世代…スマホ脳を読んで

21.06.07

書名著者出版社ISBN初版価格
スマホ脳アンデシュ・ハンセン新潮新書97841061088222020.11.181078円

少し前「スマホ脳(注1)という本を読んだ。その内容は
スマホ 「最近うつ病が増え、また集中力のない子供が増えて問題になっている。それらはスマホが原因だ。もっと紙の本を読み、またキーボードでなく手書きする習慣をつけなければいけない。
なぜかというと人間という種が発生してから20万年になるが、その9割以上は狩猟生活をしてきており我々は狩猟生活に適応するよう進化してきたので、スマホをいじるようにできてないからだ」

という趣旨だ。

似たような趣旨の本に「寄生虫なき病(注2)とか「人体600万年史 (注3)がある。これらは「人間は狩猟生活に適化している」ということは同じだが、身体的なことについて述べている。毎日何万歩も歩いて獣を狩ったり木の実を探していたのが、パソコン机の前に座るようになって、腰痛、肩こり、近視そして肥満や糖尿病が増えたという本だ。

この「スマホ脳」は精神面について、注意力や体の反応が狩猟に対応しているのでスマホというかインターネット時代には対応していないと述べている。そして対応していないにもかかわらず、四六時中IT機器を使うようになったからストレスを受けて……という本だ。

書いてあることはもっともらしいが、統計データや実験結果などが載っているわけではなく、文章だけだ。引用文献もない。だからそうかなあ〜という気はするが、信用する根拠がない。
おっと著者はスウェーデンの精神科医だそうだが、誰が言おうと証拠・根拠がなければ信用に値しない。


ではなぜお話を「スマホ脳」から書き始めたかであるが、スマホ脳の第1章の1ページ目と2ページ目が次のようであった。

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実際はもっともっと点々が続く。開き2ページにただ点々が1万個あるだけだ。文字が一つもない。
上記の点の数は1080個だが、本に印刷してあるのは1万個だから、この約10倍になる。

3ページ目をめくるとやっと文章が現れ、私たちの祖先が現れたのは20万年前であり、一世代を20年とすると、我々が人間になってからのご先祖様は1万世代になるという。そしてここにある点ひとつが一世代を表している。
我々はこの点の数ほどの世代交代を重ねてきたが、車や電気、水道のある世代は点8個分つまり8世代160年、コンピューターや携帯電話のある世代は点3個分3世代60年、スマホ、フェイスブック、インターネットのある世代は点1個1世代20年しか経っていないとある。
つまり1万点から数点を除いたほぼ1万世代が狩猟採集生活をしてきたのだから、現在のインターネット社会に適応していないのも当然だという。

ところで、世代(generation)とは普通30年と解されている。赤ちゃんが生まれ大きくなり結婚して子供を持つまでの一サイクルの期間を一世代というが、現代ではほぼ30年だ。
しかし私が子供の頃、たった半世紀前は結婚適齢期とは男25〜30歳、女20〜25歳でした。それを過ぎると変わり者とか行き遅れなんてひどいこと言われたものです。
ちなみに昭和16年に結婚した私の両親は親父31歳、母28歳で当時としては晩婚でした。それは戦争中という非常事態だったからです。

童謡「赤とんぼ」には「十五でねえや〜は嫁に行き♪」とありますが、この歌が作られたのはちょうど100年前の1921年でした。
織田信長の正妻と結婚したのは15歳で濃姫は14歳、その前の側室 吉野とは信長14歳、吉野10歳という説もある。11歳では子供を産めないのでは? まあ当時は政略で縁を結ぶため子供でも結婚というのはありましたけど。
徳川吉宗が結婚したのは22歳、嫁さんは15歳。
昔は一般人も早婚でふつうは20歳前、20〜28は中年増、29過ぎたら大年増と呼ばれた。今の日本では大年増しかいない。とにかく昔は結婚が早かったのです。

日本人の平均寿命は江戸時代中期以降は20歳を超えているが、戦国時代以前は20歳未満、 平均寿命の移り変わり 平安時代以前は15歳未満だった。
平均寿命が短いとは、皆が15歳で死んだり、老人になるのが早かったわけではない。昔だって70歳あるいはそれ以上長生きした人はたくさんいる。乳幼児とか子供のときに死ぬ子供が多かったということです。
江戸時代は手厚く保育された大名の子でさえ乳幼児死亡率は23%、明治になっても乳幼児死亡率は15%だった。
ちなみに2017年の乳児死亡率は0.19%である。
誕生日前に多くの子供が死亡していたから平均寿命が短いのは当然だ。
ということで今の人類が出現してからの一世代を、20年とすることは間違いではない。


私はこの点々ばかりのページを見て大いに感動というか衝撃を受けた。だって自分とネアンデルタール人は、たった1万世代しか離れていないのだ。
1万というとゼロが4つと思うととんでもなく大きな数だが、開き2ページを埋める点々の数を見ると、そんなに多くの数じゃない。
たった2ページに打たれた点々の数の親子関係でネアンデルタール人と自分がつながっているってものすごくすごいと感動しないか?
それが本日のテーマだ。


さて人間の歴史を簡単にみると

ネアンデルタール人の姿形は昔からいろいろな想像図が描かれてきたが、現在では今風の服装をして街角に立っていれば、誰もネアンデルタール人とは気づかない程度の違いしかないといわれている。最近のネアンデルタール人の想像図は現代人と変わらない(注5)
現生人類の簡単な年表

現生人類の簡単な年表

最近ではアフリカ脱出時期や脱出回数に諸説あり、また我々はネアンデルタール人と交雑した子孫とか、人種が分かれたのは77万年前だとかさまざまな論や説があふれている。またアフリカから人類が旅立ったのは集団として数回のみと言われていたが、今はゾロゾロダラダラと移動していたという説もある。……実際は家族が獲物を追いかけているうちに、いつのまにか遠くに移動していたということだろう。
まあ新たな発見があるたびに書き換えられる学問だから、大体の流れを把握しておけば生きていくに十分だ。20万年も20年一世代というのも目安とみてもらえばよい。


ここからが本題だ
20万年前、頭脳や体つきは現生人類と同じとしても、裸で狩猟と採集だけしていたご先祖が、いかにしてパソコンがなければ死んじゃう私や息子のように進化(退化)してきたのだろう。

現代から行ってみよう。
私が1949年に生まれてからの70年間はものすごい変化があった。暖房ひとつとっても木炭のコタツから電気こたつになり、石油ストーブになり石油ファンヒーターになり、エアコンになった。いろいろな要素での違いをまとめてみよう。


老後 我が家のこれから
我が家の家系は私の息子で終了だ。息子は40となった今も独身、たぶん未婚で終わるだろう。嫁に行った娘も小梨でもう孫が生まれるあてはない。
とはいえ嘆くこともない。人間は社会的動物だから、過去に生きた人たちはすべて私のご先祖で、未来に生きている人たちはみな私の子孫と考えてよい。

大河小説を超える何千年もの長きを描いた小説も多々あるが、そこではたて糸になる人たちが直系のケースあるし、全く無関係の人たちのケースもある。

ジェームズ・ミッチナーの「人間の歴史(注9)」は狩猟生活の昔から現在まで描くが、直系の登場人物たちが縦糸となる。それは旧約聖書に倣っているのだろう。
とはいえある人の10代目の子孫といっても、その遺伝子は1024分の1に過ぎない。そしてそのとき10代前の先祖の遺伝子を受け継いだ人は、1000人以上いるだろう。それは3σの誤差で切り捨てられるレベルであり、血がつながっているとはいえないだろう。

アイザックアシモフの「銀河帝国の興亡(注10)」では、各時代における物語の主人公たちは全く血縁はない。 宇宙船 これが現実ではなかろうか。
三国志で○○は先の帝国の○○王の子孫なんていうつながりを持ち出すのは権威付けなんだろうけど、科学的(それとも統計的か?)に意味がない。
戦国時代や江戸時代に大名が貴族にお金を払って家系図を作らせたのは有名な話。
そんなこと気にせずに、それぞれが自分が置かれた立場で最善を尽くせば人間の歴史になにかを加えることができるだろう。そして人間の集合体は悠久の川の流れのように歴史を紡いでいくのだろう。すばらしいことじゃないか。

老後 本日の豆知識
では今までに生まれた人間は何人いたかと質問したい。
今70億人(2011)いるらしい。1万世代というと……過去現在までに存在した人間は何人だ?
実は人間として生まれた人は1200億人くらいで、そのうち70億人が生きている。これは過去から存在した人間の6%が今生きているということになる。
おかしいぞなんていってはいけない。ここ1世紀の人口爆発がいかにすごいかということだ。アフリカを脱出した人たちは数千人といわれる。キリストの時代の世界人口は2億といわれる。私が子供の時、世界人口は30億と習った。わずか60年で人口倍増だ。
温暖化よりも環境汚染よりも怖いのは人口爆発だ。




注1
「スマホ脳」、アンデッシュ・ハンセン、新潮新書、2020

注2
「寄生虫なき病」、モイセズ・ベラスケス・マノフ、文芸春秋、2014

注3
人体600万年史(上)(下)、ダニエル・リーバーマン、早川書房、2015

注4
大名の乳幼児死亡率1651〜1850年 : 大名系譜の分析

注5
最近はこの絵がネアンデルタール人の実像だとするものが多い。しかしいわゆるコーカソイド(白人)が成り立ったのは数千年前といわれており、20万年前のネアンデルタール人が金髪碧眼という可能性はまずないんじゃないか?

注6
注7
注8
エジプト文明を作った人たちは黒人だったそうだ。同時代のモーゼやソロモン王も黒人だったという。古代ローマでは白人も黒人も混在していて人種差別はなかったらしい。皇帝セプティミウス・セウェルスは黒人だった。
イエス・キリストも黒人だったという説もある。

    以下はいろいろな本に書いてあったものである。
  • 500万年前 ヒトがチンパンジーたちと別れた。当時肌の色は黒より薄かった
  • 170万年前 森林から草原に出て汗で体温調整するため体毛を失う。紫外線への対応のため肌が黒くなる。
  • 3万年前  ネアンデルタール人滅亡。このとき現生人類の肌は黒。滅んだネアンデルタール人の肌は青白という説あり。
  • 各地に分散するにつれ、婚姻、紫外線や気温などの環境によってメラミンの過多などが変わり、肌の色が多様となる。
    オーストラロイドと呼ばれるニューギニアやオーストラリアの原住民は、アフリカと直接の関係はなく、白人やモンゴロイドから変化したといわれる。
2000年以降、人種は科学的分類ではなく社会的構成であるというそれまでの発想から、人種は祖先集団という発想が現れた。それを決定するのは肌の色ではなくDNAによるという考え。肌の色が違っても近似のDNA保有者がいること。
人種による能力の差はない。短距離ランナーは西アフリカ人、中長距離ランナーはケニア人に限られる。
注9
「人間の歴史」3部作、ジェームズ・ミッチナー、河出書房、1967

注10
「銀河帝国の興亡」アイザック・アシモフ著
その後別の出版社からも発行され、タイトルは「ファウンデーションシリーズ」「銀河帝国の興亡史」などつけられる。



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