異世界審査員150.満州その10

19.02.18

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

「改善は測定(or 計測)から始まる」とよく言われる。現役時代、本社の環境部門にいたとき、工場省エネを担当している同僚がいた。彼が工場に指導に行って何をするかというと、省エネのアイデアとか改善指導などではなかった。彼は工場の機械ごとに電力使用量を測定させた。うろ覚えだが、最初の頃はセンサーから有線でデータを集計していたが、ほどなく無線でデータを集める方法に変った。
とにかくデータを蓄積したら、それを工場の担当者にながめさせるのだそうだ。それで改善になるのかと聞いたら、現実を知ればまともな奴は、問題に気が付き自然と改善するのだと語った。具体的な改善策は外部の者には分からない、あとは放っておいても工場の担当者が勝手に改善していくという。

どうでもいいこと: 情報とデータを混用しているケースが多い。これは明確に異なる。
「データ」とは測定値とか観察した個々の事象であり、「情報」とはデータを目的に合わせて集計や分析をしたものを言う。名簿が盗まれると情報漏洩だが、名刺一枚盗まれても情報漏洩にならない。それは名刺一枚ならデータで、それをリストにすると情報になるらしい。

サムライ 戦争において、いつの時代でも新兵器なるものが出現し、それによって戦闘教義が変わってきた(注1)しかし根本的に戦い方を変えたのはコミュニケーションだろう。伝令や早馬、狼煙や鏡、手旗信号や回光通信、有線電話、無線電話、空からの偵察、レーダー、人工衛星、そういうものが戦いの勝敗を決めてきた。現状だけでなく先行きの予想、例えば雨が降ると見越して桶狭間に攻め入るとかもある。
科学技術においても同じである。他人が発明発見したという情報は、必ずできるということであり、発明発見は加速した。
かように情報が重要なのはITがない過去からである。


中国東部時間   7月23日 4:30
扶桑国時間    7月23日 5:30
アメリカ東部時間 7月22日 15:30
(アメリカで夏時間第二次世界大戦後)
扶桑国の哨戒飛行艇は満州のハルピン上空1万メートルを飛行していた。この飛行機は背負っている円盤の中にある電波探知機で、半径150キロ以内を飛んでいる飛行機ならすべて把握できる。地上は望遠レンズ付きのカメラで撮影している。
とはいえ迷彩された兵士や戦車の発見は骨ではある。赤外線とかいろいろ検討しているがまだ実用的なものはない。現在は同じ場所をわずかな時間をずらして撮影した写真を重ね合わせて、差があるところを色で示す方法だ。数分の差では建物や木々が変化するはずがなく、変化しているのは人か車だけになる(注2)ただ草木で迷彩して隠れている戦車などは、この方法では見つからない。

この飛行機が地上の観察ができるということは、地上からもこの飛行機は十分視認されることだ。5m先を見る視力検査表で、視力2.0の円の直径はで3.6ミリですき間は0.75ミリで、視力0.5の円の直径は14.4ミリですき間は3ミリである。だから翼幅が40mの飛行機が直径12mの円盤を背負って上空10,000メートルを飛んでいれば、視力0.5で認識され、視力2.0の人は機体形状がわかるということだ。
深淵をのぞくものは、深淵からぞかれるのはやむを得ない。

ランドルト環幅40mの飛行機
視力検査0.51万mを飛ぶ幅40mの飛行機

偵察したデータは常時900キロ離れた大連の扶桑国領事館に伝送され、そこでモニターで監視しており、必要なら写真に焼き付けされる。
それをどう使うかは扶桑国政府の御心のままである。

本日の飛行の任務は、チチハルからハルピンの間のソ連軍の偵察である。 満州の地図
国境からチチハルまでの600キロを5日間で進み、チチハル・ハルピンの270キロをなかなか進まない理由は簡単だ。中国側がチチハルより西に兵力を置いていないからだ。ソ連軍が次に向かう大慶市には数千の中国軍がいて、その補強を進めている。
ソ連軍もこれからは今までのように戦わずに進めるわけではない。こちらも後続の部隊の到着を待って編成を見直しているところだ。

観測員
「機長、チチハル方面から飛行機数機が接近中です。国籍マークは見えませんがソ連に間違いないでしょう」
機長
「こちらに気が付いて撃墜しようというわけか。とりあえず手は出すなよ。我が国はまだ中立国だ」

上昇してくる小型機は高度差6000くらいまで上がってきたものの、それ以上は上昇できず飛行艇の下を旋回している(注3)

機長
「ここまでは登って来れないようだ。
おお、下がっていくぞ。酸素ボンベがないと苦しくてたまらんだろう」
観測員
「機長、高射砲を発射しています。だいぶ砲煙があがっています」
機長
「おお、砲弾が爆発した。爆発した高度はどれくらい?」
観測員
「5000ないし6000くらいでしょう」
機長
「信管の時間を調整すると危ないか?」
観測員
「いやいや砲弾の届く高さも6000が限度のようです」
機長
「じゃあ、心配いらんな」

哨戒飛行艇が飛行しながらたくさんの写真を撮影し電送する。飛行艇は8時間後に交代が来るまで、これから東支鉄道沿いにチチハル・ハルピン周辺をすこしずつずらしながら旋回し偵察を続ける。



中国東部時間   7月23日 7:00
扶桑国時間    7月23日 8:00
アメリカ東部時間 7月22日 18:00
アメリカ戦争省の会議室
大統領、国務長官、戦争省長官と協議してきたホッブス大佐が戻ってきた。

ホッブス大佐
「驚いたよ、1時間ほど前に扶桑国大使館から満州の情勢について打ち合わせをしたいという話があった。そして外務省と戦争省の高官と担当者が会合に出て、ソ連軍の配備状況などの写真の提供を受けたという。そして向こうから中国の安全保障のために協議したいと言ってきたという」
石原莞爾
「どういうことでしょう?」
ホッブス大佐
「今言った通りだ。大統領は先のことはともかく、扶桑国で訓練中の空挺部隊に出動を命じた。既に飛び立った」
グリーン少佐
「行き先はハルピンでしたね。何時間かかるものでしょうか?」
ホッブス大佐
「1,500キロ・・・5時間というところだろう。向こうはまだ午前中だからお昼にはハルピンに1,000名配備。同時に大連から汽車で2,000名を派遣する。こちらが着くのは10数時間かかるから向こうの夜になる」
グリーン少佐
「ソ連軍はチチハルに2万ないし3万といいましたね。3000名で大丈夫ですか?」
ホッブス大佐
「明日以降も大連から駐留軍を汽車で移送する。それとドクターの言った通り、対戦車砲と対空火器の供与を受ける。それは扶桑本土から直接ハルピンに空輸するという。それは戦車と飛行機を無力化できるという。
それよりもなによりも扶桑国の偵察機は地上の状況を撮影し、その状況を写真と無線で地上部隊に知らせるという」
グリーン少佐
「護衛のない偵察機を飛ばしていて、ソ連の対空砲火や戦闘機に攻撃されたらどうします?」
ホッブス大佐
「それがだ、高度1万メートルくらいを飛んでいるので、それを攻撃できる兵器は存在しないそうだ。実際に今回提供を受けた写真を撮影した飛行機を、ソ連の戦闘機や高射砲が攻撃したそうだが、まったく届かなかったそうだ。信じられない話だ」
グリーン少佐
「ほう・・・」
石原莞爾
「それで?」
ホッブス大佐
「その会議が終わってから私が大統領と国務長官、戦争省長官にあった。私からドクターの提案した作戦を説明し、了解された。とにかく今日明日午前にかけてハルピンに兵を送り、チチハルとの中間地点に陣地を構築する。
フィリピンから2万の兵士を船で輸送する手配をしている。それとは別に毎日1,000人、都合7,000人を直接ハルピンに空輸する。すべてドクターの作戦通りだ。
駐留軍を含めれば総勢4万。なんとかなるだろう」
石原莞爾
「中華民国とはどうなりますか?」
ホッブス大佐
「それはまだ話がついてない。まあ、目の前にソ連が押し寄せてきているのだから、目的がアメリカの権益保護であっても防波堤になってくれるなら文句は言わないだろう」
石原莞爾
「うまいこと話を付けて権益の拡大を図れませんかね」
ホッブス大佐
「上を見ればきりがないが、半日前のアメリカの入植地を放棄するかという状況から考えれば大幅改善だ」



中国東部時間   7月25日 10:00
扶桑国時間    7月25日 11:00
アメリカ東部時間 7月24日 21:00
満州 大慶から約2キロの地点
東支鉄道沿いに走る道路に直角に、アメリカ軍がブルドーザーで構築した土壁の陣地に対戦車砲を並べ、その間から機関銃がチチハル方面を向けて並んでいる。
だいぶ前からチチハルの方向の地平線上方に土煙があがっている。非舗装の道路を多数の車両が走っているということだ。
地平線は遠いようだがせいぜい4キロ、その上に土煙もうもうということは、戦車はあと何分かで来るだろう。この時代の戦車の時速はせいぜい20km/h以下、となると10分少々か?
戦車砲の射程距離はせいぜい4キロだろう。とするとそろそろ撃ってくるだろうか?

対戦車砲の脇にいる兵士がそう思った時、地平線のはるか上空にたくさんの黒点が見えてきた。爆音も聞こえる。ソ連軍は数百機の飛行機があると聞いていた。見えているだけで30や40はありそうだ。上空から機関銃で撃たれたら逃げようがないなと脇の下に汗が流れる。
ソ連軍の飛行機はエアコーDH9A(注4)というイギリスの爆撃機のコピー生産だと聞く。いくら第一次大戦の中古品といっても、歩兵には手も足も出ない。地べたに這いつくばるしかない。

T18戦車 後ろを振り返ると扶桑国から供与されたという連装機関銃が数基、グルグル旋回して狙いを付けている。あんなんで撃ち落とせるはずがない。逃げた方がいいと思いつつまた前を見るとソ連戦車の土煙が先ほどより近づいている。
習慣というか条件反射というか担当の対戦車砲に飛びつく。今まで37ミリの対戦車砲を担当していたが、昨日急遽扶桑国から供与された、この57ミリ対戦車砲の担当になった。近くの川に降りた飛行艇からいかだに降ろしてトラックでここまで牽引してきた。確かに口径は大きいがどうなんだろう。まともな訓練も受けていないのだが。
遠くで戦車砲から煙が出るのが見えた。距離3キロとして着弾するまで5秒か。心の中でひとつふたつと数えていると、6のときに土壁に砲弾が当たって大きな音と土くれが周りに飛び散った。

「反撃!」小隊長が叫ぶのを聞いて習慣でペダルを踏もうとした。いや、これはペダルではなく引き金で発射するのだ。照準は敵戦車が来るのを見越して、距離と方角が指示されてセットしてある。37ミリ砲よりも衝撃的な音がして驚いた。着弾まで4秒と読んだがそれより短い時間でソ連戦車に命中した。初弾命中なんて初めてだ。
煙が薄れると命中した戦車は砲塔がなくなっていた。直撃したのは自分の砲だけでなかったようでワーと歓声が上がる。うれしい。
相棒が装弾すると次の目標地点に撃つ。こちら側が5斉射もすると敵戦車で動いているものはない。
余裕ができて飛行機を思い出して上空を見ると飛んでいる飛行機はない。どうしたのかと見ると「全機撃墜したよ」と対空機関砲の射手が唖然とした顔をしている。

飛行機の第一波と歩兵の前を走っていた戦車がすべて喪失したのを受けて、ソ連軍は進軍を止め撤退を始める。こちらには射程の長い重砲もなく、対戦車砲の射程を離れたらもう手はない。
昼飯は食べることができそうだ。



中国東部時間   7月25日 12:00
扶桑国時間    7月25日 13:00
アメリカ東部時間 7月24日 23:00
満州 大慶から約2キロの地点
俺は対空機関銃の射手だ。午前中の戦いではソ連の飛行機を二機も撃墜してしまった。今まで聞いた話では、飛行機と地上の機関銃の戦いでは95%が飛行機にやられている。地上の被害ゼロで飛行機が全滅なんて聞いたことがない。
ただ今回は事前にいろいろな指示を受けていた。まずは敵の飛行機が、何機、どの方向から、高度も速度も通知されたこと。各機関銃はそれぞれが担当する空域を指示されていた。だから指定された範囲に飛行機が来たら撃つだけだ。飛んでいる飛行機を追いかけて狙うことは難しいが、定められたところに来たとき撃つだけなら簡単だ。
だけど一体誰が敵機を発見して、連絡してくるのだろう。空から神様が見ているようだ。まあ、俺は隊長が言う通り動けばいい。難しいことを考えることはない。

昼飯を食べて対空機関銃のそばでゴロゴロしていると、「敵機来襲」とスピーカーががなり立てる。
空を見ても見当たらない。ともかく持ち場に着く。小隊長が巡回して来て、地上すれすれに数機が接近しているという。地平線近くを見ると遠くに排気煙が見える。5機か6機か。俺は左端の飛行機をあてがわれた。そして指示された方角、角度で命令を受けるまで待つ。「撃て」と言われると即座に引き金を引き、指示された範囲内は機関銃を旋回させていく。途中で飛行機は煙を吐きそのまま平原に墜ちた。周りを見ると全機撃墜だ。
トラックに兵隊が鈴なりになって落ちた飛行機に駆け付けていく。
「警戒解除」という声がして、また機関銃の日影に入る。冬はとんでもなく寒いと聞くが、7月末の今は35度近い。暑くてたまらない。
2日前のこと、フィリピンから出撃だと言われて大型飛行艇に乗り込んだら、着いたのは中国大陸の北の方だ。3500キロも飛ぶ飛行機があるとは知らなかった。
少しは涼しいかなと思ったら、暑さはフィリビンと変わらなかった。早くフィリビンに戻りたい。



中国東部時間   7月26日  1:00
扶桑国時間    7月26日  2:00
アメリカ東部時間 7月25日 12:00
戦争省 会議室

ホッブス大佐
「おい満州の時間では日中だが、こちらの時間では昨夜遅く我が軍がソ連軍と交戦した。敵は飛行機と戦車を前面に立てて我が軍を攻撃してきた」
グリーン少佐
「うわー、我が軍も戦車を出したんでしょう。でも飛行機かあ〜、こちらにはありませんね」
ホッブス大佐
「我が方は敵戦車数十台を撃破、飛行機を30機撃墜した。我が方の損害皆無だという」
グリーン少佐
「ええええ」
石原莞爾
「それは良かったですね。やはり対戦車砲と対空機関銃は自慢するだけありましたか」
ホッブス大佐
「俺は戦車砲や機関銃のおかげじゃないと思う。偵察機からの情報とそれを受けた指揮の成果だと思う」
石原莞爾
「なるほど、」
ホッブス大佐
「驚いたのは扶桑国の偵察機は24時間滞空しているそうだ。夜間攻撃をかけてきた飛行機も発見し、これも数機撃墜したという」
グリーン少佐
「夜飛んできた飛行機を見つけたとはどんな方法ですか。目のいい偵察員がエンジンの排気炎を見つけたのでしょうか」
ホッブス大佐
「どうなんだろうなあ〜。ともかく大損害を出したソ連軍は、チチハルまで撤退した。そういうのも偵察機がすべて監視している。こちらが進めば国境まで戻るだろう」
石原莞爾
「アムール川の方はどうでしょう?」
ホッブス大佐
「それも上空から監視している。北側国境から東支鉄道沿いまでの道路は整備状況が悪いなどで元々無理だ。もちろん多方面から侵入すれば防衛側が分散するというメリットがある。
ともかく現状ではそう心配はない。もうウラジオストク攻略はないね」
石原莞爾
「元々ソ連は決戦を仕掛けた訳でなく、中国がソ連のスパイを追放したことに腹を立てて侵攻した程度でしょう。大きな犠牲を払ってまで戦うつもりはないでしょうね」
ホッブス大佐
「そう願いたいね。ところで張作霖がアメリカ軍の防衛協力に感謝を言ってきたという。これからどういうふうに話を持っていくか、それを考えないといかんね」
さくら
「それなら租借地とアメリカ入植地の治安維持をアメリカが行うと宣言すればいいじゃないですか。別に併合とか植民地でなくても、治安の維持と入植地の確保という施政権を得れば実質同じでしょう」
ホッブス大佐
「俺もそう考えていた。元々石原君の考えたのは段階的に、アメリカ権益の確保、傀儡政権、植民地、併合だったな。まあ今回第1段階に達したと思えば
午後でも大統領と話してみよう」
石原莞爾
「大佐、結論を出すのは早いですよ。ソ連が手を引くとも限りませんし。
正直言って、もう少しソ連が頑張ってくれるとアメリカの取り分が増えます」
ホッブス大佐
「ぼやを大火にしないで、このまま消したいね」
さくら
「東支鉄道は元々ソ連の財産でした。それをソ連外交官がスパイだとして外交官を追放して没収したわけでしょう。それならアメリカは東支鉄道の所有権を要求したらどうでしょう」
ホッブス大佐
「おいおい、それじゃ中国もソ連も敵にしてしまう」
さくら
「そうでしょうか。中国はアメリカの所有になったほうがソ連の攻撃目標を替わってくれて感謝かもしれません。元々ソ連のものだったのですから中国に損はないでしょう」
ホッブス大佐
「東支鉄道とその沿線の租借権か・・・そうすると何万人くらいが入植できるだろう?」
グリーン少佐
「10万や20万は入植できるでしょう。アメリカで農地を失った農民は250万とも350万とも言われています(注5)それ全部となれば満州を丸ごと取らないとなりません。それは元々無理でしょう。
警察権を持てば、馬賊とか外国人排斥テロを取り締まることはできるでしょう。今までの問題は半減するでしょうね」
ホッブス大佐
「今後のことは後任に任せるとして、今回はそんなところにしておくか」
石原莞爾
「扶桑国には何か分け前を約束したのですか?」
ホッブス大佐
「輸送費用は払う。分け前という意味では何も聞いていない。我々の得たものがハッキリしていないから要求しなかったのかもしれない。ソ連との緩衝地域が確保できれば彼らにはメリットだろう。元々東支鉄道はソ連が持っていて、万が一の時はウラジオストクも危なかったわけだ。
これでソ連が東支鉄道を手放して、我が国が管理することになれば極東における戦争の危険はだいぶ減ったはずだ。それで扶桑国は十分だろう。地上軍を派遣しないというのはそういうことだろうね」
石原莞爾
「なるほど、」
グリーン少佐
「扶桑国が供与したという新兵器はどうなるのですか? 一番気になるのは無線機です。話を聞きましたが、片手で持てる無線電話だそうです。今までは兵隊ひとりが背負って運ぶ無線電信でしたからね」
ホッブス大佐
「それらはすべて返却する。扶桑国が秘密保持のため回収するという」
グリーン少佐
「ええ!そんなあ〜」
ホッブス大佐
「返せと言われたら返すしかない」
グリーン少佐
「もちろん技術者による調査は行ったのでしょう」
ホッブス大佐
「いくら政府とは関わりないといってもドクターもさくらも扶桑国人だから言いにくいが、ほんとのことを言えば技術者を派遣して調べさせた。
対空機関銃も対戦車砲も精度も高く高性能であったが、構造などには革新的なものはなかったと聞いている。
無線機だが、調べようと技術者が筐体を開けたら爆発して3名が死亡した。自爆装置がついているようだ。爆発後 散らばった電子部品を集めたが完璧に破片になっていて調べようがなかったという。ちなみにそのことがあってから、ねじ一本ばらしてはいけないと通知をした。戦闘で戦死者が出ない代わりに事故死が3名だ。それについては内々に扶桑国に謝罪した。問題を大きくしたくない。
そのことで貸与料を払うことになった。まあ、その価値はあったがね」
グリーン少佐
「偵察機はどうですか?」
ホッブス大佐
「奴らもいつも高空を飛んでいるわけじゃない。2000メートルほどを飛行していたとき写真を撮っている。それは分析中だ。機体の上に円盤が付いていると聞く。我が国でその秘密が解析できれば払った金は元が取れるだろう」
グリーン少佐
「ドクターやさくらはそれらについて聞いてないかい?」
さくら
「知ってても話すとは思わないでしょう」
石原莞爾
「技術というものは理論など知らなくても、どういうことができるという情報さえあれば、専門家ならすぐに作ってしまいますよ」
ホッブス大佐
「ワシもそう思う。扶桑国にとって今回我が国を支援したことによって、情報がこちらに漏れたのは大きな損失だろうな」

うそ800 本日の言いたいこと
なにごとも大事なことは、情報収集、平たく言えばよく観察することが大事でしょう。省エネするには電力使用状況を知らねばならず、彼女に好かれるには彼女の趣味を知らないと・・

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注1
戦闘教義とはドクトリンの訳語であり、戦い方の原則とか運用の基本のような意味である。メインの武器が、刀剣、弓矢、小銃によって部隊の構成や配置、戦い方が異なるのは当然だ。ある武器において戦う基本原則をドクトリンという。ビジネスにおいても同じ意味で使われる。
a set of beliefs that form an important part of system of ideas

注2
いろいろ考えたが、画像の差を見つける方法が簡単なように思えた。その用途かどうか、画像の差を検出する専門のソフトがいろいろある。
2枚の画像のdiff(差分)を簡単に調べる方法

注3
B29 第一次大戦時の飛行機の上昇高度は5,000から6,000メートルだった。それ以上になると空気が薄くなりエンジンは不調になるし、操縦士も高山病になってしまう。
第二次大戦でも、B29護衛用のP51の上昇限度が9000m、B29撃墜用の雷電が11,000mを除けば、メッサーシュミットBf108が6,200m、ゼロ戦も6000くらいだった。
ドイツを空襲したB17やB24はB29とは違い、成層圏を飛ばなかったからメッサーシュミットで間に合ったのだ。言い方を変えると、欧州の爆撃でものすごい数の爆撃機が墜とされたから日本の空爆には高空を飛べるB29を使ったわけだ。

注4
Airco DH9Aは複葉の軽爆撃機で、第一次大戦時にイギリスで開発され、その後、ソ連でも生産された。乗員2名、時速180キロ、機関銃と爆弾を200キロ積載できた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Airco_DH.9

注5
ダストボウルと大恐慌によって、農地を捨て都会に流れていった農民がいかほどいたのか正確なことはわからない。ネットには250万とか350万という数字があるが、1930年頃のアメリカ人口は1億1千万くらいだから、実に人口の3%が難民になったことになる。現代において国民の3%が難民になったら社会は崩壊だろう。「怒りの葡萄」に描かれた状況どころではなかったはずだ。まさに想像を絶する。
"Growing Up in Down Times: Children of the Great Depression"
The Great Depression Hits Farms and Cities in the 1930s

* ダストボウルとは1930年代にアメリカ中西部の平原に発生した砂嵐である。乾燥気候と草地を耕して農地にしたために発生した。
小説「怒りの葡萄」では大規模資本主義農業や大恐慌の責任を追及しているが、現実には乾燥地で不適切な農業による持続不可能なことによって工作不可能になったと言える。アメリカ人は環境を無視した開墾の結果を大きな被害を受けたから、環境保護を実感しているのかもしれない。



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