*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。また引用文献や書籍名はすべて実在のものです。
審査員物語とは
木村は審査員研修については以前から知っていた。研修を受けるためには1週間休暇を取らねばならない。とはいえまだ先は長い。仕事の閑散期に行けるよう調整しよう。
審査員の諾否伺いを引っ張り出してリストを作ると、駿府工場の環境管理担当の 古川に相談した。 ![]() | |||
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「俺もさ、ISO14001を担当してきて環境管理とかもっと深く勉強しようと思っているんだ。それで資格を取ろうと考えたんだけど初めからあまり難しいものに取り組んでも玉砕してしまうから、手始めにどんなものにチャレンジしたらいいか教えてくれないか」
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「さすが木村さんですね。資格を取ったら名前を貸してくださいよ。ウチでも必要な資格者がいなくて技術部にいる資格マニアから名前を借りているのがいくつもあるのですよ」
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「へえ、どんなものなんだい?」
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「公害防止管理者の水質3種とかエネルギー管理士とか、」
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木村がリストをみると、公害防止管理者の何種というのが目につく。ただそんなには多くない。公害防止管理者の資格者がそれほど多くないのは難しいからだろう。
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「それは難しいんだろうか?」
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「公害防止管理者はそんなに難しくないですよ。といっても合格率は2割ちょっとではないかなあ〜 木村さんなら今から勉強したら来年の試験には合格しますよ」 | ||
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「試験は年に何回あるの」
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「年一回です。9月末か10月初めだったはず」
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「それじゃちょうど1年あるわけだ。だけど古川君の口ぶりでは難しそうだねえ」
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「1年間勉強して不合格ではダメージが大きいですから、とりあえず最初は簡単なものから始めたらどうですか。どうせこれから何年も勉強していくんでしょう」
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「そうだね、間違いなく合格できそうなものから始めたい」
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「いっとう簡単なのは特別管理産業廃棄物管理責任者というものです。これは講習会を1日聞けばもらえます」
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![]() 木村はリストを眺める。あった、あった。ほとんどの審査員がこの資格を持っている。ということはこの資格は簡単でしかも審査員の資格として恥ずかしくなく書けるものなのだ。それはいい! | |||
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「講習会は数多いのかい?」
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「中身は簡単ですが、講習会を受講するのは難しいですね。というのは受講希望者が多くて、すぐに満員になってしまうのです。静岡県では年3回か4回開催していますが、受講するのは大変です。ただ他の県でも受講してもよいのです。もちろん受講できればです。どこでも受講者が多いですからね」
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「わかった、調べてみる。その他に簡単に取れそうで価値のあるものってあるかい?」
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「木村さんもずるいですね、簡単に取れるものは価値が低いのは世のならい。 とはいえ、そうですねえ〜、環境と言わずに一般的に言えば、作業主任者なんて簡単に取れますね。作業主任者というのは労働安全マターなのですが、環境にも関わるのです。ウチの場合は鉛作業主任者とか有機溶剤作業主任者なんて必要です。受講してみたらどうですか。但し業歴の証明を総務に書いてもらわないと受講できませんが」 | ||
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「それは何とか頼むことにしよう。それも難しいのかい?」
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「これまた受講者が殺到しますから、受講できるかが問題ですね」
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「さっきエネルギー管理士という話があったけど、それはどうなんだろう?」
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「普通の人ならまじめに勉強して5年はかかります。ウチでも大学出てきたばかりの奴に受験させているのですが、科目合格さえもしませんよ。まあウチに入ってくるようなのは頭が並み以下でしょうけど」
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![]() 科目合格というのがどういうものかは知らないが、エネルギー管理士がとてつもなく難しいのはわかった。勉強するだけ無駄なようだ。それは止めよう。 リストには環境計量士とか作業環境測定士なんてのもあったが、これも古川に聞くと最低2・3年は勉強しないとという。エコ検定とか環境プランナーというのはどうだろうというと、古川は笑って手を振った。あまり役に立たないのだろう。そういえば審査員の保有資格に環境プランナーは一つ二つあったが、エコ検定はなかったなと気が付いた。 結局、木村は受験するのを特別管理産業廃棄物管理責任者、危険物乙4、作業主任者なにかひとつの最低三つを取ることに決めた。これだけ持っていれば過去の審査員の保有資格のリストから見て最低レベルではあるが、まあ許容範囲と思われる。 |
木村は品質保証課長を拝命した。とはいえ品質保証課というものは存在せず、名刺に肩書が付いただけだ。部長が言うにはISO審査や社外での活動でがんばったので特に課長待遇にするという。とはいえ月給は特段上がらないらしい。 以前、山内取締役が出向するなら課長くらいになっていないとならないということと、駿府の部長にそのことを頼んだと言ったのを思い出した。なにはともあれありがたいことだから部長にお礼を言う。 まあ客観的に見れば木村もこの会社にある程度貢献しただろうからその褒賞と思ってよいだろう。 |
木村はめでたく特別管理産業廃棄物管理責任者、危険物乙4、作業主任者(有機溶剤)のみっつの資格を取った。木村は、ナガスネの山内取締役にその旨メールを送る。木村は山内から出向できるという話を聞いてから毎月メールで業務報告をしているのだ。 審査員研修の方は今年は忙しくてダメだったが来年夏までに必ず登録できるように計画しようと思う。 |
東京出張があったので、その足で環境管理部の本田のところを訪ねる。本田にも定期的に状況報告をしている。
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「やあ、木村君、久しぶりだね」
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「ちょっと話ができますか?」
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「いいとも、内緒の話ならロビーにでも行くか」
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![]() 二人はロビー階に降りて他から離れた席に座る。本田がコーヒーを頼む。 ![]() | ||||||||||||||||||
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「以前、ナガスネの山内取締役から再来年には出向受け入れしていただけると言われたことはお話したと思います。審査員補の研修はまだですが、なんとか環境関連の資格を三つばかり取りました」
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「ほう、それはすごい。何を取ったの?」
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「特別管理産業廃棄物管理責任者と危険物と作業主任者です」
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「アハハハハ、いや失礼。もう少し歯ごたえのあるものかと思ったから」
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「というのは今申し上げた資格では公言するのは恥ずかしいのでしょうか?」
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「まあ大物ではないね。でもそれだからじゃない。そもそもなぜ資格を取ろうとしたのかということだが・・・・例えば仕事で作業主任者資格が必要だというなら作業主任者をとりましたというのは恥ずかしくないし立派なことだ。あるいは廃棄物の仕事をしているなら特別管理産業廃棄物管理責任者という資格は必須だ。そういったことは業務上必要であり取得したことを誇っていい。 だけど君は今審査員になるからそういった資格を取ったわけだろう。審査員をするのにそういう資格が必要かと言えばいらない。資格取得の目的が審査の前に出す審査員の同意確認書に、こういった資格を持っていますよと示す、まあデモンストレーションというか誇示するためだろう。となると試験が難しいとか保有者が少ないとかいうものでないとハッタリがきかない。 それに公害とか環境事故の話になったとき、ある程度の知識が必要だ。そのためには公害防止管理者の水質や大気の試験に合格するくらいの知識は必要だ」 同意確認書って次のようなものです。 いやなら忌避することができます。とはいえ、私の知る限り忌避するケースはめったにありません。数パーセント以下でしょう。 ![]()
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「公害防止管理者の合格率が2割とか聞きましたので、イチかバチかよりも小物でも合格しないとまずいと思いました」
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「確かにそれはそうだ。とはいえ先ほど聞いた資格ではちょっとなんだから、公害防止管理者の中では一番ボリュームの少ない騒音か振動くらい受験してみなさいよ。 あのな、木村君は山内さんのお声がかりなんだからあまりみっともないことではまずいぞ」 ![]() | |||||||||||||||||
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「どれくらい勉強すれば合格しますかね?」
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「まじめにテキストを読んで過去問を10辺もしたら合格するよ」
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「わかりました、そのようにします。 ところで今年の出向者というのは決まったのですか?」 | |||||||||||||||||
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「ああ、今年3月の人は既に済んでいる。問題は来年の出向者だな」
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「来年の人も決まったのですか?」
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「決まった。4月にこちらに来るという話だ。木村君が出向するというので部長級は今年1名だけになった。山内さんの口利きで二人のうち一人が君になったわけだ」
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「私が出向させてもらったことの影響は大きいのですね」
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「そりゃそうさ、だから木村君にはそれなりに頑張ってもらわないと。山内さんとウチの顔をつぶさないでくれよ。 実を言ってその人は営業部長だったからISOも環境も全く知らないそうだ。俺もまだ会ってないのだがね。それに比べて木村君はISO9001のときから携わってきたのだからそれなりの力量を見せてくれないと困る」 | |||||||||||||||||
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「そう言われると公害防止管理者くらい合格しないとだめですね」
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「そういうことだ」
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「その方は本田さんのところで研修を受けるのでしょうか?」
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「昨年まで出向者は俺が教育していたんだけど、今回はお断りした」
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「環境管理部とは無関係だからということですか」
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「まあ、そういうことかな」
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「そうしますとなんですか、その方は社内で教育を受けずに審査員に出向するのですか?」
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「まあ・・・・そうもいかないので営業出身だから本社の営業本部というところに1年在籍して自習してもらうことになった」
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「ええっ、全く経験がなくて一人で勉強して出向しろということですか?」
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「子供じゃないんだから大丈夫じゃない。木村君だって一人で勉強しているんだし」
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![]() 木村は本田の口ぶりから、出向者を決めるのを環境管理部から人事の方に持っていかれたことを根に持っていることが感じられた。 ![]() | ||||||||||||||||||
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「しかし全くなにも知らない人が1年間放っておかれて審査員になる勉強ができるものでしょうか?」
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「頑張ってもらわないとならないね」
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![]() 本田は相当拗ねているようだ。 ![]() | ||||||||||||||||||
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「俺だって無視するつもりはないよ。その人だって悪人じゃないだろう。たまたま審査員に出向しろと言われただけだ。まあ相談を受けたりすればちゃんと対応はするつもりだ。 ただやはり環境管理部門出身者と営業出身者の違いがあるということを知らしめてくれよ。そうすればこれから木村君のような立場の人に道が開ける」 | |||||||||||||||||
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「私も品質管理をしていて環境管理とは無縁でしたし・・・そういう観点では素人ですよ」
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「とにかく木村君に頑張ってもらわないとならん」
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「分かりました。そういうことなら絶対公害防止管理者を受験しなければなりませんね」
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「いやいや受験するだけでなく合格してくれないと困るよ」
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● ![]() だいたい過去問を丸暗記すればよいようだ。少し計算問題があるが対数の計算だけだ。対数なんてすっかり忘れてしまったが過去問を解けば思い出すだろう。古川が合格率2割なんて言っていたけど簡単じゃないか、木村は安心してビールを開けた。試験まではまだ半年ある。申し込みが7月だ、忘れないで願書を出さないとならない。 ●
毎晩数ページずつひと月かけて騒音のテキストを終えると、なんだこんなものという気になった。対数計算と言っても早い話が単なる足し算と引き算だ。ということでもう勉強しようという気は薄れた。● ● 50db+50dB=100dB まさかね!
そういや pH9とpH10を等量混ぜるとpH9.3と答えた奴がいたなあ pH9 + pH10 ⇒ pH19? pH9.5? pH9.3? pH9.7? 引退したら対数計算なんて忘れました、耄碌っていうんでしょうか・・ さて審査員研修であるが・・・・ ISO9001とISO14001の維持審査は木村が対応しなければならないし、品質保証課長を拝命した結果、計測器管理を担当することになった。OEMで供給している客先の品質監査対応もあるのでなかなか1週間連続して休める暇がない。 とはいえ研修後に審査員補登録するのに2か月か3か月かかるとも聞いている。だから遅くとも10月までに受講しておかなくてはならない。 とはいえ10月頭には公害防止管理者の試験があるから、試験の前は研修どころでもあるまい。 木村はやっとのことで公害防止管理者試験を受ける直前の8月下旬に審査員研修受講の時間を確保した。東京でホテルに泊まるか自宅から通うかと迷ったが、審査員研修受講料の補助を総務に掛け合ってはみたが、会社は出してくれなかった。それで新幹線通学とホテル代を計算すると新幹線の方が安かったので、静岡の自宅に帰って通学することにした。 そんなこんなでバタバタとしているときに公害防止管理者試験を受けた。とはいえ結果はそれなりにできたつもりではある。 |
名古屋鶏さん 毎度ありがとうございます。 私は死ぬ気で勉強したことがないのでだめです。 英語も死ぬのは無理として怪我するくらいの気持ちで頑張ればよいのですが・・・ |