして私も確固たる考えがあるわけではなく、話しながら考えているのです」
菅野
「なんかそれって後付け臭いですよね。勝てば官軍ってことでしょう。たまたま格付けが当たったかもしれないけど、次もそうかどうかは定かではありませんよ」
三木
「おっしゃるとおりです。それは認めます。しかしISO認証はその第一歩までたどり着いていないということでしょう。
とにかくまずは認証した企業は品質、環境パフォーマンス、事故、違反、なんでもいいんですけど、抜きん出ているということを示さなくちゃ最低限の信頼を得られません」
菅野
「そうかもしれませんが・・・それと評判を得ることが実質を伴うかどうかは別問題ですし」
三木 神の怒り
「それもその通り。ただ大勢が信用すれば力を得る。それが想像というか単に思われているだけかもしれませんが影響力を持ちます。だが今のところまだISO認証は世の中に知られていないし頼りにされておらず、結局のところなにも影響力を持っていない。
例えば神様が力を持つかといえばどうでしょう? 私には神様がいるかいないのかわからない。そして神が人に罰を与え福を与えることができるのかどうかもわかりません。そして私の身に何か起きても、それが神のおぼしめしとは考えないでしょう。なぜなら神を信じていないからです。
しかし神を信じる人に対して神は力を持つ。具合が悪くなれば神の怒りだと思うでしょうし、神の罰を受けたと思えば体調を崩してしまう。本当に死んでしまう人もいると聞きます」
菅野
「じゃあISO認証も世の中に広く知られて信用されるようにしなければ」
三木
「そこですよ。信用されるようになるはずがないのです」
菅野
「はあ、どうしてでしょう?」
三木
「第三社認証とはISO規格を組織が満たしていると外部に表明することです。そこはよろしいですね」
菅野
「まあ、そうですわね」
三木
「では次にISO規格を満たしていることにいかなる意味があるかを考えなければなりません。いかなる意味がありますか?」
菅野
「そりゃ企業として一定水準にあるということです」
三木
「一定水準と言いますが、それは一般企業の上中下どのへんになるのでしょう?」
菅野
「正直言って最低限レベルでしょう」
三木
「私もそう思います。ところが規格序文ではその満たすレベルさえ企業によって異なってもよいというのです。序文をご存知ですよね?」
菅野
「一応審査員ですから」
三木
「すると、ISO規格を満たしたと言ってもその組織がエクセレントカンパニーではなくスタンダードであるということ、更には規格を満たしたと言っても企業によってレベルが違う、それでは認証企業を信用する気になりますか?」
菅野
「まあ認証されないような企業よりは認証されている方が・・」
三木
「おっともう一つの観点がありましたね。認証していない企業は認証を受けようとしてもだめな企業と、要求レベルが低いからわざわざ認証を受けるまでもないと考えている企業の二種類があることになる」
菅野
「三木さんはよほど第三社認証がお嫌いなようですわね」
三木
「そうではありません。私は様々な観点から問題を提起しているにすぎません」
菅野
「わかりました。三木さんの意見を認めます。
三木さんの主張は第三社認証が社会から信頼されるはずがないということですね?」
三木
「いえいえ、私は断定していませんよ。第三社認証は社会から信頼される要素が見当たらないということです」
菅野
「10年も審査員をしていると突っ込まれないように言い回しに注意されるのですね」
三木
「世間には論理が破たんした所見報告書を書いている審査員が大勢います。何年審査員をしたかは関係ないでしょう。ただ私は気が小さいから突っ込まれないように気を付けているだけです」
菅野
「わかりました、三木さんのおっしゃることも一理あります。しかし我々はこういった制度がありその制度の中でビジネスをしていかなければならないという状況にあるわけです」
三木
「それは認証ビジネス側の勝手な論理でしょうね。社会が必要としているかどうかはまた別です」
菅野
「三木さんはどうして審査員になられたのですか?」
三木
「早い話が元の会社で不要になった、引き受ける関連会社もなく、業界団体が作った認証機関に引き取ってもらったというところでしょう」
菅野
「日本ではありがちでしょうね、特に業界系認証機関では・・遊休人材の活用なんて外資系認証機関にとっては無縁ですわ」
三木
「そんなことないでしょう。企業から審査員を出向受け入れする代わりに認証してもらうという相身互いはあると聞きますよ」
菅野
「まあ、あるでしょうね」
三木
「認証機関にはいろいろな生い立ちがありますが、大きく分けると船級検査とかプラントの品質保証とかをしていた老舗系、その多くはお宅のような外資系でしょうけど
それと各種機器の安全検査や製品認証などをしていた財団法人系、次に業界団体が審査費用を外部流出させないように設立した業界団体系、そのほかに地方自治体系などもあります。
いずれも設立の目的はあるでしょうけど、認証ビジネスの意義というものを突き詰めていなかったと思いますよ」
菅野
「まあ、そんな。おっしゃるようにウチはプラントの品質保証や船級検査が発祥でしたが、そういう観点で認証とは実際に有効で意味のあるものと考えています」
三木
「ISO認証ビジネスの提供するサービスとはなんですか?」
菅野
「そりゃIAF/ISOの共同コミュニケとおりでしょう」
三木
「ええっとうろ覚えですが、『定められた認証範囲について、認証を受けた環境マネジメントシステムがある組織は、環境との相互作用を管理しており、以下の事項に対するコミットメントを実証している』でしたっけ? 以下の事項ってのは『汚染の予防、法の順守、環境パフォーマンスを改善するために環境マネジメントシステムを継続的に改善していること』、」
菅野
「三木さん、私の方が三木さんより10年長くこの仕事に関わってましたけど三木さんにはかないませんね」
三木
「何をおっしゃる、あなたは私の姉弟子でしょうが。
しかしいったい第三社認証とはなんだろう? 私は思うんですがね、QMS認証というのは意味があるかもしれないが、EMS認証とはなにか?
環境マネジメントシステムがISO規格要求を満たしていると外部の人に認めてもらってなにがうれしいのか?」
菅野
「QMSは結局二者間の契約という発祥時からの意味はまだ残っているわけね」
三木
「そうです、船級検査というのはISO第三社認証と根本において異なるのです。いくら発祥が船級検査だと言っても、ISO認証についてのスタンスは雨後の竹の子のように作られた認証機関と同じはずです。
思うに環境遵法と汚染防止なら、ボランティアなISOよりも法規制の方が速くて実効性がありそうですね。省エネを例にあげれば側面を把握して環境実施計画をたてろなんてあいまいでまだろっこしいことでなく、いつまでに1%下げろ、さもなければと明瞭でかつ強制力があります。
ISOのように要求事項があいまいで、組織によってレベルが違ってもいいというのでは外部に対して意味がない」
菅野
「意味がないとはちょっと言い過ぎでしょう」
三木
「うーん意味がないというのは無意味、無駄ということではなく、する必要がないという意味です。つまり要求事項すべてが企業においては常識的なことではないのかと思うのですよ。
菅野さんが1992年からISOに関わってきたとおっしゃいましたね。当時の要求事項は具体的で過去からしていることと対応が分かりやすかったと思いますよ」
菅野
「確かに・・・20年前に田舎の工場で佐田さんと一緒にISO認証した時のことを考えると、要求事項に対応するものを過去からしていたことから選び出し対応表を作っただけだった。そう考える認証とか規格適合ということに効果はなさそうだわ。少なくても会社を良くすることはない。効果としては取引企業からの要求を満たし商売ができるということだけですね」
三木
「いやそれこそが元々の効果だったはずで、それは偉大なことですよ」
菅野
「ああそうですわね、要求事項を満たすとは商売をする必要条件ですから。
ただISOの効果、認証の効果となるとどうなんでしょう?」
三木
「ないという結論が今までの話で出てくるんじゃないですか」
菅野
「まあそうなんでしょうねえ、ウチでは以前から認証が企業を良くするなんて言わないことにしています。そんなはずはないと考えていますから。
認証機関には従業員の士気をあげるとかいろいろ言ってますが」
三木
「そう言わないとメリットが見えませんからね。
しかし体制側が虚偽の説明とか、認証の信頼性が落ちているなんて対外的に発言しているのですからもうどうしようもありませんよ」
菅野
「虚偽の説明ってことについては私たち外資系は大いに反論したのよ。そういう言い方はそもそも認証制度の仕組みを無視しているし、第一虚偽の説明があったのかどうかさえ定かでない。
それにしても消費者団体が信頼を裏切ったなんて語るなんてふざけた話よ。感情論と想像だけで語るのだから始末が悪い」
三木
「菅野さんの先ほどの話に戻ればこのような条件下で認証ビジネスを拡大していくにはどうしたらいいのですか?」
菅野
「私ひとりとか当社だけではどうしようもないけど、やはり基本的なこと、認証の意味とか認証制度側のスタンスをはっきりさせて再出発することが必要でしょうね。
それと業界規模がいかほどかを良く考えないといけません。登録件数がいかほど期待できるのか、認証機関の数、審査員の数、審査員の人件費、そういったことを大局的なことから細かいことまで考えないと」
三木
「今のような状況ですとコスト競争で共倒れか安売りだけが残るのか」
菅野
「残念だけどそうなりつつありますね。まさに悪貨は良貨を駆逐するだわ」
三木
「駆逐される方にも悪貨は多いのではないですか?
いえ、御社の事ではなくナガスネは明らかに悪貨でしょう」
菅野
「正直言って業界全体が生き残ることは無理でしょう。自社だけでも生き残らなければ」
三木
「そうならないように今日もそうですがアクションプランがあるのではないですか?」
菅野
「アクションプランなんて冗談じゃない。いつまでに何をするのか決めていないものの進捗報告することが論理的にできるのかどうか。あんなもの紙と労力の浪費以外何物でもないわ、
あー頭が痛い、もう一つケーキを頼みません」

菅野は自棄食いするタイプのようだ。
三木は菅野から新しい情報はもらえなかったが、彼女も現状を打破するアイデアがないということは分かった。

N様、ご指名いただき
ありがとうございます

菅野

うそ800 本日の報告
先日N様と飲んだ時のこと、「菅野さんを登場させろ」とのご指示を受けた。
本日ここにご下命を実行したことを報告します。


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