ISO第3世代 16.認証機関訪問1

22.09.12

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。


ISO 3Gとは

翌週である。今 磯原は、横浜ランドマークタワーにつながっているビル群の中にあるコーヒーショップにいる。 パンケーキ
いつものように訪問前に昼飯を取ろうとしてきたところ、アメリアが外の景色が見えるところがいいというので、ここでパンケーキを食べて食後のコーヒーを飲んでいた。
まだ約束の時間まで15分ほどあるので、それまでここで時間をつぶすことにした。
目的地のジキルQAは、ここから歩いて数分だ。

アメリア 「磯原さんはランドマークタワーには何度か来たことがあるのでしょう?」

磯原 「いえいえ、私は生れも大学も就職してからもずっと東北でして、東京というか関東地方に来たのは修学旅行とか出張くらいです。横浜は初めてと思います。
しかし都会は何でも高いですね。パンケーキもコーヒーも高いのに驚きました」

アメリア 「コーヒー代というより横浜港が見える展望台の料金でしょうねえ」

そんなことを語っていると、磯原はトントンと肩を叩かれた。驚いて振り返ると、ジキルQAの橋野取締役ではないか。
磯原とアメリアは立ち上がり挨拶をする。

磯原 「驚きました。橋野様はここでご昼食ですか?」

ジキルQA橋野取締役 「昼前 来客があり、ここで一緒に飯を食ったのさ」

磯原 「まだ先客とのお話が済んでないなら、私どもの時間を遅らせましょうか」

ジキルQA橋野取締役 「いやいや、既に客は帰ったよ。事務所に戻ろうとしたとき鳶色の髪が目についてね、よく見たら一緒にいるのが磯原さんだった」

アメリア 「アメリアと申します。本日は磯原さんが私の勉強のために連れてきてくれました」

磯原 「アメリアさんはアメリカから研修に来ております。今日は私の目付です」

ジキルQA橋野取締役 「ほう、目付が付くほどの任務なら、本日の磯原さんのお仕事は重大だ」

アメリア 「目付ってなんですか? 目つきが悪い……きっと悪い意味なのね」

磯原 「彼女は普通の会話ならネイティブ並みですが、はやり言葉とか時代劇で使うような言葉は苦手です」

ジキルQA橋野取締役 「目付に悪い意味はないよ。元々は、主君から任務を命じられた者がしっかり役目を果たしたかどうか、同行して立ち合い主君に報告する役目だ。
西洋では古代ペルシアの時代から、そういう役目があったと聞く。時代が下ってそういう仕事がaudit(監査)と呼ばれるようになった」

アメリア 耳「あっ、それって、王様の耳はロバの耳じゃなくて、王様の耳と呼ばれたのでしょう」
 cf. A Brief History of Auditing

ジキルQA橋野取締役 「良く知っているね。アメリアは監査の歴史を勉強したのかな。目付のことも知っていて、知らんふりしていたのだろう」

磯原 「それでは今からお宅に伺いましょうか。それとも橋野様の方で準備があるなら、若干時間をおいて伺いましょうか」

ジキルQA橋野取締役 「いや気を使うことありません。ご案内します。歩いて5分もかかりません」


ジキルQAに入るとすぐに小さな会議室というか応接室に案内された。認証機関というのはその性質上、来客が多いからこういう部屋がいくつもあるのだろう。

ジキルQA橋野取締役 「挨拶は済んだと思うので、さっそく用件に入りましょう。頂いたメールによるとISO認証の方法についてとか?」

磯原 「ご存じかと思いますが、弊社の本社と支社はまとめて、品質環境センターからISO14001認証を受けています。工場は先日の打ち合わせでご存じでしょうが、工場によっていろいろな認証機関からISO14001を認証しています。

会議室 今年春に本社のISO担当者が異動となり、私が後任となりました。
本社のマネジメントシステムというか、認証機関に見せている姿を調べたところ、真の会社の仕組みである会社規則や職制を見せているのではなく、バーチャルなマネジメントシステムを見せていることがわかりました。

今年末の審査は更新審査でもあり、バーチャルをやめて本当のシステムを見せようと考えております。しかしながら現在の品質環境センターでは規格通りの形でないと不適合以前に審査が進まないと聞いております。
ついては御社ならバーチャルでない監査性、オーデタビリティというそうですが、それが低くても審査できるのか、また現実を見せて適合と判定されるかを確認したいのです」

ジキルQA橋野取締役 「なるほど、磯原さんは見識が高い。今はもうISO14001の審査が始まって10数年になり落ち着いたと思いますが、認証開始当時は認証機関によってはトンデモ解釈とか規格の拡大解釈とかありましたからね。規格の言葉が規定に入っていないことを不適合にしていたのを見たこともあります」

磯原 「現実は橋野様のお話とはちょっと違います」

ジキルQA橋野取締役 「ほう、何か間違っているかな?」

磯原 「認証開始当時だけでなく、現在もトンデモ解釈を語る認証機関があるということです。それをおかしいと思うのは、見識が高くなくてもわかります」

ジキルQA橋野取締役 「なるほど、お宅の考えていることは分かりました。
ひとつ申しあげておきますが、認証機関はコンサルできません。ですから本日御社の進め方を相談されても、意見を述べることはできません」

磯原 「ISO17021でしたね、マネジメントシステムのコンサルティングの禁止があります。しかしそれは『マネジメントシステムの設計・実施・維持に関すること』とあります。私どもは現行の仕組みを見て、適合・不適合を判定してほしいわけですからISO17021の禁止事項に該当しません」

注:この物語は2016年なので、ISO17021は2015年版を基にしている。

ジキルQA橋野取締役 「おいおい、ということは我々のビジネスで有償で行っている書面審査を無償で行えということか?」

磯原 「包括的に適合を確認していただくつもりはありません。過去に弊社の工場が受けた数多の審査において、認証機関によってバラツキが大きい項目について御社の見解をお聞きしたいのです。
私どもは指導を仰いでいるのではなく、御社の判定が適合か否かを確認したいので、言ってみればノーアクションレターです」

注:ノーアクションレターとは、企業や一般国民が、まだ行っていない事業活動について具体的に法令の規制対象になるかを所管する行政機関に問い合わせ、行政機関が回答を公表する仕組みを言う。この制度は2001年から導入された。
もちろん一般企業同士では関係ない。磯原はたとえ話をしたに過ぎない。

ジキルQA橋野取締役 「民・民でも法令適用事前確認が適用されるとは初耳だ。ともかく理論武装はしてきたわけだ。ノーアクションレターということは、本日の話し合いの結果、良きにつけ悪しきにつけ認証機関を弊社に鞍替えするつもりですね?」

磯原 「当然ですが悪しきなら鞍替えはありません。そして良きであっても、残念ながら私に決定権がありません。私が暴走するのを懸念して、山内参与はアメリアさんを目付として同行させたわけです」

アメリア 「まあ!それじゃ私はくのいち・・・・ね」

橋野は吹き出した。🗣

ジキルQA橋野取締役 「なるほど、おふたりは漫才なら最強コンビだ。では本題に進みましょう。お互いに忙しい身、貴方で問題だというか心配なことだけでよろしいでしょう」

磯原 「ありがとうございます。それでは本題に入らせていただきます」


まずは環境側面の決定方法である。日本では多くの会社が採用しているスコアリング法について、磯原はその妥当性が疑問だった。あれは論理的なのだろうか?

ジキルQA橋野取締役 「点数で決めるスコアリング法は、評判の悪い例の認証機関の人たちがイギリスに実習というか調査に行って捏ね上げた考え方だ。しかしイギリスではBS7750時代から環境側面を数値で表すなんてのは主流ではなかった。

もちろん問題や影響の大きさを比較するとき、数値化することは常套手段だ。例えばワクチンを打つべきか打たざるべきかとか、投資対効果など数字で比較する。だがその場合は、双方の単位があってなければ比較できるわけがない。死亡率と死亡率、金額と金額という具合にね、

だけど廃棄物排出量と重油使用量が比較できるとは思わない。双方の単位が違うし、それ以前に性質が違う。だが現実には適当に点数を割り振りして計算した結果で、廃棄物と重油の順位付けをしている企業は多い。
もし廃棄物と石油の環境影響を比較できる人がいるなら、ぜひ根拠を聞きたい。廃棄物といっても廃酸もあり感染性もあり掃除のごみもあり、廃棄物処理業者の処理方法によっても環境影響は違う」

どちらの環境影響が大きいか?
産業廃棄物100トン重油20トン
産業廃棄物
<

>

重油

これがわかる人は天才か○○だ。真面目に環境管理をしている人には分からない。

ジキルQA橋野取締役 「私はそんなそんなデタラメな企業を認証したくない」

アメリア 「弊社でもPPC(コピー用紙)と毒物の点数を比較している工場がありますよ」

注:1997年にこの物語のモデルとなった認証機関の審査を受けたときのこと、我々も予測していたからPPCの上質紙、 再生紙の枚数は把握していた。
ゼムクリップ しかし敵(審査員)はさる者、ひっかく者、PPCにとどまらず、乾電池とかゼムクリップ、名刺に至っては再生紙使用の枚数、上質紙使用の枚数、そんなものまで把握しておくように言われた。
マジかよと思ったのはマジです。翌年からは調査なんてせず、毎回 適当な数字をインプットしましたけどね、
彼らにとって環境影響はどうでもよくて、ISOのために仕事をさせることが目的だったんじゃないかと勘ぐります。

ジキルQA橋野取締役 「おやおや、スラッシュ電機さんともあろうものが……PPCと毒物を比較できると思う人は現実の環境管理をしたことがないのだろう」

アメリア 「そうではないのです。PPCも毒物も定量化して比較しなければならないという認証機関があるから、意味がないと思ってもやむなくしているのです」

ジキルQA橋野取締役 「ウーン、日本のISOをダメにしているのは力量のない認証機関だね」


******

過去より行っている監査部の業務監査を、ISO規格の内部監査に充てることができるかを磯原は問う。

ジキルQA橋野取締役 「内部監査に業務監査を充てて良いかを気にしているようだが、むしろ本来はそれがあるべき姿だろう。確かに現在の業務監査報告書の中で、環境に関する記述がプアという懸念はわかる。
業務監査の報告は依頼者、つまり社長とか監査委員だろうが、その人たちにするものだ。だから膨大な監査記録の中から報告すべきものを抜き出してまとめたものといえる。
調べてほしいのだが、監査結果としては報告書だけでなく、もっと詳細で膨大な記録があると思うのだがね。それが単なる私物ではなく、監査部の記録としてあるなら従来からの業務監査で十分だと思う。
規格を読めば分かるが、監査すべきことイコール監査報告ではない。監査では規格の要求事項と組織自体が決めたことを守っているかを確認しなければならないが、マネジメントレビューでの監査報告は監査の結果だ。会社規則と法令に基づき内部監査を行った結果の特記事項を報告するという流れならよろしいのではないかな」

磯原 「ありがとうございます。私の規格の読み込みが足りなかったようです」

アメリア 「すみません、ご教示いただきたいのですが……」

ジキルQA橋野取締役 「オイオイ、普通の日本人がそんな言い回しをしないぞ」

アメリア 「えー、Please educate meのつもりでしたが……」

ジキルQA橋野取締役 「アメリアは英語も日本語も格調が高すぎる」

アメリア 「質問です。どうして業務監査で十分といえるのですか? 業務監査では法律と会社のルールを守っているかを確認するだけです。ISO規格要求を点検していません」

ジキルQA橋野取締役 「皆さんは従来からの会社のルールは、ISO規格要求を満たしていると考えている。それが正しいとしよう。見方を変えるとISO規格要求は会社のルールに展開されていることになる。するとISO規格要求が定められているか実行されているかをチェックすることは、会社のルールが遵守され実行されているかをチェックすることと同義になる。
つまり業務監査で会社のルールの遵守状況を点検しているなら、それはISO規格の内部監査の要求事項を満たしていることになる」

磯原 「三段論法ですね。もっとも規格の文言が文書に書き込まれているかをチェックするような内部監査では、成り立たない話です」

ジキルQA橋野取締役 「まあ、それはおいとこう。ともかく理屈は良しとして、業務監査のメッシュがどれくらいか、インターバルがどれくらいかということが論点になる」

磯原 「メッシュは今おっしゃった元データ次第ということですね。ただインターバルが心配なのです。なにせ部門が多いので3年に1回くらいのペースですね。その代わり一部門に1週間位かけますけど」

ジキルQA橋野取締役 「それはいいんじゃないか。1週間もかけて書類や現実を調べているなら、そうとう記録は残っていると思う。
よく見かけるのは、ISO審査前に一部門30分くらいでYes/Noのチェックリストに〇×を付けただけの監査報告書ってやつだ。そんなことでは意味がない。
とはいえそれを不適合にしたら、日本の認証件数は半減どころか2割くらいになるんじゃないか。そしてそういうのを認証しないと我々も干上がってしまう」

アメリア 「メッシュのことですが、業務監査は基本、その部門の業務をメインに点検します。例えばつまらないことですが、現場のごみの分別が良いか悪いかなどを業務監査では見てません」

ジキルQA橋野取締役 「それは監査の方法次第ではないだろうか。営業部に業務監査に行ってごみの分別を見るかといえば、私ならたぶん見ないだろう、見なくても良いと思う」

アメリア 「見なくても良いとは……どういうことでしょうか?」

ジキルQA橋野取締役 「ごみの分別は総務部のお仕事だ。だから営業部でごみの分別が芳しくなくとも、そこで指摘しなくてもよいだろう。仮に営業部の分別が悪いなら、総務部に対してゴミ分別が徹底していないと言うべきではないか。
あるいは総務部の監査に行ったとき、総務部だけでなく、例えば総務部員と監査員が一緒に巡回して、分別や消灯基準が守られているかを見るという方法でも良いだろう」

アメリア 「営業部の監査で総務部に不適合を出しても構わないのですか?」

ジキルQA橋野取締役 「確かにその疑問はあるだろうね。第三者審査と第一者監査では立ち位置が違う。ISO審査なら審査員は不適合を見つけても、CARは被審査部門ではなく被審査組織に出すから、不適合ですと書けばおしまいだが……内部監査の場合は原因部門が被監査部門と異なることが分かったとき、被監査部門からその部門に回してもらってもよいだろう。
だが被監査部門から原因部門に回すなら、最初から原因部門にCARを出してもよいのではないか。まあ、御社の決めようだろう」

注:CARとはCorrective Action Requirement(是正依頼書)のこと


******

磯原 「橋野さん、根源的なことですが、企業の仕組みがISO規格要求を既に満たしているとき、ISO認証を受けるのは何のためですか?」

ジキルQA橋野取締役 「そりゃまた根源的なことだね。ISO認証の意味はいろいろ言われているが、ISO認証制度の元締めIAFはちゃんとそれについて公文を出しているよ。
もっとも認証機関もそれを理解していないのかもしれないと言い添えておく。だって『経営に寄与する審査をする』なんて語っている認証機関は多いからね。審査員に至っては存在を知らない人さえいるだろうね」

注:IAF(The International Accreditation Forum)国際認定フォーラムと訳される。マネジメントシステム、製品、サービスなどの適合性評価をおこなっている認定機関(日本ではJAB、ISMS-AC)を会員とする国際的な認定協会

アメリア 「そんなに難しいことなのですか?」

ジキルQA橋野取締役 「いやその逆だ。短いし単純明快だ」

磯原 「それはなんという文書ですか?」

ジキルQA橋野取締役 「文書というほどのものではなく、単なる紙一枚の通知だがね。2009年に出されたISO/IAF共同コミュニケというものでISO9001とISO14001がある。ウェブサイトにも載っている。A4で1ページくらいだよ」

アメリア 「すみません、どんなことが書いてあるのかだけ教えてくださいませんか」

橋野はスマホを取り出して何度かスワイプする。👆

ジキルQA橋野取締役 「認定機関のJABを知っているね、そのウェブサイトにもあるし、いくつかの認証機関のウェブサイトにもある。ISO担当者なら一読しておくと良い。
ええと、認証の意味としてこう書いてある。
『定められた認証範囲について、認証を受けた環境マネジメントシステムがある組織は、環境との相互作用を管理しており、以下の事項に対するコミットメントを実証している。
A.汚染の予防。
B.適用可能な法的及びその他の要求事項を満たしていること。
C.環境パフォーマンス全体の改善を達成するために環境マネジメントシステムを継続的に強化していること』

主文はそれだけだ。

その他に認定された認証が意味していないものとして、最適な環境パフォーマンスを達成していること、法令を遵守していること、事故が起きないこと、とあるね」

認定された ISO 9001認証に対して期待される成果
認定された ISO 14001認証に対して期待される成果

アメリア 「何かを保証するという意味はないのですね?」

ジキルQA橋野取締役 「認証は何物も保証しないよ」

磯原 「仮に一度審査を受けて規格適合を確認したならば、二度目以降の審査を受ける必要はありますか?」

ジキルQA橋野取締役 「まあ現状を維持することは難しい。何事においてもエントロピー増大の法則は真理だ。それで適合を保証するといっても有効期間があり、通常は審査後1年間となっている」

磯原 「でも認証機関は、瑕疵が発覚しても保証はしないのでしょう。認証組織に対しても、一般社会に対しても?」

ジキルQA橋野取締役 「『ほしょう』という言葉も、漢字で書くと三通りにあり、それぞれ意味が違う」

「ほしょう」の言葉の意味
補償損失・損害を補う・償うこと。遺族補償、災害補償、補償金など、
保証間違いないと請け負うこと。身元保証、品質保証など、
保証したことが事実と異なっても、それによって生じた損害を補償しない。
保障外敵から守り被害を受けないようにすること。安全保障、警備保障など、

ジキルQA橋野取締役 「ISO認証の原語はassuranceだ。保証の対象は、その組織がISO規格要求を満たしていること」

磯原 「でもそれじゃ、ありがたみがありませんね。最近のISO認証企業の不祥事には、公害の測定データを改ざんしていたとか、自動車メーカーの欠陥隠しとかありました。認証を受けていた組織は認証の取り消しとか停止とか、もちろん刑法に触れた場合は起訴された。しかしその会社を認証していた認証機関は一切責任を負わない。
不祥事が発覚した企業は、認証機関の審査がザルだったと民事訴訟を起こせるのではないでしょうか?」

ジキルQA橋野取締役 「責任は負っているよ。その認証機関の評判は落ちている」

磯原 「えっ、それが責任を負うことですか? なんのダメージもないでしょう」

ジキルQA橋野取締役 「あのね、我々はある意味格付け会社なのよ。アメリアはアメリカ人だから、投資とか格付け会社は身近なものだろう。アメリカにはムーディーズとかスタンダード・アンド・プアーズとか格付け会社があるよね。もちろん日本にもある。しかし我々日本人は投資なんて縁がないから格付け会社にも関心がない。
格付け会社のビジネスは、株を公開している会社の経営状態などを評価して、この会社の経営は安心できるとか信頼できないという情報を売っているわけだ。投資家はその情報を買い、安全で配当が大きいと予想された会社の株を買う。その結果大儲けしようと破産しようと格付け会社は責任を負わない。競馬の予想屋と同じだな。
しかし現実には格付けが当たらない格付け会社は相手にされなくなる。競馬の予想屋も外れてばかりだと予想屋の団体から追放されてしまうらしい。
アメリカの大恐慌前には多数の格付け会社があったそうだが、大恐慌で格付けが外れた格付け会社は淘汰されたという」

磯原 「企業から見て、認証のメリットとデメリットの貸借対照表を書けば、右と左のバランスが取れてないように思います」

ジキルQA橋野取締役 「ISO14001を見ればそういう感じがあるかもしれない。だが第三者認証の起こりはISOMS規格ではなかった。
ジキルQAは元々船級検査をしていた会社だ。船は製造工程が複雑で、起工から完成まで長期間かかる。そして完成してからは設計通り作られたか手抜きしたか分からない。だから製造期間中に定期的に点検して、完成した時この船は仕様通り作られたと裏書きするのが船級会社だ。

コンテナ船ベット!

誰が裏書きしたかをみて、保険会社は船の保険を引き受けるどうかを決める。ご存じのように保険の始まりは賭けだ。見込みのない賭けにはベットしないよ。
ISO認証もそういう意味合いで発祥したのだろうが、現在の認証はビジネス上における信頼の裏書ではなく、単なるブランドと化しているようだ。それともファッションかもしれないね」

アメリア 「なるほど、今のご説明をうかがい良く分かりました」

磯原 「うーん、橋野さん、そういうお話を聞きますと、私どもの本社はISO認証を必要としていないと考えてよろしいでしょうか?」

ジキルQA橋野取締役 「私も商売抜きでの本音でいうよ。
毎年日経が環境経営度ランキングなんてのを発表している。そのほかにもそれほど権威はないけど、マスコミや雑誌なども環境企業のランキングなんてしている。
そういうコンペでISO14001認証の有無が評価に影響なければ、認証しなくていいんじゃないかな。あるいは御社がランキングなど気にしないなら不要だろう」

磯原 「元々、工場が顧客からISO9001認証を求められたのが我が社の認証の始まりと聞きます。それはまさしくISO認証の本来の用途だったわけですね。
しかし今現在、ISO14001認証を求めている顧客はありません。ご存じかと思いますが、必要性が明確でないのにISO認証を要求すると独占禁止法違反だそうです。
世の中はどうかと言えば、ISO認証の有無が一般顧客の購買に影響しません。認証するより、そのお金でテレビコマーシャルを打ったほうが売上アップの効果はあるでしょう」

注:2020年の大学生を対象としたアンケートではISO9001を知っているが32%、ISO14001を知っているが25%であった。ISO認証を購買の際に考慮する以前のレベルである。
cf. ISOマネジメントシステム認証制度の活用の実態調査とその活用に向けて(JABマネジメントシステム研究会、2020.03.18)

磯原 「また事故や違反が起きた時、認証していなくても『認証していないからだ』とは言われません。事故を起こした企業が認証していれば『ISO認証しているにも拘らず』とマスコミは書きます。これってバイアスというか完全な非対称性ですね。
極上

あるいはマスコミも一般社会も、先ほどの共同コミュニケを知らずに、認証機関が語るようにISO認証が『経営に寄与する』ものと思い込んでいて、認証している会社は、環境に限らずすべての面で、並でなく極上とみなしているのかもしれません。
とすればISO認証はブランドということなのでしょうけど」

ジキルQA橋野取締役 「まあ、現実にはそうだろうねえ〜、もっとも廃棄物処理業者においては、ISO認証やエコアクション21を認証している会社は、認証していない会社に比べて事故や違反が少ないという調査結果を見たことがある」

磯原 「それは因果が逆ではないでしょうか。経営がしっかりして余裕があるから、安全や遵法を手抜きせずISO認証もできる、余裕がないところは安全や認証どころではないというのが真相ではないですか?」

ジキルQA橋野取締役 「俺もそんな気がするよ……夢のない話だな」


******

結論はスラッシュ電機の本社のルールが真にISO規格要求を満たしているなら、それで認証は問題ないということである。そしてまた品質環境センターでは、その方法はまずだめだろうとも言われた。
いずれも予想していたことであり、ある意味確信が深まったものの、見方を変えると何も前進していない。

磯原は、鞍替えした場合の本社の審査費用を見積依頼するために、ジキルQAの見積依頼書を一部もらってきた。はたして見積依頼をすることになるのか、ゴミ箱に放ることになるのか今は分からない。


******

帰りの電車の中である。

京浜東北京浜東北京浜東北京浜東北京浜東北

アメリア 「橋野さんはなかなかざっくばらんで話しやすかったわね。最後はビジネス抜きで本音を話してくれたし」

磯原 「ああいう人は交渉事が得意だから、こちらがうっかり本音を吐くと危ないよ。
ところで今日は大変参考にはなったけれど、今検討している方法は認証機関を鞍替えしないとまずダメだね。もちろん、品質環境センターにも近々行くつもりだ」


うそ800 本日の言い訳

お前は認証返上をしたことがあるのかと問われるかもしれない。
私が認証する・しないを決定できる地位にいたことはない。

私が認証返上の手続きをしたのは2回だけだ。
ひとつはある顧客からISO9001認証を求められ認証したが、その顧客との取引が終わったときに認証を止めたとき。もうひとつは、別の製品で認証を受けたがその分野から事業撤退したとき。
いずれも『認証のイメージ』のために認証したわけではなかった。必要だから認証して、不要になったから止めただけだ。


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