この文章で「従って」と訳されているのは、as required by であるので、単純に訳せば「必要に応じて」となる。だから原文を素直に訳せば「遵法の義務に応じて」となるだろうか。
このとき順法精神(?)あふれる我々は法違反するという選択はないから、「従う」でよいのだろうか?
しかしどうも変だ。確かに法の要求に従わないということはありえないが、法の定めは「従えるほど具体的なのかどうか」ということがある。といいうのは「コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに」とあるので具体的なことは自らが定めた手順によるわけだ。
と考えるとそもそも、as established by the organization's communication process and as required by its compliance obligations.の訳が「組織は、コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに、かつ、順守義務による要求に従って」というのは変ではないか?
「かつ」とは「ある事が成り立つと共に、他の事も成り立つ(成り立たせる)」ことを意味する接続詞である。ここでは「and」を「AかつBを満たして」と訳しているが、そうでなく「AとBによって」としたほうがすっきりする。
さらにさかのぼると、「組織はコミュニケーションプロセスを確立する(7.4.1)」わけで、じゃあ「コミュニケーションプロセスによって確立(7.4.3)」されたものはなにかとなるが、プロセスとは「インプットをアウトプットに変換する全体の手順」であるから、「プロセスで定めた(個々の)手順」程度ではないのか。素直に「コミュニケーションプロセスの定める手順と法の要求」とすべきではないか。
とそんなことを考えてくると、この文章そのものが「定められたコミュニケーション手順によって法で定める外部コミュニケーションをしてね」程度のことではないのかって思う。
該当箇所の原文は、implementing control of the process(es), in accordance with operating criteria 操作基準に従ってプロセスの制御を実施する
この「従う」の原語は前回と同じくin accordance withである。このin accordance withを前回と同じく「操作手順に基づく」とすると日本語としては変だ。操作基準であれば日本語なら「従う」となるのが普通だ。しかしここで「in accordance with」を「従う」とすると私の見解に矛盾が生じる。
もしかしてoperating criteriaというものは我々が普通「作業手順」とか「操作要領」と呼んでいるものとは違うのだろうか。
criteriaとは英英辞典ではa standard that you use to judge something or make a decision about something (何かを判断したり、何かについての決定を下すために使用する基準)である。
ここで基準というものの、精粗や厳密さがちとわからない。ただ英英辞典にある例文をみると製品の合否判定のように具体的で単純なものでなく、患者の診断とか学校の評価のようにさまざまなことを考慮して判定するという使い方があげられている。
もうひとつの違いはcriteriaは基準であって、手順(procedure)ではない。
よってここは「基づく」としたほうが良いように思える。
control can be implemented following a hierarchy and can be used individually or in combination 制御は階層に従って実施することができ、個々にまたは組み合わせて使用することができる
ここの「従う」はfollowing「以降に示すことによって」である。「基づく」「従う」の議論の対象外だろう。
ライフサイクルの視点に従って、組織は、次の事項を行わなければならない。
consistent with a life cycle perspective, the organization shall
ここではbe consistent withを「従って」と訳している。
辞書をみるとこの熟語を「従って」とするのは直訳でない。直訳なら、「一致した」、「調和した」、「整合した」、「一貫した」というところだろう。とすると「ライフサイクルの視点に従って」というよりも「ライフサイクルの観点と一致した」とか「ライフサイクルの視点に沿った」となるのではないかという気がする。動詞の「従う」と意味が違い、「合わせる」となるのではないかと思う。
そして「従って」を使うのは不適当ではないかと思う。
原文はensure that those persons are competent on the basis of appropriate education, training or experience. である。
このようにJIS訳ではon the basis ofを基づくと訳している。この熟語の意味はどうなのか?
英英辞典ではどうなのだろうか?
because of a particular fact or situation
「なにかしらの事実または状況によって」というニュアンスか?
例文をみてみよう。
Employers are not allowed to discriminate on the basis of race or sex.
雇用主は、人種や性別によって差別することはできません。
The employer is only allowed to discriminate on the basis of personal merit and suitability for the job.
雇用主は、個人の能力と仕事への適正によってのみ査定を行うことができます。
Student performance will be judged on the basis of degree examination results, thesis and continuous assessment, following current University regulations.
学生の成績は、現在の大学の規定により、学位試験結果、論文および継続的な評価に基づいて判断されます。
The assessment is riddled with judgements made on the basis of professional experience or political choice.
評価は、専門的な経験や政治的選択に基づいて行われた判断ばかりだ。
Segregation on the basis of race is a denial of equal protection in violation of the Constitution.
人種に基づく分離は、憲法に違反して平等な保護を否定するものです。
訳は私がネットの自動翻訳を多少日本語らしくしただけでいいかげんである。しかしともかく「なにごとかによって」ということであるが、前提によって自動的に決まるなど裁量範囲がないかあるいは裁量の余地が非常に狭いととれる。
「人種差別はしてはいけない」というとき、裁量が入る余地はないだろう。まあ、ハーフは?クォターは?と重箱の隅をつつけばそれはいろいろあるけど、
ただ日本語の「従って」とは「何ものかが定めることからの逸脱を認めない」ことであるけど、on the basis ofのニュアンスは「何ものかによってのみ判断される」ように受け取れる。となると「基づく」とか「従って」という違いでなく、「によって」の方が元のニュアンスに近いのだろうか?
いずれにしても「従う、基づく」の基づくではないように思える。
仮にそうだとすると
ensure that those persons are competent on the basis of appropriate education, training or experience.
は「適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を備えていることを確実にする」ではなく「教育、訓練又は経験を基に、対象者が仕事をできるか否かを判断する」ということになるのだろうか。