ISO第3世代 13.適合検討1

22.08.29

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。


ISO 3Gとは

山内のISO審査対応のスタンスについての決定は、磯原が期待しまた予想していた通り「現実をありのままに見せる」であった。そして当然だが、磯原に早急に要求事項との比較検証をして、問題なければ認証機関の交渉と社内への説明をしろと指示した。

打合せ そこで磯原は最低限、指揮系統について明確にしてほしいと要求した。つまり自分が山内直属の部下なのか、鈴木課長が磯原の上長なのかをはっきりさせてほしい、そして山内の部下であるならば、組織表に記載して対外的にも内部にもそれを明確にすることを求めた。

山内は少し首をひねって考えたが、磯原の所属を施設管理課 兼 生産技術本部長室とすることを約束した。名刺も施設管理課とは別に、事業本部長室 担当課長という肩書のものを渡すという。
事業本部長室とは執行役直属の組織で、既に事業所長クラスを卒業した人か優秀な部長クラスしかいない。兼務といえどそんなことできるのかと思ったが、まあそうしてくれるならありがたい。形だけでも箔が付く。

注:事業所長とは事業所の長、つまり工場長、研究所長、支社長などを意味するが、スラッシュ電機ではこの他に、工場長と同格の本社の部長クラスを含めて事業所長クラスと称している。スラッシュ電機は委員会設置会社だから、事業所長クラスの上となると執行役その上は社長である。
会社によっては執行役員という名称のランクを置く場合もある。執行役員は会社法では、役員ではなく従業員である。 また従来の構成の会社であれば、執行役がなく経営層は取締役となる。


山内からの磯原への、ISO審査対応の指示事項は次の通りであった。

  1. 基本方針は、審査においてはISO用の文書・記録はもちろん、説明用資料を一切作らない。
  2. 上記で規格適合かどうかを内部だけでなく外部の専門家にも確認すること。不足がある場合は追加することを最小限とするように検討すること。
  3. 前項を元に、品質環境センターに、審査を受ける方式を見直すこととその方法を説明し、この方式で審査できるか、対応できないときは認証機関を変えることを通知する。但し認証機関を変えることの決定権は磯原に与えない。
  4. 品質環境センターの交渉結果にかかわらず、ジキルQAと真実QAと前記の条件で問題ないか、審査できるかどうかの確認と見積もりを依頼すること。
  5. 以上を2週間以内に実行し報告すること
磯原はありがたく命令を受けた。


ところで磯原自身はISO規格を熟読したつもりであるが、誰に教えてもらったわけではないし、今までISO事務局を務めたことはない。ということでまずは1日かけて要求事項すべてを縦軸に転記し、横軸に対応するであろう文書、記録、イベントなどを名称と現物をそろえてみた。
朝から夜の9時までかけてエクセルに入力すると、A3横で10ページくらいのものができた。見たところ立派なものだが、それで規格適合といえるかどうかは何とも言えない。

本社から一番近い工場というと、千葉県佐倉市にある千葉工場と神奈川県厚木市にある厚木工場だ。磯原はまったく面識がないが、とりあえず両方の環境管理と名前がついている部署の課長にメールを送る。

注:電子メールの書き方は会社によっていろいろあるようだ。私の勤めていたところでは、行間を空けずに書けと指導していた。余計な空間は読むとき遅くなるという。本当だろうか?

恥も外聞もない。本社といっても知識も情報もあるわけではない。まして自分は工場から転勤してきてまだ4か月だ。社内で詳しい人を捕まえて、ご教示願うことが一番だ。

🕘
そこまですると今日は退社することにした。まあ、工場では故障とか電力会社の都合による電力不足対応とかときどきあり、夜討ち朝駆けなんて普通のことだった。それを思えば本社は楽でいい。
ただシンデレラの時刻を過ぎると家に帰れないのが困る。福島工場ならマイカー通勤だから何時であろうと問題なかったのだが。
そう思いながら総武快速で稲毛まで帰るのであった。幸い歓迎会以降、乗り過ごしたことはない。


******

翌朝、始業1時間前の8時に会社に着くと早速パソコンを立ち上げる。
メールソフトを見ると、来てます、来てます。厚木工場からはなんと昨夜10時過ぎに返信が来ているし、千葉工場からは朝の7時半に返信が来ていた。
磯原はうれしくなって、まずは厚木工場のメールを開く。


おお、ありがたい。厚木工場は始業が8時半だから、朝礼や朝一番の処理が終わる8時50分頃に電話してみよう。

次に千葉工場だ。


磯原は引っかかることがあった。それは省エネ計画報告のとき、ISO審査で見せる計画と本社報告が異なる工場があったので、あのときの資料を引っ張り出して厚木工場と千葉工場の認証機関を調べた。厚木工場は品質環境センターで二重帳簿であり、千葉工場はジキルQAで二重帳簿ではなかった。そして厚木工場は環境予算を別費目に流用していたふたつの工場のひとつであった。
それを見て、磯原はなぜか笑いが込み上げてきた。要するに千葉工場は表裏なしの正直者であり、厚木工場はティピカルな二重帳簿の工場ということだ。両方見る甲斐はあるというものだ。


時刻は8時40分だ。本社は9時始業だが、もうちらほらと出社してきた人がいる。
サンドイッチコーヒー
施設管理課では磯原の次に、アメリアがコンビニの袋を持って現れた。
彼女は借り上げ社宅のマンション住まいで、朝はコンビニ飯を会社で食べると公言している。昼は外に出てキッチンカーで買い、夜はファミレスという。
異国の一人暮らしではわびしくないかと以前聞いたら、アメリアの父の兄である伯父さん一家が大宮にいてそこに住んでも良いけど、人間関係が煩わしいのだそうだ。

アメリア 「グッモーニン、シンサク。いつも早いわね」

磯原 「おはようございます、アメリアさん。今日のご予定は?」

アメリア 「磯原さんの計画では、今日は山下さんが公害のお話をしてくれることになってます」

磯原 「OK、場合によっては佐倉か厚木に行くかもしれない。今調整中だから決まれば話をしたい、ちょっと自席で待機しててね」


磯原は厚木工場に電話をする。藤井主任と話をした結果、結局、厚木工場は翌々日の午後にお邪魔することになった。 次は千葉工場だ。
こちらは本日でもどうぞということだ。それは願ったりだ。東京駅から佐倉駅まで総武快速で1時間、11時過ぎに会社を出て、向こうで昼飯を食べて、工場まで歩いてちょうどだろう。13時に工場を訪ねるとアポイントを取った。

磯原は山内参与と鈴木課長宛に、本日11時前にアメリアを連れて千葉工場に行き直帰する旨、eメールを出す。山下さんには彼が出社したとき直接口頭でアメリア教育の変更をお願いしよう。

本社はフレックスだから始業時にそろうのはほぼ半数だ。施設管理課では磯原とアメリアとユミちゃんだけしかいない。
始業時になってからアメリアと打ち合わせ場で少し話をする。

磯原 「本社のISO認証について、審査を受けるスタンスを変えることはご存じの通りだ。私もまったく初めてのことで、その方法で問題がないか検討中だ。とりあえず工場で類似のことがあったかなかったか聞いてみたんだが、佐倉市にある千葉工場はメールの返事を読んだだけだが、まさに我々がしようとしている仕組みで認証を受けているそうだ。
それで今日の午後に工場を訪問して状況を聞いてくる。アメリアさんも同行してほしい」

アメリア 「わかりました。楽しみにしています。
持ち物とかありますか?」

磯原 「ない、アメリアさんはノートパソコンを持っていく? 私は重い荷物は嫌いだ。
ええと東京発は10時54分の予定だから会社を10時半くらいに出よう。佐倉着が12時1分、向こうの駅前ででも昼飯を食べて、工場まで歩いて10分弱だ」

アメリア 「了解しました」

日中の総武快速はガラガラだ。毎日通勤しているが磯原も、こんなに空いているのに乗るのは初めてのことだ。道々、アメリアと雑談をしていると楽しく、あっという間に佐倉に着いてしまった感じだ。
駅から出て磯原はいささか驚いた。今まで住んでいた秋田でも福島でも東京でも、駅前には食べるところとか商店街とかがあるものだ。しかし佐倉駅を出ると全然イメージが違う。ダダ広い平地に駅舎があり、駅前にはわずかにオフィスビルが並んでいるが、周囲には商店街も飲み屋街もない。開拓途上というイメージだ。
ともかく昼飯を食べたが、あとは時間をつぶすところもない。

打ち合わせ あちこち眺めながら歩き時間をつぶして13時に千葉工場に入った。相手も山内参与のような偉い人が来たのではないから、部長などが対応するわけはない。正門まで佐久間さんが迎えに来てくれて現場事務所の打合場に案内してくれた。衝立で囲まれた、長テーブルが二つ、折り畳みのパイプ椅子が10脚くらいある殺風景なところだ。

初めは環境管理課長も顔を出したので、磯原が訪問の目的を説明した。特段、不具合があってきたわけでもなく、情報収集のためと理解したので、あとは佐久間とよろしくといって消えた。

磯原 「本題に入りますが、本社もISO14001を認証しております。今年末に更新審査となるのです。実を言いまして今までISO認証を担当していた方がこの春に転勤になり、私が後任になりました……おっと専任じゃありません。片手間もいいところですよ…
従来は会社の規則とかを見せるのではなく、ISOのための手順書を見せ、ISOのための記録を見せていたことが分かりました。それはあるべき姿ではないと考えますし、余計な仕事が多々ありまして、どうしようかと考えているのです。
昨日メールでお問い合わせしたら、千葉工場ではISO以前からある規則や記録を見せて審査を受けているとお聞きしました。そのあたりについて教えていただきたくおじゃましました」

佐久間 「それは……まあ、大変ですね。そういう形でISO認証を受けているのを二重帳簿と私は呼んでいますが、当社でも二重帳簿は多いです。いやほとんどが二重帳簿だと思います」

磯原 「私は福島工場にいたのですが、二重帳簿のつもりはありませんでしたが」

佐久間 「ふたつの文書があることだけが二重帳簿じゃありません。例えば内部監査なんてISO14001のためにしているなら、それも実際の会社の仕組みと違うわけですから二重帳簿と言っておかしくない。内部監査だけでなく福島工場はISO14001のための仕事やイベントはありませんか?」

磯原 「確かに内部監査はISO14001のためにしていますね。仮にISO14001の認証を止めたら即座に内部監査を廃止するでしょう。他にもマネジメントレビューもISO14001対応ですし、そういう観点では二重帳簿は間違いないです」

佐久間 「私は10数年前、この工場がISO14001を認証するときから関わっていました。ISOなんて経験もなく、初めはひたすらISO規格を読みました。
しかしこの辺は田舎とはいえ、結構工場はあります。企業ブランドとか気にしているところは、ISO14001の認証が始まるとすぐに審査を受ける準備を始めました。私どもの工場はそういう先頭争いには出遅れて、第二グループにいました。
お互い敵対関係にあるわけではなく、地域の公害防止の団体などもあり、まあ仲間意識がありました。それで仲間内でISO審査を受けるとその情報が周囲の工場に伝わり、後発の企業はそれを参考にするような状況でした。
さて審査を受けると第一グループは、コンサルの指導を受けたところも独自に勉強していたところも、ほとんどが最初の審査では玉砕でした」

磯原 「不適合だったのですか?」

佐久間 「不適合も不適合、もう全く話にならない状態でした。話にならないというのは、不適合がひとつとかふたつなら、それをいつまでに是正すれば認証を……となるのですが、不適合が7つも8つもあればそういうわけにもいかず、改めて審査を受けることになったのです」

工場 磯原 「不適合といってもいろいろあるでしょうけど、法に反するところがあったとか現場の不具合とかではなく?」

佐久間 「そういうことなら諦めもつくというか、指摘してもらってありがとうということになります。しかし不適合のすべてが文言の問題とか、物理的には支障はない規格の読み方の問題でした」

アメリア 「勉強不足だったのですか?」

佐久間 「そうではないと思います。むしろその逆で認証機関が規格を理解していないからだと思います。
審査を受けた第一グループのその後は二つに分かれました。ひとつは審査を受けた認証機関の講習会をじっくりと受けて、その認証機関の規格の解釈を学んだわけです。そして認証機関の考え方に合わせて手順を見直した、つまり認証機関に合わせて会社の仕組みを変えたわけです。
本当は会社の仕組みを変えたわけではありません。会社の仕組みをそのように見せたという、二重帳簿を整えたといいましょうか」

磯原 「なるほど、二重帳簿であるのは、いきさつがあったわけですね」

佐久間 「そうです。認証機関の考えに合わせて会社の仕組みを変えたら、おかしくなってしまうという担当者の苦し紛れの対策が二重帳簿だったわけです」

磯原 「うーん」

佐久間 「しかしそういう対応を取ったところばかりではありませんでした。もうひとつのグループは、別の認証機関を当たりました。要するにどこの認証機関もそのように規格解釈をしているのかを探ったわけです。
その結果知ったのは、外資系認証機関は日系の認証機関と違う解釈をしているという事実でした。企業が独自にたどり着いた規格解釈は間違っていなかったのです。しかしそれを唱えても認証機関が見解を変えることはありませんでした。
となるととるべき道は最初に戻ります。認証機関の言うとおりにするか、それとも認証機関を変えるかです」

磯原 「なるほど……」

佐久間 「ここからは想像ですが、磯原さんは本社がISO審査で見せている姿が現実と違うのに気が付いて、現実をあるがまま見せて審査を受けようと考えたのでしょう」

磯原 「まさしくその通りです」

佐久間 「話があちこち飛びますが……2000年頃でしょうか、今から15年も前ですね(この物語は2016年である)……我が社の工場でISO担当だった有志が本社のISO認証を指導していた当時の担当者に、認証機関の考えを変えさせろ、もしくは認証機関を替えようと意見を申し入れたのです。私も連判状に名を連ねておりました(笑)」

注:MSIMEの初期状態では「連判状」を変換しなかった。今の時代は連判状も通じないのかと愕然とした。時代劇で若い武士が立ち上がるときは必ず連判状なんて書く場面があったのだが…。

磯原 「そういうことがあったのですか。それはどうなったのでしょう?」

佐久間 「回答はありました。出向者を受け入れてもらうために認証機関を替えることはできないこと、そしてまた業界設立の認証機関だから抗議してもめるのは困ること、要約するとそういうことでしたね」

磯原 「私も工場にいてISO審査を受けましたが、事務局ではなかったのでそういう詳しいいきさつは知りませんでした。佐久間さんのところは思い切って認証機関を替えたわけですね」

佐久間 「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。私どもではISO9001を認証したのは我が社でも一二を争うほど早かったです。というのは欧州の輸出のために早急に認証が必要でした。
そのときはまだ日系の認証機関が仕事を始める前で、営業は一刻も待てないと直接ロンドンの認証機関と契約して審査員の飛行機からホテルまで手配するようなありさまでした。幸いトラブルもなく認証できました。

そんな経験をした当時の工場長が、面倒を嫌ってISO9001の認証機関にISO14001も依頼すると決めたのです。外資系の認証機関はおかしな解釈をしないということは当時から常識でしたから。
最近流行しているのは有益な環境側面でしょう(笑)、あんな発想はイギリスの認証機関にはありません」

注:有益な環境側面というのは2002年頃に聞いた覚えがある。初めは「有益な環境側面も考えてほしい」というニュアンスだったが 不思議ねー 2005年頃から必須になった。必須なら要求事項にあるはずだが、どのshallがそれなのか説明できた審査員にあったことはない。不思議なこともあるものだ。
おっと有益な環境側面そのものが書いてないよ(笑)
今はもうそんなこと騙っている人はいないだろうとググったら、なんとザクザクヒットした。ウェブサイトに有益な環境側面と書いているのには、審査員研修機関もあるし、ISOコンサルもあるし、行政機関もある。さすがISO後進国日本である。いや他国にないものがあるのは先進国なのか?

磯原 「当時は本社から業界設立の認証機関を使えという通知があったと聞きましたが……」

佐久間 「本社の指示に従い認証機関の独りよがりで苦しむのは、ばかばかしいと判断したということですね。本社にはISO9001のときのいきさつも説明して、認証規格によって認証機関を変えることのデメリットを伝えて了解を得たのです」

磯原 「なるほど、その結果、千葉工場は余計な問題に関わることがなかったということですか」

佐久間 「本社が今になって問題に気付いたとは15年遅れています」

磯原 「そう言われると辛いところですが、私個人としてはおかしなことは直さなければならないという思いしかありません」

佐久間 「まあ磯原さんとしては負の遺産を引き継いだようなもの、土壌汚染でも地下水汚染でも、起こした先達は逃げ切り、あとをついだ我々が苦しんでいます。
おっと茶化しているつもりはありませんよ。そもそもの原因は力量のない認証機関と、そこを使うと決定したことにあるのです」

アメリア 「認証機関もどこかの時点で、負の遺産を清算すればよいのにね」

佐久間 「おっしゃる通り。問題なのは業界設立の品質環境センターですよね。あそこはスコアリング法にあらずばISOにあらずですからね。ほかにもいくつもおかしなことを強弁していましたから、今更間違ってましたなんて言えば、恨まれるどころではなく血の雨が降りますよ」

磯原 「それはまた大げさな……」

佐久間 「いえいえ、日本中の環境担当者から恨まれてますからね。とるべき道は廃業しかないんじゃないかな。というか、仕事がなくなれば廃業しかありませんけどね」

磯原 「返す刀で本社が今さらあるべき姿なんて示せば、各工場の環境担当者から総すかんということもあり得るということでしょうか?」

佐久間 「まあ本社のISO担当者も何代も替わりましたし、磯原さんは工場から来た人で、旧弊を改めるといえば拍手で迎えられますよ」

磯原 「そうだといいのですが……総論としてはわかりましたが、本日のテーマは具体的な会社規則に基づく本社の文書・記録だけで規格要求を満たすかどうかをご教示いただきたいことなのです。

私のほうで対照表を作ってみました。一番左の列が規格項番で、その次の列がshallで記述している要求事項です。その次の列が会社規則の番号とタイトルで、その右の列が記述している要旨、更にその右の列が要求事項を満たしているかどうかの判定です。もちろん私が考えた判定です」


ISO項番要求事項会社規則(No.)記載要旨要求事項を満
たしているか
6.1.1環境側面、順守義務、取組の
計画策定のプロセスを確
立し、実施し維持する
新設備導入規定(8102)
新物質導入規定(3205)
新工程導入規定(3207)
外登法規制調査事項
設備の要否検討
必要資格者調査
概ねOK
6.1.1計画策定時には環境側面、
順守義務と認証範囲を考慮
する
省エネ法届け出規定(8805)
消防法規定(3103)
化学物質管理規定(3210)
…………概ねOK
6.1.2………………
6.1.3………………
……初めは真面目に書こうかと思ったが面倒くさくなって止めた

佐久間 「この表で十分かどうかを評価してほしいということですね」

磯原 「そうです」

佐久間 「しかしすごいものを作ったもんだ。何日もかかったでしょう」

磯原 「いや一日で作りました。もっとも私も取り掛かる前に、会社規則を徹底的に読んでいましたから、ISO規格を読めばなにが該当するか頭に浮かびました」

佐久間 「なるほど……内部監査は監査部監査だけで大丈夫かなという気がします。点検項目や内容は十分と思いますが、現在 監査部監査のインターバルは4年か5年でしょう。間隔が長過ぎるといわれると思います。ISO審査は3年で全項目一巡が必須らしく、同じことを会社の内部監査に要求しています」

磯原 「なるほど、千葉工場ではどのようにしているのでしょう?」

佐久間 「ISO9001のときは私はタッチしていませんでした。そのとき品質の内部監査が要求事項ということでいろいろ考えたそうです。我が社では毎年遵法点検の実施を行いますよね。あれを該当させようという発想で、該当法規だけでなく工場の規則の運用状況を作成される記録と運用状況を点検することにしたそうです。それを品質の内部監査にしたということです。
ISO14001のときは既にそれが定着していました。ISO規格といってもそのままでは社内で運用できません。環境や自然保護の条約だって、そのまま国内では適用できません。日本の法律に展開しなければなりません。それと同じで、工場規則に展開するわけで、工場規則の運用をすべて点検すれば、すなわちISO規格要求を点検したと同義です。
もっともうちはジキルだからそれが通用しますけど、品質環境センターでは三段論法なんて通用しそうないですね、アハハ

マネジメントレビューは執行役会議を充てるのですか。悪くないですが、そうすると報告する生産技術本部長が管理責任者で、経営者が社長もしくは執行役会になってしまう。社長を担ぎ出すのは望むところではないでしょう。
それがあるべき姿かもしれませんけど、現実には環境担当役員を経営者としたいでしょう。となると生産技術本部長への報告のなにかをマネジメントレビューに充てることになるでしょうねえ〜
工場は毎月環境管理状況を本社施設管理課に報告しています。遵法、事故、行政指導、エネルギー、廃棄物などの計画進捗などですね。本社ではあれをまとめて生産技術本部長に報告していると思います。それをマネジメントレビューにしたらどうでしょう」

磯原 「ええとそれは本社のISO認証範囲とは無関係ですが……」

佐久間 「いえいえ、本社の環境側面はたぶん工場の管理だと思います。ですから各工場のパフォーマンス報告は重要です。当然、本社のエネルギーや廃棄物もちろん事故や遵法の報告も必要です。それは本社総務部からの報告が必要ですね」

磯原 「なるほど、いろいろな行動とか責任の主体を再確認する必要がありますね」

佐久間 「ええと、今ここですべての項目について良い悪いは言えません。まして私は工場規則ならそらんじていますが、会社規則はあまり縁がなくオフハンドではコメントできません。

今までに考えついたことが、三つあります。
ひとつは内容を精査するにしても結構時間がかかります。上長経由でない依頼を会社でするわけにはいきません。自宅でするのもおかしな話です。それで私の上司に話をつけて業務としてほしいということです」

磯原 「当然です。とはいえ三つ全部をうかがってから対応を考えましょう」

佐久間 「二つ目は、我々が規格適合と判断しても、認証機関が品質環境センターでは通らないと思います。彼らは15年前から規格解釈を変えていませんからね。ですから交渉しても簡単に変わるとは思えない。それは覚悟してほしい。
もしあるがままを見せる方式にするのなら……不可能かもしれませんが、品質環境センター以外の、できたら外資系認証機関への鞍替えをしなければならないでしょう」

磯原 「なるほど、最後は何でしょう?」

佐久間 「切替えは内部的にも認証機関対応でも結構大変です。時間とか費用だけでなく心理的な負担も大変だと思います。ですから総合的に考えて認証を止めてしまうことも考慮すべきかと思います。
言いたいことは今更ISO14001を認証するのに、それほどの手間暇をかけても、会社にとって改善効果が出ないということです。それなら認証を返上したほうがトータルとしてプラスになるかなと思います。

それは本社だけでなく、工場においても無用な認証を止めれば費用も時間も大幅に節約できます。私はね、日本のように環境法が整備されている国ではそもそもISO14001の意味はないと思っているのです。例えば省エネも廃棄物削減もわざわざ目的目標に上げるまでもなく、法の義務なのですから。

とはいえ今は環境報告書にもISO14001認証の効果を大書しています。その辺の見解をはっきりさせないと認証返上は難しいでしょう」

磯原 「おっしゃることは分かりました。一番目は簡単、二番目は少し交渉が必要で、三番目はかなりの検討が必要ですね」

佐久間 「いろいろしがらみがあるのですよ。うちが本社だけでなく工場も一斉に認証返上したら、多方面に影響が出ます。
例えばつまらないことですが、前の前の環境課長が54歳になったとき、本社の環境部の紹介で品質環境センターに出向して審査員に華麗なる変身を遂げました。そういう人は我が社だけでも10人や20人はいるでしょう。我が社のISO認証を止めたり鞍替えしたら、そういう人たちが一挙に返品されるでしょうし…」

磯原 「ISO認証は環境保護よりも社内失業者保護に貢献しているようですね」

佐久間 「そもそも1990年頃にISO9001認証が始まったとき、欧州ではホワイトカラーの失業対策と言われたのですよ。ご存じなかったかな?」

アメリア 「へえ! そういう意図はISO認証が始まった時からあったということですか、驚きました」

佐久間 「業界団体だって認証機関を作って、会員企業からの審査料金の外部流出を止めるだけでなく企業内失業者の天下り先を創出するという意味もあったと思いますよ」

磯原 「ISO14001認証は遵法と汚染の予防ではなく、まさにビジネスのようですね」

佐久間 「そもそもEU統合がなければISO第三者認証はなかったでしょうし、今あるISO第三者認証制度なんて偶然の積み重ねですよ。私のような古い人間は、古いことだけは知っています」

定時まで打ち合わせをした。
佐久間から駅前あたりで飲もうかと誘われたけど、アメリアは帰りが遠いからとパスした。
お酒 磯原は稲毛だから本社までの半分だ。これも付き合いかと磯原は駅前の居酒屋で1時間ほど飲んでから総武快速で帰った。
佐久間の話を聞くと、千葉工場には形式にこだわらない、権威を恐れない気風があるそうだ。だからおかしな認証機関には頼まない、本社から言われても理屈をつけて断ったという。
そんなことを聞くと古巣の福島工場は厚木工場なみに、常識的というか言われたことをそのままやるのはいいのだが、おかしなことがあっても言われたとおりするとは情けない話だ。


うそ800 本日の忸怩たるところ

いろいろなケースを考えると、自分も認証機関/審査員に言われたままにやったなと気が付くこともある。それは自分の仕事に自信がなかったのか、それとも面倒くさかったのか、反発してもめるのを恐れたのか、いずれにしても反省するところだ。

どうでもいいことだが、本日は12,000字弱である。このシリーズを始めるとき、毎回6,000字に抑えると書きましたが、とても無理です。一話6,000字なんて可能なのだろうか? 私が単純にキーボード中毒なのか?


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