*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
さて国家的な基準があるなら、その国家的な基準を定める制度が必要になる。戦前から、日本標準規格や日本航空機規格があったが、一部部品についてだけでわずか数百しかなかった マネジメントシステムの審査であるから部品の規格など関係ないというご意見は、誤意見である。第三者認証の対象は製品やサービスでなく、組織のシステム(仕組み)であるけれども、その組織が提供する製品や役務の品質基準がなくて、マネジメントシステム規格が存在しえない 当然、その製品やサービスの品質特性の合否判定ができなければならない。そのためには製品やサービスの品質指標が明確でなければならないし、製品を合否判定するための測定器や評価方法がなければならない。それは国家標準にトレースできるのだろうか? |
伊丹は政策研究所にずっと関わっているように思っていたかもしれないが、彼の仕事は砲兵工廠を始めとする工場や大規模な商店の改善指導であり、それでオマンマと食べている。毎朝、新世界技術事務所に出社して、一日に客先数社回って指導して夕方帰るというスタイルは過去5年間変わらない。もっとも横須賀の海軍工廠は、この時代では泊りで二日がかりになる。更に遠くの地方からも仕事の依頼があるが、なかなか対応はできない状態だ。 おかげさまで仕事もあり収入もそれなりにあり、また異世界から来たことを咎められる懸念もなく、伊丹はすっかりこの世界になじみ堂々と暮らしている。 今日もまた始業時から関取会である。何年か前、当時新入社員だった上野が、月10両(約120万円)以上稼ぐ人たちの会議を十両以上だから関取会だと冗談を言ったのが定着した。今ではもちろん上野も十両会のメンバーである。 新世界技術事務所でコンサル修行をしたいと入社希望する人を毎年一人くらいずつ採用して、今では総勢8人となった。上野は彼らを取りまとめる課長職に就いている。伊丹も藤原も職人的仕事が合っているので、新人に指導はするが基本的に部下は持たない。 関取会が終わったとき、ちょうど半蔵時計店の宇佐美が現れた。取引を始めた頃、彼は手代と名乗っていたが、彼が拓いたダイヤルゲージから始まった計測器事業がとんとん拍子で伸びてきて、今は取締役事業部長である。伊丹は宇佐美さんの頑張りが報われましたねという認識しかないが、宇佐美は新世界技術事務所、特に伊丹に恩を感じていて季節ごとに酒を持って挨拶に来ている。 今日はなんだろう? 伊丹と藤原そして工藤の三人でお会いする。 | |||||||
「みなさんのおかげで商売繁盛です。最近は二年前に出した、てこ式ダイヤルゲージというのが多いに伸びています。 いや、失礼、あのアイデアは藤原さんから教えていただきましたね」 | |||||||
「ほう、それは喜ばしい。でも、なぜ需要が増えたのですか?」
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「欧州の戦争の影響で、以前と違い世の中が個産から大量生産、つまり同じものを大量に作るようになりました。そうなりますと製造工程でも検査でも1個1個寸法測定するのではなくあらかじめ寸法を設定していて、それと比較するという方法が増えまして、てこ式ダイヤルゲージのようなタイプが好まれているようです」
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「なるほど、生産方式が変われば求められる測定器が変わるか・・・」
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「宇佐美さん、電気マイクロメーターというのをご存じでしょうか? 」
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「電気マイクロメーター? なんですか、それ?」
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「正確に言えば難しいんだけど、分かりやすく言えば電磁石をイメージしていただいて、その鉄心がコイルの中に入っている長さを変えると、外から見た電磁石の抵抗が変化します。その抵抗変化から鉄心の位置が分かる。しかも高精度で」
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「おお、そのイメージわかりました。電気マイクロメーターに詳しい人は誰でしょうか?」
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「実を言って電気マイクロメーターというものはまだ存在していない」
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「はあ?」
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「海軍で特殊な機械を作りましてね、その機械は軸を中心に360度回転するのですが、その機械が向いている方向を離れたところで把握するのに使っています」
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「なるほど、なるほど、その応用が見えます」
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「それを応用すれば簡単に電気マイクロメーターを作ることはできるでしょう。詳しい方は政策研究所の吉沢中佐です。私から紹介されたと言ってかまいません。もっとも特許権とかになると向こうも一枚噛みたいというかもしれません。 実際には電磁石より電源とか増幅回路の方が難しく、お宅が白紙から考えるより吉沢中佐に協力を依頼した方が早いでしょう」 | |||||||
「電気マイクロメーターとはどういった用途に使えるのですか?」
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「基準からいかほどずれているかを測る比較測長器ですね。ただ従来のダイヤルゲージやてこ式ダイヤルゲージと違うのは先ほど伊丹さんも言いましたが、測定するものから遠く離れたところで測定することができます。更に目視で読み取るのではなく、電気信号をそのままデータ処理すれば・・」
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「おおっと、あまり細かく言われると、私の方で権利を主張できなくなってしまいますから止めてください」
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「それからエアマイクロメーターというのもありまして・・・」
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「はいはい、それもぜひとも」
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「宇佐美さん、今日のご用は何でしょう? 時候の挨拶ですか?」
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「あっ、いえいえ、相談です、相談、 伊丹さんや藤原さんのご指導を受けまして、新製品の開発も進み、また製造工程での品質不良も減ってはきています。ただ自分で言うのもなんですが、管理レベルが上がればまた新たな悩みもでてくるわけです。 今でも製造部門でも外注先でも問題が起きます。もちろん原因を追究して再発防止を図ります。でも不具合を起こす原因は無限で問題が発生しなくなることはありません」 | |||||||
「それはぜいたくな悩みというのですよ」
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「いやいや、是正処置といえど発生してからの後追いにすぎません。それで問題が起きてからではなく、根本的に問題が起きない仕組みというものができないものかなと考えているのです」
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「寺田さんという有名な方が、純粋な予防処置があるはずがないと言っていたと思います」
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「しかしさすが半蔵時計店さんは考えがすごい。そういう仕組みを製造だけでなく営業とか経理にも展開できれば製品だけでなく会社を良くすることができると思いますね。そのうち宇佐美さんのところで会社の改善指導を事業にして、私のところと競合するのではないかと心配してしまいます」
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「宇佐美さん、企業にはいろいろな問題が起きます。製品の品質から財務経理上のこと、資材調達、広報の問題、社内犯罪発生、経営トップが病気に倒れるとか、天災、戦争、事業推進に当たっては多様なリスクがあります」
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「今の伊丹さんのお話は私が考えていたよりもはるかに包括的ですね。そういったことを取り扱う学問というか経営手法はあるのでしょうか?」
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「まだ学問として確立していないかもしれませんね。またそういう事業推進上考慮しなければならないことは時代と共に増加しています。 いずれにしても経営者はあらゆる観点で企業経営の危険を予測し対策しておかねばならないでしょう」 | |||||||
「伊丹さん、人事とか財務における危険というのは想像つきますが、広報のリスクとはなんでしょうか?」
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「例えば会社ではいろいろな広報をします。決算報告、新事業への進出報告、不祥事の報告など、そういったとき正しい情報を適切な表現で行わないと社会から批判を受けます。決算の数字を間違えれば投資家から批判されるでしょうし、社内犯罪を隠すのはそれもまた犯罪になります」
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「なるほど、財務のリスクというのもわかりますが、そういったものを品質と同じ扱いではできないこともありますね。資本関係とか政府との関係とか」
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「もちろんカテゴリーによって重大性も対応策も異なるでしょう。ただ経営者となれば常にリスクを認識して対応を考えておかなければならない」
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「実は私が考えていて、伊丹さんのアドバイスを頂きたいと考えていたのは、それほど包括的なことではなく、製品についてなのですが・・」
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「製品についてというと」
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「できた製品を検査して不具合がでたらその原因を撲滅するというのは、ものすごく後ろ向きですよね。伊丹さんなら製品に不具合が出ないような製造体制・・・加工方法とか検査方法といった部分的なことではなく、製造体制を作るという方法があるのではないかと思ったのです」
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「ほう!さすが宇佐美さんだ、いや半蔵時計店が先進企業だからそういう発想が出てきたのでしょうね」
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「あのう、それは品質保証の考え方のように思えますが」
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「品質保証とは何ですか? うちの時計をお買い上げになられたお客さんから時計が壊れたと言われたら交換とか修理をすることでしょうか?」
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「うーん、口をはさんですみません。私は詳しくない。伊丹さんお願いします」
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「まず「ほしょう」言っても、漢字がいろいろあります。 補償というと文字通り損害を償うことです。今宇佐美さんがおっしゃった製品不具合があれば交換とか修理することです。保障というのは壊れたり壊されたりしないように守ることで、工場を警備することなどです。今の話の品質保証の保証というのは、大丈夫とうけあうこと」 | |||||||
「その、私が考えついたことは既に考え方としてあったわけですか?」
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「昔からはないですね。今現在考えが成り立ちつつあるという状況でしょう。というのは、保証という考えは一品ものにはありえないのです。たくさん作るからそういう考えが必要になってきた」
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「それを聞いて安心しました。これを特許にしようと考えていましたから」
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「うーん、それはどうでしょう。製造方法やビジネスモデルは特許になりますが、管理手法は特許の対象外です」
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「えっ、そうなんですか。そりゃ残念だな」
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「残念がることはないでしょう。その考えが直接お金儲けにつながらなくても、そういう考えで会社の仕組みを見直すことによって間違いを防ぎ無駄を省くことができればいいわけで」
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「いやでも他社も同様に活動したとき、お金が取れるかなと思いました」
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「改善や管理の方法を独占することはそもそも無理ですよ」
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「なにしろ伊丹さんが既に品質保証という考えがあるというのだから、宇佐美さんが最初に考えた人ではない」
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「ちょっと待ってください、伊丹さんの言う品質保証とはどういうものでしょうか?」
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「それはコンサル料をいただかないと、アハハハハ、冗談ですよ。 いや私もその品質保証という考えを聞きたいですね」 | |||||||
「今日は特段急ぎの仕事もありませんから、ここで勉強会でもしましょうか、 保証とは「なにごとかを大丈夫だとうけあうこと」と申しました。 例えば新入社員の保証人になってくれと頼まれたとしますね。でも私なら見ず知らずの人の保証人にはなれません。その人の生い立ちなり人柄を知って、この人なら大丈夫と思うから一筆書くわけです」 | |||||||
「そうですね」
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「では品質を保証するとはどういうことでしょうか?」
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「不良だったら交換するということですか?」
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「それは保証ではなく、さっき宇佐美さんがおっしゃった補償でしょう」
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「この品物は大丈夫ということでしょう」
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「工藤さんのおっしゃるとおりではありますが、何を根拠にこの品物は大丈夫だというかです」
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「何を根拠にといえば・・・材料はちゃんとしたものを使っています、製造工程はしっかり管理しています、出荷検査は漏れなくしています」
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「けっこう、けっこう、その通りです。その通りですが、では材料はちゃんとしたものを使っていますと、ただ言葉だけですか?」
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「えっ、言葉じゃだめですか? それじゃ誓約書でも書くのでしょうか?」
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「うーん品質を保証するとは誓うとか詫びるとかという方法ではなく、誰が見ても大丈夫だと納得させることと考えてください。それには論理的に証拠を基にということになると思います。 そもそも自分が材料は大丈夫だと考えたのはどうしてでしょう。相手を納得させるには、自分が納得したこと、証拠といってもいいですが、それを見せるとか説明すればいいことになる」 | |||||||
「伊丹さんのおっしゃる意味がよくわかりません」
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「言い方がまずかったですかね。例えば材料を受け入れる時は受入検査をしていて、その検査記録があるというのはどうでしょう」
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「なるほど、確かにそういうものがあれば相手に見せて説明できますね。単に口で大丈夫というのではなく、こういう証拠があるから大丈夫ですと言えるということですか?」
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「そう、簡単でしょう。いえ、実際にそれをするのは大変ですよ」
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「ということは製造工程ではしっかり管理しているというためには、ええと、例えば加工手順をしっかり決めているとか、それに基づいて仕事をしていること、職工はみな一人前だとか」
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「機械の保守点検をするとか、不良品はまざらないように区分けしているとかもあるな」
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「そうそう、以前申した5Mを基に考えると良いかもしれませんね」
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「5Mとは砲兵工廠の講義で聞いた覚えがあります。ええとマテリアルの材料、マシンの機械、マンの人、ええと・・」
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「メソッドの方法とマネジメントの管理でしたっけ」
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「いつつめのMは人によって藤原さんの言ったマネジメントの他に、メジャーの測定とかマネーのお金とか人によっていろいろです。まあ半分語呂合わせでしょうけど」
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「その5Mを管理しているという証拠を揃えることが品質保証なのですか?」
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「あっ、5Mは切り口の一例に過ぎません。それに品質保証のためだからと言って無駄無用なことをすることはありません。 その製品の品質を確保するために何をしなければならないかということをはっきり決めて、必要なことをすれば良いわけです。今おっしゃった加工手順とか温度とか全部じゃなくて、必要項目を見極めるのです」 | |||||||
「となると単純に5Mから始めるわけにはいかないんだ」
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「5Mは一例にすぎません。実際には管理項目を決めるには二つの方法があると思います」
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「そのふたつを教えてください」
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もうひとつは論理的に工程を良く調べ、管理することを決める方法ですね。 前者であれば実践的で経験に裏付けられるでしょうけど、発生していない問題はわからない。後者であれば包括的に考えられるでしょうが、空理空論に陥る恐れがある。ともかくそういう方法で管理項目が決めます」 | |||||||
「なるほど、とはいえその二つは相反するのではなく、双方を考慮すべきでしょうね。経験や理屈から管理項目を決め、決めた項目を管理して、そして証拠を残すということか」
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「いかがですか宇佐美さん、当社に品質保証のコンサルをご依頼ください」
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「工藤社長も商売がお上手で」
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「そうおっしゃる宇佐美さんも、お金も払わずに情報収集がお上手なことで」
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以下の注記説明において紫の文字は規格などからの引用を示す。 | ||
注1 |
ISO/IEC17021:2011・翻訳規格JISQ17021:2011 定義 3.4第三者認証審査 依頼者及び利用者から独立した審査機関によって、依頼者のマネジメントシステムを認証する目的で実施される審査。 注記1 この規格では、"審査"という用語は、第三者認証審査を簡略化して指すものとして使用している。 なお、認定機関が認証機関を認定するか否かを判定するのを認定審査、審査員登録機関が審査員研修機関を承認するか否かを判定するのを承認審査という。 | |
注2 |
ISO/IEC17021:2011・翻訳規格JISQ17021:2011 定義 3.6審査員 審査を行う人 ここで審査とは注1に記されたように第三者認証審査の省略であり、正しくは認証審査員である。 前記同様に、認定審査をする人を認定審査員、承認審査をする人を承認審査員という。 | |
注3 |
ISO17021規格の定義ではISO9000とISO17000を引用しているが、いずれにしても第三者認証の対象となる「マネジメントシステム」を定義しておらず、また明言していないが、文言からISO規格で定められたマネジメントシステムと読み取れる。 | |
注4 | ||
注5 |
ISO9001:2015・翻訳規格JISQ9001:2015 序文 0.1 この規格で規定する品質マネジメントシステム要求事項は、製品及びサービスに関する要求事項を補完するものである。 この文言は1987年版からあるものだが、審査員も含めて多くの人が気が付かないようだ。マネジメントシステム認証は製品及びサービスに関する要求事項を補完するものに過ぎないことを再認識してもらいたい。 つまりマネジメントシステム認証の前提として、そのシステムが提供する製品・サービスがなくてはならず、当然その製品・サービスの仕様、品質基準が存在しているはずだ。検査も工程管理も教育訓練も、すべて実際の製品・サービスを根拠に考えていなければマネジメントシステムどころではないのだ。 それを理解していれば、人々は認証に過大な期待を持たず、同じく製品不具合があっても認定機関も認証機関も慌てないと思うのだが? 実話であるが、1990年代半ばのこと、カタログにあるが生産していない製品についてISO9001の認証を受けていた会社があった。当時はまだ認証範囲とかカタログ表示などうるさくなかったので、その会社は「ISO9001」認証と表記していた。当時はISO認証というと取引先から評価されたからだろうけど、いささかいささかである。まあ、古い話だ。 おっと、今もあるかもしれないヨ |