異世界審査員33.半蔵時計店その1

17.10.30

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

私の先輩や上司には、1980年代末頃から早期退職して中国や東南アジアに行って、技術・技能を指導してお金稼ぎをしていた人が何人もいる。さすがに韓国は半導体や電子機器がメインで溶接や機械加工の需要はなかったようで、私の知り合いで韓国に行った人はいなかったと思う。
正直言ってそういう人たちに私は嫌悪を感じる。ひとつには日本の国際競争力を削いだということもあるし、もうひとつは自分が開発したこととか己の力量・才量でなく、日本にいたとき教わったことを他人に教えることで金銭を得るという行為が芳しくないと思うからだ。
外国でなく日本国内であっても、自分が編み出したことでなく教えられたことを教えて対価を得るというのは正当ではないと思う。コンサルをするなら、己が編み出した方法を教えるべきではないか。他人が編み出したとか発見したことを、かみ砕いて教えることにも意義があるのかもしれないが、私はそんな感じがする。
まあ人それぞれだから、私の主張を引かれ者の小唄だと言われても反論しようがない。

ある日のこと、近くの町工場に指導に行っていた藤原が昼飯を食べに会社に戻ると、半蔵時計店の宇佐美が待っていた。藤田中尉と一緒にダイヤルゲージ製作を頼みに行ったときに会ったことがある。あれからもう半年になる。

宇佐美
「藤原さん、お待ちしておりました」
ダイアルゲージ
藤原
「おや宇佐美さん久しぶりですね。約束してましたっけ?」
宇佐美
「いえ約束はありません。相談に来たんです」
藤原
「なんでしょう?」
宇佐美
「藤原さんのおかげでダイヤルゲージは売れ行き良好、ヒット商品になりました。毎月100個近く出てます。新たな事業にしようと社長も喜んでおります」
藤原
「それはよかったですね」
宇佐美
「そこで物は相談ですが、計測器事業を会社の柱にしようとなると、ダイヤルゲージだけでは力不足でして、もっと他の計測器をご教示頂けないかと」
藤原
「ああなるほど、せんだってのダイヤルゲージのときは砲兵工廠からお宅に依頼するという形でしたが、お宅からそういうご相談であればコンサルの依頼を受けるということでよろしいでしょうか?」
宇佐美
「えっ、それはつまり指導料をとるとかそういうことで?」
藤原
「おっと対外折衝とか契約となりますと社長担当ですから、社長を呼んできますわ」

あわあわしている宇佐美を置いて藤原は姿を消し、数分後、工藤と一緒に戻ってきた。

工藤社長
「宇佐美さんでしたね。お仕事のご依頼とのこと、ありがとうございます」
宇佐美
「いやあ、そういうつもりできたのではないのですが・・・」
工藤社長
「私どもは指導なり問題解決を請け負うというビジネスをしております。砲兵工廠での講演にしても作業指導にしても、問題を解決するとかどのような成果を出すという契約で行っております。
そして私どもは規模も小さく歴史もありませんが、作業能率向上とか不良対策とか、製造に関する改善や問題解決を請け負ってそれなりの実績を積んできました。きっと半蔵時計店さんのご希望も叶えると思います」
宇佐美
「いやね、砲兵工廠からダイヤルゲージの製造のお話を受けて、その結果製品は好評で売れ行きも上々です。しかしながらダイヤルゲージだけでは規模が小さいので、当社としてはもっといろいろな計測器を製造販売したいと考えております。そんなアイデアとか外国の情報などをお聞かせ願えればと思いまして」
工藤社長
「まさか宇佐美さん、ただってことはないですよね。宇佐美さんは砲兵工廠の講義を聞きに行っていると伺いました。宇佐美さんはあの講義をタダで聞いているでしょうけど、宇佐美さんの分は陸軍が払っているわけです」
宇佐美
「すると絶対に儲かることを保証するのですか?」
工藤社長
「そこまではできませんよ。売れるか売れないかは物が良いか悪いかとは直接関係ありません。宣伝もありますし世の中の状況もありますから、
まあ最終的にものにならなければ無料というか契約をキャンセルすることもあるでしょうけど」
宇佐美
「お宅には計測器の具体案があって用途や性能の見込みはあるということでしょうか?」
工藤社長
「もちろんです」
宇佐美
「コンサル料はいかほど?」
工藤社長
「砲兵工廠の毎月の講義で2両(約24万円)頂いています。」
宇佐美
「へえ、あの2時間で2両ですか」
工藤社長
「それだけの価値があると思いませんか?」
宇佐美
「あると思いますよ」
工藤社長
「今のお話では月に1日ってわけにはいきません。私どもの調査や試作などの費用も掛かります。それで日数ではなく製品の構想から構造の説明、ある程度のサンプル提供、完成まで指導して30両というところでいかがですか」
宇佐美
「製品ひとつで30両ですか!」
工藤社長
「それでお宅が長期的には、何百両、何千両と売り上げることを思えば安いものでしょう。既にダイヤルゲージの累計販売額は100両以上でしょうし、これからも売れるでしょう。
我々が自分で製造販売をしないのは、国家のためには自分たちがひとつのことに拘らず、広くこの国の事業推進に助力することが良いと神のお告げではありませんが、我々が考えたということです。もちろん我々も投じた労力分はいただかないといけません」

工藤はにっこりしている。

宇佐美
「お宅では計測器の案がいくつかあるのでしょうか?」
工藤社長
「藤原さん、どんなものですかね?」
藤原
「アイデアは多々ありますが、技術的に見通しがあり売れそうとなると、今のところ3つか4つというところですかね」
宇佐美
「3種だと30両かける3倍ということですか?」
工藤社長
「そうです」
宇佐美
「うーん、おおごとになりますな。一旦、社長と相談して出直してきますよ。
ひとつ確認しておきますが、実はアイデアがなかったなんてことはなしですよ」
藤原
「そんな心配はありません」

宇佐美が帰ってから工藤と藤原が話をする。

工藤社長
「藤原さんが声をかけてくれてよかったですよ。普通の人はアドバイスとか指導はタダだと思っていますからね」
藤原
「せんだって工藤社長から私の月給は売り上げ次第と聞きましたんで、ぜひとも売り上げにしなければと思いました。
しかし30両とは吹っ掛けましたね。向こうのお金に換算すれば300数十万というところでしょう」
工藤社長
「新製品開発を考えたら安いと思いますよ。とはいえ相手が飲むかどうか、値下げ要求してくるのは当然でしょうね。でも製品企画と大まかな設計までと考えたら安いもんでしょう。もちろん具体的設計や試作は向こう持ちですけど。
ところで藤原さんの取り分のことですが・・・・仮に30両の仕事が4月かかったとして、月7両5分、85万くらいになりますが、会社の管理費に皆さんの退職金積立とかありますから、藤原さんの取り分は7掛けか8掛けというところですよ」
藤原
「それにしても月60万ですか、それが今の金額にプラスになるわけですよね、悪くないですね」
工藤社長
「これっきりでなく継続してあればよろしいですがね。
ただちょっと問題だなあ」
藤原
「なんでしょう?」
工藤社長
「伊丹さんとのバランスですよ。伊丹さんは砲兵工廠で月2両、皇国大学で月1両、そのほか海軍工廠とか町工場の指導とか積み上げても月10数両です。実際の取り分は7・8両です。藤原さんは既に月5両程度の売り上げを出している。こちらに来て間もない藤原さんが伊丹さんをはるかに超えてしまうのはちょっと。
それに伊丹さんと藤原さんでは状況が違います。彼はなにも無いところからお客さんを開拓して、仕事の実績を積んで次につないできましたからね。藤原さんもその基礎の上で仕事をしているわけです」
藤原
「おっしゃる通りです。それにダイヤルゲージにしてもこれからの話にしても、運がよかったのと私の才量というよりも単に向こうのものを紹介しただけですからね。ズルをしたようなものです」
工藤社長
「ちょっと藤原さんの取り分は相談させてください。伊丹さんが苦情を言わなくてもやはりバランスを考えないと」
藤原
「承知しました。月給1両と2両では大違いですが、10両ももらえばそれ以上はいくらもらってもあまり変わりませんよ」


翌日の朝一に宇佐美が現れた。
工藤が対応する。営業は工藤の仕事だ。

宇佐美
「弊社内でいろいろ検討しました。それでですね、工藤社長、1件いくらというのはいろいろと難しいのです。代わりに恒常的なコンサル契約を結びたい。契約料は月5両ということでいかがでしょう。お宅も30両の仕事をとっても3カ月でオシマイというよりも、恒常的に仕事があった方がなにかと予定が立つと思います」
工藤社長
「それは我々も永続的な契約の方がなにかとよろしいですが・・・でもね、5両ってのはいくらなんでも。我々の仕事が5両とは思えません。
それにダイヤルゲージのときは砲兵工廠にこちらが提案し、砲兵工廠がお宅さんに製造を依頼したといういきさつでした。今回はお宅に提示する計測器案を、お宅以外に売り込んでもいいわけですし」

宇佐美は若干首をひねり斜め上を見つめて考える。

工藤社長
「我々は特許権を要求しないというスタンスで商売をしております。ダイヤルゲージのときは砲兵工廠とお宅の連名で特許をとりましたが、御社と当社が契約した場合はお宅の名前だけで特許をとれるわけです」
宇佐美
「それを不思議に思ったのですが、お宅としては損じゃないですか。特許権だけ取って作らせるというなら分かりますが」
工藤社長
「私たちは特許を取りませんが、私たちが指導して取った特許は他社に使わせることを要求しています」
宇佐美
「えっ、他所の会社にタダで使わせるということですか?」
工藤社長
「いえいえ、そうではありません。他の会社が使いたいというなら、お金を取って使わせなければならないということです」
宇佐美
「それはどういうことなのですか」
工藤社長
「発明発見が1社に止まらず、この国の繁栄につながってほしいという願いです」
宇佐美
「なるほど、御社は技術報国ですな。ご意向はわかりました。ウチの社長にその旨伝えます。ウチにとっては極めて重大なことですから、次回は社長と話していただけますか。日程は今後詰めたいと思います」

ちなみに: 「技術報国」とは目黒海軍技術研究所跡地に置かれた碑に刻まれている言葉である。
私は一現場労働者であったけど、そのときそのとき自分の技能を磨こうとした。それは自分のためであり会社のためであり国のためになると考えていた。
バブル時代頃から優秀な技能者が会社を辞めて韓国や中国で技術(技能)指導をしているが、それは日本の将来を考えると反社会的行為ではないのかと私は思う。もちろん時代遅れになった技術者・技能者をいかに遇するか生きがいを与えるのかというのは会社、国の責任ではあると思う。いずれにしても技術報国という言葉を忘れてはならない。



翌日、工藤と伊丹と藤原が打ち合わせをしようと会議室に入るところに、上野が通りかかった。
上野
「おや関取会ですか」
相撲取り
工藤社長
「はあ、関取会ってなんだ?」
上野
「関取って十両以上の相撲取りですから、月10両以上稼ぐ人たちですよ」
工藤社長
「ああ、そういうことか。そいじゃ来場所にはお前も関取になるように頑張れよ」
上野
「頑張ります」 
会議室に入って座るとすぐに南条さんがお茶を出す。

工藤社長
「上野も最近は吹っ切れたようだな」
伊丹
「仕事とはどういうことなのか分って来たのではないですか」
藤原
「私のような現場仕事は成果がすぐに見えますが、作業指導とか管理改善とかになりますと成果が出るまで時間がかかりますし、成果が分かりにくいですからね。モチベーションが続かずに悩むこともあるでしょう」
工藤社長
「皆さんの行動を見て分かってくれたようです」
藤原
「それは良かった」
工藤社長
「さて、半蔵時計店からコンサル契約を提案されたのだけど、こちらからどんな製品とか技術を提案していくかということを相談したい。藤原さんは4つ5つ腹案があるということでしたが」
藤原
「私も半蔵時計店の機械設備とかよく知らないのですが、ダイヤルゲージを作っているということを踏まえて、その部品や加工技術を活用した製品を考えました。
具体的にはてこ式ダイヤルゲージとかダイヤルノギスとか内外のダイヤルキャリパとかですね」
工藤社長
「なるほど、それで4つとか5つはアイデアがあるということですか」
伊丹
「話を聞いた限りでは、ダイヤルゲージに近いものばかりという感じですね」
藤原
「あのう、半蔵時計店の仕事は私だけが担当というわけではないでしょう。伊丹さんも上野さんも一緒にコンサルをしていくと思ってます。それでみなさんのご意見をいただきたいですね」
工藤社長
「ああ、私もうちの全員で対応するという藤原さんと同じ考えだ。 というわけで伊丹さんもご意見を」
伊丹
「新しいビジネスなり新製品を考えるときのセオリーといいますか、決まった筋道ってのがありますよね。現在の製品と保有している技術を基に進むべき分野となると、製品とマーケットはこのようになるかと思います」

伊丹は立ち上がって黒板にチョークで大きな升目を書いた。

現状のマーケット新しいマーケット
現在の商品ダイアルゲージ
新しい商品

伊丹
「現在の製品を新しいマーケットで売り出すか、現在のマーケットに新しい製品を売り出すか、全く新しい製品を新しいマーケットに売り出すかという組み合わせになるかと思います。この4つの升目にどんなものはいるか考えるわけです」
工藤社長
「なるほど、さすが伊丹さんですね。
するとまずはどのゾーンを選ぶかとなるのですか?」
伊丹
「いえいえ、我々ができるのはそれぞれの分野での製品案を提案することでしょうね。どのゾーンを選ぶかは向こうの経営判断です。もちろん決定にあたっては、保有している技術や設備そして販売ルートという制約があります」
藤原
「なるほど、伊丹さんはさすがに理論的だ。その図に私が考えていたものを入れ込むとこんな感じかな」

藤原は立ち上がって黒板の升目に書き足す。

現状のマーケット新しいマーケット
現在の商品ダイアルゲージ(仮)機械の位置決め装置
新しい商品てこ式ダイヤルゲージ
マーカー
ダイヤルノギス
ダイヤルキャリパー(内)
ダイヤルキャリパー(外)

工藤社長
「なるほど。伊丹さん、この図をみれば決して対象が偏っているわけではないかと思いますが」
伊丹
「でも変位をダイヤルで表すということではどれも同じかなと思いました。それとダイヤルゲージとダイヤルノギスが異なるマーケットかというと、どうでしょう。
新しいマーケットとは、例えばですがダイヤルゲージとはまったく別の用途もあると思います」

といいながら伊丹も書き込む。

現状のマーケット新しいマーケット
現在の商品ダイアルゲージ
高精度品開発 用途開発
低精度品開発 用途開発
(仮)機械の位置決め装置
紙の厚さ計
布の厚さ計
円筒の厚さ計
ダイヤルデプスゲージ
ダイヤル式限界ゲージ
新しい商品てこ式ダイヤルゲージ
ダイヤルゲージスタンド
ダイヤルノギス
ダイヤルキャリパー(内)
ダイヤルキャリパー(外)
数取器
歩数計
機械に数取り機構追加

工藤社長
「数取器とはなんですかね?」
伊丹
「アメリカなどではカウンターと呼んでいるらしいですが、数を数える道具です。例えば通行人を数えるとか鳥の数を数えるとか。急いで数えるとサバ読みと言われるくらい数が狂いますよね。それで対象物をひとつひとつ見てボタンを押して数を数える道具です」
余談だが: アメリカでは数取器(カウンター)というものは19世紀半ばに特許がとられている。機械の回転数や紙幣を数える機械の表示に使われていた。
もちろん通行する車の台数とか通行人を数えるのにもつかわれた。
サバ読みとは、市場でサバの数を数える時、正しく数えず目分量で何匹としていて一度として正しかったことがないということから、いい加減なこととかでたらめな数字をいう。
工藤社長
「歩数計とは?」
伊丹
「これは江戸時代からあります。平賀源内が発明したとも言われていますが、歩いた歩数を数える道具です。伊能忠敬も日本地図を作るとき使ったとか言われています」
工藤社長
「なるほど、陸軍に売れそうだな。測量とか行軍の速度管理などの使い道ありそうだ」
藤原
「現代では健康のために毎日歩いた歩数を数えるのが流行っています」
工藤社長
「人は一日何歩くらい歩くものですかね?」
藤原
「1万歩が理想らしいですが、普通の人は5千とか6千らしいです」
工藤社長
「五千歩というと一歩70センチとして3.5キロ、一里というところか。こちらの世界では毎日2里は歩くでしょう。なにしろ歩かないとどこにも行けません。そちらの世界の人は自動車や電車があるから便利ですね」
藤原
「便利なのかどうか、そのおかげで肥満とか病気になる人が多い、おかしな話です」
工藤社長
「伊丹さん、おっしゃることが分かりました。要するにダイヤルゲージの用途や形態に拘らず、広く考えなければということですね。さすが発想力がすごい」
伊丹
「いやいや、これってアイデアをひねるときの基本ですよ」
工藤社長
「私は知りませんでした。伊丹さんの考え方が勉強になります。
伊丹さんのお話を聞いて思い付いたのですが、半蔵時計店でのお話はまずは伊丹さんが行って、そういう大局的な考え方を説明することが必要じゃありませんか」
藤原
「私もそう思いました。どうでしょう、最初に伊丹さんが商品開発とはいかにあるべきかというお話をした方が良いのではないですかね」
伊丹
「いやいや、言い方が失礼かもしれませんが藤原さんも一人前です。この打ち合わせ結果を基にお話されたらよろしいと思います」
藤原
「私は砲兵工廠で伊丹さんがどんなお話をされているのか聞いたことがありません。半蔵時計店での初回は伊丹さんにお願いしますよ。私もお話を伺って勉強したい。
具体的な指導とか開発については私が受け持ちます」


翌月である。砲兵工廠での講義の日、1時間ほど早く伊丹は訪問した。藤田中尉と黒田軍曹に依頼されていた論文案と自己申告案の説明をする。

伊丹
「中尉殿、計測器導入の経過と効果についてと、管理図の考え方と運用結果の2件です。論文の中の数値は私の知りえたところを入れてます。中尉殿がより新しいあるいは詳しいデータをつかんでおられると思いますので差し替えていただければ嬉しいですね。もちろん結論が変わるほど異なると困りますが。
ただ気になるのがひとつ・・」
藤田中尉
「気になるとおっしゃいますと?」
伊丹
「具体的な寸法公差とか不良率や互換性の数値は、軍事機密として表に出さない方が良いと思います。それで論文査読のときは記載しておくけど公開する時は伏字にするとか考慮願いたいと思います」
藤田中尉
「おっしゃるとおりです、承知しました。もちろん工廠内で上司と関係部門の確認を受けることにします」
伊丹
「次は黒田軍曹殿ですが、」
黒田軍曹
「ハッ」
伊丹
「いやそんなに畏まらないでください。草案を拝読しまして、問題認識と対策はよろしいかと思います。ただ藤田中尉ならともかく、もっと上位の職が軍曹殿の提言書を読んでも、内容が専門的で理解されないと思います。ですから初めに全体的に砲兵工廠の業務や課題、そして軍曹殿の置かれた立場での問題点を明示し、それを改善することによって砲兵工廠の全体目標に貢献できるという流れにしたらと思いました」
黒田軍曹
「なるほど、そういうことを前後に加えればよろしいですか?」
伊丹
「それから頂いた草案には重複とか文章の流れを見直した方が良いかなというところ、提言のまとめ方とか改善した方が良いと思ったことがいくつかありました」
黒田軍曹
「おお、ありがとうございます。では再度考えてご確認いただきたいです」
伊丹
「実を言って今私が申しましたことで書き直したものを添えてあります。それを参考にしてください。最終的には軍曹殿のお考えでまとめていただきたいと思います」
黒田軍曹
「おお、それはなんと言ったらよいか・・・ありがとうございます」
伊丹
「ええとそれからお二人とも同じですが、私は印刷活字で書いているのでそのままでは使えません。手書きしなおしてください」
藤田中尉
「了解しました。しかしきれいな印刷文字をわざわざ手書きにするのもおかしなことですね。それとこのグラフですが、どういう方法で書いているのか知りませんが曲線が素晴らしいですね。これ手書きにすると雲形定規とか使うのですが、どうもうまくいかないんですよね」

うそ800 本日思うこと
今、私はメモ書きであろうと年賀状であろうとすべてwordで書いている。出かけていて気が付いたこと、思いついたアイデアなどはメールで自分のパソコン宛に発信する。いっときOneNoteで出先と自宅の情報共有をしてみたが、私が常時OneNoteをチェックするという習慣がなく、アイデアが放置されることが多く、メールに戻った。
もし文章をすべて手書きしろと言われても、もうできない。愚かなのか怠け者か、これはどうにもならない。

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