現場の標準化1

21.11.17

私はいつも言いたい放題書いている。それで、お前は本で読んだり聞いたりしたことを語っているのだろうとか、ウソばっかりとか、誇大妄想なんて言われているのではなかろうか。
あるいは、講釈はいい、おまえは何をしてきたのか? と突っ込む人もいるだろう。
いやいや、そんなことはない。私は実際にしてきたことだけ語っている。もっとも語っているのは成功したことだけで、失敗談は省略しているけど(笑)。

本日は現場の標準化とは実際にはどんなことかを語る。もちろん失敗談は語らない。


整理整頓
子供ときは家庭で、学校に入ると先生から、整理整頓しろと言われてきた。
お掃除 会社に入ると、整理整頓に清掃が加わり更にかっこよく「3S」という言葉に代わり、それがだんだんと成長して4S、5Sとなり、中には7Sなんて語っている人や会社もある。7Sというとセブンスターかマッキンゼーじゃないか!
7Sなんぞ知らないが(ほんとは知ってるよ)、3Sつまり整理・整頓・清掃は、家庭で暮らしていく上で、あるいは会社で仕事をする基本であり基礎である。

ところで整理・整頓・清掃の意味をご存じだろうか?
どちらも似たような意味だ……そう思っている人は多いだろう。分からなかったら本で調べるというのは昔からの基本だ。
子供の頃、我が家でかかっていた医者が言った言葉に「本で調べる医者を信頼できないという患者がいるが、本も見ない医者のほうが信頼できない」というのがある。箴言だ。箴言とは教訓とか戒めとなる短い文のこと。

講談社「国語辞典・第二版」によると

整理の1.と整頓は同じように思えるが、整理・整頓と並べた使い方では、2.の意味だけにとらえていることが多い。そうしないと熟語のつじつまが合わないからだろう。とりあえずここでもその解釈を取る。
このように整理・整頓・清掃はみな異なる意味があり、三つの熟語を並べて快適な環境ができあがる……ということで話を進める。

当然ながら上記三つのことは実施する順序がある。
まず初めに、いらないものを捨てること、つまり整理しなければならない。不要なものがあっては、整頓もできず、清掃もはかどらない。
整理して残ったもの、つまり必要なものの置き場所を決めてそこに置く、整頓である。
そして最後に、ゴミを取り除き、汚れを落としきれいにする、それが清掃だ。

普通、整理整頓の対象は取り扱えるモノだけと思いがちだが、すべてに適用される。製品・材料・副資材などのモノはもちろん、大きな設備もあるし、事務所の事務用品も、現場や事務所の仕事も含まれるし、更には人も含まれる。

私は現場のスタッフだったから、整理整頓するというか、整理整頓させることが仕事だった。とはいえ私自身は整理・整頓・清掃について特段の教育訓練を受けたわけでもなく、固有技術があるわけでもなく、すべては自分が考えて試行錯誤した。


まず工場現場で整理整頓というのは、年末とか連休前とか、本社から偉い人が来るぞとか、何事かイベントのある時だ。そうなると、偉い人を先頭に工場巡回をする。すると不要なものがザクザクある。生産終了品の治工具、専用刃物、塗料、副資材などなど。現行品であっても、手直しも修理もできないオシャカ品、営業に展示のため貸出して返却されたものの使い物にならないもの。不良なのだが、廃棄処理するには予算上の問題があり予算が付くまでおいておくしかない……とか、

現実が良好であろうと良好でなかろうと、その状況があるのは理由がある。だから何か機会があれば、そのしがらみを断ち切るいい機会だと思えばよい。今までグズグズいていたがこの機会に処置しようと思えばよく、予算なかったなら今回のイベントにかずけてと考えればいい。

私自身はそう思っていたが、現状が悪いのは、その職場の社員が悪い、管理者が悪いといわれるのは世の常。 お猿さん 偉い人からは現場が悪い管理者が悪いと、毎度私は責められた。
叱るのが仕事の人もいるし、叱られるのが仕事の人もいると諦めるしかない。状況を分かってほしいなんて思うのは、サルに人情を理解させるようなもの。上級管理者はサル以下なのだ。


整頓のためにはまずは置き場が必要だ。置き場がないからメチャクチャに積んでいたり、出し入れできないような保管をしているわけだ。置き場があればそうはならない。
しかし整理としっかりすれば場所が空き、整頓ができるようになることが多い。そして整頓が良くなれば清掃は簡単になる。


整理整頓は、定期的とか何かのイベントの前に大々的にすることが多いのが現実だ。そういう理由が整理整頓のトリガになってもよいが、普段の習慣というかルーチンワークの中で行うのがあるべき姿だ。仕組みにする、内部化すると言っても良い。
単に整理整頓の手順を決めろというのではない。もっと広く、物を買うのはどうするのか、ものを保管するのはどうするのか、ものを使うにはどうするのか、物を捨てるのはどうするのか、そういう手順。基準を決めて文書化し、そして知らしめ、実行するということが大事である。
その結果、日常業務の一環として常時整理整頓が行わることが現場の理想だ。


イベントの前になると上も下も大わらわで、整理整頓に努めるようでは困る。
常に、工具類、副資材、部品材料の在庫が適正であり、劣化などない状態に維持されていれが、整理整頓などと叫ぶことはない。


整理整頓の前提として仕事の手順・基準を決めてルール化することと述べた。ちょっと考えるとやるべきことは、すべてISO9001の初版に書いてあったように思える。
ISO9001は会社を良くする規格だと語った人は多いけど、そのとき"会社"とは何を意味するのかをはっきりと(もちろん正しく)定義しておけば、ISO認証もまっとうになったのかもしれない。
会社を良くするという意味を、株価を上げるとか、企業ブランド向上とか御大層なことととらえてしまったので、先に行けば行くほど大外れになってしまったとしか思えない。
会社を良くするとは、日々の仕事が順調に進むこと、ロスが減ること、事故もケガも起きないことですと言えば良かっただろうに。

ということで整理整頓とは、まず手順を決め基準を決め実行することである。それは文書化が必須であり、文書化をするためには手順の標準化が必須であり、そのためには現場をしっかりとみることが必須になる。
それを大所高所ではなく、目の前の身近なことから始めることが簡単で最善であり、成果を現場の人にも管理者にも納得してもらえることになる。

整理整頓といつも語っている管理者は多いが、実際に整理整頓の体制を作り、掛け声をかけなくてもよい仕組みを作る管理者は少ない。
いや、あまり見たことはない。
自分が整理整頓できないからせめて口だけでもと思っているのだろうか?


あきらめるのが正解ね

標準化と整理整頓は関係ないとおっしゃるな。
整理整頓も徹底できないような職場ではいかなる改善も標準化もできるはずがない。
整理整頓ができてやっとスタートラインに着けるのだ。

ではやっと現場の標準化に入る。
私がやったことははっきり言って低レベルなことばかりだが、その結果は低レベルではなかったと思う。
具体例を挙げる。

ドライービット
エアドライバーでも電気ドライバーでも本体の先にプラスねじ用とか六角ボルト用などの相手のねじに合わせた締め付け部分を差し込んで使う。
当時の職場でも製品組み立てや、治工具の切り替えなどにエアドライバーや電気ドライバーを多用していた。

当然、使われるドライバービットがたくさん、それこそ数百本あった。 ところが切り替えとかビットがすり減ったとき交換しようとすると、欲しいビットを探すのが大変で、最悪なかったりする。
ビットの要目としては、

  1. 差し込み部の形状が使うドライバーによって異なる
  2. ねじ締め部分が、ねじの形状によって異なる
  3. ねじの種類によって傷防止のための材質とか表面処理をしなければならない
  4. 締め付ける部位によってビットの長さが異なる
ドライバービット だいたいそんなことでビットの種類は決まるが、上記を見ただけでもとんでもない種類になると思うだろう。
差し込み部の形状が4種、ねじの形状が10種、ビットの長短を8種とすると320種、それに3.としていかほどか足されると、とんでもない数だ。
製造現場というよりドライバービット販売店になれる。

だがそうだろうか?
私は現実に使われているものを調べた。すると30種類くらいに収まった。少ないとは言えないが、320種の1割だ。30種類ならあまり金をかけずに常時品切れが起きないような対策はとれそうだ。
とまあ小さいけれど成功談です。


ドリル
機械加工現場にはもう細いものから太いものまでズラッとドリルがあります。まさにドリル専門店のような眺めです。でも見た目と実用は関係ない。本当にそれほどの種類を使っているのか? それほど必要なのか?
これも実態調査しました。使っているキリ径は10種類くらいしかありません。その他はかざりです。
使わないものは片づける。使うものはハイスをやめてすべて超硬合金に切り替えた。超硬合金だと現場の人がグラインダで研磨できないからますます品質向上になる。


ブロックゲージ
計測器管理の責任者になったとき、まあ一応管理者です。管理者の仕事とは何だといえば、予算管理です。 ブロックゲージ 人を管理するとか仕事を管理するとか言っても、それは表現を変えただけ。真に管理するのはお金です。
校正漏れをしないとか、計測器の故障があれば修理あるいは計測メーカーと交渉して代替品の確保などして使用部門を困らせないだけが仕事ではありません。校正漏れを起こさず故障があっても現場を困らせないのは当たり前であって、お金を適正に使って予算内に収めることです。とはいえそれは簡単ではありません。


整理・整頓はどこでも正義。要するに使わないものを捨てることが第一。
機械系計測器つまりノギスやマイクロメーターなど、どの会社でもザクザクあるが、当時でさえデジタル化が進んでいたし、旧来のノギスなど使う人がいるはずがない。借りに来た人に有休品を見せれば、新しいのを買ってくださいと言われるのがオチ。
ジャンジャン捨てる……というわけにもいかない。廃棄するにも予算がある。ということで廃棄予定として校正などを一切やめた。校正するのもタダじゃない。廃棄するのは次年度から少しずつ…

ブロックゲージは基本ノギスやマイクロメーターなどの校正に使うが、セットで103個組なんていっても、実際に使うのはせいぜい20個くらい。あとの大多数はベンチを温めているだけ。
することは同じ。必要なものだけ校正することにして使わないブロックゲージは止めた。
セットだとついつい丸ごと校正してしまうが、不要ならやめる一択。


これは知り合いから聞いた話
彼の勤め先は、大のト〇タの下請けの下請けくらいの立場らしい。従業員数十人で言ってみれば中小企業の中の下、小の上くらいの規模だ。今では珍しくなった機械加工の下請けである。
それなりに機械部品を加工していたが、あるとき親の親の親くらいになるト〇タから指導の人が、出向ではないがそこに駐在するようになったそうだ。指導に来た人は40前の、地位的に言えば職長クラスだったらしい。

その人は直接の仕事はせずに現場をじっくりと眺めて、ときどき社長にああせいこうせいと言う。社長も上から言われたので四の五の言うこともなく、言われたことを従業員を集めて対処した。
その内容は有休機械を工場から倉庫に移せとか、半製品や不良品の置き場を片付けろとか、機械のレイアウトを見直すような大規模なことではなく、工場の人がフォークとか手作業でできるようなことだったらしい。
最初の頃は従業員がみな、あいつは何を考えているのか? 何をしたいのか? と怪しんでいたという。

そんなことを数か月していると、なぜか品質が上がり回転数が上がったという。それはそこで働いていた人たちがみな実感して、それ以降はト〇タから来た指導員を崇め奉ったと聞く。

注:回転数とはモーターの回転数ではない。棚卸資産回転数のこと。製造原価を購入した棚卸資産(部品材料)で割ったもので、年何回転と表現される。回転数が多いほど、購入品を受け入れてから製品出荷までが短時間である。もちろん回転数が大きいほうが良い。


そんな話を聞くと、事例集に乗っていたとか、教科書には書いてあるねなんてシニカルに笑うかもしれない。人の成功譚を批判したり羨むことはない。同じことを自分もしたほうが得じゃないか。
人が成功したのを貶しても自分が上になるわけではない。人の真似してうまくいけば自分は成功者だ。

成功は華やかではあるけど、そこに至る道は結構険しい。成功は恥辱に塗れた先にあるのだ。人が成功したならそれを真似ることは恥ではなくミスを回避する方法である。人にバカにされても、ひたすら実行するという意気と愚直さが必要だ。
そして形を作ったならそれを風化させないよう、これまた地味な努力を続けなければならない。それが現場の管理であり改善活動である。
しかしそういう基礎が基本通り作られれば、そのベースの上に整理整頓は維持され、その上に改善は自動的に成し遂げられる。

とはいえ現実には、そんなことをやらない人は多く、せっかく良いことを成しても実行を疎かにし風化させてしまう職場・人も多い。
現場の人間は愚直であることが必要条件だ。愚直とは貶すことではなく誉め言葉である。


作業の標準化はどうするんだ? そうおっしゃる方、ご安心ください。
既に私は書いております。ぜひこちらをお読みください。
 ・標準化その2
 ・学ぶ・教える04
私がほどんどすべてについて書いてしまったようだ。「ゲーテはすべてのことを語った」と言われたが、おばQはゲーテを超えたといってほしい。


うそ800 本日の本音

私も自慢できるものではない。引退して10年たって、やっと私もそんな風に思えるようになったということだ。
だが、あの時はそんなことは言えない物理的環境であり精神状態だったのは事実だ。
今、現場で働く人、そこの管理者にエールを送る。頑張ってくれ、引退すれば一生懸命働いたと振り返ることができるだろう。




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