内部監査の遍歴その3

20.10.26

私が品質監査とか環境監査をしていたのは、私の社会人人生45年の最後の15年だ。短いともいえるが、働いていた年月の3分の1となると、それは結構な期間だ。
もっと長い年月、監査をしていればより経験を積んで上達したかといえば、そうは思わない。監査するには裏打ちするものが必要と考えている。だから監査が上達するには監査する製品や事業の体験が重要だと思う。

審査員や監査員に必要な力量を決めたものにISO19011がある。

ISO19011:2018 マネジメントシステム監査のための指針 7 監査員の力量及び評価

どうもISO規格は改定するほど劣化するという法則があるようだ。ISO9001しかり、ISO14001しかり、ISO19011も同じでは困ったものだ。
ISO19011の旧版では監査員に必要な力量を「個人的特質、監査の知識と技能、監査するもの(QMSとかEMSなど)についての知識と技能」とビジブルにあげていた。2018年版になって表現が相当変わった。
ともかく倫理的、多様な視点、外交的、観察力、めざとい、適応性、粘り強い、決断力、自立的、前向き、不撓不屈の精神などは旧版と変わらない。
いずれも私が持っていない性質である。

とはいえISO19011は「指針」ですから、これを満たさなくても審査員になれるし、実際に満たさない審査員は多いでしょう。

ちなみに…… ISO規格にも強制力によっていろいろあります。

ともかく監査員あるいは審査員になるためには、個人的特質、監査の知識と技能、監査対象(品質とかセキュリティなど)の知識と技能が必要なことは、直感的に同意いただけるだろう。
もちろん世の中は理想とかけ離れているから、友好的な性質でないサディストの審査員もいるだろうし、審査の知識どころかISO17021やISO19011などを紐解いたことのない審査員も知っているし、ISO14001の審査に来て環境六法も知らない人は珍しくない。

白状します 最初「公害六法」と書いて心配になり確認したら、21世紀では公害六法という言い方そのものがない。現代では環境六法といい、そこには私が考えていたものと全く違う、地球環境、自然保護、循環型社会の形成等、環境保全などが並んでいる。まさに隔世の感である。
1970年代は公害六法とか公害14法という言い方は普通にされていたのだが……公害六法が環境六法に変わろうと、公害を知らなくて審査ができるわけがない……と負け惜しみを言っておく。

環境や浜の真砂は尽くるとも世に公害の種は尽くまじ
盗賊(石川五右衛門 辞世の句)

蛇足であるが、六法とは元々は、憲法、刑法、民法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法を言ったが、その後一般的にある分野における重要な法律を意味するようになった。別に六個でなければならないというわけではない。

ともかく監査員/審査員になるためには、ISO19011が語る上記3つの力量を身につけなければならない。
個人的特質は……これは生まれつきの性分ということもあり、簡単ではない。そして個人的特質がなくても審査員をしている人は多いのも事実。ということでここではそれはおいといて、審査の力量と専門分野の知識・技能について考えよう。

審査/監査の力量
よく見かける……と言おうと思ったが、最近では認証機関が行っている内部監査員研修の広告を見かけなくなった。受講者が減ったのかどうか私は知らない。

1993年頃かな、ISO9001認証しようとしたとき、ISO規格の講習会を受講した。そのころは審査員研修機関も認証機関も、立派な建物を構えていたわけでもなく、講習会もどこかの貸会場だった。
その中に内部監査の解説があった。講師自身が内部監査も二者監査もしたことがない風で、その内容は単に要求事項を裏返して聞くことを教えただけ。
プレゼンテーション そういえばテキストはイギリスのものを直訳したものだった。湿気の高い部屋に各種記録を保管しているとか、現場の管理者がルールを定めた文書を読んでない、審査に遅刻したときどうするかなんて事例が載っていた。
講習会終了後、配布した資料はすべて回収された。回収するほどの価値があるとは思えなかった。
それから数年後、主催は違う内部監査員研修を受けた人がいたので講義内容を聞いたら、私のとき使ったテキストを使っていたようだった。このテキストを使った講座は多かったようだ。私の話を聞いただけで、あぁ、あれか!と思った方もいるだろう。

私はそのときまで客先の監査を受けたり、自分が下請けを監査したりしていた。それは要求事項を裏返して聞けば済むようなものではなかった。というのは実際の二者監査というものは、自分がOKして受け入れたのちに問題があれば、受入検査や監査した者が責任を負うということなのだ。
だから「○○していますか?」「○○の記録がありますか?」なんてもんじゃない。製品検査はもちろんだが、文書やしている仕事を目を皿のようにしてチェックした。ひとつのことをOKするにも決断が要った。
いったんロット合格として受け入れた後に不具合が発覚しても、そうとうの瑕疵がなければ受け入れたほうが手直しする。もちろん受入検査、監査をした者が譴責を受け査定に響く。だからそんなことが起きたら、私は隠れて自分が手直しをしたものだ。もちろん調達先への指導は行ったけど。
そういう仕事をしていたから、その内部監査講習はのどかすぎて呆れるしかなかった。

最初に受けたISO審査そして1年くらいは、内部監査員をどのように指名したかとか、その資格要件などは質問されなかった。
1995年頃に審査を受けたとき、内部監査員は外部の研修に行ったかと聞かれた。外部講習会に行きましたというと、ああそう、で終わった。相手も単に興味から聞いたのか、時間つぶしのような感じだった。特段どんな研修が必要とか言われた記憶はない。
ISO認証が始まる以前からB to Bの取引では品質保証協定書を結ぶのは一般的になっていたし、故に品質監査をしたりされたりは当たり前だった。ISO審査員もそれを知っていただろうから、わざわざ内部品質監査員教育なんて思いもしなかったのだろう。


1997年、ISO14001が制定されて認証の準備をしていたとき、内部監査員は外部研修を受けなければならないという情報が入ってきた。当時はISO14001認証しようとする近隣企業はお互いに情報交換をしていた。というのはISO9001と違い、ISO14001の審査はくせがあり、規格をひたすら読んだだけではダメというのは共通認識だった。
特に環境の監査なんてそれまでしておらず、いったいどんなものか、どの程度のことをすれば良いのか分からなかった。だから審査の情報は喉から手が出るほど欲していた。

その後入ってきた情報は、内部監査員は審査を受ける認証機関の内部監査員研修を受けなければならないという。
オイオイ、それってマッチポンプというかまるっきり金儲けじゃないか。あくどい商売だと思ってみても、どうしようもない。
当時は、本審査の前に予備的な審査(名前は忘れた)を受けなければならず、その予備審査での不適合をすべてクリアしないと本審査に進めない。予備審査で内部監査員は外部講習を受けなければならないと言われると、本審査までに是正(?)しないとならない。
しかたがない、我々も審査契約した認証機関の講習を受けなくちゃならない。

早速認証機関に電話すると、受講者が多すぎて受付できないという。
オイオイ、受講しないと審査でダメだといい、受講しようとすると満員御礼とはなんだ💢 と文句を言った。 パイプ椅子 すると研修する部屋の後方に椅子を置くので、そこで受講するならという。是非はない。申し込んだ。
部屋の後側壁ぎわに、折り畳みパイプ椅子が並べてあった。しかし机はない。前のほうは机があってテキストを置きメモもできるが、後方は膝の上でメモ書きである。
まあそんなふうに講義を聴講した。しかしそこで語られることは、あほらしくて聞くまでもないレベルだ。これで数万円取るとは暴利だ、暴力バーだ。酒が出ないのだから余計悪逆非道である。

20世紀では認証機関の収入は3本柱と言われた。認証事業、ISO関連書籍出版、講習会である。まさに今とは隔世の感である。
今じゃ認証件数は減るばかり、しかも審査料金は値下げ競争。ISO関連書籍など今どき買う人がいるものか。講習会? めったに開催されないから閑古鳥も鳴かない。
まあいっときでも我が世の春を謳歌したのだから、文句は言えないだろう。

大いに話がそれた。
今も昔も、認証機関が開催する内部監査員研修なんて役に立たない。そもそも審査員が高い力量を持っていないのだから、その認証機関がレベルの高い講習会を開けるとは思えない。じゃ認証機関でなく、審査員研修機関が開催するものなら良いのか? なことありません。みんなダメです。
そもそも一日二日、規格解説を聞いて、監査の方法を聞いて、練習ロールプレイして、効果があると思いますか?
英会話を二日間講習を受けたら話せるようになりますか?

前回述べたが、監査/審査で重要なのはコミュニケーションをとることだ。コミュニケーションをとるためには、話し手と聞き手が共通の言語を持たねばならない。日本語で話せばOKというわけじゃない。
審査員/監査員には、規格の言葉を使わずに要求事項を確認する言語能力が要るのだ。それをないがしろにして高尚()な議論をしても意味がない。
ましてや規格の文言を裏返して問えば、期待する答が戻ってくると考えるのは、百年河清を俟つようなもの。

審査員研修でよくやるロールプレイだって、お互い規格を読み込んでいるから成り立つ。ISO規格を知らない…もちろん一般人でなく第一線の管理者、営業マン、技術者に…ISO規格の言葉で質問しても会話が成り立つとは思えない。

順守義務について審査員が質問しました。
審査員
「法規制一覧表を見せてください」
会社員
「法規制一覧表ですか…そういうものは作成しておりません」
審査員
「法規制一覧表がないのですか……」

粘り強い審査員なら、表現を変えて質問を続けるだろう。
しかし審査員がISO規格を知らず、更にISO規格を知らない人へのアプローチを思いつかないなら、これで終わりだ。判定は不適合かもしれず、己の能力がありませんでしたと正直に書くのか、ワシは知らん。
ともかくこれは質問が悪いのだ。ISO14001の1996年版、2004年版、2015年版いずれを見ても、法規制一覧表を作れとは書いてない
えっあなた知らなかったですか
表現はバージョンによって異なるが、2015年版では次のようである。

ISO14001:2015 6.1.3 順守義務 組織は、次の事項を行わなければならない。
  1. 組織の環境側面に関する順守義務を決定し、参照する。
  2. これらの順守義務を組織にどのように適用するかを決定する。
  3. 環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するときに、これらの順守義務を考慮に入れる。組織は、順守義務に関する文書化した情報を維持しなければならない。

まあ、ここでは b と c はあまり関係ない。関わるのは a である。
なお、ここで「決定する」と訳されている原語は「determine」であり、ふつう使われる「決定する」ではない。詳しくはこちらを参照されたし。
ともかく a が語っているのは、関係する環境法規制はなにがあるか調べろ、それを文書にしておけということだ。要求事項だから命令文なのはしょうがない。

だが考えてみよう。
ISO認証するから法規制を調べようという会社があれば、私は危なくて近づきたくない。あなたもそうでしょう。
実際には新規設備を導入したり、環境が変わったり、法律が制定されたりしたときに関係する法規制を調査して対応しているのではないだろうか。それが一般的だろう。
そしてその調査結果を、それぞれの法律のファイルにとじているかもしれない。あるいは排水処理設備を導入した時に、そのメンテナンスとか交換部品などと一緒にファイルされていてもおかしくない。それとも、届け出事項だけをまとめてファイルし、必要な有資格者だけをファイルしていてもおかしくない。いずれにしても規格要求から外れるわけではない。

そんな現実を踏まえると、規格に書いてある「組織の環境側面に関する順守義務を決定する」というのは、そもそも主客転倒ではなかろうか。実際の会社の仕事と法規制の関係をみれば「順守義務があるものを環境側面としているか?」ではないかと思う。

でもこれもトートロジーのようで病的だ。そもそも環境側面なんて用語をわざわざ作る必要があったのか?
「順守義務があるものを環境側面としているか?」なんて質問するのもおかしな話で、「法規制がかかるものを認識しているか?」と聞けば難しい言葉を使うまでもない。

おっと、環境側面が先か法規制が先かは、これから先考えよう。
とりあえず、法規制一覧表が必要か否かであるが、不要であることは間違いない。
しかしながら世のISO14001審査員は文字が書いてない勧進帳も読めるようで、規格にない法規制一覧表を要求する人が大多数である。
自ら異議申し立てしてほしいと叫んでいるようだ。

実際にあったが、私が法規制一覧表は作成していないと答えると、その審査員は規制を受ける法律を一覧できるような表を作成すべきだと語った。そんなもの誰も使いませんと言うと、審査員にとっては有用だという。
れた
会社にとって意味がなくても、審査員しか使わない書類を作れというのか? 高い審査料金を払い、余計な仕事を増やし、定期的にそれをメンテナンスしなければならないとは。どっちが顧客なのか分からない。会社はそんなに暇じゃない。
そもそも環境マニュアルだって、作成する必要がないものだ。だが認証機関/審査員のレベルが低いから作成を依頼されていると認識している。実際に外資系認証機関の中には環境マニュアルはもちろん、法規制一覧表、環境側面のリストなど送付する必要はないと語っているところもあるのだ。
恥を知れ
その審査員はいろいろと粘ったが、お断りした。
あのひと〜どうしているだろう〜
とうに引退しているだろうけど、引退までにISO規格を理解したのかどうか、それが気になる。


ところで法規制一覧表というのはどういうものだろう?
エクセルに法令名を並べればいいのか? それならA4で1ページに収まるだろう。
しかし順守義務をはっきりさせろというのだから、法律の名前を羅列しても要求事項を満たさない。この法律ではこんな規制があります、届け出、有資格者、記録の保管、異常時の処置、定期点検、怠った場合の罰則、いやいや過去にあった違反事例とか考えればきりも限りもない……
水質汚濁防止法でも会社に関わることを書き出せば、10ページくらいあるだろう。廃棄物処理法となると50ページはある。そういうものをご所望なのか?
となると二次元のエクセルではまとめきれない。ファイル1冊になる。データベースにしようとAccessに入力するだけであくせくしてしまうよ。

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社員
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そんなもの使う人いないよ
余計な仕事を作らないでよ

監査の話に戻る。

そもそも規格を裏返して質問するならば「法規制一覧表を見せてください」とはならないでしょう。
まず「6.1.3 順守義務」の最初の文「a.組織の環境側面に関する順守義務を決定する」を裏返えしするなら、第一問は「組織の環境側面に関する順守義務を決定しましたか?」ではありませんか?
しかしこれはISO規格的表現です。共通言語足りえません。
「組織」とは認証範囲のことですが、とりあえずは「会社」としましょうか。審査で問うときは「御社」と言いましょう。
「環境側面」は一般語ではありませんね。ここは環境側面を使わずに平易に「会社に関わる」と読み替えましょう。
「順守義務」も正確に言おうとすると長ったらしくなりますから、「環境に関わる法規制や協定」と言い換えます。
「決定」ってのも原語はdetermineで、そもそも翻訳が おかしいまちがっている から、「調べましたか」としましょうね、


ともかくいろいろご意見はあるでしょうけど、監査でも審査でも、質問するということは相手を尊重して、いかに誤解のないように表現しなければならないのだということをご理解いただきたい。
そして私が相まみえた審査員の多くは、規格の理解もままならず、更に自分の求めることを相手に誤解なく伝えることができなかったという事実に唖然とする。

私は現場で働いていたから現場の人が何を考えているか、現場監督をしていたから現場でどう指示したらよいのかが頭に浮かぶ。だからこういうことを知りたいならどういう質問をすれば回答が得られるかが思いつく。
もちろん完璧なんて期待できるわけがない。できないのだが、己の知識、知恵を総動員して最善を尽くそうと努力すべきだろう。

今回は力量を語ろうかと思ったが、6,000字も費やして、前回のコミュニケーションの続きで終わってしまった。
まだ、専門分野の知識・技能についてはひとことも言及してないぞ!


うそ800 本日のまとめ
人は自分の体験したことしか理解できない。だから自分の体験を基に、相手に理解してもらえるように、自分が求める回答をしてくれるような質問を工夫しなければならない。
自分が的確な質問をしないために求める情報が得られないなら、それは己が未熟なのだと認識しなければならない。だって事実なんだから。
監査に限らず会話は、相手をおもいはかることが重要ということだ。




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