異世界審査員42.幸子活躍するその2

17.11.30

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

最初は一度きりと考えて請けた参謀本部の仕事は拡大する一方だ。とても幸子が片手間にできるものではない。いや幸子どころでない。常時何人もかかりきりになるほどの仕事量だ。
工藤社長

幸子

藤原

伊丹洋司

参謀本部から依頼された仕事をするには、現状のメンバーでは対応できないのは明白だ。それで話し合った結果、向こうの吉本一族に噛んでもらおうとなった。
工藤から吉本一族に要請したところ、金になると読んだのだろう、すぐに乗ったと返事が来た。それだけでなく具体的提案があった。まず現代の日本にそのための会社を設立する。当面はこちらから話のあった技術文献の収集や分析から始めるが、ゆくゆく異世界が必要とする各種機械を向こうから調達する商社にしようという。
書籍や論文だけならともかく将来であろうと工作機械に関わるなら、それに詳しい人間も必要だ。それを聞いて、これは藤原さんを参画させないとだめだということになり、会議室に藤原さんを呼んで工藤が今までのいきさつを説明する。


藤原一郎
「公開されている文献の収集なら問題ないでしょうけど、日本の物品をこの世界に送るとなるといろいろと法に関わります」
工藤社長
「と言いますと?」
藤原一郎
「戦略物資や先端技術は、敵対する国やテロ国家には輸出してはいけないという法律があるのです。ですからどこの誰に売るかを記録し、それの妥当性を評価した記録を取らないとなりません」
伊丹
「ココムですか? 」
藤原一郎
「昔はココムと言いましたが、今は外為法がいためほう(外国為替及び外国貿易法)といいます。具体的には高度な三次元測定機とかNC機械などは、新品だけでなく中古品も輸出できません。取引相手だけでなく、最終使用者までトレースされるのです(注1)
工藤社長
「ということは日本で買ったとしても、こちらには持ち込めないということですか?」
藤原一郎
「まさか日本政府に異世界があると説明するわけにもいかないでしょう」
工藤社長
「それは困ったなあ〜」
幸子
「簡単じゃないですか。品物が日本にあれば良いのでしょう。それなら工場は日本側に作り扶桑側の人が向こうに行って仕事するとか、あるいは扶桑国にある工場と日本の会社と出入り口で繋いでしまえばいいんです」
藤原一郎
「そうではありますが、仕事とか人とかお金の出入りはどうしますかね?
そもそも向こうの世界に従業員がいないのはおかしいですよ」
工藤社長
「向こうで全く仕事をしないのに機械を買うのもおかしいし・・・なによりも税務署対策もあるなあ〜、賃金とか売上とか健康保険、雇用保険、怪しさ一杯だ」
藤原一郎
「ひとつの案ですが、機械を貸すという商売でもしましょうか。メーカーでは購入を検討している客には短期間機械を貸すこともありますが、あまり長期間実際の仕事に使わせるとか教育用に使わせるというところはありません。それで機械をその会社に設置しそこで使わせるのです」
伊丹
「貸工場ですか?」
藤原一郎
「機械付きの貸工場ですね。この場合なら賃料だけ入れば材料や売り上げが見えなくても疑念は持たれないかと」
伊丹
「でも入るお金があれば、だれが払ったかはトレースされるよ。払った会社と金そして受け取った会社と金が合わないとダメなんだから」
工藤社長
「お金の出入りは吉本一族に頼もう。それが彼らの存在意義だ。それにしても多少は人や材料が出入りする状況を作らないといけないな。
もちろんいつまでもではない、いずれはその機械をコピーしてこちらで製作する。そのときには技能者も育っているでしょう」
伊丹
「工作機械をコピーできるまでに20年はかかりますよ」
藤原一郎
「いや、現物があってばらしたり組み立てたりできるならそう時間はかからないでしょう。もちろん5年や10年はかかるでしょうけど」
工藤社長
「もしそれができたら10年後の1920年代に2000年の工作機械がそろうことになる。世界一の技術水準だな」
伊丹
「ボールねじくらいは作れるようになっているだろうけど、NCとなると半導体工業が成り立たないとどうにもならない。最悪、難しい部品だけは日本から調達するか」
藤原一郎
「NCがなくても精度の高い工作機械がそろえばいいじゃないですか。それにこちらの世界だって努力するでしょうし」
工藤社長
「よし、そういう方向で吉本一族と話を煮詰めよう」
藤原一郎
「事務所は都内でしょうけど、工作機械をおいとく工場は田舎がいいですね」
工藤社長
「といいますと?」
藤原一郎
「まっとうな客がジャンジャンと機械を借りに来たのでは芳しくないんじゃないですか」
工藤社長
「なるほど、ところで新たな法人を作るのもありでしょうけど、藤原さんの会社は使えないのですか?」
藤原一郎
「いくつもルートがあった方がなにかと融通が利くでしょう。大きなことには新会社を使い、細かい部品購入とかこちらが加工を頼むようなときは、私の会社からというのが良いのではないですか。私の会社もまったくの冬眠状態では差し障りがありますし」

工藤が吉本一族と話し合い擦り合わせた後、吉本の代表と工藤が参謀本部へ説明に行った。数回打ち合わせた後、会社設立と工場のことは了解が取れて予算を付けてもらえることになった。ほんとの株主は異世界の参謀本部で、名目上の株主は吉本一族、実質上の管理者は工藤や幸子ということになる。とはいえ工場に関する予算は次年度からだから当面は事務所のみである。

事務所は吉本一族が日本橋近くの貸しオフィスを確保した。広さは100平米くらい。登記上の社長や役員は吉本一族が占めたが、実務の責任者は幸子だ。
とりあえず吉本一族から気が利いた人間を3人出してもらった。やはり日本側に不動産や人の伝手がある吉本一族がいなければ仕事にならない。吉本一族も2年前の横領事件の名誉挽回しようと優秀な面々を送り込んだ。もちろん幸子もそれなりの賃金を払う。

新しい事務所のメンバー
幸子知佳ちゃんカナハちゃん上念君
幸子知佳ちゃんカナハちゃん上念君

ボスである幸子の部屋には伊丹邸と参謀本部への出入り口を作ってもらった。だから幸子の通勤時間はゼロである。本当の目的は時間短縮ではない。日本では幸子は取引先に出掛けたりしなければならず、そのためには和服では都合が悪い。異世界の自宅から現代の洋服で出勤というわけにはいかないからだ。
参謀本部のほうは監視にくるというわけではないが、打ち合わせなどの行き来に備えた。工藤は参謀本部に対して日本に来る条件として、軍服禁止はもちろん、服装と髪型はこちらの世界に合わせることとした。万が一外部の人が来たり、本人が外出したりすることもあるだろう。そんなときボロが出ては困る。

営業開始から二カ月が経過したが仕事は順調である。当面の仕事は、参謀本部から依頼された書籍・論文を探して購入することだ。図書館から借りた場合はコピーを取る。このへんは著作権は目をつぶる。
参謀本部からの発注は止まることはない。ひとつのテーマが片付くと、それを更に前進させるために新たな調査依頼が来る。とはいえ外国に調査団を派遣したり、自主開発することを考えればかかる費用は微々たるものだ。
おっと幸子個人には講演という仕事がある。
指し棒幸子
幸子は依頼されたテーマについて調べてまとめ、さも専門家であるかのようにそれを騙るのだ。聴講者は陸軍、海軍の幹部、大学の先生や研究者など数十名、テーマによって参加者は違う。もちろん参加者には口外禁止の誓約書をとっている。万が一、漏洩したときは厳罰である。
講演は月2回、朝9時から昼休み1時間をはさんで午後4時までの6時間である。その後質疑応答が2時間あり、それに続いて夕食を兼ねた宴席となる。
書籍などの手配やコピーはほとんど社員がするので、この講演の調査と資料作成が幸子のメインの仕事である。ここ最近行った講演のタイトルは「モータリゼーション」、「日本における教育制度の変遷」、「非対称戦の変遷」、「現代の計測器」、「20世紀の戦時国際法」、「健康保険制度」など多岐にわたる。幸子自身、どのような基準でそういうテーマを依頼されたのか分からない。
しかしと幸子は苦笑いする。全く知らないことでも本を読み資料を集め2週間かかりきりになると、けっこう専門家になった気がする。そして幸子が語るのを皆一生懸命に聞きメモをする。これで大丈夫なんだろうか? こんな講演してるなんて友人に知られたら、何と言われるか分からない。
とはいえ幸子の講演は好評である。分かりやすい、多面的であり偏りがない、出典が明確である、分からないことは分からないという、活舌が良く聞きやすい、などなど

今日は「歩く歩兵から歩かない歩兵へ」というお題である。明治時代だけでなく大正になっても、昭和になってノモンハンでは日本軍の歩兵は文字通り何百キロも自分の足で歩いた。鉄砲を担ぎ背嚢を背負って。イヤハヤ大変なことだ。異世界では日本は大陸に権益を持たないから、ノモンハン戦役(注5)は起きないだろう。異世界の歩兵は少しだけ幸せだ。
ところで歩くのは疲れるだけではない、毎日40キロ歩いても東京から大阪に行くには15日もかかる。20世紀になっても600年前の戦国時代と変わらない尺取虫のような速さでは、戦いに遅れてしまう(注2)
じゃあトラックを使えば問題解決なのかといえば、そう簡単ではない。トラックはどこにあるの? 燃料補給は? パンクはどれくらいの頻度なの? 平均故障間隔はいかほど? トラックを修理するのは誰? 道路は? 橋は? 攻撃されたとき、大砲や戦車との速度の差は、などなど対応しなければならないこと、研究しなければならないことは山積である。
半月前には幸子は歩兵についても兵員輸送についても全く知らなかった。しかしお題が与えられてから、ものすごい集中力で資料を読破、そして分析まとめを行い、今日は6時間講演し、質疑応答ができるようになった。そしてもちろん明日からはまた新しいお題について勉強するのだ。

講演はパワーポイントを使う。初めてそれを見た聴講者は驚いたが、二度目にはそれが当たり前と思うようになった。またレーザープリンターから出力された配布資料には、印刷以上にきれいでしかも裏写りがなく驚いたが、これも二度目以降は当たり前と感じるようになり、今では追加で手書き資料を配ったりすると苦情がくる。慣れは恐ろしい。

滞りなく講演が終わると、夕方宴会である。聴講者が数十名と言っても、宴席に参加するのは半分程度、皆、悪酔いするほど飲まないし、目的は本日の話についての意見交換だから場が荒れることはない。幸子も毎回の討論を楽しみにしている。
同じテーブルの人たちと和やかに話していると幸子に声をかける者がいる。
振り向くと海軍の若い尉官が立っている。
堀川中尉
「伊丹先生、いつも講義を拝聴しております。前回のご講演を聞きまして、関係する本を読んでおりますが分からないことがありますのでお教え願えませんか」

向かい側に座っていた辻中佐がなぜか、ニヤニヤしている。

幸子
「「ハイどんなことでしょうか?」」

その尉官の持つ本を見て、幸子は自分がアマゾンで買った「The Influence of Sea Power Upon History」(注3)とわかった。尉官は付箋のあるところを開いた。The battle of the Nileとある。

堀川中尉
「先生、このところがよくわかりません」
幸子
「私も読みましたけど、書いてある通りでしょう。エジプト遠征のナポレオン艦隊をイギリスが破った戦法を書いているだけで・・どこが分からないの?」
堀川中尉
「はあ、」
幸子
「こればかりでなくジョミニを読んだ方がいいですね、この国ではなぜかクラウゼヴィッツが讃えられていますが、欧州では彼よりもジョミニが高く評価され研究されています。現代ではジョミニとそれを受け継いだこの本を書いたマハンが重要とみなされています。マハンはジョミニの考えを海戦に応用しています。あなた海軍のようだからぜひジョミニをお読みなさい。勉強になりますよ」
堀川中尉
「は・・・」
辻中佐
「おい堀川中尉、言われたようにジョミニを読んでから伊丹さんにもう一度質問せい。素人レベルの質問では伊丹さんに失礼だぞ」

堀川中尉と呼ばれた若者は海軍式敬礼をして素早く姿を消した。

幸子
「何を聞きたかったのかしら」
辻中佐
「伊丹さんの英語力を試したんでしょう。鼎の軽重を問うというやつかね、アハハハハ」

辻中佐が笑うと、周りの佐官級が一緒になって笑う。

幸子
「えっ、英語くらい誰でも読めるでしょう」
辻中佐
「読める人もいるでしょうし読めない人もいますよ」
中野中佐
「伊丹さんが女性だからって面白くないのかもしれませんね」
辻中佐
「ちょっとなんだ、あいつの上司に伝えておきましょう」
幸子
「あっ、待ってください。それなら彼を私の事務所に参謀本部から派遣していただけないですか。私どもの仕事を知ってもらうことも重要ですから」
辻中佐
「おお、それは良い考えだ。早速来週からでも」


阿久津中尉堀川中尉
阿久津中尉堀川中尉
翌週ではなかったが、翌月明けに陸軍と海軍から各一名派遣士官がやってきた。ひとりはもちろん海軍の堀川中尉、もう一人は陸軍の阿久津中尉 である。
幸子は参謀本部にいる若手とは優秀なのかどんな人なのか知らないし興味もない。使えるなら使うだけ、使えないならすぐに返すだけのこと。

幸子
「この事務所の責任者の伊丹です。堀川中尉とは先日の講演の後の宴席でお会いしましたね。まずこの事務所の仕事を理解してもらいます。参謀本部からの依頼を受けて情報収集するのが仕事です。みなさんにも一応それができるようになってほしいです。そうなればどのように依頼を出せば仕事をする人が分かりやすく早くできるのか理解できるでしょう。
あっと、今日はお二人とも軍服ですが明日以降はこの世界の普通の衣服で来てください。外部のお客様も来ますし、ここにこもってばかりではつまらないでしょう。ときどきお外に出て食べたり飲んだりしないといけません。同じ理由でここではすべて階級なしで”さん”付けで呼び合うことにしています」
堀川中尉
「伊丹さん、すみません、我々はこの時代の服を持っておりません」
幸子
「まあ、それもそうねえ〜、そいじゃ最初の1着は私からプレゼントするわ。オーイ、上念さん」

幸子は二人と同年代の青年を呼んだ。

上念君
「ハーイ、伊丹さんなんでしょう?」
幸子
「この二人と一緒に行って、今風の服を・・・そうねえ2着見繕ってくれない。一つはスーツとネクタイと、あとひとつはカジュアルなものがいいねえ〜」
上念君
「承知しました。お支払いは?」
幸子
「今回はお二人に私からプレゼントするわ。
おっと、軍服はまずいから上着を脱いでいって、今の季節シャツだけで十分よ」

二人が脱いだ軍服の上をエモンカケにかけてやりながら上念が言う。

上念君
「あのう、ええと堀川さんと阿久津さんでしたね、表に出て珍しいものを見ても驚いて声などあげないでくださいね。危険なことはありませんから静かにしていてください」
堀川中尉
阿久津中尉 「わかった」

上念は二人を連れて八重洲の町に出る。出た瞬間二人は「っ」と声を出す。

堀川中尉
「女性の髪の毛が黒くない」
阿久津中尉
「スカートが短すぎる」
堀川中尉
「あの男のズボンはずり落ちているが、ベルトが切れたのか」
阿久津中尉
「腰にチェーンがジャラジャラしているが、手錠をかけられているのか」
上念君
「お願いですから、ちょっと・・・といっても無理か。せめて小さな声で話してくださいよ」

二人は分かったと言いながらも、その後も大声の感嘆詞が続いた。
なんとか買い物をして帰ったときには、上念は冷や汗、脂汗でぐったりしていた。
そんなことを気にもせずに二人は上念に話しかける。

堀川中尉
「上念さん、どうもお世話になりました。あのう女性の髪の毛はどうして茶色とか黄色とかあるんですか?」
阿久津中尉
「男性も茶色とか薄茶色とかいましたね」
堀川中尉
「外人ですか?」
上念君
「今の時代、髪の毛を染めるのは普通なんです。茶色が好きな人は茶色に染めてます。
実は僕も染めているんです」
阿久津中尉
「染めるとなにかいいことがあるのですか」
堀川中尉
「こちらではダービータイしか見ませんでしたが、蝶ネクタイとかリボンとかないんですか」
阿久津中尉
「女性で着物を着ている人がいませんね」
堀川中尉
「人は右、車は左と書いてありましたが、人は左じゃないんですか?」(注4)

上念は忙しいと言って逃げてしまった。
阿久津と堀川が幸子を見ると、個室で忙しくしている。
二人がしばし話し合っていたが、意を決したようで二人が幸子の部屋に入ってきた。

堀川中尉
「伊丹さん、我々になにか指導か仕事を与えていただけるとうれしいのですが」
幸子
「お二人さんは何か勘違いしてませんか。待ちの姿勢ではいけません。あなたたちは新兵じゃありません。士官です。幹部です。ここに何のためにいるのかを考えなさい。
まず私たちが何をしているのか観察しなさい。することがなければテレビを見なさい。日本の局だけでなくCNNやBBCも観られます。世界の動きが分かりますし英語の勉強にもなります。
飽きたら外を歩いてきなさい。何を食べているのか、何をしているのか、何を売っているのか、すべて勉強です」
阿久津中尉
「あのうテレビとは何ですか?」

幸子は鬼のような顔をして二人を見ていた。ふたりはしばらく立っていたが、やがてハット気が付いたようで敬礼をして立ち去った。
幸子の部屋を仕切るガラスの壁を通して二人を見ていると、二人は連れ添って外に出ていった。先ほど上念と外出したから大丈夫だろう。
10分もすると紙袋を持って二人は戻ってきた。袋をみるとケーキらしい。それを事務所の3人に配り、それぞれと話をしている。
なるほど賄賂を使って教えてもらうつもりか。まあしっかりやってくれと幸子は思い、すぐに自分の仕事に没頭して二人のことを忘れた。

知佳ちゃん 堀川と阿久津はバカではなかったようで、すぐに事務所になじみ、パソコンの使い方を覚え、ネットを使えるようになった。
もちろん野放しにしているわけではない。システム管理者の知佳から問題があるサイトへのアクセスがあったときには報告してもらうことにしている。
彼女は二人がしていることを眺めるのが楽しいようで、毎日夕方には幸子にメールが来る。

知佳ちゃん
「今日堀川さんはアメリカ軍、自衛隊のウェブサイトを眺めてました。阿久津さんはポルノサイトに半日ほどアクセスしていました。昼休みにクレジットカードのことを聞きに来ましたが、ここに銀行口座と住所がないとダメと教えるとしょげていました」

幸子は「ありがとう、明日もお願いね」と返信する。

半月ほどして幸子は堀川と阿久津の二人を呼ぶ。
幸子
「お二人ともどうですか? もうここの仕事がご理解いただけたと思います。それで少し仕事を手伝っていただこうか思います」
阿久津中尉
堀川中尉 「ハイ、喜んで」
幸子
「参謀本部から次回の講演のテーマを指示されました。ええっと、『近代競馬の歴史』というものだったわ」
堀川中尉
「はっ、競馬ですか?」
阿久津中尉
「それがどのような意味があるのでしょうか?」
幸子
「私どもは参謀本部から依頼されたことを調べるの。意味があるかどうかはお客様の都合でしょう。とはいえ、競馬は外国人居留区から始まりましたが、最近では軍馬育成のためとも言われているし、いろいろと関係するんじゃない。
で君たち、やらないの? できないの?」
阿久津中尉
「やります。やらせていただきます」
幸子
「それじゃ納期は2週間後。でも私が状況をチェックしたいから三日後に方向付け、1週間後に草案を見せてね。じゃあ頼んだわよ」

幸子の部屋を出ると阿久津が堀川に話しかける。

阿久津中尉
「オイ、まず仕事の方法はわかるよな?」
堀川中尉
「うーん、今回のテーマは考えるということでなく、調査してまとめるだけで済むものだ。
お題に関する本やインターネットを調べて概要を把握しなければならない。それから全体的な流れを見繕えばいいんじゃないかな」
阿久津中尉
「そいじゃすべきことを箇条書きにしてそれを二人で分担して進めよう」

脇で盗み聞きしていたカナハ は幸子にメールを打つ。
カナハちゃん
カナハちゃん
「幸子さん、あの二人なんとか頑張りそうですよ」
幸子
「そう、ポルノサイトを見るだけしか能がないわけじゃないのね」

ちなみにカナハの両親はハワイ大好きで、カナハビーチから名付けたのであった。

うそ800 本日のついつい
前回は普通の小説風としましたが、またいつもの調子に戻ってしまいました。

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注1
海外工場に関わっていた人なら良くご存じだろうが、治工具、刃物などを送るにもいろいろチェックした記録を残さなければならない。それだけではない。海外出張するには出張者の技術・技能の審査、外国人や駐在員(外国に住んでいる人は外国人と同じ扱い)が来社するときは審査した記録を残さなければならない。
もっとも私はISO9001という中身のない仕事だったので、海外出張時に審査はしたが「特記すべき技術はない」でおしまいだった。
これは形だけのことではない。有名な計測器メーカーが迂回貿易でトップが逮捕されたこともある。
注2
西南戦争のときは既に鉄道はあった。しかし兵員輸送には鉄道を利用できたのは、東京〜横浜間と京都〜神戸間だけで、それ以外の9割以上は徒歩だった。トホホ
注3
けっこうあちこちで引用されている本だ。デタラメも書けないから探したらアマゾンのkindleで0円だった。ダウンロードして英語だったけどなんとか斜め読みした。こんな駄文を書くにも裏を取るのは結構大変です。
ただ一読して、この本にそれほど価値があるような気はしなかった。
注4
日本は車のない時代から左側通行であった。後で車が追加になったというだけだ。戦争に負けてアメリカ軍が右側通行にしろと要求した。しかし信号機やバスやバス停が左側通行用であり切り替えるのは困難であり、妥協の産物として車は左人は右になったといわれる。
ちなみに沖縄はアメリカ軍政下では人も車も右側通行で、1972年に日本に返還されて人は右車は左になった。
注5
ノモンハンでの日本とソ連の戦いは、日本ではノモンハン事件と言われる。事件とは殺人事件とか横領事件といった犯罪に用いるのが普通である。
日本はともかく当時のソ連は国家的戦争ととらえており「ハルハ河の戦争」と呼んでいる。中国やアメリカでは「戦役」という表現がとられているのでこれに拠った。
なお戦役とは時代によって異なるが、大規模な戦争の一局面とか戦争の1年間の期間などの意味で使われることが多い。
「ノモンハン事件(ハルハ河戦争)の歴史的研究」(2005)

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