*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
* 地図の縮尺は、分母が大きいと縮尺が小さく、分母が小さいと縮尺が大きいという。。
通常の世界地図をみてノルウェーが日本と同じ面積とは思えないだろう。イギリスは日本より大きく見えないか?上図はメルカトール図法で、高緯度が大きく表示される。 同緯度の地中海の国々とは変わらないが、ドイツなど北の国々に比べると小さく表示される。 |
上図は「実際の国の大きさを比較できるサイト」での表示。 北海道とドイツを比べると左図と違うのがわかる。 新しいグーグルマップではこれと同じく表示される。 |
3月20日 横浜港を1式戦150機とその兵員を積んだ輸送船団が出向した。めかたは軽いが嵩があるので貨物船は1万トンクラスになる。搭乗員や整備員は客船に乗る。 元々のこの戦闘機の行き先は南洋諸島のパラオで、南洋諸島の警護に当たる予定であった。今年1月に内閣がイギリス支援を決定したことにより、急遽イギリスに送ることになった。 中野がさくらに一式戦を送ると伝えると、さくらは外交交渉で話をしないようにと注文を付けた。中野はさくらが何か企んでいるのだろうと余計なことを言わず了承した。ということで大規模な戦闘機部隊の移動は公表されなかった。 輸送船と客船には護衛として3隻の駆逐艦が付いた ●
4月12日● ● ダウディング大将がさくらのところにやってきた。 さくらの保護者 or マネージャーのつもりでいるジョンソンが一緒についてくる。 | ||
「ダンケルク撤退のとき爆撃機を派遣してもらい感謝している。新たなお願いだが相談に乗ってくれ。 ドイツがフランス全土を占領したからには、次はイギリス本土進攻だ。当然彼らは最初に我国の航空勢力壊滅を図るだろう。飛行場の爆撃、レーダー破壊、守るには制空権の維持が必要だ。だが戦闘機が絶対的に足りない。アイデアがないか?」 | ||
「ダンケルク撤退からひと月、ドイツ軍はドーバー海峡沿いに多数の飛行場を作っているそうですね」
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「良く知っているな、誰から聞いた?」
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「我国の偵察機が毎日飛んでいて、お宅に情報を提供しているでしょう。その情報は当然私にも報告されていますよ。 早期警戒管制機が敵機を見つけても、飛び上がる戦闘機がなければ手がありませんね」 | ||
「ブラケットがプリンセスならどんな問題でも解決してくれると言っていた」
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「アイデアはあるのですが、実行には閣下の協力が要りますね」
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「もちろんだ、ワシの命だってやるぞ」
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「閣下は愛国心の塊ですね。なぜ我国に敵意をお持ちなのか、それが不思議です。 まあ、それはともかく先月20日に戦闘機150機を載せた輸送船が、横浜からイギリスに向けて出港しました。日付は現地時間ですから、こちらでいえば19日ですね」 | ||
「なんと! 今日は12日、もうひと月近くなるのか! 今どこを航海している? 150機と言ったな。それなら我が軍は一挙に機数が4割増しになる」 | ||
「ブリティッシュコロンビアの沖合800キロ、明後日にはバンクーバーに着きますね」
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「バンクーバー? 船ならパナマ運河だろう?」
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「パナマ経由ですとあとひと月かかります。それじゃ、ドイツ軍の航空攻撃に間に合わず不戦敗です」
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「どうするのだ?」
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「だから閣下の協力が必要なんです。 一つ目のお願いは、バンクーバーで陸揚げして整備するのに10日。そこからニューファンドランドのセントジョーンズまで3日で飛びます。飛行機とパイロットだけではしかたありませんから、整備士一行200人と予備部品を乗せる輸送機を手配してください。大物は鉄道で大西洋岸まで送り、そこから船で送る手配をしてください。もちろん途中の飛行場と宿舎も」 | ||
「ニューファンドランド島まで飛ぶ? それから?」
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「最終日はセントジョーンズからアイルランドを経由してイングランド着です。お望みどおりでしょう」
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「ええとバンクーバーが14日、整備をして24日、セントジョーンズ着が27日、イングランド着28日だ〜? 冗談じゃあるまいな! そもそもそんな長距離を飛べるはずがない」 | ||
「我国の戦闘機は3,000キロ飛びます。驚くことありません、アメリカのP38も2000キロくらい軽く飛びますよ。メッサーシュミットやスピットファイアを基準にすると信じられないでしょうけど、欧州の戦闘機は航続距離が短すぎるのです」
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「性能はどうなんだ? 時代遅れじゃないんだろうね」
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「それは見ていただくしかありませんね。 二つ目のお願いは輸送の便宜だけでなく、本土防空作戦ではすべての戦闘機も地上の基地も、我国の早期警戒管制機の指揮に入ってもらいます」 | ||
「なんだと! それは指揮権を渡せということか……」
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「検討した結果、管制機3機で分担します。北海方面、イギリス海峡、ケルト海方面、管制機は4機しかありませんが、8時間飛行、4時間整備で何とか回します。管制機の護衛は頼みますよ。お宅のレーダーの何倍も貴重なのですから」
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「うーん」
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「それから大事なことをもう一つ、我国の戦闘機はブローニングの12.7ミリ機銃が付いてます。12.7ミリ機銃弾を1,000万発くらい用意してくださいね」
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「1,000万……桁外れだ」
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「だって1機に1,000発として、150機で15万発、一日3回出撃で30日で1,500万発、おかしくありません」
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「戦闘機が増えると喜ばしいことばかりではないな」
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4月27日● ● さくらは第4王子と婚約を発表した。バートもさくらに欠点は見いだせなかったし、ブラケット博士やダウディング大将たちから、彼らはさくらをイギリスの至宝だ、イギリスから逃がさないために絶対に結婚しろと脅された。国のために結婚するなら俺は国家の道具だと自嘲したが、政略結婚とは元々そういうものだ、 戦時下であるから派手なイベントはないが、マスコミは大英帝国と扶桑国の結びつきが強化されると好意的に報道した。翌日新聞を見た大勢の市民がロンドン、セントジェームズ街にあるバード王子邸を取り巻いて声援を揚げる。 | ||
「さくら、集まった人たちに顔を見せて挨拶しなくちゃならない。用意はいいかい?」
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「ええ、ちょうど時間よ」
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「時間とは?」
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「私の持参金が届くの」
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「今はビクトリア朝じゃないよ | ||
「見てのお楽しみ、表に出ればわかるわ」
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バルコニーに出て二人は手を振る。そのとき遠くから爆音が聞こえてくる。ものすごい大編隊のようだ。空襲警報が鳴らないからドイツ軍機ではないはず…… | ||
「何の音だろう?」
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「だから持参金」
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ほどなく頭上200mくらいを翼に日の丸が描かれた単発の小型機が編隊を組んで飛んでいく。次から次から途切れることなく飛んでいく。あまりにも多く数えることもできない。 さくらはバートを振り返ると微笑んだ。 | ||
「気に入ってくれたかしら 💖」
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はるばる極東からひと月かけてやってきた1式戦150機が、イングランドに到着したのだ。 翌日の新聞は「東洋のプリンセスは軍神だった」とか「プリンセスの持参金 戦闘機150機」という見出しが躍った。 ●
4月29日● ● 150機もの戦闘機が一つの基地におけるわけがない。ドーバー沿いの5つの飛行場に分散配備された。戦闘の時はどの国も飛行場をたくさん作った イギリス政府として東洋からはるばる支援に来てくれた飛行隊の歓迎式典をロンドンで行う。王族とか政府高官はでないが、戦闘機軍団司令のダウディング大将を始め外務省や軍の関係者は出席する。さくらは婚約者であるバートと共に出席した。 さくらは扶桑国から来た兵士に挨拶し激励する。 さくらは事前に養父に依頼して、派遣団の兵士の氏名、以前の所属などを調べていた。その中に関東大震災のとき追浜にいた友保中尉も今は少佐、下総基地の加藤軍曹も曹長、そして当時横須賀海軍航空隊の丸橋は大佐となりこの派遣隊の総責任者になっていた。 それを知ったさくらは、整列した300名近い兵士に話しかける。 | ||
「私は中野の宮家のさくらと申します。皆さまとは戦友と考えています。それは言葉の綾ではありません。8年前の関東大震災のとき、皆さまの多くが帝都の消火に出動しました。そのとき防災司令部から皆さんに指示したのは私です。私の声を覚えている方もいらっしゃるでしょう。 今私はこの国に嫁ぐ者として、この国を守るために来られた東洋の勇者たちを歓迎します。この戦いはこの国の防衛に留まらず、我が祖国の安全に密接に関わっており、この戦いは我国の防衛戦でもあるのです。皆さまの武運と活躍を祈念します」 話を聞いて丸橋司令を始め、ああ、そうだったのか、という顔をする者が散見される。 「ここにあるのは備前長船光忠。これは我が祖母が宮家創設の際、先々代皇帝陛下より賜わり、そして私が嫁ぐにあたり父中野々宮から受け継ぎました。 私はこれを、皆さんの中からエースとなられた方に授与します。でも戦死や負傷した者には与えません。立派に務めを果たし無事帰国する者に与えます。この光忠に勇者の誉れを重ねて子孫に伝えることを願います」 | ||
あちこちで、オオオーという声が上がる。 翌日の新聞の見出しは「プリンセスは扶桑国大地震では防災司令部で活躍」とか「サムライの魂を伝えるプリンセス」などになった。 さくらは派遣者とイギリス国民双方にポイントを稼いだ。バートがさくらを見る目も変わったようだ。 ●
4月30日● ● ここはドーバー海峡から30キロほど離れた空軍基地。非舗装の1000mほどの滑走路が2本並んでいる。 ダウディング大将と扶桑国の丸橋司令を始め双方の幹部10人ほどが、指揮所から空を眺めている。 | ||
「貴国の戦闘機は馬力があるから離陸からの上昇はすごいなあ〜」
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「エンジンだけでなく定速プロペラだからでしょう | ||
「まあ、実際に空戦をしてみないと……これからの模擬空戦を見てから」
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最初は1対1で始まる。左右から近づきお互いに旋回して相手の後ろにつこうとするのだが、あっという間に扶桑国の一式戦はスピットファイアの後ろについて終了だ。 次に一式戦の上方からスピットファイアが一撃離脱を狙って降下してきたが、これも上昇して巴戦に持ち込んでしまった。 | ||
「馬力もあるし、小回りもきくか……メッサーシュミットはスピットファイアよりも翼面荷重が高く小回りはきかない。ということはこれ以上の差が付く、楽勝だな | ||
但し高度6000を超えると、一式戦は途端に馬力が落ちてスピットファイアに勝てなくなる。ダウディング大将はそれを見てニヤニヤする。 実はスーパーチャージャーの効きを悪くしているのだ。それは実力を隠す意味もあるが、高空での戦いはスピットファイアに任せるという布石でもある。比較の問題だが、スピットファイアがそれほど不得手でない高空域を任せることにしたのだ。 もちろん実戦ではスーパーチャージャーの設定を正常に戻しておく。 ●
5月10日09:00● ● 空軍戦闘機軍団司令部 ダウディング大将、バート中佐、他空軍戦闘機軍団幹部そしてオペレーターがいる。またさくら、扶桑国派遣団の丸橋司令他幹部数名、いつものようにジョンソンがいる。 部屋の中央には大きなテーブルがあり、そこに北はノルウェー、東はオランダ、南はビスケー湾、西はアイルランドまで地図が描かれた大きな板が載っている。ダウディング大将の考えた仕掛けだ。 板の上にレーダーで発見したり地上や飛行機から見つけた敵味方の飛行機の印が置かれる。それだけなら昔から使われていたものと同じだが、報告時間により色の違った印を置いていき、編隊の移動が見えるようになっている。そしてそれを基に防空戦闘機の発進や、どの編隊をどこに向けろとか指示するのだ。 しかし今日は更に違ったものがある。一方の壁全面に同じような地図が描かれている。いや、描いたのではなくプロジェクターで映し出されているのだ。 | ||
「机の上と同じように見えるが、これは映画か?」
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「映写する方法からは映画に近いです。ただフィルムを映しているのではなく、現在の早期警戒管制機のレーダーの情報です」
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「ここに集まったのはなんのためなんだ?」
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「本日早朝にコーンウォールのファルマスを目指して、輸送船25隻がロンドンを出港しました」
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「そりゃ……無茶をする。イギリス海峡はUボートの巣、見つかったらおしまいだ」
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「今日は潜水艦ではなくドイツ空軍のイギリス本土攻撃前の練習のようです」
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「どういうこと?」
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「まもなく攻撃隊が出撃します」
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「どうして分かるのか?」
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「だって私たちは上空から監視しているのですから、飛び立ったかどうか、どこを飛んでいるか一目瞭然です」
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「今朝4時頃出港したとして、15ノットで5時間、150キロか……カレーを過ぎたか」
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「もう少し先でイーストンボーン沖にいます」
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「リヒトフォーフェン(注7)の野郎がシェルブールに陣取っていたな。シェルブールから飛行機なら20分」
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「おお、もう離陸し始めましたよ」
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シェルブールのモーペルテュ飛行場と思われるところに赤い印が映される。すぐにそこより東へ50キロくらいの海岸沿いにもいくつもの表示が現れた。 | ||
「この光点は敵機なのか?」
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「そうです。詳しく見たければ拡大すれば1機1機までは無理として、編隊くらいは判別できます。」
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「この船団の護衛を飛ばしていないのか? 飛ばしたのだろうな!」
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「はい、既に早期警戒管制機から近辺の基地へ指示が出ており、こちら側の戦闘機120機近くが離陸しています。青い光点が味方機です」
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「120機だって! 全戦力の2割も発進させたのか?」
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「おじさま、ドイツ空軍が飛ばしてきたのは急降下爆撃機約80機、メッサーシュミット40機以上ですよ」
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「なんだって! 大戦争じゃないか、それじゃ120機でも足りないだろう?」
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「おじさま、静かに状況をご覧ください」
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皆は一斉に大画面を振り返った。既に船がいるであろう地点の周辺に赤色と青色の点が集まりつつある。いやまだ船団とは画面上で10センチくらい離れている。実際の距離は20キロはあるのだろうか? | ||
「状況はどうなのか?」
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さくらが画面を拡大すると、船団が船の形で表示され、そこからだいぶ離れた地点に赤の×印と青の×印が何点も表示された。 | ||
「これはなんだ?」
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「撃墜されたと思われる飛行機とその位置です。赤がドイツ、これは各機からの報告を入力しています。青は我が軍です。これは無線通信が途絶えたものを表示しています」
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「ということは……」
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「ただいま数えましたが、赤が23個、青が8個でした。 船団はまだ攻撃を受けておりません」 | ||
ドイツ軍は既に引き上げにかかっている。航続距離から往復を除くと戦闘できる時間は20分くらいしかないのだ。 イギリス軍機が追いかけるがこれもすぐに引き返す。メッサーシュミットもスピットファイアもとにかく足が短いのだ。シェルブールからこの地点まで約180キロ、往復360キロ、メッサーシュミットBf109Eの航続距離は660キロだから現地での空中戦は30分もしていられない。イギリスの戦闘機も自慢できるほどではないが、現地から100キロ以内に6つも7つも飛行場があるのだ。ドイツ軍機はイギリス海峡を越えてくるだけ分が悪い。 | ||
「これで終わりかな?」
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「とんでもありません。ご覧ください、もう第2波が飛び立ちましたよ。彼らはなんとしてもこの船団を沈めなければメンツが立たないでしょう」
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「また防衛戦か?」
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「今度は扶桑国の戦闘機でしょっぱなを叩くつもりです」
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映像はコタンタン半島を大きく映している。赤い点が数十個固まって北東に進んでいる。 画面右上に青い点が20個くらい左下に進んでいる。映写した画面上でそれらの点を見つけたときは50センチくらい離れていたが、あっという間に数センチまで近づいている。 | ||
「さあて、我が軍の若者のお手並み拝見だ」
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赤い点がばらけるがそこに青い点が突っ込んでいく。青い点を避けた赤い点はまた集まりつつ北東に進む。また北東から青い点々が近づき逃れた赤点を追いかける。 3分も観ているうちに赤点は南西に方向を変え、北東に進むものはなくなった。 | ||
「損害はどうか?」
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「赤のバツが20個くらいですか……青のバツはありませんね」
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「よしよし」
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「また来るのですか?」
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「来るでしょうね。リヒトフォーフェンという方は狙った獲物は絶対に諦めないと聞きます」
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「あいつを知っている。部下に無茶な注文をするそうだ。今日もそうだろう」
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「でも今と同じなら攻め手がありませんよ。無駄なことです」
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「こちらから爆弾をプレゼントしよう。シェルブールの飛行場を爆撃だ」
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「閣下、もう手遅れですよ。第3波が離陸しました」
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「管制機から無線電話が入りました。今度のドイツ軍機は約80機、すべて戦闘機、爆撃機はない。要撃に注意されたしとのことです」
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「言い方を変えると船団を攻撃する手段は機関銃だけということか」
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「80機の戦闘機に撃たれたら蜂の巣ですよ。船団まで来る前に叩くしかありません」
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「管制機、こちら空軍戦闘機軍団司令部 我が軍の戦闘機隊に先手で攻撃させろ。それから逃がさないで追い込め。こちらの被害をださないように」 | ||
「そういう命令を発すると、管制機はすべての戦闘機に指示するのか?」
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「というか、元々すべての戦闘機は管制機から指示されたコースを飛び、指示された目標を攻撃するだけです」
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「考えることなくただ指示された通りにか?」
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「そうですね、戦闘機とパイロットは考え判断するのではなく、単なる空飛ぶ機関銃扱いです」
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「それはまた……」
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「でも科学的管理法って工場で同じことをしてますよ」
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シェルブールを飛び立って10分くらいの時、編隊上空からP38数十機による攻撃をかける。ドイツ軍機がバラバラに散らばって飛行機が再び編隊を組もうとしているとき今度はスピットファイアによる上空からの攻撃、再びばらけたドイツ軍機を一式戦が北東に追い込む。まるで牧羊犬が羊を追い込むようだ。もう飛行しているメッサーシュミットは当初の6割くらいに減った。4割は既に海の藻屑だ。50機くらいのメッサーシュミットを100機の一式戦が追う。 メッサーシュミットはフランスの陸地に向おうとするが、そちらに向かおうとすると即撃墜される。既に燃料は戻る分はない。 | ||
「一体何をしようとしているんだ?」
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「燃料切れで北海に着水させるんでしょうねえ〜」
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ドーバーを過ぎてドイツ編隊はバラバラになり、ほとんどがカレーに向かう。ここからなら50キロも飛べばドイツ軍占領地に降りられる。 いつしか一式戦は失せてしまい、スピットファイアとハリケーンの大群がメッサーシュミットを追いかけてひとつづつ片づけていく。陸近くなるとドイツ軍機が離陸し始め、当然早期警戒管制機が見ていて友軍機に警告する。 しかし上昇したメッサーシュミットもあまりにも多いイギリス軍機に恐れをなして近づこうとしない。そうしているうちにほぼ100%が北海に墜ちていった。 | ||
「戦いは終わった。」
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「もう今日はありませんか?」
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「ワシならやめておくな。1日で100機も落とされたら一旦戦いは終りだ。そして対応策を考えなければならない。それができない司令官は軍法会議だ」
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「今日はバトルオブブリテンの初日になりましたね」
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「バトルオブブリテンだって! ネーミングがいいねえ〜、闘志が湧くよ」
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さくらは一瞬余計なことを言ってしまったと後悔した。バトルオブブリテンとはチャーチルがバトルオブブリテンが本格的になったとき、議会で「フランスが負けたときフランスのマキシム・ウェイガン将軍が「バトルオブフランスは終わった」と語ったが、私はここで「バトルオブブリテンは今始まった」と宣言する」と言ったことからきている でもチャーチルでなくてダウディングが使い始めても、きっとこの航空戦はバトルオブブリテンと呼ばれるだろう。 こちらの世界のバトルオブブリテンでは向こうの世界のように大きな犠牲を出さないで、粛々と進めて終わりたいとさくらは思った。 だが歴史の速さが加速された世界では航空戦は簡単に決着がついても、ドイツがすぐさまV1攻撃を始めることにはさくらも思いもしなかった。バトルオブブリテンは終わらない。 |
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注1 |
ソナーの原理は1914年に開発された。第一次世界大戦ではパッシブソナーだけが実用化され、アクティブソナーが実用化されたのは1920年。 この時代には対潜哨戒には十分な機器がそろっていた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注2 |
2019年現在小笠原諸島には空港はない。空港を作ろうという運動があるが、何分にも平坦で広い土地がない。 しかし太平洋戦争時には1937年に海軍が作った洲崎飛行場がありました。これも広さが足りず最初の滑走路は500mほどで、延長作業が何度も行われ最終的には1000mあったそうです。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注3 |
イギリスで持参金の習慣があったのは1900年末のビクトリア朝まで。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注4 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注5 |
スピットファイアの初期型のプロペラは二速切り替え式で、定速(恒速)プロペラではなかった。その差は大きく性能は段違いだ。 しかし新型機の設計図を過去に持っていけばできるのかといえば、そうではない。アイデアとか設計図だけでなく、製造技術や材料が進歩していなければならない。品質や製造品質やバラツキも重要だ。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
重戦闘機と軽戦闘機という分け方がある。重戦闘機とは大型重量級、軽戦闘機は小型軽量という意味ではない。翼面荷重(kg/m2)が大きいものを重戦闘機、軽いものを軽戦闘機といい、小さな重戦闘機もあり大きな軽戦闘機もある。それを分ける数値が決まっているわけではなく、また翼面荷重は時代と共に重い方にシフトしてきた。同じ時代の相まみえる可能性のある戦闘機を翼面荷重で重軽に区分したものである。 メッサーシュミットもスピットファイアも同時代の日本機やアメリカ機に比べると翼面荷重は重い。翼面荷重が大きいということは小回りが利かないということだ。それは同時に風の影響を受けにくいことであり、低空を殴りこむとか、一撃離脱攻撃に向いているということでもある。 時期が下るにつれ戦法が巴戦から一撃離脱となり、また重武装、爆装するようになるので翼面荷重は重くなっていくが、初期型のメッサーシュミットBf109が第二次大戦末期の他国の戦闘機よりはるかに翼面荷重が大きいことは異常である。まして初期型は非力なエンジンを載せていて、とても空中戦向けの戦闘機ではない。第二次大戦の撃墜王の上位はほとんどBf109を駆ったドイツ人だが、彼らが撃墜した多くは爆撃機だった。それに対し日米の撃墜王はお互い戦闘機同志の決闘だった。
第二次大戦時の戦闘機の翼面荷重比較(離陸時、増槽なし)
バトルオブブリテンで二度もスピットファイアに撃墜されたエース、アドルフ・ガーランドがヘルマン・ゲーリングに「英空軍に勝つにはどんな戦闘機が欲しいのか」と聞かれて「スピットファイアをくれ」と答えたという逸話は有名だ。 「メッサーシュミットの星」の中で、パイロットが「(メッサーシュミットは)扱いにくい」というと、設計者が「バイエルンの田舎者にはこれでいいのだ」と答える場面がある。 世の中にはメッサーシュミットBf109信者も多く、格闘戦に優れていた、旋回はスピットファイアより良かったという人がいるが、現実はそれを裏書きしていないようだ。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注7 |
ヴォルフラム・リヒトホーフェンといい、第一次世界大戦の撃墜王で戦死したマンフレート・リヒトフォーフェンの従兄弟である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注8 |
バトルオブブリテンとはいったい誰が言い出したのかと調べた。なかなかたどれなかったが、イギリスのwikiで見つけた。 The Battle of Britain takes its name from a speech given by Prime Minister Winston Churchill to the House of Commons on 18 June: "What General Weygand called the 'Battle of France' is over. I expect that the Battle of Britain is about to begin." |