異世界審査員177.品質向上

19.06.03

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

欧州の戦いは3年目に入ったが、いまだ収まらない。海上では北海から南北大西洋、そして地中海、更には北太平洋でも、また陸ではアフリカでフランスでスカンジナビアで、空は連合軍は爆撃機による空襲そしてドイツ軍はV1飛行爆弾、そんなわけで講和の見込みは立っていない。しかし風向きは完全に変わった。

ドイツ海軍のUボートは、既に連合国輸送船を狩る立場から、連合国のハンターキラーに狩られる身にランクダウンした。Uボートは今やビスケー湾内でさえ安全ではない。いやいやラ・パリスやボルドーといったビスケー湾内の軍港でさえ危なくなってきている。一応ブンカー内は連合国の空襲から守られてはいる(注1)
しかしほんの1年前のように、Uボートが音楽隊の演奏と大勢の家族や市民の声援を受けて出撃し、戻れば輸送船を何隻沈めた合計何万トンだと順位を争うような雰囲気ではない。 Uボート 今では出撃したUボートの3割は未帰還だ。それどころかブンカーからでたとたんに軍港内で空襲を受けて沈没して艦体の一部を晒したり横転したりしているUボートもある。だから出撃するのがスパイに知られないように、出港の際の楽団演奏がなくなったのはもちろん、真夜中とか夜明け前に人知れずに出港していく。それでもスパイが港を監視していて、軍港を出たときから連合軍の飛行機や駆逐艦に追い回されるのが常である。だから潜水艦乗りの戦死者が多く、士官も兵士も昇進が早くなっている。
実は北太平洋でもドイツかソ連が判明していない潜水艦が活動している。多分、バルト海からノルウェー海を通り北極海を抜けて樺太かハバロフスクの沿岸の港を母港にしているのだろう(注2)大規模な作戦活動はしていないが、幾度も護衛なしの輸送船が攻撃を受けていて、一度はアメリカから満州へ行く輸送船が2隻同時に魚雷攻撃で沈んだ。それ以降、アメリカ海軍は輸送船だけの航海を禁じ、船団を組ませて護衛艦を付けている。扶桑国も北太平洋の西半分の哨戒をしている。ただ活動している潜水艦は二三隻と思われ、哨戒機が潜水艦を見つけたことはない。

空でも戦闘は継続しているが、既にバトルオブブリテンは終わった。イギリス本土をドイツ軍機が飛ぶことはもはや不可能だ。ドイツ軍機がフランスの基地を離陸すると同時に、イギリスの基地でも戦闘機が飛びあがりドーバー海峡上空で待機している。昼だけでなく夜も同じだ。 V1飛行爆弾
それで今は有人の飛行機によるイギリス本土への爆撃も偵察も行われなくなった。V1は今も毎晩数十発発射されているが、その8割はドーバー海峡を飛ぶ間に撃墜され、残りもイギリスの海岸で墜とされ、ロンドンに到達するのはまずない。もはや物理的に損害を与えるどころか、イギリス国民に恐怖を与えてさえいない。
V1よりも大きな爆弾を積んで高速ゆえに迎撃不可能と言われていたV2弾道弾は、いつしか口の端に登らない。噂ではV2を研究していた研究所が連合国に爆撃され、研究者と設備がまるごと全滅したという。
B17 そして連合国の爆撃機はほぼ毎日数百機の大編隊で、ドレスデン、ハンブルク、ベルリンなどを爆撃している。それも昼はアメリカ爆撃機、夜はイギリス爆撃機と二交代制である。
そして扶桑国から入手した飛行艇は足が長いことから、ソ連のサンクトペテルブルク、モスクワ、ミンスク、キエフなどを空襲している。特に戦車工場や飛行機工場は連合国が見つけ次第破壊されている。ソ連製の戦車は優秀で量産されドイツ軍に供給されている。この爆撃で戦車不足になってほしい。

その他鉄道線路も完全に破壊対象だ。西側だけでなく東側もバイカル湖より東側にある軍事施設も定期的と行って良いくらいアメリカ軍の爆撃を受けている。
T34戦車 ただソ連はカチューシャという地対地ロケット弾を実戦化しており、この地対空版を開発中と言われており、いつまでもソ連上空を無害航行できるとは思えない。
陸も同じく、1年前に命からがらダンケルク撤退したのが嘘のようで、いつ連合軍が再上陸するのかと噂されている。いずれ夏には実行されるだろう。

史実と違い連合軍の敵となったソ連は、陸戦での損害は少ないが、交通機関や道路・線路は多大な被害を受けていて、武器・兵員だけでなく食料その他生活必需品の輸送が滞り、国内は不満が爆発寸前だ。いくらスターリンが恐怖政治をしようが、それ以上の恐怖があればそれ以下の恐怖に立ち向かうのは生物の性、世界初の共産主義国家は内戦になる一歩手前だ。そのためソ連が単独講和をするのではないかとドイツが疑っているという。


1月22日

空軍戦闘機軍団司令部
オペレーショナル・リサーチ・セクション(沿岸司令部CCORS)
いつものメンバーがお茶している。部屋も顔ぶれも照明器具も変っていないが、1年前、いや半年前のような深刻さはなく雰囲気は明るい。クッキーをつまみながら半分冗談半分愚痴などが語られる。

ブラックスミス少将
「最近、ドイツ爆撃に行っている連中が文句たらたらですよ」
幸子
「どうしました?」
ブラックスミス少将
爆弾 「爆撃機というのは早い話が運送業です。爆弾を運ぶのが仕事、ところが運んでいる爆弾に不発弾が多いというのです。命を賭けて役に立たない荷物を運んでいては、文句の一つも言いたくなりますよ。
機長によっては2割が不発弾と言います。まさかそれほどはないと思うけど。
今日もある機長から愚痴をいわれたので、20%不発なら25%多く積んでいけと言っておいたよ、アハハハ」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「まさか2割ってことはないだろう。実際にはどれくらいあるものだろうか?」
ブラケット博士
「試験する方法がありません、爆撃機に乗っていって落とした爆弾と爆発した数を数えるしかありません」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「そりゃ……簡単ではないな」
ブラケット博士
「伊丹さん、笑いましたね。アイデアがあるなら教えてください」
伊丹
「笑っていませんよ。そういう目的には品質保証という手法が確立しているのです」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「品質保証?」
ブラケット博士
「おお、伊丹さん是非とも教えて欲しいですね、その品質保証とやらを」
伊丹
大砲 「我が国は先の欧州大戦のとき陸上兵力を派遣しませんでしたが、大西洋の船団護衛を派遣しましたし、貴国には毎月数十万発の大砲の弾を供給していました。
ところが我国からきた砲弾は不発弾が多い早急に改善しろと苦情がありました。
ええとここでいう不発弾とは砲弾が発射されないということではなく、信管が時限信管だったのですが、時限信管の時間を設定してもその時間で炸裂しないという問題でした(注3)
ブラケット博士
「ああ、その話を聞いた覚えがあります。先の戦争の末期には扶桑国の時限信管の品質が上がったそうですね。しかしそうなると今度は我国で作った砲弾の時限信管の品質が悪いのが目立ち問題になったとか」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「あのときは塹壕戦だからお互いに時限信管付きの砲弾を撃って相手の塹壕の上で爆発させたんだよね。今回の戦いは先の大戦とは戦い方が変わった。塹壕とか要塞を作るのは無駄、意味がなくなった」
ブラックスミス少将
「あの当時は陣地を構えて戦ったが、今はスピード第一の電撃戦ですな」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「そうだ、兵隊は歩くのではなくトラックで移送する。大砲の牽引は馬から自動車に代わり、更には大砲の台車にエンジンを付けて自走するようになった。
それと陸軍だけで戦うのではなく、空軍と陸軍が一体となって戦うように変わった」
ブラックスミス少将
「その結果、塹壕を掘って対峙することもなく、塹壕を取り合うこともなく、時限信管付きの榴弾を撃ちあうこともなくなった」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「その代わり襲撃機が地上を攻撃し、爆撃機が大量に爆弾を落としている。そして空から支援を受けた陸上部隊が進撃する」
ブラケット博士
「将軍お二人のお話をさえぎって悪いのですが、伊丹さん、その品質保証とはどんなものですか?」
伊丹
「4年くらい前かな、アメリカが我が国の品質保証について調査に来た。説明するよりまずその報告書を読んだ方がまとまっているから役に立つと思う。英語だしね」
ブラケット博士
「分かりました。アメリカ軍に要請すれば入手できるのでしょうか?」
伊丹
「そんな機密レベルではありません。アメリカの図書館を調べたら入手できるはずです」


1月28日

アメリカ戦争省
長官補佐官室
ホッブス准将とミラー大佐が深刻な風で話し合っている。

ホッブス准将
「欧州戦線での兵器の不良問題か……わしらは戦争の専門家ではあるが品質の専門家ではない。ちょっと手に負えない。ミラー大佐に大学教授とか専門家の当てはないか」
ミラー大佐
「実は既に調べました。数年前に扶桑国の科学技術が急速に進歩しているのは、品質保証という技術の効果らしいということで商務省が調査団を扶桑国に派遣しています。その調査結果が役に立つかと思いまして、そのときのメンバーにヒアリングしました」
ホッブス准将
「いい話が聞けたのか?」
ミラー大佐
「はい、扶桑国の技術革新の功労者は伊丹という夫妻の活躍だそうです」
ホッブス准将
「伊丹夫妻……聞いたことないな」
ミラー大佐
「調べていてわかったのですが、この夫妻がドクター石原やさくらを指導したそうです」
ホッブス准将
「ほう……」
ミラー大佐
「扶桑国の飛行機、自動車、南洋開発、様々な兵器、満州のアメリカ軍支援策、ほとんどのプロジェクトにこの二人が関わっています。
そして今その夫婦はどこにいると思いますか?」
ホッブス准将
「想像つかんよ」
ミラー大佐
「イギリスです。イギリスの作戦立案に関わっているそうです」
ホッブス准将
「はあ? なんでその夫婦がイギリスにいるんだ?」
ミラー大佐
「イギリスはV1飛行爆弾対策を扶桑国に協力を求めたそうです。
それを受けて夫婦が来て、工場や発射場の攻撃作戦立案、防空システムの見直し、そしてロケット弾の開発などを提案して、V1の恐怖をほんの数か月で片づけてしまったのです」
ホッブス准将
「そういえばV1をロケット弾で撃墜したと聞いたことがあるが、あれがそうか……さっきの話に戻るが伊丹夫妻なら兵器の品質問題を解決できるだろうか?」
ミラー大佐
「イギリスでは既にいくつもの課題を解決してきたそうですが、今取り組んでいるのが爆弾の不発弾対策だそうです」
ホッブス准将
「品質問題など彼らにとっては一切れのケーキお茶の子さいさいというわけだな。
分かった、ミラー大佐、すぐにイギリスに飛んで伊丹夫妻をアメリカに連れて来い」
ミラー大佐
「閣下、私もそう考えています。しかしイギリスは夫婦をかなり厳重に警護していると聞きます。ドイツ軍からだけでなく、二人をイギリスから出さないようにしているようです。彼らにとって金の卵を産むガチョウですからね」
ホッブス准将
「さくらを使っておびき出せ」
ミラー大佐
「閣下! ご存じなかったのですか、さくらはイギリスの第4王子と婚約して、今年結婚するはずですよ」
ホッブス准将
「なんだって! 俺はイギリスの公爵嫡男を紹介したのに。あいつはアメリカ寄りだから」
ミラー大佐
「噂ではその嫡男がアホすぎてさくらに振られ、それを聞きつけた王室がさくらを取り込むために王子との政略結婚を図ったそうです」
ホッブス准将
「いやはや、最悪だ。それじゃさくらはもうアメリカに戻ってこないのか?
しょうがない、それじゃミラー大佐、イギリスに行ってさくらに伊丹夫妻に我国への協力するよう話をしてくれ。公式ルートより以前からのよしみにすがった方が良さそうだ」


2月12日

空軍戦闘機軍団司令部
オペレーショナル・リサーチ・セクション(沿岸司令部CCORS)
伊丹夫妻とさくら、そしてミラー大佐がお茶を飲んでいる。

ミラー大佐
「私はプリンセスさくらがホッブス准将のところで働いていたとき、一緒に仕事をしておりました。満州の戦いも冬は停戦状態ですので、今回は欧州の状況を自分の目で見たいと出張してきました」
さくら
「それは建前で腹に一物あるんでしょう」
ミラー大佐
「ご冗談を、プリンセスがイギリス王子とご婚約したと聞いて本日は表敬訪問ですよ」

バート王子さくらバート王子(中佐)が部屋に入って来て、さくらの隣に座る。

ミラー大佐
「これは王子殿下、ご婚約おめでとうございます」
バート王子
「アメリカ軍の大佐がお見えになったと聞いたので諜報機関に問合せした。いろいろ面白い話を教えてもらったよ」
ミラー大佐
「我国は同盟国ではありませんか。私はスパイじゃありませんよ」
バート王子
「スパイとは情報収集だけじゃない、扇動、破壊工作、要人誘拐などもスパイ活動だ。我国の至宝を国外に連れ出すとは十分スパイに当たるよ」
幸子
「王子殿下、貴国の至宝とはなんでしょう?」
バート王子
「ひとつはさくらだ。ミラー大佐の使命の一つはさくらをアメリカに連れて行くことだと諜報機関から聞いた」
ミラー大佐
「いえいえ、王子殿下、そんなつもりはありません。本当に今日はご機嫌伺いでして」
バート王子
「それからもう一つは伊丹夫妻をアメリカに連れて行くつもりとか……」
幸子
「はあ? 私たちは特段才能なんてありませんよ。それに私たちはイギリス人じゃないし」
バート王子
「いえいえ、伊丹夫妻もイギリスの至宝ですから国外に出ては困ります」
幸子
「殿下、勘違いしてるわ。私たちは貴国のお手伝いをしていますが、貴国に帰化するつもりもなく一段落したらお暇しますよ」
伊丹
「ミラー大佐、そもそもアメリカが私たちを必要とすることがありますか? 貴国には欧州からノーベル賞級の学者がたくさん移住しているじゃないですか」
ミラー大佐
「まあお互いに正直に話しましょう。我が軍の兵士たちから、戦場で兵器の故障が多く問題であると言われているのです。伊丹さんは元々技術コンサルタントだったし、過去の業績を拝見すると品質保証を指導されていたと……それでアメリカで品質の教育・指導をしてもらいたいとお願いにあがったのです」
ブラケット博士
「それは困ります。我国の爆弾不発対策をしなければなりません」
バート王子
「ブラケット博士、いつ来たの? あまり部外者が入ってこられたら困るよ」
ブラケット博士
「えっ、立ち入り禁止の表示もありませんでしたが」
さくら
「ミラー大佐が挨拶にこられたというので、特に気を遣わずこの部屋で良いかと思ってました。でもミラー大佐の要請を皆さんが聞いてご意見してくれてよろしいじゃないですか、アハハハ」
幸子
「あなた、イギリスの不発弾対策にミラー大佐も参画してもらってたらよろしいじゃありません? ミラー大佐が手法を学んで向こうで指導してくれれば良いことですし」
伊丹
「ブラケット博士の方で問題なければそれでいいじゃないか」
ミラー大佐
「いやいや、アメリカに来ていただいて、製造者のエンジニア、技術士官たちを集めますから、そういった面々にご教示いただければ……」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「とにかくわが空軍の爆弾対策をしてからだな、ミラー君」


1932年2月

それから伊丹は品質保証について考え方、要求事項を講義で教えた。

伊丹
「まず製品仕様だけでなく、工作仕様を確認する。不明確、あいまいなことはないのか、それを調べる。次にそれを名称は知らないが、製造の方法や要領を書いた文書に織り込むんだ。そういう文書がなければ作る。そしてそれを徹底して作業者に教える。定めた手順や基準からの逸脱は許さない」

計測器の管理をしっかりしなくちゃいけない。
このバーニヤカリパスはどんな校正をしているのかな?
校正間隔は? 記録はあるの? そのルールはどの文書で決めているのかな?
異常が見つかったときは………
製造条件、温度とか湿度などの環境条件は決めている?
ねじ締めのトルクの指定は?
ねじ締めのトルクはどのようにして測定しているの? 点検頻度は?
現場点検書面点検

伊丹にとっては何百回としてきたことであり、幸子も何十回も見てきたことだ。だけどブラケット博士にとっては初めての体験だったようだ。もちろんミラー大佐にとっても、
伊丹のどちて坊やのような質問攻めにあい、工場の管理者、エンジニアたちは半分ノイローゼになりかけながらその対応に努めた。


4月5日

伊丹が毎日点検結果を確認し、ブラケットがフォローして2か月、いつのまにか爆撃機の機長たちからの苦情がなくなってしまった。

ブラケット博士
「伊丹さん、不思議なことですが不発弾の割合が減少してきたようですね」
伊丹
「不思議じゃないでしょう。あなたたちが頑張ったからです。
ものごとはすべて簡単です。管理項目を分析し、管理指標を考え、それを定量化して監視する。
爆撃機の機長から苦情がないから良いというわけはありません。例えば爆弾の不発率は技術的、経済的に7%±2%が最適だと設定したならば、不発率がその許容範囲に入っていることを定期的に確認するということが必要です。
機長がその範囲であっても問題というかどうかはまた別の問題になります」
ブラケット博士
「なるほど、品質保証とはそういう仕組みですか」
伊丹
「こればかりが品質保証ではありません。多様な手法があります。目的は顧客、この場合は機長ではないでしょう。政府あるいは軍が爆弾の不発率に満足できる範疇に収まるようにするすべての方法と理解してもらって良いでしょう。
それから継続的にルールが守られているのか、数値や行動が基準に入っているかを監査、実地で確認しなければなりません」
ミラー大佐
「伊丹さん、今は爆弾の不発率が管理項目だった。しかし爆弾といっても命中率とか爆撃槽のハンガーに吊るすときのノッチのバラツキとか管理項目は多々あるわけだ。それをすべてこのように管理するのか?」
伊丹
「手間暇がかかるから管理しない、管理が簡単だから管理するという理屈はありません。管理しなければならないことを管理する、必要があるから対応するだけです」
ミラー大佐
「なるほど」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「しかし品質保証を学び実践しているうちにもう欧州の戦争はもう片付きそうだね」
ブラックスミス少将
「ノルマンディー上陸も順調に進みましたし、もうドイツ国境を越えて進撃しています。
ビスケー湾のUボート基地も制圧したし…」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ノルウェーのトロンハイムがまだ残っていますね」
幸子
「ノルマンディー上陸が3月5日、ドイツ陥落は来年明けかな、それとも今年秋くらいかしら」
バート王子
「しかしソ連が残っているでしょう。ドイツを落としても、ソ連をどうするのか」
ヒュー・ダウディング空軍大将
「ドイツは爆撃で崩壊させられるだろうけど、我々の攻撃だけでは共産主義国家を崩壊させることはできそうない。反スターリンというか反共産主義勢力に反共産主義革命を起こしてもらうしかないだろう」
伊丹
「ソ連に連合国が攻め込んでという筋書きは無理でしょうね。せいぜいモスクワを占領するくらいで、共産党幹部がウラル山脈の東に逃げたらもう捕まえようがない。ロシア内部に反乱軍が立って共産党政権を滅ぼすという筋書きしか思い浮かばない。
ソ連が広くて手に負えないというのは、ナポレオンもロシア革命のときは我々も体験済だ」
幸子
「今やソ連の工場は壊滅、輸送機関も壊滅ですから衣料も食料も途絶え、一般国民は餓死寸前でしょう。反スターリン勢力が結集して……」
バート王子
「そんなにうまくいくものですか?」
ミラー大佐
「それで伊丹夫妻はアメリカに来てくれるのですか?」
幸子
「この戦争が終わるなら、もう貴国を訪問する必要がないじゃないですかね」


5月15日

まだドイツは降伏していないが、さくらとバート王子は結婚した。戦争が継続中であり多くの国民が戦っている状況を踏まえて、式も質素に披露宴もハニームーンもなしである。イギリスは東洋から来たプリンセスを歓迎した。
扶桑国から中野が花嫁の父であり皇帝名代としてやってきた。



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注1
ブンカー(又はUボート・ブンカー)とはドイツ海軍軍港作られた桟橋やドックを空襲から守るために作られた鉄筋コンクリート造りの防空施設である。
戦争が終わってから解体作業が計画されたが、余りに強固な構造のため多くは中止され、今でも海軍基地、民間の港湾施設、観光施設などに使われている。

注2
夏季の北極海を通ってヨーロッパと東アジアをつなぐ北極海航路は20世紀初めに実用化された。特にロシア革命後のソ連は世界から孤立し、北国海にそそぐ河川から北極海航路を経由するルートを活用した。第二次大戦前には軍艦のバルト海と北太平洋の移動に使うようになる。

注3
不発弾とは起爆しない砲弾、ロケット弾などをいい、引き金や発射スイッチが押されても発射しなかったものは不発射弾という。


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