異世界審査員148.満州その8

19.02.11

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

満州事変というものを全然知らない人が多いかなと思い、この物語の満州事変前後の状況や背景の説明を改めてしたという感じです。

清が崩壊後、孫文は有力な指導者ではあったが敵も多く、中国をまとめるどころではなかった。孫文が死去した1925年以降、中国は有力な指導者もなく、国内は四分五裂状態で軍閥同士や共産主義の内戦状態で、それにより中国人はもちろん外国人居住者の人命や財産が脅かされることが多発した。1926年には揚子江で軍閥同士の戦いのとばっちりを受けたイギリス海軍と軍閥が砲撃を交わした。1928年には遼東半島に租借地を持っていた日本が軍閥同士の戦いの戦場になりそうで軍隊を送り込むと、それを中華民国が苦情を申し立てたり混乱の極みだった。

*「中国」とは元「清」だった地域のこと、「中華民国」とは存在はしていても国土を十分制圧していない政府のことです。

満州事変とは満州の鉄道とその周辺開発の利権を持っていた日本が、外国人排斥活動の活発化、テロなどに音を上げて日本人の安全を図ろうとしたのが発端だ。満州事変の始まりが日本軍の謀略だと言われるが、遡れば元々は日本が条約違反の被害を受けたからだ。その条約が不平等とかはとりあえず置く。日本と同じ目にあっていた国はアメリカもソ連もイギリスも同じである。そして中国もその他の国々も、なにかあれば権益拡大を図った。

満州の地図
上端の蛇行した青線がアムール川(黒竜江)で、ソ連と中国の国境である。

オレンジが東支鉄道:中国軍が当初は占拠するもののすぐにソ連が奪還する。

赤色が満州鉄道:元はソ連が建設したがアメリカに売却した。(史実とは違う)

1929年7月に張作霖の息子の張学良(ちょうがくりょう)はソ連が保有していた東支鉄道(と権益)を武力で奪い取るが、すぐソ連の反撃を受け12月にソ連に取り返された。そんなことをされたり、やりかえしていたのは他の列強も同じような状況だった。
だから満州事変そのものを欧米が悪いと批判したわけではない。ただ鉄道とその周辺にとどまらず、満州全体を抑えたというのは他国からみればうまくやられたと思ったことだろう。だから満州事変を国際社会が批判したかというと一旦は批判されたもののすぐに収まった。
満州で止まっていればまあまあ良かったかもしれない。ただその後に錦州とか西の方にも戦乱を広げたり、最後の清皇帝をさらったりいろいろやったからまずかった。
更に数年後、石原莞爾を真似した後輩たちが同じことを中国中央に向けて行ったのがやりすぎのやりすぎ、程度を読み違えたということだろう。そのとき東京の参謀本部にいた石原莞爾が関東軍まで行って諫言をしたが、石原もやったではないかと誰も言うことを聞かなかった。
とはいえ満州を傀儡国家なり植民地として統治に成功しかつ支那事変(日中戦争)も太平洋戦争もなくても、20年後30年後には最終的には満州は独立しただろう。今世界の植民地はみな独立し、21世紀の現在 実質的に植民地と言えるのは、中国が支配しているチベットやウィグルくらいだ。
植民地を得るとか、併合するという方法は基本的にまっとうではないのだ。

とにかく満州事変は単なる植民地戦争というには複雑怪奇、それというのも中国があまりにも三国志時代と変わっていないということでしょう。当時の中国の共産党とか反共といっても、その中身は単なる権力争いです。そして共産党内でも反共の軍閥同士でも更には軍閥内部でも、常に猿山のボスの地位争いが絶えませんでした。それは21世紀も変わりません(注1)

おっと、この物語は日本とアメリカが単純に入れ替わったわけではなく、史実とは設定が大きく違いますから、そこはお含みおきください。

1928年1月
時間は少し戻る。ここはアメリカの戦争省(陸軍省)の一室である。
ホッブス大佐、グリーン少佐、石原そしてさくらが座っている。

ホッブス大佐
「ドクター石原、満州を抑えた後の統治形態だがね、まだ決断を出せないのよ(注2)
石原莞爾
「既に大統領に伺い出て結論が出ていると思っていましたが」
ホッブス大佐
「実はまだ大統領には話していないんだ。まず"さくら"が作った考えられる統治形態案とその得失の比較検討を読ませてもらった。ええと4つか、大きく言えば3つになるのかな(注3)
一番目は、満州を制圧した後、最後の清の皇帝だった愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)を立てて傀儡として満州帝国を建てるというもの。
次は似たようなものだが満州というか中国東北の大軍閥である張作霖(ちょうさくりん)を立てて・・以下同文と(注4)
三番目は、入植者が独立国を建国する、まあニューニューイングランドだ。
四番目は、アメリカの植民地とする」

*この物語では張作霖は暗殺されていない。もっとも時間の進み具合も史実で暗殺が行われた1928年6月4日までに至っていない。


グリーン少佐
「理想は一番最後でしょうね。まず傀儡政権というのは時間と共に矛盾が生じて立ちいかなくなりますよ」
ホッブス大佐
「パナマは1903年にコロンビアから独立したが、以来25年傀儡政権だよ。だから永続きしないということもない」
グリーン少佐
「いずれパナマも国民の不満が蓄積して、アメリカ支配から独立するでしょう。人間は支配されるのは好きじゃないんです。アメリカだってイギリスから独立したわけで」
さくら
「占領すればおしまいってお考えのようですけど、国を治めるって国民を食べさせるってことですよ。どんな独裁でも国民を飢えさせるようではすぐに倒れます。
今の満州をご存じなの?」
グリーン少佐
「今の満州というと?」
さくら
「世界恐慌はアメリカと欧州だけではありません。中国も不況です。その片田舎の満州ももちろんです」
ホッブス大佐
「我々が統治するようになると満州の人を食べさせなくちゃならないってこと?
オイオイ、アメリカで失業者があふれている、だからそういう人たちを食わせるために満州を取ろうとしているんだよ」
さくら
「呆れた! 大佐、満州を占領してアメリカの失業者に土地を与えて、その結果 満州の人たちが飢えたり放浪するようになったら、国際社会からどう見られるとお思いですか」
ホッブス大佐
「ワシは命令を受けたことを達成するだけだ」
さくら
「とはいえ、住民を食わせることができないなら、国であれ植民地であれ破綻します。すべての人を飢えさせないようにしなくちゃ為政者じゃありません」
石原莞爾
「話を本論に戻しましょう。アメリカの植民地、入植者が立てた独立国、傀儡国家の三択ということでよろしいですね」
ホッブス大佐
「それ以外に考えられる形があるか」
グリーン少佐
「植民地ではなく併合してしまうというのもあります。我が国もソ連ももっぱらこの方法です国土を拡大してきました」
ホッブス大佐
「ソ連の場合、遠く離れたところを攻め取ったことはない。常に隣接した土地を併合して拡大してきた。だからその地には以前から相当数のロシア人が住んでいて、併合に名目が立つ。ついでに言えば、先ほどのさくらの意見だが、ソ連はロシアの時代から、追い出した人々の暮らしなんて心配したことはないぞ。
そういえば我が国もテキサスやニューメキシコなどはそうだな。というかほとんどか。だが満州にはつい最近入植したアメリカ人しかいない。大多数が中国人とか満州人だから条件が違いすぎる」
さくら
「とはいえアメリカ人が少なくても併合できなくはありません。アラスカに住んでいたのはエスキモー、ハワイはポリネシア人がメインで、アメリカ国籍を持っていたのは宣教師くらいでした」
ホッブス大佐
「アラスカは買収だから、ちょっと違うかな」
グリーン少佐
「ともかくハワイやアラスカではインディアン戦争のような過激な争いはなかった。要はやりようでしょう」
ホッブス大佐
「なるほど、ハワイを思えば併合もおかしくない。もしかしたらパナマもハワイ方式の方が良かったのかもしれんな」
石原莞爾
「ハワイはしっかりした国家ではありませんでした。だからハワイをアメリカが武力で抑えつけても反抗できなかった。パナマはれっきとした国家であるコロンビアの領土でした。パナマの場合、ちょっとそこまではできなかったでしょう」
ホッブス大佐
「なるほど、それぞれ条件が異なるのだな。
それでドクターは満州を制圧した後、どうすればいいと思うのかね?」
石原莞爾
「アメリカが満州をどうしたいか次第ですね」
ホッブス大佐
「というと?」
石原莞爾
「今後もアメリカの入植者が少数で、軍閥や馬賊からちょっかいされたり抗争のとばっちりとかがなければよいというなら、傀儡政権を立てて治安維持をすれば良いのかという気もします。
そうではなくこれから大々的にアメリカ人を入植して農業だけでなく産業全般を開発していくというのであれば、インディアン戦争と同じようなことをしなければならないでしょう。そこが形態を決める判断基準になるでしょう」
ホッブス大佐
「もっとわかりやすく言ってくれ」
石原莞爾
「満州の面積は110万km2、アメリカで一番大きなアラスカよりは小さいですが、二番目のテキサスの1.6倍の面積です(日本の3倍)。そこに人口は2,500万しかいない(注5)そして地下資源もあります。
この地で近代的な農業をすれば、1億や1億2千万は養えるでしょう。アメリカ人がそのすべて独り占めするのか、この地を満州人と分け合って暮らしていくか、どちらなのかということです」
ホッブス大佐
「なるほど、そもそも事の起こりはそんなに大層なことではなかったのだが・・
遼東半島は我が国の租借地、そして我が国の持ち物である満州鉄道沿いには入植を許されていた。それは我が国と清国との条約で決めている。
だが清国は扶桑国と戦って敗れた後、欧州の国々に植民地とか租借地とか蚕食されて崩壊し、16年前の1912年に中華民国が樹立した。文明国というなら前身である国が結んでいた条約や負債を継承するのが当たり前だ。1901年に袁世凱は清が締結した一切の条約を承認し実施を保証した。しかし新たに成立した中華民国は各国に対して租借地の返還や不平等条約の見直しなどを求めてきている(注6)我が国にも租借地と満州鉄道沿線の利権の返還を求めている。やることが文明国家ではない」
グリーン少佐
「いやいや、問題はもっと直接的で身近なことです。中華民国は正義の顔をして不平等条約解消をいいますが、国内を統治しているわけではない。内戦状況で現実には軍閥や一般住民による抵抗や武力テロも起きている。我々は治安維持、入植者の身命の安全を確保しなければならない」
ホッブス大佐
「元はと言えばすべての原因は中国が内戦状態で国家の体をなしてないからだ」
石原莞爾
「まあ、確かに文明国ではないといえばそうですが、これだけ列強の租借地があり商売も取られていては当然の要求でしょうね。」
ホッブス大佐
「おいおい、ドクターも黄色人種だけど、同胞への思い入れが強すぎるよ」
石原莞爾
「お断りしておきますが、中国人と我々扶桑人はまったく異なる民族で同胞という意識はありません。アメリカ人とフランス人以上に違います。体つきも言葉も宗教も習慣も歴史も違う。
私が言いたいのは、アメリカがイギリスの支配が過酷だからボストン茶会事件は当然で、清国が欧米列強に蚕食されても反対運動をしちゃいかんというのはダブルスタンダードということです。
それに信じないと思いますが、植民地なんてあと30年もしたら皆独立しますよ。そのとき独立国となった人たちが、元宗主国に感謝し宗主国の人たちを尊敬すると思いますか?」
ホッブス大佐
「はあ? 植民地が独立するだって? 冗談を」
石原莞爾
「アメリカはスペインからフィリピンを買い取ったとき、フィリピンの独立を約束していたが、それを反故にしていまだに植民地だ。だけど、世の中は自然の摂理で動いている。水は高きから低きに流れるというのは真実なんです。強い国が弱い国を従えるというのは、それはいっときでしょう。いつか世界中の植民地が独立したとき、元宗主国が悪者にされないような施策をとるのは当然です」
ホッブス大佐
「ドクターはなにを言いたいんだ?」
石原莞爾
「まず歴史の流れを変えることはできないこと。今はまだ15世紀からの大航海時代の論理、つまり強い国が弱い国を植民地にすることが通用しています。だけどもう20世紀です。あと30年もすれば植民地はどんどんと独立するでしょう。そうなることを前提に満州の統治を考えないとなりません」
ホッブス大佐
「ドクター、植民地が独立するという根拠を知りたいね。金もない、武器もない、学問もない植民地は宗主国に対抗できないよ、そうならない可能性の方が多いだろう」
石原莞爾
「欧州大戦(第一次大戦)で黒人は兵士として参戦しました。黒人はアメリカの人口の10%ですが、兵隊の13%を占めました(注7)結果はどうなったかご存じですね。黒人の発言力増加、政治参加、職業進出、これからアメリカを変えていくでしょう。
イギリスではインド人を欧州や中東に連れてきて戦わせました。100万人以上のインド人が参戦し74,000人の戦死者を出しました(注8)アメリカ兵の戦死者は11万7千人ですが、従軍した兵士は470万ですから、比率ではアメリカの3倍も戦死しています。
しかしそれだけ犠牲者を出してもインドは名目だけの自治権しか与えられず、第一次大戦後は独立運動が盛んになりました。そりゃ当然でしょう。
戦争はこれからも起きるでしょう。そのときも黒人や植民地人は招集され、多くの犠牲者を出すでしょうね。その結果 独立を求めるのは否定できません」
ホッブス大佐
「まさか・・・」
さくら
「昔、18世紀以前の戦争は国家の戦争じゃなくて王様の戦争だった。一般農民には関わりなかった。戦争に勝った方に納税をするだけです。しかし19世紀ナポレオンは国民国家を作り上げ、国民を兵士として戦わせた。命を賭けて戦うからには、戦争をするかしないかを決める権利を持つのは当然です。
No Taxation Without Representation(参政権なければ納税なし) という以上に No military service Without Representation(参政権なければ兵役なし) という主張は正当じゃないですか。
満州においてアメリカ人と満州人の参政権や土地の所有権をどうお考えになりますか? 等しく認めるのか? アメリカインディアンのように追い払い放浪者にするのか? でも西部開拓時代のアメリカインディアンの人口は150万くらいでしょう。満州には中国人と満州人が2,500万もいるのよ。虐殺はできないわ」
ホッブス大佐
「それは不遜だぞ。君は私に雇われているんだ」
さくら
「ご冗談を。満州を統治するには、そういうことを考えなければなりません。
傀儡政権を立てて建国したとする。そのときは傀儡政権のトップと取り巻きにお金をばらまき利権をばらまけば手足になるでしょう。しかし年月が経てば、傀儡政府を倒す運動が起き、いつかは倒れるでしょう。
併合するなら原住民というか中国人や満州人をどうするのか? 満州から追放するというのもあります。そうすれば彼らの子孫はいつかこの地に戻ろうと、ユダヤ人のようにしたたかに運動するかもしれません。それに中国本体の政権は常に満州奪還を主張するでしょう。モンゴルは独立したけど中国は奪還しようとしています(注9)
あるいは原住民にアメリカ入植者と同じ権利を与え、平和的に共存するという選択もある。なにしろ1億人が暮らせる土地に2,500万しかいない。2,500万が一億になるのに30年はかかるでしょう。その間に折り合いを付けるような施政をするのです。同化も進むでしょうし」
ホッブス大佐
「ドクター、君も同じ考えだろうか?」
石原莞爾
「事実の認識は同じです。但しさくらは結論をホッブス大佐に投げていますが、私は個人的意見があります。
それは併合してしまうことが一番問題ないかなと・・・そして土地所有とか参政権については同一ルールでなくても良いが、適正な権利を認めるべきでしょう」
ホッブス大佐
「ドクターの結論は分かった。しかし同一の権利を認めるというのは気に入らんな。いやなぜそうしなければならないのか?」
石原莞爾
「世界中の植民地が独立運動をするときに、革命的なことが起きるでしょう。そして虐殺も起きるし難民も発生する。そういう事態を避けソフトランディングしなければならない。民族浄化なんて事態を起こしてはいけません(注10)
グリーン少佐
「民族浄化ってなにかね? 民族を洗濯するの?」
さくら
「耳障りは良いですが、異民族を皆殺しにすることです。欧州戦争の後に民族自決という方向づけがされましたね。聞こえはいいですが、欧州には一つの国にいろいろな民族が住んでいます。フランスにドイツ語を話す人もいるでしょうし、その逆もいます。バルカン半島なんてもうごちゃごちゃです。それをすべて分けるなんて、現実を無視しています。きれいに分かれるよりも、自分と違う人を殺すという可能性が高い」
グリーン少佐
「なるほどな。満州を占領したら、中国人と満州人を国外に追放するか、同じ権利を認めて一緒に暮らすしかないということか」
ホッブス大佐
「同じ権利を認めるといっても、それも難しい。そもそも今までそうだったわけだ。だけど満州鉄道沿線部をアメリカが租借していることに不満があってテロが起き、今では軍閥が堂々と敵対行動をする。我々が対抗措置を取るのもやむを得ない」
石原莞爾
「まあ弱体化した清を欧州列強が蚕食したのが事の始まりですよ。おっと反論される前に言っておきますが、清は元々国内が混乱状態だった。それに付け込まれて租借された。清が悪いとは言えますが、中国人一人一人に責任があるわけじゃない。
我が扶桑国はロシアとの戦争に負けて、中国と朝鮮の利権を失い良かったです」
ホッブス大佐
「それが不思議なのだが・・・扶桑国はなぜ中国と朝鮮の侵略に参加しなかったのか? ロシアとの戦争に負けたと言っても、もう四半世紀も前のことだ。再びレースに参加してもおかしくない。傍目には利益を見逃したマヌケとしか思えない」
石原莞爾
「私が決めたわけではありません。ただ聞いた話ですが、大陸進出をした場合と国内開発に努めた場合を検討した結果、国内開発に努めた方が良いという結論だったと聞きます」
グリーン少佐
「検討ってどんなことをしたのかね?」
石原莞爾
「私やさくらがしている、種々の条件を決めて数学的なシミュレーションした結果だそうです」
グリーン少佐
「我々は開拓精神に富んでいるから未開地があれば文明化(civilization)したくなるんだ」
ホッブス大佐
「マニフェスト・デスティニーだよ(注11)
さくら
「それがお国のテーゼなんでしょうけど、相手の意志を無視していますね。
民族によって文化が違いますからcivilizationといっても一様ではありませんわ」
グリーン少佐
「清は欧州列強が来る前から腐敗して国家として末期だった。過去、中国は3000年以上もの間、腐敗した国を倒して皇帝が代わり、その王朝も腐敗して次の皇帝に斃されるということを何遍も繰り返してきた(注12)そんな歴史が国民にとって幸せとは思えない。彼らの文明よりも我々の文明の方が進んでいると思わないかね」
さくら
「それは確かにそうですね。でも他人の国に攻め込む権利は誰にもありません。それに文化とか国の姿は与えられるものでなく自分たちが作るものでしょう。
もっとも我が扶桑国は2,000年前に建国されて以来、国土は争うまでもなく私たち住民のものでした。過去の内戦は皇帝になろうと争ったのではなく、臣民の第一人者となろうとする争いです。他の国とは大きく違いますね」
ホッブス大佐
「まことに不思議な国だ。欧州列強が植民地にしようとしても逃げ切ってしまったし、のんびりしているかと思えば今やアメリカを凌ぐ技術先進国だ」
石原莞爾
「はあ? 扶桑国が先進国とは思いませんでした」
ホッブス大佐
「昨年ジョーンズ報告書というのがあり、私も読む機会があった。扶桑国は欧米の科学技術も導入したが、国内で開発したのもすごい。
中国と扶桑国の違いはなんだ?」
さくら
「技術というよりも私たちの国そのものが、アメリカ人から見たら異常な国です。だって私の両親その親その親とたどっても、少なくても1300年の間、同じ国民だったのですから。だから隣近所の人もみな遠い親戚か古い知り合い。そういう国ではそれなりの文化になります。マニフェスト・デスティニーなんて言い出して領土拡張しようなんて思いもしませんわ」

うそ800 本日の謎
領土拡張をせずに、己の国土をひたすら開発し生活向上を図ればどうなるのだろう?
オランダ人は植民地戦争で負けたから、干拓して国土を広げた。スウェーデンも対外戦争で負けたから、国内重視に転じた。日本も戦争に負けて海外侵略ができなかった。
初めから神から与えられた国を、ひたすら豊かにしようと努めたらどうなるのか?
他人のものでも豊かな土地があれば、奪った方が費用対効果が大きいと思うのか?

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注1
参考図書(発行年順に記す)
「ハワイ」ジェームズ・ミッチナー、時事通信社、1962
「中国側から見た満州事変 9.18事変史」易 顕石、新時代社、1986
「中国がひた隠す毛沢東の真実」北海閑人、草思社、2005
「英雄の魂」阿部牧郎、祥伝社、2001
「満州事変」島田俊彦、講談社、2010
「満鉄と満州事変 上」アジア経済研究所図書館編、岩波書店、2011
「満鉄と満州事変 下」アジア経済研究所図書館編、岩波書店、2011
「満州事変」緒方貞子、岩波書店、2011
「学校では教えない満州事変」倉山 満、ベストセラーズ、2018
でもさ、こんな駄文ひとつ書くにもこれほど読まないとならないって、アホらしいね。「9.18事変史」なんて500ページで1.5キロもある。とはいえ満州事変に詳しくなりました。_| ̄|○

注2
間もなく作戦開始なのに制圧後の統治制度を考えていないとは大丈夫かとお思いの方、お待ちなせえ〜、
史実の満州事変でも併合するのか傀儡国を作るのかなどは未定だったそうです。とはいえ史実はそもそも政府が計画した戦争じゃない。ですから独断専行で決起した人たちは目の前で起きているテロへ対処を考えていても、満州をどう治めるかまでは考えていなかったようです。石原莞爾は併合を考えていたとする本もありますが、本当なのか定かではありません。

注3
「中国側から見た満州事変 9.18事変史」によると、日本参謀本部が作成した「1931年度情勢判断」(資料によっては1932年とある)という報告書の中で、満州統治の形態として三つ検討したという。
ひとつは国民党中央政府管轄下の親日国家を樹立し張学良を元首とするもの、ひとつは日本に併合するものとあったそうだ。その報告書の原本をたどれず、みっつめが分からない。
 
2/12追加
緒方貞子の「満州事変」の参考文献を見て分かりました。
中国人が書いた本を翻訳したものだからタイトルが違ったのです。それは参謀本部作成ではなく、1931年に関東軍が作成し参謀本部に提出した「状況判断ニ間スル意見」というものでした。
そこでは
 (1)日本の権益の確保
 (2)親日政権の樹立
 (3)軍事占領
としていました。いずれにしても中国の易さんの書いている本はどうも出典の明記がなく信頼性が乏しいです。

注4
歩兵 軍閥とは
中国で清朝が実質的に崩壊した1900年から1930年にかけて、清国の将軍や地方の馬賊の頭が、勢力を集めその頭目となり、それぞれ自分の領土を支配した。軍閥は陸軍だけでなく、空軍や海軍を整備するところもあった。その結果、中国は半分無政府状態となり、それぞれはある程度独立国のような動きをして相互に戦ったり、通貨発行や外交(鉄道の建設交渉など)までするものもいた。時代が下り蒋介石が軍閥をまとめ中央の支配下に入った軍閥は将軍に任じられるようになる。
張作霖は遼東半島出の満州を含む中国東北地方の大手軍閥で、最終的には蒋介石のトップの将軍になった。
パールバックの「大地」には、そんな軍閥の風景が描かれている。現在で考えると国家の支配下に入らない軍事力を持つISISなどテロリストグループのようなものか。

注5
wikiによると満州国の人口は1908年1583万、1932年2928万、1942年4424万とある。

中華民国という国名は袁世凱のときから使われている国名だが、辛亥革命前、革命後、人民共和国成立後の台湾政府など、時代によっていろいろ変遷して同じ体制が継続したのではない。

注7
注8
第一次大戦におけるインド兵の戦死者の正確な数は分からなかった。戦死者は日本のwikiでもアメリカのwikiでも74,000人だが、参戦者数、負傷者数はいろいろである。ともかくものすごい参戦者と犠牲者だったことは間違いない。

注9
辛亥革命後、モンゴル人は中国人の支配を脱して独立する。紆余曲折はあったがほぼソ連支配下にあった。モンゴル独立以降、中国は継続してモンゴルは中国の一部として奪還しようとしてきたが21世紀まで叶わない。

注10
民族浄化(ethnic cleansing)とはユーゴスラヴィア分裂(1991)後の民族間の殺し合いに使われた。語源は第二次大戦の際にやはりセルビア人とクロアチア人の間で生じた民族間虐殺に使われたのが初めと言われる。その後、民族間、宗教間の抗争にも使われるようになった。

注11
マニフェスト・デスティニー(Manifest Destiny)とは1845年にアメリカのコラムニストのジョン・オサリバンが言い出した「アメリカ西部を開拓するのは自分たちアメリカ人の使命である」という意味のスローガンであった。
その後、大統領を始め国民はこのスローガンを唱えインディアン戦争を正当化し、更にメキシコとの戦争、ハワイ併合などの帝国主義的領土拡大と覇権主義を正当化した。
アメリカ人は聖書からの引用だけでなく、みずから神の言葉を創造するほど開拓精神にあふれているのは間違いない。

注12
歴代中国の変遷を理解するには下記を推薦する。まあ殺し合いの連続だ。それは共産主義国家になっても変わることはない。
「読む年表 中国の歴史」岡田英弘、WAC、2012



外資社員様からお便りを頂きました(2019.02.13)
おばQさま
満州に関するアメリカの動き、あの国の本質的な面のお話しになってきましたね。
心理学者 岸田秀によれば、アメリカが日本に原爆を落とし、イラクの核疑惑(後に生物兵器など大量破壊兵器に修正)で戦争をふっかけて結局 証拠も出なかった事でも、全く 恥もせ反省もしないのは、アメリカという国の成り立ちによる国家の性格だと言っています。
加えて、銃による悲惨な事件が起きても、結局 銃を禁止しないのも、根っこは同じで銃によって成り立った国だからそれを未だに捨てられないと言っております。
新大陸で 英国支配に不満をもった人が、「銃をもって独立」 そして銃を以て原住民達の土地を奪い国家が成立した。
日本の原爆投下やイラク戦争の動機などを過ちとして認めると、それよりももっと悪である、「銃による簒奪」という「アメリカの原罪」を認めざるを得ないから、絶対にアメリカは謝らないし、過ちを認めないと書いておりました。
お話しに出てくるアメリカも、同じような意識を持っておりますね。
流石素晴らしい、本質を見据えた上で、お話しを書かれております。
お話しに出てくる扶桑国は、アメリカに大敗北していませんから、植民地に反対できます。
現実世界の日本は、未だに大敗北の後の植民地から、安全保障面でも、国家の立ち位置でも抜け出せていません。
改憲は、植民地の立場からの大きな一歩だと思います。
大きな変革は出来ませんが、少しづつでも変わってゆくのは重要なのだと思います。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
正直言って時代の流れで満州に言及しただけですが、嘘を書くと恐ろしい外資社員様がいますので、関連する論文や書籍はいくつか読んで大きな間違いのないようにと思っております。
いろいろな本を読むたびに、なぜ日本は満州に拘ったのかと疑問です。日本を開拓するとか開発するという発想はなかったのでしょうか?
日露戦争に勝ったとき、大陸進出という発想にからめとられてしまったのでしょうか? どうせなら南樺太とか北千島の開発に頑張れば良かったのではと思います。
それと戦争に負けてから遠洋漁業に励んだわけですが、別に戦争に負けなくても遠洋漁業はできたわけで、そんな発想はなかったのかなと思います。
もちろんその時はその時の価値観とか制約条件があったわけでしょうけど、それは残念です。
大国(といっても定義も意味もいろいろですが)が横暴、まさにジャイアンというのは現実ですね。日本が大国になった方が良いのかというのも考えるところです。トランプでさえ民主党とか共和党の反対派に手足を掴まれて動きようがないところを見ると、プーチンとかシュウキンペーのような独裁者でないと大国の舵取りも難しいですね。
ここ数日、「悪夢のような民主党政権時代」というフレーズでもめていますが、悪夢でなかったと思う人いるんでしょうか?
実は私は安倍さんは間違っていると思うんですよ。「民主党政権は悪夢のようではなく、民主党政権は地獄だった」というべきでしょう。自民党が勝った瞬間、東証株価が急上昇したのを忘れられません。あれがすべてでしょう。

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