異世界審査員167.反攻作戦その1

19.04.22

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

私は貴族というものを見たことがない。いや、私に限らず世の中には貴族なんて縁のない人が9割9分を占めている。貴族の出るお話と言えば源氏物語くらいだったけど、最近のネット小説は貴族のオンパレードだ。当世、一番貴族に詳しいのは異世界物を書いているネット小説家ではないか。
ところで貴族といっても時代と国によって制度や性質は全く異なる。ネット小説の貴族は、ほとんどがイギリス貴族の仕組みと暮らしを下敷きにしている。例えば爵位も公侯伯子男がほとんど。暮らしも社交も結婚観もイギリス貴族を流用している。古代ローマの貴族とか古代ギリシアの貴族、奈良・平安時代の貴族、あるいは大日本帝国時代の華族のお話は読んだことがない。
おっと、貴族になりたい人はシーランド公国の爵位はお金でゲットできます。

イギリスの貴族といっても、16世紀以前と18世紀以降ではまったく性質が違う。現代もイギリスには1000家弱の貴族がいるそうだが、政治や法律上の特権もなく、領主というよりも地主であり、それどころか借家・マンション住まいの貴族も多いそうだ。そしてなによりも相続税、固定資産税に押しつぶされて、貴族であり続ける(体面を保つ)ことは極めて困難という(注1)
ちなみに明治や大正時代、日本で政治や経済あるいは軍務において功績をあげた人には爵位が与えられ華族(貴族)となったわけだが、それを維持するためのお金がなくて爵位を返上したという人は数多い。
金持ちが何代も続くのが困難なのは現代の日本ばかりではないようだ。それは平等でよいことなのか、伝統の否定なのかどっちなんだろう?
ともあれ自分が貴族であったらとか皇族であったらと想像すると、一挙手一投足がウォッチされ、出歩けば道行く人々に手を振られキャーキャー騒がれては、安穏に暮らしていけそうにない。小室圭さんも相手が一般人だったらテレビ報道されることもなく、家庭のことが取りざたされることもなかったでしょう。
爵位のない庶民で財産も領地もない私の暮らしの方が、はるかに幸せだと思う。これ、すっぱい葡萄ではありません。


1930年11月5日

フランスにドイツ軍が侵攻してもう10日が過ぎた。フランス軍とイギリス軍はドイツ軍と戦っているが、圧倒的に劣勢だ。 ドイツ戦車 ドイツ軍は機械化されていて、大砲も牽引でなく戦車の車体を使った自走砲となっているので、移動が速い。そういった個々の兵器だけでなく、戦術も航空機と地上が連携して戦うとか、素早い移動などスペイン内戦で試行した結果が反映されている。
英仏連合軍はだんだんとイギリス海峡方面に押されていて、ドイツ軍の進攻を止めようがない。ドイツ軍がパリを落すのもあと20日か?

アメリカ戦争省
ホッブス准将、ミラー大佐そしてジェイコブが話している。

ホッブス准将
「ジェイコブ、さくらとはその後会っているのか?」
ジョンソン
「いや、あれっきりですよ。向こうから声をかけて来ないし、私も声をかけていない」
ホッブス准将
「君がそれほど内気だったとは知らなかった。早いとこものにしてイギリスに連れて帰れ」
ジョンソン
「確かに彼女は賢いのは分かりました。それだけでなく未来を見てきたように話しますね。妄想でなければ天才でしょう。
しかしガールフレンドとか、まして妻にとか想像もできません」
ホッブス准将
「おやおや、君は人を見る目がない。彼女を嫁にすれば持参金付きだ」
ジョンソン
「我が家はお金には困ってはいません」
ホッブス准将
「イギリスはこれから防衛戦に入るだろう。今の戦いは飛行機だ。ドイツに戦闘機が何機あるか、そしてイギリスに何機あるか知っているか?
はっきり言ってドイツにはイギリスの倍あるんだ。さくらを嫁さんにすれば戦闘機の200機くらい持参金に持ってくるだろう」
ジョンソン
「准将、それは真面目な話ですか? 冗談ですか?」
ホッブス准将
「正気、正気。それくらいさくらは扶桑国の皇帝に可愛がられている。
それよりもなによりも、さくらは政治学の学者であり、実際は政治より戦術に詳しい。一度誘ってレーダーの運用でも語り合ってみろ」
ジョンソン
「分かりました、分かりました。それはともかく、我々はフランスで敗走を続け降伏は時間の問題です。この苦境を打開するアイデアはありませんか?」
ホッブス准将
「現時点、大統領は欧州の戦いに関わりたくない意向だ。アメリカが攻撃されない限り手を出さないだろう。それに、そんなことは俺じゃなくてさくらに聞け」
ジョンソン
「彼女がそんなアイデアがあるわけないでしょう」
ホッブス准将
「二年前と今年と二度、我々はソ連に勝った。二度とも武装も兵員も向こうがはるかに多かった。我々の持っているもので作戦を立て損害最小で勝利をもたらしたのはさくらだ。そういう実績があるから俺はさくらを信用している。
君が望む逆転には、満州にある100機の爆撃機を欧州に持っていくという手もあるが、大統領はOKを出さないだろう」
ミラー大佐
「欧州でもあの爆撃機は効果がありますか?」
ホッブス准将
「そりゃあるよ、100機が高空から数回爆撃をしたら、攻守はたちまち入れ替わるだろう」
ジョンソン
「ちょっと待ってください。それはイギリスの爆撃機に比べて優れているのですか?」
ミラー大佐
「爆弾を10トン積んで、航続距離4000キロ、高度1万を時速400キロで飛ぶ」
ジョンソン
「ほうモンスターですね、本当なら。冗談でしょうけど」
ホッブス准将
「冗談ではない。残念ながら我が国が製造したのでなく、扶桑国から買ったのだがね。先だってノモンハンでの戦いはその爆撃機で片を付けた。それを考えたのもさくらだ」
ジョンソン
「本当にそんな爆撃機が満州に100機もあるのですか。それをイギリスまで持ってくるのにどれくらい時間がかかります?」
ホッブス准将
「先月末に扶桑国の偵察機の補充分がイギリスに行ったと聞くが、あのとき5日くらいで飛んで行ったはずだ」
ジョンソン
「それを我国に売ることは可能ですか?」
ホッブス准将
「今ノモンハンでは戦闘は起きてないがソ連と睨みあっている。引き上げればバランスが崩れるだろうな……」
ジョンソン
「先ほどさくらと結婚すれば持参金として戦闘機を持ってくると仰いましたね。あれは本当ですか? その前に扶桑国の戦闘機は役に立つものでしょうか? ソ連のような旧式ではどうしようもありません」
ミラー大佐
「満州では我国のP35と一緒に戦ったが、遜色はなかった」
ジョンソン
「P35は今じゃ旧式ですよ。せめてスピットファイアくらいでなければ」
ホッブス准将
「扶桑国はなかなかガードが堅くてね、我々も実態を良く把握していない。ただ今言った爆撃機とか欧州で活躍している偵察機を開発しているから、決して遅れているわけではない。
君は偵察機のことを知らないようだけど、帰国したら良く調べておけ。これからの戦争はああいった機種がなければだめだ」


11月8日

10月始めホッブス准将にジェイコブを紹介されたが、それっきりだ。さくらはお見合いじゃなくて単に技術的な話をしたいだけだったのかと少しホッとすると共に、バカにされたという感じがぬぐえない。ともかくあれ以上秘密を漏らすことにならなくて良かった。
ワイングラス と思っていたらひと月も経った今、ジェイコブからデートのお誘いのレターが来た。文面は短く「演劇はお好きですか?」とある。ひと月半も放っておかれた腹いせに「嫌いなもの演劇、好きなもの戦争」と短く返事する。
すぐに「それじゃ戦争のお話をしましょう」というレターが来て、結局さくらはジェイコブと食事をすることになった。中野に確認をしたら、「扶桑国の技術に関することは緘口令、学問的なことなら好きに話せ」と返ってきた。

今回は前回のような高級ホテルの高級レストランではなく、一般人向けのレストランで、本物のプリンスやプリンセスが行くような店ではない。但し何事があるか分からないので個室を確保した。ジェイコブにもさくらにも護衛は付いている。もちろん部屋にはついてこない。

ジョンソン
「連絡が遅くなってすまない。先日さくらから聞いたことを反芻していたら、いつの間にか日にちが経ってしまった」
さくら
「考えてばかりでは欧州の戦争が終わってしまうわよ、イギリスの負けで」
ジョンソン
「ホッブス准将は満州の爆撃機が使えれば逆転するという。しかしアメリカはソ連の再攻撃に備えて動かしたくないようだ」
さくら
「先日扶桑国から欧州に派遣された偵察機は5日かかりました。そのときのように太平洋と大西洋を渡れば2万キロあります。でも北極海を飛べば1万2千キロ、時速400キロで30時間、まあ途中補給があるからその倍として2日。
ということをホッブス准将に提案したらどうかしら。満州が非常事態になったらすぐに戻すということで」
ジョンソン
「それは本当か?」
さくら
「でも前提としてアメリカが参戦しないと。
ジェイコブは悪いことができる?」
ジョンソン
「まあ違法なことをしたことがないとは言わないよ」
さくら
「アメリカの船をドイツ潜水艦に攻撃させなさいよ。新兵器が載っているとか、ヒトラー暗殺部隊を送り込むとか情報を流して」
ジョンソン
「ほう、それは興味深い話だね」
さくら
「アメリカの船が沈められればアメリカの世論が参戦に傾くわ。選挙で決まる大統領は人気取りに走るしかない」
ジョンソン
「それは検討するとして、爆撃機があれば欧州の戦況は変わるのかね?」
さくら
「あなたって想像力がないの? 100機が1機10トンの爆弾を積んだら何トンになるのよ!
言い換えると、1機に50キロ爆弾を200発、100機で2万発、20m間隔でばらまけば3キロ四方が破壊されるわ」
ジョンソン
「フランス戦線はその100倍だ。とても間に合わないね」
さくら
「あ〜ぁ、あなたは私の大嫌いなタイプだわ。それなら100回爆撃すればいいことよ。真面目に言えばよ、ドイツ軍の司令部とか重要拠点を破壊すればいいじゃない」
ジョンソン
「1回の出撃での損耗を3%としても100回どころか10回も出撃したら3割が失われる。現実には出撃時の損害は10%ある。10回出撃したら生き残りは3割だ」
さくら
「ジェイコブの理屈には間違いが二つある。
ひとつは先の欧州大戦以降、戦争は総力戦・消耗戦になったのよ。犠牲が出るのを前提にしなければならない。こちらが1割やられても相手を2割破壊したら良しとするしかない。
もうひとつはあの爆撃機が簡単にやられるはずがありません。100回出撃してせいぜい数機で収まりますよ。現実にもう3か月も飛んでいる偵察機は、撃墜どころか攻撃されていません。攻撃できないというのが本当かな」
ジョンソン
「確信はあるのだな?」
さくら
「その上から目線、気に入らないわね。人の意見・提案にケチばかりつけて、自分は何も考えず、行動もしない。大嫌いなタイプ!
私は今までいくつものプロジェクトを、自分が企画し内容を詰め人を動かして実現してきたの。あなたは私をなんだと思っているわけ? 私は生まれたときからお姫様ではなく、実力でお姫様になったのよ。
私はあなたの部下でもないしコンサルに雇われたわけでもありません」

ジェイコブは数舜押し黙った。

ジョンソン
「すまない、興奮してしまった。
しかし講釈を語るだけなら誰にでもできる。さくらはイギリスを勝たせることができるのか?」
さくら
「はっきり言いますけど、私はイギリス国民ではないから責任も義務もありません。ただ純粋に学問的に考えれば負ける気はしませんね、指揮権さえいただけるなら。指揮権は無理として参謀にしてもらえれば」
ジョンソン
「一緒にイギリスに来て欲しい。関係者を集めるからさくらの考える戦術を解説してほしいね。みんなの支持が得られるなら実施する」


11月12日

ジェイコブとさくらはロンドンにいた。ジェイコブがイギリスの輸送機を使ってロンドンに飛んだのだ。この当時飛行機による大西洋横断は政府使節などでは使われていたが、よほどの重要緊急なことだけに限られていた。
それもカナダのノバスコシアから離陸した。ここだとニューヨークなどより1000キロ以上短い。

ジェイコブはさくらに指名された人物に声をかけた。
ヒュー・ダウディング空軍大将とパトリック・ブラケット博士そしてジョン・ヴェレカー大佐である。実際にジェイコブが集めたのを見て、よく集めたものだとさくらは驚いた。それが公爵家の威力なのか?

ヒュー・ダウディング空軍大将実在の人物
ヒュー・ダウディング大将
イギリス空軍戦闘機軍団司令官
58歳
ダウディングシステム(電子的なものではなく判断と指揮をビジブルに行うようにした仕組み)を構築し、バトルオブブリテンに勝利した。
ジョン・ヴェレカー大佐実在の人物
ジョン・ヴェレカー大佐
44歳
ダンケルク撤退作戦の指揮官
パトリック・ブラケット博士実在の人物
パトリック・ブラケット博士
33歳
レーダー運用においてオペレーションズリサーチを考えた。
後に宇宙線の研究でノーベル賞をもらう。
ジェイコブ・ジョンソン侯爵ジェイコブ・ジョンソン侯爵
29歳
レーダーの研究者
さくら中野さくら
27歳
中野宮家のプリンセス
政治学博士

ジョンソン
「こちらは扶桑国のお姫様さくら、フランスの戦いを勝利するアイデアがあるそうです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「私は扶桑国が大嫌いでね(注2)
ジョン・ヴェレカー大佐
「閣下、まだ話が始まってもいません。まずはお嬢さんの話を聞いてからにしませんか」
さくら
「作戦は三つの段階を考えています。
我国の偵察機が過去3か月飛んでいるのはご存じでしょう。あの機体を爆撃機仕様にしたものがアメリカにあります。それを譲渡してもらいドイツ軍を爆撃します。しかし時間が押していますから、早急にアメリカに譲渡してくれるよう交渉をするか、アメリカを参戦させなければなりません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「その爆撃機はいかほどの性能なのかね?」
さくら
「10トンの爆弾を積んで高度1万を時速400キロで4000キロ飛びます」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「東洋ではそういう冗談が好まれるのか」
さくら
「事実です。閣下は我国の偵察機をご存じないのですか?」
ブラケット博士
「閣下、扶桑国が派遣している偵察機は、我国よりも進んだレーダーを積んで24時間フランスやベネルックスの上空を飛んでいます。
爆撃機のことは知りませんが、偵察機が高度1万を時速400キロで4000キロ飛ぶというのは本当です」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ほう…」
ジョン・ヴェレカー大佐
「まずはアメリカにどう話をするかですな」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「さくらの話が本当なら私が話を付けよう。今どこにある。ここまで持ってくるのに何日かかる?」
さくら
「今満州、中国の北部に100機あります。アラスカとアイスランドで給油すれば2日。問題はアメリカがソ連と今そこで対峙しているわけで」
ヒュー・ダウディング空軍大将

「満州と欧州を比べればこちらが重要だろう。ラムゼイ首相に話をする」
 注:ラムゼイは当時のイギリス首相(在任1929-1935)

さくら
「爆弾はありますか? 1回の爆撃行で1000トンです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「へえ! 1000トン、毎日1回として10日爆撃すると1万トン」
ジョン・ヴェレカー大佐
「今の戦争はなんでも大量消費だな。爆弾が足りないのか?」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「これもアメリカから買うしかあるまい」
さくら
「第二段階としてフランスでの航空支援を強化します」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「なこと言っても我々は戦闘機が少ない」
さくら
「アメリカから集めましょう。航空優勢の確保に常時100機くらい飛ばさないと」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「あのな、フランスの主要な航空基地はほとんど爆撃されて使用不可だ。イギリスから飛べば向こうに滞空出来るのはせいぜい30分だ」
さくら
「アメリカのP40でもP35でもイギリスから飛んで向こうで1時間半は滞空できます」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「P40はともかくP35じゃ時代遅れだろう」
さくら
「地上攻撃には十分です」
ジョン・ヴェレカー大佐
「第三段階はなんだね?」
さくら
「撤退の準備です」
ジョン・ヴェレカー大佐
「撤退だと?」
さくら
「もちろん実施するか否かは、今申した第一段階と第二段階次第です。航空戦で優勢になれば、地上だって撤退どころか押し返せますよ。
でも最悪の場合はフランスを放棄してイギリス兵はもちろん他国の兵士もイギリスに引き上げます」
ジョン・ヴェレカー大佐
「それほど悪くなると見ているのか?」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「最悪に備える必要はある」
ジョン・ヴェレカー大佐
「だがどうやって?」
さくら
「今から民間のフェリー、輸送船、漁船など使えるもの調べておいて徴発する準備をします」
ブラケット博士
「日程計画は?」
さくら
「第一段階は即実施、第二段階も即実施、第三段階は調査は即開始、実施は第一段階と第二段階の結果次第です」
ジョン・ヴェレカー大佐
「これだけの話で我々を集めたわけではないのだろう?」
さくら
「もちろん、英仏軍が大陸から撤退しても、戦うことを放棄するわけではありません。まず力を蓄え、大陸へ再上陸します。
しかしその前に、ドイツはイギリスを叩こうと上陸作戦をします。その対策をしなければなりません。」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「君は実際に見てきたような話をするね」
さくら
「私には未来が見えます。ああ、予言者とか占いではありませんよ。与えられた情報からどうなるかを論理的に考えるのです。道筋は自然に見えてきます」
ジョンソン
「ぜひとも我国のレーダーの改善に力を貸してほしいよ」
さくら
「改善するまでもなく我国の偵察機からの情報で十分でしょう。
私が進めたいのは、その情報の活用方法、そして航空戦力を有効に動かし今の倍とか三倍の効果を出すことです」
ブラケット博士
「それこそまさに私が実現したいことだ」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「そんなことができるのか?」
さくら
「レーダーで敵がどこにいるのか、位置、高度、速度、方向などを検知する。そしたら、どの飛行隊にどの目標を割り当てるか、どんな攻撃をさせるか、そういったことを適宜指示し実行させれば効果は増します。
そもそも今の航空作戦は目的が何かがハッキリしません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「目的がはっきりしていないだと? 我々は常に作戦の目的を決めて行っている」
さくら
「まず敵機を追い払うのか、撃破するのかというのがあるでしょう。都市を守るのか基地を守るのか、人命を守るのか工場を守るのか、そういうことのプライオリティがハッキリしないように思います」
ブラケット博士
「私はそういうことを数学的に決めて運用したいと考えているのだが、そういうことについてのアルゴリズムのアイデアがあるかね?」
さくら
「もちろん、博士のおっしゃることは運用の研究、すなわちオペレーションズリサーチです。それは私の専門です」
ブラケット博士
「さくらもドクターなのか、さくらはそのオペレーションズリサーチについて考えがまとまっているのかな? つまり実用的な手法など」
さくら
「もちろんと言ったでしょう。すぐに打ち合わせをしましょう。私が細かく説明します」
ジョン・ヴェレカー大佐
「この女は気違いだ……そうでなければ天才だ」
さくら
「アメリカでは天才と言われました。残念ながら教員の職がなく無職です」
ブラケット博士
「私のところで採用しよう」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「いや、参謀として私が雇おう」
ジョンソン
「閣下は扶桑人が大嫌いと仰ったはずですが」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「能力があるなら話は別だ。
それじゃとりあえず爆撃機の手配、戦闘機の手配だ。
ジョン、すまないがさくらと別途撤退作戦の立案をしてくれ。まとまったら私が確認して最終的には正式ルートで動かす」


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注1
参考
・「イギリス貴族」小林章夫、講談社現代新書、1991

注2
イギリスの防空体制を構築しバトルオブブリテンに勝利した功績者であるヒュー・ダウディングは、日本嫌いで有名だったそうだ。しかし偉大な功績をあげても最終的にあまり人から好かれず閑職で終わったのは、偏屈で人付き合いに問題があったのだろう。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hugh_Dowding


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