異世界審査員154.人工衛星その2

19.03.04

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

第二次世界大戦直前にスペイン内戦(スペイン戦争とも)があった。知らない人も多いだろう。実を言って私は中学と高校で習った覚えがない。私は小中高で習ったことは70になった今でもほとんど記憶している。それは自慢するほどのことではなく、習わないことは知らないということでもある。
ちなみに今の中学の歴史教科書を見ても、スペイン内戦についての記載がない(注1)日本ではスペイン内戦を重要なできごとと認識していないようだ。
昔の文学少女や文学少年は「誰がために鐘は鳴る」とか「ちょっとピンぼけ」なんて読んでいたから、学校で習わなくてもスペイン内戦とか義勇兵とか知っていた。ついでにロマンスも。だが、今時はどうだろうか。高校生読書ランキングを見るとヘミングウェイもロバート・キャパも過去の人になったようだ(注2)まっ、とうに亡くなっているから当たり前か。
ピカソのゲルニカも有名だが、その元になった空爆もドレスデンとかヒロシマの前には霞んでしまう(注3)

スペイン内戦とは何だろう?
事典を見ると、だいたい下記のようなサラッとした記述である。

1931年王政が倒れ人民戦線派が政権をとっていたが、1936年フランコ将軍が保守派を集めて人民戦線政権に対しておこした内乱。
フランコ側はファシズムのドイツ・イタリアから武器・兵員の援助を受け、人民戦線側はソ連や世界各地から支援を受け義勇軍(実質は外国の正規軍)の派遣も受けた。
イギリス・フランスは中立の立場を取った。しかし両派の共倒れを狙って双方に支援した。
最終的にフランコ軍が勝利し、それ以降40年に及ぶフランコ独裁政権が生また。

この駄文を書く前にいくつか資料を見たが、スペインの人民戦線といっても共産主義から中道までいるし、人民戦線内部で共産主義と社会主義の武力抗争も多発した。同様に保守派といっても階級の違い、地域の違いによる利害の衝突などによる戦闘もあり、百科事典にあるような簡単な話ではない。諸派の違いも愛憎も私の理解を超える。
ネットや書籍では作者によってソ連寄り、フランコ寄りがはっきりしていて面白い。しかし私のような浅学の者にはどちらの見解がまっとうなのか見当もつかない。複雑怪奇であるとしか言えない。

現代の戦争では戦車も飛行機も必要だが、スペインは武器生産国ではない。第一次大戦後10数年が経過して兵器はどんどん進歩して、スペイン内戦はそれらの実験場と化した。ドイツもソ連もイタリアも、飛行機や戦車それらを動かす兵士を送りこんだ。その見返りは十分に得たと思われる。特にドイツは電撃戦戦術を試行し第二次世界に反映した。

スペイン内戦で使われた主たる新兵器
人民戦線(ソ連が支援)国民戦線(ドイツが支援)
戦車T-26
BT-5
T-26⇒
U号戦車
U号戦車
戦術諸兵科連合部隊戦術電撃戦戦術
海戦はなかった。
飛行機と船の戦いがあった。
戦艦ドイッチランド派遣
戦闘機
I-16

I-15
I-16⇒
Bf109
Bf109
爆撃機 SB2爆撃機
SB2爆撃機
He111爆撃機
He111爆撃機

スペイン内戦より遅い1939年5月、日本とソ連は満州とモンゴルの国境のノモンハンにおいて陸空の大規模な戦いをしている。こちらもその時点の最新兵器を使った戦争を体験したわけだが、規模的に総力戦ではなく現地の兵力だけの戦いであり、かつその期間もわずか4カ月だ。
その意味で満3年に渡るスペイン内戦では、ドイツもソ連も飛行機・戦車を始めとする新兵器と新戦術のトライアルを行うことができたことは意義が大きかった。そしてドイツはその結果を活用した。


1929年1月
誰が打ち上げたのか不明のままだが扶桑国が人工衛星を発見して以降、吉沢教授はその信号解読に努めた。ひとつは受信した信号をカットアンドトライでデジタル信号の復調を試みることと、もうひとつは21世紀の日本から持ち込んだ技術資料から参考になるものを探すことである。
結果として日本から来た資料に変調復調を書いた論文が見つかり、簡単に解決した。不思議なことは一度徹底的に探しが見つからず、もう一度探せと言われて探すとすぐに見つかった。そのとき最初調べたのは誰だと険悪な雰囲気になったが、吉沢が誰にでもミスはあるとなだめて終わった。
実はその数日前に人工衛星からの電波の変調方法についての技術資料を幸子が持ち込んでいなかったことに気づいたカンナが、手持ちの資料を資料室に運んでおいたのだ。もし資料室に監視カメラなどあれば大変な騒ぎになったのだろうが、1920年代はそこまでセキュリティは厳しくなかった。

人工衛星からの信号がすべて解読できるようになると、ものすごい情報が得られることが分かった。地上の静止画だけでなく、地球の気象、降水量、地震や火山の状況など
データ分析は最初20名くらいだったが、すぐに200名ほどの部署に拡大された。更に1000名規模にしようという話も出ている。それだけの価値があるというわけだ。
なにせ静止画から得られる情報だけでもスパイ数百人の価値があり、農作物の作況は貿易や先物相場などのビジネスにおいて計り知れない効果が出ている。天気予報についても日々の天気はむずかしいが、台風の発生とか進路の予報など実用上十分な効果が出ている。


1929年2月
皇帝執務室
ご進講を受ける側には皇帝、犬養首相、高橋蔵相が座り、報告者側には中野、伊丹、幸子、岩屋、吉沢、そしてさくらがいる。立場からすれば吉沢やさくらが出る場ではないが、中野がいいからいいからという。

中野
「人工衛星発見からこれまでの利用状況を報告します」
皇帝
「畏まるのはいいから、面白い話をしてくれよ」
岩屋
「まず地上の静止画ですが、非常に鮮明で地上にいる男女の性別はもちろん、手に持っているものが何かまでわかります。以前持っている書類の文字が読めるという話がありましたが、さすがにそこまでは無理でした。
ただその一方、それだけ膨大なデータ量となりますので、すべてを監視するのは無理な話です。軍事施設とか特殊な工場などを重点的に見ることにしております。各国が広報している以上の軍事施設や工廠(兵器工場)があるのがわかりました」
皇帝
「人工衛星に頼りすぎ、従来からの情報収集活動を疎かにするなよ」
岩屋
「心得ております」
吉沢教授
「どういう仕組みなのか分かりませんが、地上の温度・湿度なども測定しております。それらの気象情報から世界各地の農産物の作況が把握できます」
犬養首相
「ほう、それでは明日の天気は分かるのか?(注4) 天気予報というのはもう50年も前から出ているが、あまりあてにならんな」
吉沢教授
「人口衛星は少しずつずれて世界上空を巡回していきますので、同じ上空を通過するまで3か月かかります。ですから日々の天気予報は無理です。天気予報のためには自分たちで人工衛星を上げられないとだめです」
皇帝
「おいおい、それは先ほどの岩屋の報告も同じことになるのだな。つまりどこかの国が軍事行動を起こしても、それに気が付くのは3か月後というわけか?」
中野
「3か月で一回りですからそれは最長の場合でして、今日通過したところは今日分かるわけです」
皇帝
「だが変化が分かるには3月要するということは変わらん」
中野
「仰る通りです」
皇帝
「ということは、岩屋、あまり人工衛星が使えるからと慢心してはいかん。
良い話を聞くと安心してしまうが、そういう限界をはっきりさせておいてくれよ。君たちの意見が国の運営に大きな影響を与えるからね。
外務省からの報告ではスペインがきな臭いというが、どうなんだ?」
中野
「日本の世界ではスペイン内戦と呼ばれる戦争は1936年に起きています。我々の世界は向こうとは若干時代がずれているようで、大恐慌が1929年だったのが1927年で2年先行、満州事変が3年先行、スペイン内戦も何年か早くなるにしても1931年か32年頃かと考えます」
岩屋
「年代ではなく、政治状況から見ますと、スペインで帝政が倒れたのが1931年、その後の社会主義政権を倒そうと革命が起きたのが1936年で5年の差があります。こちらの世界で帝政が倒れたのが1924年、同じく5年後とすると今年にもクーデターが起きておかしくありません」
幸子
「向こうの世界とこちらの世界は似ているけど別物です。向こうの歴史を参考にできると思い込みしてはいけません」
皇帝
「わしも同意だ。向こうの世界の歴史に囚われてはいけない。この世界のスペインの状況を基に考えるべきだ。そのためには現地大使館や報道そして諜報機関の情報を基に考えてくれよ」
犬養首相
「初めてお話を伺いましたが恐るべきことですな。それほどまでに諸国の状況が分かるとは。しかし陛下、外国も同じことをしてれば我が国の状況も丸裸でございますね」
皇帝
「人工衛星が他にも飛んでいるかどうかわかるか?」
中野
「天文台に捜査を指示しておりますが、まだ発見されたものはありません。正直言って発見できたら奇跡でしょうね」
伊丹
「そもそも南洋の漁民が夜 星空を見て人工衛星を見つけたわけです。それで南洋庁経由で、その人々にほかにもあるかどうか捜索を依頼しております。三月経ちますが、今のところ見つけておりません。
ただ我々が見つけた人工衛星を他国も見つけて利用している可能性はあります」
皇帝
「うーむ、他に人工衛星があるかどうかと、他国が我々の見つけた人工衛星を見つけたかどうか調べることはできないか……
話を戻すが、スペイン内戦が起きた場合、どのようなことが考えられるか?」
さくら
「発言をお許しください」
皇帝
「許す」
さくら
「陛下は向こうの世界に囚われるなと仰いますが、出来事というのは相互に関連しています。スペインがきな臭くなった原因は他にも影響し、スペイン内戦は他にも影響します」
皇帝
「言いたいことはなんだ?」
さくら
「東アジアではノモンハン事件がスペイン内戦と同じ時期に起きるでしょう。ノモンハン事件が起きれば、中国と満州の境でも紛争が起きるでしょう。
戦争は常に不況や食料難などがトリガーになります。現に世界恐慌真っ只中ですが、これから異常気象になる結果、欧州で戦争になります。我が国でも東北地方に冷害が起き飢饉になるでしょう」
皇帝
「それはさくらの想像だろう」
さくら
「そうかもしれませんが、そうでないかもしれません。歴史家は既に起きたことを後付けで説明しますが、私は起きる前に何が起きるか説明する理屈を考えています。今までのところ外れはありません」
皇帝
「ほう、戦争がいつ始まるか分かるのか?」
さくら
「戦争はストレスが蓄積され、それを開放するトリガーがあって起きます。過去や異世界で起きたときの指標をいくつか調べ、この世界の同じ指標を照らして同等ならあとはトリガーがあれば起きます」
皇帝
「ではスペインや東アジアの戦乱の発生時期を予言できるというのか?」
中野
「陛下、実は会議の前に娘から、それについて報告を受けております」
皇帝
「ほう!さくらを留学させた甲斐があったというわけか、ワシの娘にしなかったのが残念だ」
中野
「陛下の娘にして政略結婚しか使い道がないより、私の娘で自由に研究させた方が良かったと思います」
さくら
「スペイン内戦は今年1929年7月、ノモンハン事件は1930年5月に起きます。それだけでなく東北冷害は今年の秋から3年間続きます。そして申し上げたようにその結果はまた原因となり、将棋倒しのように歴史は進みます」
高橋是清
「さくらさん、それへの対応は考えているのかな?」
さくら
「対応案はいくつもあります。選択するのは為政者です」
高橋是清
「仰る通りだ。それだけでなく次の世界大戦までの流れが見えているのだな?」
さくら
「そうなのですが、それを止める選択肢はなさそうなのですよ」
犬養首相
「ワシの理解を超える。お嬢さん、いや殿下は歴史は定まっているというのか?」
さくら
「運命論というようなものではありません。当然為政者の決定によって変わります。そしてそれは一度だけでなく常なる判断によって変化していきます」
犬養首相
「というと我々が昔から判断し行動してきたのと変わらない」
さくら
「そうではありますが、科学の進歩で意思決定によってどうなるのか確率が分かるようになったということです」
皇帝
「さっきのスペイン内戦とかノモンハンの戦争の時期が当たる確率は何割なんだ?」
さくら
「要点だけ示すと、こんな風になると思います。」
さくらはプロジェクターに簡単な年表を投射する。

年表
高橋是清
「226事件とはワシが殺されるあれだな」
さくら
「状況が全く違いますし、岩屋おじさまがそうはさせないでしょう」
皇帝
「さくら、聞くがこの年表通りになる確率はどれくらいだ?」
さくら
「5割より大きいけど不確定なところがかなりある、7割くらいでしょう」
皇帝
「7割か。これでみるとスペイン内戦は今年夏起きると……」
さくら
「ソ連は来年ノモンハンに侵攻します。進行は石原さんの小説の通りでしょう。もっともアメリカは発生時期を知りませんが、それに備えてはいます。具体的には緊急派遣体制とか」
犬養首相
「我が国も第二次世界大戦に巻き込まれるのだな」
さくら
「世界中を巻き込む戦争ですから逃げようありません。勝つ方に付く一択です」
犬養首相
「当然ながら戦費は嵩むだろうし国民は耐乏生活になるのだな」
さくら
「欧州大戦を思い出してほしいのですが、あの戦争中 我が国は輸出がドンドン伸びて成金がたくさん出ました。あれが再現すると思っていただいて結構です」
犬養首相
「なんだと、じゃあウハウハじゃないか」
さくら
「でもあのときは我国に大砲の弾が飛んでこず、我国の船は沈みませんでした。
今度の戦争は世界中が巻き込まれますから、そうはいきません。まして我が国にも中国や東南アジアだけでなく、欧州まで出兵を要求されるようになります」
皇帝
「中立を宣言することはできんのか?」
さくら
「中立とは両方と仲良くすることではなく、両方と敵になることです。アメリカが中国で戦うには、我が国を後背地にするのが前提です。それを拒否してアメリカと戦うより、アメリカに基地を提供して戦勝国として分け前を要求する方が利口です」
犬養首相
「だがそのときはそれだけではすまず、太平洋、東南アジア、欧州での戦争に参戦するということになるのだな。人員の被害も出るだろう」
さくら
「選択肢はいろいろありますが、いいとこどりはできません。10年前の欧州大戦では戦死者3,000人で済みましたが、今度の戦争では10万とか20万あるいはもっと多くの戦死者が出るでしょう」
高橋是清
「ロシアとの戦争での戦死者は9万人だったな」
皇帝
「さくらは簡単に何万人というが、ひとりひとりに家族がいるのだぞ」
さくら
「現代の戦争はそういうものです。欧州大戦では毎日1万人の戦死者が出ました」
皇帝
「お前はワシより冷徹だな。数字だけ扱っているとそうなってしまうのか」
中野
「陛下、そういう言い方は止めていただけませんか。娘はそんな人間ではありません」
さくら
「先ほど日本の世界とは違うという話がありましたが、日本の世界の戦死者、民間人の死者をご存じなら天秤にかけて考えて欲しいです。最善を求めるのではなく、最悪を避けるのが為政者の務めです」
皇帝
「ワシは為政者ではなくお神輿と思っていたがね」
犬養首相
「20万の若者が死なねばならぬならワシが責任を負いましょう。もう長生きしすぎたように思っておりました」
皇帝
「オイオイ、乃木閣下の真似をしてもありがたくない。首相が死ねば若者が10万人助かるわけじゃない。
おい、さくら、さくらの考えている筋書きはどういうもんだ?」
さくら
「与えられた条件下で素直に考えるだけです。みなさんは扶桑国にいますから世界不況なんて忘れたかもしれません。それは高橋おじさまの活躍のおかげです。
我が国の工業製品は輸出競争力が高く今も輸出しています。また南洋開発によって食料も漁業や砂糖もなんとか自給できている(注5)
でもアメリカでも欧州でも不況は収まっていません。だからアメリカは満州を欲しがりました。前の大戦の敗戦国のドイツの状況はアメリカの比ではありません。ですからドイツは、乾坤一擲を狙ってフランスに攻め込みます」
犬養首相
「フランスが簡単に落ちるとは思えん。マジノ線で食い止めるだろう(注6)
さくら
「要塞は動けません、迂回されたら終わりです」
皇帝
「東アジアはどうなるのだ?」
さくら
「満州とモンゴルそしてソ連の国境付近は草原です。そして放牧民は国境など気にせず常に移動します。アメリカ人が入植し開拓が進んできたため、国境という意味が重要になりました。
国境線を明確にしようとすると争いが起き、軍隊同士の戦いとなり、どんどんエスカレートします。行き着く先はお決まりです」
犬養首相
「その結果、ソ連とアメリカの戦争になるのだな」
さくら
「たぶん戦争とは呼ばないでしょう。双方とも偶発的な事件と対外的には説明すると思います。お互い欧州大戦では大きな被害を出したので拡大したくない。
それとソ連はドイツが侵攻してくるのを懸念しています」
犬養首相
「その先はどうなるのかな?」
さくら
「未来は断言できません。ただノモンハンで戦いが始まると、ソ連はドイツと不戦条約を結ぶでしょう。東と西と同時には戦えません。
それによってソ連はアメリカと存分に戦えるようになり、ドイツはソ連を気にせずにフランスと戦える。いずれ二つの戦いはつながるでしょう」
岩屋
「スペインの内戦ではドイツとソ連は反対側だろう。次の戦争で組むものだろうか?」
高橋是清
「英仏がドイツと戦えばアメリカも参戦するだろう。となるとドイツとソ連の組み合わせしかない。三つ巴はあり得ないだろう」
さくら
「私もそう思います。その結果、欧州大戦以上の戦争になります。ドイツの工業力とソ連の資源の組み合わせ、そして間にあるポーランドとバルト三国を抑えてますから二国間の輸送は誰にも脅かされない(注7)
皇帝
「そうなると満州の戦いは収まるとは思えんな。東アジアはどうなる?」
さくら
「仰る通り。ただアメリカもソ連もここばかりに注力するわけにはいきません。というのは欧州の戦争が欧州大戦どころではない総力戦になります。その結果、ソ連は中国共産党を支援し、それとアメリカが支援する中華民国と戦うことになります。代理戦争です。そうなるとこれもまた総力戦、消耗戦です。そして我国がアメリカと中華民国を支えるしかない。もしアメリカが中国大陸から撤退すれば、中華民国はすぐに崩壊し、中国共産党とソ連の次の相手は扶桑国です。
ドイツUボート 太平洋はどうでしょう。南米にドイツを支援する国があればそこを根拠に潜水艦戦を挑むでしょう。この場合、東アジアは遠く、彼らの行動範囲はアメリカ西岸とホーン岬の輸送船攻撃ですね。
もしオランダやフランスが降伏すれば、その植民地の島嶼を根拠にできますから西太平洋もやりたい放題でしょう。それにソ連もドイツ潜水艦に洋上補給くらいはするでしょう。
我国は大西洋に対潜艦隊派遣するどころではなく、南シナ海、東シナ海そして我が国の南洋統治領全域で血みどろの潜水艦戦をしなければなりません」
岩屋
「太平洋も東シナ海も、大西洋同様になるわけだ」
犬養首相
「まるで見てきたような話で、納得しそうだが、そうなるものだろうか?」
さくら
「スペイン内戦は間違いなく起きます。ポーランド侵攻は来年末でしょう。それに備えてドイツはいろいろ準備するでしょうから、それを偵察衛星とか諜報活動によって事前に把握し対策しなければなりません。
満州はアメリカ軍を増強して、緒戦で撃退できれば良いのですが、長引くと問題ですね。当然彼らは長期戦に持ち込むでしょう」
皇帝
「さくらの話を聞いていると、誇大妄想としか思えん」
さくら
「そう思われても仕方ありません。私には方程式と数字しかありません。
ただ私にも選択肢はあります。今の話を扶桑国が買ってくれないなら、アメリカに売り込むということです。国務省か国防省に職を見つけます」
伊丹
「オイオイ、穏やかでないね」
中野
「参謀本部と政策研究所でさくらの預言を検証しましょう。そうですね、半月もあればとりあえずの結論は出るでしょう」
皇帝
「よしそれは中野に任せる。今の話は口外厳禁だ。
それと岩屋、さくらを軟禁しろ」
さくら
「アハハハ、今だって中野家の周囲は厳戒ですし、外出は憲兵の護衛付きの箱入り娘、今以上どうするんですか」

うそ800 本日の疑問
第二次大戦が始まる前に行く末がわかったとして、それを変えることができるかと言えば、できないんじゃないだろうか? 結局は、やむにやまれぬとなるのだろうか……
2019年2月北朝鮮とアメリカが核廃棄交渉しても妥協に至らない。こういう事案は形だけでも熱い戦争をしなければ収まらないように思う。

<<前の話 次の話>>目次


注1
「新しい歴史教科書」杉原誠四郎、自由社、2017

注2
高校生の読む本ランキングなるものをググったら、次のようなものがあった。
高校生が朝読書で読んでいる人気本ランキング20冊【平成28年度版】
高校生に聞きました「高校生が好きな小説家・作家(上位10名)」
高校生におすすめ小説ランキングTOP10
又吉直樹、東野圭吾なんてのが並んでいるのを見ると、ナンダカナーと思うのは老人だからでしょうか? 宗田理って娘が中学の時読んでましたけど
「ちょっとピンボケ」をgoogleでみると1979年翻訳されたとあるが、私は1960年代に読んだ記憶がある。なおロバート・キャパが撮ったと言われる「崩れ落ちる兵士」は、現在ではキャパの恋人ゲルダが訓練中に転んだ兵士を撮影したものとほぼ断定されている。

注3
ゲルニカとはスペインの都市の名前で、スペイン内戦の際、無差別爆撃で大勢の民間人が亡くなり有名になった。爆撃したのがどちら側か定かでないが、ドイツがフランコ支援のために送りこんだコンドル軍団と言われている。これを描いたピカソの絵が有名。第二次世界大戦前の爆撃としては驚異的だったのだろう。
第二次大戦の日本やドイツへの空襲と、その後のベトナム・パレスティナ・イラクなどの爆撃を知っている現代人からみたら非常に小規模に思えるだろう。

著名な空爆とその被害
都市名死者数年月日
ドレスデン25,000〜150,0001945/02/13〜15
広島90,000〜120,0001945/08/06
東京80,000〜100,0001945/03/10
長崎70,0001945/08/09
プフォルツハイム17,0001945/02/23
ゲルニカ100〜2,0001937/04/26
B29

日本の天気予報は明治16年に暴風警報が出されたのが始まり。明治17年から毎日全国の天気予報が出されるようになった。
明治17年6月1日の最初の天気予報は「全国一般、風ノ向キハ定マリ無シ。天気ハ変ワリ易シ。但シ雨天勝チ」。現代語に訳すと「全国的に風の方向はいろいろです。雨が降るでしょう」ですかね?
あいまいすぎると思いますが、当時は日本全体を一つの天気予報で表したためもある。

注5
食料自給率は江戸時代はもちろん100%だったが、明治末期になると100を切り、台湾や朝鮮からの移入によって賄っていた。このお話では台湾はあっても朝鮮はない。
ちなみに1940年代は本土産が1200万トンで自給率は85%くらいしかない。朝鮮の米生産が400万トン、台湾が160万トン、このうち250万トンを本土に持ってきて補っていた。

注6
マジノ線とは第一次大戦後、フランスがドイツの侵攻に備えて独仏の国境に作った、108個の要塞を15キロ間隔で並べた超大規模な要塞列である。残念ながら第二次大戦早々にドイツ軍はマジノ線の北側のベルギー経由で進撃し、あっという間にフランスに侵入してしまう。
日本が戦争に負けたとき、世界三大無用の長物として、万里の長城、戦艦大和と言われたが、マジノ線より戦艦大和の方がはるかに役に立った。
https://matome.naver.jp/odai/2142582237586957001

この時点ではベラルーシとウクライナはソ連邦内の共和国である。


異世界審査員物語にもどる
うそ800の目次にもどる