異世界審査員178.伊丹夫婦アメリカに行く

19.06.10

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

昔、ポール・ギャリコという人が書いた「ハリス夫人パリに行く」とか「ハリス夫人ニューヨークに行く」という小説を読んだ(注1)今もあるのかなと探したら、あるにはあったが、いつの間にかタイトルが「ハリス夫人」から「ハリスおばさん」に変わっている。
オイオイ、なんで「Mrs. 'Arris」が「ハリスおばさん」になるんだ?
ひょっとして今の時代、既婚・未婚が分かるように表示してはいけないのだろうか? と思いイギリスとアメリカのアマゾンを調べたら、ちゃんと昔通りのタイトル「Mrs. 'Arris Goes To New York」で出版されている。頭文字がすべて大文字なのは本のタイトルだからだろう。日本でタイトルが変わっているのは、上野千鶴子が文句を付けたのだろうか?
ところでタイトルがイギリスでは「Mrs. Harris」アメリカでは「Mrs. 'Arris」となっている。どちらもハリスと発音するらしいが、スペルの違いの解説が見つからなかった。
おっと、このお話は「ハリス夫人パリに行く」とは全然関係がない。「伊丹夫妻アメリカに行く」と書いて、昔読んだ本を思い出したというだけ

1932年6月

伊丹夫妻がイギリスに来たのはV1対策を始め、イギリスの戦争遂行への協力であったわけだが、仕事も一段落つき、更にはさくらも結婚して、伊丹夫妻は扶桑国に帰ることにした。
まっすぐ扶桑国に帰って良いわけだが、アメリカから技術支援を要請され、講演くらいならとリップサービスしたのを言質にとられ、アメリカの大学で講演とか現場の技術者への指導とか今問題となっていることの解決指導とか、ミラー大佐たちに言い負かされてしまった。
ただ真面目な話、アメリカ訪問中に拘束され出国できなくなる恐れもあり、扶桑国は夫妻滞在を2カ月間に限定と、二人を単なる公務ではなく外交官として、更に扶桑国がボディガードを付ける条件で妥協した。
二式大艇 そんなわけで伊丹夫妻はアメリカに行くことになった。この時代なら大西洋を船で渡るのが基本だが、夫妻のために扶桑国が飛行艇を飛ばした。まあそのくらいの待遇は、当然と言えば当然だろう。
ちなみに、この時代 長距離飛行機は飛行艇から陸上機に移りつつあった。今までは大型機が離着陸できる長い滑走路が少ないこと、万一の時、飛行艇なら海上に着水して救助を待つことができるということで、飛行艇の旅客機とか爆撃機が一般的だった。しかし戦争によって陸上爆撃機が大型化し、そのために2000mとか2500mという長い滑走路が各地に作られるようになり、長距離飛行する民間機も飛行艇から陸上機へ変わりつつあった(注2)
伊丹夫妻が招聘されたそもそもは欧州の戦場で使われている武器に不良があり、生死に関わるものだから品質を上げるにはどうしたらいいのかというのがテーマだった。だが行ってみれば、そういう具体的なことよりも、品質保証、品質管理、オペレーションズリサーチ、など新しい手法について教えてくれということだった。
しかしながら品質管理をやろうとすると「統計的」という冠称が付くように、数字を取り扱うわけで計算手段がなければならず、その前に測定手段、更にその前には管理項目が定量化できなければならない。
計算尺 それで伊丹はそういう考え方を説明するとともに、測定器のアイデアの提案、計算尺、ソロバンなどの説明などをした。標準偏差の使い方を説明する前に、計算尺で素早く標準偏差を計算する手順を教えなければならないのだ。
既に弾道計算にはアナログ計算機が用いられていし、微分解析機も存在している。だがまだデジタル計算機は出現していない。リレーを用いたデジタルコンピューターであるModel Kの登場は数年先の1937年。いずれにしても現場の技術者が使えるものは計算尺くらいしかない。
既に扶桑国では21世紀に比べれば速度は遅いが半導体を使ったデジタルコンピューターが作られ、政府統計のビッグデータの管理や兵器の技術計算に使われていた。
ともかく使える道具でできること、する方法を教える。伊丹が学生の頃、標準偏差を計算するのに計算する数字が小さくなるように個々の測定値から平均を引いて計算する方法を習ったが、計算手段がないときは意味があったのだなと実感する。
伊丹は悪乗りして、対潜作戦とか空爆の効率算出などを説明した。そんなことをしたせいか、その後こちらの世界ではオペレーションズリサーチは、伊丹が創案しブラケット博士に教えたと言われるようになった。いささか心苦しい。
夫婦で同じことをしてもしょうがないと、幸子も分担して講義(講演?)をした。

そんなことをしていて多くの大学や研究所そして工場を見て歩いて感じたことは、アメリカが大恐慌から抜き出ていないという現実だ。
日本があった世界では、第二次大戦後のアメリカは永遠の繁栄とかゴールデンエイジと呼ばれたように、欧州復興のマーシャルプランそして欧州の生産財・消費財の需要、戦争中軍需一辺倒だった反発から自動車、住宅、家電など耐久消費財が爆発的売れ行き、アメリカにとっては悩みも苦しみもない未来は明るい時代だった。
第二次世界大戦とはアメリカを覇権国にしたイベントだった。他の戦勝国、フランスもイギリスも戦争中の国債返還そして復興費用に悲鳴を上げていた。戦争に勝っても経済では敗戦国同様だ。更にこのときすでに植民地の独立運動は始まっていた。
だが、この世界ではドイツの進撃を初期的に食い止めたこと、イギリスが踏ん張ったおかげで、あと少しで戦争も終結しそうだ。そのためにアメリカの出番がなく、アメリカの製品が売れず、軍事的な支援も少ない。要するに金も出さず犠牲も出さなかった代わりに、口も出せない状況なのである。
そしてこれから始まる欧州復興も、イギリスやフランスが独力で行えば、アメリカは輸出とか利権など期待できない。
そして太平洋でも扶桑国との戦争が存在しないし、ましては扶桑国の技術力はアメリカをはるかに凌いでいるわけで、こちらも戦後需要など期待できない。
アメリカは自国の将来のビジョンを描けないでいる。


1932年8月

ドイツはもう国土が焦土と化し、ドイツ国内を逃げ回るドイツ軍を連合国が追い回している状態だ。そして今はポーランドやフィンランドにある連合国の空軍基地から毎日爆撃機が飛び立ち、ソ連の工業地帯に昼夜爆撃が行われている。クレムリンは軍需工場をウラル山脈より東に移管することを決定し、既に実行にかかっている。それどころか首脳部もクレムリンからウラル山脈の麓に移している。ポーランド国境からモスクワまで900キロだが、ここなら2300キロ、爆撃機も届かず連合軍が侵攻して来れまい。もちろん満州との東国境まではそこからでも3600キロもある。こちらからも大丈夫と思っているに違いない。

当初の約束を果たした伊丹夫妻はまたイギリスに戻る。さくらに言い聞かせておかねばならないことが多々あるのだ。


コーヒー
1932年9月

イギリスに戻った伊丹夫妻はさくらとバートを呼んで話をする。

伊丹
「長いことお世話になったけど、もう全て片付けたつもりだから扶桑国に帰る。ただ、いろいろとさくらとバートにお願いしておきたいことがあり、今日はその話をしたい」
バート王子
「我国は、王は君臨すれど統治せずですから、私に政治的な力はありませんよ」
伊丹
「それは扶桑国も同じだよ。だけど王族であれば国の行く末に重大な関心があるのは当然だ。そして貴族院にも庶民院にも知己は多いだろうし、君たちの発言自体影響力は大だ。この国を導いていくことを期待するよ」
さくら
「ともかく、おじ様のお話を聞かせてほしいですわ」
伊丹
「まず私が言いたいことを言う。幸子から私の話に漏れとかあるいは別な意見があれば言ってほしい。
では、こちらにまとめてきた。今はタイトルだけ追って話を聞いてくれればいい。詳細はじっくりと読んでくれ」

伊丹はA4サイズで20ページくらいの、クリップで閉じた資料をさくらとバートに渡す。

伊丹
「このたびの戦争、もう第二次世界大戦と名前が付けられたようだが(注3)
この戦争が終わって世界がどう変わるのか、そしてイギリスはどう進むべきかということをお話したい」
バート王子
「伊丹さん、あなたは予言者ですか? 歴史学者ですか? そんなことが分かるのですか?」
さくら
「バート、おじ様は正気よ、そしておじ様やおば様が語ったことで外れたことはない。もちろん私たちが判断し行動することによって未来は変わるけど、どう行動してどのような未来を作るべきかというアドバイスに間違いはないわ」
バート王子
「分かった、とりあえず聞こう」
伊丹
「この戦争が完全に終結するにはあと2年くらいかかる。ドイツは2か月もかからずに講和するだろう。しかし、ソ連政府はどんどん東に逃げていくだろうし、それを内部の民主主義勢力が打倒するまで戦争は終わらないからね。いずれ連合国は共産主義を倒した民主化勢力と講和するはずだ。

では1ページを見て欲しい。
イギリスは多くの工場をやられてしまったから、これから復興の時代になる。フランスも同様だが、実はフランスはあまり戦争による被害は出ていない。というのは開戦して早々に降参してしまったのでドイツに破壊されず、連合国もあまりフランスに爆撃をしなかったからね。
その結果、戦後の復興というのはイギリス、ドイツ、ポーランド、ベネルックス三国、チェコ、バルト三国というところだ。復興とはお金が回り景気が良くなること。もちろん復興資金がなければ廃墟のままだ。バルト三国やポーランドの復興は遅れるだろう。そして政治だけでなく国民生活が安定せず治安悪化や軍事紛争が起きるはずだ。

2ページ目を見てくれ、
それでイギリスのとるべき経済政策を書いている。もちろん私の個人的見解だ。だが何度も言うが信頼性は高い。
まずイギリスはドイツと東欧復興の経済援助をする。金がないなんていっちゃいけない。第一次世界大戦…ああ欧州大戦のことだよ、それに比べればイギリスの人的経済的損失は少ない」
バート王子
「それは事実と違います。今回の戦争にかかったお金は先の欧州大戦の5倍になります」
伊丹
「額面はそうだ。だけどこの国のGNPは当時に比べて5倍以上に成長してい(注4)
バート王子
「GNPとはなんですか?」
幸子
「サイモン・クズネッツが米国議会報告書で使ったのは1934年でしたか?」
バート王子
「1934年? 何を言っているのですか、今年は1932年ですよ」
幸子
「ああ、勘違いだわ…ごめんね」
伊丹
「簡単に言えばある国の総生産高だよ。イギリス経済は欧州大戦時に比べ3倍以上に成長した、だから第二次世界大戦で3倍の戦費を使っても、欧州大戦のときよりも国家経済のダメージは少ないということだ」
バート王子
「なるほど」
伊丹
「それにオーストラリア・カナダ・インドなどの戦費も人的な被害も先の欧州大戦より少ない」
バート王子
「それはそうですね」
伊丹
「だからイギリスが敗戦国あるいは被害が大きかった国々にお金を貸すんだ。もちろん返してもらう。それによってヨーロッパにイギリスの影響力を大きくする。今は持ち金はすからかんになってしまっただろうけど、10年も経てば世界一の債権国に戻る」
バート王子
「景気のいい話ですね」
さくら
「本来ならアメリカが金貸しをして、イギリスが落ち目になるはずだけど」
バート王子
「本来ならってどういうこと?」
伊丹
「数年前に、さくらが第二次世界大戦が起きた場合のシミュレーションをして、その過程と結果を我々三人が共有している。そのシナリオを本来と言ったのだよ」
バート王子
「戦争…シミュレーション…シナリオ…なるほど、さくらが国際政治で学位を取ったとはそういうことか」
伊丹
「話を戻す。シミュレーションではアメリカはこの戦争で武器、食料、その他あらゆる工業製品を欧州に売り込み、更には復興の資金を貸して丸儲けすることになっていた。
しかしイギリスが踏ん張ったことで、アメリカが本格的に参戦せずとも、予想したより2年も短い時間で終戦が見えるまでになった。
その結果、アメリカは儲ける間もなくいまだに大恐慌から復活していない(注5)欧州戦争では世界の覇権がイギリスからアメリカに移ると思われたが、この戦争のおかげでイギリスは覇権国に返り咲いた」
バート王子
「実は私もそう思っていました。しかしイギリスの力じゃありません。ドイツ軍を跳ね返したのはすべて扶桑国のおかげですね。攻撃を受けずに敵国の情勢を偵察できる飛行機、超長距離爆撃機、早期警戒管制機、パイロット付きでの戦闘機の援助、V1対策、原爆やV2開発の息の根を止めた先制攻撃、すべて扶桑国と伊丹ご夫妻の功績です」
伊丹
「そのお言葉、ありがたく頂いておきましょう。
その概要は3ページにあります。イギリスは債権国になるチャンスを得たが、早いところ動かないとスポンサー役を他の国に取られてしまいます」
バート王子
「でもアメリカが不況から抜けないとお金持ちはいないでしょう。スペインだって中国だって……ああ、扶桑国がありましたね」
伊丹
「次に行こう、今 世界の4分の3は植民地だ。だけどやがては皆独立国になる。そのとき宗主国と植民地がもめたり独立戦争が起きるのは好ましくない。だから現状から独立まで段階的自治そして独立というロードマップを作り、植民地に穏健な政治家や知識層そして軍隊を育成する。そして独立後も宗主国と円満な関係を持ちお互いに補完し合う関係を維持するようにするのだ」
バート王子
「植民地が独立? そんなことありえないでしょう」
さくら
「バート、それは必然よ。アメリカやカナダが独立したように、インドもマレーもアフリカ諸国も中東も皆独立するでしょう」
バート王子
「さくらのシミュレーションではそうなのか?」
さくら
「シミュレーションというよりも歴史の必然よね。それに奴隷解放が正義であるように植民地独立も正義に違いない。力で抑え込めば反発は一層激しくなる」
幸子
「植民地の独立ということは、人種差別をなくすということと同意よ、忘れないで」
バート王子
「覚えておこう」
伊丹
「戦争が終わったらイギリスがしなければならないことは、核爆弾と宇宙ロケットの開発だ」
バート王子
「えっ、大きな戦争が終わると常に軍縮の時代になるのです。それがまたなんで」
伊丹
「覇権国であり続けるには究極兵器、つまり反撃できない武器が必要だ。それが核ミサイルだよ。ドイツがやろうとして我々が破壊したそのものだ」
バート王子
「扶桑国は?」
伊丹
「扶桑国も取り掛かるよ、もちろん。我国は覇権国になるつもりはないが、列強から落ちるつもりもない。
ほかにも多々あるが、今すべてを説明できないから、暇があるときページをめくってほしい」
バート王子
「この資料を政府とか議員に見せても良いか?」
伊丹
「それは君のものだ。私は誰が考えても結論はそこに至るという確信はある。ただ聞いた人が妄想だと思うかもしれない。他の人を説得するには、君が考えてその過程を納得しなければない」
バート王子
「あい分かった」
伊丹
「国際政治に入る。基本的に我が扶桑国は貴国と軍事同盟を結んでいる。というかその他の国とは結んでいない」
バート王子
「アメリカとは中国で共同戦線を張っているじゃないか」
伊丹
「アメリカとは不戦条約を結んでいるだけだ。中国での戦争においては限定的な物資補給などの約束をしているにすぎない。
我国にとっては非常に重要なことだが、貴国の覇権、軍事力を頼みとして我国の外交や貿易がある。その意味で我が国と同盟を継続し、国際政治において共同歩調を取っていきたい」
バート王子
「それは理解している」
伊丹
「狙いはアメリカの覇権の阻止だ」
バート王子
「アメリカは味方じゃないということですか?」
伊丹
「世界は敵と味方に二分されないよ。アメリカをあまり強大にさせないことだ」
バート王子
「なるほど、それで扶桑国は覇権を狙うわけですか?」
伊丹
「アハハハハ、覇権を欲するほど馬鹿じゃない。覇権国はやりたい放題ができるわけではない。むしろいろいろな制約というか責任を背負う。そして覇権国は永続きしない。ローマはもちろんだが、トルコ、オランダ、スペイン、ポルトガル、今イギリスは日が沈まないと豪語しているが、第一次世界大戦後危なかった。第二次世界大戦ではいよいよと思われたが、なんとか踏みこたえた。だけどいつかは世界一から世界二になるのは避けることはできない」
バート王子
「そりゃ人口も変わりますし産業構造もこれからも何度も変るでしょうね」
伊丹
「覇権国たるにはまず資源がなければならない。戦略物資たとえば食料とか原油を輸入していたらそもそも覇権国になれるわけがない」
バート王子
「扶桑国が覇権国にならなくても、パートナーに夕暮れのイギリスと組まずに日の出のアメリカと組む選択もあるわけでしょう」
伊丹
「中国の古い戦術の本に遠交近攻というのがある。遠くの国と同盟を結び近隣の国と競合するのが国際政治の基本だ」
バート王子
「確かに遠くの国と対立するのは考えられませんね。太平洋の利権で扶桑国とアメリカの対立は現実ですが。
いや、なぜに扶桑国は中国に手を出さないのか? 欧州の国々は扶桑国は間抜けだと見ていますよ。なにせ500年も前からオランダ、イギリス、ロシアは中国に出ていたわけですから」
伊丹
「誰もが欲しがる中国は、コンペティターも多く、争いが起きるのは必定だ。現在だってソ連、アメリカ、イギリスがしのぎを削っている。そんなところに後から進出するほうがマヌケでしょう。
我々は争いがつきまとう地よりも、完全に己のものであると自他ともに認めるところをきめ細かく開発し住民が皆豊かに幸せに暮らせるようにする道を選んだ。
つまり、扶桑国本土と台湾と南洋群島だ。そこを高度に開発して国民が豊かに暮らせるようにし、世界においてそれなりの地位を得たいと考えている。同盟国イギリスに求めるのはそこを侵略する国を止めることだ」
バート王子
「だいぶささやかな望みなのですね」
伊丹
「ささやかではなく、むしろ困難な仕事だろう。
ともかく我国は世界で一番古い国家だ。過去より外に出ていって争わず、己の地を開拓してつましく生きて2,000年の歴史を重ねてきたんだ」
バート王子
「2,000年の歴史ですか……我がウィンザー王朝の歴史はまだ15年、ハノーヴァー朝からとしても200年しかありません」
さくら
「私たちがこれから歴史を作っていけばいいのよ」
幸子
「資料にはまだ人種差別撤廃とか民族自決とかあるけど、それらは読めば分かる。
王位継承順位が低くとも、バートのできること、やらねばならないことはたくさんあるのよ。イギリスが困難なときは同盟国である扶桑国が支援するから頑張ってね」
バート王子
「奥様、ありがとうございました。しかしさくらと結婚したのも政略結婚、そこまで面倒をみてもらうとは思っていませんでした」
幸子
「政略結婚といっても愛情がなければこれから何十年も一緒に暮らしていけないわ。二人には幸せになってほしい。というか、二人で幸せを作っていかなければならないのよ
さくらが私たちの娘なら、バートは息子ですからね、二人には幸せになってほしいの」

うそ800 本日のひとこと
おおお、なんとか締めに持っていけそうかな?

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注1
今どきポール・ギャリコなんて知らない人の方が大多数だろう。有名なアメリカの小説家であり、小説家になる前はスポーツ雑誌の編集者だった。どこにでもいる編集者ではなくプロスポーツ選手と戦いそれをうろ覚えだがたぶん「そのときどんな気持ちになるか」というタイトルで書いた。プロボクサーにノックアウトされ、プロ野球投手の豪速球を受け、オリンピック選手と競泳をした。今のテレビで芸能人とプロアスリートの競争があるが、何十年も前にあれを始めたのはポール・ギャリコだ。
のちに彼は小説家として成功し、例えば「ポセイドンアドベンチャー」は映画化され、当然大金持ちになった。めでたし、めでたし

注2
DC3 史実では長距離旅客機が飛行艇から陸上機に変わったのは、第二次大戦で太平洋の島々に長い滑走路が作られてからであり、1945年以降である。
ちなみにB17は空荷で滑走距離は500m、最大荷重で1000mちょっとだったらしい。B29は空荷で600m、最大荷重で3000m必要としたという。そういった爆撃機の飛行場が作られ戦後旅客機もそれを使い、長い滑走路が基準となった。
なお、滑走距離とは飛行機が地面と離れて高度15mになるまでをいう。車輪が地面と離れたときではない。

注3
「第一次世界大戦」は当初「欧州大戦」と呼ばれた。第二がなければ第一が付くはずがない。
1933年には「The First World War: A Photographic History」というタイトルの本がイギリスで出版された。この時は既にまもなく戦争が起きるという雰囲気であり、当然世界戦争になるだろうと思われた。故に欧州大戦を第一次世界大戦と呼んだようだ。
ドイツ軍がポーランド侵攻したのが1939年9月1日で、それを伝えるTime誌がWorld War Uと名付けたという。

注4
史実ではイギリスのGDPは1913年に比べて1950年でも5割増しにしかなっていない。一方第二次世界大戦の戦費は第二次世界大戦の5.5倍だ。しかしどう考えてもGDPが5割増しで、5倍の戦費を払えるはずがない。ふたつの出典は違うから多分尺度が違うか、範囲が違うのだろう。とりあえずこの物語では突っ込まないことにしよう。
 cr. 超長期GDP統計ほか

注5
第二次世界大戦の原因を作ったのは1929年のアメリカの恐慌で、アメリカが恐慌から脱出できたのは第二次世界大戦のおかげである。歴史の皮肉というよりも、すべての出来事は関連しているのを実感する。


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