うそ800始末2.上から目線

20.01.13
うそ800始末とは

「うそ800始末」を書くといいながら、第1回だけで終わりか? という声が聞こえたような気がいたしました。
そんなことございません。本日はその2回目でございます。

「上から目線」なんて、いつ頃から使われるようになったのだろう? ネットでググると、2000年以降に使われるようになったとある。意外と歴史が短いことに驚く。
上から目線 なお「上から目線」とは、年上や上役があごで使うとか、尊大語で「ああせい・こうせい」というのは非該当らしい。あくまでも目上でない者が目上の態度をとることを言うそうだ。
まあ、立場が上の人がそれなりの発言をするのは、上からなのは気に入らなくてもしかたないが、立場が下なのに生意気な口を利くのはおかしいということだろう。

「上から目線」という言い回しがなかったとはいえ、「上から目線」の態度は昔からあった。「上から目線」で最初に思い浮かべたのは20世紀のISO審査のことだ。私の働いていた工場では1993年の欧州統合に間に合わせて、ISO9000s認証した。
すぐに欧州輸出とは無関係だがISO認証を要求する客先が現れた。商売のためなら否応はない。過去に生産部門でチョンボして品質保証に流された私だったが、1回目のISO認証の成果が認められたのか、それとも面倒くさいのはアイツにやらせろと考えたのか、2度目のISO認証担当に抜擢()された。

当時は会社全体とか工場全体で認証を受けるなんて発想はなかった。UL認定は必要な製品、必要な製造ラインだけ対象とするのは当たり前。ISO認証も必要な製品だけ製造部門だけであった。なにごとにもお金がかかるのだ。
計測器 該当する製品にひとつの部門しか関わっていないなら、その部門だけ認証する。もちろん計測器管理だって関わる計測器だけが対象である。
当時計測器管理のボスは私だった。その工場の計測器には、大はEMIのスペアナから三次元測定機、中は体重計や実体顕微鏡、小はノギスやねじゲージなど、全部合わせると4000個はあった。
しかし認証を受ける製品の検査に関わるものはせいぜい100個、それだけを管理対象としていた。良い悪いではない。すべてはコストである。おっと他のものを校正していなかったわけではない。校正はもちろんしていたが、正直言ってISO登場前は、客先が必須と指定したもの以外まで数値まで記録するという状況ではなかった。

さて、なにごとも2回目となると経験は力なりである。大したトラブルもなく審査準備は順調に進み、審査とあいなった。
一回目と二回目は異なる外資系認証機関で、前回の審査員はイギリス人、今回は審査員は2人とも日本人で言語は日本語である。日本語のほうがコミュニケーションは容易だが、そのために細かいところまで書類・記録を見られて突っ込まれるかなと懸念していた。
オープングで審査リーダーは語る。「私たちは、御社のマネジメントシステムを一層良くしていくためのお手伝いをしたいと考えています」
そのときは認証を得ることが第一義であったから、オープニングの話など気にも留めず流した。そして審査はシャンシャンと終了し認証をゲットした。

ところで当時は、問題が起きたときとか後々の参考にするために、審査員の言葉を記録していた。 速記録 当時から撮影や録音はダメと言われていたので、手書きで話した通り記録していたわけだ。
もちろん力仕事は私の役目と決まっていた。残念ながら本格的な速記はできないので、普通の文字で必死に書きとった。それを審査終了後に文字起こしして関係部門に配るのである。

配布したものを読んだ部長が私を呼んで言う。
「これはおかしいのではないか? 我々はビジネスのためにISO審査を依頼した。会社を良くしてくれと頼んだわけではない。認証と改善は別物だろう」と。
私も文字起こしするときにそう思った。なんで頼まれもしないのに会社を改善してやろうと思うのか、おためごかしではないのか? まさに上から目線ではないかと思ったのである。
私は部長に同感であると言うと、部長は分かった、こんなことは無視しろという。というのは今まで審査の速記録を基に、次回にどう反映するか検討していたからだ。当時、審査員の言葉はまさに神の言葉であった。部長は審査員の挨拶を重要視するなという意味で言ったのだ。

それからすぐにISO14001が現れた。私はISO認証の経験者だからとそちらの担当となり、ISO9001は別の人が担当となった。危険物貯蔵所
おっとISO9001や14001の担当といっても、専任ではない。私はISO以外の品質保証も担当してたし、計測器管理の責任者でもあり、作業環境測定士や甲種危険物取扱者が工場に一人しかいなかったので、それらの仕事(危険物保管庫の整理整頓も含めて)とかいろいろしていたのである。計測器が4000個だから毎日平均16件の校正結果のチェックと検印があり、危険物貯蔵所を4棟掃除すると毎週半日はつぶれた。

ISO14001の審査を受けると、ISO9001の審査員とは大きく違うということに気が付いた。いや気が付いたのではない、いやでも気づかされたし、その違いが大きいのに驚いた。
まずISO9001の審査員が「マネジメントシステムの改善をお手伝いする」と語ったのは、非常に遠慮深いというか慎ましいというか、へりくだった態度であった。実はあれは「上から目線」どころではなかったのだ。

EMSの審査員はオープニングでISO審査がいかに役立つかを力説した。審査員が語るにはコンサルタントより、ISO審査のほうが会社を良くし、経営に貢献するそうだ。
おっとオープニングを始める前に、出席者が少ないぞと言われて(叱られて)、私はあちこち拝み倒してなんとか30人ほど出席者を集めなければならなかった。彼の講演はドラッカーやポーターほど価値があるようで、聴講者が少ないことにご不満だった。我々が依頼したのはISO審査であり、経営学とか競争戦略の話を聞くためじゃないんだが……

その次は経営者インタビューであったが、審査員たちは経営ガー、損益ガーと立派なことを語る。審査員の経歴は事前に通知されていて、それは工場長に渡していた。それによると審査員になる前は東証一部企業の課長クラスだった。しかし語ることはまさに経営者をしていたような口ぶりである。大会社の課長といえど、ここの工場長のように1000人も従業員がいて、売り上げから従業員の福利厚生、地域との共生などの社会的責任を負っていたはずはない。
工場長は脱力したような顔で無言で聞いていた。心中はこの時間でいかほど売り上げを出せたかと考えていたに違いない。

ISO14001の審査員たちはそれだけでなく、現場審査でも書面審査でも堂々と「御社を指導します」と語った。マネジメントシステムだけでなく、具体的な法規制対応も省エネ活動も環境配慮製品の開発も指導できるようだ。
すごい、鳥だ飛行機だ 審査員だ
ISO14001審査が始まった初期には、ISO9001とISO14001の審査員を兼ねている人は少なかった。我々もISO14001の審査は品質と違い、環境法規制とか環境施設の知識がないとできないと考えていた。すぐにそれは勘違いであると知ったが、
ともかくISO14001審査員とISO9001審査員はコーカソイドとモンゴロイドくらい人種が違ったのだ。どちらも黒目で黒髪だったけど。

もっとも彼らが指導といって語るのは日経エコロジー誌や新聞に書いてあるような、素人でも思いつく、効果が期待できないこと、ばかばかしいことばかりであった。とはいえ我々は認証をゲットするのが最優先だったから「審査員さん、そりゃだめですよ」なんて正直に本音は言わなかった。
ばかばかしい発言に反論するようになったのは21世紀になってからのことだ。

話の内容だけでなく、彼らの態度も上から目線だった。自信たっぷりで、口はいくつも持っていて耳はひとつも付いてなかった。耳なし芳一ならぬ、耳なし審査員か?
審査員の上から目線というのはイメージだけではなかった。もっと重大なことで上から目線だったのだ。傍若無人というべきかもしれない。


■審査基準がISO14001ではない。審査員の独自規格である。
規格要求にないことを、当たり前のように要求し、(当然であるが)それに対応していなければ不適合なのである。

審査員だって知らないことはたくさんとある。いや、何でも知っている人はいない。知らないことは悪ではないが、それを糊塗したり間違いを通そうとするのは悪だ。

■ISO規格を知らない無学

審査員
審査員
審査員A
「環境目的と環境目標の二つの環境実施計画がないとダメです」
担当者
困った困った
担当者
「ISOTC委員のTさんに問い合わせましたが、両方を満たすなら一つで十分とおっしゃいました」
審査員
審査員
審査員A
「それは間違いです。私が言うのですから間違いありません」
ISO審査員は上から目線ではない、ISOTC委員を超えた。
どこからその自信が来るのか知りたい。


■自分が法律だと信じている狂気

審査員
別の審査員
審査員
「この危険物保管庫は法令違反です。改造してください」
担当者
困った困った
担当者
「あのう…消防署に確認しましたが全く問題なく、審査員さんがおっしゃるように改造すると消防法違反で検挙すると警告されました」
審査員
別の審査員
審査員
「私が言うのですから間違いありません」
おお!審査員様はISOTC委員どころか、国家権力を超えた。いや彼らは神を超えたのだ!
手錠 あんな審査でよくも警察とか消防署から、抗議とか検挙とかされなかったものだと不思議に思う。
ちなみに所と署の違いをご存じでしょうか?
法律の講習会で、所と署の違いを説明されたことがある。所の付く保健所には逮捕権がなく、署の付く警察署・税務署や消防署には逮捕権があるのだという。
消防署の語ることが間違いだと、大勢いる会議室で堂々と語るのはどんな罪になるのだろう?

こうなると上から目線どころではなく、神の御宣託である。いや基地外かもしれない。
ISO審査員登録機関は登録基準を変更して、審査員申請者が成人被後見人でないことの証明とか精神病者でない診断書を要求しなければならない。おっと、それはおかしくもないし珍しくない。
廃棄物処理装置があれば、環境担当者は役員が変わるたびにたくさんの書類を県に提出したと思います。成人被後見人でないことの証明書もそのひとつですよね。社外取締役とか海外駐在者ですと、もう書類を集めるのが担当者泣かせです。
そんな重要なものでなく、アマチュア無線の資格を取るにも、精神病でないという医者の診断書の提出が必要だ。アマチュア無線の資格があれば、精神異常ではないということが言えるのだろうか?

会社法第331条 第1項 次に掲げる者は、取締役となることができない。
第2号 成年被後見人若しくは被保佐人
電波法第42条 第1項 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、無線従事者の免許を与えないことができる。
第3号 著しく心身に欠陥があつて無線従事者たるに適しない者
 ・精神病者、耳の聞こえない者、口の利けない者又は目の見えない者

おっと、そういうのは犯罪同然(犯罪そのものか?)で上から目線の範疇ではないかもしれない。じゃあ上から目線のISO14001審査員はいなかったのかというと、それ以上にザクザクといた。

■言葉使い
私が関連会社のISO14001審査に陪席していた時のことである。審査員が対応していた若い担当者に…若いといっても30代なかば…「おい、小僧」と呼びかけたのだ。
「小僧」だって!?
ここは審査の場だ。「一休さん」のアニメではない。企業が大枚を払ってISO審査を依頼したのである。いくら審査員が年配(老いぼれ)であろうと、「小僧」はないだろう、「小僧」は💢
まして事前に親会社の者が陪席するからと認証機関に申し入れて了解を得て、私が会議室後方に座っているのにそんなことを語るとは、相当な自信というか度胸があるのは認める。私が認証機関に抗議するなんて思いもしなかったのだろうか? それとも単にボケているのか?

似たようなものだが「坊や」と呼びかけた審査員もいた。呼ばれた方は20代であったが、審査員のお孫さんに似ていたのかもしれない。
今考えると、審査員から対応者が「小僧」とか「坊や」と呼ばれたら、その場で認証機関に苦情の電話を入れても良かったと思う。少なくても異議申し立て対象だろう。

■審査員は現実が見えません
以前このうそ800のご意見窓口に、審査員の方から「お前が書いているようなごう慢な審査員はいない」というお便りを頂いたことがあります。実はその審査員とは審査であいまみえたことがありました。
ヤレヤレ 審査での言葉使いは上司が部下に話すような口ぶりでしたし、経営者のインタビューはタメ口で、態度も教授が学生に対するようだ。わきで聞いていた私は、役員が怒るのではないかと心配した。
そんな人が「お前が書いているようなごう慢な審査員はいない」と語るとは、審査員はよくよく己自身を知らないのだ。
ソクラテスに生き返ってもらい「汝自身を知れ」と叱ってほしい。


上から目線ではないかもしれないが、客商売と自覚していないという問題をいくつか……
いずれも私自身が直接見聞きしたものである。

■てれこだよ
審査契約を取り交わし審査日が近づいてまいりました。でもって10日ほど前に審査スケジュールが送られてきました。担当者はそれを社内に周知しようとしましたが、おかしなことに気が付きました。
まず記載されている会社名が違います。当然審査スケジュールに書かれている日付も違うし、部署名も異なります。別の会社のものが間違えて送られてきたのは一目瞭然です。
担当者はすぐに審査員に連絡を取りました。審査員は間違えを認めて、すぐにその会社のものを送りますという。
担当者は納得できず経緯を上長に相談すると、上長はこちらに間違ったものが来たなら、当社のものは別の会社に送られたに違いない。その処置はどうするのか? 守秘義務違反についてはどうするのかと問い合わせました。
私の知っているのはそこまでです。認証機関として誤って送付した二つの会社に、他社のものが送ってしまったことの謝罪と守秘のお願いをしたのかどうか、二つの会社がそれに応じたのかどうか、わかりません。ただそういうことがあったことは事実です。
っと、まさか細けいことを気にするななんてはおっしゃらないでしょうね、この情報セキュリティのうるさい時代に、

■次は軽いものを
実名は言えませんが、会社名を似た名前の会社名と間違えていたのがありました。
マラソン お正月、大学駅伝を見ていたのですが、中央大学と中央学院大学ってあるんですね。初めて知りました。まあ、そんな感じの間違いです。
中央大学へ中央学院大学と書いて出したらどうなります? 中を見ないで受け取らないのではないでしょうか。
その会社では社名を間違えたのだろうと受け取りましたが、会社の担当者は苦笑いしていました。
考えてみれば全然軽くありませんね。

郵便 実を言いまして私も昨年(2019)宛先を間違えたことがありました。三菱UFJ銀行に三菱東京UFJ銀行と書いて出したのです。東京三菱が2006年に三菱東京UFJに変わり、2018年に三菱UFJに変わりました。投函してから気が付いたのですが、郵便物は戻ってきませんでしたから結果オーライでしょう。改称後1年なら許されたのかもしれません。

■もっと軽いかどうか……
これも審査スケジュールの送付のことです。送られた資料の前についていた、送り状の送り先宛に担当者名が書いてありましたが、「様」がありませんでした。
ふつう宛先には、会社や組織なら「御中」、ご芳名なら「様」あるいは「殿」をつけるのは世の中の礼儀というか常識でしょう。
郵便物の宛先に敬称(様・御中など)を付けないケースがあるのだろうか。ネットで果たし状の宛先はどうなのかとググりましたが、ちゃんと「殿」とか「様」はありました。

■間違いとは言えませんが、
ふつうレター冒頭に客先の会社名/担当者名を書きますが、会社名を英文字略称で書いていたのがありました。英会社名を英文字表記でもよいでしょうけど、フルネームを書かないとダメでしょう。日本語表記だって「(株)○○」では失礼で、登記された通りの社名「株式会社○○」としなくちゃいけません。これ常識。おっと前株、後株を間違えても失礼極まる。
ちなみにAGCはAGC株式会社が正式名称、NMBはミネベアミツミ株式会社が正式名称、英文字のとき末尾もLtd.、Co.,Ltd、Inc.、Corp.などなどありますからよく調べてね。CompanyのときはMitsui & Co.のように接続詞はandですよ、

審査員は違いましたが、環境方針の中に登記した社名でなくて英文字略称で記述していたら「不適合」とされた会社を知っています。この不適合判定は正当なんでしょうか?
私は環境方針と対外的な正式なレターの表記は、位置づけが違うと思いますね。

名刺交換 私が引退する前ですから2012年頃、某認証機関で礼儀作法の研修をすると聞いたことがあります。礼儀作法といっても小笠原流ではありません、名刺を片手で出してはいけないとか、皆の前で話すときは片手をポケットに入れてはいけないとか、応接セットと出入り口がどうであればどこに座るとか……そんな話を聞きました。
社外への発信文の書き方についても教育をしたのでしょうか? 興味があります。

私個人のことを言えば、私は44年間のサラリーマン生活で、社外の人は、調達先・客先、目上・目下、年上・年下に関わらず、すべて「さん付け」で呼んでいた。私は客なら「さん」、年下なら「君」というのは感覚的に納得できない。
会社を替わってからは、社内の人もすべて「さん付け」で呼ぶことにした。だって会う人がみな初対面だから、名札でご芳名はわかっても、重役か課長か平かわからないし年齢もわからない。「さん」で呼ぶのが一番無難です。

お金を取る審査をするなら、規格の知識、法律の知識、環境管理の知識だけでなく、社会常識をもってほしい。 えっ! ISO規格もわかってないって!……そりゃ、困ったなあ〜

21世紀になって認証件数も減ってきたので、審査員は低姿勢となり、それだけでなくよほどのことでないと不適合にしなくなったと聞く。 あなた嫌いよ
それはおかしいだろう
そんなことをしているからますます馬鹿にされるんだ、
売り手市場でも買い手市場でも、いつも穏やかに公平に対応するのがビジネスのあるべき姿、いや常識ではないのか?


うそ800 本日の主張
私は金を払う企業が客で審査員は業者だ、控えおろうというのではない。
審査は講演のように語る場ではなく、教室のように教える場でもない。お互いに対等であるから礼儀をもって応対したい。それが社会人としての常識だ。 異議あり!
上から目線、傲慢不遜、天上天下唯我独尊、そういう審査員が多かったからISO認証の評価が下がり、認証が減ったという仮説は成り立ちませんか?
某理事長が語る「審査で企業が虚偽の説明をした」という説は証拠不十分ですが、審査員が上から目線という証拠はザクザクあります。






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