ISO第3世代 34.審査前2

22.11.28

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

今日は以前、予算の計画外使用が見つかって問題になった、宮城工場(第8話)を持つ事業本部である。
ISO審査では、なぜ計画が本社向け、経産局向け、ISO向けがあるのか追及されるだろう。我々が認証機関を集めて、しっかり審査しろと因縁をつけたのだから、認証機関としても審査員に是正のフォローをさせるのは当然だ。事前点検では、まっとうにしたかと、それを論理立てて説明できるかが確認事項だ。

オフィスビル 参考までに事業本部とは組織名であり、一つの建屋にいるわけではない。それはひとつの分野において事業を進める社内カンパニーと考えればよい。
トップは当然事業本部長であり、そのスタッフとして事業本部長室がある。これがヘッドクォーターである。 ひとつの分野を担当するといっても、この事業本部はみっつの製品カテゴリーを持ち、それぞれがまた独立採算の事業部となっている。

それぞれの事業部は生産工場と営業部門そして研究所まで持つところもあるし、研究所を持たずに必要な時は全社機構である開発本部の研究所に依頼する形のところもある。
また営業部門は1か所でなく工場と支社に置かれている。

事業本部の中で、本社ビルに所在しているのは、事業本部長室と各事業部の本社駐在部門ということになる。事業部の駐在部門とは、各事業部の事業部長とそのスタッフである。事業本部長室が10名弱、事業部長室がみっつ、都合40名ほどが本社にいる事業本部のメンバーである。

もちろん事業本部によっては事業がひとつで事業部に分かれていないところもあるし、また事業部を4つも5つも持つところもある。ちなみに事業部の大きさも工場一つのところもあり工場をいくつも持つところもある。だから組織の大小と所属する人数と関連はない。量産品の組織は大きく人数も多いが売り上げも大きいが、受注生産ビジネスの組織はシンプルで人員数も少ない。売り上げはその製品分野によって大きく異なる。人生いろいろビジネスさまざまである。
まあこれを予備知識として頭の隅に置いておいて、物語を読んでほしい。


重大な部門だから磯原が佐久間と行くというと、アメリアが同行したいというので人数が多いとは思ったが3人で行くことにした。

審査の練習に事業本部を訪問すると、審査対応は宮城工場を持つ事業部の事業部長とその部下二人である。事業本部全体と他の事業部については、その事業部長が説明するという。事業本部長は執行役だから出席しないのは当然だろうし、金にならないISO審査対応など人手をかけることはなく、当然の対応だ。

飯山事業部長 松本 増田 磯原 佐久間 アメリア
飯山事業部長 松本 増田 磯原 佐久間 アメリア
事業本部のメンバー 生産技術本部のメンバー

出席者は飯山事業部長、生産担当の松本氏、品質環境担当の増田氏である。松本も増田も部長級なのだろう。事業部長はもちろん、功成り名を挙げて事業本部勤務となるのは、頭の毛がないか白かグレーの人ばかりだ。

もちろんここにいる人は、成果を出したのだろうし人間性もコミュニケーション能力もまともである。出世は加点方式であるが、本社に来るには減点方式で決まる。
磯原はみんなが小さな会議室に座る数秒間にそんなことを考えた。
同じとき、佐久間は本社は偉い人ばかりだなあ〜、千葉工場の工場長といっても飯山より下なんだと考える。

磯原 「お忙しいところご対応いただきありがとうございます。今年末にISO審査があります。お聞き及びと思いますが、我々が審査を受けるスタンスを従来から変えて、一切の資料を作らない、あるがままを見せて審査を受ける方法に変えました。
どの部門もしっかりと仕事をしてらっしゃるでしょうから内容については心配しておりませんが、応対の受け答えで審査員に余計な懸念を持たれるのも嫌ですので、我々の基本的な考えとみなさんのご懸念を伺って対応を話し合いたいというのが本日の趣旨です。よろしくお願いします」

飯山事業部長 「説明ありがとう。ISO審査は何度も受けているが、説明資料を作るだけで手間暇かかっていて大変だった。特に増田は品質と環境の担当なので毎回1週間くらい資料つくりパワーポイント作りにかけていたようだ。余計な仕事をしないのは大歓迎だ。
ところで我々が一番気にしているのはもちろん宮城工場のことだ。当然是正フォローもあるだろうし、なぜ検出できなかったのかというのがメインになるだろうね」

磯原 「ISO審査で要求するのは、基本的に原因追求と再発防止そして類似なことへの水平展開ですから、責任追及とか罰を与えるという発想はありません。それはご承知おきください」

飯山事業部長 「分かりました」

磯原 「私個人としては、監査部による再監査とか、お宅の事業本部による調査報告書など拝見しておりますから経過を理解しているつもりです。ただすべてをISO審査で見せることもありません。
おっとISO審査で問題になるのは予算の話ではありません。法に基づく経産局への報告の数字と、スラッシュ電機の環境行動計画の数字、そしてISO審査で見せている省エネ計画の数字の差異についてです」

飯山事業部長 「おお、それに限定されるのですか」

磯原 「彼らは財務とかコンプライアンス全般の点検ではありません。環境活動においてしっかりやっているかという観点での点検です」

飯山事業部長 「ええとそうすると前回のフォローとなると、なぜ環境の省エネ計画がいくつもあるのかということですね?」

磯原 「そうです。もちろん省エネだけでなくそれ以外についても、本社報告と宮城工場がISO審査で見せていた計画に齟齬がないかは確認してほしいです」

飯山事業部長 「そりゃもちろんだ。おい増田君、それは見ているのか?」

増田 「はい、それこそ先に磯原さんがおっしゃった水平展開ですね。生産高、廃棄物削減計画、それらの内訳など点検しました。実を言いまして意図的な調整をしていたところがあります。聞けば本社への計画提出時期とISO審査時期が数か月ずれており、その間の進捗をただ反映するのではなく、まあごまかすというかそういう意図があったようです。

いずれにしても今後は計画を複数作らないこと、計画から実績が乖離してきたときはどうするのか、事業部つまり私と協議して計画を見直すかどうするか決めるということにしました。本社報告事項ですから事業部が入るのは当然です」

飯山事業部長 「その方法でよろしいと思いますが、そういったことはなにかルールに決めるということはしたのでしょうか?」

松本 「事業部としての文書というのは実はなかったのです」

増田 「事業本部の文書体系もないのですよ」

松本 「そうなのです。というか、そうなのでした。私も本社に来たとき前任者からの引継ぎで仕事をしてきたのですが、すべてが過去からの踏襲で初めてする仕事は工場に聞いたり他の事業部に聞いたりということで手探り状態でした。
今回はそう言ったことを含めて、主たる業務について手順と権限・責任を明記したものを作りました。事業部規則というべきものでしょう。

ところが聞いてみると私どもの事業本部には文書体系というか規則類がすでに定めっていて、それに則り他のふたつの事業部では事業部規則でなく事業本部規則として採番登録しているというのです。
それで作成したものは事業本部規則として登録し、事業本部すべて、つまり工場や支社の営業部門もアクセスできるようにしました」

磯原 「お聞きすると完璧ですね。しかしなぜ他の二つの事業部とお宅の事業部の文書の決まりが違ったのでしょうか?」

松本 「私どものビジネスは3年前までは別の事業本部所管だったのです。それが当社のビジネス再編で、この事業本部に移ってきたことによるものです」

磯原 「すると他の事業本部については、私の方で点検しなければなりませんね」

松本 「そうなります。こんなことを言ってはなんですが、是正処置も範囲によって実行する部門が異なるでしょう」

佐久間 「磯原さん、それを生産技術本部の環境部門が行うのもおかしいよ。問題の原因が各事業本部レベルの文書化にあるというなら、問題を見つけた監査部から点検と是正の指示を出すべきじゃないかな」

磯原 「うーん、とはいえ発見したのがこの事業本部の是正の過程でなら、そうでもないのでは?」

佐久間 「宮城工場の問題の原因の一つとして事業部の職務規定が文書化されていなかったというのを、この事業本部の原因究明で分かったということを、今回の問題の原因と是正処置の報告を監査部へ出してあれば、それを水平展開するのは監査部の仕事になる。
この事業本部が他部門に水平展開しろとか、我々の環境管理部門から点検指示をするのは筋が違うのではないかな」

磯原 「ああ、そうか」

松本 「さすがですね。千葉工場に佐久間ありという話を聞いたことがありますが、あの佐久間さんですか」

佐久間 「冗談を言っちゃいけません。私はどこにでもいるボイラー焚きですよ」

磯原 「そうですね、わかりました。監査部に話してみます。
話を戻しますと当社は認証機関に対して、宮城工場の計画と当社が社外広報している環境実行計画との差を検出せず、それを問題としていないという苦情を申し立てました。そして彼らはその非を認めて、今回から工場の計画が本社の計画と合致しているかをチェックしているかをみるようになるはずです。
そうでなければ、私はそれに苦情をつけなければなりません」

増田 「えっと、それは我々が、宮城工場がISO審査で見せた計画と事業部に提出した計画が合致しているかをチェックしろということですか?」

磯原 「いえいえ、それは無理でしょう。工場がISO審査のとき、何を言っているかまで把握できるわけありません。
そうではなく、内部牽制というと怖い表現ですが、なにごとも別の人がチェックすることは当社の様々な規則で決められています。社外広報あるいは発表などするときには、関係部門でのチェックを受けることになっています。現実にはお互いを信用していることとか忙しいなどで、チェックがされてないのではないでしょうか。

ISO審査用の省エネ計画書といっても社外に見せるわけですから、まずはそれを外に出して良いものかどうかの判断がされなければなりません。
それから当社が外部に出しているものとの齟齬がないかを検証しなければなりません。というかそういうことが発生したならば、なぜ本社が広報している計画書を見せないのかという流れになるのが普通かと思います」

飯山事業部長 「ええと、松本君、そういうルールってあるのかな?」

松本 「はい、会社規則で、マスコミや地域の自治体や商工会議所に出す資料は、工場の総務部長は当社が社外広報したものと齟齬がないかをチェックすることになっています。
とはいえ近隣住民や学校教育での工場見学で見せる資料などまでを想定しているかといえば厳密ではないですね。そしてISO審査というのは記述されていません」

飯山事業部長 「それじゃ、それもさっきの事業部文書での定めと一緒に監査部に依頼してもらえませんか」

アメリアは話しあいが始まってからずっとパソコンを叩いていたが、手を上げて発言する。

アメリア 「ええと、会社規則を見ますと審査対象となる文書は、先ほど松本さんがおっしゃった文書だけでなく『及び同等のもの』とあります。ですから現状でも社外に出すものは該当すると読めます」

松本 「おお、そうでしたか 済みません。すると工場は内部で事前チェックをしなければならない」

佐久間 「そして事業部は隷下の工場がそうしているかを確認しなければならないということになりますね。もちろん環境に限ったことではないですが」

飯山事業部長 「いやはや、皆さんはすごいね。会社規則が頭に入っているようだ」

アメリア 「あのう……外部に出す文書は内部で確認を受けるというのは普遍的なことなのです。学会発表、改善発表、そんなところから重大なことが漏れることは多いのです。入社時に機密情報を社外に漏らさないと誓約しているはずですが、意図せずに漏れるのを防ぐ仕組みを作り運用するのは組織として当然です」

佐久間 「話がそれて申し訳ないですが、私は他社の環境レポートを読むのが趣味です。今は環境報告のガイドラインというのがあり、それを守って作成するようになりました。
そうしますとエネルギー使用量の変化とか廃棄物発生量の推移とかわかります。その結果、技術のレベルとか、どこかごまかしているとか、おかしなことが多々見つかります。公害防止管理者の資格取得を進めているとあれば、公害防止管理者が必要な設備が多いのかとなり、それは設備が旧態依然なのかと思われます。
ですから重要でないと思えるようなことから、とんでもなく重要なことが漏れたりすることがあります。
もちろんお宅の事業部でも同業他社と当社の比較で生産工場の技術力の差とか見ていると思います」

松本 「製品の仕様や性能を他社と比較することはしていますが、生産時のエネルギーとか発生する廃棄物までは考えていませんでした。環境レポートからそういった情報が得られるのですね」

佐久間 「今はPRTR報告も公開されていますから、同業ならどんな作業工程か想像がつきます。また使用電力量については、省エネ法による報告を経産省がクラス分けして公開していますから、自社より上か下かがわかります。廃棄物発生量などもじっくりネットを調べると推定できる手掛かりは見つかります」


******

磯原 「色々話してきましたが、ISO審査に自信を持ちましたでしょう」

飯山事業部長 「いやいや、まだ時間があるから、予行演習を続けてください」

磯原 「そうですか、では模擬審査を続けましょう。
(口調を変えて)
お聞きになっているかと思いますが、今年御社からISO審査のレベル向上を求められました。認証機関としても反省するところです。
概要を申しますと、今年にお宅の事業部の宮城工場でISO審査をしました。そのとき私どもに提示された省エネ計画書は工場から本社や経産局に届けられたものとは内容が異なっていたということが判明しました。
この問題はご存じですね?

これは工場の問題でありますが、本社といいますか上位組織である事業部は監督責任があると思います。本日はそのことを取り上げて原因と是正処置をお聞きしたい。
この問題が判明してからどのようなアクションを取ったのでしょうか?」

松本 「ええと、磯原さんが監査部と私どもを集めて打ち合わせした……例の筋書きで説明すればよろしいのですね」

磯原 「筋書と言われると悪事を企てたように聞こえますが、各部門とも納得がいき説明しやすいと考えたのですよ」

松本 「いや、存じております。事業部長、そういうわけですから……」

松本と飯山事業部長はA4で1ページの資料を取り出した。

飯山事業部長 「ええと、まず発端は生産技術本部が、当スラッシュ電機グループの省エネ計画を経産省に届け出るため取りまとめ中に、当社が社外に公報している環境行動計画との齟齬があることを見つけました。そして工場にヒアリングした結果、そればかりでなくISO審査ではまた違う省エネ計画をお見せしていたということも判明しました。
原因を追究したところ……」


******

コーヒー 事務所に帰ってきて磯原、佐久間、アメリアは打ち合わせ場でコーヒーを飲んで一息ついた。訪問先でコーヒーを飲んでも美味しくない。男は敷居を跨げば七人の敵ありではないが、自分の職場以外でうかつなことは言えない。個人的発言ではなく、組織の見解とか山内参与の考えと受け取られる恐れもある。
だから自職場に戻れば気が緩むのは仕方がない。

脇の通り過ぎた柳田が三人を見て、すぐにお菓子をもって戻ってきた。当然アメリアのわきにドシリと座る。

柳田ユミ 「今日は広島工場の環境課長が、排水処理設備の更新の相談に来たのよ。お土産にもみじ饅頭を持ってきたの」

佐久間 「いまどきお土産を持ってくる人なんて珍しいねえ〜。 もみじ饅頭
そういえば磯原さんがアメリアと千葉工場に来たときは、東京バナナをお土産持ってきたね」

柳田ユミ 「東京バナナですって、千葉から通勤してる人が多いのにね」

佐久間 「それにしても飯山さんや松本さんは役者だなあ〜、あのくらいアドリブが効く人なら安心だね〜」

磯原 「ユミちゃんはライオンの心臓だし、お局キヨちゃんも融通無碍、女性は監査や審査を受けるのに向いているね」

柳田ユミ 「それ褒めてんの? 貶してんの?」

アメリア 「あら私の名前が出てこないのね」

佐久間 「アメリアは監査される方ではなく、意地悪く監査する姿しか想像できないよ」


うそ800 本日のお土産

今時、訪問先が社内であれば、お土産などもっていく人はいない。明治生まれの親父の話では、昔は訪問先にもっていくお土産代を出張旅費で請求できたそうだ。今はそんなことできない。
私は出張から戻るときは、いつも職場にお土産を買ってきた。それは私の特質(attribute /ISO19011の言葉)に過ぎない。


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