異世界審査員173.バトルオブブリテンその2

19.05.16

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

5月10日19:00

BBCニュース
本日、我国南部のブライトン沖で我国の輸送船団をドイツ空軍の大編隊が襲いました。我が王立空軍はこの船団防衛のために200機近い戦闘機を出撃させました。この戦いには扶桑空軍も参加しました。結果、輸送船団は一隻の損害もなく目的地のファルマス港に到着しました。この戦いでドイツ軍は100機以上を失いました。一方、我が王立空軍の損害は24機でした。
空軍戦闘機軍団司令部はフランスの戦いは終わったが、英国の戦い(バトルオブブリテン)が始まったとコメントしました。政府はイギリス海峡であろうと、沿岸航路であろうと護衛なく航海することのないよう注意を喚起しました。
ニュースを終わります。
では次は音楽のお時間です……クラッシックをお楽しみください


5月10日20:00

空軍戦闘機軍団司令部
ダウディング大将、バート中佐、ブラケット博士、ジョンソン、そして扶桑国派遣団の丸橋司令とさくらがいる。

ヒュー・ダウディング空軍大将
「今日はプリンセスが言ったように早期警戒管制機の効果が大であることが分かった。あれがなければとてもこのような戦いはできなかった」
バート王子
「敵がどこにいるのか分かって戦うのですから、負ける気はしないですね」
ブラケット博士
「しかし今日だけで我が方は24機を失い、中破・小破を含めて修理しなければ出撃できないものが40機以上だ。これからこんな戦いが10日も続けば飛べる飛行機はなくなる」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「首相は戦闘機の生産体制を強化し、今後毎月400機生産すると言ってくれた」
バート王子
「とはいえドイツ軍は工業地帯も攻撃するでしょう。生産能力の低下は予断できません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「それが戦争というものだ。ドイツだって我々の攻撃で工場や輸送が破壊されても戦っているわけだ」
さくら
「ストップ、少しまとめましょう。
まず今日失った24機はどうして撃墜されたのかそれを分析したい」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「そうだね、少し頭を冷やさねばならん。ええと、24機の内訳は……」
ブラケット博士
「敵第1波との船団付近での戦いで11機、第2波を止める戦いで3機、第3波の追撃戦で10機でした」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「それからどういうことが分かる?」
ブラケット博士
「第1波の戦いではいくつかのフェーズがありました。管制機からの指示で行った最初の攻撃での損失は皆無です。こちらの攻撃の後、お互いの編隊がばらけてからの戦いはイーブンよりこちらの分が悪いです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ということは最初の攻撃は奇襲だから勝てて、双方が敵を認識したら我が方は弱いということか」
ブラケット博士
「そうですね。最後の逃げ去るメッサーシュミットを追撃するときに10機も失ったのは空中戦に弱いとしか考えられません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「つまり管制機からの指示通り攻撃するなら損害はない。扶桑軍の損失がゼロということは、彼らは空中戦になっても負けていないことだ。
となると明日以降どういう作戦になるかと言うと」
ブラケット博士
「敵機を認識したら第一撃は管制機の指示にとおりに攻撃する。王立空軍は第二撃をしない。第一撃で撃ち漏らした敵機には扶桑空軍が対応するというのが数学的な解でしょうね」
丸橋司令
「アハハハハ、それは我が軍だけが分の悪い戦いだ。乱戦になれば勝敗は確率的になり、キルレシオを1対10としても10日で壊滅してしまう。
それに真面目な話、我が軍が消耗したら次はイギリス空軍がそれ以上の速さで消滅することになる」
ジョンソン
「さくら、そうなるのか?」
さくら
「ひと月かどうかはともかく、数学的にはそうなります。
でもダウディング閣下、今日の結果を見て明日を考えてもダメですわ」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「どういう意味かな?」
さくら
「ドイツが今日の結果から考えて明日とる作戦に、対抗しなければならないということです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「うーむ、その通りだ。だが、今日の結果を見てドイツが何を考えるか分かるのか?」
さくら
「まず今日は我国の輸送船団を空軍で撃破しようとしたわけです。やってみたらカウンターを食らって撃破された。そうすると明日はなにをするでしょう?」
ブラケット博士
「敵は我々が攻撃を事前に探知したこと、それに合わせて待ち構えていることを知った。すると事前に検知することを防ぐためにレーダー基地攻撃、そして要撃機を発進させないために空軍基地を攻撃する」
さくら
「私もそう思います。もし早期警戒管制機の役割を察知したら、それを撃墜しようとするでしょう」
ブラケット博士
「ドイツ軍は以前からレーダー基地を認識していて、スパイを忍び込ませたり海岸から監視したりしていた。しかし早期警戒管制機については理解しているだろうか?
もちろん以前からベネルクス上空とか開戦以降はドイツ上空を飛んでいる偵察機としての認識はあるだろうけど」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「なにはともあれ、我が方の守る順序は早期警戒管制機、レーダー基地、空軍基地の順になるのか?」
ブラケット博士
「いや、早期警戒管制機、空軍基地、レーダー基地の順でしょう。レーダー基地はダミーです。
しかし……プリンセス、早期警戒管制機あるいは単なる偵察機でも良いが、それをもっと提供してもらえないか。現在では早期警戒管制機は空中管制にかかりきりで、ドイツの偵察ができない」
さくら
「それは筋がおかしいのではありませんか。まず我が国でも早期警戒管制機はたくさんありません。偵察機ならイギリスにもあるでしょう」
ブラケット博士
「しかし扶桑国のように、高空を飛べてドイツの要撃を受けずに偵察できるものはない」
丸橋司令
「今日はイギリス軍のレーダー基地の情報を利用せず、すべて早期警戒管制機だけで作戦を行った。
そうではなくレーダー基地の情報を基に防空の指揮を執るなら、管制機を偵察に回すことはできる。それが元々のダウディングシステムだったはず」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「いや、今日の戦いを見ていると我国のレーダーはまだまだ実用レベルではない。それに探知するだけでなく、敵機に対する防空戦闘機の割り振りや攻撃方法の指示まではダウディングシステムではできない。いろいろ考え合わせると早期警戒管制機に頼らざるを得ない」
ジョンソン
「私たちもレーダーの改善に精いっぱい努めていますが、正直言ってレベルが大きく違います。周波数も出力も表示方式も…」
さくら
「じゃあ、ブラケット博士の出番ですよ。与えられた条件で、最適解を求めるのはオペレーションズリサーチです。
とはいえ、そんなこと明日朝までに解が見つかるわけではありません。
私が推測するに、明日はカレーからブーローニュあたりまでの飛行場からたくさんの飛行機を飛ばしてレーダー基地とドーバー海峡近くの我が方の空軍基地を爆撃するでしょう。
ちょっと気になるのですが、ドイツ軍はメッサーシュミットで爆撃するのを検討していました。それを実施するのではないかと思います」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ワシもそんな話を聞いたことがある。メッサーシュミットの爆弾搭載は少ないが、爆撃機よりは目的地まで到達して爆撃できる可能性は高い」
バート王子
「でもそんなことをすれば短い航続距離はより短くなりドーバー海峡を超えてロンドンまでも来れませんね」
ブラケット博士
「ホワイトクリフ近辺の空軍基地を爆撃するには十分です。我が方の前線基地が破壊されれば戦場から遠い奥地の基地から出撃することになり、ドイツ軍と同じく空戦できる時間は30分しかなくなります」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「お互いに我慢の戦いになるわけか。
今日ドイツが100機とか120機まとめて出撃しても撃退されたことを思えば、明日は幅100キロ以上にわたって同時に200機あるいは300機くらい飛ばしてくることがありえるな」
ブラケット博士
「敵の作戦機が1000機と言われますから最大500機くらいありえると思います」
丸橋司令
「500機といえば我々の全作戦機です。こちらが全部飛ばせば第2波には対応できません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「我が軍は500機だけではない。P40だってハリケーンだってある。」
バート王子
「閣下、P40やハリケーンはもう時代遅れでメッサーシュミットに歯が立ちません。員数に含めるのは……」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「早期警戒管制機は敵機の機種が分かるのか?」
さくら
「分からないと思ってください。レーダーは電波を出して反射して戻ってくるのを受け取るだけです」
ブラケット博士
「でも速度とか旋回などをみれば機種は推定できませんか?
機種が分かるなら爆撃機には旧式になったP40とハリケーンを充てることができます。メッサーシュミットにはスピットファイアと扶桑空軍を割り当てる」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「管制機でできないなら、この部屋で飛行状況をみて管制機にその結果を知らせることでどうか。管制機はそれを受けて敵編隊に向ける部隊を決める」
さくら
「分析を誤ると大変なことになりますね」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「まずはやってみよう」
バート王子
「了解しました」


5月11日 00:30(グリニッジ標準時)
5月10日 19:30(アメリカ東部時間)
5月11日 09:30(扶桑国標準時)

アメリカ領事館で顔を合わせているのは、中野、伊丹、石原そしてさくらである。

中野
「バトルオブブリテンは始まったか?」
さくら
「はい、しかし意外なことは多々ありました。こちらが圧倒的に進んでいると思っていたけれど、その差は予想したほどありませんでした。以前のベネルクス侵攻でも、事前情報もあり敵情もわかっていたので長期間抑えられるかと思っていましたが、現実は史実より少しマシなくらいでした」
石原莞爾
「不思議ですが扶桑国が進歩することによって、他の国の進歩も早くなっているように感じます。新兵器出現も向こうの世界よりも前倒しになっている」
中野
「話は変わるが重大な知らせがある。ドイツとソ連は同盟を結んだ」
石原莞爾
「軍事同盟ですか? 内容は?」
中野
「単なる軍事同盟ではなく20世紀のトルデシリャス条約とでもいうのかな(注1)
石原莞爾
「この世界をドイツとソ連で山分けですか?」
中野
「そうだ、東経50度で区切って東はソ連、西はドイツが取ることにしたそうだ。現実の国境は凸凹しているけど……まあ、そこまで我々が心配することはない」
さくら
「ふざけた話ですね」
中野
「そうだ、だが二国は既にそのために動き始めている。今日はこちらで収集した情報の共有と、欧州・満州の今後について相談したい」
伊丹
「そちらの偵察機は管制業務に就いていて偵察が不十分と聞いている。人工衛星も同じ地点を通るインターバルが長くてなかなか見たいものが見られない。やっとソ連の兵器工場内の鉄道を撮ることができた。これらは数日前に撮影したものだ」

伊丹はものすごい量の航空写真を机に広げる。石原とさくらはパッパッと見ていく。

石原莞爾
「戦車いや大砲などあらゆるものが写っていますね。これってドイツに運んでいるのですか?」
中野
「まさしく、イギリス攻撃用だろう」
石原莞爾
「トルデシリャス条約と言われてなかったら見当もつきませんでした」
中野
「普通の考えならソ連はポーランドとかチェコに侵攻・占領するところだろうが、それよりも大物を抑えるのが最優先と判断したのではないか」
石原莞爾
「その判断は正しいでしょう。英仏米がなけりゃそういった小国は取り放題ですから」
伊丹
「さくら、ドイツの保有する作戦機が1500機、その内戦闘機が1000機と推定されている。
イギリスは戦闘機が400機だったが、アメリカが供与したP40やP38、そして扶桑国から150機ということで、都合900機くらいある。だから守るには十分と考えていたが、ソ連が支援するとむしろ分が悪くなったと言えるだろう」
石原莞爾
「ソ連の飛行機も優秀なのですか?」
伊丹
「今ドイツに運んでいるものはスペイン内戦やノモンハンのときの、いささか時代遅れのものだが数が多い。これからはドイツから技術移管を受けて、本来なら第二次大戦末期に現れるだろう仕様のものを開発するだろう」
さくら
「レーダーで敵の飛行機の機種を見分ける方法はないですかね? 旧式機にはハリケーンやP40を割り当て、メッサーシュミットならスピットファイアと一式戦を振り向けることができたらいいですね。ソ連のI16ならP40で遅れは取らないでしょう」
伊丹
「異種で編隊を組むことはあまりないだろうが、複数の機種が大編隊を組むこともあり、そのとき全体が旧式機というわけではない。不確定な要素が多い」
さくら
「なるほど、そこは考えないといけませんか。
それほどの大編隊で来るなら空中戦というよりも、大編隊で飛行中に撃破する兵器が必要です」
伊丹
「空中爆弾かな?(注2)
さくら
「あっ、それいいですね。でも単純なものでは実効性がありません。近接信管付きの小型爆弾を急降下爆撃で大量に投下したらどうかしら」
伊丹
「何度も使える兵器ではないな。相手はすぐに見切ってしまうだろう。一度だけってやつだ」
さくら
「そう思いますね。でも戦う前に1割でも2割でも減らしたいですね」
伊丹
「高空から落とすとなるとP38か我国の爆撃機か、数十機が一度に投下したらすごいことになるだろう
わかった。総攻撃は半月後くらいだろう。製造が間に合うかな?」
さくら
「300発もあれば十分よ。1回限りでしょうし」
伊丹
「輸送は北回りコースでも、今回は直行便でないと間に合わないか……」
さくら
「いざとなれば秘密のトンネル経由ね」
中野
「それだけでも足りないだろう。他には?」
さくら
「スピットファイアの生産能力は月400機だそうよ。順調なら決戦の日には都合1000機はそろうはず。なにもかも私たちがおんぶに抱っこでお世話することもありません」
中野
「よし、頼まれたのはやろう。さくらも頼むぞ」


5月11日
空軍戦闘機軍団司令部

いつものメンバーが揃う。さくらは昨夜本国との打ち合わせをしていて寝ていない。

バート王子
「今日はドイツ軍の休日のようだ。ときどき偵察機が飛ぶが、爆撃機も戦闘機も飛ばない」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「昨日の被害を検討し、今後の戦法を考えているに違いない。
バート君がドイツ軍の参謀ならどうするね?」
バート王子
「昨日の大敗は外国にも伝えられたようです。となるとドイツはなんとしても勝利して国内外に宣伝し意識高揚したいですね。次回は全兵力でイギリスを攻撃して目に見える成果を出したいと思います。となると稼働可能の全航空戦力を出しますね。そのためには時間をかけて準備します。
広い範囲を制圧することはありませんから、限定された地域だけでも多数の戦闘機を配置し圧倒的な航空優勢を確保して、レーダー基地や空軍基地のいくつかを壊滅させて諸国に広報するとか」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「なるほど一部でも徹底した勝ちを見せれば政治的には意味はあるだろう。
プリンセスはどう思う?」
さくら
「バート中佐のご意見ももっともだと思います。ただそれだけでなく、状況が大きく変わったようです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「どういうことかね?」
さくら
「これは昨日、本国より送付されたソ連の航空写真です」

さくらはA4サイズにプリントされた数十枚のカラーの航空写真を机の上に載せた。昨夜、伊丹から渡された写真だ。
周りの人間は素早く手を伸ばして眺める。
実はこれは航空写真ではなく衛星写真だ。

ヒュー・ダウディング空軍大将
「きれいに撮れている。ソ連の戦闘機だな。だいぶあわただしく戦闘機や爆撃機を移動しているようだ。どこからどこに移動しているのかな?」
さくら
「この飛行機はイギリス攻撃に向けてソ連からフランスに送られているところです。既にドイツとソ連の盟約は固まったようです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「なんと! プリンセスは最高機密を知る立場なのだな。私が知らされるにはあと1週間くらいかかるだろう」
バート王子
「閣下、私だって知らされてませんよ。さくらが特別なのです。
ともかく、ということはソ連の支援が整うまで次回攻撃はないということか?」
さくら
「そうとも言い切れませんが、この飛行機が実勢配備されたら総攻撃が行われると思います。それは10日から2週間後でしょうか?」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「これじゃとんでもない数の飛行機が飛んで来るだろう」


5月14日

空軍戦闘機軍団司令部
ダウディング大将は丸橋司令他と打ち合わせ、警戒管制機から2機外してフランスからベネルクスそしてドイツの西側を飛行させた。P38の護衛があったせいか攻撃はされなかった。
撮影したものにはソ連軍機が着々と送られているのが映されている。しかし数百機を飛べる状態にするにはまだ時間がかかるだろう。そもそも発進させる飛行場が足りない。
それ以降、毎日偵察機を飛ばすようにした。それでも常に1機はドーバー海峡上空で半径400キロを監視していることに変わりはない。


5月20日

偵察機は前線飛行場に配備されたソ連軍機が、飛行訓練に入ったのを確認した。
ここ半月でドーバー海峡沿いに10個くらいの前線飛行場が急造されている。平らに整地して、滑走路を圧締しているものの他には何もない。使い捨てのようなものだ(注3)
ともかくそういった飛行場に30機から40機くらいが配備され飛行訓練をしているのが確認された。
偵察機が上空を飛んでいても、攻撃できないと諦めているのかなにもしてこない。


5月21日

空軍戦闘機軍団司令部
いつものメンバーが揃う。

ヒュー・ダウディング空軍大将
「いよいよ総攻撃の準備が整ってきたようだ。敵は1,000機以上と思われるが、全部一度に出せば、空域が狭くて動きようもない。だから300機程度で波状攻撃をしてくるはずだ」
バート王子
「まず手順として、レーダー設備には急降下爆撃、空軍基地に水平爆撃と機銃掃射ということですかね」
ブラケット博士
「我々の目的は、イギリス海峡上で要撃し撃退することだ」
さくら
「こちらとしては、攻撃が間近になったら、まずは爆撃機で総攻撃でしょう。
今までに発見した前線飛行場は30個所、どうせ爆撃前に奥地の飛行場に避難するのでしょうけどやらないわけにはいかないわ。奥地から飛べば、それだけ我が国上空の滞空時間が短くなる」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ブラケット博士、プリンセスの言うのはオペレーションズリサーチから評価してどうなのかな?」
ブラケット博士
「駐機しているところを爆撃するならともかく、爆弾の無駄かと思います。
向こうだって偵察機を飛ばしてみているのだから、こちらが爆撃機を飛ばせば後方の飛行場に避難するよ。こちらの爆撃機だってすべての飛行場を破壊できるわけではない。奥地の飛行場を離陸して損害のないところを経由して飛んで来れば同じことだ」
さくら
「分かりました、分かりました。それじゃ別の提案ですが」


5月24日09:00(グリニッジ標準時)

空軍戦闘機軍団司令部

ジョンソン
「ドーバー海峡沿いの24もの飛行場からどんどんと離陸していますね」
さくら
「1個所30機として600機、すごい数だわ」
ジョンソン
「いやそこまではいかない。管制機の情報では、爆撃機が100機、戦闘機が400機、都合500機です。しかし管制機が把握できる数の上限を超えるのではないかな」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「要撃は準備完了か?」
バート王子
「海上に出たらすぐ爆撃機から空中爆弾300発を投下します。それぞれ小爆弾を10個放出。海上途中で攻撃態勢の爆撃機にP38が100発爆撃します」
丸橋司令
「新兵器の効果を期待したいね」
バート王子
「その後は一撃離脱攻撃を繰り返えす」
ジョンソン
「レーダー画面では編隊を組み終わって我が国に向かってますね」
バート王子
「攻撃まであと数分だ」
さくら
「いよいよ大航空戦が始まるかと思うとアドレナリンが溢れてくるわ」



ドイツとソ連の連合攻撃隊は大編隊を組み飛行している。ドイツの爆撃機は急降下爆撃のために作れたユンカースで、高度6,000くらいで接近している。
ユンカース その上空10,000に扶桑国の爆撃機50機が反航している。傍目にはやられるならやり返すとドイツの飛行場攻撃に向かっているように見える。
交差する少し前、爆撃機から黒い粒粒が多数放出された。高度10,000から6,000までの落下時間は38秒、その10秒前に粒粒は更にいくつかの点々に分かれた。別れただけでなく一定範囲に広がる。ひとつの粒から分かれた点々の間隔は100mほどになる。
その直後、真上を飛んでいる偵察機から見て、数キロ四方が火の海になった。
爆撃機の編隊は管制機からの指示によって、旋回しイギリス本土に戻る。
空軍戦闘機軍団司令部の映写画面はイギリス海峡に赤い×印を多数描いている。

ヒュー・ダウディング空軍大将
「また派手にやったもんだね。どのくらい撃破したんだろう?」
バート王子
「数は分かりませんが、無事通過したのは7割というところでしょう。
まもなくP38が攻撃します」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「しかし引き返す飛行機はないんだね、闘志満々だ」

映写画面では赤い多数の点に青い数点が近づく以外分からないが、現実には大空でP38がドイツ軍の上空からまた空中爆弾をばらまいているはずだ。
先ほどの赤い×印から更に20キロほどブリテン島に近いところに赤い×印が追加された。数は先ほどより少ないはずだが多数であることは変わらない。

第1波の攻撃でドイツ・ソ連連合軍は530機出撃させて340機の損失を出した。他方イギリス側はホワイトクリフのレーダー基地3か所が攻撃され被害、要撃機12機を失った。

第1波が帰還する前、第1波から遅れること1時間後に第2波攻撃隊510機が出撃した。状況を把握できなかったために、全く同じ方法で飛行したために再度空中爆弾攻撃を受け再び400機近い損失を出した。第3波攻撃は中止された模様だ。
とはいえバトルオブブリテンはまだ始まったばかりだ。


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注1
トルデシリャス条約とは1494年にスペインとポルトガルが結んだ条約で、新世界の領有権を決めたもの。ローマ教皇の調停によって、西経46度37分より西側をスペインがとり、東側をポルトガルがとるというもの。 地球儀 なおトルデシリャスとは町の名前。
全くふざけた話ですよね。世界にはたくさんの人が住んでいてたくさんの国がある。それを俺たち二人で山分けして植民地にしようね〜なんてことを恥ずかしくもなくやってくれたわけ。
ところでマゼラン艦隊が世界一周して帰国した1522年に、地球が丸いならもう一本線を引かないと両国の領土の区分ができないというしごく当たり前のことが分かった。このために第二の境界線を決めたのが1529年のサラゴサ条約だ。サラゴサも街の名前。
しかしスペイン人もポルトガル人もろくなもんじゃねえ。

注2
空中爆弾とは飛んでいる飛行機を撃墜するためにより上空から爆弾を投下し空中で爆発させるもの。戦いが優勢な方が考える種類の兵器ではなく、第二次大戦末期に大空襲を受けていたドイツや日本が研究した。
一部実戦に使用されたが、B29などを攻撃するにはさらに上空を飛ぶ必要があり、日本では技術的にできなかった。
単なる時限信管の爆弾を投下しただけでは効果が期待できず、その後無誘導のロケット弾、更に目標を追うミサイルに進化した。

注3
第二次大戦中にイギリスでもドイツでも日本国内でも、多数の飛行場が作られた。ほぼ平らな土地を樹木を取り除いて、幅数十メートル、長さ数百メートルほどを地ならし圧締するだけだから、学徒動員などで2週間くらいで作ったらしい。
そういった飛行場は使われなくなるとすぐに自然に帰り、その後宅地や農場となり地元の古老くらいしか覚えていない。そういった旧陸海軍の急増基地をまとめたり現地調査している人がたくさんいる。
 ・旧海軍の基地と施設
 ・空港探索


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