*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
1931年1月20日 フランス ダンケルク市 イギリス軍 連隊長 我々イギリス軍とフランス軍はフランス北東部、ドーバー海峡側に追い詰められている。ドイツ軍もあまり強圧をかけると窮鼠猫を噛む逆襲に出ると考えているのか、急激な攻撃はしないでジワジワと攻めている。 だから我々も今日はこれくらいかなというある種妥協というかそんな感じで抵抗を続けている。とはいえ後ろは海だから、日々の後退がわずかであっても、20日あるいはひと月で海岸から追い落とされるのは目に見えている。 毎日くらい超高空を飛ぶ我が軍の爆撃機が、前線のはるか向こうのドイツ軍陣営に大量の爆弾を落としているのだが、最近は向こうも対策を考えて堅固な防空壕とかコンクリートの建物の地下などでそれを凌いでいると聞く。 だんだんと追い詰められてきたので、以前よりも兵士の密度が上がっている。そして顔つきの違う兵士がいろいろといる。イギリス軍といっても我々イギリス人だけでなく、インドで徴兵された色黒の兵士、アフリカから来た兵士はまた黒さが違う。それにフランス人といってもアルジェリアから来た兵士もいる。その他、ポーランドから逃れてきた兵士、ベルギーで降伏せず我々と一緒に戦って来たベルギー人。耳にする言葉だけでも10種類はあるだろう。 師団長からイギリスはフランスからの撤退を決定したと聞かされたが、それをフランス政府に伝えることはなく、当然フランス軍もそんな計画があるとは知らない。 1931年1月21日09:00
そしてまた王族に生まれれば軍務に就くのは宿命だ。幼いとき先の欧州戦争で登場した飛行機を見て、あれに乗らなくちゃと憧れた。 私が入隊する前に組織改編があり、陸軍航空隊と海軍航空隊が統一され王立空軍となった。ということで王立空軍に入ったが、生まれついて平衡感覚が人に比べて劣っており、パイロットには不適格と烙印を押されてしまった。 とはいえ陸軍か海軍に進路を変えるのもしゃくで、空軍基地の対空砲部隊に配属してもらった。それから8年、対空砲の指揮官をしたり航空管制を学んだりしてきた。 今年、欧州で新たな戦争が始まり、今ドーバー海峡の向かい側で、我が軍とフランス軍が、ドイツ軍に対して悲壮な戦いをしている。まもなくフランスでの戦争はドイツの勝利に終わり、そして戦火は我本土にも降りかかってくるだろう。 とそんなこんなでアタフタしているところに、オヤジから手紙が来た。とはいえ手紙を書いたのは書記官だろうけど。 なになに……なんだって!俺に政略結婚をしろという話である。どこの王室の姫様かと下まで読むと極東の扶桑帝国の姫様だという。
私は手紙を放り投げて足を机の上に投げ出して天井を仰いだ。 ドアが開いて上官であるブラックスミス少将が現れた。 王族とはいえ、上官に失礼な態度は取れない。慌てて足を降ろして立ち上がり敬礼をする。 | |||||||||
「バート中佐、どうした? 顔色が悪いぞ」
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「プライベートなことであります」
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「それならなおのこと私が知っておかねばならならんな」
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「オヤジから政略結婚しろと手紙が来ました」
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「ほう奇遇だな。私にも国王から手紙が来てね、お相手の品定めを頼まれた」
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「はあ? そのお相手はこの国に滞在しているのでしょうか? 留学とか?」
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「この国にはいるが、留学ではない。その逆でダウディング大将の部隊でいろいろと指導しているそうだ」
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「指導? 後進国のお姫様が何を教えてくれるのでしょう?」
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「釣書を見てないのか? 嫁さん候補はアメリカのラドクリフで国際政治学のドクターを取っている。その後、アメリカ戦争省の補佐官の下で働いていた。諜報機関の報告だと、単なる情報分析ではなく作戦案の策定をしていたとか。 政治学といっても戦術研究で、ジョミニやクラウゼヴィッツたちの戦争論を研究したらしい。興味があれば博士論文は公開されている。おっとドクターを取ってから長いようだが、飛び級だから君よりはるかに若いよ」 | |||||||||
「要するに彼女はバカではないということですか」
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「それどころか天才らしい。そして今はダウディング大将が考えている防空システムについてアドバイスしていると聞いた」
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「天才ですか……ちょっと興味が出てきましたね。容姿はどうでしょう?」
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「5フィート5インチ(165センチ)、体重の記載はなし。東洋人とはいえ背は低くない。というか我が国でも普通だな 髪の毛は黒、瞳は濃茶、東洋人ならあたりまえと。 美人かどうかは書いてない。それで早速見に行くつもりだ。一緒に行くか?」 * イギリスがメートル法を採用したのは1965年 | |||||||||
「せひとも」
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1月21日10:00● 空軍戦闘機軍団司令部 オペレーショナル・リサーチ・セクション(CCORS) さくらはこのところ、ブラケット博士にオペレーションズリサーチの講習をしている。先週は線形計画法とシンプレックス法を説明した。
後で考えたら線形計画法は1945年以降に複数の人によって考えられたらしい。一瞬、ちょっとまずかったかなと頭に浮かんだが、そんなことは気にしない! この世界は私のものだ。隠すのではなくちゃんと教えてブラケット博士に堂々と論文を書いて発表してもらうことにしよう。 それから評価の際に、機会損失の考えを盛り込むようにすることも伝えたい。そんなことをA4で1ページにまとめた。 さくらが10名ほどのブラケットチームを前に講義を始めようとしたとき、一人の将官と一人の士官が入ってきた。 | |||||||||
「東洋のお姫様が我国の科学者に講義されていると聞いた。見学させてくれ」
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「これはブラックスミス少将、お久しぶりです。我々はオペレーションズリサーチの創始者のつもりでしたが、プリンセスは私たちのはるか前を歩いています。ご教示いただいていますが、プリンセスの話は進み過ぎているのと高等数学を使うので理解が難しいです」
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「先進というと、どのようなことなのか? それは今までとどんなところが違うのか?」
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「解法の考え方ですね。問題の構造を考える。多様なアプローチを考え、最適な手法を選び解くということですか」
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「今までと同じように聞こえるが?」
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「そりゃ大きく言えば皆同じです。先週は多変数の問題において、変数の数を減らして解くシンプレックス法の教えを受けました。聞いてみればなあんだと思いますが、今まで気がつきませんでした」
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「私が紹介したさくらがCCORSのお役にたてて光栄です」
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「プリンセスご本人のお言葉をまだ賜っておりませんが」
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「さくらです。このチームの方々の頭脳には恐れ入ります。私がちょっとしたアイデアを語るだけで、それを理解し我がものとされます」
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「お褒めいただき感謝です。それでは聴講させていただきますので、どうぞ進めてください」
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さくらは予定していたことの説明を進める。実を言ってさくらは、21世紀までに考案された手法や適用例を紹介するだけだ。もちろん理屈と具体例を説明できなければ教えることはできない。さくらは大学と大学院で種々シミュレーションやOR手法を学んできて良かったと思う。 お昼になる。 | |||||||||
「プリンセスとブラケット博士、ランチを用意した。ご一緒してほしい」
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「私も同席してよろしいでしょうか?」
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「すまん、今日ははるばる我国に指導に来られたプリンセスとお話をしたい」
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というわけで、4人でランチと相成る。 | |||||||||
「プリンセス、この研究からどのような成果が期待できるのだろうか?」
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「一例を言えば同じ数の爆雷でより多くの潜水艦を沈めるとか、同じ高射砲の弾数でより多くの飛行機を撃墜することができるようになります」
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「同じ兵器でも運用方法を見直せばそんなことができるのか……」
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「もちろん、いろいろな使い道があります。ドイツ軍の爆撃の被害を減らすといっても、それも建屋の被害を少なくするのか、それとも人命の被害を少なくするのかで解は異なります。いろいろな条件の下で最適解を数学的に求めるわけです。 もちろん上位目的は戦争に勝つことです。でもその目的達成するにも爆撃の被害とか人員の負傷などのプライオリティがありますね」 | |||||||||
「同じ武器、兵士であっても、そのような効果が期待できるとは、ちょっと信じられません」
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「生産工場では、設備の良し悪しによって生産性が変わります。しかし設備が同じでも人や機械の管理を工夫することで効率を上げる科学的管理法がアメリカで考えられ世界中に広まりました。 同じように作戦とその運用においても、手順や基準を見直せばより効果的にできると過去より研究されてきました」 | |||||||||
「ほう、そんなことありましたっけ?」
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「少将閣下、ご冗談を、古来より武器や兵士に合わせて種々戦闘教義が考えられ、また軍隊の構成・組織が考えられました。ジョミニは戦争遂行の方法論を語りました」
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「ああ、そう言われると……オペレーションズリサーチもその流れですな」
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「その流れと言われてはそれまでですが、それを理論的に体系化し数学の問題にするのも大変なのですよ」
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「先日ダウディング将軍のお話を聞く機会がありましたが、将軍はレーダーだけでなく人間による監視や一般市民からの情報などを総合的にまとめて防空に生かすと言います。 ああいったことと、オペレーションズリサーチの関係はどうなるのでしょう?」 | |||||||||
「目的達成には多様な方法や技術が関わるとお考え下さい。ブラケット博士のチームの仕事もダウディング閣下の仕事も、相互に関連し支え合って成果を上げると考えています」
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「ダウディング将軍の考えもオペレーションズリサーチのひとつであるということか?」
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「オペレーションズリサーチとは解法であり、ダウディングシステムは解のひとつということでしょうか」
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「ブラケット博士、現在喫緊の課題であるダンケルクの撤退についても考えているのか?」
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「もちろんです。なにを目標とするかは作戦によって違います。今回の目標は効率の最大化ではありません。 30万人をフランスからイングランドに連れてくるとき、輸送効率を上げるのは重要ではありません。効率が悪くても一人でも多くの兵士を無事にイングランドに連れ帰ることに価値があると思います。あるいは戦死者を最小にすることが最優先事項かもしれません」 | |||||||||
「さっきプリンセスが言ったようなことだな」
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「単純にはいきません。さまざまな要素が関わりそれらの諸条件の変化に応じて最適解を見つける支援をするのがオペレーションズリサーチかと思います」
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「なるほど、おっとプリンセスもドクターでしたね、ドクタープリンセスと呼ばねばなりませんな」
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「同じドクターでもブラケット博士はやがてノーベル賞を受賞するでしょう。私はそのようなレベルではありません」
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「プリンセス、ご冗談を。私はプリンセスの生徒ですよ」
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「プリンセス、ダンケルク撤退は成功するかね?」
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「まず成功の定義を決める必要があります。なにごとにも満点もなければ零点もありません。 フランスにいるイギリス兵は30万、でも彼らだけではありません。降伏を潔(いさぎよ)しとせず徹底抗戦したいフランス兵、ベルギー兵、ポーランド兵もいるそうです。都合40万になるでしょう。はっきり言って全部は無理です。彼らの何割を撤退させれば成功でしょうか?」 | |||||||||
「9割、36万を無事イングランドに連れてくることが成功条件でしょう」
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「それは達成可能かね?」
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「そのためには二つの条件、ドイツ軍の砲撃を止めること、そして戦場の航空優勢が必要です」
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「当然だな。そして双方とも難しい」
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「爆撃機はアメリカの100機、既に90まで損耗していますが、その運用。それと戦闘機隊の稼働率向上、それにかかっています」
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「戦場ではいつも予期しないことが起きるが、それは常に悪いことばかりで良いことは起きないんだ」
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少将が帰るとジョンソンがさくらのところにやってきた。 | |||||||||
「どんな話だった?」
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「オペレーションズリサーチについての初歩的な説明よ。それからダンケルク撤退はうまくいくだろうかという質問」
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「あとで気が付いたんだが、あの士官はジョージ国王の息子だよ」
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「国王の息子! 王子なの?」
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「イートンで俺より三つか四つ下のはずだ。第3王子か第4王子だと思う。だから王位継承権はだいぶ低い。空軍で何をしているのだろう?」
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その夜、ブラックスミス少将は国王当てに手紙を書いた。● ● はるか昔、少将が少尉候補生のとき乗っていた砲艦の艦長が国王となりキングジョージ5世を名乗った。それ以来の付き合いである。だから二人だけの時の呼びかけはジョージ艦長であり、少尉候補生である。
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1月24日● ● 領事館からさくらに連絡があり、明日朝 領事館に来いと言う。時差が9時間あるので、打ち合わせはロンドンが8時から10時頃、東京が17時から19時頃に行うことにしているのだ。 | |||||||||
「バート中佐に会ったかね?」
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「ハイ、おとうさま。私の仕事を見学にきました。その後オペレーションズリサーチセクションのボスのブラケット博士と一緒にお食事しました。 後でジョンソンからバート中佐は第4王子だと聞きました。私ばかりでなく多くの人はそれに気づかなかったようです」 | |||||||||
「どうかね、感じは?」
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「はっ! あれってお見合いでしたか? ランチを食べながら仕事のことを聞かれただけでした。王子とは知らなかったから気楽に戦争の予想などを話しましたけど… 感じの良い方ですね。ジョンソンと違い言葉使いも丁寧で、偉ぶることもありません。時節柄話題は戦争のことでしたが、自分だけ話すなんてこともありませんしコミュニケーションが上手です。どの国でも上の人はまっとうなのかしら。中途半端は偉ぶるけど」 | |||||||||
「中途半端って、俺のことか?」
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「お父様は誰に対しても言葉使いは丁寧で腰も低いじゃないですか〜 中途半端といったのはジョンソンのことですよ」 | |||||||||
「これからバートからお誘いがあったら、よく観察してくれ。可能なら来月にでも婚約、そして5月にはご成婚だ、アハハハ」
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「だいぶ急いでいるようですが、戦況の関係ですか?」
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「そうだ、慶事を報道して、フランスでの敗走・ダンケルク撤退でイギリス国民が滅入るのを払拭する意味もある。そして多分初夏にはバトルオブブリテンになるが、そのとき二人が結婚して、国民の前で打倒ナチスドイツを誓うのだ。 持参金はお正月にさくらが望んだ戦闘機150機、そのとき語るセリフを考えておけよ」 | |||||||||
「かしこまりました。兵士が命令を受ければ出撃すると同じく私も」
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「そう深刻になるな。気に入らなければ断って帰って来ればいい」
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「ありがとうございます。お父様には感謝しかありません」
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1月26日● ● さくらはバートにオペラに招待された。まだロンドンは空襲されていないとはいえ、戦時下でオペラとはすごいと、さくらは思う。そういう気風がイギリス人なのだろう。 ディナーのあとにオペラを観る。さくらはオペラなるものが理解できない。言葉は分かっても物語を知っていなければ何が何だかわからない。 お話といっても愛をささやくわけではない。バートは、さくらが戦争がどうなると考えているのかとか、さくらはバートにお仕事とかその危険性などであった。 結婚後すぐ未亡人になるのも困る。イギリスは扶桑国以上に王族・貴族に軍人が多く、かつ下級士官からスタートし、肩書だけでなく実務に就きもちろん実戦にもでる。それは国民の戦意高揚に良いことだろうが、戦死する王族・貴族も多い。まさにノブレス・オブリージュだ。 色気のないそんな話で第1回目のデートは終わった。 バートの反応があまりパッとしないので、次はこちらからアプローチしなければと思う。 ●
1月27日● ● さくらがダウディング大将を訪ねて打ち合わせしていると、バート中佐が現れた。 | |||||||||
「これは殿下、いかがなされましたか?」
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「ブラケット博士から、困ったことはプリンセスに相談しろと教えられました。それでドクタープリンセスにお願いがあってお邪魔した。 まもなくダンケルク撤退作戦を行いますが、損害を少なく撤退するには敵の砲撃の停止と制空権が必須です。それには航空戦力が足りません。アメリカ軍が派遣してくれた爆撃機100機も既に10数機の損耗が出ています。あれはもう扶桑国にもないと聞いています。しかし予備機とか検討用というのはあるでしょう。いくらでも良いから支援のため供与をお願いしたい」 | |||||||||
「あの飛行艇は既に旧式化して我が国では運用していません」
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「そうですか……代替え案はありませんか?」
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「既に後継の新型飛行艇を運用しています。爆撃機型もあります。これは爆弾機として開発されましたから
現行のような手作業での爆弾投下などありません。そのタイプは50機くらい欧州に派遣する余裕はあると思います。もちろん私の一存では決定できません。 それと長距離飛行のため爆弾は積んでこれません。こちらで用意することが必要です」 | |||||||||
「おお!可能性があるなら外交ルートで要請します。到着まで必要な日数はいかほどでしょう?」
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「大円航路でソ連領土を飛行することはできません。アラスカ経由のコースだと2日、途中アラスカとアイスランドでの補給が必要です。アメリカとアイスランドと交渉が必要になります」
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「たった2日! ありがとう、早速外務省と国防省とで貴国大使館と交渉を」
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「中佐殿、ただじゃなくてよ、あとでお返しが欲しいわ」
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「は? お返しと言いますと……」
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「またお誘いしてほしいわ、今度は乗馬でも」🐎
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「喜んで」
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さくらが顔を赤くして言うと、バートは結託なく笑った。 さくらも役者である。いやバートも役者だ。 それにしてもさくらのバート中佐へとジョンソン侯爵への対応は違うねえ〜、 ジョンソンは俺様偉いって思い込みがあるからいかん。脇から見ていると勘違いが痛々しい。 ●
2月1日● ● 扶桑国から派遣された新型飛行艇が50機到着した。前型に比べて速度が100キロ弱向上して、上昇限度も1000メートル高くなり、自己防衛用の機関銃も強化されたという。まあ以前と同じものを作るはずはない。 この50機と今までの80数機で日夜交代で高空から爆撃することになる。爆撃機を攻撃しようとするドイツ戦闘機は護衛のP38で制圧する。 ●
2月3日〜7日● ● ダンケルク撤退作戦が開始された。 イギリス軍の撤退は前日にフランス軍に知らされて、フランス軍は上から下まで驚愕した。フランス兵士は選択を迫られた。フランスに残りドイツ軍に降伏するか、イギリス本土に一旦退却してフランス奪還を図るか、フランス軍だけでドイツ軍と戦う 現実的に三番目の選択はない。フランス軍だけなら一日で壊滅だろう。 結果として一番目の選択をした者は多い。そしてイギリスに撤退した後、フランスで降伏した方が良かったと後悔した者も多い。そんな人々を叱咤激励したのがドゴール大佐であった。それは後の話である。 撤退前に徹底した空爆によってドイツ軍の攻撃が止まり戦いに空白ができた。イギリス海岸から軍の輸送船だけでなく、客船、漁船、レジャー用ヨットまで数千の小舟が出て兵士を浜から沖の輸送船へ、場合によってはそのままイギリスの海岸まで運んだ。 ここで勘違いしてはならないことがある。イギリスとフランスを分かつドーバー海峡は距離にしてわずか30キロしかない。東京湾を横断するアクアラインは15キロであるが、これは川崎と袖ヶ浦の最短ルートを取ったからで、千葉市と羽田空港の海岸の距離は30キロある。つまりドーバー海峡は千葉と羽田の距離と同じで、向こう岸の建物や煙突が見える距離なのだ。 更に言えば関空と神戸空港を結ぶベイシャトルという高速船は、20数キロを30分でつなぐ だからダンケルク撤退とは、千島列島のキスカ撤退作戦とは雲泥の差である その最大の課題であるドイツ空軍を抑えるために、爆撃機は休むことなく往復し、P38は高空を制圧し、ハリケーンやスピットファイアは低空から5000mの空域のドイツ軍機を抑えた。 史実いや日本の世界ではダンケルク撤退では、ドイツ軍の砲撃が止まることなく避難直前に砂浜で多くの兵士が斃れた。そして36万人の移動に20日を要した。 この世界では徹底した空爆でドイツの砲撃と航空戦力を抑えたので、24時間輸送して3日で完了した。とはいえ、撤退できずあるいは殿軍となって戦い、戦死あるいは捕虜になったものは4万に上った。 ●
2月14日● ● フランスは降伏を申し出て、ドイツ軍はパリに無血入場した。 |
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注1 |
現在のイギリスの女性の平均身長は161.9cm、日本の20歳の女性の平均身長は159.5cmである。100年間に日本女性の身長は16センチ伸びたという。イギリス女性の100年前は分からなかった。エリザベス2世が若いとき163センチという。 | |||
注2 |
現実のダンケルク撤退でも、フランス軍に伝えられたのは直前だった。ダンケルク近くにいたフランス軍はイギリス本土に撤退したが、それ以外の地域にいたものはドイツ軍に降伏した。 その後、イギリス本土に避難した兵士の多くは、避難せずにフランスでドイツ軍に降伏していれば良かったと後悔したという。敵の支配下でも戦争をするより良いと考えたそうだ。 イギリスに逃げたドゴール(当時 大佐)はフランスを奪還するのだと、イギリス本土に避難した兵士だけでなく本土で降伏した兵士たちにラジオでメッセージ伝えた。ドゴールもチャーチルもやるときはやったのだ。男をあげるというあれだね
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注3 | ||||
注4 |
キスカ撤退作戦 第二次大戦のとき日本軍はアリーシャン列島にも進出していた。戦争末期になるとアメリカ軍が押し返してきて1943年5月アッツ島で2,700名が玉砕(全滅)した。そこから300キロ離れたキスカ島に6,000名の兵士がいたので、これを救出する作戦を立案し、同年7月にアメリカ空軍・海軍厳戒の中、千島列島幌筵島(ほろむしろとう)までの1,550kmの救出作戦を行った。一人の犠牲者も出さず完了したこの作戦は後に「キスカの奇跡」と呼ばれた。 |