私が会社を退職したとき、毎日家でボーっとしていてもしょうがないから、フィットネスクラブに行くことにした。
家内は面倒見のいい女で、スポーツなど縁のなかった私に、津田沼のイオンの中にあるスポーツオーソリティに連れていってウェア類から靴からタオルまで一式買いそろえてくれた。
そして家内はフィットネスクラブに入る前に、ウェイトトレーニング、ストレッチ、水泳の本を読んで勉強せよという。
はっ?
私は運動をするのに本を読むという発想がなかった。別に運動とかスポーツを馬鹿にしているわけではない。
フィットネスクラブに行って運動するには、その場で話を聞けば十分だと思っていた。だからフィットネスクラブに行く前に、運動の本を読む必要性が理解できなかった。
私の家内は体育会系で、考えるより動くのが先というタイプだ……と私は思っていた。別に家内を馬鹿にしているつもりはない。家内は本を読む。剣豪小説がほとんどだけど年に300冊以上読むのは間違いない。しかしスポーツについても本を読んでいるとは知らなかった。
家内は家庭婦人というくくりだが、バレーボールとか卓球の審判などの資格をとって市の大会では選手としても出ているし審判もしていた。もちろん審判には松竹梅のようにクラスがあるらしく、家内の資格はたぶん最低ランクだと思う。ともかくそうではあっても試験があり、そのためには試験勉強をしたはずだ。それにルールブックを読まないと、普段発生しない状況の判定はできないだろう。私は家内がスポーツの本を読んでいたと思いつかなかった。
家内が言うには水泳を習うにも、スイミングスクールのコーチに言われたことをただ練習するのでなく、それがどんな意味を持つのか、指導が適切なのかメジャーな練習方法なのかそうでないのか、考えないといけないよという。
もちろんその裏にはコーチが合わなければ変えなさいという含みがある。家内は参加しているクラブでコーチを頼んでいるが、教え方がヘタとか遅刻が多いとコーチを変えるのは良くあることだという。そして国体に行ったとか学生時代活躍したなんてことは、コーチの能力と全然関係ないと笑う。
家内にそう言われたものの、何の本も読まずにコーチのことを調べもせずフィットネスクラブに入った。
最初の日は施設の案内が終わると、体がどの程度動くのかみたり基本的な体力を測ったりして、こんなストレッチ、ウェイトトレーニング、有酸素運動をしたら良いのではというプログラムをプリントしたものをいただき説明を聞いた。というわけでその日以降ずっとそれをしていた。
体力測定をしてくれと言うと体の歪みとか筋肉量とか測ってくれるので、月に一度くらい申し込んで前回との可動範囲の変化とかどの筋肉が増加したか・してないかの評価をもらった。
どこの筋肉をつけるにはどうするかというのは、1時間いくらでトレーナーを頼んで指導を受けることになる。
周りに聞くとわざわざトレーナーを頼んで自分の体を改善しようなんて人はめったにおらず、みなフィットネスクラブの仲間と話して機械を選び負荷を決めて運動していた。だからそれがどこの筋肉を強化するのか、いやその前にその機械が自分に向いているのか、したほうが良いのかしないほうが良いのかも分からない。中には、無理して肩の具合が悪くなって長く休んでいるという話も聞いた。どうしようもない年寄りたちである。
私はジムでウェイトトレーニングをするほか、プールではスイミングスクールに入っていた。一緒に習っているメンバーは3人から5人くらいの間で増えたり減ったりしたが、ときどきそのメンバーで一緒に昼飯を食った。話題はもちろんいかに早く水泳を上達するかである。
そのとき私より年上の女性が水泳の本を読んでいるという。そしてあのコーチの教え方とこの本が違うと文句を言う。
別の女性は水泳初心者向けのU-tubeを見ているという。その人もコーチとU-tubeの教えが違うと語っていた。
私はそういったことから、ただ単に言われたこととか周りの人に聞いたことだけではいかん、家内に言われたように本を読まねばならぬと思うに至った。
早速家に帰って家内と話をした。だいぶ前に家内に言われたときは真面目に話を聞いていなかったのだ。家内が言うにはまず初心者向けの本を二三冊読んでみること、それから考えたらよいという。なお本は、同じ著者のものを何冊読んでもだめだという。
図書館に行って水泳の本を探したら、水泳の本て少ないのですね。マイナーとは言えないけど、メジャーなスポーツではない。ちなみに主なスポーツの蔵書数は次のようであった。
注:比較のために典型的なゲームである囲碁、将棋、マージャン、オセロを加えた。
書籍だけでなく雑誌も含む
野球 | 2771 | ||
サッカー | 2204 | ||
ゴルフ | 1519 | ||
将棋 | 1219 | ||
囲碁 | 1190 | ||
テニス | 1169 | ||
ストレッチ | 735 | ||
相撲 | 711 | ||
マラソン | 540 | ||
ラグビー | 434 | ||
水泳 | 374 | ||
スケート | 341 | ||
柔道 | 288 | ||
バスケットボール | 252 | ||
剣道 | 246 | ||
卓球 | 205 | ||
バレーボール | 199 | ||
陸上競技 | 198 | ||
マージャン | 181 | ||
駅伝 | 157 | ||
登山・山登り | 154 | ||
バドミントン | 125 | ||
スキー | 123 | ||
スノーボード | 85 | ||
釣り | 61 | ||
スキューバダイビング | 58 | ||
オセロ | 22 | ||
ウェイトトレーニング | 15 | ||
ガバディ | 7 | ||
シュノーケル | 4 | ||
インディアカ | 3 |
上記には子供向けから選手向け、ルールブックから選手名鑑から年鑑(年度の大会の記録や成績など)などいろいろあり、また雑誌も含んでいる。またキーワード検索なので、スキーとスノーボードについて書いてある本は両方に出てくる。
やはり野球、サッカー、ゴルフ、テニスがメジャーだ。その他いろいろなスポーツがあるが、蔵書を見ると流行り廃りがわかる。私が二十歳の頃、ほとんどの若者がしていたスキーは今やマイナー、スキー場もはやらないわけだ。
一方、スキーをする金のない奴がするスポーツだったスケートがスキーより上位になっている。これは浅田真央と羽生結弦の功績か?
なお蔵書は定期的に貸し出し状況を見て廃棄(除籍)しているから、昔流行ったものでも最近利用者がいないとドンドン捨てられる。蔵書の数が現在読まれている状況を表すのは間違いない。
ちなみに2021年スポーツランキングがある。
順位 | 現地で観戦したスポーツ | テレビで観るスポーツ | 自分でするスポーツ |
1 | プロ野球 | プロ野球 | ウォーキング |
2 | Jリーグ | 高校野球 | 器具を使ったトレーニング |
3 | 高校野球 | マラソン・駅伝 | ボウリング |
4 | ラグビー | Jリーグ | ジョギング |
5 | マラソン・駅伝 | 大相撲 | 水泳 |
出典 | 注1 | 注1 | 注2 |
ご注意
上の表の調査対象や調査方法が不明だ。大人と小学生では回答が大きく違うだろう。小学生も含めれば自分でするスポーツの上位はサッカーとかスケートボードが来ることは間違いない。間違ってもウォーキングが……
現地で見るものとテレビで見るもの自分がするものでは、少し異なるが、いずれにしてもスポーツするにも観戦するにも、ルールや見どころを知らなければならない。興味のある人が購入依頼をして、その結果図書館に本があるということだ。
ともかくスポーツや運動をするには、本を読みルールや理論を知ることが大事なのは理解した。
さて図書館から水泳の本を借りてきました。もちろんシニアの初心者向けという本を選んでおります。なぜかどの本にも付属のDVDがないのですよ……いや理由は考えるまでもなく抜き取られ防止でしょう。だから文字は読めるけどDVDが見られない。まあ借りた本ですから仕方ない。
だが本を読むとコーチが教えていることと、いろいろ違うと思えることがある。
スイミングスクールでは伏し浮きできれば、次はビート板でキックです。25mプールを何十往復もして……教習の1時間はビート板のキックで終わりです。
そのときは私は真面目に一生懸命しました。今思うとあんまり必要性ないように思います。子供に教えるとか選手にしようというならビート板をやる意味があるのかもしれません。でも我々は皆60過ぎ、平均年齢70オーバーの年寄りにそんなことさせる意味があるのかどうか大いに疑問です。
そりゃ脚も強化せにゃいかん、とかキックは基本とか、いろいろあるのでしょう。でもクロールを泳げるようになるのに、ビート板の練習は不要だと思います。図書館から借りてきた高齢初心者向けの本を読んでみてもビート板などちょっとしか出てこない。
本を読むと「教える人によって言うことが違うときの対応」なんて項目がある。現実はそれどころではない。「同じコーチでも時によって言うことが違う」。
その反面、「教える相手が変わっても同じことを言う」コーチは多い。本を読むと老人向けと子供向けでは教え方も練習方法も違う。
しかし眼前のコーチの指導は老人相手でも子供相手でも同じだ。双方とも初心者であることは同じだが、子供は泳ぎ方を覚えるとそのかなりの割合いが選手コースまで進むのに対して、平均年齢70オーバーの我々には、泳ぎを覚えたらマスターズに出ようとする人はいない。泳げるようになったら日々泳いで健康維持、体力維持に励むことだろう。なにしろ「ゆっくり長く泳ぎたい
ちなみに……
定年退職してから元気な時はテニスやスカッシュあるいは卓球など結構激しいスポーツをする人は多いが、80を過ぎるとその多くは激しいスポーツを止めて、スイミングをメインにするようになる。
水泳は自分のペースでできるし、浮力によって手足が弱くなってもできるスポーツだ。高齢者の体力維持には最適だろう。
となるとビート板でしゃかりきに頑張る意味がない。クロールなどキックしなくても泳げる。足は推進力でなくスタビライザー(安定装置)である。
手足の動きを教え呼吸ができたらゆっくり体力を使わない泳ぎ方を教えて、のんびり100mくらい泳げるようになればスイミングスクールを卒業でいいのだ……と私は思う。その程度であれば全くの初心者のシニアでも1年以内で到達できると思う。
現実はシックスビートができない、キックが弱い、膝が曲がっている、そんなことで2年も3年も初心者クラスを卒業できないのが普通になっている。
おっと、このウェブサイトはスイミングを論じているのではない。学ぶこと、教えることの一般論を考えるところである。
過去に客の要求と提供するサービスの不一致が問題であることを述べた。
ここで問題が明らかになったように思えないだろうか?
もしスイミングスクールで何らかの形のテキストがあれば、その時点で客(生徒)が教えられることが期待することと違うと気づくのではないだろうか?
シニアの初心者を集めてスイミングスクールをスタートする前に、このクラスでは何を目指すか、そのためにはどういう過程があるのか、どういうことができたら修了するのかを文書で説明すべきだろう。
「このクラスは国際ルールに基づいたクロールを泳げるようになることを目指します。シックスビートで25mを30秒以内で連続200m泳げることで修了とします」と言ったとする。
60代70代の人がそれを聞けば、「ルールに則ったクロールでなくていいです。25mを30秒切らないでいいです。とりあえず100m泳げるようになりたい」というのではないだろうか?
ちなみにどこのフィットネスクラブのプールでも、プールサイドにはペースクロックという分針と秒針しかない大きな時計があるから、25mを何秒で泳いでいるかわかる。
またコーチが示す練習計画を見て、バタ足をふた月もするんじゃ付き合いきれないと判断してもおかしくない。
言いたいことは、到達目標と教習開始前にどんな練習をどれくらい時間をかけるかを明らかにすることが大事であり、それはテキストもしくは教習計画があれば受講者はスタート時点でわかるということ。
そして他のテキストなどと比較して、良し悪しを判断する材料になるということである。
そういうことは難しいなんて言ってはいけない。自動車学校では技能教習の内容と何時間かけるかは明確になっている
水泳教室で教習内容とそれぞれ何回練習するかを明示しているところを知らない。
まとめます。
教師(イクイバレント)は教育開始時点で、教育の目的地を明示する、教育過程を明示する、修了条件を明示することが必須条件です。
そのためにはテキストまたは具体的な教育計画が必要で、それを文書化して受講者に渡し説明する義務があるということ。
それは水泳などの習い事だけではありません。新入社員教育であろうと、学校教育でも同じです。ただし学校教育では学科ごとに到達点、教える内容、かける時間などすべて公明正大にしています。まして教科書は学期開始前に配布しているから内容も明白だ。
言い換えると、自分が教える立場になれば、そういったことをはっきりさせておかねばならない。ひょっとして社内教育などではスタート時点では教師自身がどんなことをいかほど時間をかけて行うかを計画していないなんて……ありませんよね 笑
生徒は己が期待するレベルになるまでに必要な時間、投資金額、労苦をみて、投資対効果を考えてチャレンジするか否かを決める必要があります。黙って5年間苦労しろなんて論理は論理じゃありません。
そしてもちろん自分が生徒の立場になったときは、教師に対してそれを明示することを要求しましょう。
考えてみてください。行き先がわからない、何泊かわからない修学旅行なんてありません。飛行機、電車の発車も到着も……そんないいかげんなサービスならお金を払う価値がありません。
ところでミステリーツアーって楽しいんですか?
本日のお詫び
えー毎度直線的に進まずわき道にそれ迷子になり申し訳ありません。この度は図書館の蔵書数など余計なことを語り時間ばかり食い……
実を言いまして、私がこんな考えに至るのにいかにさまよったかということを、知っていただきたいなという意味もありました。私はいつも言いたい放題してますが、自分なりにカットアンドトライもしていますし、問題解決できないことも多いです。でも仕事であれ趣味であれ、前進するためにはいろいろ工夫しているということをご理解ください。
人生常に挑戦であり、そして常には成功しないのです。
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注3 |
「ゆっくり長く泳ぎたい」快適スイミング研究会、学習研究社、2003 | |
注4 |