異世界審査員155.スペイン内戦その1

19.03.07

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

ビアスの「悪魔の辞典」には「平和とは戦争の準備期間」とあるそうだ。いつの時代も世界いたるところ、絶え間なく戦争をしていた。戦争のない期間というのは稀にあっても長くて数年だ。それくらい経つと戦争が起きている。
2015年11月30日、秋篠宮殿下が50歳の誕生日でインタビューを受けたのがテレビ放送された。そのとき「戦争が終わってから」という表現をしたので驚いた。殿下は戦争とは第二次世界大戦が最後の戦争とお考えなのであろうか。
殿下がお生まれになった1965年から2017年までの間に、Wikipediaに載っている戦争だけで88もある。年平均1.7件である。第二次世界大戦が終わってからでは、優に100回を超える。
秋篠宮殿下のいう戦争とはなんだろう? 彼にとって、戦争とは第二次大戦だけなのか? ちょっと認識というか知識が危うい。

戦車 日本は憲法9条があるから戦争にならないという視野狭窄の人は論外だが、秋篠宮殿下を含めた日本人の多くは第二次世界大戦が終わってから70年間 平和だったと思っているかもしれない。
それはまったくの勘違い、間違いである。世界をみれば第二次世界大戦終結からでも幾多の戦争を経験してきた。
第二次世界大戦後、アジアとアフリカで一挙に噴き出したのが独立戦争である。インド独立戦争は第二次大戦中から始まった。インドシナ独立戦争、インドネシア独立戦争、インド・パキスタン戦争、中東、そしてアフリカに波及していった。
もちろん東西対決そのものが冷たい戦争だった。そしてアメリカとソ連の代理戦争は常にどこかで起きていた。それだけでなく共産主義国家間での戦いも毎年のように起きた。
21世紀になっても常にどこかで戦争をしている。

心してほしいが、自分が「戦争をしません」と言ったところで、他の国とか武装勢力が侵略して来れば戦うか殺されるかの二択である。まさに通り魔に「話せばわかる」と言っても話にならないのと同じだ。
犬養毅は「話せばわかる」なんてボケをかましていないで、床の間の刀を掴んで斬り合ったほうが良かった。同じ日本人同士で話にならないのだから、言葉も心も通じない人と話になるわけがない(注1)
歴史上、無抵抗主義、非暴力主義は悲劇しか生まなかった。ウーンデッドニーを知らないなら知らなければならない。

日本も例外じゃない。憲法9条が平和を守ったわけではなく、日米安保条約のおかげが7割と偶然が3割で日本が戦争に巻き込まれなかったにすぎない。 ファントム いや実際は幾多の戦争を経験している。平和だと叫んでいる人は、その実態を見ようとせず、現実逃避しているにすぎない。現実には朝鮮戦争の時には掃海艇が参戦して戦死者も出している。ベトナム戦争は実質的な当事者だった。
韓国の竹島侵略で多くの日本人漁民が殺された。それを戦争じゃないというならその人の頭が問題だ。北朝鮮という国家によって多くの人が誘拐されたことは、戦争状態と行って良い。誘拐された人を返してくれというのではなく、軍事力で奪還しなければならない。
我々が税金を払うのは、国家が国民を守るという契約をしているからであって、平和憲法が守ってくれると考えているからじゃない。国家が国民の生命財産を守らなければ、法律を無視し税金を払わない、そして自力救済するしかないのは当然だ。
驚くことはない、それこそがルソーの語る社会契約論である。

ソロバンをはじいて憲法9条があった方が良いと計算高く考えたならともかく、憲法9条が平和を守るなんて寝ぼけたことを言っていてはいけない。それは自分が無知で考えることができないと暴露することでしかない。
ただ、戦争とは武力だけではない。国力、つまり経済、科学技術、食料自給、資源自給などの裏付けがなければ、武力だけあっても国家は脆弱である。高い技術・知的財産、高い食料自給率、関係国と良好な関係の維持などにより国際交渉での自由裁量(フリーハンド)を持たないと、戦う前に敵の軍門に下るしかない。
東西対決がアメリカの勝利に終わったのは、単純にアメリカ経済にソ連経済が負けたからだ。


1929年 4月
政策研究所
中野、伊丹、幸子がいる。

中野
「春になっても雪解けが遅い……今年は冷害かあ〜、しかし気温って平年と何度も違わないんだね」
幸子
「平年よりも1度ちょっと低いくらいですかね(注2)とはいえ5度も違ったら氷河期です」
伊丹
「私たちの仕事は実施可能な方法を考え提案することです。気象異常が現実だとしても、できることはいろいろあります」
幸子
「まず食料の手当ですね。本土は冷夏で不作ですね。台湾も気温が低下しますが、こことは条件が違いまから平年並みでしょう。 お米
過去の飢饉というのは冷害による収量減だけでなく、買い占めとか流通に支障があったためです。東北が冷害で作況指数が60とか70になっても、全国をならせば90くらいですから、減った1割をタイやベトナムなどから輸入するか、1年だけ1割は我慢するのもあります。
また今からでも馬鈴薯やサツマイモなど救荒食物の栽培奨励などできることはいろいろあります」
中野
「それは信用して良いのだな?」
伊丹
「もちろんです。そして大事なことは国民を混乱させないために情報公開、つまり気象予報、作況の予測、そして国の対策を国民に知らしめることです。情報がなく疑心暗鬼になると人々は冷静な判断ができず、心配を爆発させて騒動を起こすか逆に覇気をなくし身売りとか心中が多発するかもしれません」
中野
「方向は分かったが、農林省などと調整してもう少し裏付けを補強してほしい。そうだな2週間で何とかなるか」
幸子
「承りました」



1929年 6月
政策研究所
中野、伊丹、幸子、岩屋、さくらがいる。

岩屋
「衛星写真と諜報員や大使館や向こうの報道などを分析して、既にスペインのフランコは反乱の準備は完了したようです」
中野
「決起日はいつ頃か?」
岩屋
「状況から見て来月7月は間違いありませんが、日にちまでは分かりません」
中野
「異常なしだっけ? 作戦開始の命令は。それを傍受するまではわからんか。
ドイツとソ連からの武器援助はどうなのだろう?」
岩屋
「衛星からと地上では鉄道と港湾を監視していますが、反乱決起時点では武器や兵員の派遣はなさそうです。反乱軍は数日で政府各機関を占拠できるともくろんでいるようです。
それが叶うなら外国からの支援を要請する必要がありません。どの国もタダで支援してくれるわけでなく、ひも付きですからね」
さくら
「これからの流れで考えられるのはみっつです。
ひとつ、フランコが想定しているように数日で政府機関を抑えてクーデター終了
ひとつ、戦いが長引き、政府側、反乱側とも外国に支援を要請。ドイツとソ連からの支援がほぼ同時であれば更に長引きます
ひとつ、二番目と同じですがドイツが速やかに軍隊を派遣すれば短期間で終結します」
中野
「ソ連の支援がドイツより早いのはナシで、反乱軍が負けるのもナシか?」
さくら
「まず岩屋の伯父さまの話にあったように、まだドイツもソ連も動いていませんから、スペインに近いドイツからの支援が早いでしょう。
次の点、スペインの軍隊は装備が前近代です。小銃だけでなく、大砲も機関銃もありますが、戦車や飛行機は少数です。偵察とか奇襲攻撃はともかく、大規模な戦闘行動は無理でしょう。他方、一般市民といっても多くは徴兵され軍事訓練を受けています。この点では政府側・反乱側とも優劣はありません。
しかし武器弾薬の充実さは軍隊が上回ります。それよりももっと喫緊なのは食料でしょう。政府に付いた人たちの食料、医薬品などの補給はまず期待できません。その点軍隊の方が輜重はしっかりしています。ですから火ぶたを切れば間違いなく反乱側が勝ちます」
中野
「なるほど、ましてや都市に立て籠ったりすれば農産物の生産も滞る。戦いが長引けば一般市民はお手上げだな(注3)
岩屋
「スペインの様子は監視下にあり動きあれば一刻も早く報告しますが、正直言ってこれが我国にいかなる関係があるのでしょう。そしてスペインが内戦状態になってもなにか対応が必要なのでしょうか?」
幸子
「大きく言って二つあると思います。ひとつはソ連が勝ったとき、スペインは完全に共産化するでしょう。そうなると欧州の中に共産主義国家が誕生するわけで、欧州は不安定になります。他方、ドイツの援助によって反乱軍が勝てばドイツと政治的に近くなります。そして欧州で戦争が始まれば、スペインはドイツに呼応してフランスを攻撃するでしょう。
ドイツとソ連が支援しても勝敗がつかない場合、スペインは次の大戦では中立を維持する可能性が大です。これが一番良いかもしれません。
ともかくそういう外国の支援次第でスペインの方向が決まり、欧州の戦争に影響するでしょうし、ノモンハンにも影響すると思います」
岩屋
「なるほど、もうひとつは?」
幸子
「ドイツとソ連はスペインの戦場で新兵器の実地試験をするつもりです。当然それらは次の戦争の主役です。これは可能な限り情報収集しなければなりません」
T-26
Bf109
さくら
「おばさま、もうひとつあります。ソ連とドイツの兵站や指揮・作戦、そして戦術について情報収集です」
岩屋
「なるほど、分かりました。人工衛星での監視、地上での諜報活動など一層力を入れます。
しかしそれは英仏あるいはアメリカも同じでしょうね。多数の国からスパイが来て収集合戦ですか」
さくら
「でも人工衛星は私たちにしかないわ」
幸子
「だといいけど。もしかしたらあれはドイツが打ち上げたもので、私たちが情報を盗んでいるのかもしれないわよ」
さくら
「それはないと思うわ。だって通信に使われている高い周波数だって、ドイツ国内から発信されていないというでしょう。多分ですけど、カンナさんがしたことだと思うの」
中野
「さくら、仕事を頼みたい」
さくら
「お父さま、なんでしょう?」
中野
「陛下と犬養首相の許可は得ている。というか彼らと話し合って決めたことだ。
スペイン情勢を石原からアメリカ戦争省に売り込めと言ってほしい」
さくら
「おもしろそうですね。私もアメリカに行ってはいけないかしら?」
中野
「時間的に無理だな。それから陛下はさくらの出国を許可しない。もちろん石原に会うときは例の通り道を使うのだが、それで行けばアメリカで合法的な活動はできない」
さくら
「了解しました。ところでお父さまが直接石原さんに伝えないわけは?」
中野
「俺が言えば、命令と受け取られてしまう。さくらが石原を焚きつけたくらいでちょうどいい」
さくら
「おもしろくなりそうですね」



1929年 6月
アメリカの扶桑国領事館
石原とさくらがいる。

さくら
「これらがスペイン各地の航空写真、そしてソ連とドイツのもあるわ」

石原は固まった。
さくらから航空写真と言った数百枚の写真は実は衛星写真だ。鮮明でしかも天然色である。それぞれ別途ある地図に数字が記載され、各写真には場所の番号と日付がある。
スペインのものは反乱軍の準備状況が写されている。ドイツとソ連の写真には、輸送を待つ戦車やトラックなどが写っている。

石原莞爾
「すごいものだ。これは例の哨戒機による撮影ですか?」
さくら
「例の哨戒機ではありません。今はもっと高空を飛べる偵察機があるのです。それとカメラとフィルムの改良により総天然色が可能になりました」
石原莞爾
「こういう情報が得られるなら戦争は楽だ。今後も入手できるのですか?」
さくら
「もちろん日々偵察しているわけですが、すべてをアメリカに提供できるかと言えばノウですね。今お渡ししたものはホッブス大佐、もといホッブス准将に提供しても構いません。というかお父さまからの指示は、石原さんからアメリカ軍高官に渡せというのです」
石原莞爾
「ほう、どういう意図ですか?」
さくら
「政策研究所の検討結果、スペインの戦争の結果はノモンハンにフィードバックされる。そして兵器も戦術も応用されるだろうという見解です。我国としてはノモンハンでアメリカに緒戦で大勝してほしいのです」

緒戦: 戦争が始まったばかりのときの戦い。また、試合や勝負のはじめの段階
トーナメントの1回戦で負けるのは初戦敗退で、読みは「しょせん」と同じでも字が違う。

石原莞爾
「この世界の歴史は日本の世界よりも発生時期が早まっている。下手をするとスペイン内戦とノモンハン事件がそのまま第二次世界大戦につながるかもしれないのですね」
さくら
「そう、だからノモンハン事件が長引いたりアメリカの負けで終わってほしくないのです」
石原莞爾
「なるほどソ連がノモンハンに侵入したら即叩いて追い返さないとだめと……
ちょっと待てよ、となると中国とアメリカの戦争も始まるということですか?」
さくら
「可能性は大ですね。そうなれば多分アメリカは中国での戦いに我国を引き込むつもりです。それはありがたくありません。ですからソ連をすぐに追い返し、中国共産党とソ連が結託して強くならないようにしたい。中国で戦乱が起きて泥沼にならないよう、中華民国をなんとか継続させたいのです」
石原莞爾
「欧州で第二次世界大戦が始まれば、アメリカはそれにかかりきりになり、中国から手を引くかもしれない」
さくら
「石原さん、今まで私たちが何のためにしてきたのか理解しているの!」
石原莞爾
「なんのためというと?」
さくら
「アメリカが中国から手を引けないようにするためよ。だからこそアメリカの満州における利権を増やし入植者を増やし投資をさせ、手放すには惜しいものにしたの。今や入植者が50万もいる満州は放棄するには価値が大きすぎる。
仮に引き上げても、アメリカ経済が低迷しているから入植者に衣食住を確保ができない。しかも満州の農産物がゼロになるのだから、アメリカでは食も問題になる。ゆえに彼らは手を引けない」
石原莞爾
「なんと!さくらはそんなことを考えていたのか」
さくら
「地政学的に考えて、扶桑国の最後の敵は、ソ連と中国です。我国に代わってそれと戦う国が必要です。私たちは慈善事業をしているわけじゃありません。アメリカの満州攻略の支援もすべてはそのためでしょう」
石原莞爾
「いやはや、私もまだ青い。さくらは恐ろしい謀略家だ」
さくら
「というわけでね……」



1929年 6月
数日後、石原はアメリカの戦争省にホッブス准将に面会に行く。ここを訪れるのは1年ぶりだ。
ホッブス准将とミラー大佐が会ってくれた。
ミラー大佐は満州空挺作戦のとき連隊長だった。もちろん石原は面識がない。

ホッブス准将ミラー大佐石原莞爾
ホッブス准将ミラー大佐石原

ホッブス准将
「よう石原君、もう大学の先生は飽きたか? 君が望むならいつでも私の補佐官に雇うよ。そう言えばさくらはどうしているのかな?」
石原莞爾
「さくらが国に帰ったことはご存じと思います。今は彼女の父親、皇帝の相談役ですが、その下で働いています」
ホッブス准将
「ほう、大学教員は諦めたのか」
石原莞爾
「なにしろ彼女はVIPですから外出もままならないそうです。
ええと彼女から伝言がありました。彼女の言葉は非公式な扶桑国の意志であるとご理解ください。まずはこれです」

石原はさくらから受け取った航空写真を箱ごと机上に置いた。

ミラー大佐
「見ていいよね……おお、これはどこの基地の航空写真だ。鮮明でカラーだよ。写っている兵士の軍服まで分かるとはすごいね。ええと、この服装はイスパニアだな」
石原莞爾
「正解です。カナリア島の陸軍基地です。ご存じと思いますが、今ここにいるフランコ将軍はクーデターを起こす予定です。その基地の状況です」
ミラー大佐
「その話は聞いているが、クーデター決起はいつ頃だね?」
石原莞爾
「来月上旬と思われます」
ミラー大佐
「軍が決起すればあっという間に決着がつくかな?」
石原莞爾
「いいえ、政府が一般市民に武器を配れば戦いは長引くでしょう。更に政府と反乱軍双方に外国政府が支援しますから長期化しますよ」
ホッブス准将
「それはともかく、さくらからの話とはなんだ?」
石原莞爾
「ソ連とドイツが双方について兵器と兵士の支援をする、それが次の戦争の予行演習になるから十分観察しろと言うことです」
ホッブス准将
「スペイン軍のクーデターは我々も予想しているのは言うまでもない。二度目の欧州大戦はいつ始まる?」
石原莞爾
「その前に満州にソ連が侵攻します。そのときスペインと同じ兵器と戦術が使われるでしょう」
ホッブス准将
「満州だって! 去年、ソ連は完敗して撤退したじゃないか」
石原莞爾
「彼らは決して負けを負けのままにしておきません。今度は近代的な兵器と戦術で攻めてくるでしょう」
ミラー大佐
「ちょっと待てよ、石原……満州……君はあの「マンチュリア1930」を描いたドクター石原か?」
石原莞爾
「ご存じとは光栄です」
ミラー大佐
「まさに予言者だね。戦争勃発の年も小説と同じだ。
あの小説と同じ展開になるのか?」
石原莞爾
「いや小説とは大きく変わるでしょう。
まずアメリカ軍は形ばかりの治安部隊ではなく、現在はれっきとした正規軍が2個師団います。それに飛行機も戦車も配備されている。
しかし同時にソ連も戦車も飛行機も最新型ですし、これから始まるスペイン内戦でのベテランを投入します。現代戦を経験した士官・兵士と未経験者では相当違うでしょう」

ベテラン(veteran)とは、someone who has been a soldier, sailor etc in a war であり、戦った経験がある兵士という意味。歴戦の兵士と訳す人もいるけど、歴戦とは幾たびも戦ったことだから、ちょっと違う。

ホッブス准将
「我々だって欧州大戦に参戦したし、昨年ソ連軍と戦った」
石原莞爾
「欧州大戦の従軍者はほとんど退役したでしょう。そして昨年はわずか数日で本格的な戦争じゃない」
ホッブス准将
「まあいい、それでノモンハンの戦いはどうなるのかな?」
石原莞爾
「アメリカの戦い方次第ですよ。さくらは緒戦でソ連軍を圧倒しないと長引くと言います。そして長引けばソ連と中国共産党が共同して中華民国を叩き、東アジアは一挙に不安定になる」
ホッブス准将
「なるほど、さくらが言うのなら間違いないだろう。
ともかくスペインが一段落しないとソ連の侵入はないだろう。となると来年…そうだな暖かくなる6月か7月だろう。それまでにアメリカ軍を増強して、扶桑国との軍事同盟をなんとか形にしておくということか」
ミラー大佐
「さくらとは何者ですか?」
ホッブス准将
「扶桑国のお姫様で戦術の天才少女だ」
石原莞爾
「さくらの話では扶桑国は中国に深入りしたくないとのこと。アメリカに満州の戦いに引き込まれるのを懸念しています」
ホッブス准将
「もし扶桑軍が中国で戦ってくれるなら、満州のアメリカ軍を欧州に持っていくか。そうしないために緒戦で撃退しなければということか」
石原莞爾
「その代わり、ノモンハンで戦闘が始まる前にこの写真のような情報提供をすること、戦闘時は満州事変と同じく常時高空を飛ぶ偵察機を配備し情報提供するとのことです」
ホッブス准将
「まあ、それだけ支援を受ければ文句は言えんな。というかあまり扶桑国が活躍して、戦争が終わってから分け前を要求されるのも困る。既に満州は我国の穀倉地帯だ。手放すことはできん」
石原莞爾
「実を言って扶桑国が逃げ腰というわけではないのです。次の戦争ではドイツ軍がUボートを太平洋にも遊弋させて、 Uボート 太平洋の通商破壊をすることを懸念しており、太平洋の安全確保のために大規模な対潜部隊が必要と考えているのです。既に対潜用の艦艇の建造にとりかかっており、その代わり陸上兵力は削減する方向です。それでも大西洋の対潜戦を支援する余裕はないでしょう」
ホッブス准将
「確かにそれはあるだろう。太平洋航路もそうだが、アメリカ大陸西岸の南北航路も重要だ。そこまでは扶桑国は面倒見てくれないだろう」
石原莞爾
「以上で連絡事項はおしまいです」
ホッブス准将
「貴重な情報ありがとう。いただいた情報を内部で検討させてもらう。
石原君、またワシのところで働く気はないかね?」
石原莞爾
「一旦戦争が始まれば総力戦となり、学生も教員も戦闘や研究に駆り出されるでしょう。それまでは大学で講義していることにします。
さくらは向こうの方が研究できるから良いといいます。こちらに来れば庶民の暮らしができるのがうれしいようですが」
ホッブス准将
「向こうの方が研究できるのか?」
石原莞爾
「ひとつにはその航空写真を始め情報が豊富にあること。もうひとつは微分解析機が発達していて、こちらでは理論だけで終わるところが、向こうでは解を出すところまでできるのです」
ホッブス准将
「わかった。もし連絡できるなら、さくらがその気ならいつでも雇うと伝えてくれ。戦争が終わったらどこか有名大学の教授の席を斡旋するとな」
石原莞爾
「彼女は喜ぶでしょうけど、御父上と皇帝陛下はうれしくないでしょうね。可愛いお姫様を手放したくないのです」

うそ800 本日の思うこと
小説に架空戦記なるジャンルがある。ドンパチをするのを読むと爽快、痛快であるけど、実際はそんなことより様々なシミュレーションを始めとする作戦研究、武器弾薬を始め兵站の用意が大きいだろう。段取り8割はすべてにおいて真理だ。
戦闘場面の多い架空戦記はあまり参考にならない。

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注1
国会のテレビ放送を見ると、革新政党は「安倍政治を許さない」とか己の言いたいことを攻撃的に騙るだけだ。菅官房長官に質問するのではなく、自分の主張を全国報道させようとする記者がいて、それを擁護する人たちをみれば、「話せばわかる」とは到底思えない。

注2
冷害といっても夏の低温と冬の低温は影響が違い、稲の生育している夏の影響が大きい。そして冷害といっても平均気温にすれば1度ないし2度の違いである。
もし年平均気温が6度も違えば氷河期だ。もちろん氷河期の場合は1年だけでなく長期にわたるわけだが。今騒がれている地球温暖化というのは1世紀で2℃上昇くらいの話である。
最近150年間の東北地方における米収量(作況指数)と夏の平均気温との関係
氷河時代の日本列島
ペンギン

注3
1939年1月、ソ連から支援を打ち切られた人民戦線側は武器弾薬・食料が尽き、バルセロナを脱出し食料を求めフランス国境に押し寄せた。


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