お断り |
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたい方には不向きだ。 よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。 ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。 |
2021.11.13 追加 この本の著者様からお便りをいただきました。 私はこの本の効用を否定するものではありません。ただ初心者には向かないと思います。 ということは私の選択が誤りだったということでしょう。 初心者向けには、初心者の目線での解説本が合っていると考えます。 |
私が水泳を習い始めたのは退職したときだから9年前になる。そのいきさつを「水の上にも3年」と題して書いた。
あれから既に5年とは、時の経つのは速いものだ。
金槌だった私も、クロールは一応泳げるようになり、平泳ぎも平泳ぎもどきを脱した。今は背泳にチャレンジしている。バタフライは疲れそうだからはなからやる気がない。そもそも競技以外でバタフライを泳ぐ人がいるのだろうか? それにプールでバタフライは水しぶきもすごいし幅を取るのではた迷惑だからやめてほしい。
ともかく現時点では、三途の川の渡し船が転覆しても、彼岸まで泳ぎ着ける自信がある。
さて泳げたらという願いが叶うと、次はゆっくり長く上手に泳ぎたくなる。
速く泳ぐのは年寄り好みではない。シニアにもマイスターなんてレベルの高い人の競技団体がある。しかし子供の頃から泳げた人には、高齢になって水泳を習った人は絶対に追いつけない。泳ぎが身についている人にはかなわないのだ。
だから私は速さでなく健康を目的にしている。より正確に言えば夜ぐっすり眠れるのが目的だ。年を取ると眠れないのが悩みである。
普通200m泳げると、それ以上は疲れるまで泳げるといわれる。実際は長い時間泳いでいると飽きてしまうので、疲れる前に止めてしまう。お外を走るランニングやジョギングは見える景色も変わるし季節によって咲く花も変わるから楽しいけど、プールのスイミングはプール底面のラインしか見えない。
飽きるまでどれくらいかとなれば人それぞれだが、私は40分も泳いでいると誰かと話したくなったり、なんでこんなばかばかしいことをしているのかと雑念が湧いてくる。それが連続で泳げる限界だ。
泳いでいると湧き出てくるのは雑念だけでなく、いろいろ思うことがある。
しかしうまい人を真似ようとか習ったことをしようとしても、できないことが多い。
平泳ぎでは手で水をかいて前に伸ばして(ストローク)から足を引いてける(キック)するのが基本ですが、初心者は手を伸ばすと同時に足を引いてしまいます。頭で考えると手を動かすときは手だけ動かして、手の動作が終わったら足の動作に移るのが簡単だと思いますが、実際にやってみると手と足が一緒に動いてしまいます。コーチに注意され自分でもまずいと思っても、思うように動きません。
同じようなことに、キックしたら"けのび"の姿勢を何秒か保つと言われても、どうしてもなにもせずにいることができず、次の動作に入ってしまいます。
そして見かけたのがこの本です。実にいいタイトルじゃないですか! 「コーチが教えてくれない水泳のコツ」がたくさん書いてあるはずです。もっとも「コーチが教えてないコツ」なのか、「コーチが話してもできるまで教えてくれないコツ」なのか、どちらなのかわかりません。まあここは、どちらもできるようになると信じましょう。
書名 | ★著者★ | 出版社 | ★ISBN★ | 初版 | 価格 |
コーチは教えてくれない 水泳のコツ | mimi | ブレストストローク | なし | 2015.10.13 |
この本はISBNコードがない。それを不思議に思った。ISBNコードを登録するには金がかかり、その登録は義務ではないそうだ。ただ流通ルートに載せるにはISBNコードが必要とのこと。ISBNがないのは流通ルートに乗せない販売方法なのだろうか?
この本はブレストストロークという会社が発行している。ブレストストロークとは平泳ぎのこと。平泳ぎを社名にしているくらいなら水泳の本しか出版していないのかというと、そうではない。電子書籍とか少部数の本を発行している。
ただ出版している書籍は多々あるが、それらの著者が2名しかいないという不思議。なんだか怪しそう。
読むと、泳ぐときのコツ、つまり細かな気遣いとかテクニックがいろいろ書いてある。気にもしなくて既にできていたのもあり、わかっているけどできないものもあり、語っていることが理解できない高いレベルで俺には縁がないと思うのもある。
つまりコツを認識するにはあるレベルに達しなければならず、それを身に付けるともはやコツと思わなくなるようだ。
なんか矛盾ですよね。
こんな文章がありました。
「腰を浮かせるには腹筋が必要です。しかし必要なのは筋肉の太さではなく意識して腹筋を使えるか否かなのです(p.27)」
そうなんですよ! まったく同感。
コーチが腹筋に力を入れろと語るのを聞いてもどうすればいいのか分からない。お尻を締めろと言われても、どうすればお尻が締まるのかわからない。足が沈んでいるから上げろと言われても、どうしたら上がるのかわからない。
スポーツのコーチの話って感覚的で、具体的にどういうことかわからないことが多い。
国民栄誉賞をもらった野球監督が語った「球がこうスッと来るだろ、そこをグゥーッと構えて腰をガッとする、あとはバッといってガーンと打つんだ」って、あなた分かりますか?
プロスポーツ選手って常人からみれば皆天才です。だから素人にわからない話が多いですね。サッカーの川島永嗣が語る英語勉強法なんて感覚だけで全くわかりません。サッカー選手はチームの移籍なんてしょっちゅうありますからとのたびにその国の言葉を覚えるでしょうから、外国語一つ習得するのはおちゃのこさいさいなのでしょう。とはいえその極意が我々常人には理解できるはずがありません。
高名なスポーツマンで具体的な話し方ができるのはイチローだけのような気がします。
実を言ってこの本に書いてあるコツもその類です。各種泳法におけるいろいろなコツが多々書いてあるのですが、わかっちゃいるけどやめられないではなく、わかっちゃいるけどできないのです。
とはいえできないと言うだけでは進歩がない。ひたすら練習します。はじめは思うように体を動かせませんが、毎日何十回も練習すればひと月も経つとそれらしい動きができるようになり、さらにコーチから指示を受けるとだんだんと様になるのです。
そして不思議なことがあります。一旦できるようになると、それからはそうなるのが当たり前のようになって、もはやできなかったときを思い出せません。
もちろん永遠に身に付かないものも多いです。
この本を読んでもコーチの話を同じく、コツだけでそのコツを実行する方法が書いてないから、「コーチは教えてくれない水泳のコツ」を教えることができない本ということになる。
前述したように、この本は「必要なのは筋肉の太さではなく意識して腹筋を使えるか否かなのです」と言いながら、腹筋を使う方法を書いていない。
コツを身に付けるのはひたすら艱難辛苦だけなのでしょうか?
ぜひともコツを書くのではなく、コツを実現する具体的な方法を書いてほしい。そうでなければ問題解決になりません。
僕は器用だろう |
あなたウインクならできますか?
調査によると7割の人がウインクできないそうです。ウインクとは片目をつぶることではなく、片目だけ瞬きすることです。私は片目をつぶろうとすると顔半分が動いてしまいます。当然閉じて開くまで時間がかかりますからウインクになりません。
ウインクを練習する人はこちら!
水泳を習っていて教えられても、できないのには2種類あります。
ひとつはそれだけならできるけど連続動作の中ではできないもの、もうひとつは言われたように動かせないものです。
どちらも身体を動かすのが難しいこともあるでしょうし、教えるときの話し方とか表現で実行しやすくなることもある。例えばけ伸びしてキックするまで数拍待てと言われるより、体が浮き上がってからキックしろといわれたほうが実行しやすいい。
言葉だけでなく身体を使って教える方法もある。腹筋に力を入れろというよりも、伏し浮きさせてコーチが腹に手を当ててここに力を入れろと言ってくれたほうが分かるのではないか? 腹筋に力を入れろと言われても、ときによって異なる部位なんじゃないか?
とはいえ、コーチがほんとはどこに力を入れているかわかってないこともある。
そんなことを考えていて、それはスイミングだけでなくすべてにわたり同じではないかと気が付きました。
仕事のコツといっても、今の時代 勘でやるものはありません。ハードであれソフトであれ、機械を使うには理屈を理解してないと、思うようにできないのは当たり前です。
そして最終的には水泳と同じく、考えずにできるようになるには、それを頭でなく手足が覚えなければなりません。
ISOの教育訓練とか力量の項目では、過去よりその仕事の重要性を認識させろ・手順から逸脱した時の問題を教えよ・手順を守る責任を……とあります。
しかし定められた作業手順(指導方法や指示書)だけで、充分業務を遂行できるのかどうか、そこが問題です。
新しい仕事に就くと「仕事のコツを覚えろ」と言われて、私は見よう見まねで仕事を覚えてきました。当然、今水泳を習うと同じくコツを知らず、輩のするのを眺め腕を盗むしかない。それは適切な指導を受けるよりはるかに上達が遅かった。あげくに進歩が遅いと上司に見放され放逐されることになる。
あるとき全くお門違いの資材部門に数か月応援に行きました。
まったく携わったことのない仕事でアタフタしました。外注から休みが多く今日は部品納入できないという、どうしよう。交通渋滞で納品が遅れる連絡、困った。
そんなことが毎日のように発生しました。その時の課長は「どんな仕事にもコツが要る。それを覚えないとね〜」
私はコツの問題じゃなくて、仕事の手順が決めてないからだと思いました。
コツなんていわないで、この通りにすれば必ずできると教えられないものだろうか。「できません」は禁句だ。指導者であれば、できなければならない。
それは難しいことではない。指導する立場になる者は、オフィスワークであれ技能職であり、業務の目的、仕事の流れ、業務システム、機械・ジグの動きなど知っているわけだ。それを言葉で表現すれば必然的に後進はコツと言われるものを身に付けるのではないだろうか。
それは己の作業職務を、言語化して理解していることである。言い換えると、他人に己の仕事を説明できないのは、おのれの仕事を理解していないことだ。
「コツがあるんだ」という人は「俺は自分の仕事を分かってない」言っているのだ。
水泳のコツを知りたいとこの本を買いましたが、水泳のコツはつかめませんでした。しかしいかにコツを身に着けるのが難しいかは理解しました。そしてそれはスイミングだけの話ではなく、あらゆる教育訓練において効率的に教えるにはどうするかが課題だと思う。
その回答は己の仕事を知ることだと思う。
じゃあ、お前は現役時代コツなど言わずに、手順の詳細まで教示できたのかという突っ込み(質問)があろうかと思います。
そうですね、やっていたと思います。
しかしながらISO規格でも次のように述べています。
「7.5.1 (文書化した情報の)一般 注記:
環境マネジメントシステムのための文書化した情報の程度は、次のような理由によって、それぞれの組織で異なる場合がある。
1〜3 省略
4.組織の管理下で働く人々の力量」
コツとか悟るとかに依存せず、教え覚えさえる、それをISOMS規格は要求している。だがISO規格はその方法は示さずに、人員のレベルに応じて、必要な力量を持つようにしろと言っているに過ぎない。
ということは皆が専門知識があり優秀で感受性が高ければ、「分かるね」と言えば細かいことを教えなくても間に合うだろうし、全くの初心者を受け入れるところは、それこそ挨拶の仕方から始めなければならないということになる。
間違いない事実は、必要な力量を持たせなければならないということだ。
趣味で水泳を習う人に教えるのと、海上自衛隊の新兵に水泳を教えるのは違う。スイミングスクールでは泳げないで終わっても「困った生徒ね」で済むが、自衛隊では教育担当者が責任を問われる。
それは会社も同じだ。覚えが悪いから解雇というわけにはいかない。覚えさせ実行させなければならない。
アメリカ軍の新兵育成などの手順をネットや書籍でみると、科学的に作られているように思う。各種作業にスキルレベルが細かく定めてあり、各位が階段を上るよう努力を求めている。それは業務が単純で分岐が複雑でないからできるということもあるだろう。
社内教育などもそういうものを参考にして、コツを言い訳にしない教育システムを作るべきだ。
本日の合言葉
脇道にそれてばかりだったけど、言いたいことはシンプルだ。
およそ標準化の世界に生きてきたものとして、コツなんていう言葉を使いたくない。
コツという言葉に逃げず、理屈を教えよう、そして具体的方法を平易な言葉で伝えたい。
アインシュタインは「6歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない」と語ったそうだ。それができないなら、教える人が理解していないのだ。
伝えるのが曰く言い難くても考えろ、コツに逃げるな!