異世界審査員180.第二次世界大戦終結

19.06.20

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。民明書房からの引用はありません。

異世界審査員物語とは

1933年4月

人工衛星 扶桑国が人工衛星を打ち上げたというニュースは、すぐさま世界中に報じられた。
とはいえ20世紀後半と違い、ニュースを伝えるメディアはまだ発展途上で地球をカバーしていないこと、ラジオの普及率はまだまだ一部であること(注1)更に欧州では第二次世界大戦さなかで政府や軍幹部はそのことを知ったが一般人まではなかなか伝わっていない。



1933年4月

アメリカ戦争省某室

ホッブス准将
「ミラー大佐、聞いたかね? 扶桑国が人工衛星を打ち上げたって」
ミラー大佐
「はい、正直言いまして人工衛星(man-made satellite)という言葉を知りませんでしたので、お月様がふたつになったのかと星空を探してしまいましたよ、アハハハ」
ホッブス准将
「俺もさ、人工衛星なんて言葉は初めて聞いた。科学者が解説していたが、地球の大気圏外で水平方向にものすごいスピードで打ち出すと永遠に地球を回るようになるそうだ」
ミラー大佐
「大気圏の外でというのはどうしてですか?」
ホッブス准将
「空気があると空気抵抗ですぐにスピードが落ちて地球に落ちてきてしまうんだそうだ」
ミラー大佐
「そもそも空高くあるものが地球に落ちてこないという理屈が分からないのですが」
ホッブス准将
「俺も理解できないんだが、新聞に書いてあったのは人工衛星は地球の引力にひかれて落下しているのだが、スピードが速いため永遠に地球にぶつからないとか……」
ミラー大佐
「理屈はともかく、いつまでも空を飛んでいることができるなら偵察機の代わりになりますね。そんなに高いところを飛んでいるなら、高射砲も届きませんし飛行機も登れません」
ホッブス准将
「全くその通りだ。実は気が付いたのだが、満州の戦争や欧州の戦争のとき、ドクター石原が航空写真を持ってきたよな、あれは偵察機じゃなくて人工衛星から撮影した写真じゃないのか?」
ミラー大佐
「私もそう考えました。それでラボに分析させたら人工衛星の高度のものもありました」
ホッブス准将
「ほう、そんなことが分かるのか?」
ミラー大佐
「偵察機はせいぜい高度15,000m、人工衛星は300キロですから、20倍の違いがあります。普通の写真は遠近法で四角い建物は台形になります。ものすごく遠くから撮れば四角形になる。つまりビルの上端と地面の差から撮影した高さが分かります。
ドクターやさくらから入手した写真を拡大してみたところ、平行なものと台形なもの両方ありました」
ホッブス准将
「なるほど、となると扶桑国は既に数年前から人工衛星を実用化していたわけだ。とすると今になって公表した理由は何だろう?」
ミラー大佐
「今までは秘密だったけど、なんらかの事情で公表した方が良くなったとか?」
ホッブス准将
「なんらかの事情? 技術が進んでいることを宣伝するためとか?」
ミラー大佐
ゴダートのロケット
ゴダートの
ロケット
「思い当たることは、ドイツのV2ロケットが実用化される前に発表したかったのでしょうか?
聞いた話ですが、アメリカでもロケットを研究しているゴダートという学者がいます。もっとも皆からマッドサイエンティストと思われているそうです。
まだパイプを組んだものにロケットエンジンを付けて数百メートルの高さに上げているところですから、人工衛星を打ち上げるには十年はかかるでしょう」
ホッブス准将
「それはすぐにでも国家的事業にしないといかんな」



1933年4月

イギリス ロンドン郊外の敷地が1q四方もある大邸宅、ここは王室の別荘だが今はケント公爵夫妻の住居だ。そうそうバートは結婚してケント公爵位をもらったのだ。
なお戦時中のため華やかな社交は自粛ムードである。とうにドイツ軍の空襲はないが、夫や息子が欧州の戦場で戦っているとき、マダム連中がダンスやお茶にうつつを抜かしているわけにはいかない。一度だけバートとさくら夫婦が内輪のダンスパーティーに出たが、さくらのダンスは先鋭的であまりにも自由すぎて見ていた人は絶句だった。
1930年頃のロールスロイス バートとさくらは毎日10マイル離れたロンドン北部の空軍戦闘機軍団司令部まで通勤している。戦時中であるから結婚しても軍務につくことは当然である。
二人が乗ったロールスロイスは前後をパトカーに護衛されている。もっとも現代のロールスロイスを想像されては困る。ロールスロイスとはいえ1930年代では、さくらが2010年代に日本で乗っていた父親の大衆車より乗り心地は……

バート王子
「扶桑国が人工衛星を打ち上げたというニュースがあったが、さくらは事前に知っていたのか?」
さくら
「正直言って知りませんでした。でも打ち上げることは薄々感じてました」
バート王子
「早期警戒管制機などの電子技術をみていると、人工衛星など扶桑国にとって簡単なのだろうな」
さくら
「人工衛星を打ち上げるのは大変です。ロケットだけでなく、ロケットや衛星の制御もありますし、用途によるでしょうけど、搭載するカメラ、通信機器、各種センサー、発電装置、充電池などが必要で、それらをつくるには多方面に渡りすごい技術が必要ですね」
バート王子
「その口ぶりから、さくらは相当人工衛星に詳しいようだね」
さくら
「そのくらい誰でも知っていることよ」
バート王子
「扶桑国ではそれくらい誰でも知っていることなのか?」
さくら
「科学技術に関わっている人なら一般常識でしょうね。いずれにしても作るのは簡単じゃありません」
バート王子
「空高いところから望遠鏡で観察されたら隠し事はできないね。軍艦を建造しているだけでなく、日々の進捗まで知られてしまう」
さくら
「あなた、そんなのどかなことでなく人工衛星に爆弾を積んだらどうなると思うの?」
バート王子
「えっ! そうか、そういうこともあるのか。空に爆弾をあげておいて、何事かあったらそれを地上に落下させる」
さくら
「その爆弾が核爆弾ということもあるのよ」
バート王子
「それは……まるで神がソドムに落とした硫黄と火のようだ(注2)
さくら
「とはいえ、なにごとも単純じゃないのよ、人工衛星の軌道は自由にできないから、敵国の上空を通るなんて何日かに一度しかこないのよ」
バート王子
「我国も人工衛星を打ち上げないといかんね」
さくら
「アプローチはみっつ、ドイツが開発しているV2の技術者を確保すること、扶桑国から技術を買うこと、自力開発すること」
バート王子
「さくらのお勧めは?」
さくら
「そりゃ自力開発でしょう。ドイツはまだ完成してない。扶桑国は我国に技術がなければ足元を見てふっかけるでしょう。
私はもうイギリス人だからイギリスの国益を考えないとね、」
バート王子
「最後の言葉を聞けてさくらと結婚して良かったと思ったよ」
さくら
「なにをバカなことを言ってるの」
そういうと、さくらはバートにキスした。💋



1933年5月

ドイツ降伏前にソ連に亡命して研究を続行していたV2開発陣は、扶桑国が人工衛星を打ち上げたというニュースを聞いて、降伏することを決めた。 V2ロケット 他国が自分たち以上の技術があるなら、我々がしていたのはなんだろうと目標を失ってしまったのだ。だいぶ前に研究所を爆撃されたとき死亡したフォン・ブラウンは、いつかは人工衛星を上げようと言っていた。しかし人工衛星どころかV2ロケットも実用できず、他国が人工衛星を打ち上げた今、実用化できたのは短距離ロケット弾だけだ。研究者や技術者たちが無力を感じたのも無理はなかった。
このときウラル山脈東側にあったソビエト社会主義連邦共和国政府と最後まで残った1個師団は、ロシア共和国軍10個師団の攻撃を受け、首脳部と数千の生き残りは列車で東方面に逃走中であった。
ソ連軍と亡命ドイツ軍はV2開発陣が降伏するのを認めたが、研究設備と書類はすべて破棄することを条件とした。開発陣は設備や設計図類を山と積み上げ、火を付けた。開発メンバーが秘密書類を持ち出さないように身体検査をした後、ソ連軍と亡命ドイツ軍は東に、V2開発陣約100名は西に分かれた。



1933年6月

ウラル以西を制圧したロシア共和国軍はロシア共和国樹立を宣言し、臨時政府は連合国と講和すると放送した。
直ちにイギリスとフランス政府はロシア共和国を講和するとして、政府使節団と約10個師団を赤軍追撃のために列車でモスクワに送りこんだ。そして連合軍とロシア共和国軍は東進して赤軍を追いかけた。
扶桑国はフィンランドからと満州から偵察機を飛ばして、赤軍の動向を把握し連合軍に情報を提供した。
3週間後、赤軍はエニセイ河畔の戦いでほとんど全滅した。ソ連政府トップのスターリンから末端の兵士に至るまで、今まで国内で行った反共産党の人、共産党でも自分たちと違う考えの人たちに行った大粛清、東欧でのユダヤ人虐殺、ポーランドでの軍幹部の大量殺戮、その他諸々の恨みを買っていて、降伏してもその先を見通したようだ。
この時代のロシアはラーラ世代だから、共産主義やスターリンに恨み骨髄だった(注3)ロシア共和国軍と集まってきた反共産党の人たちは、ひとかけらの同情もなく旧ソ連首脳と最後まで残った赤軍兵士を殺戮した。
同行していた亡命ドイツ軍も赤軍と運命を共にした。

西進していたドイツのV2ロケット開発者たちは、その前に東進してきたイギリス・フランス連合軍に降伏した。彼らはV2の設計図や開発品はないものの、自分たちの頭脳を提供する代わりに戦勝国での良い待遇を求めた。
しかし既に扶桑国が人工衛星を打ち上げたあとであり、イギリスもフランスも、一から開発するか、扶桑国から技術を買った方が良いかソロバンをはじいていた。失敗連続でまだ実用化されていないV2を高く売ることはできなかった。それでもイギリスとフランスはちゃっかりと技術者を二分して連れ帰った。



1933年10月

イギリス首相チャールズ・グレイは、4年に渡る戦争で崩壊した欧州諸国を復興するための欧州復興計画を発表。これは後にチャールズプランと呼ばれるようになる。
史実のマーシャルプランの対象国はイギリス、フランス、東西ドイツ、イタリアなど16か国だったが、チャールズプランでは、フランス、ドイツ、ロシアなど10か国であった。融資側はイギリスと扶桑国である。なお、アメリカは融資側にも借款側にも入っていない。
扶桑国ははっきりいって戦争でだいぶ儲けた。とはいえイギリスは扶桑国からの支援がなければほぼ勝てなかったし、ドイツが勝てば世界は変わっていたから扶桑国に文句を言える筋ではない。
そしてアメリカもまた扶桑国による満州での航空支援と大西洋のUボート制圧がなければ戦争に見通しが立たなかったわけで、文句など言えるわけはない。
先の欧州大戦でも最小の被害で最大の利を得たと言われたが、今回の戦争でも多くの国から妬まれている扶桑国はこれからうまく行動していかねばならない。



1933年11月

扶桑国東京 新世界技術事務所
社長を継ぎ、今や押しも押されもしない有名なコンサルタントとなった上野が、引退した工藤と話をしている。

上野社長
「叔父さん、これはビッグビジネスになる。現役復帰してひと仕事しませんか」
工藤
「お前が持ってくる話は危なくてしかたない。今までも第三者認証をやってはみたものの、物にならなかったよ」
上野社長
「今までのものはなぜうまくいかなかったのでしょう?」
工藤
「うまくいかなかったというよりも、長続きしなかったというのが正しいかな?
お茶 品質管理でも品質保証でも立派な管理手法であると思う。そしてその会社をみて評価することも間違いじゃないだろう。しかしそれは一定水準になれば、定期的に点検したり第三者が保証したりする必要はないんじゃないかな。
たとえば震災後に膨大な復興需要が起きて、作れば売れる、儲かると考えた人が雨後の筍のように現れたときは、供給者を審査する意味はあっただろう。しかし数年経てば別にお墨付きを必要とせず、購入している企業が供給者の是非を判定し、世の中の評価が定まる。わざわざ認証とかするまでもない。というか実は第三者認証は最低レベルであって、世の中の企業が一人前になればもう必要ないのだよ」
上野社長
「叔父さん、今はまさに宇宙産業が興ったときで、震災復興時と同じ状況じゃないですか。
つまりこれから人工衛星を始めとする宇宙産業が興る。宇宙じゃ不具合が起きたとき交換しますとか修理に行きますなんてことができない。
だからこそ宇宙産業に特化した品質保証の第三者認証制度の存在意義があると思うのですよ」
工藤
「確かに人工衛星に要求されるレベルは震災のときとは違う。しかしそういう業種は単なる仕組みだけの審査でなく、工程監査も合わせて行わないと意味がないだろうねえ」
上野社長
「じゃあその工程監査まで合わせて行うビジネスを始めましょうよ」
工藤
「あのさ、それは宇宙産業の技術を実際に知っていなければできないんだ。」
上野社長
「うーん、そうか。技術そのものを知っていれば宇宙に限らず第三者認証は意味があるはずですよね。それじゃ伊丹さんに相談しよう」



1933年12月

扶桑国外務大臣 有田八郎は、国際連盟で戦争予防のために国際連盟の強化、常任理事国の協力、各国の軍事演習や軍艦の配置などの透明化、そして恒久的な平和のために植民地の自治・独立、民族自決を有色人種とアジアにも適用することを求める演説した。

史実で1945年植民地だった地域と宗主国
植民地地図
注:宗主国(植民地を支配している国)も同じ色で染めている。
ウィキペディアより引用

前の大戦後の民族自決、植民地独立演説に続く扶桑国の強い意志の表明、そして戦後復興のスポンサーであることから、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、オランダなど植民地を持つ国々はその独立の計画を立てることを約束する。
またフランスの提案により、人工衛星での各国の軍事行動の監視、軍艦の所在地の把握と情報共有などが決議された。扶桑国は紛争防止に役立つとしてこの提案に賛成し、この時点で人工衛星を持っているのは扶桑国だけだから、その情報を共有すること(どうせ時代の流れでそうなるのだから)を了解した。
しかし植民地の独立は総論賛成各論反対で進展しなかった。更に戦後 時が経つにつれて豊かな国とそうでない国の格差が拡大し、いわゆる南北対立は深刻になる。植民地における独立戦争は南北対立も合わせてマグマのように永遠に落ち着くことなく、常にどこかで噴き出す国際社会問題となり1個所解決すれば終わりではなく、解決すればその穴を埋めるように新たな場所で問題が発生した。



1934年1月

伊丹邸
今年も皇帝と中野、犬養首相、高橋蔵相、岩屋、そして伊丹夫婦が飲んでいる。

皇帝
「さて今年はどうなるのかな?」
中野
「欧州の戦争も終わりましたし、さくらの身の振り方もつきましたし、ホッと一息です」
犬養首相
「昨年ロシア解放の戦いに参戦しましたが、大きな犠牲も出さず終了しました。
しかしこれから軍縮が始まり、欧州の産業が復興すれば輸出が減ることになります。軍縮と不況で失業率が上がれば社会不安も増すでしょう」
高橋是清
「まあ戦争が終わると不況が来るというのは毎度のことですが」
岩屋
「既に社会不安が広まり、これを打開しようと満州に進出しようと叫ぶ政党や政治結社がありますね。犬養首相や高橋蔵相も危ないですよ」
皇帝
「危ないとは?」
岩屋
「天誅です、天誅」
皇帝
「天誅?」
岩屋
「神様ではなくテロリストの馬鹿どもが、自分たちの言うことを聞かない政治家や軍人を刃物やピストルで暗殺しようとしているのです」
皇帝
「おいおい、岩屋、対策はしているのか?」
岩屋
「陛下、ことが事だけに、陸軍、海軍は信頼性できません。とはいえ憲兵隊では頭数が足りません。それで近衛師団にお願いして首相、大臣、主要な議員には護衛を派遣してもらっております」
皇帝
「1個所に5人や10人では暴徒やテロリストを防げないぞ。それに隠れて配備するだけでなく、外部から護衛が見えなければ抑止にならないのではないか」
幸子
「私の世界では犬養閣下も高橋閣下もクーデターで暗殺されました」
伊丹
「オイオイ、それを言っちゃいけないよ」
犬養首相
「いやいや隠すこともない。私も向こうの世界から来た本で歴史は読んでいる。
具体的にはどういう塩梅だったのですか?」
幸子
「犬養閣下、お気を悪くしないでくださいね、これは別の世界の話ですから。1932年5月15日夕方 閣下宅に海軍将校と陸軍士官候補生たち数人が侵入しました。向こうの世界の犬養閣下が「話せばわかる」と言ったそうですが、それに対して「問答無用」とピストルで撃たれたのです。止めを刺さずに彼らは逃亡し、閣下はその夜遅く亡くなります」

注:「話せばわかる」「問答無用」の応酬は、226事件の鈴木貫太郎侍従長と堂込曹長のやりとりとされている本もある。

犬養首相
「別の世界の犬養は私と違い最後まで名文句を吐くとは立派だ」
幸子
「それだけじゃありません。テロリストが逃亡した後に「彼らは9発撃ったのに3発しか当たらなかった。どういう訓練をしているのか」と嘆いたそうです」
犬養首相
「アハハハハ」
皇帝
「おいおい、笑い事じゃない。岩屋、犬養の警護体制を見直せ。高橋の方はどうだったのか?」
幸子
「向こうの世界の高橋閣下の場合は1936年2月26日でした。ご自宅に侵入した者が「天誅」と叫ぶと、閣下は「バカモノ」と怒鳴り返したそうです。閣下はピストルで6発撃たれ死亡します」

注:「話せばわかる」も同じだが、こういう状況についての描写は多々あり、高橋是清は即死だったというのも叫んだだけというのもある。

高橋是清
「最後の言葉を聞いただけで犬養首相との違いを感じますね。私は人間ができておりませぬ」
幸子
「まあまあ、いずれも向こうの世界のこと。この世界ではそうならないために岩屋閣下がおられるわけで」
岩屋
「そうならないよう万全を尽くします。ただ伊丹奥様のお話のように、向こうの世界では515事件と226事件と2回クーデターが起きました。この世界ではそのような2度にわたるクーデターではなく、種々の葛藤からのテロが一度に起きるのかなと予想しております」
中野
「岩屋さん、お二人だけでなく伊丹ご夫妻の方は大丈夫ですか。もちろん他の閣僚や高級軍人についてもですが」
岩屋
「皇帝を襲うとは考えられませんが、中野さんを始め帝族は危ないです。警備対象者が多くなりますと、警護の人数も大変です。そして漏れが出る恐れも出てきます。伊丹さんご夫妻は可能なら外国へご旅行とかされたらいかがでしょうか」
中野
「オイオイ、岩屋さん、そんな消極的でなく、積極的に危険人物を逮捕してしまうことはできないのか?」
岩屋
「中野様、危険分子のおおよそは把握しておりますが、完全ではありません。今、逮捕すると、逃れた人間が地下に潜ると追跡が困難となり、良い策とは思えません」
皇帝
「岩屋さん、これは国家的な超重大な問題です。クーデターの発生が予想されるときは、事前に摘発し未然に防ぐよう実施してください。
それから警護対象者を明確に定め、警戒を厳にしてほしい。少数の将兵でなく、特殊部隊を旅団規模で動かすなど対策をとること」


1934年2月
アメリカ政府が、シベリア東部からカムチャック半島、樺太の領有を宣言。また満州の租借地を中国政府から購入すると報じる。


1934年3月
扶桑国はアメリカのシベリア領有と満州買収を、植民地独立に反する行為と批判する。


1934年3月
フランス、イギリスはこのアメリカの発表を受けて、植民地を開放する義務がないことと国際連盟の植民地独立方針撤回を要求。


1934年3月
インド解放戦線臨時政府は扶桑国東京において、民族自決の権利を求める宣言を発表。


1934年4月
扶桑国内で戦争景気から後退し不況色が強まると、植民地獲得の主張をする政党、団体が増える。
  • 欧州復興に伴い、扶桑国の輸出が鈍化する。特に繊維製品や日用品において欧州向け、南北アメリカ向けが低調となる。
  • 1930年代後半から1940年代初めにかけて東北冷害が起きる見込みが高くなる。
  • アメリカのシベリア領有と満州をお金で購入することを聞いて、扶桑国の軍部と新聞が満州における扶桑国の貢献を主張して、アメリカは満州の一部を扶桑国に割譲すべきと論戦を張る。
  • 人工衛星そして弾道ミサイルの実用化に伴い、扶桑国は覇権を主張すべきだという新聞の意見、軍部の意見が強まる。

ある休日の朝、伊丹夫婦はいくつもの新聞を読みながらいろいろと話をする。

幸子
「クーデターも豊かでないから起きるのでしょうね。私たちは本当の意味で富国強兵を目指してきたつもりでしたけど、なかなか社会は安定しないものね。
これからしなければならないのは、不況対策というか不況になったときの心構えかな、上を見ればきりがないけど、下を見てもきりがないってことを忘れちゃったのよね」
伊丹
「これからは新しい技術を兵器ではなく民生品に生かして生活を変えること、その輸出によって豊かな国を築く時代だと思う。そういうことに力を注ぎたいね」
幸子
「とはいえ輸出で一人勝ちすればまた戦争の原因になる。難しいわ
ところであなた70でしょう。いつまで頑張るの?」
伊丹
「新世界技術事務所の上野君を覚えているだろう? 彼から宇宙産業の品質保証をやろうと声がかかっているんだ。むげにもできないから話だけは聞こうかと」
幸子
「クーデターがどうなるのか、まずはそれが問題だわね」


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注1
ラジオの普及率は1930年頃、アメリカで45%、日本では10%程度だった。
 ・初期のラジオ放送にみるローカリティの多面性
 ・アメリカでの商品普及率の推移

注2
旧約聖書の『創世記』19章のお話。神に背いた人々に神が天から硫黄と火を落として滅ぼす。現在は大きな隕石が落下したと推定されている。

注3
ラーラとは小説「ドクトル・ジバゴ」のジバゴの恋人で、ロシア革命の動乱に翻弄されて生きそして死ぬ。当時のソ連(ロシア)は、日本が戦争に負けて大変だったなんてのが大変でないレベルの大変な時代だった。
スターリンは1921年から1938年の間に476万人を逮捕し、294万人を有罪に、75万人を死刑にした。もちろん死刑にならずとも収容所とかシベリアに流刑されて死んだ人は多いが、その数は把握されていない。
中国の文化大革命の死者が4000万人、カンボジアのポルポトは200万人を殺したと言われている。
ちなみにギロチンで次から次と処刑したと思われているフランス革命の死者は全土で2万人だったそうな。戦前の特高警察が処刑したとかいわれていますが、共産党のウェブサイトでも小林多喜二他多くが殺されたとあるだけで何万人とかいう数字はありません。ウイキなどを見る限り1000人もいないようです。いくらなんでも2万人はいないでしょう。アッツ島の玉砕でも戦死2600名でした。まさかアッツ島より多いことはあるまい。
ストップ共産党 本当の共産主義は理想かどうかわかりませんが、共産党あるいは社会主義政党が政権を取った国家では、大量虐殺がおき、そして国家そのものが崩壊してしまったのは現実です。共産主義は人間を狂わせるなにかがあるのだろう。それにも関わらず、いまだに共産党を支持したり、共産主義が素晴らしいと考えている人がいることが理解できません。


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