*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
文章を書いて頭が飽和する とこんな絵を描いてます。 |
新開発の対潜兵器を装備した軽巡と駆逐艦による対潜戦の試験兼訓練が開始された。竹内司令官と益子参謀長にとっては初めてだが、電子機器の取り扱いをする兵・下士官は数か月前から政策研究所で訓練を受けていた。 そして海軍工廠や政策研究所の技術者が乗り組み新兵器の各種試験を行う。また横須賀基地の潜水艦艦長や駆逐艦艦長は見学のため交代で乗船する予定だ。 まず電波探知機のすごさは初日に明らかになった。出港する前から東京湾内を航行する船舶が画面に表示されているのを見た全員が、まさに新兵器だと納得した。もちろん潜望鏡を見つけることができるのかどうかはこれからだ。 潜水艦隊司令部からの通知では、潜水艦数隻が既に前日出港しており、九十九里沖で護衛艦隊を攻撃する予定だという。潜水艦を見つけられるのか、竹内司令官や中野中佐をはじめ関係者は、期待と不安で敵役潜水艦との邂逅を待つ。 残念ながら幸子は乗船できなかった。この時代、船の守り神は女神だから女が乗ると嫉妬すると言われていて、軍艦に限らず漁船にも乗れなかった。 「艦これ」で軍艦がみな女性なのはそういうわけだ
同僚がみな試験航海に行って2週間は帰ってこない。話が聞けるのはそれ以降になる。幸子は一人政策研究所で、コーヒーを飲み時間をつぶしている。少し悔しい。でもなぜ客船には女性も乗れるのだろう?不思議! 試験航海初回は潜水艦の索敵、攻撃の演習というか実験である。艦隊全部がそろうのはまだ数か月先で、今回は旗艦である3000トンの軽巡「四万十」と駆逐艦3隻だけだ。 旗艦になった軽巡は元々何種もの 電子戦要員が増えたが砲煩兵器や魚雷が減り主砲が半自動化されたことにより、乗組員は300名から230名と大幅に減った。ちなみに昔は3,000トンの軍艦なら乗員が300人というのは普通だが、自動化が進んだ21世紀では200名を切る。 だいぶ居住に余裕がでたように思えるが、電子機器が場所を食うためにそんなに良くなったとは思えない。長期の航海は乗組員にとって狭くて辛いだろう。 横須賀を出て6時間、今九十九里沖40キロの海上にいる。 旗艦の左右に約4キロ離れて駆逐艦が同航しているほか、右後方に5キロ離れてもう一隻の駆逐艦がいる。4隻しかないが一応船団護衛の配置に合わせている。 天候は曇り、海面で風速7ノットなので、右後方の船は気球を上げている。 ここは船体中央に新たに設けた30畳ほどの部屋で、CIC(戦闘指揮所)である。各種機器を操作する10名ほどの他に、竹内司令官、益子参謀長を始めとする数名の参謀、中野中佐他政策研究所のメンバーと海軍の見学者たち、合わせて30名近くいる。立錐の余地とまではいかないが相当混みあっている。 この船では艦長は艦橋にいるが、そこは操艦の機能しかなく、戦闘指揮はすべてここCICで行う。アメリカでもCICの考えが始まった1940年代は、参謀がCIC、艦長は艦橋にいてCICからの情報を基に操艦と戦闘を指揮していた。このへんは実戦を経ていろいろと変わっていくのだろう。 兼安少佐は下士官数名が音波探知機と電波探知機の監視をしているのを見て、ときどき何事かを指示している。吉沢中佐は駆逐艦から送られてくる情報を統合する装置の指導をしている。他の技術者たちはそれらの設備に怪しげな計測器類をつなぎ、計測器が表示する数字を記録したり本体の調整つまみをいじったりしている。 参謀と見学者は興味津々でその様子を見ている。 突然、表示器を見ていた下士官が大きめの声を出した。 | ||
「音波探知機が潜水艦を捕らえました。左舷駆逐艦の左35度、距離約3,100、反航しています。 あっ、今、潜望鏡をあげたのを電波探知機が捕らえました」 | ||
「みなさん、ご覧になりたければこの陰極線管に表示されてます」
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室内の10人以上がわッと表示板に集まる。 | ||
「おお、この光点だな。左舷駆逐艦の外側ということは、この船ではなく駆逐艦の音波探知機が検知したということか?」
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「そうです。光点の脇に不明という文字と進路と速度が併記されています。ええと進路は1-4-7、速度は5ノットとあります」
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「なんと、そこまでわかるのか!」
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「それでこれからどうするのか?」
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「正直言ってこちらから攻撃する手段はありません」
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「なんだって! 見ているだけなのか?」
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「先日申し上げたように、この距離では攻撃する手がありません。攻撃するなら、こちらから近づかないとなりません」
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「少佐殿、光点が分れました」
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「ああ、魚雷発射したようです」
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「オイオイ、まさか実弾じゃないだろうな」
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「私は潜水艦隊から派遣されてきた者だ。潜水艦は攻撃可能ならば模擬弾を発射するといっていた」
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「兼安少佐、まさかやられっぱなしということはないのだろう?」
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「ただいま左舷の駆逐艦から距離2,800、潜水艦が魚雷攻撃するには手ごろの距離ですが、こちらから反撃するにはちょっと遠いですね。駆逐艦は回避するでしょう。というより私が指示します」
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兼安は電話をとる。 | ||
「こちらCIC、敵潜水艦が魚雷発射した。ああ、そちらも気が付いていましたか。それじゃ回避してください」
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「おい、今電話したのはあの駆逐艦か? 電話が通じるのか?」
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「電信を打つより手軽でしょう。伝声管というわけにもいきませんし」
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益子参謀長は唖然としている。 | ||
「まだ距離がありますから駆逐艦は十分安全に回避できます。画面を見ると潜水艦は面舵を取りましたから、もう少しこちらに近づいた後、遠ざかります。あまり最初から手の内を見せたくないのですが、このままじゃ評価を下げてしまいます。中野中佐、反撃してよろしいでしょうか?」
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「兼安少佐、やってくれ。 ここにいる方は、これから見ることは絶対口外しては困ります」 | ||
「魚雷発射用意、目標現在地、左80度、距離3,700、」 兼安少佐は口で言いながら装置のボタンをバチバチと叩くというか押していく。 | ||
「おっとこれから何が起きるか知りたい方は、大至急甲板に出てください。但し煙突より後ろにはいかないでください。それと耳を押さえてくださいね。1分後発射します」
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竹内司令官と益子参謀長を先頭に、ほとんどが部屋を飛び出していった。 | ||
「静かになったか。じゃあひとつ撃ってくれ」
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CICの中にもドーンという音が聞こえた。その瞬間陰極線管の表示板に急速で動く光点が現れた。 | ||
「最終的に距離3,500でしたが、どれくらい時間がかかりますか?」
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「90秒というところかな」
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「あっ、画面から光点が消えました。着水しました。潜水艦からの距離約200」
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「まあまあってところか。これから追いかけるのに40秒か」
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しばし後・・・・ | ||
「電波探知機に反応が現れました。潜水艦が浮上したようです」
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「衝突音でびっくりしたんだろう。被害がなければよいけど」
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「空砲とはいえ実射は初めてでしたから緊張しました」
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「他に潜水艦や水上艦はいないか?」
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「周囲20キロ内にはいません」
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「そいじゃみんな職場放棄して甲板で新鮮な空気を吸おう」
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計器にしがみついている若干名を残して、10名ほどが立ち上がりCICから外に出た。曇天は相変わらずだ。はるか遠くに浮上した潜水艦が小さく見える。 | ||
「兼安少佐、今のは一体なんだ?」
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「魚雷です。もちろん弾薬は抜いてあります。先日の説明会では説明するのを忘れてました」
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「臭い芝居だな」
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「魚雷で潜水艦を狙ってもたどり着くまで時間がかかります。それで最初は魚雷を砲煩兵器で打ち出そうと考えました。でも魚雷のような大きなものを打てる砲はありませんし、また砲弾と同じように急激に加速しては魚雷が壊れます。 それで魚雷をロケットでゆっくりと加速し、着水時には落下傘で減速する方法にたどり着きました。それにしても魚雷の一般的な直径53センチでは大きすぎますから、25センチの小型のものを開発しました。当然、爆薬も少なく走行距離も短いんです | ||
「ロケットはどれくらい飛ぶのだ? それから着水してからの射程距離は?」
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「ロケットは80ノットで射程5キロ、魚雷は20ノット走行距離約1キロというところです。着水後は敵潜水艦の音を聞いて追跡します。速さが20ノットですから潜水艦の速さを8ノットとして速度差12ノットで追いかけます。200メートル以内に着水すれば40秒で追いつきます。うまく行けばですが。というのは、着水地点が目標から遠かったり、潜水艦が音を出さなければ追いつけません」
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「水上艦と違い、目標が潜水艦の場合は深さ方向も舵がきかないとならないが」
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「その辺は大変でした」
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「迫撃爆雷との使い分けはどうなのか?」
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「迫撃爆雷は火薬で撃ちだすのに対して、こちらはロケットです。そもそも魚雷は高価ですし、更にこの魚雷は自動追尾しますので値段が張ります。ということで2キロ以上離れている場合ですね。安い兵器で間に合うなら、高いのを使うことはありません。実を言ってこのロケット魚雷はまだ各艦数発しかないのです」
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「だが潜水艦が近づく前にこれで処理すれば迫撃爆雷はいらない」
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「でも遠近すべての範囲をカバーできないといけません。撃ち漏らしたり発見が遅れて近くまで来られたときの対策は必要です。ロケット魚雷は短距離では撃てません」
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「そのときは直接魚雷発射管を使えばいいじゃないか」
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「先ほど言いましたが何事も費用対効果です。迫撃爆雷で済むのに魚雷を使うこともありません」
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「これは敵潜水艦が発射した魚雷に対しては使えないのか?」
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「潜水艦と違い魚雷は速いです。ドイツ軍のものは35ノットといいます。ですから追い付けません。単純にスピードを上げても魚雷自身の水切り音で追尾できないのです | ||
「うーん、いろいろと制約があるのだなあ〜。ゆくゆく魚雷にも使えるよう改良してほしい | ||
「承りました」
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「潜航していても敵潜水艦の所在が分かるなら、大砲を撃てばよいではないか。戦艦の砲弾は直撃しなくても至近弾の衝撃でも船の鋲は緩まる | ||
「戦艦の巨砲ならそれもあるでしょうけど、10センチ砲で5発や6発撃ったところで効果はありません。それに海面に浮いているのではなく潜航していますしね」
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「そうなのか。それじゃ爆雷を撃てば?」
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「突き詰めれば砲弾も爆雷も魚雷も、大きさと移動手段が違うだけ本質は同じです。簡単に言えば大きなものを送り出すには大きなエネルギーが必要になり、小さな爆発物では直撃しないと効果がないのです。 それはともかく、あの潜水艦は無事だったのでしょうね?」 | ||
下士官が走ってきた。 | ||
「潜水艦から無線が入りました。「本艦に魚雷が命中したと思われる。被害はなし。本艦は命令を完了したので横須賀に帰港する」とあります」
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「任務ごくろうと応えておいてくれ」
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そこに水兵がまた走ってくる。 | ||
「新たな潜水艦を発見しました。作戦継続願います」
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「おお、面白くなってきたな」
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結局、その後も潜水艦2隻が現れそれぞれから魚雷攻撃を受けたがそれらを交わし、こちらから例の飛翔魚雷を各1発発射し、1隻を撃沈、1隻は逃がした。そこでその日は終わった。 | ||
「本日の訓練予定は終了した。明日は別の潜水艦が派遣され再度攻撃する予定とのこと。 本艦隊は三宅島方面まで行ってUターンして翌朝九十九里沖に戻る。ご苦労だった、では解散」 | ||
甲板に最後まで中野中佐と兼安少佐が残っていた。 | ||
「夜間、潜水艦に攻撃されるかもしれないね、敵さんは予定外のことをするようだ」
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「どうでしょう、こちらは夜でも見えますが、向こうは探知する能力がないと思います」
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「潜水艦同士連絡を取り合っているだろうから、我々の位置は把握しているはずだ。潜水艦も浮上したら18ノット以上出る。この艦隊は今12ノットくらいだ。十分に追いつける」
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「分かりました。夜間も監視体制を継続します」
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真夜中1時過ぎ、中野中佐は起こされた。兼安少佐がニヤニヤしている。 | ||
「中野中佐、潜水艦が後方から接近しています。ほぼ真後ろ、距離3,500」
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「どうして潜水艦だと分かるんだ?」
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「音波探知機でとらえたスクリュー音が昼間の潜水艦に似ています。同形艦でしょう」
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「ほう、流石だね。それでどうするんだ?」
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「どうしましょう、とりあえず司令官と益子参謀長に伝えます」
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「そうしてくれ、俺は先にCICに行ってるわ」
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数分後、兼安少佐が司令官、参謀長を案内してきた。 | ||
「訓練としても、こちらを攻撃する意思があるのかどうかにかかっていると思います」
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「この状況下では模擬戦闘中と判断してよいだろう。兼安少佐、この距離なら例のロケット魚雷だろう、直ちに攻撃せよ」
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「まだ名前がありませんでしたが、もうそれが制式名ですね。浮上している潜水艦にはもったいない気もしますが。 方位140度、距離3,100、砲撃も可能な距離です」 | ||
「お前なあ〜、後ろの艦砲は撤去して艦橋前に一門しかないんだ。後ろには撃てんだろう」
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「了解しました」 兼安少佐は計器盤のいくつかのボタンを押してから赤いボタンを押す。 | ||
「発射しました。あとは数十秒待つだけです」
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「発射音がせんが」
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「この船からではなく敵潜に近い右後方の駆逐艦から攻撃しました」 | ||
「なんと、ここで別の艦の兵器を操作できるのか?」
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「説明会で伊丹室長がお話しましたが、各艦の監視装置も兵器もここで操作することができます」
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「イヤハヤ、ひとつの船でも射撃を集中管制しているのは主砲くらいだ。それをこの装置は艦隊のすべての兵器を管制するのか」
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「戦いは団体競技なんですよ。優れた人が一人いるよりも、並みの人が力を合わせて戦う方が勝つ確率が高まります。それと兵器というと攻撃するものに注目しますが、敵を探すとか狙いを付けるための計算機あるいは電話などの連絡手段も重要な脇役です | ||
そのとき電話が鳴った。兼安少佐が受話器を取る。 | ||
「艦橋からです。潜水艦から魚雷が命中したと報告があったそうです」
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「協力に感謝すると返してくれ。しかし連中も休みもなく大変だな」
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「欧州の戦いが、いつこちらまで及んでくるかもしれませんから、彼らも実戦と思っているのでしょう」
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注1 | ||
注2 |
出典:「B-29日本爆撃30回の実録」、チェスター・マーシャル、ネコパブリッシング、2001、ISBN9784873662350 | |
注3 |
砲熕兵器とは大砲のたぐいをいう。大砲と書けば誰でもわかるけど、なぜか専門書とか軍オタは砲熕という。咆哮するからか? なお、「熕」でなく「煩」と書いているものもあるが、それは誤字である。 | 注4 | これはアスロックの真似です。本家アスロックはこの40年後の1961年です。 ロケットもロケット弾も昔からありました。ですからロケットで爆雷を遠くまで飛ばすことは可能でした。でも潜水艦を見つけることができなければ意味がありません。 アスロックが登場したのは、ソナーの進歩によって探知距離が数キロ以上に広がったからだそうです。潜水艦を遠くから発見できるようになれば、わざわざ近くまで行って船から爆雷を転がして落とすとか射程数百メートルのヘッジホッグを撃つというのではなく、潜水艦のそばまでロケットで爆雷や魚雷を送り込むという発想が生まれた。当初のアスロックはソナーの能力に合わせて射程1.5〜5キロでした。しかしそこまで到達する間にも潜水艦が移動するので、爆雷でなくホーミング魚雷が必要となったということです。 |
注5 |
世界初にホーミング魚雷を作ったのは第二次大戦のドイツ。当時のものは自身が発生させる水の音の影響を受けてしまうので20ノット以下だった。現在のMk50や97式魚雷では50ノット以上になる。 |
注6 |
現在でも魚雷を攻撃できる魚雷は実用化されていないようだ。ロシアは魚雷ではなくRBU12000という魚雷迎撃ミサイルを保有しているが、その有効性は不明です。 |
注7 |
当時の船は溶接構造でなく、鋲(リベット)を加熱して叩いて組み立てた。そのあとコーキングと言って、板の重なり部とリベットの頭の周囲をタガネで叩き、水漏れしないように密着させる。昔の造船所はものすごい騒音がしたが、それはリベットを叩く音とコーキングの音です。 大きな砲弾は直撃しなくても水中で爆発すると、近くの船はその衝撃でコーキングが緩み、浸水の原因となった。至近弾で浸水被害を受けた事例(空母 龍驤・駆逐艦 磯風など)は多々ある。 リベットから溶接に代わったのは、日本でも外国でも第二次大戦の中頃で、当初溶接は信頼性に問題があったが、採用が広がったのは資材節約、短納期などの時代の要請があったからだ。「鳶色の襟章」(堀 元美)に当時の状況が書いてある。 |
注8 |
太平洋戦争で特攻機が米艦の対空砲火で墜とされ、それに対して日本の軍艦が米軍の航空機攻撃に対応できなかった差は、射撃管制の仕組みが未熟だったからという書籍が多々ある。 |