異世界審査員67.インフルエンザその2

18.03.15

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは
正直言って私は、第一次大戦のUボートも知らないし、時限信管も知らないし、インフルエンザもスペイン風邪も知らない。ということでこのオハナシを書くにつれて、必要なことについて本を読んだりネットで調べたりしている。

以前、西田敏行がテレビで肺炎予防を啓もうしていた。確かに肺炎で毎年10万くらい亡くなっている。実はインフルエンザから肺炎などになると、直接の死因である肺炎とか脳炎としているそうです。ですからインフルエンザが流行しない年であっても毎年1万人以上がインフルエンザからみで亡くなっているそうだ。
なお、結核による死亡は2,000人弱で推移している。結核も恐ろしいが、インフルエンザは一桁上だ。(注1〜注4)
驚いたのは致死率の高い病気はあまり広まらないという。感染するとすぐに死んでしまうので、他の人にうつすことが少ない。致死率が概ね1%から2%が、感染者と死者を最大にするらしい。
叫び 1919年日本ではスペイン風邪の流行で、39万から48万くらい亡くなったと推定されている。当時の人口は5,000万、すると国民の1%が亡くなったことになる。そして致死率2%とすると国民の半数が感染したわけだ。驚くほかない。
願わくはパンデミックなど起きませんようにと祈りたいが、それは叶わないのも事実。個人的にはこれからはインフルエンザを馬鹿にせず、しっかりと予防や体調管理に努めたいと思う。そう思ったのはこの駄文を書いたおかげだ。

小沢に会った翌日、幸子は小沢から講演をお受けしますというeメールをもらった。そして数日後、パワーポイントと配布資料のデータが送られてきた。資料を一読する。1917年当時はまだウイルスの存在が知られていなかったことを踏まえて、ウイルスの解説から入っているのを見て、幸子は小沢医師が使えそうだと少し安心した。
日時が決まったので、石原大尉に会場の確保をお願いする。

講演会の場所によって小沢医師をどのように連れていくかが決まる。できれば千葉駅から直接講演会の会場までの出入口を作ってもらうのが良いのだが、工藤も一度限りなら今ある道を使ってよと言うことが多い。
となると既にある、東京事務所か新宿駅か市川の海沿いの貸工場の出入り口を使うことになる。どれも千葉から遠い。 知佳ちゃん これからインフルエンザ対策が1年かかるとして、小沢医師に何度も来てもらうなら、千葉市内にひとつ出入り口を作っておくのも悪くない。小さな貸事務所を手配してと知佳ちゃんに頼む。
知佳ちゃんも普段は各種図書や論文を探して入手するという仕事ばかりなので、たまには外出して不動産屋を歩くのも気晴らしになるだろう。
知佳ちゃんは千葉駅から500mほど東、 都川 みやこがわの支流 葭川 よしかわ(注5)そばの30平米ほどの貸事務所を借りた。そして工藤社長に頼んで、こちらへの出入り口を設置した。
カナハちゃん 万が一のことを考えて、形だけオフィスらしく整えた。実はカナハちゃんは幕張から通っているので、これからはSOHOしよう、私は千葉で働くわなんて冗談とも本気ともつかないことを言う。幕張から電車で東京までは30分だけど千葉なら数分、なによりも逆方向だから通勤地獄とは無縁、その気持ちは分かる。いや、電車に乗らなくてここから東京事務所に例の通路で移動するのも可能なわけで・・・いやいや、そんなことをしたらだんだんだらけて示しがつかなくなる。

講演会当日となった。開始は午後1時、段取りとしては昼前に幸子が小沢医師を異世界に案内して、中野中佐と会食をしていただき、その後に講演会となる。
初回は知佳ちゃんとカナハちゃんの二人も、小沢医師のお迎えと顔合わせも兼ねて千葉まで行くことにした。幸子は自分たちが怪しげな会社でない所を示そうという気もある。小沢医師は千葉市とは別の市の市立病院勤めなのだ。
待ち合わせ場所は千葉駅のタクシー乗り場にした。幸子は向こうまで案内するのでどちらの世界でも通用する色留袖、二人はすぐ東京に帰るのでビジネススーツである。
三人がそこに着いたのは約束の30分も前。三人そろってそこにいるのもバカバカしいからと、幸子だけが残って、二人は駅そばのそごうでウィンドウショッピングをしてくるという。

幸子はおびただしい車の流れを見て、向こうの世界とこちらとどちらがいいものかとか、空気は向こうがいいなとか考えるともなく佇んでいた。
さくら
と、突然左の袖に誰かが抱きついてきた。
ビックリして見ると、ティーンエイジャーの女の子、高校の制服らしいブレザーを着ている。

幸子
「えっ?」
さくら
「幸子さんでしょう」

幸子は、私の縁者にこんな子はいないわ、伊丹の方にはいたかしら?と頭の中が混乱した。

幸子
「人違いではありませんか」
さくら
「あなた、不倫してるでしょう。分かっているんです(キリッ」
幸子
「ちょっと、おふざけは困りますよ。どっきりカメラですか」

幸子は振りほどこうとするがかなわない。そこに、知佳とカナハがやってきて女の子を引きはがして抑え込んだ。幸子はほっとして、着物の乱れをなおす。

さくら
「キャア、お父さ〜ん」

突然女の子が叫んだので、振り向くと小沢医師が歩いてくる。
幸子はエエッ!という女の子を見つめた。

幸子
「お父さんって? 小沢先生のお子さんですか?」
小沢医師
「一体どうしたんだ?」
さくら
「お父さん、不倫は止めて! お願いだから。昨日、お父さんとお母さんが話していたの聞いちゃった」
幸子
「あのう、ここではなんですからとりあえず事務所まで行きましょう」

一行はタクシーで駅から500メートルほどのところにある事務所まで行く。
事務所に入るとすぐに娘の方が大声を出す。

さくら
「お父さん、なんで不倫なんてしたの」
小沢医師
「俺はそんなことしてないって」
さくら
「お母さん泣いてたわよ」
小沢医師
「それは不倫したからじゃなくて、危ないところに行くと心配したからだろう」
幸子
「ともかく情報が漏れてお子さんが付いてきたということですか」
小沢医師
「申し訳ない。決してわざとじゃありません」

幸子は腕時計を見た。もう時間がない。この子をここに置いておくわけにもいかない。すぐに決断した。

幸子
「もう時間がありません。知佳ちゃん、カナハちゃん、今日は一緒に向こうまで来て、その子のお守りをしてちょうだい。二人ともよろしく頼むわ」
知佳ちゃん
「幸子さん、とりあえず小沢先生と二人で有楽町の会場に行ってください。私たちがこの子の面倒を引き受けました」
幸子
「頼むわね。ちょっと君、異世界大好きなんでしょう。念願かなえてあげるから
但し、このことを誰かに漏らしたら命は保証しないわよ
そいじゃ先生、こちらへどうぞ」
カナハちゃん
「君は幸子さん達が行ってから移転しようね」
さくら
「君じゃないわよ、さくらっていうのよ(注6)
カナハちゃん
「そいじゃ、さくら、おとなしくしてた方が身のためだよ」


小沢はドアをくぐったとたん、応接室のようなところにいた。間違っても千葉の事務所の中ではなさそうだ。
部屋には三人の男性が立っていた。

中野中佐
「小沢先生ですね、お待ちしてました。予定より遅いので心配しておりました」
幸子
「すみません、すこしトラブルがありまして」
小沢医師
「申し訳ありません。私の娘が後を付けてきて、こちらに来てしまいました」
中野中佐
「ほう、いまどこに?」
幸子
「追い返すわけにもいきませんので、こちらの私の家に連れてきました」
中野中佐
「誰か対応してくれるのかな?」
幸子
「東京事務所の者が付き添います。憲兵も駐在しているから大丈夫でしょう」
中野中佐
「小沢先生、秘密だけは守っていただかないと困ります」
小沢医師
「すみません、気が付かず」
中野中佐
「過ぎたことはいい。向こうに帰ってからの娘さんの口止めはお願いします」
小沢医師
「わかりました」
中野中佐
「それじゃ、少し前後しましたが、自己紹介させていただきます」

応接室にいたのは、中野中佐、米山中佐そして石原大尉であった。
挨拶が終わると、アイスブレーキングを兼ねて昼食ということになる。

中野中佐
「伊丹さんからこちらの概要をお聞きになっていると思います。この世界は日本に似ていますが過去の日本ではありません。歴史も微妙に違います。お宅の世界では日露戦争には勝ちましたが、こちらでは扶呂戦争と呼んでますが、我が国が押され気味で講和しました。そのため不平等条約の解消も遅れましたし、我が国は中国にも朝鮮にも足掛かりがありません。まあ、伊丹さんにはその方が良かったと言われます」
小沢医師
「なるほど歴史が似ているからスペイン風邪と言われるインフルエンザが流行するとお考えなのですね」
中野中佐
「今、第一次大戦中です。もちろんまだ第一次大戦という呼び名はありません。新聞は欧州大戦とか単に大戦と呼んでいます。ともかく歴史の流れは相似していますから、インフルエンザが流行するのに備えたいと考えております」
小沢医師
「お聞きになっているとは思いますが、向こうの世界でも、まだインフルエンザの予防も治療も確立されていません。我々にできるのは、かかりにくくする薬とか、病気になっても重くならないよう体力をつけるとか、防疫体制とか、そういうことしかできません」
中野中佐
「とはいえそういう施策で死者を大きく減らしたのでしょう」
小沢医師
「そうではありますが、今でも毎年数万人がインフルエンザで亡くなっていますし、流行した年には死亡率が上がり平均寿命が縮むのが実態です(注7)
中野中佐
「完璧はともかくお力をお借りしたい」
小沢医師
「正直言いまして、インフルエンザより気になることがあります」
中野中佐
「なんでしょう?」
小沢医師
「こちらでは結核とか寄生虫の方が大きな問題ではないでしょうか。特に結核では毎年数万人が亡くなっている。
そのほうが、ときたま流行するインフルエンザよりも喫緊の問題です」
中野中佐
「おっしゃる通りです。ただ今回の話の前提として、今までの死因は当たり前という認識を国民は共有しています。変な話ですが、過去から大勢がなくなっている病気なら大騒ぎしませんが、突発的な病気は国家を揺るがします」
小沢医師
「それはよく分かります。
それと医学が発達しても人間は必ず死にます。多くの人が亡くなっている病気を治してもその代わり別の病気で亡くなります。ですから若い働き盛りの人を優先して治したい。高齢化に伴ってかかる病気は、寿命が延びると多くなるのはやむを得ません」
中野中佐
「先生はこちらの死因とか病気の状況はご存じなのでしょう。対策すべき病気、対策しない病気を教えてください」
小沢医師
「今こちらの死因は、肺炎、食中毒、結核が上位だと思います。そういったものは老若男女問いませんから徹底して撲滅したい。ただ脳溢血などは高齢の人だけです。高齢者の病気対策ももちろん重要ですが、若い人よりは優先度は落ちると思います。 あと、医学が進んでいろいろな治療をしますと、その病気そのものではなく、最終的に呼吸不全とか心不全で亡くなります。でもそれが本当の死因ではなく、元になった病気の対策が必要です(注8)
中野中佐
「なるほど、今後とも継続してこちらに来ていただき、ご指導を賜りたいと思います。とりあえず本日はインフルエンザ予防についてのお話をお願いします」


知佳とカナハはさくらを連れて伊丹邸に現れた。女中頭のテツとスイは驚くことなく、二人の話を聞いてすぐに対処した。
スイは町内にある貸衣装店に行って、さくらには振袖、二人には小紋といっても若向きで華やかなものを借りてきた。そしてあっという間に三人に着付けた。
テツは若い女中に人力車を2台呼ばせた。そして本日駐在していた憲兵の高坂軍曹に3人のお供というか護衛を頼んだ。
それからテツとスイは高坂軍曹と知佳とどこに行くべきか相談する。
テツは幸子のお供で銀座とか日本橋あたりしか行ったことがない。向こうの世界から来たそれも若い女の子が喜びそうなところはどこか? それとさくらが逃げ出しやすい所はまずい。
渋谷近くの明治神宮は明治帝を偲んで作られたわけで、このときはまだない。結局渋谷駅まで人力車で行き、山手線で東京に行き銀座と日本橋の繁華街を見せることにする。
高坂軍曹にはさくらが脱走しないようによろしく頼むという。高坂軍曹は一人では危ないと電話で本部に応援を頼む。


有楽町の講演会場には、石原大尉が独自基準で選んだ医者が100数十人いた。
司会は石原大尉らしい。

石原大尉
「帝太子殿下 登壇、全員起立(注9)

帝太子中野中佐
帝太子中野中佐
幸子はへえ!と驚いて起立した。帝太子とはつまり帝位継承者で次期皇帝、そんな身分の人が講演会に来るとは?
中野中佐そっくりの人が壇上に上がる。まさか中佐ではあるまいと、中佐の席をみるとちゃんと中野中佐はそこに起立している。よく見ると演壇の方は眼鏡をかけ少し若い。

帝太子
「現代は交通機関が発達した。今は欧州で戦争中であるが、平時であれば欧州へもアメリカへも船に乗って安全に旅行できる時代となった。しかしそれは同時に伝染病が広まりやすいということでもある。昔ならその土地の風土病で収まっていたものが、旅行者や食品や動物によって免疫のない土地に運ばれて広まればとんでもない災害となる。ペストはゴート戦争でアジアから入ってきたと言われているし、梅毒はコロンブスがアメリカから持ち帰ったとも言われている。
昔、外国との交流がない時代はあまりそういう心配はなかったが、今は世界のどこかで伝染病が流行したら、短い時間でこの国に入ってくることは必然だ。
本日は先進の知識を持っている小沢博士が、今もっとも懸念されている流行性感冒の知識そして対策の講演をされる。よく聴講し明日からそれを実践してほしい。以上」
石原大尉
「着席、では続きまして医学博士小沢先生から流行性感冒についてご講演をいただきます」

小沢が登壇して、大きなスクリーンにプロジェクタで投影する。まだプロジェクタは一般に知られていないが、幻灯機は明治時代から普及していて、珍しいとは思われなかったようだ。

指し棒小沢先生
小沢はまだウイルスが知られていない世界であることを前提に、インフルエンザとはなにか、どのような状況で流行するのか、流行を押さえるにはどうすべきか、患者への治療、患者への接触の問題、感染予防、栄養、そんなことをわかりやすく説明する。それも患者個人に対してどうするのか、社会的な観点でどうするのかなど多面的な話をしてくれる。
幸子はそれを聞いて、マスクや消毒剤も含めて持てる道具や隔離する手段、何よりもワクチンもなく、この時代にあるもので対策を考えるのは大変困難だと思う。
講演後、ものすごい質問の嵐があった。居眠りした人はいないから石原大尉の受講者選定は悪くはなかったようだ。
2時間の説明の後、2時間も質疑応答が続いたので中野中佐がストップをかけ、講演会は終了した。
もう夕方5時を過ぎた。

元の応接室に戻りお茶を飲んで一休みしていると、事務官がものすごく慌てた様子で駆け込んできた。
中野中佐のそばに駆け寄り耳に口を寄せて何か話す。中野中佐は黙ってしばし天を仰ぐ。
同席していた小沢医師、米山中佐、石原大尉、幸子は静かに中野中佐を見つめている。
数分して、中野中佐は小沢医師に声をかけた。

中野中佐
「先生、大変申し訳ございませんが、患者を一人診てもらえませんか」
小沢医師
「今回は何も持ってきておりません。本当に診るだけしかできません」
中野中佐
「それで結構です。よろしくお願いします。伊丹さん、ご一緒願います。
米山中佐と石原大尉、後始末を頼む。明日会おう」

そういって小沢と幸子を連れて5つほど離れた部屋に入る。
講演会で帝太子と紹介された中野中佐そっくりの人がソファに寝ている。顔色が悪い。

中野中佐
「小沢先生、こちらが患者です。先ほど急に気分が悪くなったとのこと、診ていただけませんか」

小沢は上着のポケットから聴診器を取り出した。道具を持っていないというものの、聴診器だけはいつも持ち歩いているのか?
心音を聴いたり顔色や目を見たりした後、小沢は脇に立っている男に声をかける。

小沢医師
「今までどのような症状でしたか?」
男
「元から心臓が悪く脈がリズミカルではないのです。ときどき心臓の動きが悪くなって苦しむのです。私にはどういう病気か分かりません」

小沢は中野中佐を部屋の隅に連れて行く。

小沢医師
「不整脈ですね。多くの場合、不整脈そのものは大きな問題になりませんが、この方はちょっと心臓の止まるのが多いというか。私は専門じゃありません。ただこの程度なら向こうでなら治療できると思います。しかし、問題はいくつかあります。
ひとつは、やんごとなきお方です。となると私にとって失敗は許されません。それはお宅の世界でも同じで、絶対間違いないという保証がなければ、向こうの世界に連れて行くことは許されないでしょう。
次にどの世界でも医療は金がかかります。向こうの世界の人なら保険があり低廉で済みますが、こちらからお連れした場合、ご芳名も知らせることはできませんから保険が効きません。
それからペースメーカーを入れた場合、数年ごとに電池交換が必要です(注10)
中野中佐
「今すぐ手を打つ必要がありますか? 猶予はありますか?」
小沢医師
「今初めて診たので何とも言えませんが、今日明日ということはありません。ひと月ふた月の間に決定されればよろしいかと」
中野中佐
「なるほど、費用は現金払いというなら、名無しでも手術してもらえるもんでしょうか」
小沢医師
「私の勤め先は市立病院なのでそういう融通は利きません。民間の病院ならお金次第ということもあるでしょうね」
中野中佐
「小沢さんに依頼したら受けてくれますか?」
小沢医師
「先ほど言いましたように、私の専門ではありません。私が専門医に紹介することになりますが、そのとき患者の身分証明なくて受けてくれるかどうかが問題です」
中野中佐
「お金次第ということにはいきませんか」
小沢医師
「当たってみましょう。どこかのお金持ちが事情があって身を隠して治療を受けたいという話にでもしましょう。
とりあえず今日は帰らしてもらいます。明日も勤務なのです。ええと娘は・・」
幸子
「小沢先生がお帰りになるなら千葉の事務所までご案内します。娘さんはその後に事務所まで連れて行きます」
中野中佐
「先生と一緒に夕食をしようかと思っておりましたが、こんなことではいずれまたということで」
小沢医師
「そうですね。どちらにしても又来ることになるでしょう」
中野中佐
「お待ちしております」

幸子は小沢医師を連れて先ほどの応接室に戻り、そこから元の世界の千葉の事務所に戻った。そしてしばし待ってほしいと言って今度は異世界の自宅だ。

さくらは知佳たちと夕飯を食べていた。女性3人で和気あいあい、楽しそうだ。脇ではテツとスイがこれまたニコニコしている。
幸子はホッとすると同時にさくらに怒りが湧いた。

幸子
「知佳ちゃん、カナハちゃん、お疲れさまでした。問題なかった?」
知佳ちゃん
「あ、幸子さん、ちょっと銀ブラしてきました。なんとか無事すみましたが、さくら君が行動的なもので苦労しました」
カナハちゃん
「現代の若者には面白くはなかったでしょうね。商品も少なくウィンドウショッピングもたかがしれていますし」
さくら
「あーら、面白かったよ、異世界ものの小説はずいぶん読んだけど、本当の異世界は向こうの世界と同じく現実だから、生活があって重いですねえ〜」
幸子
「ご飯はまだ長引くの? お父さんが千葉の事務所で待っているわ」

テツが食べ物を折詰にしてくれるというと、さくらはお母さんの分と3人分頼むという。今どきの子だわと幸子は呆れた。
なんとかさくらを連れて千葉に戻り、小沢医師にさくらを引き渡す。

幸子
「さくら君、今日の経験は封印だよ。学校や友達にバラしたら大変だからね」
さくら
「ハイハイ」

翌日、憲兵にお礼をしたり、中野中佐に改めて詫びたり、幸子は疲れた。

うそ800 本日の裏話
いやあ、私医療に関しては全く分かりません。間違いはお許しください。
この話は、インフルエンザとかペースメーカーについてのお話ではなく、品質保証につなげるだけが目的です。

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注1
注2
注3
注4
注5
現物はあまりきれいな川じゃありません。川沿いにお散歩する気にはなりません。

注6
さくら このとき2017年で高校生となると平成12年(2000)頃の誕生になる。男の子も女の子も名前は流行がある。2000年の女の子の名前の第一位は、「さくら」と「優花」だった。なお、「さくら」がトップだったのは2000年、2001年、2004年、2010年と人気のあるお名前だ。トップでなくても10位以内には毎年入っていた。2000年頃は某アニメのヒロインにあやかって付けられたらしい。2013年のNHK「八重の桜」ではランキングは上がらなかった。

注7
過去インフルエンザ流行の年は平均寿命が短くなる。最近では平均寿命のグラフに1995年と2005年にインフルエンザ流行の凹みがある。
グラフの2011年の凹みは東日本大震災によるものである。厚生省試算によると、大震災で女性が0.34歳、男性0.26歳短くなったという。
ガベージニュース
厚生労働省 主な年齢の平均余命
2011年女性の平均寿命、世界2位に後退

注8
疾病、傷害及び死因の統計分類の正しい理解と普及に向けて
死亡診断書に記載する死因は 「死亡を引き起こしたか、その一因となった全ての疾病、 病態または損傷、 及びこれらの損傷を引き起こした事故または暴力の状況」とされている。

注9
帝太子とは私も異世界ものを読んで初めて知った。天皇の子である第一継承者が皇太子、王の子である第一継承者が王太子、皇帝の子である第一継承者が帝太子というそうだ。秋篠宮は現皇太子が天皇になったときは子ではない第一継承者であるので呼び名は皇太弟になると思われるが、報道では未定らしい。(2018/3時点)
注10
1917年時点で不整脈はどこまで解明され、治療法がどうだったのかネットと本だけでは分からなかった。心電図を取るというアイデアは1910年頃にあったと書いてあった。
不整脈治療の進歩
なおペースメーカーの手術には保険に入っていれば10万程度(2017時点)らしいが、保険が効かないと200万くらいらしい。


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