ISO第3世代 31.廃棄物点検3

22.11.17

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

元はと言えばISO更新審査のための事前説明だったが、総務部の本社から出る廃棄物処理が法に反していることが見つかり、支社の状況を当たるとこれも怪しいとなった。
これは大変と一時は大騒ぎにあったが、ともかく千葉工場から応援に来てくれた佐久間のおかげで、支社・営業所の廃棄物管理状況点検の実施条件と達成目的は決定された。あとは動くだけ。ISO認証とか新設備導入立ち上げなど、小さなことから大きなプロジェクトまで数多く携わっていた佐久間にとって慣れたことである。とはいえ独走はできない。磯原を立て奥井を立て、二人をその気にさせて進めなければならない。

佐久間は今までの社内同業者たちとの付き合いを思い出して、派遣者をどうするか構想を練る。
スラッシュ電機は北海道に工場はない。東北の宮城工場が最北だ。初めは東北にある宮城工場と福島工場の人に、東北以北の東北支社、北海道支社と道内の営業所を監査させようかとも思ったが、 旅客機 考えると移動距離はなくても鉄道やバスの便はあまり良くない。
福島から北海道に行くのに飛行機を使うと1日往復1便しかない。それに対して福岡・千歳間は往復10便もある。札幌から仙台に行くより福岡のほうが時間がかからないし、そして費用も変わらないのである。だから東北の工場からではなく、九州の工場から北海道に派遣しよう。
福島や静岡から派遣するのは、飛行機が不便で新幹線が便利なところがいい。

待てよ、派遣する前に一回本社に集めて、直接本社のえらいさんから状況説明と命令を発してもらったほうがやる気が出るだろう。それにいくら経験があるといっても知識が古いとか自分が扱っている廃棄物以外はあまり詳しくない恐れもある。
それを考慮すると一度全員を本社に集めて、1日かけて訓令と講習をしてから派遣したほうが良いだろう。どうせならそのとき監査部から行く人と総務部の山本とかも一緒に講義を聞かせよう。

佐久間は山本山本が欠勤しているのを知らなかった。

そうなると講習のテキストを作る必要がある。奥井が示したチェックリストは通り一遍だし、〇×を記すだけではあとから良し悪しを確認もできない。それに監査部から指摘されたように収入印紙金額とか暴排条項などのチェックが漏れている。
どうせA4で2ページか3ページだから、新たに作ってしまおう。


監査するところは支社が12か所、営業所が19か所で都合31か所だ。一人でとなると行く人も心細いだろうし、こちらも見逃しが怖い。最低2人一組として5組だから一組6か所、移動を含めて1か所2日とすると12日か。いや本社、東京支社、関東支社を奥井が担当するから……
それに2か所くらい二人組で実行したら、それ以降は一人でもできるだろう。
確保する派遣者は10名にこだわらず多いほうが良い。可能なら一つの工場から2名でもいい。

監査部の方は丸々行動を共にしてもらうのも大変だろうから、挨拶と状況説明だけとすれば二人で全箇所回れるように考えてみよう。


佐久間は決断すると、社内用PHSを取り上げて電話をかけまくる。2時間後、だいぶ喋り疲れたが希望したメンバーのほとんどから了解を得た。
電話する 了解を得たときは先方の課長に回してもらう。佐久間は管理者じゃなかったが、古株だから、どこの工場の課長とも顔見知りだ。
佐久間が今、本社に応援に来ていることを報告し、そして本題である工場からの派遣をお願いする。
「なんだお前、本社だって?、大出世だな」なんて、電話の向こうから冷やかされたのは二度や三度ではない。
ともかく一仕事終わった。

派遣元の工場、課長名、派遣者名のリストを作る。
それからテキストは、とりあえず作るとしても使う前に奥井の同意を得ておいたほうが良いだろう。奥井の心証を悪くしたくない。


ふと顔を上げると、山内参与が鈴木課長の席の隣に座り、小声で何か話をしている。あまり興味もないが、思いあたることはある。
打合せ 佐久間は来てすぐ、施設管理課の鈴木課長と本部長室の山内参与は、あまり仲良くない、いや考えが合わないのではないかと感じていた。今回の対策で磯原と佐久間で片付けばよかったのだろうが、奥井を引っ張り込んだのがまずかったのだろうか?
とはいえ奥井を入れろといったのは山内参与だった。とすると鈴木課長が苦情を言ったのかもしれない。それにしては目上の山内参与が目下の席に来て話をしているのもおかしい。普通は下の方が偉い方に行くだろう。
ハテ、どうしたのだろうか?


******

定時前に佐久間は、派遣者のリストと派遣先、これからのスケジュール表、廃棄物監査の教育資料、監査チェックシートを作り上げた。資料はA4で8ページ、チェックシートはA2で2ページである。こんなもの佐久間にとってはお茶の子さいさいである。自分はボイラーマンだと常々語っているが、環境部門にいて30年も仕事をしてきたわけで、公害全般、廃棄物、省エネ、ISOと何でも経験してきたベテランだ。
さてこれで進めるかどうか、一応奥井の顔を立てなければならない。

奥井は今日昼から姿を見ていない。業界団体で廃棄物の参考資料を作っているとか聞いたが、何をしているのか?
定時になり事務所の人が少しずつ退社し始まった頃に奥井が帰ってきた。佐久間は奥井と席にいた磯原に声をかけ、三人で打ち合わせ場に集まる。

佐久間 「ええと昨日の打ち合わせによって、まず工場に声をかけ派遣者を決めた。これがチェックリストだ」

奥井 「ありがとうございます。ええと13名ですか?」

佐久間 「工場サイドから勉強のために派遣したいというところがあって、1工場で2名というところがある。特段問題ないと考えてお願いすることにした。
なお派遣先は飛行機の便とか新幹線の利用を考えて、費用ミニマムを図ったつもりだ。割り振りはこのようにした」

磯原 「さすが佐久間さんですね。普通なら支社の近場の工場から派遣しようと思うところですが、これを見ると飛行機の便利が良い福岡と熊本から北海道ですか、ちょっと思い付きませんよ」

奥井 「それじゃ、これを総務の吉田課長に送ってよろしいですか?」

佐久間 「まだ話は半分なんだ。いろいろ考えて派遣前に全員本社に集まってもらう。これがそのスケジュール案だ。
初めに吉田課長と山内参与から話をしてもらう。意識づけが大事だと思う。
そして1日廃棄物管理の知識を改めて教育する。これが講義のテキストと、監査で使うチェックリストだ。テキストには良い悪いの現物の写真を載せてみた」

奥井と磯原は、佐久間が配った資料を眺める。

磯原 「アハハ、ここにある取引契約書に締め日も支払い方法も書いてないのはおかしいと、私も以前から思っていました。廃棄物の契約書って廃棄物処理法で決めたことしか書いてないんですよね。絶対おかしいですよ」

奥井 「事前教育をしないと監査ができないということですか?」

佐久間 「昨日の打ち合わせで契約書の収入印紙の金額とか、期限が1年の理由とか、問題になったが、それをしっかり理解してなければ監査できないよ。暴排条項なども追加しなくちゃね、
それでこれだけは知ってほしいというのをまとめた。
それからチェックリストは後で<見た・見ない>ということが起きないように、〇×でなく、すべて何を見たのか、どうだったのか、記録してもらう。場合によっては写真でもいい。今はみなスマホを持っているだろう(注1)、面倒だったら写真を撮って貼り付けてもよい」

注:この物語は2016年である。このときスマホの保有率は、既に20代94.2%、30代90.4%、40代79.9%であった。

奥井 「僕の考えは違います。僕は工場から派遣してもらう人は、完璧に廃棄物処理法を理解しているレベルと想定していました」

佐久間 「俺はさ、今回の監査では、絶対に見逃しのないようにしたいと考えている」

奥井 「僕なら見逃しをしませんよ。僕レベルの人を集めるべきです」

佐久間は頭をかきながら言いにくそうに言う。

佐久間 「君は昨日の打ち合わせで収入印紙金額について知らなかった。暴排条項だって知らなかっただろう。君が監査したら見逃しどころか、何が不具合か分からないようだ」

奥井 「聞き捨てなりませんね。僕が廃棄物契約書を点検する力量がないというのですか?」

佐久間 「あると思っているのかい?」

一触即発になったとき脇から声がかかった。

山内参与 「面白い話をしてるじゃないか。なんでわしを呼ばないんだ?」

佐久間 「あっ、いえ、昨日に総務部と監査部が支社・営業所の監査の打ち合わせがありまして、奥井君と私が出て役割分担を決めました。今はこちら担当の進捗の打ち合わせです」

山内は磯原の隣に座って磯原の前から佐久間の作った資料を引き寄せた。

山内参与 「なるほど、昨日の今日で、ここまで資料を作るとは佐久間さんはすごいね」

奥井 「僕は納得いきません。派遣する前にわざわざ教育するなんて…」

山内参与 「奥井君ならそんなことをしないで良いというわけだな」

奥井 「いや言い方を変えれば、教育しないでも監査できる人を集めるべきです」

山内参与 「奥井君は試験があると知っていても、試験前に勉強しないのか。
俺は試験勉強をするのは恥じゃないどころか、勉強しないで試験に臨むのは恥だと考えている。
さっき脇で話を聞いていたら、奥井君も昨日、知らないことがいくつもあったようだ。そういう人が良く言えるね」

奥井 「あれは……ちょっと勘違いしただけです」

山内参与 「勘違いなのかどうかわしは知らん。しかしさっき佐久間さんが言った『絶対に見逃しのないレベル』であることは第一優先だ。わざわざ臨時の監査を行うのだから、また見逃ししましたとは絶対に言えない。勘違いでしたというのは、能がないということと同義だ。
大丈夫だろうでなく、確信が持てる仕事をしてほしい。

それと初めに派遣依頼者が、派遣者に意識付けをするというのは良いことだ。まさか各工場長にメールを打ち、あとは派遣者にメールでチェックリストを送って監査してねではお粗末だろう。
そうだ、この講座のときには契約書とか現地調査記録といったな、そういったもののサンプルを用意して、良し悪しの判断の実地指導をすること」

山内の言葉で佐久間方式で行くことに決定だ。

奥井 「分かりました。では佐久間さんの案で行きましょう。佐久間さん、必要資料をまとめて部数を指定して柳田さんにコピー依頼してください。メンバーのリストと派遣先については私が今晩吉田課長に送信します」

佐久間 「すぐに会議室を取るよ。それから説明会の日の昼飯とかの手配も必要だな。明日、柳田さんにお願いする」

山内参与 「実は君たちに、ちょっと話があってきたんだ。
ええとこの件についての発信メールの相手が課長のときは、君たちから直接発信してくれてよいが、すべてCCを私と鈴木課長に出してくれ。そして私が了解済とタイトル末尾に記載すること。
ワークフローで出すとわしが見るのが遅くなるかもしれんから、君たちが他部門の部長までは直接発信してよい。。

話を戻すと、まず指揮命令系のことだが、磯原君がこちらに転勤してきてから、省エネとISOそしてアメリアの教育の仕事をしてもらっている。今回の件はその過程で発見された問題で廃棄物にかかわるから奥井君の担当だと鈴木課長に伝えてある。
だが実際に業務を遂行する上では、省エネだかとか廃棄物は別とかいうのも割り切れないのだ。
元々、環境部門としてあったものを、従来からある部門に内部化されたとして分散して、どこにも属さないものを施設管理課としたわけだが、簡単にはいかないようだ。

鈴木課長とも話したのだが、当面は私が磯原君と奥井君の管理をすることにした。つまりエネルギー管理、ISO、廃棄物、そしてアメリア研修の決裁はわしがする。
鈴木課長は公害全般だ。公害というと聞こえが悪いから、排水、大気、騒音・振動などとする。対外的には公にしない。
ということで今回の支社・営業所の廃棄物関連の臨時監査は、私が総務部から依頼を受けた形で実行する。そう理解してくれ。
質問はあるかな?」

奥井 「僕は廃棄物関係といっても、社内の廃棄物削減とか遵法状況などにあまり関わっておらず、主に業界団体での廃棄物処理の資料などの作成でした。それは変わらないということでよろしいですか?」

山内参与 「それについては環境部を解体するときから懸案になっているのだ。要するに君の一人分の賃金を業界団体に費やすのは割に合わない。鈴木課長にも頼んでいたのだが、今後は業界団体の資料作成には参加しないようにしたい」

奥井 「えっ、それは困ります」

山内参与 「もう君は10年近く業界団体の廃棄物委員会で頑張ってきてくれたそうだが、それに見合った当社の改善に結びついてない。現実に今回も廃棄物の契約書とか関連会社への廃棄物処理委託における遵法が問題になった」

奥井 「それはそうですが、私たちが作ったいろいろな資料は工場などで活用されています」

山内参与 「そうだろうか? 各工場での活用状況を調査した結果、内容がありきありで実務に使えないという意見が大勢だ」

奥井

山内参与 「昨日の会議の報告も受けているが、収入印紙の金額がどうとかあったようだ。そういうのも廃棄物のテキストを見れば分からなければいかんよ。
収入印紙は経理に聞いてくれ、暴排条項は法務部に聞いてくれ、この資料は廃棄物処理法についてだけなんてのは、会社では無用だ」

奥井 「今まで僕がしていたことは無駄だったということですか?」

山内参与 「無駄だったかどうかはわしはわからん。活用されていないことは事実だ。そして我々本社という組織は、工場や支社そして関連会社にサービスを提供することによって禄を食んでいる。
サービスを受け取った人、ISOでは顧客というそうだが、顧客がサービスを評価しなければ意味がない。独りよがりではだめだ」

注:本社という場合、二つの意味がある。
ひとつは本社機能であり、ひとつは本社という建屋あるいは場所の意味だ。ここでは本社機能の意味である。
本社の機能といえば、戦略、人事、財務などの高度な機能などと語る人もいるが、簡単に言えば「支援と統制」に尽きるだろう。
それは時代が違っても同じ。武士階級は民百姓からかすめ取るだけでなく、民百姓を守り、飢えさせないことが職分であるはずだ。まあ、責任と権限は明確であっても、それが実行されないのは今の時代でも同じだ。

奥井 「ではどうすれば良いのですか?」

山内参与 「簡単だ。顧客が求めるものを提供すること、顧客の問題を解決することだ。
先日、監査部の島田さんが契約書に締め日とか振込銀行が書いてなくても良いのかと質問したそうだが、それに廃棄物処理法だけクリアすれば良いと答えたそうだね。それじゃ会社でお金はもらえないぞ」

奥井 「それを聞かれても僕は分かりませんね」

山内参与 「分からないことがあったということは、君は学ばなければならないということだ。なんでそのとき島田さんに調べて回答しますと言わなかったんだ?」

奥井 「都のひな形にも記載されてませんし、問題ないと思いました。良いか悪いかどう調べたらよいのですか?」

山内参与 「オイオイ、どうしたらいいのかなんて問い返すようでは小学生だぞ。
法務部でも資材部でも聞いたらいいじゃないか? あるいは都庁に問い合わせるとか考えろ。

昨日の報告にあったが、間違えていると言われたスラッシュビル管理の人が、教えられた通りしていたと言ったら、君はそれはダミーだと答えたそうだね。使えないダミーじゃなくて、そのまま使えるものを提供すべきだろう。監査部が締め日とか支払い方法が記してない契約書などないと言ったそうだ。廃棄物契約書は廃棄物処理法だけを満たせば良いわけじゃない。印紙税法も商法も民法も遵守できるようにしてほしい。
そういうことをしないと君の賃金分は稼げないよ。稼げないというのは君から見てだが、雇用側にすれば君の賃金は払えないということだ」

奥井 「分かりました」

山内参与 「じゃあこの場の検討事項は、すべてクリアになって決定したと理解してよいか?」

佐久間磯原 「異議ありません」

山内参与 「よし、それじゃ奥井君は総務へ派遣者を通知すること。佐久間さんは速やかに講座の日程を決めて総務部、監査部と派遣元に通知すること。
磯原君はここ数日何をしているのか?」

磯原 「監査部の監査記録を見ておりました。年末のISO審査では内部監査として監査部監査を充てますので、どう言い繕うかと考えておりました。
今回の廃棄物契約書のことがありましたので、もう言い繕うのは止めてあるがまま、監査の方法というか仕組みを見直すということにするしかないかなと思っています」

山内参与 「ああ、監査部から環境についての監査はこちらでやってほしいという要請もあった。しかし環境部がなくなったので職制でなく我々のような立場では制度としてまずいなあ〜」

磯原 「先ほどのお話の省エネと廃棄物の担当をはっきりすれば決まるでしょう」


うそ800 本日思い出

問題が起きると一斉点検などしたのかとお聞きになりますか?
いや、私が勤めたところでは問題など起きたことはござらん(キリッ

ところで、山本山本さんとか奥井奥井さんとか登場したのは、悪役を作るためではありません。どこにでもいるんですよ、こういう人が。
あなたの周りにもいるでしょう?
いないって言うなら、あなたがそんな人かもしれないよ。


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注1



秋池様からお便りを頂きました(2022.11.17)
おはようございます。
お待ちしていました。朝のチェック事項を終えて、一気に拝読いたしました。
ありがとうございます。
山本さん、休暇を取得して何をしているのでしょうね?
この手のひとの行動は推察すらできません。(笑)

奥井さん、いいですね。賢くなくて。(笑)
なにも見えていなくても業界団体には貢献できていたんですね。
そもそも、その団体自体が不要なのですね。(笑)

秋池様 毎度ありがとうございます。
物語を書くということは、まったく想像では書けません。この駄文も過去の経験を取捨選択・加除修正して書いております。
ということで山本タイプの方々にあったことは何度もあり、奥井タイプにあったことも……
いえいえ、決して自慢になりません。会わないほうが精神安定になります。
トラブルとバタンキューと休む山本タイプに対する方法は持ち合わせておりません。結局、責任を持たせない、頼らない、いないものとみなすという非核三原則に徹するしかなさそうです。
奥井タイプへの対応ですが、ビシッとやり込めるか、持ち上げて使うかしかなさそうですが、こちらの精神が参ります。
いずれにしても親しくはなりたくありません。


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