*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
国名 | イギリス | ドイツ | フランス | オーストリア | イタリア | ロシア | 日本 | アメリカ |
弩級戦艦 | 22 | 15 | 4 | 3 | 3 | 2 | 10 | |
巡洋戦艦 | 9 | 4 | 1 | |||||
戦艦 | 40 | 22 | 20 | 9 | 8 | 10 | 10 | 23 |
巡洋艦 | 101 | 25 | 28 | 5 | 18 | 14 | 27 | 34 |
軽巡洋艦 | 20 | 16 | 2 | 3 | 6 | |||
駆逐艦 | 221 | 90 | 81 | 18 | 33 | 42 | 50 | 50 |
潜水艦 | 73 | 31 | 67 | 5 | 21 | 26 | 12 | 18 |
注:同じ駆逐艦と称しても21世紀と100年前ではまったく別物である。現在の駆逐艦は小さくて3,000トンから大きいと12,000トンにも及ぶが、第一次大戦時の駆逐艦は300トンから大きくても1,000トンである。まさに一桁違う。いまどき戦艦はないが、巡洋艦も同様だ。
だから横列に並ぶ各国の保有数の比較はできるが、現在の保有数と比べることはできない。
年 | 撃沈された総トン数 | |||
1914 |
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1915 |
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1916 |
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1917 |
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1918 |
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注1: | 1914年は5か月間、1918年は10か月間である。 |
注2: | ![]() |
伊丹の電子部品や電子機器についての講演から二月ほどして、兼安少佐と米山少佐がやって来た。海軍と陸軍が一緒とはどういう風の吹き回しなのか? ![]() | |||||||
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「伊丹さん、先日のお話を伺って非常に考えるところがありました。それで今日はご相談というかお願いに上がりました」
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「先日のお話は非常に重要でしたが電気だけでした。しかし兵器でも機械でも電気だけでできているのではありません。機械部品も重要です。それで基本的というかどんな機械にも使われるような部品類は、あらかじめ寸法や構造の基準を決めておき、誰もがそれを使うようにできないかと考えました」
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「それで、その標準化と言いますか、その対象範囲とか基準設定の方法論をご相談したいのです」
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「私もずっとそれを考えていました。しかしある一定段階まで至らないとそういう発想が出てきません。お二人がそうしなければと考えたということは、この国の工業レベルがそうとう上がってきたということでしょう」
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「褒められたのか冷やかされたのか・・・」
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「いや感動したのですよ。手前味噌ですが、ここまで来たのも私の努力もあったのだろうと思います」
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「もちろんですよ。しかし伊丹さんは必要性だけでなく、方法まで見えているのですか」
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![]() | ![]() おっと、その考えは電子部品でも同じです。抵抗はあらかじめワット数と抵抗値の標準を決めておき、回路を組むときに自分好きな物を作らせるのではなく、標準品から必要な値に近いものを選ぶのです」 | ||||||
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「なるほど、それじゃ伊丹さん、こんどは機械関係の学者や技術者を集めますから、その話をしてくれませんか。そしてこれから設計する作る兵器でも民生品でも、その規格以外のねじや歯車を使ってはいけないという決まりにしましょう。 そうすれば部品の生産もはかどるでしょうし、製品を設計するたびに部品まで設計しないで済みます。図面を引くのも楽、入手も楽、故障の際の交換も楽、」 | ||||||
![]() ということで伊丹はまた標準化の方法論をまとめ講演をし、そのフォローと指導に明け暮れるのである。 兼安少佐はそんな仕事をしている伊丹を見て、幸子だけでなく夫もバカではない、いや優秀だと思うのであった。 伊丹は幸子のプロジェクトの電子機器や兵器開発にはタッチしていない。同じく電子部品や機械要素の標準化にも考え方や進め方については教授したが、細かいことは関わっていない。だって手取り足取り細かいことまで口を出したらおかしいし、身が持たない。伊丹はあくまでも支援者でありアドバイザーに過ぎない。考えて作り上げるのはこの時代の人でなければならない。もっとも完成品のアイデアと構成部品を教えれば、どの時代だって最先端の研究者や技術者のレベルは高いから作り上げてしまう。過去にアイデアが実現できなかったのは基本的な技術がなかったからだ。 ましてやトラブル発生や壁にぶつかったとき伊丹にヘルプコールすると、おっとり刀で駆けつけてくれるのだから実現できなければおかしい。
そんなわけで伊丹にはほぼ毎週いろいろと問合せというか相談がくる。教えるのが仕事だと思えばそれもまたヨシ。 おっと、伊丹は暇ではないかという疑問があるかもしれない。ご心配召されるな。伊丹は元から砲兵工廠や海軍工廠での品質管理や生産性向上の指導をしており、その他に民間会社からも多数の依頼があり、商売繁盛で身が持たない状況だ。 ●
1914年も夏になった。対潜兵器システムがまとまり説明会をするから来てくださいと吉沢課長から声がかかった。
● ●
行ってみると伊丹への説明ではなく、輸送船団の護衛艦隊司令官となる竹内少将と艦隊参謀長益子大佐への説明会であった。 説明側は中野中佐、幸子、吉沢課長、兼安少佐の他に彼らの部下約10名、それに伊丹が陪席している。 ![]() | |||||||
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「ご存じのように同盟国イギリスから大西洋を渡る輸送船を、ドイツUボートから守るための護衛艦隊の派遣を求められており、来年、年明けから派遣する約束となっております。 我が国にとって本格的対潜戦は初めてのことであり、昨年末からここ政策研究所と海軍工廠の共同で電子兵器、攻撃兵器などの開発を進めてきまして、個々の実験が終了して実装できる段階に達しました。これから実際の船での運用試験となります。このたび艦隊指揮官となる竹内司令官に我々が開発した対潜戦のしくみについてご説明申し上げるところです。 まず概要をこのプロジェクトの責任者である伊丹室長から説明します」 | ||||||
![]() 竹内少将は立ち上がった幸子を見て、ギョッとした。入室したとき座っている女性をみて場違いに感じたが、中野中佐の秘書だと思っていた。それがプロジェクトのメンバーで、いやそれどころかプロジェクトのリーダーだとは。これから説明を受ける対潜戦システムは信頼できないという気になってきた。 |
幸子はプロジェクタを付けた。皆一斉にスクリーンを見る。 ![]() | ![]() | |
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「護衛艦隊は軽巡洋艦1隻、駆逐艦16隻で構成します。艦隊の配置は図のようになります この配置についてはイギリス海軍の同意を得ております」 | |
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「また豪勢な編成ですな」
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「護衛する輸送船が数十隻から百隻になりますから、これでも最小かと思います」
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「なるほど」
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「幅約10キロ、長さ30キロほどの矩形に輸送船をまとめます。船の性能にばらつきがありあまり間隔が狭いと問題があること、魚雷攻撃などの際の回避も考えるとこの程度になります。 前方に旗艦である軽巡がいきます。左右5キロ間隔で駆逐艦四隻を並べ、この五隻が進行方向を哨戒します。 船団左右外側に駆逐艦5隻ずつを配します。外側3隻、内側2隻が船団の左右を周回して警戒に当たります。外側の警戒線と船団までの距離は現在の魚雷の射程より長くしています。 残り2隻の駆逐艦は後方につき、後方の監視と左右の船が潜水艦に対応するために抜けたときその穴を埋めます。 駆逐艦はすべて同じ兵装ですが、1隻だけは軽巡と同じ情報処理装置を積んでおりまして旗艦が万が一の場合、代理を務めます。左右外側の1隻は常時気球をあげ周囲を警戒します 従来と異なることは、これら複数の艦艇をひとつのものとして運用するということです」 | |
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「はて、従来から艦隊は一体として運用しているが」
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「ええとですね、潜水艦探知は目視による見張り、電波探知機によるもの、音響探知機によるもの、また気球搭載の電波探知機を併用します。各艦のそれらの情報を旗艦に集めて集中管理し、発見された潜水艦に対しては旗艦が最適な場所にいる艦に攻撃方法を含めて攻撃を指示します」
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「それも以前からしていることだが?」
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「どう言ったらいいでしょうか、駆逐艦甲が見つけた敵潜水艦のそばに駆逐艦乙がいれば、旗艦は乙に対して敵の所在地を示して攻撃を命じます。そして弾着は気球を上げている船で把握し、それを旗艦へ伝達し、旗艦は乙艦の砲を修正するという風な仕組みです」
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「自分がまだ見えない船に対して旗艦からの指示で攻撃するのか?」
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「そうです」
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「敵を見ていない船が敵の場所を聞いて攻撃し、弾着観測気球からの指示で砲撃を修正するというのは今までもあったが」
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「もちろん従来からまったく違うということではありません。この船団ではそれよりも統合化が一歩進んでいるということです」
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「理想のように思えるが、船同士の連絡はどうするのか? 今は艦橋と機関室の意志疎通でさえ伝声管では連絡ミスが多くてかなわん」
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「電波、音響、目視での監視結果はすべて一つに統合され、このように表示されます。 実物は直径30センチほどの陰極線管に表示されます。これは船の形だけですが、実際には敵味方や速度などが文字で示されます。 この表示はどの船でも見ることができます」 | ![]() | |
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「敵味方の船の位置が目で見えるのか。この画面のひと目盛りは何海里になるのかな」
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「画面に表示される範囲を5キロから50キロまで切り替えられます」
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「ほう、便利なものだ」
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「ちょっと待て、電波と音響で潜水艦を見つけると言ったが、そんな兵器があったか?」
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「私は基本構想についてお話しました。対潜兵器については吉沢中佐から説明します」
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「まず索敵ですが、まず見張りによるものがあります。艦上からですとせいぜい数キロかと思います。これは従来通り行います。 次に電波探知機というものを開発しました。電波、ええと今まで無線で使われていた火花通信ではなくて、正弦波で高い周波数の電波を指向性を持たせて放射します。これを全周を周回させます。もし何かあった場合、電波を反射しますから、それを受けて方向と距離を把握します」 | ||
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「話を聞くとすごいものだが、どれくらいの距離有効なのだ?」
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「見通し距離、つまり目で見える範囲です。物陰とか水面下ではだめです。言い換えると相手と結ぶ直線上に遮蔽物がなければどこまでも、まあ実際は遠ければ電波が弱くなりますから最大で数十キロでしょうか」
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「それほど遠くまでわかるのか。本当ならすごいものだ」
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「ウソではありません。見通し距離は高さで決まり、マストは高さ10数メートルですから15キロというところでしょう。各艦のマストに設置する他、先ほど伊丹室長から話ありましたように左右1隻の駆逐艦から気球をあげ、そこからも電波探知機で周囲を監視します | ||
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「気球の高さは? どれくらいまで監視できるのか?」
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「あまり高いと支障がありまして200mくらいが限度かと思います。また風に弱く、同じ意味で20ノット以下でしか上げられません。高さ200mのとき見通し距離は50キロになります」
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「えええ、その機械は周囲50キロに潜水艦がいるかどうか分かるのか?」
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「いえ、海面上に物があることが分かるだけです。水面下はわかりません。また潜水艦か漁船かわかりません。小さいものはもっと近づかないと・・・潜望鏡なら発見できる距離はそうとう短いでしょう。まあ人間の眼より良いことは間違いありません」
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「いやそれだけでもすごい」
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「もうひとつは音響探知機です。形式は能動型と受動型の二つありますが、能動型音響探知機はまだ完成しておりません | ||
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「受動と能動とはなんだね?」
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「こちらから音を出して潜水艦からの反響を聞いて距離と方角を知るものが能動型、こちらは音を出さず潜水艦のスクリュー音を聞いて方角を知るのが受動型です。受動の場合、距離はわかりません。しかし複数の船で探知すれば、それぞれの方角から敵潜の距離が推定できます」
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「どのくらい遠くまでわかるものかね」
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「我々の開発した受動型は5キロから7キロというところです。但し運用する前に敵味方の船のスクリュー音を調べておかないとなりません。そうしないと潜水艦がいるのが分かっても敵か味方か分かりません」
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「なるほどなるほど、面白い」
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「これらの情報は常に旗艦の情報処理装置につながっていて、一括管理されます。先ほど室長が申しあげたとおりです」
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「こんなに便利なものがあれば戦いに困らないな」
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「竹内司令官、まだ実戦で確認していません。我々としては最善を尽くしたつもりですが、実力が分かるのはこれからです」
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「わかった、わかった。それで見つけた潜水艦はどう料理するのかな?」
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「それについては私から説明します。 いろいろな状況が想定されます。まず現在どこの国の潜水艦でも潜水して航行できるのはせいぜい60キロから80キロ、潜航時間は半日が限度でしょう。また潜航していては敵船を見つけることができません。それで通常は船体全部ではなくセイル部分を水面上に出して航行しています。この場合は電波探知機で見つけることができます。ただ30キロの距離で見つけても駆逐艦が駆けつけるには半時間もかかります。駆逐艦が着いたときには既に潜航して姿をくらましているでしょう。ですから発見できても攻撃はできません」 | ||
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「大砲は撃てんのか?」
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「我々が手当てしている駆逐艦は「浦風級」で810トンです。主砲の12センチ単装砲1門だけ残して、副砲4門と魚雷発射管は撤去しました。主砲は口径は同じですが、最新の45口径長に交換しました。これにより有効射程15キロ、発射速度毎分5発に向上しました」
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「それなら15キロまで近づけば砲撃できるな」
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「距離30キロで発見して15キロまで近づくのに30ノットで15分、それまで向こうがこちらに気付かずに浮上しているならですが、正直それは期待できそうありません。気付けば数分で潜航するでしょう。 仮に15キロまで近づいて砲撃したとして、その距離で初弾が当たるとは思えません。潜航するまでに数発撃っても夾叉するまでも無理でしょうね。
そう考えると発見しても監視にとどめ、敵が魚雷射程に近づき、かつこちらが必殺できる距離に来たときに攻撃すべきと考えます。なにしろこの艦隊の目的は、敵潜水艦を沈めることではなく、輸送船を無事に送り届けることですから」 | ||
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「なるほど、話を進めてくれ」
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「攻撃方法ですが、敵潜が浮上していて主砲の射程内なら砲撃を行います。先ほど申しましたようにこれはあまり期待できません。 潜航している潜水艦には以前から爆雷という兵器がありますが、これは敵潜がいると思われる上まで行って投下しないとなりません。我々が開発したのは迫撃爆雷と名付けたもので・・」 | ||
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「爆雷を飛ばすわけか」
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「そうです。径15センチ長さ1メートルほどの弾頭を、艦首左右150度の方向に200mから500mの範囲に投射できます。迫撃砲を束ねたようなもので一度に19発発射し、各弾20メートル間隔で正六角形に弾着すれば直径80メートルの円内を掃討できます | ||
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「爆雷を飛ばす目的は、その500m進む時間を節約するためか」
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「いや駆逐艦が疾走すれば500mは30秒、その間に潜水艦が動けるのはほんの数十mです。目的はそうではなく音響探知機は自分のスクリュー音で後方の音がとらえにくいのです。前方にあれば継続して敵潜のスクリュー音を把握できます。そしてここがみそなのですが、投射した爆雷は一定水圧で爆発するのではなく、接触しないと爆発しません。深く潜っても設定深度で無駄に爆発することもありません。接触しないと爆発しませんから敵潜を逃したことがわかるだけでなく、爆発による水の乱れが起きませんので敵潜のスクリュー音を続けて追うことができます」
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「なるほどなるほど、」
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「敵潜が魚雷を発射した場合、どのような対応ができるのかな?」
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「正直申しまして完璧な手段はありません。 まず船団は普段から一直線に進むのではなく、常にジグザグに進路変更を行います。それも小さなジグザグと大きなジグザグを組み合わせて、進路が予測されることを防ぎます。 魚雷が発射された場合ですが、両側の駆逐艦の外側からの場合、船団まで10キロ以上ありますから、輸送船まで届くことはないかと思います。ドイツ軍の現有魚雷は速力35ノット、射程6000メートル程度であることが分かっています 。もちろん、これから改良されると思いますが、我々も順次対応します。 潜水艦に護衛艦の内側に入り込まれる可能性は低いと思います。その場合でも、輸送船の間隔が広いですから回避運動は可能かと思います。 魚雷の航跡が確認できて駆逐艦の機関砲の射程内であれば射撃します。あまり効果が期待できる方法ではありません。 完璧を期すなら護衛の船を増やすしかありません」 | ||
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「うーん、それは対応策検討が必要だな」
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「益子君、ないものねだりもできないよ、これからいろいろ考えていこう」
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![]() 説明はさらに続き、その後に質疑が延々と続いた。 ![]() | |||
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「いや兵器開発から戦術検討までしていて、すごいものだ。だが実戦に入れば船も兵器も故障するだろうし、特に新しい電子機器は湿度や振動、温暖の差でどうなるかわからない。壊れやすい真空管は予備を持っていくのだろうね。 作戦開始まで半年か、問題点を十分にあぶり出し対策しておかねばならないな。 それとそういった機器が使えなくなった時の戦法と訓練も怠ってはいけない」 | ||
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「おっしゃる通りです。横須賀海軍工廠で軽巡と駆逐艦3隻の改造は完了しています。来週からその編成で種々試験を実施していきます。もちろん竹内司令官の指揮で行うわけですが」
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「敵役の潜水艦は手配できるのか?」
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「横須賀鎮守府から提供頂くことになっています。ただ・・・我が国の潜水艦よりもドイツ軍のものは性能が相当良いそうです」
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「まあ、ないものねだりはできない。最善を尽くすしかない。 それでどうかなあ〜、おい益子君」 | ||
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「司令官、なんでしょうか?」
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「我々は対潜戦には素人だ。まして今回のような新式の兵器や戦術を使いこなすまでは、そうとう時間がかかるだろう。吉沢中佐か兼安少佐を派遣してもらったらどうだろうか」
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「それでしたら、私と工廠の技術者が10名ほど電子機器と爆雷投射機のお守りに行きます」
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「おおそうか、それはありがたい。君たちはどういう立場になるのだろう?」
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「指揮系統に入るのは何かとあると思いますので、技術者ということを考えておりますが」
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「益子君、冒頭に伊丹室長から説明があったが、この艦隊は全艦一体となって動かなければならない。そのために個艦の水雷長ではなく艦隊の対潜戦を統括する者が必要だ。兼安少佐には艦隊の対潜指揮官ということで指揮系統に入ってもらうのはどうだろう」
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「異議ありません。私も兼安少佐から電子機器の使い方と対潜戦の指揮を拝見して研鑽したいと考えます」
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「兼安少佐がそのような職に就くとなると階級がちと足りません。もし竹内司令官のほうに問題なければ、兼安がその任務に就く間、大佐に昇進させたい | ||
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「異議はないが、そのようなことは可能なのかな?」
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「海軍人事局に期限付きということで話を付けましょう。お任せください。 それから極めて重大なことで認識しておいていただきたいことがあります。竹内艦隊の船が沈没あるいは降伏する場合は、機密保持のために電子機器はすべて爆破すること。万事休した場合、竹内司令官以下が降伏することは差し支えないが、兼安少佐は自決することになっている | ||
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「了解した。そのようにならないよう努めよう」
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「兄は日露戦争で乃木軍に一兵卒として従軍しましたが、当たらなければどうということはないが口癖です。我々が勝ち続ける限り心配はいりません」
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「最近の大西洋では毎日2隻の輸送船が沈められているという。これは輸送船の1割だ。扶桑海軍の力を見せてほしい」
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「もちろんだ」
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![]() 横須賀に帰る汽車の中で、益子大佐は竹内少将に中野中佐のことを愚痴る。 ![]() | |||
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「あの中野中佐というのはなんですか、無礼というかだいぶ態度が大きいですね。中佐なのに竹内少将閣下の上官のような口ぶりですし、少佐を臨時に大佐にするなどととんでもないことを言い出すし。しかも陸軍軍人なのに海軍人事局に話を付けるなど・・」
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「そのことはもう言うな。それよりも一刻も早くあの電子機械の扱いを自家薬籠としなければならん。君の仕事はまずそれだ。 個々の機械の操作は気が利いた下士官ならすぐに覚えてしまうだろうが、あのシステムを使いこなした戦術を体得するのは骨だと思う。益子大佐のお手並み拝見といこう」 | ||
![]() 竹内司令官はそれだけ言って沈黙した。益子大佐は首をひねった。中野中佐はエライサンとコネでもあるのだろうか。そして竹内少将はそれを知っているか弱みでも握られているのかと・・・ |
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注1 | ||||||
注2 | ||||||
注3 |
![]() | 注4 | 注5 |
過去の輸送船団護衛の配置を探したが一律ではなく多様であった。実戦結果、オペレーションリサーチ、潜水艦の性能や対潜兵器の変化などによっていろいろ変わったのだろう。 ![]() 第一次大戦時の輸送船団のエスコートの図 「潜水艦」白石 光、学研、2014、に第二次大戦の輸送船団護衛の説明に下図があった。 ![]() ![]() |
注6 |
日本で軍艦に気球を載せて弾着観測に使ったのは、大正10年頃(1921)からで、このお話のとき(1915)はまだ行っていない。 イギリス海軍は、第一次大戦では1917年から船団護衛に気球での監視を行った。とはいえ気球に乗った人が双眼鏡で海面を監視して、有線電信で下の船に連絡する方法だった。第一次大戦終戦後すぐに気球の設備が廃止されたから、あまり有効ではなかったのだろう。 ![]() |
注7 |
イギリスでは第一次大戦開戦直後に多数の艦船が潜水艦攻撃を受けたので、パッシブ・ソナーを1915年に開発し1916年から艦載化が始まった。このお話は今1915年で派遣は1916年だから史実と同じだ。パッシブソナーがないとき、潜水艦は浮上時に敵船を見つけなければ戦いにならなかっただろうと思うがどうだったのだろうか? アクティブソナーの実用化は第一次大戦後の1920年である。 ![]() |
注8 | 注9 |
お分かりのようにヘッジホッグ(ハリネズミ)のアイデアをいただきました。ヘッジホッグはイギリスが第二次大戦中の1942年に開発しました。
![]() 素人考えだが、射程260mではあまりにも短く、40m円内を制圧では少し悲しいと思ったので大目にした。それと着弾位置を円周ではなくメッシュの方が適正な気がする。目が粗くなると思われるかもしれないが、第一次大戦の主力UボートUA型は長さ40〜80m、幅4〜7mと各種あるが、その範囲にいれば必ず蝕雷する。 ![]() |
階級が低位の者が状況によって上位階級が就く任務を担う場合、一時的にそれに見合った階級を与えることはアメリカでは普通にある。例えば中隊長が戦死して、小隊長の少尉が中隊の指揮を執る場合、臨時に大尉に任じられる。 日本では旧軍でも自衛隊でも、下級士官が指揮権を継承した場合、階級が上がる制度はないようだ。 ![]() |
敵の新兵器の調査に行くには高度な科学者や技術者でないと役に立たないが、そういう人が敵の捕虜となるとこちらの秘密が漏れる恐れがある。第二次大戦のとき、イギリスのレーダー技術者がドイツ軍のレーダー調査に海岸近くのドイツ軍レーダー基地に忍び込んだとき、もしドイツ軍に見つかれば海上の船から味方の狙撃兵が彼を射殺するよう待機していたという実話を読んだことがある。新谷かおるのコミックにもそういうお話がある。もちろん本に書かれた話はすべてうまくいって味方に射殺されることはないのだが、その陰には実際に射殺された人もいたのだろう。 1945年ドイツが降伏し、Uボートで日本に帰る途中だった友永中佐と庄司中佐が自決したのは、機密保持のためではなく捕虜になるのを潔しとしなかったからで、趣旨が違う。 ![]() |
おばQさま 流石に手をかけただけあって、読みやすいし、内容も面白いです。 今回は船団護衛なので海軍主体で問題ありませんが、史実の陸海軍の欠陥の一つ:陸海統合指揮権の不在は、ぜひ組織的に解決してほしいですね。 中野中佐が、すでに嫌われておりますが、これも統合指揮権があり、その中からならば陸軍―海軍間で指揮命令も可能になると思います。 >レ−ダー いっきにPPIスコープまで行くのですね。 工学部時代の指導教授が、スコープ用の蛍光物質の研究をしておりました。 戦前でも物質は研究隅なので、波形の発信方向と表示が同期できれば、蛍光物質の残像を利用したスコープは可能だと思います。 初期ですから、cm波くらいでしょうか。 それですと解像度が低いので、気球併用は現実的で良いですね。 mm波まで行ければ、水柱や潜望鏡でも判るようになりますので、気球は不要になります。 それよりも、護衛空母に、ジャイロコプターか、低速飛行機に磁気探知機をつけて哨戒するほうがよくなりそうです。 いきなり高い技術を目指さずに、できるものは使うという考え方がリアルです。 >潜水艦 発祥の国:アメリカ、フランス、そして独英は盛んですね。 帝国海軍は派手なものに人気があり、潜水艦はドン亀呼ばわりで不人気。 重要性は判っていたので、司令官に醍醐侯爵を充て不人気を払拭しようとしましたが、結局 海上護衛戦の重要さは、資源無し国なのに判りませんでした。 いきなり、潜水艦が重視される状況は、扶桑海軍軍人にも不満なのでしょうね。 中野中佐、何とか出来るのでしょうか? これからも楽しみにしております。 |
外資社員様 毎度ありがとうございます。 出し物の新兵器の条件として市販部品、公開情報で作れるものという枷をかけているつもりです。 異世界が日本政府やアメリカ軍などと交渉ルートがない限り現在運用されている兵器も入手できないわけで、それを無視したらなんでもありでお話になりません。 ソナーなども漁船用(釣り船用)なら買えますが、潜水艦用となると売っているところがありません。だから釣り船用は買える、軍事用は買えないということにしています。 レーダーに使うマグネトロンは電子レンジのが使えるか調べました。元々レーダーの実験中に技術者のポケットに入っていたチョコレートが溶けたことから電子レンジに応用されたということから、市販のマグネトロンが使えるだろうと思いました。マグネトロンを入手するには中古電子レンジを買わなければならないのかと思いましたらアマゾンで数千円で売っていました。 導波管とか同軸ケーブルとか細かいことまで考えるとどうにもならなくなります。まあそのへんはいい加減に・・ 液晶も安く買えますがそれをすると行き過ぎかなと思いまして、陰極線管を作ることにしました。 とまあ一応義理立て(誰に?)しているつもりです。 |