*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
大阪砲兵工廠で図面指定通りの加工方法を取らず、また図面公差に入っていないことを承知で出荷していたことは大問題となった。南武少佐の告発により、関係者の処分と生産された自動小銃の改修は粛々と進められた。 ![]() ![]() さて刑罰であるが、戦時下であるなら軍人だけでなく軍属も陸軍刑法で裁かれることになるが、平時であり、刑法によると判断された。とはいえ陸軍刑法なら命令違反で禁固5年以下、刑法なら重禁錮4年以下 上長の佐々木少佐は管理不十分で降格人事発令となったが、その前に辞職した。砲兵工廠長は監督責任で減給であった。 職工たちであるが、技師たちが図面公差に基づいて加工することを厳命しなかったこと、指示された加工方法を拒否したことを技師たちが黙認したことをもって処分なしとされた。 一連の処分後、少数の職工はトラブルが起きたことを嫌って去っていったがほとんどは残った。 ![]() 出荷された自動小銃はすべて回収された。そして在庫品、部品、仕掛品と合わせて、全数部品状態に戻して再検査を行い合格品のみが再使用され、不良はすべて廃棄処理された。 幸いそれ以降、74式自動銃は不具合らしき不具合は起きず、大好評で迎えられた。 ひと月半後に回収作業が一段落したとき、作戦の指揮を執った藤田大尉は体重が4キロも減った。もっともそれが精神的・肉体的な苦労のためか、新妻と離れ離れになった寂しさのためかは定かではない。 ![]() さて、これから生産体制の再構築である。 藤田大尉は職工を集めた。まずは考え方である。 ![]() | |
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「物を作るというのは図面に表された通りに作ることである。自分が作りたいものを作ることではない。また加工方法も自分が考えた方法とかやりたい方法で行うものではない。指示された機械と指示された刃物で、指示された切込量・送り速度で行う」
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「技師が加工方法を分かるのかよ、加工条件などわかるのかよ」
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「もちろんです。刃物も加工方法も示してそれで仕事をしてもらうのが基本です」
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「じゃあすべての部品についてどのように作業をするのか決めてくれるわけだ」
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「そうです。そして、みなさんにはその通りに仕事してもらう」
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「だけど俺たちは人それぞれ流儀や工夫が違うから言われた通りにはしないぜ」
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「これからはそういうことは止めてもらう。みんなが同じ刃物、同じ方法でしてもらう」
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「冗談じゃねえ、俺は腕に自信があるんだ。他の連中と同じ方法で仕事できるかよ」
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「まてまて、それじゃ技師が指定する方法で仕事するのと、おれたち玄人がするのと比べてみようじゃないか。そうすれば技師のいうことがダメって分かるぞ」
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「そりゃいい、技師と我々の代表が実際に加工して腕比べしようじゃないか」
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「よろしいでしょう。とはいえ私々の代表がみなさんと競技をしても面白くない。こちらの代表には新人職工になってもらうことにしませんか」
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「今年入社した方は何人くらいいるのでしょうか? おお、20人はいますね。それじゃその中から3名に出てもらう。職工代表も3人ということでよろしいですか。出場選手は皆さんが決めてください。 今日は新人に教える時間を頂きますから、明日朝一番に競技開始としましょう。みなさんには今加工図面をお渡しします。刃物や加工方法はみなさんはベテランだから、ご自分で考えてください」 |
![]() 新人の中から自推他推で3人が決まった。代表3名の後ろに同期の連中が残り、藤田たちが教えることを一緒に聴講する。結構熱心な奴らだと藤田は思う。 藤原が3人に簡単な加工をさせてみて、どれくらいの腕前かをみた。基本的なことはできるようだ。それから明日加工する図面を示して、使う刃物、取り付け方法、加工順序、切込、送り速度などを教え、必ずそうしなければならないと言う。自分が考えることはない。言われた通りすればよいのだ。 それから寸法測定方法を教える。最近使われ始めたノギスとマイクロメーターの使い方は知っていたが、いささかおぼつかない。明日まで何でも測って練習しろという。それから公差の考え方を教える。 ![]() | |
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「10ミリ、プラスマイナス0.1とあれば10ミリを目指して加工する。10ミリプラス0.2ミリ、マイナス0とあればその中間の10.1ミリを目指して加工する。分かったか? |
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「図面では公差が両方ともマイナスのものがありますが、このときは公差の中央となるとマイナスが目標値になるのですね」
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「その通りだ」
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「組み合わさる部品に合わせて調整する必要はないのですか?」
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「ない。というかその寸法公差の中にあれば必ず組み上がるように寸法公差は考えられている」
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「へえ、本当ですか?」
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「本当だ。だから軸を加工する人と穴を加工する人は別人でもよい。もちろん相手方の仕上がりを確認することもない」
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「今までは勘合する軸と穴は必ず同じ人がすることになっていましたが」
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「昔はそうだった。しかし大量生産するようになればそんなことはできなくなる」
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「最大と最小の組み合わせでも大丈夫なのですか?」
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「軸の寸法の最大最小、穴の寸法の最大最小のときでも大丈夫なように図面を引くのが設計者の仕事だ」
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「今までそんなことを教えられたことがありません」
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「ということは加工する人は現物当りではなく、必ず寸法通りにしなければならないということですね」
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![]() 藤原は使うバイト、締め付け、加工順序などを一通り教えて、3人にその通り仕事をさせてみる。半年は仕事をしてきた連中でしかも出場すると言ってきたくらいだから言われた通りにちゃんと仕事をする。完了したのち藤田が寸法を測って確認する。ちょっとというのがあったので更に数個加工させる。 ![]() | |
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「図面の寸法公差内に入っていれば良品ではある。しかし加工するときは必ず公差の中心寸法を狙って加工すること。なぜかわかるか?」
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「実際には狙った寸法ピタリにはならずバラツクと思います。そのとき公差から外れないために中心寸法を狙うのだと思います」
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「その通りだ。明日は何個も削らないからバイトの消耗はないと思うが、普通は材料の違い、バイトの違いと摩耗、などでバラツキがでる。だから常に公差の真ん中を狙う。それから公差が呼び寸法の上下均等ではないから注意すること」
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翌日の朝となった。● ● ![]() | |
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「それじゃ加工競技を始めよう。代表者は双方3名、図面は同じもの、加工個数は各5個だ。加工時間は大目に見て1個7・8分だから持ち時間1時間としよう。その時間以内なら減点はない。全員完成後に寸法を測り、表面状態を見て判定する。 審判がこちら側の人間だけじゃ不満だろうから、そちらからも1名出してくれ。もちろん競技者以外からだ」 |
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「よし、俺がやる」
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「そいじゃ競技開始だ」
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![]() 既に藤原が6台の旋盤に材料を各5個と図面そしてノギスとマイクロメーターを用意しておいた。新人の所には図面のほかに加工手順書と使用するバイト3個が置いてある。 全員機械に駆け寄って作業に入る。 藤田は審判を買って出た古手の職工に話しかける。 ![]() | |
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「初めまして、ここは長いんですか?」
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「そんなことはありません。あちこち歩きましたんで、ここはまだ2年です」
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「会社を変わるのは、やはり待遇ですか?」
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「いや賃金はどこもそう変わらない。人が流動的だから賃金はどこも横並びになる」
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「それじゃ勤め先を変わるのはなぜですか?」
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「人間関係かねえ〜、気に入らないことがあると河岸を変える。会社を変わっても賃金が変わるわけではないなら、気安く働けるところがいい」
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「なるほど、となるとここで作業方法を指示通りしなければならないなら辞めるのですか?」
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「そうなるかもしれないな」
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「そうですか」
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![]() 話してみれば決して悪い人間ではないが、規則がうるさいところでは働きたくない性格のようだ。 板前でも床屋でも佐官でも全国渡り歩いて修行する人たちが多い時代だ 藤田と藤原そして職工代表の職人の3人は、事故や怪我が起きないようにときどき巡回する。 30分もすると職工代表の方は加工完了し始めた。職工3人が完了して10分くらいで新人3名も加工が終わった。 藤田が藤原と職工代表の審判に説明する。 ![]() | |
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「図面に寸法が入っているところは必ず測定する。寸法公差が入っているところは公差内にあるかどうかを判定する。寸法公差記入がないところは一般公差で判定する。表面仕上げ記号があるところは▽の数に合っているかどうかを確認する。 結果を図面に直接記入して合否判定をしてください。二人で同じものを測るまではないでしょうから半分ずつ検査してもらい、数個くらい相手が検査したものを確認してください」 |
![]() 20分もかからずに検査は終わった。職工代表が唖然とした顔をしている。 藤田は結果を見て職工全員を集めて説明する。 ![]() | |
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「ご存知のように職人が考えて加工するのと、技師の指示の通り加工する競技をしてもらった。その結果を発表する」
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「おお!結果が楽しみだ」
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「発表は職工から審判に出てもらった方からしてもらう」
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「発表する。新人3人が加工した15本は全数良品だった。職人3人が加工した15本中9本が寸法公差を外れていた。そして表面仕上げが▽指定を外れていたのが8本あった。 よって新人の勝ちだ」 |
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「冗談じゃねえ〜、俺が見ないと信用ならねえ」
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「おいおい、目が見えるのかよ、良っく見て判断してくれよ」
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![]() 競技者6人だけでなく周りにいた職人10数人がワッと集まって加工したものを手から手にひねくりまわした。 ![]() | |
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「確かに一目見て仕上がりが違う」
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「寸法が外れているって? おいおいマイクロメーターってどう使うんだ」
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「マイクロメーターも使えないのかよ」
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![]() 10分ほどで混乱は収まった。 ![]() | |
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「うーん、確かに技師に指導された新人が作ったものは良品だ。となるとこれからは技師が指示したとおりの刃物を使い言われた通りに加工することになるのか?」
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「そうしてもらう。だが気を悪くすることはない。ここにいる藤原技師は超ベテランだ。彼の指示に従って加工すれば、どのような加工方法が良いのかじっくりと学べるということだ。結局みなさんの腕が上がることなのだ。ここをお金がもらえる学校だと思えばいい」
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「今まではお山の大将だったてことか・・・よし俺はこれからは技師の言うことを聞いて仕事をしよう」
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「技術も進むし刃物も進化する。そういう時代の変化に付いていけない人は、いずれ機械加工の職人としてやっていけなくなる。 去る人を引き留めはしない。我々は困らない。新人を育成していくことができる」 |
![]() 他の職工たちはいろいろ話あっている。気に入らないで辞める人もいるだろう。 昼飯を食べに事務所に戻ると藤原は藤田に話しかけた。 ![]() | |
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「藤田大尉殿、なぜ新人と古手を競わせるなんて考えたんですか。上手くいってよかったですが、もし相手の方が良い成果だったらまずかったですね」
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「えっ、そんなこと考えてもいませんでした。私は藤原さんに全幅の信頼をおいてますからね。 実はこの方法は伊丹さんを見習ったんです。藤原さんが来る前、伊丹さんが砲兵工廠の指導を始めた頃ですが、技術士官とか技師が実際に仕事ができないこと、職工に言われると反論できないこと、そういうことを伊丹さんは改善しなければならないと指摘したんです。技師や技術士官は実際の仕事ができなくても指導できないといけないと言ったのです。 それに対して木越中佐が、じゃあ伊丹さんならできるのかと反論したら、できるというのです」 |
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「ほう、伊丹さんも血の気が多いですね」
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「いやいや、そうではないと思いますよ。当時は伊丹さんも仕事がなくて必死だったのでしょう。 ともかく木越中佐は伊丹さんがそう言うなら、伊丹さんが未経験のシルク印刷を他の人に教えてみろという話になりました。当時は工廠にはシルク印刷できる人がおらず、外部の染屋に依頼していたのです。 伊丹さんはその挑戦を受けたんです。できなかったら工廠の仕事を辞退するという条件で」 |
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「今も砲兵工廠の仕事をしているわけですから、やり遂げたわけですね」
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「そうです。伊丹さんは細かなことは知らなくても理屈を知っていたのですね。印刷も塗料も接着剤も同じとか言ってました。固形分と溶剤と希釈剤の関係を理解すれば同じとか」
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「さすがですね。私は自分がしてきた仕事には自信がありますが、やったことのない仕事はできません。ましてやそれを教えるなどとは」
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「まあ、そんなことがありました。そして今私は藤原さんに賭けたわけですよ、アハハハハ」
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「アハハハハ、じゃあ藤田さんは伊丹さんの薫陶を受けた一番弟子というわけですね」
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「伊丹さんは技術もあるし信念もある、すごい人です」
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「私も伊丹さんに見込まれたのなら、ここを立ちなおすまで逃げられませんね」
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ある日、藤田大尉が工場を巡回していると先輩が新人を殴っている。あわてて駆けつける。 ![]() |
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「おいおい、乱暴はよせ、喧嘩は止めろ」
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「喧嘩じゃありません。礼儀作法を教えていたんですよ」
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「どういういきさつなのかな?」
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「ワシが加工している部品を運べと言ったのですが、こいつが返事もせずに作業をしていたのですよ」
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「今の話の通りなのか?」
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「そうです。ですがそもそも材料と完成品の運搬は各自が行うことになっています。私が人のことまですれば自分の仕事が遅れますし賃金も下がります」
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「だ か ら 、ワシが教えているのだから当然だろう。お前はまだ一人前でなく修行中なんだから」
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「自分はなにも教えてもらっていません」
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「職人は先輩の技を盗んで覚えるものだ。つまり俺が教えているのと同じだ」
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「自分はあなたの仕事を真似していません。先日の藤原技師に教えてもらったことのほうがはるかに役に立ちました」
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「なに!」
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「ともかくこの工場内で暴力は禁止だ。」
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![]() その日から『暴力禁止・体罰禁止』が規則に追加された。 ![]() 藤田大尉は3か月で東京に帰り、藤原は結局10か月近くいた。藤田大尉は上司に技術士官、技師は東京と大阪の砲兵工廠の人事異動を定期的に行うこと、職工も相互に研修させる必要性を上申した。 |
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注1 |
重禁錮とは旧刑法に規定されていた罰則で、仕事をさせることが禁錮と違う。では懲役と何が違うかとなるとわかりませんでした。 ![]() | |
注2 |
陸軍刑法 第57條 上官ノ命令ニ反抗シ又ハ之ニ服從セサル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス 3号 其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ處ス 第58条1項 黨與(とうよ)シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス 3号 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ三年以上ノ有期禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ七年以下ノ禁錮ニ處ス ![]() 旧刑法では背任という罪刑は記述されていない。昔はそんな道徳に反するような犯罪は想定できなかったのだろうか? この事例では次の罪状を充てるしかないようだ。 第三百九十条 @人ヲ欺罔シ又ハ恐喝シテ財物若クハ証書類ヲ騙取シタル者ハ詐欺取財ノ罪ト為シ二月以上四年以下ノ重禁錮ニ処シ四円以上四十円以下ノ罰金ヲ附加ス これによると重禁錮4年以下だから陸軍刑法よりは軽いか? ![]() なお、現在の刑法は下記の通りちゃんと「背任」という犯罪が記述してある。 247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 なお、体面・面目を維持することも"自己の利益を図る"ことになるそうです。と書いていて、「体面」と「面目」は違うのかと調べたら、体面は形式的なこと、面目は己が恥ずかしいと感じることらしい。定かではありません。 ![]() | |
注3 |
具体的なバラツキから公差を書きたかったのですが、残念ながら1910年代の機械加工の精度というものが分かりませんでした。 下記のようにそういうことを調べた論文があるようですが、本文までたどれませんでした。 「明治・昭和・平成期に製作された工作機械による加工精度の比較と工学教育への応用」清水 久雄、2012 ![]() | |
注4 |
私が子供だった昭和30年頃の職人は、身の回りの物だけ持って全国を修行する人が多かった。まさにフーテンの寅さんである。 近所の床屋の息子は理容師になってすぐに出奔して30くらいになって帰ってきてオヤジの店を継いだ。そんな人が大勢いた。今と違って飛行機も新幹線もない時代だから、遠くに行くことは親元から離れて修業するという気持ちになったのだろう。 でもまあ雇用保険も健康保険もない時代だったから、そういうことをしてもマイナスはなかったのだろう。今なら種々の制約もあり夜逃げでもした人以外、そういう放浪はマイナス要素ばかりだろう。 ![]() |
おばQさま >どんな社会でも会社でも犯罪をする人がいておかしくない。問題はそういうことを隠さないこと、法に基づいて適正に処理し、それを情報公開することがコンプライアンスではないかと思う。 まさに、仰る通りなのですよ。 それなのに会社に無関係で犯罪者が出た場合には、大変なこととして報道されます。 謝罪会見をみれば、本当のコンプライアンスでないことがわかります。 「世間をお騒がせして申し訳ありません」と言う事は、世間をお騒がせしなければ良いのか?と突っ込みたくなります。 会社の側も「世間をお騒がせしなければ良い」と思えば、不祥事を隠すことに一生懸命になります。 一時 契約書に「反社会的勢力の排除」を記載することが流行ったことがあります。 これも似ていて、数万人従業員がいれば、社員本人と言わなくても親兄弟親類、配偶者の係累や友人まで含めれば関係者がいない訳がありません。 これは倫理の問題ではなく、統計の問題ですね。 それならば、親兄弟、配偶者など係累のどこまでが「反社会的勢力」になるか、線引きしない限り管理できません。 真面目にやりたいから、契約書を持ってきた会社に聞いたら「この項目に賛同しないと契約をしません」とのことで結局 線引きは教えてくれませんでした。 この一事を知れば、企業がコンプライアンスと言っても似たようなものなのだと思います。 世の中にはIBMのごとき会社は稀で、大会社だろうが多くは「世間をお騒がせしない」ならば良いと思っているのだと思います。 |
外資社員様 毎度ご指導ありがとうございます。 暴排条項は流行じゃありません。条例で決まっておりまして役務提供契約書や不動産取引には記述しなければならないことになっています。 環境監査では廃棄物処理委託契約書のチェックというのは定番ですが、それに記載していないと追記してくれとお願いするのがこれまた定番でした。 じゃあ行政のひな型通り暴排条項を書けばよいのかといえば、対象範囲が、「(法人の場合は,代表者,役員,または実質的に経営を支配する者を含む)が暴力団,暴力団員,暴力団準構成員,暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者,暴力団関係企業,総会屋,政治活動・宗教活動・社会運動標ぼうゴロ,特殊知能暴力集団等の反社会的勢力(以下「反社会的勢力」という。)」とありますから、契約書を結ぶとき真面目に考えたらハンコ押せませんよね。 とはいえ、そう言えないわけですから私は「追記してください」といい、被監査側は「追記します」と回答し、それを報告書に書くということで1件落着、実際にできるかどうかは?であります。 できないと言われたことは1度あります。そこの社長が「そんなこと言ったら取引できるところなんてないよ」とおっしゃるので、「そう言われた」と報告書に書きましたが、誰もそれ以上のフォローはできませんでした。まあ勧進帳を読むのか大人の世界なのか、よくわかりません。とにかく簡単じゃないです。 でも、いっときの流行じゃありませんからご注意を! |