異世界審査員152.人工衛星その1

19.02.25

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

世界最初の人工衛星はいつかというと、1957年にソ連が打ち上げたスプートニク1号である。私の世代なら人工衛星が飛んだ時を覚えている。その日から小学校の絵に人工衛星が描かれるのが多くなった。

スプートニク1号
世界最初の人工衛星は図のように、直径58センチの丸い本体とアンテナ4本からなっていた。
どっちを前にして飛んでいたのか分からない。当時は姿勢制御なんてなかったのかもしれない。
私が人工衛星や月旅行が実現した時代に生まれて幸運だったということはない。最初の人工衛星は科学者たちが知的好奇心とか人類の夢を実現するために作ったものではなかった。それはすべてソ連とアメリカの冷戦状態において、国威高揚とか敵国の偵察、そして攻撃のための研究開発だった。
そもそも液体燃料の最初の実用的ロケットはナチスドイツのV2であるが、それを作ったフォン・ブラウンは弾道ミサイルでなく、本当は人工衛星を打ち上げたかったなんて書いてあったのを読んだことがあるが、本音かどうかは分からない。
そしてまた液体燃料のロケットエンジンの最初の用途は、アメリカ海軍の艦載機を短距離の滑走で発艦させるための補助ロケットだった。
ともかく人工衛星やロケットに限らず、すべてのものは戦争遂行、戦争に勝つために開発された。うれしくないがそれが現実である。
人工衛星のアイデアはかなり前からあった。ニュートン力学さえ分かれば、実現できるかどうかはともかく、人工衛星のアイデアまで一直線だ。19世紀半ば以降になると人工的に月(衛星)を作るという小説はいくつも書かれた。小説の中の人工衛星の目的は、探検もあり観光もあり偵察もあり、その他もろもろである。実用的で革新的な用途を考えた人もいる。アーサー・C・クラークは通信衛星の特許を取っていたらと悔しがっていた(注1)

日本の最初の人工衛星は1970年の「おおすみ」である。日本が人工衛星を打ち上げて僅か2か月後に中国が打ち上げた。正直言って、タッチの差で世界第4位になって良かった。
ちなみに今では主な国はみな人工衛星を自力で打ち上げている。2018年にはイラン、韓国、ニュージーランドが人工衛星を打ち上げ「宇宙クラブ」の仲間入りをした。2019年現在、たぶん14か国か15か国だろう。どんどん増えるから定かではない。


1928年11月
政策研究所である。
今日は珍しい客が伊丹を訪ねていた。南洋で病院を営む島村医師である。彼も21世紀の日本から来て、扶桑国に住み着いた一人である。

伊丹
「お久しぶりです。南洋にお住まいになって何年になりますか?」
島村医師
「関東大震災の翌年1924年ですから4年半になります」
伊丹
「島村先生の活躍は聞いております。水道、下水道、ゴミ処理、おかげで病気が半減したそうですね」
島村医師
「南洋は島嶼ですから水不足そして暑さで腐敗が速い、どうしても不衛生になりがちです。上下水道の整備により衛生状況は大幅に改善されました。もちろんアイデアは私ですが、ものづくりと制度作りはこの研究所のおかげですよ」
伊丹
「奥様は現地の方と聞いております。一緒に本土観光とかされたのですか?」
島村医師
島村医師の嫁さん
島村医師の嫁さん
「私も身内がこちらにいるわけではなく、故郷もありません。仕事でこちらに来ても大学での講義と手術だけで、本土観光はしたことはありません。もっとも今 家内は子供の相手で大変です」
伊丹
「お子さんは何人?」
島村医師
「双子とお腹の中に一人です。双子はまだ3歳ですが、家内はけっこう英才教育をしているのです」
伊丹
「ほう!どのような?」
島村医師
「水泳、釣り、弓と槍による狩猟、サバイバル、チャモロ語、家事といったことを日常教えてます。
あと2年もしたら、私に数学、国語、英語、ドイツ語を教えろと言ってます。小学生になったら本土の学校かアメリカに留学させる気ですよ」
伊丹
「それは楽しみですね。大きくなったら医者にするのですか?」
島村医師
「いえいえ、私はなにも考えていません。家内は父親の後を継いで島の酋長にしたいらしい。現地の代表になってほしいそうです」
伊丹
「なるほど、私がその時まで生きていればご子息の活躍を見に行きたいですね」
島村医師
「いや二人とも女の子なんです。三人目はまだ不明ですが。
実は重要な話があって来ました。中野さんを呼んでいただけないでしょうか?」
伊丹
「承知しました。ついでといってはなんですが、さくらと家内も同席してよろしいですか」

島村はさくらと幸子と関東大震災のときからの知り合いである。
中野、幸子、さくらを集めた。さくらは帰国してから毎日研究所に来ているのだ。

島村医師
「こちらに来る数日前、島の住人達から新しい星が現れたという話が来たのです」
中野
「新しい星とは?」
島村医師
「真南から真北に移動しています。地平近くの時は見えにくいですが、頭上に来るとよく見えます。動く速さは10度を3分弱で通過します」
幸子
「普通の人工衛星は横に回るけど縦に回るのね(注2)
さくら
「おばさま、縦に回るのは極衛星というのよ。10度を3分なら周期が100分ですか」
島村医師
「私もそう思いました。しかしこの時代に人工衛星が存在するわけありません」
中野
「世界で一番科学技術が進んでいるのはアメリカかね?」
幸子
「アメリカが科学技術で世界一となったのは第二次大戦からで、ユダヤ人を始め欧州の科学者が亡命や移住したからでしょう(注3)現在はイギリスかドイツ、ひょっとしたら我が国かもしれないです」
中野
「我が国が人工衛星を打ち上げてないのは自明だから、そうするとイギリスかドイツか?」
さくら
「その星は毎日見えるのですか?」
島村医師
「周回ごとに少しずつずれていきますね。ええと太陽同期軌道というのではなく、単なる極衛星で地球を公転するたびに少しずつずれていくと思われます」
さくら
「ということは島の上空を通過したとき気付いたということね」
島村医師
「いや、小舟で海に出ていた漁師が気が付きました」
中野
「島村さん話は分かった。伊丹さん、どのような対応を取ればいいのか?」
伊丹
「まず打ち上げた国を特定し、その目的を知りたいですね。可能なら使わせてもらうとか」
幸子
「あなた、どんな方法で調べるの? まさか列強の大使館に問い合わせるとか」
伊丹
「普通に考えて画期的な発明発見をすれば、国威高揚・示威のために大々的に公表するはずだ。人工衛星なんて科学技術が進んでいることを示し国威高揚に最たるものだ。まして誰にでも見えるから宣伝効果も高い。
それを公表しないというのは秘密にしたいということ。問い合わせても答えるわけがない。」
幸子
「というと?」
伊丹
「情報収集したものを電波で地上に送信しているだろう。だから頭上を通るときどんな周波数が使われているかを把握して、それを分析することになる」
中野
「それは南洋まで行かずとも、ここでも電波をキャッチできるんだね?」
伊丹
「はい、ただ都会は夜も照明で明るいので、頭上を飛んでいるかどうかは分かりにくいですね。そして頭上にいるかどうかわからないと電波を探すわけにもいかない」
中野
「電波を受信して分析するのは伊丹さんに頼めば実行可能ですか?」
伊丹
「昔なら喜んでといいたいですが、もう電子回路なんて30年も携わっておりません。吉沢さんが対応できるなら彼に頼んだ方が早いですね。いずれにしても人工衛星の電波の周波数も変調も分かりませんから、解読できるまで時間がかかるでしょう。
島村先生、その星を島で見たのは何日の何時頃でしょう?」
島村医師
「今夜あたりこの上空を通るはずです」
中野
「それじゃ今夜皆で星空でも見に行きますか。都内ではあまり星が見えないから、どこがいいですかね?」
伊丹
「習志野の演習場あたりはどうでしょう。車で1時間もかかりませんし」
中野
「それじゃ吉沢さんも呼んでほしい」
伊丹
「見るだけではなんでしょうから、受信機を持ってきてもらいましょう」


夜7時、ここは千葉県の習志野演習場、真っ暗な草原である。幸い今夜は天頂に雲はなく、満天の星である。ただ11月で結構寒い。
ススキ
千葉県西部に広がる原野は水の便が悪く古代から農地にできず、江戸時代は幕府の軍馬を育てる放牧場であった。明治の初めに開墾が試みられたがうまくいかず、陸軍の演習場として使われていた。日本の世界では第二次大戦後に開墾され農地にしたものの、ほどなく都市化が進んだ。最後に残ったのが現在の陸上自衛隊習志野演習場である。
この世界ではまだ開拓が行われず、差し渡し数十キロの広大な原野で演習場に使われている。
なお、習志野演習場といっても習志野市にあるのではない。船橋市と八千代市にまたがっている。そもそも習志野と呼ばれた地は、今も昔も船橋市である。習志野市は名前を簒奪したのであって、習志野とは縁もゆかりもない。習志野市には習志野が付く駅がひとつ新習志野駅があるが、これも習志野とは関係ないどころか、1960年代の埋め立て地だ。地元のことになると熱くなっていけない。

* 簒奪(さんだつ)とは、君主や貴族などの継承資格が無い者が、地位を掠め取ること。 習志野と無関係な町が習志野市を名乗るとは、悪どい消火器販売業者が「消防署の方から来ました」というようなものだ。怒

キャンプ用のイスとテーブルがいくつか置いてあり、10人近くの人たちが座っている。その周りに10名ほどの人たちが立って空を見上げている。

中野
「焚火もないと寒いし、少し寂しいなあ〜」
幸子
「その代わり軽食と飲み物を持ってきましたわ。中野様は日本酒ですかワインですか」
中野
「日本酒をお願いします」
島村医師
「いやはや、みなさん優雅ですね。あっ、私も日本酒で」
さくら
「ちょっとちょっと、しっかり見張ってくださいよ」
中野
お酒 「大丈夫、周りには見張りの専門家がいるんだ。おい、何かあったら声を出してくれよ。酒と料理の残りはみんなが持ち帰っていいから」

周囲で空を見上げている10名ほどの兵隊から、一斉に「はい」という返事が返ってくる。

島村医師
「動きが早いこと、結構明るいことからすぐに見つかると思いますよ」
さくら
「南洋では気が付いて、本土では気が付いていないというのは、やはり夜が明るいからですか?」
島村医師
「それもありますが、向こうの人たちは、本を読まないし遠くを見る生活ですから視力が良いですよ。それに一旦小舟で海に出ると夜は星を見て自分の位置を確認するのが生き死にに関りますから真剣です。
こちらでは夜空を見てきれいだと思っても、長い時間星を眺めて、自分の位置や方角を知ろうとはしないでしょう」
兵士
「真南の方角、地上から60度のあたりそれらしきものが見えます。真南から真北に動いています」

皆ゾロゾロと彼の周りに集まり指さす方を眺める。一見なんの変哲もない星空だが、数分見ていると明るい星が少しずつ動いているのが分かる。

さくら
「うわー、教えてもらわなくちゃわからないわ」
中野
「なるほど、存在を分かっていないと気が付くような代物じゃないな」
兵士
「概略ですが視野角10度を3分弱で移動しました」
吉沢教授

「10度3分なら360度が108分、地球一回り108分ですか」

吉沢が計算尺を動かしていう。吉沢は額にヘッドライトを付けている。

中野
「おーい、なにか電波信号は入ってないか?」

真っ暗な中、数人が草むらにしゃがんでいろいろな機械をいじっている。

技術者
「バリバリ入ってます。10メガから500メガまでスイープしましたが、130メガと430メガあたりで4つか5つ信号を出しています」
伊丹
「うろ覚えですが、向こうの世界では衛星と地上の通信には144M、430M、2000Mと2200Mが使われていたはずです 」
技術者
「2000ですって、そんな高い周波数の受信はとても無理です。今は800Mを発信させようと検討しているところです」
吉沢教授
「伊丹さん、ここは500M以下だけ対象にするということでどうですか。できないものはできません。しかしほんの数年前まではこんな高い周波数なんて想像もできませんでしたね。
オイ、信号は記録しているか?」
技術者
「ハイ、大丈夫です」
中野
「ここに来たのは自分の目で見たかったからだが、電波は東京でも受信できるのだろう?」
吉沢教授
「できるはずですが、いつ上空を通過するかは分かりません。まあ、今回を基準に周回時間と毎回の経度のずれを計算すれば見当は付きますが。もちろん日中に上空を通過するときもありますね。そのとき目には見えなくても電波を捕らえるのはできます」
兵士
「地上から45度の角度で目視できなくなりました」
中野
「発見したときから75度の範囲を移動するのに21分か、80分後に又見られるわけだ」
技術者
「電波が切れました。指向性が強いのか、それとも関東上空でだけ電波を出しているのか」
中野
「ということは誰が打ち上げたかは分からないが、衛星からの信号はここに住んでいる人が受信しているということか?」
さくら
「突飛な考えですが、もしかするとあのカンナさんたちじゃありませんか」
中野
「うーむ、彼らが人工衛星を打ち上げたか、あるいは100年後の世界から人工衛星をこの世界に転送したということか。
しかし、その目的はなんだろう?」
さくら
「単純にこの世界を観察するためかもしれません。あるいは私たちが歴史通り動いているのを確認するためとか」
中野
「冗談と思えないのが怖いね」
吉沢教授
「人工衛星が戻ってくるのをもう一度確認するのでしょう」
中野
「よし、じゃあもう一回見物してから帰ることにしよう」
伊丹
「吉沢さん、お宅で数名この調査に人をかけてください。とりあえずは電波の受信、そしてその電波信号の解読です」
吉沢教授
「ええー、そんな雲をつかむような・・・・・」
伊丹
「確かに雲をつかむような話ですが・・・でも向こうから持ってきた資料を基に復調しようとすればできるはずです。
変調方式も一般的な振幅とか周波数じゃなくて、デジタルで時分割とかでしょう。それから復調しても画像や動画のファイル形式はいくつかありますから、どのファイル形式なのかを究明しなければなりません」
吉沢教授
「伊丹さん、頼りにしてますよ。私たちだけでは手に負えません」
中野
「人工衛星の信号を手に入れて終わりでなく、いろいろあるのだな」
さくら
「お養父さま、私の直感ですが、やはりカンナさんしか思い当たりません。そして彼女は我々が気付くと、いや気付かせようとしているに違いありません。
となると解読方法は分かりやすいものであるはずです。あるいはヒントをなにかで伝えているかもしれません」
中野
「人工衛星を使うことも歴史に盛り込んであるというのか?」
さくら
「もし人工衛星を自分たちだけのために使うのであれば、絶対に見つからないようにしたはずです。見つかるようにしていたというのは私たちに利用させるためだと思います。だって私たちが人工衛星を利用したことは歴史に残るはずだから」

最後の言葉は誰にも聞こえなかった。



習志野演習場で人工衛星を見てから3週間が過ぎた。信号の変調方式はさくらが言ったように、向こうの世界から持ってきた書物に載っていた通りだった。ただ信号が10いくつあったが、今ある受信機で満足に受信できたのは二つで、いずれも地表の写真だった。
また吉沢の部下は南洋のパラオまで行って電波を捕らえようとしたが、上空を通過する人工衛星は電波は発信していなかった。ということは本土上空でのみ電波を地上に送っていることになる。

ここは政策研究所、今日は皇帝陛下のお庭番の岩屋も出席している。
机の上には数十枚の写真をプリントしたものがある。

中野
「おいおい、すごいものだ。地上の写真が天然色だ。これで世界中の国の基地とか軍隊の配置とかが分かる」
伊丹
「ただ、この衛星がいつまでも使えるとは限りません」
中野
「というと?」
伊丹
「あまりこれに頼り切ってはいけません。衛星写真は参考に留めるとか、我々独自の衛星開発をするとか」
中野
「なるほどな、いつ消えるか分からないと」
岩屋
「この衛星は世界中で視認できるわけで、気が付いた人は何物であるかを調べるでしょうね」
吉沢教授
「確かに、そして人工衛星と分かれば信号を読み取ろうとするでしょう」
伊丹
「どうでしょう。今の時代、あれを人工衛星と考えることはないでしょう。科学者なら、小さな石ころが地球の引力につかまったと理解するのではないでしょうか。そうでない一般人なら、天災の前触れとか神様のお告げと思うんじゃないですか」
中野
「天文台の望遠鏡ならどれくらいに見えるんだ?」
伊丹
「大きな望遠鏡といっても口径が1m程度ですね。倍率は300倍とか400倍でしょう。
周期が100分の人工衛星なら高さは約1000キロ(注5)このとき300倍の望遠鏡で見れば30キロ先にある1mの物体をみているのと同じです。丸い物体に見えるのがやっとでしょう」
吉沢教授
「そもそも我々が作ったのではないから、心配してもしょうがない」
中野
「アハハハハ、そりゃそうだ。
ところでこの活用方法だが、伊丹さん考えてくれたか?」
伊丹
「ハイ、電波は何系統もありいろいろな情報があると思うのですが、今までで解読できたのは地上を撮影した静止画像だけです。とはいえこれは軍事でも民間でもものすごい情報です」
岩屋
「敵国いや仮想敵国を上空からのぞくってのは合法的な手段はありません。それができるのはお金には換算できませんな。
しかし軍事は分かるが、民間でというとどんなこと?」
伊丹
「道路状況、建設しているとか破損しているとかが分かります。鉄道線路などは細かいことは地図に載せないのが普通ですが、もう丸見えです。
それと農作物の出来具合、凶作とか飢饉など一目瞭然です。まだわかりませんが降水量なども把握していると思います。そういう情報が取れれば収穫期の農作物の出来不出来も分かります。農産物の値段が予想できれば経済戦略にものすごい力になります」
さくら
「それだけでなく天災の被害なども丸わかりです。地震、山火事、台風、」
岩屋
「なるほど、いろいろなことが分かるか・・・スパイの半分はいらなくなる」
さくら
「おじさま、あの人工衛星が写真を撮るのは幅30キロとしても、地球表面をひと通り写真を撮るのに3カ月かかるのよ。そんなに頼りにならないわ」
岩屋
「なるほど、そんなものか。なんとかならないのかね」
伊丹
「自分が作ったものなら必要なときには人工衛星を動かしたり撮影場所を指定できるでしょうけど、人のものですから方法がありません。」
中野
「他の国に人工衛星の秘密が漏れるということではないのか?」
伊丹
「それはありますね。あれに気づけば東京に所在する外国の大使館で人工衛星の電波を受信することは可能でしょう」
中野
「ともかく情報は管理しよう。写真だけでもそれ以外にどんな用途が考えられるのか」
吉沢教授
「天気予報ができれば船や飛行機の航行は安全になりますね」
さくら
「でも天候は刻々と動きますから、撮影間隔が長いと天気予報になりませんね。台風予想くらいにはなるでしょうけど」
中野
「どうすればいいのかな?」
さくら
「静止衛星といって地球の自転と同じ速度で回る人工衛星ならいつも赤道の同じところにありますから気象観測ができます」
伊丹
「今できることとしては、毎日送られてくる写真をチェックして異常を発見する部門が欲しいですね。日々写真を見ていると新しい用途も見えてくるでしょう」
吉沢教授
「とはいえあまりにも膨大なデータ量ですから、知りたいものを探すのが大変な仕事量です」
中野
「衛星写真を分析する部署を作ることにしよう。もっともそれは完全に定型業務だから研究所ではなく軍の諜報部門だな」
岩屋
「吉沢さんのところで電波受信から画像印刷までできるなら、一か所にまとめた方がいい。関わる人や場所が増えると情報漏洩が起きやすい。
それから大量の印刷物がでるでしょうけど、廃棄する際にはバレないよう焼却が必要だ」
吉沢教授
「大量に紙を使うことは問題につながりますから、可能な限りブラウン管表示器で行うことにします。二つの画像比較は紙にするまでもありません」
中野
「伊丹さん、吉沢さん、話を戻しますが、航空写真だけではなにか物足りない。もっと有効活用できる情報を見つけてほしい」

うそ800 本日気が付いたこと
ロケットというとフォン・ブラウンが頭に浮かぶと思う。しかし時代を先取りして無理解と批判にさらされても頑張って研究・実験を重ねたゴダートが真打だ。
と言いつつ、確認のためにロバート・ゴダートと打ち込んで調べたら、ゴダードだった。私は60年間、名前を間違えて覚えていた。恐ろしいのは勘違いである。
ゴダードのロケット
ゴダードはたくさんのロケットを作り実験した。初期のものは枠組みとエンジンしかない。後にいわゆるロケットの形になってくる。
左図のものは高さは約3.5m、赤く染めた部分は発射台で、飛翔するロケット本体はグリーンに染めた部分だけである。初期のものは液体酸素と液体燃料のタンクそして燃焼室(エンジン)しかない。


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注1
「未来のプロフィル」アーサー・C・クラーク、早川書房、1973

注2
人工衛星の軌道は地球の重力と力学で決まるから、自動車や飛行機のように自由に飛ぶことはできない。
人工衛星の代表的な軌道

注3
ノーベル賞が設けられた1901年〜1945年までのアメリカのノーベル賞受賞者は13%であるが、2001〜2017年までは51%を占める。
ノーベル賞(自然科学分野)の国別ランキング

注4
注5
人工衛星の高さと周期の関係は
 V=(398600/6378+H))^1/2
 T=2π(パイ)*(6378+H)/V
   T:周期(秒)
   H:高さ(km)
   V:速度(km/s)
   398600(km^3/s^2)は地球の重力定数
   6378kmは地球の半径


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