*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。
1933年1月 ![]() 欧州の第二次世界大戦はまだ終結していない。ドイツは臨時政府が降伏し講和したが、一部の将軍とそれに追随する数千の将兵、その他ジェット機やロケットエンジンを研究していたメンバーはソ連に亡命し、ウラル山脈の東の地で今も研究開発し、ソ連はその兵器を使って戦っている。 特にカチューシャと呼ばれるロケット砲はその威力から大砲に変わるものとみなされるようになった このようにソ連とドイツの生き残りはなお抵抗を続けているが、今年夏には連合国が東西から一挙に侵攻してけりを付ける計画が進んでいる。 ここは新春の中野邸である。お正月の今、例年通り、皇帝の懐刀といえる面々が集まり酒盛りをしている。
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「第二次世界大戦はいまだ終わらずだが、終戦後のことを語っても罰は当たらないだろう」
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「第二次世界大戦も開戦以来2年半になりますか。未だにソ連とドイツ亡命軍が抵抗していますが、ウラル以西はもう連合軍が制圧しました。残るはウラル以東ですね」
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「いずれにしても時間の問題です」
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「東側からの侵攻作戦には我が国も参戦しなければならないのだろうが、できるだけ後方部隊とか非戦闘部門に限定してほしい」
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「しかし我が国、特に陸軍はここ20年以上実戦経験がありません。ここは是非とも従軍経験を積んでおくべきと思います」
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「伊丹ご夫妻はイギリスで大きな成果を出したと聞いている。更にアメリカでも大活躍とか…イギリス政府とアメリカの商務省から正式に感謝状が届いている。 ところでもう一つの問題であるアメリカの大恐慌脱出はならないか?」 | ||||||||||||||||||||||||
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「当初ドイツ軍の侵攻をベネルックスで止められなかったときは、どうなることかと心配しました。しかし結局はドイツ軍の進撃を止め早い時期から反撃できたことは私たちが提供した情報によるものでしょう。情報が戦車を止めたとは思えませんけど」
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「いや現代では情報は立派な戦力ですよ」
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「もっともそのためにアメリカは出番を失い、欧州を経済支配できるどころか、自国の経済も大恐慌から脱せないという状況に留まっています | ||||||||||||||||||||||||
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「これからの世界はどういう力関係になるのか?」
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「今まで通りイギリス覇権が続くでしょう。第一次世界大戦後、いっときイギリスは斜陽してアメリカの覇権かと思われましたが、第二次世界大戦でイギリスは幸運に救われました」
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「救いの神は扶桑国でしょうな」
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「まさしく。我が国の支援したのは人工衛星や偵察機の情報や、アメリカやイギリスの持っていない航空機や技術力の支援だけでしたが、そういったことが大敗を防ぎました」
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「それなら我が国が覇権国になるという選択もできたのだろう」
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「覇権国であることのメリットとデメリットを天秤にかければ、トップにならず二番手か三番手にいるのが最善かと思います | ||||||||||||||||||||||||
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「ワシもそれを考えた。国際連盟の常任理事国にいて、貿易や軍縮などにおいて発言力を持ち、不当な扱いをされない地位にいれば良く、トップになる必要はないように思います」
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「そういうものか」
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「我国が今努めなければならないことは、台湾や南洋群島を含めた国民すべてが豊かで安心な暮らしができるようにすることです」
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「具体的には何をしなければならないのか?」
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「食料については北海道でも米作が進んできました。今では外地を含めた食料自給率はほぼ100%です。それで飢饉になっても最低限のカロリーは確保できるでしょう ![]() 資源はともかく、中国あるいは朝鮮で食い詰めた人々が我が国に亡命というか難民がやってくる懸念が高まっています。結局、安心とか幸せということは国単位ではできないのですね」 | ||||||||||||||||||||||||
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「我国が文化や生活水準で突出すると、我が国にやってこようとする人々は絶えません。朝鮮から地球の裏側のイギリスに逃亡しようとする人はいないでしょうけど、朝鮮から対馬までの60キロなら手漕ぎのボートでも渡ろうとする人はいます」
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「そうなると国防といっても軍備だけでなく難民対策が必要なのか」
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「変に情けをかけて移民を入れると、我国の治安や経済の混乱それに文化の変質があります。外国人が多くなれば日常その言葉を使い、交通標識や駅の表示もその言語で書けという圧力があるでしょう。複数の言語が使われる状態は社会的費用がかさむということです。 更にはその子孫が反社会勢力となる恐れがあります。私の世界ではそんな例はいたるところで見られます」 ![]() | ||||||||||||||||||||||||
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「中国・朝鮮から我が国に来るのは出入国管理が厳しいので、一旦南洋群島に入ってから本土に移る者がみられます。南洋群島では出入国管理など主要都市にしかありません。小さな島では、そこに外国人が住み着いても住民と結婚しても誰も気にしません。ともかく本土に来たとき合法的なものはともかく、グレーゾーンの者は拘束して強制送還しています。これも近年増えてきており大変です」
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「それは困る。だがそうなら為政者はどうすればいいのか? 自国民を豊かにしては近隣から侵入され、国を貧しくしては為政者の存在意義がない」
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「国内の発展に努めるだけでなく、近隣に対しては断固とした姿勢を取るしかないのではありませんか」
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「せめても我が国が地続きでなく島国であることに感謝せねばならないか」
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「そのように思います」
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「細かいことはともかく、大きな視点では今後どのようなことが問題となり、我国はどう対応すべきなのか?」
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「課題はたくさんありますが、まず植民地の解消があるでしょう。我国は幸い委任統治領しかありません。しかし地球上の4分の3の人口は植民地にあり宗主国に支配されています。 第一次世界大戦後に民族自決という概念が認められましたが、その対象は白人のキリスト教徒限定でした。しかし白人でなくてもキリスト教徒でなくても、人は支配されるべきではありません」 | ||||||||||||||||||||||||
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「奥様、一般論は結構ですが、具体的にはどうするのですか?」
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「独立といっても現実には植民地には行政も司法も外交もできる人がいません。ですから一挙に独立とかでなく、植民地を委任統治領にして10年とか20年のスパンで人材を育成し、無用な混乱が起きないように計画的に権限移譲を行うべきです。植民地を持っている国々にその計画策定と実行を求めるべきです」
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「それは国際連盟の枠組みで進めるということか?」
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「そうです。私の世界では植民地が独立戦争で独立しても、内政を行うに力不足のところばかりでした。そのため軍事政権とか一部の人たちが私物化して、一般国民は以前よりも苦しい暮らしとなってしまったところも多いのです。それじゃ独立しても意味がありません」
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「ワシは研究所の定期報告にあった核兵器と弾道弾の国際管理が必要かと思う。 特に核兵器は一国が持つべきではない。いやそもそも開発すべきではないな」 | ||||||||||||||||||||||||
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「閣下、そうは言っても人間の好奇心とか探求心を止めることはできません。いくら禁止しても大学や民間の研究所が秘密裏に核兵器を作ってしまうでしょう」
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「非常に難しい問題ですね。私のいた世界では条約とかいろいろありましたが、最終的にはやられたらやり返すという方法でバランスしました。そういう落としどころしかないのかもしれませんね」
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「我国は核兵器を開発する計画はあるのか?」
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「核兵器を開発するのと、通常兵器を比較すると、通常兵器はいつでも使用できるという意味では柔軟性があり実用的かと思います。 核兵器は相手を殺すと同時に相打ちになるような……」 | ||||||||||||||||||||||||
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「こういった問題は真理とか正解があるわけではありません。ですから技術だけは持つ、そして必要になったらいつでも保有するという状態を維持することを最低限しなければなりません。個人レベルでも、危害を加えられそうになったとき身を守る力があるのとないのでは大違いです」
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「我国では核兵器の開発は可能なのか?」
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「可能です。細かい話ですが、ウランには核分裂するものとしないものがあり、それらはほんのわずか重量が違うので、それを利用して分離します。このためたくさんの遠心分離機を使いますが、この遠心分離機を作っているのが我が国だけです」
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「ほう〜、でもすぐにほかの国でも作れるようになるのだろう?」
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「いやベアリングなどは簡単にできません。他国でも分離機を作ろうとすればベアリングやモーターなどはどこの国も我国から調達することになるでしょう。つまり」
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「つまり我が国が輸出を認めるか認めないかで他国の核開発をある程度規制できるということか」
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「そう言えると思います。もちろん10年とかのスパンで見ればどこも作れるようになるでしょうけど」
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「いずれにしても、つまり核軍縮にしても核開発禁止にしても、我国が核兵器を作る能力がなければ他国に発言力を持たないということだ」
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「その通りです。我々は舐められてはいけません」
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「結局 国際政治なんていっても動物園の猿山の大将争いと変わんな。 概論は分かったとして、具体的には、まず委任統治領は将来どうするのか?」 | ||||||||||||||||||||||||
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「一般論を言えば、文化とか歴史を考慮して関連の深いもの同士をまとめて、それらを独立させるということになるのでしょう。 とはいえ、今時人口100人の村など存在できません。その理由は道路をつくるにしても橋を架けるにしてもお金がかかります。ゴミ処理から上下水道などの社会システムを維持するには、自治体なら最低数万人、可能なら30万程度の規模にしないとどうにもなりません。 まして独立国となると、外交や軍事、その他行政機構など、人口100万程度は必要になります。それより小規模ですとその国の産業や文化を維持していくこともできません。 となると南洋群島は今 全人口が10数万ですから、一つにまとめたとしても独立国としてやっていくのは無理なのは明らかです」 | ||||||||||||||||||||||||
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「難しく考えなくても、緊急医療も維持できません。航空路、定期航路などはいうに及ばずです」
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「なるほどなあ〜、となると扶桑国の中である程度の自治を認めるというと現状維持しかないのではないか」
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「いや、我国に吸収してしまうという道もあります。アイヌは扶桑国人と文化が違うとかいろいろありましたが、現実には同化の一途です」
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「南洋群島については島々の酋長の意見を聞いて方向を決めていくしかないな。住民の意見は、独立か編入(併合)か、どんな状況なのだろう?」 ![]()
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「犬養首相、それは南洋庁に検討させましょう」
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「ブルネイは保護国から完全に独立させるべきかな?」
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「あそこは人口10万そこそこですが産油国ですから経済的には自立はできるでしょう。しかし国防を考えると、軍隊どころか海賊程度でも制圧されそうですね。独立国家となるのは難しい。 それと将来石油が枯渇したとき、代替えになる産業もなく先進国の援助を乞うしかなくなりそうです」 | ||||||||||||||||||||||||
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「ともかくそういったことを検討させておいてよ。我国が民族自決を唱え、他国に植民地を独立させろと言っておいて、紺屋の白袴ではしかたあるまい」
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「かしこまりました」
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「それから国際連盟をしっかりした組織に強化すべきですね。 アメリカは覇権国ではありませんがやがて大国になります。20年とか先を考えると未来の大国を国際連盟に加盟させることは課題です」 ![]()
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「それと共産主義国家をどうみなすかということもあります。共産主義国家イコール悪ではありませんよね。ソ連が建国されたとき、なぜあれほど諸外国に敵視され軍事侵攻されたのか……」
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「ちょっと、岩屋さん、忘れたの。インターナショナルとか世界規模で国家転覆を図り、共産主義革命を目指した。そのために各国にスパイを送りこみ、反政府活動を行った。だからどの国も共産主義に危機感を持ったのです」
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「そう言われると確かに……我国でも共産主義シンパは多いですね。大震災のとき活躍された後藤閣下を始め…」
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「後藤新平か、彼も我国の国家機密をソ連に漏らしたと言われていたな。早い話がスパイだ。共産主義者だからでなく、ソ連のために我が国を売ったことが問題なのだな」
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「ソ連の共産主義者はソ連の国益のために、中国の共産主義者は中国の国益のために活動しますけど、扶桑国の共産主義者は扶桑国の国益には関心がないようですな」
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「どんな宗教でも主義主張でも良いが、生まれた国と家族を守るという価値観を共有できない人は排斥されて然るべきでしょうね」
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「まったくそのとおりです」
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「南洋群島においても我が国の価値観を共有できなければ独立してもらうしかないということか。しかし独立国として立ちいかない場合はどう考えるのか?」
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「だからこそ学校を作り教育しているのではありませんか。偏った価値観とか奴隷制度を教え込むのは悪でしょうけど、私たちが教えている愛国、納税、社会貢献という価値観はどんな宗教でも否定しません。その上で独立か編入かを選択してもらえばよろしいのではないですか」
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「ただ人口支持力の小さな土地だから、選択の余地はなさそうですね」
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「そうとは限りません。いかに貧しくとも独立という選択もあるでしょうし」
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「現実を言えば過去20年間、南洋群島には徴税額の10倍以上の社会資本を投じてきた。我々も委任統治領ということで外国にいい格好をしようとかなり無理をしてきたわけだ。だが南洋群島から見れば、恩恵を受け今はそれなりの暮らしをしているものの、確固たる土台のない危うい生活をしていることになる」
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「まあ、ぶっちゃけて言えば南洋群島には将来の領海という資産がありますからね。我国もお金を浪費しているわけでもない」
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「我国と逆に、アメリカは原住民からの収奪によって成り立っている」
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「原住民だけでなく奴隷もだな」
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「アメリカは今後どういう道を歩むのだろう?」
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「このまま第二次世界大戦が終われば、欧州では利権を得られないでしょう。なにせ自分たちはほとんど戦っていません。せいぜい爆撃機を派遣しただけです。欧州復興に資金提供しようにも自分たちはあまりお金もないし、お金を貸しても自国で売れる製品がない。結局イギリスが主導を取って復興していくでしょう。 あるとすれば満州の北のソ連領土を自国のものとするかですね。とはいえ満州よりもさらに北で亜寒帯の寒冷地ですから農業は無理です ![]() ![]() | ||||||||||||||||||||||||
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「つまりアメリカは今後さらに不況が続くのか」
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「考えられる悪いシナリオは、打開策がないアメリカが我が国に戦争を吹っ掛けてくることもありそうですね。勝てば我国の先進技術が手に入る」
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「ほう! 我々はアメリカに不当なことをしていません。どんなイチャモンを付けるのでしょうか?」
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「南洋開発の利権、ブルネイの石油、あるいはフィリピンの独立運動を我が国が支援をしたとか、戦争を起こそうとするなら言いがかりに事欠かないでしょう」
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「アメリカと戦争したらどうなる?」
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「扶桑国はイギリスと軍事同盟を結んでいますから、こちらに戦いを挑む前にイギリスに同盟解消を要求するでしょう。 イギリスとしてもアメリカが覇権を得るのは芳しくない。それに太平洋を制圧されればオーストラリアやニュージーランドも危うい。 我々は当然さくらも政略結婚していますし、同盟を解消しないよう強く要求すべきでしょう。アメリカも列強二国を相手にするのは躊躇するでしょう。 実際に戦争するとなるとアメリカはドイツ以上の国力がありますから総力戦となります。負ければ有色人種として唯一の独立国は消滅します。勝っても我が国は完璧に疲弊します。軍備は整えても戦わないことを推奨します」 | ||||||||||||||||||||||||
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「あのさ、人工衛星はいつ打ち上げられるのか?」
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「ロケットは既に何度か打ち上げをしており信頼性は高くなっております。人工衛星本体がなかなか難しく…」
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「四の五はいいよ。今年5月前までには大丈夫だろう?」
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「なんとか計画必達するよう努力しております」
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![]() | ![]() 頼むぞ、成功したら諸外国に公表しなくちゃ、我々はドイツの技術など関係なく独自技術で打ち上げるんだからね、そこをはっきりさせるにはソ連に亡命したドイツ技術者が降伏する前でなければならない。そういうことを積み重ねてアメリカにイチャモンを付けさせないようにしてよね」 | ||||||||||||||||||||||||
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1933年4月● ● ![]() 扶桑国東京 ここは東京都渋谷区にある敷地が150坪ほどの立派な邸宅である。とはいえ家族が住んでいる気配ではなく、 ![]() 大正時代的な建物の地下には近代的な大きな部屋があった。 50インチもありそうな大きなモニターの前にはカンナが座ってモニターの映像をながめている。 テレビは鹿児島県の岬が映されている。突然遠くで白煙が上がりロケットが打ち上げられたようだ。白い煙を引いてロケットはどんどんと上空に上がっていき、画面から消えた。 ![]() 「とうとう人工衛星を打ち上げたか。いよいよ宇宙時代だね。 台本通り、すべて世はこともなし」 このときまだテレビ放送などない。やっとテレビの実験放送が行われた程度だ。カンナが見ていたのはテレビ放送ではなく、カンナもしくはカンナ一派が鹿児島のロケット発射場にしかけたテレビカメラの映像だろう。 カンナは立ち上がり、いかにも初期のラジオという形態のラジオの電源スイッチを入れボリュームを回す。音楽が流れている。 眠くなるような音楽でカンナはいつしか舟をこいでいた。 突然音楽が止まり、人間の声が聞こえてきた。カンナは半目を開けた。 「臨時ニュースを申し上げます。こちらはFHK扶桑放送協会です。 扶桑国内務省は本日13時30分、本日12時、約1時間30分前に長崎県某地区より我国の先端技術研究所が人工衛星を打ち上げたと発表しました。 人工衛星とは観測機器をロケットで宇宙に打ち上げて、お月様のように地球を周回させるものです。 ただいま一周約2時間で赤道に沿って地球を周回しています。人工衛星より地上に向けて電波が発進されています。 衛星が発進している信号は『こちらは扶桑国の人工衛星1号、ただいま地球を回っている』です。この信号は6か国語で放送されています。 世界中の人たちが人工衛星の信号を聞いているでしょう。 臨時ニュースを終わります。こちらはFHK扶桑放送協会でした。」 |
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注1 |
カチューシャとは1940年代初めにソ連で開発された車載ロケット砲である。史実はドイツとは関係ない。むしろ搭載する車両などにはアメリカの援助を受けた。 種々種類があり時と共に進化したが、基本的には射程5キロから10キロの短距離の地対地ロケット弾で、トラックの荷台から10数発を連続で撃ちだすものだった。 ![]() | |
注2 |
アメリカが1929年に起きた世界恐慌を脱したのは第二次世界大戦とそれによる経済政策であったことは定説である。ニューディール政策で甦ったわけではない。 ![]() | |
注3 |
覇権国とはhegemonyの訳語で侵略や影響力により他の国を支配すること、列強とはgreat powers の訳語で世界規模の影響力を持つ国家(複数)のこと。多くの場合覇権国はひとつと考えられている。 ![]() | |
注4 |
江戸時代には国内産米だけで自給できたが、明治になってから人口増加が激しく台湾などからの輸入で補っていた。 ![]() | |
注5 |
尼瀬油田とは新潟県にあった油田で、世界最初の海底油田である。 ![]() | |
シベリアの多くは気象区分Dfcとなる。 D:亜寒帯…最寒月が-3℃未満かつ最暖月が10℃以上(冬季の積雪は根雪になるが、樹木は生育できる) f:(年中湿潤/年平均降雨)雨季乾季がない c:最暖月が10℃以上22℃未満 かつ 月平均気温10℃以上の月が3か月以下 かつ 最寒月が-38℃以上 こういった土地では春小麦、じゃがいも、ライムギ、蕎麦などの農業、消費地に近ければ酪農、遠ければ放牧が主となる。 ![]() |